私は80年代半ばにアナログ・プレイヤーが故障したのをきっかけにそれまでのアナログLPからCDへの移行を行い、それ以降は90年代末までずーっとCDオンリーで音楽を楽しんできた。それまで買い集めたLPには思い出が一杯詰まっていたので捨てずに取っておいたのだが、プレイヤーがない以上聴くこともできず、新譜はもちろんのこと、LPで持ってる旧譜もCDで買い直して音楽を聴いたものだった。そんな私を再びアナログLPの世界へと引き戻したのが美人女性ヴォーカルのオリジナル盤だったことは以前ティナ・ルイスやジュリー・ロンドンの時に書いたと思うが、それはあくまでも1枚の平均価格が安い “ヴォーカル盤” 限定であり、ヘタをすれば3万5万は当たり前という “ジャズ・インストのオリジナル盤” の世界へは決して近寄らなかった。私は自分が “一旦ハマると徹底的にいく” 人間だとよ~く分かっていたので、そんな底なし沼みたいなおっとろしい世界に片足でも突っ込んでしまったが最後、まず間違いなく頭のテッペンまでドップリ浸かってしまうことは火を見るよりも明らかだったからだ。
そんなある日のこと、いつものように京阪神猟盤ツアーを終えて例のティナ・ルイスと出会ったお店しゃきぺしゅ(←残念ながら先月閉店されたらしい...)でエサ箱を漁っているといきなり超豪快なハードバップ・ジャズがかかった。ここのお店のスピーカーはイギリスの小型モニター・スピーカー、Rogers LS3/a を採用しており、そのサイズからは想像もできないようなダイナミックな音を聴かせてくれるのだが、そんな LS3/a が渾身の力を振り絞るようにして迫力満点のサウンドを爆裂させていた。それは私の愛聴盤「ソニー・ロリンズ Vol. 2」で、“あっ、ロリンズのVol. 2 や!せやけどこんな凄い音してたっけ???” と思った私が店主の市川さんに “それってオリジナル盤ですか?” と尋ねると“いいえ、これはセカンド(プレス)です。でも音はあんまり変わらへんのとちゃいますか。オリジなら値段はこの何倍もするでしょうけど...” とのこと。そのセカンド・プレス盤には1万円の値札が付いており、会員割引で9千円... ヴォーカル盤を2枚我慢したらこの大迫力サウンドが手に入るんか... と考えた私は次の瞬間 “これ下さいっ!!!” と叫んでいた。もしこの日この時に大阪へ行ってなかったら、あるいはお店で別の盤がかかっていたら、その後の「プリーズ・プリーズ・ミー」金パロ盤や「ラバー・ソウル」ラウドカット盤といったアナログ盤ならではの悦楽もなかったかもしれない。そういう意味でこの「ソニー・ロリンズ Vol. 2」は私の音楽リスニング人生を大きく変えた1枚なのだ。
音の話ばかりで肝心の音楽の方はどうなんやと言われそうだが、圧倒的なテナー・サックスの音、湯水のように溢れ出るアイデアにクラクラさせられるインプロヴィゼイション、音楽家としての卓越したセンス、品のあるユーモア、そしてそれらが混然一体となって生み出すハード・ドライヴィングなスイング感と、まさに全盛期のロリンズが楽しめる素晴らしいものだ。傑作が目白押しなこの時期のロリンズ作品の中でも特にこの盤からはジャズの持つエネルギー、スピード感が手に取るように伝わってくる。とにかく熱いのだ。 “熱くなくて何のハードバップか!” を信条とする私にとって、これ以上のハードバップ名盤はない。
このアルバムの陰の立役者は何と言ってもアート・ブレイキーだ。彼の真髄は細心にして大胆なプレイでフロント陣を鼓舞するところにあると思うのだが、ここでの彼はリーダーの役目から解放され一ドラマーとしてまさに水を得た魚のように活き活きとプレイしており、特にロリンズのような最高レベルのミュージシャンがそれに刺激を受けて素晴らしいプレイを行うと、今度はそれにインスパイアされたブレイキーが更に素晴らしいプレイをするという相乗効果、ポジティヴな連鎖反応がこのアルバムを聴き応えのあるものにしている。
後世に語り継がれる名盤には必ず “光る1曲” があるものだが、ここでは①「ホワイ・ドント・アイ」がそれだろう。イントロから全開で飛ばすロリンズ... 圧倒的スピードを誇る大型スポーツカー(絶対にアメ車やね... コルベットかな?)の如き疾走感で駆け抜ける彼を名手アート・ブレイキーが絶妙なドラミングで背後からプッシュしまくるという理想的な展開だ。私が好きなのは途中ロリンズがドラムとのヴァースを間違えるところ(4分29秒)で、そんなことはお構いなしに別のアイデアを出して乗り切ってしまうロリンズにたまらなくジャズを感じてしまうのだ。これをOKテイクにしたアルフレッド・ライオン(ブルーノート・レーベルの社長)の慧眼もさすがという他ない。続く②「ウェイル・マーチ」も①同様躍動感溢れるハードバップ・ジャズが展開される。ロリンズはもちろん、煽りまくるブレイキーのドラミングといい、スインギーなホレス・シルバーのピアノといい、バンドが一体となって燃え上がる様はたまらなくスリリングだ。
セロニアス・モンクの③「ミステリオーソ」は9分を超える長尺の演奏だが全くダレない。ピアノはそのモンクで、これがまたロリンズの豪放磊落なテナーと絶妙にマッチしておりスリリングな興奮を巻き起こす。モンクはよく “スイングしない” とか “ヘタ” とか言われ好き嫌いの分かれるピアニストだが、一体どこを聴いとんのじゃ?不協和音を効果的に使いながら音楽をドライヴさせてるのがワカランのか? 途中フォスターの「キャンプタウン・レーシズ」のフレーズを織り込みながら(7分38秒)ブヒバヒ吹きまくるロリンズがカッコイイ(^o^)丿
B面はA面に比べるとやや曲が弱いと思う。特に④「リフレクションズ」なんか曲が平凡すぎて演奏も間延びして聞こえてしまう。スタンダードの⑤「ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム」ではノリの良さは復活したものの、曲としてはロリンズのオリジナル曲①②の方が数段上だ。同じスタンダードでも⑥「プア・バタフライ」はB面で私が一番好きなトラックで、この “歌い上げていく” 曲想とロリンズのスケールの大きなテナーが見事にマッチしている。「プア・バタフライ」の名演といえばこのロリンズ盤が頭に浮かぶほどだ。
ロックのジョー・ジャクソンが丸ごとパロッたアルバム・ジャケットも文句なしにカッコイイこのアルバム、ロリンズの代表作というよりはむしろジャズが一番輝いていたこの時代を代表する1枚と言っていいと思う。
ロリンズ Vol. 2
そんなある日のこと、いつものように京阪神猟盤ツアーを終えて例のティナ・ルイスと出会ったお店しゃきぺしゅ(←残念ながら先月閉店されたらしい...)でエサ箱を漁っているといきなり超豪快なハードバップ・ジャズがかかった。ここのお店のスピーカーはイギリスの小型モニター・スピーカー、Rogers LS3/a を採用しており、そのサイズからは想像もできないようなダイナミックな音を聴かせてくれるのだが、そんな LS3/a が渾身の力を振り絞るようにして迫力満点のサウンドを爆裂させていた。それは私の愛聴盤「ソニー・ロリンズ Vol. 2」で、“あっ、ロリンズのVol. 2 や!せやけどこんな凄い音してたっけ???” と思った私が店主の市川さんに “それってオリジナル盤ですか?” と尋ねると“いいえ、これはセカンド(プレス)です。でも音はあんまり変わらへんのとちゃいますか。オリジなら値段はこの何倍もするでしょうけど...” とのこと。そのセカンド・プレス盤には1万円の値札が付いており、会員割引で9千円... ヴォーカル盤を2枚我慢したらこの大迫力サウンドが手に入るんか... と考えた私は次の瞬間 “これ下さいっ!!!” と叫んでいた。もしこの日この時に大阪へ行ってなかったら、あるいはお店で別の盤がかかっていたら、その後の「プリーズ・プリーズ・ミー」金パロ盤や「ラバー・ソウル」ラウドカット盤といったアナログ盤ならではの悦楽もなかったかもしれない。そういう意味でこの「ソニー・ロリンズ Vol. 2」は私の音楽リスニング人生を大きく変えた1枚なのだ。
音の話ばかりで肝心の音楽の方はどうなんやと言われそうだが、圧倒的なテナー・サックスの音、湯水のように溢れ出るアイデアにクラクラさせられるインプロヴィゼイション、音楽家としての卓越したセンス、品のあるユーモア、そしてそれらが混然一体となって生み出すハード・ドライヴィングなスイング感と、まさに全盛期のロリンズが楽しめる素晴らしいものだ。傑作が目白押しなこの時期のロリンズ作品の中でも特にこの盤からはジャズの持つエネルギー、スピード感が手に取るように伝わってくる。とにかく熱いのだ。 “熱くなくて何のハードバップか!” を信条とする私にとって、これ以上のハードバップ名盤はない。
このアルバムの陰の立役者は何と言ってもアート・ブレイキーだ。彼の真髄は細心にして大胆なプレイでフロント陣を鼓舞するところにあると思うのだが、ここでの彼はリーダーの役目から解放され一ドラマーとしてまさに水を得た魚のように活き活きとプレイしており、特にロリンズのような最高レベルのミュージシャンがそれに刺激を受けて素晴らしいプレイを行うと、今度はそれにインスパイアされたブレイキーが更に素晴らしいプレイをするという相乗効果、ポジティヴな連鎖反応がこのアルバムを聴き応えのあるものにしている。
後世に語り継がれる名盤には必ず “光る1曲” があるものだが、ここでは①「ホワイ・ドント・アイ」がそれだろう。イントロから全開で飛ばすロリンズ... 圧倒的スピードを誇る大型スポーツカー(絶対にアメ車やね... コルベットかな?)の如き疾走感で駆け抜ける彼を名手アート・ブレイキーが絶妙なドラミングで背後からプッシュしまくるという理想的な展開だ。私が好きなのは途中ロリンズがドラムとのヴァースを間違えるところ(4分29秒)で、そんなことはお構いなしに別のアイデアを出して乗り切ってしまうロリンズにたまらなくジャズを感じてしまうのだ。これをOKテイクにしたアルフレッド・ライオン(ブルーノート・レーベルの社長)の慧眼もさすがという他ない。続く②「ウェイル・マーチ」も①同様躍動感溢れるハードバップ・ジャズが展開される。ロリンズはもちろん、煽りまくるブレイキーのドラミングといい、スインギーなホレス・シルバーのピアノといい、バンドが一体となって燃え上がる様はたまらなくスリリングだ。
セロニアス・モンクの③「ミステリオーソ」は9分を超える長尺の演奏だが全くダレない。ピアノはそのモンクで、これがまたロリンズの豪放磊落なテナーと絶妙にマッチしておりスリリングな興奮を巻き起こす。モンクはよく “スイングしない” とか “ヘタ” とか言われ好き嫌いの分かれるピアニストだが、一体どこを聴いとんのじゃ?不協和音を効果的に使いながら音楽をドライヴさせてるのがワカランのか? 途中フォスターの「キャンプタウン・レーシズ」のフレーズを織り込みながら(7分38秒)ブヒバヒ吹きまくるロリンズがカッコイイ(^o^)丿
B面はA面に比べるとやや曲が弱いと思う。特に④「リフレクションズ」なんか曲が平凡すぎて演奏も間延びして聞こえてしまう。スタンダードの⑤「ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム」ではノリの良さは復活したものの、曲としてはロリンズのオリジナル曲①②の方が数段上だ。同じスタンダードでも⑥「プア・バタフライ」はB面で私が一番好きなトラックで、この “歌い上げていく” 曲想とロリンズのスケールの大きなテナーが見事にマッチしている。「プア・バタフライ」の名演といえばこのロリンズ盤が頭に浮かぶほどだ。
ロックのジョー・ジャクソンが丸ごとパロッたアルバム・ジャケットも文句なしにカッコイイこのアルバム、ロリンズの代表作というよりはむしろジャズが一番輝いていたこの時代を代表する1枚と言っていいと思う。
ロリンズ Vol. 2