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shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ヤフオク大決戦①

2020-03-31 | Gypsy Swing
 先日久しぶりに901さんと電話で話した。この方はジャズにめちゃくちゃ詳しいだけでなく、ボサノヴァからマヌーシュ・スウィング、エレキ・インストにイエイエと、実に幅広いジャンルの音楽に精通されており、私にとっては大切な音楽仲間、いや、師匠と言える存在なのだ。
 昔、月1回のペースでレコードを持ち寄ってオフ会を開いて集まっていた頃は色々とお話しを聞けて、その度に901さんの体験談にインスパイアされ、コレクターとして大いに成長させていただいた。今から15年ほど前にビートルズのイエロー・パーロフォン盤の存在を教えていただき(←それまではCDで聴いてた...)ビートルズのオリジナル盤蒐集のきっかけを作って下さったのが他ならぬ901さんだし、フランス・ギャルやスプートニクスなどを教えて下さったのも901さん。今の私にとっては足を向けて寝られない、大恩ある方なのだ。
 そんな901さんに“最近どうですか?”と尋ねると、今はヤフオクで信頼できる2、3のセラーに絞ってレコードを買っているとのこと。中でも “〇ン○ー○キ○グ” というセラーの在庫が凄いとのことで、今もジャンゴ・ラインハルトの仏Swingの10インチとか、めちゃくちゃ珍しいレコードが一杯出品されてるのでウォッチしているという。
 ジャンゴの仏Swing 10インチと言えば、マヌーシュ・コレクター垂涎の激レア盤で、私もVol.1とVol.3は何とか手に入れたがVol.2 だけがどうしても手に入らず、とりあえず英Vogue盤でお茶を濁しているのが現状なのだが、901さんと電話しながらパソコンを開いて出品リストを確認すると、出ているのはラッキーなことに私が持っていないVol.2ではないか! 私がその旨を901さんに言うと“じゃあshiotchさん、それいってよ。僕はウォッチしてshiotchさんの戦いぶりを見せてもらうわ。” と仰ったので、“わかりました。5,000円つけてでも獲りますわ!” と言って電話を切った。因みに開始価格は500円で、その時点ではノー・ビッド。私は内心“今時ジャンゴなんてどうせ人気ないんやろな... 誰も来んかったら500円で激レア盤が手に入るわ... しめしめ(^.^)” と内心ウキウキワクワクしながらビッド〆切の月曜を待った。
 このセラーは他にもレア盤をいっぱい出してそうだしLPなら送料が1~10枚まで800円とのことだったので、〆切を待つ間に“出品者の他のオークション” も見てみようと思い覗いてみたところ、ジャズ以外にもロック、R&B、クラシック、映画音楽、ワールドミュージック、邦楽、レゲエ、ブルース、アニメからゲーム音楽に至るまで、ありとあらゆるジャンルのLPやCDが3,500枚以上出ており、全部チェックするのはさすがにしんどい。幸いなことに「商品カテゴリ」というのがあったので、私は「ジャズ」「ロック・ポップス」「ジャパニーズ」「廃盤レコード」の4項目に絞って見てみることにした。
 圧倒的に数が多いのはやっぱりジャズで、それもマニア垂涎のレア盤が目白押し。ジャンゴはもちろんのこと、テディ・ウィルソンやチャーリー・パーカーの10インチやら見たこともないヘレン・メリルの「イン・トウキョウ」のオリジ盤など、欲しい盤がいっぱい出ている。「ロック・ポップス」はさすがに私が探しているビートルズのノルウェー盤とかアイルランド盤は出ておらず(←出るかそんなもん!)たいしたことはなかったが、「ジャパニーズ」を見てビックリ(・o・)  CDしか存在しないと思っていたB'zのアルバムがアナログ・レコードで出ているではないか! 何年か前に “B'zってアナログのLP出てへんのかな?” と思いついて色々調べたことがあったのだが、その時は何も出てなかったはず... “一体いつの間に?” と思って調べてみたら、2年前に数量限定でひっそりと(?)発売されたらしい。今では既に何タイトルかは売り切れて廃盤になっているとのことで、これはえらいこっちゃである。
 その時点でジャズが7枚でB'zが2枚と、私は欲しい盤がありすぎてワケが分からなくなってきたので、狙っている盤を一覧表にして優先順位と最大ビッド金額を決め、的を絞って本格的に臨戦態勢に入った。これほどの緊張感は久しぶりだ。
 そしていよいよ運命の月曜日、当然仕事どころではなく、30分おきぐらいにウォッチリストを見て値動きをチェック。転勤が決まって以降、今の職場での勤務は消化試合みたいなモンなので怖いものはない(笑) 午後に入るとジャンゴに3ビッド入って1,600円になっているし、他のレコードも値段がジリジリと吊り上り、既にヘレン・メリルとB'zは10,000円を超えている。締め切り時間帯は晩の10時台に集中しているのでそれまで気が気ではない。
 家に帰ってからは「スター・ウォーズ」のDVDを観て気を紛らわせて時間を潰し、いよいよ勝負の時が迫ってきた。どの盤も既にかなり値が上がっており、ウォッチ・リストの盤を全部獲るのは到底不可能だ。私は泣く泣く9枚中の4枚を諦め、残りの5枚に注力することにした。内訳は “先鋒:ジャンゴ・ラインハルト Swing盤、次鋒:テディ・ウィルソン Dial盤、中堅:B'z 4枚組、副将:B'z 2枚組、大将:ヘレン・メリル” という布陣である。この内から果たして何枚獲れるのだろうか? (つづく)

ジャンゴの10インチ盤特集

2018-03-10 | Gypsy Swing
 ジプシー・ジャズを聴き始めてからかれこれもう10年以上になるが、初心者の頃の私は決してジャンゴ・ラインハルトの良い聴き手ではなかった。というのも私はジャンゴの演奏に付き物の古臭いヴァイオリンやクラリネットの音が大の苦手で、ギターとリズム楽器以外の余計なものが一切入っていないコンテンポラリーなマヌーシュ・ギタリスト達の演奏ばかり聴いていたからだ。そんな中で特に気に入ったのがローゼンバーグ・トリオやビレリ・ラグレーンなのだが、その両者ともに事あるごとにジャンゴへのリスペクトを口にし、ジャンゴが取り上げた曲を嬉々として演奏するのを見るにつけ、“やっぱりジャンゴを聴かんとアカンかなぁ...”と思い始めた。
 そしてある時、ジャンゴの5枚組CDボックスがめっちゃ安かったのを見て試しに購入、確かにヴァイオリンやクラリネットは鑑賞の邪魔だが、ジャンゴのプレイに集中して聴いてみると、私が愛聴しているコンテンポラリー・マヌーシュ・ギタリスト達のプレイで聴かれる超絶テクニックが出るわ出るわのわんこそば状態なのだ。ちょうどズート・シムズやスタン・ゲッツのファンがそのルーツとでも言うべきレスター・ヤングを聴いて驚倒するようなものだろう。
 とにかく「マイナー・スウィング」や「黒い瞳」のような王道マヌーシュ・スタンダードから「デュース・アンビエンス」や「秋の唄」といった知る人ぞ知るジプシー・ジャズの隠れ名曲、そして「アフター・ユーヴ・ゴーン」や「アイ・ガット・リズム」のようなバリバリのジャズ・スタンダード・ナンバーに至るまで、まさに鬼神のようなプレイで縦横無尽にスイングするのだからこれはもう参りましたと平伏すしかない。
 そういうワケでジャンゴに関してはそのCDボックスをひたすら聴きまくってきたのだが、前回書いたように今年に入ってからひょんなきっかけで彼の10インチ盤を集中的に買い漁ることに... 今日はそんな中から特に気に入っている盤を何枚か取り上げようと思う。

①Django Reinhardt (Pathé 33 ST 1012)
 ジャンゴで一番好きなレコード・ジャケットがコレ。ステージで演奏するジャンゴのモノクロ写真とタイトル文字の赤色のコントラストが最高だ。しかもこの盤はジャンゴの代表曲の一つである「黒い瞳」(Dec, 1940)が入っていて選曲も良いし、ジプシー魂が炸裂する熱い演奏も申し分ない。ジャンゴでどれか1枚と言われれば迷わずコレだ。尚、雄鶏マークがユニークなこのパテというレーベルはフランスのEMI系列にあたるらしい。
Les yeux noirs django reinhardt


②Django Reinhardt et Stephane Grappelly (Decca 123 998)
 ジャンゴのレコードを片っ端から買い漁って分かったのは、彼の名演はラ・ヴォワ・デュ・ソン・メートル(蓄音機とニッパー犬、つまりフランスのRCAビクター)とデッカの2つのレーベルに集中しているということ。この“赤デッカ”盤には有名なスタンダード・ナンバーが多く収録されていて、中でも「ゼム・ゼア・アイズ」(Jun, 1938)の圧倒的なスイング感には言葉を失う。コレを聴いて身体が揺れなければジプシー・ジャズのスイングとは無縁ということだろう。
Django Reinhardt - Them There Eyes - Paris, 14.06.1938


③Django Reinhardt et Stephane Grappelly (Decca 124 015)
 1930年代のジャンゴにハズレ無しだが、上記の“赤デッカ”盤と対を成すこの“黄デッカ”盤も1938~1939年のホット・クラブ・クインテットのセッションから収録されているので悪かろうはずがない。特にジャンゴの超絶技巧が堪能できる「トゥエルフス・イヤー」(Mar, 1939)のカッコ良さは筆舌に尽くし難い。
Django Reinhardt - Twelfth year


④Swing From Paris (Decca LFA 1139)
 友人の901さんが “めちゃくちゃスイングしてるで!” とススメて下さったのがこのレコード。仏デッカ盤は滅多に市場に出てこないようだが、私は運良くオーストラリア・デッカの盤を見つけれたので即購入。「スウィート・ジョージア・ブラウン」(Jan, 1938)の2分28秒あたりでジャンゴがグラッペリに“One more, Steph, one more!” と声をかけるところがたまらなく好きだ。
Django Reinhardt - Sweet Georgia Brown


⑤Les Premiers Enregistrements de Django Reinhardt (Pacific LDP-A 1317 Std)
 レコード・レーベルで “パシフィック” といえばアメリカの “パシフィック・ジャズ” を思い浮かべるが、このレコードはウエスト・コースト・ジャズとは何の関係も無いフランスの “パシフィック” レーベル。1935年の4つのセッション音源から取られており、初期のホット・クラブ・クインテットの演奏が愉しめる。「アイヴ・ハド・マイ・モーメンツ」(Sep, 1935)の1分06秒あたりから一転してテンポ・アップし、一気呵成に駆け抜ける怒涛の展開がたまらんたまらん... (≧▽≦)
Django Reinhardt - I've Had My Moments - Paris, 02.09.1935


⑥Django's Guitar (Angel ANG 60011)
 1955年にアメリカのエンジェルというレーベルからリリースされたこのレコードは大人し目の演奏が大半を占めているし、ビニールの質がイマイチでサーフェス・ノイズが多いしで、決して愛聴している盤ではないのだが、「アイル・シー・ユー・イン・マイ・ドリームス」(Jun, 1939)の歌心溢れるプレイだけは別格中の別格だ。リズム・ギターとベースを従えたトリオでメロディーを紡いでいく様はまさに天衣無縫という言葉がぴったり。 “歌うギター” とはこのことだ。
I'll See You In My Dreams By Django Reinhardt

ジャンゴの「Minor Swing」聴き比べ

2018-03-03 | Gypsy Swing
 私には “時々無性に聴きたくなるミュージシャン” というのが何人かいるのだが、ジャンゴ・ラインハルトもそんな一人だ。先日も仕事中に突然頭の中でジャンゴの「マイナー・スウィング」が鳴り始め、“おっ、今日はジャンゴが来たか...” という感じだったが、こういう時はチマチマとYouTubeで聴いてお茶を濁すのではなく、我が家のスピーカーから迸り出る大音量で聴かないと収まりがつかない。私は早々に仕事を切り上げて家に帰り、手持ちのCDを聴いてオトシマエをつけたのだが、その時ふと “そーいえばジャンゴってCDしか持ってへんかったなぁ。1930~40年代っていうSPの時代に活躍した人やからLP盤なんて今まで考えもせんかったけど、50年代に出たモノラル盤とか、いっぺん探してみよ...” と思い立った。早速ネットで調べてみると、DeccaやRCA Victorといった超有名レーベルから聞いたこともないマイナー・レーベルに至るまで、数えきれないぐらいのタイトルがリリースされていてビックリ(゜o゜)  古い音源は出来るだけリリースされた当時に近い音で聴くのが私のポリシーなので、私は古式ゆかしい10インチ盤でジャンゴを集めてやろうと決意した。
 まず最初に手に入れようと考えたのが事の発端となった「マイナー・スウィング」だ。私は片っ端からディスコグラフィーを調べ上げ、1954年にフランスのSwing レーベルから出た「Souvenirs of Django Reinhardt」(M. 33.314)というレコードにこの曲が入っていることを突き止めた。eBayには出品されていなかったが運良くDiscogs に1枚だけ出ているのを発見し、€16という安さもあって(←$100~$200のビートルズ盤を見た後に€15~€25のジャンゴ盤を見ると値段の感覚が完全に麻痺しますわ...)即決した。
 しかし届いたレコードに針を落とした私は愕然とした。イントロからして私の知っている「マイナー・スウィング」とは全然違うし、何よりもショックだったのはジャンゴのギターが “ジプシー・スウィング・ジャズ” に不可欠なセルマー社のマカフェリではなく、普通のエレクトリック・ギターだったこと。同じ曲でありながら私が期待していたのとは全く違うスタイルの演奏にガッカリした私はその時初めてジャンゴがこの曲を何度もレコーディングしていることを知ったのだ。そういうワケで、今日はジャンゴによる「マイナー・スウィング」の徹底聴き比べだ。

①Version 1 (Nov.25.1937 - Paris)
Django Reinhardt, Joseph Reinhardt, Eugene Vees (g), Stéphane Grappelli (v), Louis Vola (b)
 ジャンゴの「マイナー・スウィング」と言えば誰が何と言おうと初演であるこの1937年ヴァージョンが圧倒的に、超越的に、決定的に素晴らしい。ホット・クラブ・クインテットのスインギーな演奏をバックに泣きのメロディーを奏でるジャンゴの歌心溢れるプレイに涙ちょちょぎれる。このノリ、最高ではないか! カウント・ベイシー・オーケストラのウォルター・ペイジみたいにブンブン唸るルイ・ヴォラのピチカートも言葉に出来ないカッコ良さだ。いみじくも演奏が終わった後の “Oh yeah !” という満足そうな一声がすべてを物語っているように思う。尚、このヴァージョンはフランスの La Voix De Son Maitre というレーベルからリリースされた「Composition Des Orchestres De Django Reinhardt」(FFLP 1027)という10インチ盤(←裏ジャケもレーベル面も何故か曲目表記が間違ってるけど...)に入っている。
Django Reinhardt - Minor Swing - HD *1080p


②Version 2 (Aug.29.1947 - Paris)
Django Reinhardt (elg), Maurice Meunier (cl), Eugene Vees (g), Emmanuel Soudieux (b), Andre Jourdan (ds)
 初演から10年後にレコーディングされたこの再演ヴァージョンではジャンゴはエレクトリック・ギターに持ち替えてジャズ色の強い演奏を行っており、コレはコレでアリっちゃアリなのだろうが、“ジプシー・スウィング命” の私はあまり楽しめない。この程度のことでよろしければ、バーニー・ケッセルだってハーブ・エリスだってすごいのだ。問題は、そこにジャンゴならではの個性があるかどうかということなのである。マカフェリ・ギターで天馬空を行くように豪快にスイングせずに何のジャンゴ・ラインハルトなのか!と声を大にして言いたい。ジプシー・スウィングにエレキなど百害あって一利なしだ。
Django Reinhardt - Minor Swing (1947)


③Version 3 (Nov.1948 - Brussels)
Django Reinhardt (elg), Andre Ekyan (as,cl), Ralph Schecroun (p), Alf Masselier (b), Roger Paraboschi (ds)
 ブリュッセルでのライヴ音源だがここでもジャンゴはエレクトリック・ギターを弾いており、私としては忸怩たる思いしかない。1946年にデューク・エリントンの招待で渡米した際に初めてエレキを手にしたそうだが、エリントンのオッサンもホンマに余計なことをしてくれたものだ。
Django Reinhardt a Bruxelles - Minor Swing


④Version 4 (Jan or Feb.1949 - Rome)
Django Reinhardt (g) , Stéphane Grappelli (v), Gianni Safred (p), Marco Pecori (b), Aurelio de Carolis (ds)
 これは1949年にローマで行われたジャンゴとグラッペリの再会セッションで、そのせいかジャンゴは久々にマカフェリ・ギターを手にしてエモーショナルな演奏を行っている。後期のジャンゴで私が愉しめる数少ない音源が他でもないこのローマ・セッションで、やっぱりジャンゴにはアコギが合っているなぁと痛感させられる名演だ。尚、2人以外は地元のピアノトリオなのでベースの弱さはしゃあないか。
Django Reinhardt - Minor Swing - Rome, 01or02. 1949


⑤Version 5 (Jan or Feb.1950 - Rome)
Django Reinhardt (elg), Andre Ekyan (as,cl), Ralph Schecroun (p), Alf Masselier (b), Roger Paraboschi (ds)
 グラッペリとの再会セッションで目が覚めたかと思ったのも束の間、またしてもエレクトリック・ギターを手にしたジャンゴだが、ここで聴ける淡泊な演奏にはガッカリとしか言いようがない。マカフェリ・ギターで魂が震えるような熱い演奏を聴かせてくれたジャンゴとは別人と思って聴いた方がいいだろう。
Django Reinhardt - Minor Swing - Rome, 04or05. 1950

Ci De Desse Swing

2010-06-06 | Gypsy Swing
 マヌーシュ・スウィングの本場は当然フランスを中心とするヨーロッパである。しかしジプシー・ミュージック自体がまだまだ超マイナーなジャンルにすぎないこの日本でも、ジャンゴ・ラインハルトを信奉するマヌーシュ・スウィング・バンドたちがマカフェリ・ギターをかき鳴らしながら頑張っている。カフェ・マヌーシュを筆頭にスウィング・アモールやジプシー・ヴァガボンズなど、それぞれのバンドが選曲やアレンジに工夫を凝らしながら新しいマヌーシュ・スウィングを創造しようとしており、ザクザク系ギターが大好きな私としてはついつい応援したくなってしまう。
 そんな中、法田勇虫氏のプロデュースで2009年にデビューしたのが Ci De Desse Swing(シ・デ・デッセ・スウィング)という、まだ20代後半の若手3人から成るジプシー・ギター・トリオである。今日はそんな彼らのデビュー・ライヴ・アルバム「シ・デ・デッセ・スウィング」を取り上げよう。収録されているのは全10曲、マヌーシュ・スタンダードが3曲にメンバーの自作オリジナルが7曲というバランスもエエ感じだ。
 スタンダードの3曲はどれもみな原曲の良さを活かした好アレンジが施されているのがポイント。まず②「イット・ドント・ミーン・ア・シング」はドラド・シュミットの名曲「ラッチョ・ドローム」からアダプトしたイントロから始まるアレンジがめちゃくちゃカッコ良く、マヌーシュ・スウィングのキモとでも言うべきめくるめくスピード感が存分に楽しめる演奏だ。
 ⑨「ダーク・アイズ」はおそらく全マヌーシュ・スウィング・スタンダード曲の中でも最もプレイされてきた曲だと思うが、それは裏を返せば “他のバンド / ギタリスト達との比較” という俎上に乗ることを意味するので、新人バンドにとっては “おぉ、中々やるやん!” となるか “あんまり大したことないな...” となるかの分かれ目になる最重要曲だろう。シ・デ・デッセ・スウィングの演奏はストーケロ・ローゼンバーグの影響が随所に感じられる正統派で、まったく破綻のない安定したテクニックと歌心溢れるプレイに唸ってしまう。
 ⑩「チェロキー」でもメロディーを大切にしながら、持てるテクニックを駆使して聴き応え十分な演奏を聴かせてくれる。きめ細やかなアレンジも絶品で、とても新人バンドのデビュー・アルバムとは思えない充実した内容だ。ただ速いだけでなく、聴き手の心に響く音楽を演っているところが何より素晴らしい(^o^)丿
 オリジナル曲では⑤「フラグランス」が大好きで、まるでロシア民謡のような哀愁舞い散るメロディーに涙ちょちょぎれる。ここでも随所に顔を出すストーケロ節が嬉しい。⑥「ラ・プルエ」はワルツのリズムに乗って物憂げなメロディーを紡ぎ出すギターが聴き所。これまた哀愁のメロディーがたまらない⑦「ヴェント・ショー」では見事なユニゾンが楽しめるし、⑧「ミスター・フェイク」でのマヌーシュ・スウィングのお手本のようなトリオ・プレイも言うことナシで、このバンドのレベルの高さを痛感させられる。
 デビュー盤にして非常に高い完成度を誇るシ・デ・デッセ・スウィングのこのアルバム、スピーディー & メロディアスなアコギ・サウンドを愛する音楽ファンなら迷わず “買い” でっせ(^.^)

Ci De Desse Swing - Cherokee


シ・デ・デッセ・スウィング

Gipsy Trio / Bireli Lagrene

2010-06-05 | Gypsy Swing
 今日は久々に、ホンマに久々にマヌーシュ(ジプシー)スウィングである。このブログを始めた2008年秋頃はちょうどマヌーシュ・スウィングにハマッたばかりで、ローゼンバーグ・トリオに始まりチャヴォロ・シュミットやアンジェロ・ドゥバール、そしてビレリ・ラグレーンという “マヌーシュ四天王” から超マイナーなギタリストに至るまで、「マイナー・スウィング」、「ボッサ・ドラド」、「黒い瞳」、「デュース・アンビエンス」といった超愛聴曲入りの盤を中心に徹底的に買い漁り、来る日も来る日もマカフェリ・ギターのザクザク音を響かせて悦に入っていた。
 しかし元々狭~いジャンルゆえ欲しい盤は数ヶ月でほぼすべて入手できたのと、それ以降中々良い新譜に巡り合えなかった(←そんなにマヌーシュばっかりボコボコ出るワケない...)ことなどもあって、ブログ上ではマヌーシュ・フィーバーは沈静化していたのだが、自分の中ではむしろ重点ジャンルとして定着した感があり、何かエエ新譜出ぇへんかなぁとネット上の情報には常に目を光らせていた。
 そんな甲斐あってか、今年に入って何枚かクオリティの高い新譜をゲットできたのだが、そんな中でもやはり大御所ビレリ・ラグレーンのニュー・アルバムは一頭地を抜く内容で、ジプシー・プロジェクトでマヌーシュ・スウィングに回帰して以降の彼の充実ぶりが伝わってくる好盤だ。若くしてジプシー・コミュニティーを飛び出し他の様々な音楽ジャンルのエッセンスを吸収したことによって音楽的な幅が広がり、最近ではマヌーシュ・スウィングの定番ナンバー以外にもジャズやポップスのスタンダード・ナンバーをどんどん取り上げ、より磨きのかかった速弾きで円熟のプレイを聴かせてくれるのだ。
 まずは何と言っても1曲目の①「ララバイ・オブ・バードランド」が抜群の出来だ。私にとっては “コレが入ってたら必ず買う” レベルの超愛聴曲で、この曲のお気に入りヴァージョンだけ集めて1枚の CD-R を作っているほどなのだが、このビレリ・ヴァージョンはその中でもトップ5に入れたいくらいの素晴らしさ。シャキシャキしたリズム・カッティングとビレリの歌心溢れるギターが相まって他ではちょっと聴けない「バードランド」になっている。やっぱりマヌーシュ・スウィングはこうでなくっちゃ!
 ポップス系のカヴァーでは⑧「サムシング」がいい(^o^)丿 マヌーシュ・スウィングで聴くビートルズ・カヴァーというのもレアだが、そこは百戦錬磨のビレリ・ラグレーン、高い音楽性を感じさせるプレイで珠玉のビートルズ・ナンバーを見事にマヌーシュ化している。いっそのこと「ビレリ・ラグレーン・プレイズ・ザ・ビートルズ」と銘打ってアルバム1枚丸ごとマヌーシュ・ビートルズ、っていうのもエエかもしれない。
 この2曲以外では②「ニュー・ヨーク・シティ」、⑥「ショーン・ローズマリン~ナイト・アンド・デイ」、⑨「メイド・イン・フランス」、⑪「タイガー・ラグ」、⑬「マイクロ」といったオラオラ系のナンバーで縦横無尽に弾きまくるビレリがたまらない。特にこれまでライヴで何度も披露してきた自作曲⑨で、スリリングなイントロから神業プレイで一気呵成に突っ走るビレリがめちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) まさにこの曲の決定版といっていいヴァージョンに仕上がっていると思う。
 とまぁエエとこだらけのこのビレリ盤なのだが、唯一の難点は⑭「ビー・マイ・ラヴ」で彼が自慢の喉を披露していること。1998年のシナトラ・トリビュート盤「ブルー・アイズ」で味をしめたのかどうかは知らないが、それまでのトラックが素晴らしかっただけに⑭で彼の絶唱ヴォーカルが聞こえてきた時はさすがにドン引きしてしまった。餅は餅屋とはよく言ったもので、ビレリはギタリストに徹してくれた方がファンとしては嬉しいねんけどなぁ...(>_<)

ララバイ・オブ・バードランド


サムシング

Acoustic Live / Joscho Stephan

2009-03-13 | Gypsy Swing
 マヌーシュ・ギタリストというのは物心ついた時からギターを手にして毎日のように一族郎党が集まって音楽を演奏していた、というケースが少なくない。そんな中から“神童”と呼ばれる子供たち、すなわち小さい頃からバカテクぶりを発揮して各地のギター・コンテスト荒らし(笑)をするジプシー・キッズが現れる。ビレリ・ラグレーン、ストーケロ・ローゼンバーグ、ジミー・ローゼンバーグらがそうである。この3人のうちビレリとストーケロはデビューしてジプシー・スイングもののCDを数枚出した後、あえて他ジャンルに挑戦し、様々なミュージシャン達との交流を通して幅広い音楽性を身につけ、再びジプシー・コミュニティーに戻ってきた。最近の彼らのアルバムを聴くと速弾き一辺倒だった若い頃に比べ、微妙なニュアンスまでしっかりと聴き手に伝える実に味わい深いプレイをしていることに気付く。一皮向けて“真に偉大なギタリスト”の仲間入りを果たしたと言えるだろう。それに引き換えジミーの方は壁にぶち当たり伸び悩んでいる。彼のCDは何枚も持っているし確かに速弾きテクニックは凄いが、どれを聴いてもみな同じでそのプレイからはハートが伝わってこない。例えるなら、ヘビメタの速弾きギタリスト達とクラプトン、ベック、ペイジといった3大ギタリストとの違いである。ただ速いだけのプレイでは感心はしても感動はしない。
 ここにヨショ・ステファンというドイツ出身の若手マヌーシュ・ギタリストがいる。デビュー当初から超絶テクで一部のマニアの間で話題になっていた人である。その演奏スタイルはデビュー作でほぼ完成されており、とにかくスムーズでスピーディー、しかも速いだけでなくすべての音を正確にクリーンに弾きこなしている。しかしデビュー以降の3作はどれも“めちゃくちゃ上手いのは分かるけど何かが足りない”内容で、上記の“ジミー症候群”を心配していたのだが、4枚目にあたるこの「アコースティック・ライブ」ではそれまでとは一味も二味も違い、テクニックを聴かせるギタリストからテクニックで音楽を聴かせるギタリストへと見事な変貌を遂げている。
 聞くところによると彼はジプシー音楽以外にもチェット・アトキンス、カルロス・サンタナ、ジョージ・ベンソン、ウエス・モンゴメリーといったギタリストが好きで、毎年ナッシュヴィルで開催される「チェット・アトキンス・コンヴェンション」にも参加して様々なジャンルの音楽のエッセンスを吸収してきたという。その成果か、ここでは速弾き一辺倒の演奏スタイルを脱し、ギターを通して音楽する喜びが伝わってくるような血の通った演奏を存分に聴かせてくれる。
 例えばジャンゴの⑦「ヘヴィ・アーティラリー」では「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のリフをアドリブで挿入するなど遊び心溢れるプレイが楽しいし、⑭「世界は日の出を待っている」でのジェットコースターのような上昇下降を繰り返すソロなんかもう見事という他ない。ヱビス・ビールのCMでおなじみの⑰「ハリー・ライムのテーマ(第三の男)」では新境地といえる余裕溢れるプレイが聴けるし、私の大好きな⑬「ボッサ・ドラド」でもそれまでの屈託の無い陽性一筋なプレイは影を潜め、この曲の持つ哀愁をバッチリ表現している。
 下にアップしたYouTubeの超絶テクを見れば、マヌーシュ・スウィングを知らない人でも驚倒するだろう。ホンマに涼しい顔をして凄いことをやっている。そして一番の聴き所は⑯「黒い瞳」の指板上を縦横無尽に駆け巡るフィンガリングが目に見えるような壮絶なプレイだろう。ありとあらゆるテクニックを駆使し、なおかつギターで歌いまくるという至芸が圧巻だ。壁を突き破ったヨショ・ステファン... これからの成長が楽しみな逸材である。

Joscho Stephan - Bossa Dorado
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Mon ChouChou / ZaZa avec Cafe Manouche

2009-01-13 | Gypsy Swing
 シャンソン歌手ZaZa さんのカフェ・マヌーシュとの共演第2弾となるアルバムが届いた。タイトルは「モン・シュシュ」、フランス語で「私のお気に入り」という意味だそうだ。「エディット・ピアフ、ゲンスブール、ペギーリー、デューク・エリントン、そして笠置シヅ子と、日米仏の名曲がマヌーシュ・スウィングに楽しくおしゃれに変身」というのがこのアルバムのコンセプト。まず何と言っても④「買い物ブギ」が最高に面白い。戦後間もない頃に岸和田あたりの商店街を割烹着を着て歩いていたようなこの曲を、バックのクラリネット、ギター、ヴァイオリンが寄ってたかって強引に21世紀のパリのシャンゼリゼ通りへ連れ出したかのような、時間と国籍とジャンルの意味を空洞化した何でもアリの精神が素晴らしい!パリのエスプリを運んでくるピアノ・ソロと顎が落ちそうなリズム・ギター・カッティングも絶品で、和製ブギにフレンチ・ワインをたっぷりふりかけマカフェリ粉をつけてマヌーシュ油でカラッと揚げて「和製ブギのマヌーシュ丼シャンソン風、一丁上がり!」みたいな手際の良さだ。ZaZaさんもこの曲のみCDブックレット見開き2ページを割いてフランス語の歌詞と日本語訳を載せている。いきなり例の有名フレーズ「オッサン、オッサン...」が「ムッスュー、ムッスュー...」で、買い物リストの品目は「バター、生クリーム、ジャム、カマンベール、タルト・フランベ、ブイヤベース」だ(笑) 続く「ケチャップ、シルヴプレ!」でイスから転げ落ち、「ボンジュー、ムッスュー、コマンサヴァ!」で腹筋が崩壊する(^o^)丿 ぜひフランス人の感想を聞いてみたいと思わせる、抱腹絶倒の5分40秒だ。⑥「小さな花」はザ・ピーナッツのデビュー曲として有名だが、オリジナルのシドニー・ベシェが乗り移ったかのようなクラリネットがマカフェリ・ギターと絡む瞬間がたまらない。岡本敦郎の⑩「リラの花咲く頃」は原曲の湛えていた詩情を殺さずにフレンチの要素を巧みに取り入れ、懐かしのラジオ歌謡をマヌーシュ・スウィングと融合させたアレンジ・センスがお見事だ。昭和歌謡モノ以外ではロジャース&ハート作の大スタンダード・ソング⑨「マイ・ロマンス」が出色の出来。スローで始まり1分28秒からアップ・テンポに転じて一気呵成にたたみかけるような展開は ZaZa & カフェ・マヌーシュの得意技だ。同じくマヌーシュ・スウィング全開の⑪「ベルヴィルランデヴー」の疾走感も言葉にできないほど素晴らしい。やはり「カフェ・マヌーシュにハズレなし」なのだ。
 映画「僕のスイング」公開以降しばらく活況を呈していたマヌーシュ・スウィング界だが、最近新譜のリリース・ペースが鈍ってきている。いつまでも「黒い瞳」に「マイナー・スウィング」といったワン・パターンの選曲では煮詰まって当然だ。せっかくこんなに素晴らしい定型演奏フォームがあるのだから、ジャンゴ・ナンバーに固執せずにまだ誰も手をつけていないようなスタンダード・ソングからトラデショナル・フォーク、ディズニー、アニソン、昭和歌謡に至るまで題材を広く取り、可能な限り片っ端からマヌーシュ化していってほしいものだ。マヌーシュ・スウィングの未来は一にも二にもその選曲センスにかかっている。そのことをこのアルバムが如実に示しているように思えてならない。

ザザ

Bireli Lagrene & Friends Live Jazz A Vienne

2008-12-19 | Gypsy Swing
 ビレリ・ラグレーンは弱冠13歳にして衝撃的なデビューを飾り「ジャンゴの再来」と騒がれた天才ギタリスト。やがてジプシー・コミュニティを飛び出し、ジャズやフュージョンの世界で活躍していたのだが、2001年になって突然自らのルーツであるジプシー・スウィングに回帰したアルバムを出した。リズム・ギター二人を含むジプシー・プロジェクトというグループで、抜群のテクニックでアコギをザクザク弾きまくるジャンゴ直系のアグレッシヴなプレイが圧巻だったが、これは2002年にフランスのヴィエネで行われたビレリ・ラグレーン&フレンズ、つまり拡大版ジプシー・プロジェクトのライブDVDである。
 ショーは2部構成で、前半13曲はCDと同じジプシー・プロジェクトのメンバー5人のみによる演奏、後半19曲はジプシー・プロジェクト&フレンズということでビレリをホスト役に超豪華ゲストが入れ替わり立ち替わりステージで演奏するという、空前絶後にして唯一無比、史上最強のジプシー・ジャズ・コンサートの模様が収められている。特にビレリ・ラグレーン、ストーケロ・ローゼンバーグ、チャボロ・シュミット、アンジェロ・ドゥバールという現役マヌーシュ四天王の競演をたっぷり拝めるのがこのDVDの凄いところ。中でも9分近くもある「黒い瞳」(Les Yeux Noirs)は「これを見ずしてマヌーシュ・スウィングを語るなかれ」といえるほどの大名演で、四天王が秘術を尽くして、「死力」を尽くして、究極のマヌーシュ・スウィングを聴かせてくれる。その超絶技巧のアメアラレ攻撃はもう筆舌に尽くしがたい素晴らしさで、とにかく圧倒的に、超越的に、芸術的に、すんばらしい。無数に世に出ている他ヴァージョンたちが瞬時にして砕け散る究極の「黒い瞳」である。又、ラストの「マイナー・スウィング」では出演者全員がステージに登場して順に個性溢れるソロを回していくという、まさに「マヌーシュ・オールスターズ」とでもいうべき演奏が圧巻なのだが、目も眩むような超絶テクを披露するマヌーシュ・ギタリストたちの中にあって、ベテラン・アコーディオニストのリチャード・ガリアーノのいぶし銀の如きプレイも見逃せない。
 尚、ボーナストラックとしてバック・ステージの映像(めっちゃ楽しそうにジャム・セッションやってます!)やレコーディング風景、それにビレリが少年時代に出演したモントルー・ジャズ・フェスのライブ映像が収録されていて超お買い得。とにかく見所満載のこのDVD、NTSC方式なので安心して楽しめる、マヌーシュ・スウィング・ジャズ映像の決定版といえる1枚だ。

Les yeux noirs



Chanson de Manouche / ZaZa avec Cafe Manouche

2008-12-03 | Gypsy Swing
 私はカフェ・マヌーシュの大ファンで、彼らのリーダー作はもちろんのこと、サイドメンとして参加した音源もすべて聴きたいと思っている。どんな音楽を演ろうとも「スイングする」ことを決して忘れないからだ。ライブや新譜の情報を収集するにはメンバーのブログやウェブサイトを見るのが一番手っ取り早いので出来るだけこまめに見るようにしているのだが、ある時中村さんのブログの"参加アルバム"欄に「シャンソン・ドゥ・マヌーシュ / ZaZa」~カフェ・マヌーシュが演奏に参加しています~ とあるのを見つけた。私は昔からどうもシャンソンが苦手で、あの仰々しいというか大袈裟な歌唱に馴染めないでいたので、シャンソンとマヌーシュ・スウィングの邂逅に期待半分・不安半分で試聴を開始した。何これ?めっちゃエエやん(^o^)丿 私が苦手とする暑苦しさが全く感じられない。早速その場でオーダーした。①「美女とマヌーシュ」、重厚なイントロに続いていきなり川瀬さんの軽妙なリズム・ギターが滑り込んできた時点で早くもカフェ・マヌーシュ・ワールドに突入、山本さんの哀愁舞い散るソロといい、カフェ・マヌーシュは歌伴もめちゃくちゃ上手い!!! ②「アマポーラ」や④「バラ色の人生」ではZaZa(山口早智子)さんのヴォーカルを引き立てるような控えめなバッキングに徹している。これも見事という他ない。⑥「僕の心は自由」は知らない曲だが、哀愁を撒き散らしながらスイングしていく私の最も好きなタイプの演奏だ。⑦「愛の賛歌」はイントロからしてウキウキするようなスイング感に溢れているが、聴き所は何と言っても1分45秒からの山本さんの躍動感溢れるソロ、これに尽きる!この曲の私的№1ヴァージョンだ。ジャズでもよく取り上げられる⑨「まるで春のよう」では川瀬さんの軽快なリズム・ギターが素晴らしい。スロー・テンポの語りで始まる⑪「枯葉」、出たぁ...一番苦手なパターンやぁ...と思っていたら、2分28秒から一転、超スインギーな「枯葉」にテンポ・アップして一気に駆け抜ける。この疾走感がたまらない!マイルスもぶっ飛ぶカッコ良さの「枯葉」である。ロマーヌも「フレンチ・ギター」で取り上げていた⑬「メニルモンタン」やシナトラの⑭「マイ・ウェイ」ではパリのエスプリとマヌーシュ・スウィングが見事に融合し、クールに、軽やかに、そして粋にスイングしている。カフェ・マヌーシュにハズレなし、と声を大にして言いたくなる1枚だ。

愛の賛歌

Hot Club de Norvege MORENO

2008-11-19 | Gypsy Swing
 モレノはマヌーシュ・スウィング界のナイジェル・マンセルである。天才肌のビレリ・ラグレーンやストーケロ・ローゼンバーグとは違い、実力はピカイチながら今ひとつメジャーになりきれないところや、時々豪快なミスもする(笑)がノッてくると誰も手がつけられないほどの超速弾きを炸裂させるところなんかがそう感じさせる所以である。いわゆる「記録よりも記憶に残る」タイプ...まさにマンセルではないか!そういうドライバー、じゃなかったアーティストほど熱狂的なファンが多いものだが、私もそんな一人でモレノの大ファンなのだ。もちろんラグレーンもローゼンバーグも大好きなのだが、CDトレイに収まる回数はひょっとするとモレノの方が多いかもしれない。そんな彼の超速弾き爆裂フレーズを聴くたびに、車を左右に揺すりながら豪快にアウトからかぶせて抜き去っていく荒法師マンセルをイメージしてしまう。こんなギタリストは他にはいない。
 彼はこれまでリーダー作を8枚出しており、中でも速弾きのライバル的存在であるアンジェロ・ドゥバールと競演した、ノルウェーのホット・クラブ・レーベルから出ているこのCDが一番凄い。マヌーシュ界では競演というと普通和やかな雰囲気でソロ回しをやったりするのが普通なのだが、この盤ではバチバチ火花が散っていて実に緊張感溢れるスリリングなソロの応酬が展開される。まるで92年モナコGPのセナ vs マンセルだ!①の「デヴィッド」や③の「メトロ・スウィング」を聴けばわかるように、同じ速弾きでも2人の弾き方はかなり違っており、そんな2本のギターがくんずほぐれつ絡み合いながら他ではちょっと聞けないような強烈なスイング感を生み出しているのがこの盤の凄いところ。⑤の「ノト・スウィング」では1st & 3rd ソロをアンジェロが、2nd & 4th ソロをモレノが弾いており、「負けるもんか!」とばかりに超速弾きを超正確にバリバリ弾きたおす2人のプレイはとても人間ワザとは思えない!史上最強のギター・バトルといってもいいかもしれない、本盤最高の聴き所である。⑫の「オール・オブ・ミー」でアンジェロを押しのけるかのように(笑)自分のソロを弾ききってしまうところなんかも思いっ切りマンセルしている。私のように豪快なマヌーシュ・ギターが好きな人間にとってはこたえられない1枚だ。

F1 1992年モナコGP セナvsマンセル



僕のスウィング

2008-11-12 | Gypsy Swing
 「マヌーシュ」とはフランス北西部からベルギー国境付近のアルザス地方で暮らしているジプシーのことである。彼らは生まれつき手先が器用な民族で、その音楽は哀愁のメロディーを情熱的なギター・サウンドで表現する一種のストリート・ミュージックだった。1930年代に伝説のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトがそんな土着のジプシー音楽にスウィング・ジャズのエッセンスを取り入れて完成させた音楽スタイルがマヌーシュ・スウィングというわけで、マカフェリやセルマー・タイプのギターを使っての、ザクザク刻むリズムをバックに哀愁のメロディーを奏でる超速弾きが大きな特徴だ。私にマヌーシュ・スウィングの扉を開いてくれたのが以前ご紹介したローゼンバーグ・トリオなら、私に「マヌーシュとは何か?」という根本的な問いに対する答えを示してくれたのがトニー・ガトリフ監督の「僕のスウィング」という映画であり、そこで主演したチャボロ・シュミットをフィーチャーしたこのサントラ盤なのである。ジャズであれ、ボサノヴァであれ、歌謡曲であれ、音楽とその土地の文化とは切っても切れない関係にあるが、「僕のスウィング」はジプシー・ミュージックの文化的バックグラウンドがとてもよく分かるように作られており、ヨーロッパにおけるジプシーの存在がどんなものなのかの一端を垣間見れる。「ロマ」と呼ばれる彼らは住んでる区域からして違う、定職もなく字も読めず、ギター片手にキャンピングカー暮らし... チャボロ演じるミラルドの生活ぶりこそが典型的なロマの生き方なのだ。そんなロマの少女スウィングとガジョ(非ジプシー)の少年マックスの心の交流と、そんな2人を隔てる目に見えない壁の存在、そしてユダヤ人・アラブ人・ロマ民族が音楽を通して一つになり平和を願う姿などが見事に描かれた素晴らしい映画だった。そのサントラであるこの盤の一番の聴き所は何と言ってもチャボロ一世一代の名曲名演、①「ミレ・プラル」にトドメを刺す。映画冒頭のタイトルロールのバックでいきなりこの曲が流れた時、あまりの強烈なインパクトにぶっ飛んでしまった(>_<) 心の奥底までビンビン響いてくるような熱いギターの音に圧倒されたのだ。大ジャム・セッション風の②「黒い瞳」の豪快なノリも凄いモノがあるし、⑭「平和の歌」のどこか中近東風のメロディーの合唱も耳に付いて離れない。マヌーシュ・スウィング・ブームの火付け役となったこの映画、CD/DVD共にマヌーシュ・コレクションには欠かすことのできない1枚だ。

Tchavolo Schmitt - Mire Pral



Rosenberg Trio Live At The North Sea Jazz Festival

2008-11-06 | Gypsy Swing
私がマヌーシュ(ジプシー)・スウィングにハマってちょうど1年になるが、そのきっかけとなったのがこの盤である。カヴァー・ソング好きの私は好きな曲を色々な人の演奏で聴き比べて愉しむことが多く、その時も「ブルー・ボッサ」の知られざる名演を iTunes で探していて、偶然この Rosenberg Trio に出くわした。当然名前も知らない。「Trio ってピアノ・トリオかな?」と思いながらクリックすると、今まで聴いたことの無いようなスイング感溢れるギター演奏がスピーカーから飛び出してきた。あまりの素晴らしさに即HMVでオーダー。今まで色んな音楽を聴いてきたがまだまだこんな凄い演奏があるなんて!もう嬉しくってたまらない。まず①For Sephora、ストーケロ・ローゼンバーグのオリジナル曲だが、スタンダードソングも裸足で逃げ出すカッコ良さ。哀愁舞い散るメロディーに涙ちょちょぎれ、ザクザク刻むリズムギターに心が疼く。②Minor Swing、今ではすっかり耳に馴染んだマヌーシュ・スウィングの大スタンダードだが、当時はそんな知識もなく、①に続いてこれまたカッコエエ曲やなぁ、ギターも凄いなぁ、というマヌーシュ・ド素人(笑)だった。③のLes Yeux Noirs、「黒い瞳」はジャズやテケテケの演奏で知ってはいたが、この「瞳」はそれまで聴いたことのないようなもの凄い演奏で、ただただ圧倒されるばかり。これほどまでに高速なフレーズをミスタッチなく正確に弾きたおすなんて人間ワザとは思えない。ジャズでもロックでも、速弾きテクニックに走りすぎるとどうしても機械的で無機質な演奏に陥ってしまうことがよくあるのだが、このストーケロのギターは超高速でありながら歌心溢れるソロの連続で、もう凄いとしか言いようがない。この盤購入のきっかけとなった⑬Blue Bossaの他にも驚愕の「針飛び状態フレーズ」が聴ける④Chega De Saudade やラテンの情熱迸る⑫Armando's Rumba、ロマンチックな響きが印象的な⑮Les Feuilles Mortes(枯葉)など名曲名演が目白押しだが、この盤最大の聴き所は何といっても⑥のBossa Dorado。2分28秒丸ごと哀愁メロディーの塊のような大名曲を名手ストーケロがありとあらゆるテクニックを駆使して歌いまくっているのだ。もう「まいった」としか言いようがない。曲に酔い、いつの間にか演奏に酔いしれているという、10年に1度出会えるかどうかの大名演だ。とにかくこのアルバム、私にとって最初にして最高究極のマヌーシュ盤なのだが、このVerveのCDはカッティング・レベルが低く音がモコモコしてるので、私はCDレコーダーを使って自家製「ラウド・カット」盤を作り、そっちばかり聴いている。気分はすっかりルディ・ヴァンゲルダー(笑)だ。みなさんも一度お試しあれ。

Rosenberg Trio - For Sephora

It's All Right With Me / Sara Lazarus

2008-10-30 | Gypsy Swing
 ヴォーカル入りのマヌーシュ・スウィング盤は珍しい。数曲だけヴォーカルが特別参加というのはたまに見かけるが、ヴォーカリスト名義の作品のバックをジプシー・サウンドで、というのは滅多にない。しかもそのギタリストが天下のビレリ・ラグレーン、それもジプシー・プロジェクトでの参加となると、これはエライこっちゃである。サラ・ラザラスは94年のモンク・コンペでも優勝した実力派ヴォーカリストでここでもユニークな歌声を聞かせているが、やはりこの盤はビレリ・ラグレーンを聴くためにあると言っても過言ではないだろう。①のGypsy In My Soul... 何という素晴らしいバッキングだろう!音楽を知り尽くしたその道の達人のみが成し得る肩の力の抜けたプレイ。ちょうど「アニタ・シングズ・ザ・モスト」のオスカーピーターソンみたいな感じである。その盤でアニタも歌っていた②のTaking A Chance On Love、こちらはテンポをやや落としてじっくりと聞かせるが、ここでもビレリの細かいワザがキラリと光る。彼は速弾きだけの凡百ギタリストとは次元が違うのだ。アップテンポの③What A Little Moonlight Can Do では歌心溢れるソロを連発、ウィズストリングスの④で十分休憩を取った後(笑)、⑤のIt’s All Right With Me で再び大爆発(≧▽≦) この曲のテンポ設定はマヌーシュ・スウィングにとって理想的なのかもしれない。いや、もうここまでくるとマヌーシュとかジャズとかは関係なしに、ただ「素晴らしい音楽」でいいのではないか。そう思わせるぐらいこのヴァージョンは優れている。続くスロー・バラッドの⑥Dans Mon Ikeではサラにそっと寄り添うようなプリティなプレイを聞かせ、ミディアムで気持ち良さそうにスウィングする⑦Deed I Do やノリノリの⑧Down With Loveでも絶妙なオブリガートでサラをサポートする。そして①と並ぶこの盤のベスト・トラックとでもいうべき⑩The Way You Look Tonight... この曲でのビレリは持てるテクニックの限りを尽くしてバッキングの妙を聞かせてくれる。そのギターのイントロを聴いただけで、これから素晴らしい音楽が始まる予感が高まる。暖かく厚みのあるギターの音色と抜群のスイング感に身をゆだねる心地良さ... 汲めども尽きぬ泉のように湧き出る柔軟なフレーズの波状攻撃が圧巻だ。疲れていてもこれを聴くと「よっしゃ、頑張るぞ~!」という元気な気持ちにさせてくれる、まるでユンケルみたいな盤である。

Sara Lazarus with Bireli Lagrene's Gipsy Project

Gypsy In My Soul / Connie Evingson

2008-10-29 | Gypsy Swing
 コニー・エヴィンソンはミネソタを中心に活動するジャズ・ヴォーカリスト。声質はジェニー・エヴァンス似で、私の大好きな「クール&ハスキー」系。これまで8枚のCDを出しており、ストレートにジャズを歌ったものが2枚、ミュージカル集1枚、クリスマスソング集1枚、ペギーリー・トリビュートが1枚、ビートルズ・トリビュートが1枚、そしてホットクラブ・バンドをバックにジプシー・スウィングを歌ったものが2枚である。ペギーリーにビートルズにジプシー・スウィング?それって私の3大フェイバリットやん!!! コニーちゃんとはめっちゃ気が合いそうだ(笑) 今日ここでご紹介するのはそんなジプシー・スウィングを歌った1枚「ジプシー・イン・マイ・ソウル」である。因みにこの盤ではアメリカの3つのホットクラブ・バンドがバックを務めており、そっちの方も聴き所といえるかも。まずはナット・キング・コールで有名な①Nature Boy。原曲の持つ哀愁を上手く引き出しながらもテンポを上げてスインギーに歌っている。これはいい!リズムギターが大活躍でのっけからマヌーシュ・ワールド全開だ。タイトル曲の③Gypsy In My Soul、いきなり「マイナー・スウィング」のメロディーから入っていつの間にか「ジプシー・イン・マイ・ソウル」になり、エンディングで再び「マイナー・スウィング」に戻る、という見事なアレンジ。彼女のスキャットがめっちゃ雰囲気あるんよね。クラリネットもエエ味出しとるし、これはたまらんなぁ...(≧▽≦) ジャンゴの④Nuages も幻想的でマヌーシュの香りに溢れてるし、イントロの軽快なリズム・カッティングが心地良い⑤Lover Come Back To Me ではストレート・アヘッドなコンテンポラリー・ジャズと伝統的なマヌーシュ・スウィングの見事な融合が聴ける。⑥Lullaby Of The Leaves ではギターとヴァイブをバックにジャジーな雰囲気を醸し出しており、この曲の名唱№1に断定したいほど素晴らしいヴァージョンだ。⑨Caravan ではエリントンが泣いて喜びそうなぐらい原曲からエキゾチックなムードを引き出すのに成功している。そしてラストはスイングの極致が聴ける⑮'S Wonderful!変幻自在のスキャットを聞かせるコニーちゃん、もうノリノリである。ジャズとかマヌーシュとかを超越して、すべての音楽ファンに推薦できる名盤だ。

Gypsy Vagabonz

2008-10-24 | Gypsy Swing
 ジプシー・スウィング界のニューウェイヴ、Gypsy Vagabonz は「女性ヴォーカル+ギター2本+ベース」の男女混成ジプシージャズ・ユニット。vagabond とは英語で「放浪者」という意味で、「ヴァガボンズ」と発音する。決して「バカボン」ではない。「ネオ・スウィング系乙女ジプシージャズ」というのがキャッチフレーズらしい。さっそく試聴サイトを見つけた。そこに5曲アップされており、聴いてみてめっちゃ気に入ったので即購入。全7曲(①は曲というより②のイントロっぽい作りなので実質6曲)わずか19分17秒のミニアルバムだが、いきなり②BOOM BOO でガツーン!とやられる。ジプシー・スウィングをロカビリー風味で料理し、J-Popsをふりかけて一丁あがり、みたいな愉しい曲。何でもアリの無国籍サウンドといった感じだが、これでいいのだ。で、それに続くのが③のThe Gift、これには完全にKOされた。先日のカフェ・マヌーシュのライブでも大喝采を浴びていた人気曲で、この曲の持つ哀愁とジプシーギターのサウンドが絶妙なマッチングを見せており、涙ちょちょぎれる素晴らしさ。もう1曲のスタンダード⑤I LOVE PARIS も完全にマヌーシュ曲と化し、原曲よりもずっとテンポを上げることによって独特なグルーヴ感を生み出すことに成功している。しかし一体誰がこの曲をジプシー・スウィングで演奏しようなどと思いつくものか?ホンマにええセンスしてるよなぁ。それはそうと試聴サイトにあった Love Me Or Leave Me と Just One Of Those Things が何故このCDに入ってないんやろ?特に1分ジャストでフェイドアウトしてしまう Love Me... はぜひフル・ヴァージョンでCD化してほしい。Just One Of... の方はライブ音源で、コレが又めちゃめちゃカッコエエんよね。ライブといえば YouTube にアップされてる The Gift も凄いノリで、ギター2本の「ジャガジャガジャガ」とかきむしるような迫力満点のプレイに圧倒されること間違いなし。理屈じゃなくてハートでプレイするVagabonzの新感覚ジプシー・スウィング... 荒削りなところもあるが、これでいいのだ!

The Gift / Gypsy Vagabonz