shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Elvis In Person at the International Hotel

2009-08-16 | Oldies (50's & 60's)
 毎年お盆の時期になるとテレビでは終戦記念日ということで第2次大戦がどーのこーのとか、首相が靖国参拝をするとかせんとか、相変わらずな話題がよく取り上げられるが、私は日本の歴史にも政治にも何の関心もないのでハッキリ言ってどーでもいい。お盆を迎えるにあたって私の頭に浮かぶのはキング・オブ・ロックンロールこと、エルヴィス・プレスリーなのだ。
 今日8月16日はエルヴィスの命日である。彼が42才の若さで亡くなってかれこれ32年の月日が流れたわけだが、私がまだ人並みにテレビやラジオを見たり聞いたりしていた1980年代には、8月半ばを迎えるとFMでプレスリー特集が組まれたりBSで彼の映画が放映されたりで、根が単純な私はいつの間にか “お盆=プレスリー” という刷り込みがなされていった。ちょうど土用の丑の日と聞くとウナギを食べたくなるようなものかもしれない。
 私は当初エルヴィスに関して “50年代のパワフルなロックンロールの数々は凄かったが60年代に入ると毒にも薬にもならん映画出演にうつつをぬかして失速していった人” という認識を持っていた。実際、56~57年にかけては「ハートブレイク・ホテル」、「ハウンド・ドッグ」、「冷たくしないで」、「ラヴ・ミー・テンダー」、「オール・シュック・アップ」、「監獄ロック」と、まさに怒涛のような名曲名演ラッシュだったものが、それ以降の楽曲レベルのパワーダウンは否めず、真の名曲名演と呼べるのは「イッツ・ナウ・オア・ネヴァー」や「好きにならずにいられない」ぐらいではないだろうか?個人的にはポールのカンボジア難民救済コンサートでロバート・プラントがカヴァーしていた「リトル・シスター」(61年)なんかはかなりの名曲だと思うのだが、それすらチャートでは5位になるのがやっとだった。だから “ロッカーとしてのエルヴィスは50年代で終わった” と思っていたのだ。
 そんな私の目からウロコを落としたのは「エルヴィス・オン・ステージ」(原題:Elvis - That’s The Way It Is)というコンサート・フィルムだった。そこで見たのは白いジャンプ・スーツに身を包み、派手なアクションでロックンロールからゴスペル・ブルース、ロッカ・バラッドに至るまで、縦横無尽に歌いまくるエルヴィスの雄姿だった。確かにそこで聴けるのは相も変わらずの「ハウンド・ドッグ」であり「ハートブレイク・ホテル」である。しかしそれがどーしたソーホワット、これがオレの音楽なんだという強い説得力がウムを言わせず堂々と迫ってくるのである。その熱気、勢いにはもうひれ伏すしかない。大きな衝撃を受けた私はすぐにCDカタログ(当時はまだCDが普及し始めたばかりでレコ屋に置いてある分厚いカタログだけが頼りだった...)を調べ、ラスベガス・インターナショナル・ホテルでのライブ盤が Vol. 1 から Vol. 3 まで出ていることを突き止めた。曲目を見ると私の好きな曲が Vol. 3 に集中していたので早速購入。それがこの「エルヴィス・イン・パーソン(邦題はエルヴィス・オン・ステージ Vol. 3)」である。尚、後でわかったことだが3枚ともこの映画とは違うライブ音源で、Vol. 1 は70年8月の、Vol. 2 は70年2月の、そしてVol. 3 は69年7月のラスベガス公演のものだった。
 オリジナルのカール・パーキンス盤よりもエルヴィス盤のインパクトの方が強烈だった①「ブルー・スウェード・シューズ」は彼の十八番で、ここでも9年ぶりのライブ・パフォーマンスとは思えないような素晴らしい歌声を聴かせてくれる。1分40秒で炸裂する「ベイベッ!!!」は言葉を失うカッコ良さだ。②「ジョニー・B・グッド」ではさらにテンポを上げて疾走感溢れるロックンロールを炸裂させる。このプリミティヴなパワー、この凄まじいまでのエネルギーの奔流は “過去の人” どころか現役感バリバリだ。③「オール・シュック・アップ」はオリジナルではミディアム・テンポだったものを思いっ切り高速化、12年後の再演でただでさえ素晴らしかったオリジナルを凌駕してしまうというとんでもない1曲だ。
 スローな④「今夜はひとりかい」で一旦クール・ダウンした後、火の出るようなシャウトから始まる⑤「ハウンド・ドッグ」で再加速、初レコーディングから13年経ってなおこの破壊力だ。彼こそまさにロックンロールを歌うために生まれてきた男なのだと改めて実感させられた。⑥「愛さずにはいられない」、このレイ・チャールズ色の濃いナンバーをラクラクと自分の色に染め上げてしまうエルヴィスのヴォーカリストとしての懐の深さには脱帽だ。⑦「マイ・ベイブ」でもソウルフルなヴォーカルを披露し、キング健在を満天下に知らしめる。⑧「ミステリー・トレイン~タイガー・マン」のメドレーはメジャー・デビュー前のサン・レコード時代を彷彿とさせるようなカントリー調のロカビリーだ。この手の曲を歌わせたらエルヴィスの右に出るものはいないだろう。
 箸休め的なバラッド⑨「ワーズ」に続く⑩「イン・ザ・ゲットー」は、シカゴのゲットーに生まれた少年が貧困から犯罪に走りやがて逃げ疲れて自殺するまでの短い生涯を歌った歌詞が感動的で、エルヴィスの後半の盛り上げ方も圧巻だ。この曲は69年にエルヴィス久々の大ヒット(全米3位)を記録した “キング・エルヴィス・イズ・バック” 的なナンバーで、ちょうどこのライブが行われた7月時点では最新のヒットだったせいか、拍手も一段と大きい。
 “発売されたばかりの新曲です。気に入っていただければいいのですが...” というMCから始まる⑪「サスピシャス・マインド」はこのライブが行われた3ヶ月後にエルヴィスにとって8年ぶりの、そして最後の全米№1ヒットになるのだが、ここでは⑩で完全復活を遂げたエルヴィスが約7分にわたる熱唱を聴かせてくれる。⑩⑪と客席の興奮がピークに達したところでラストの⑫「好きにならずにいられない」、エルヴィス本人のスタジオ・テイクも含めてこの曲の様々なヴァージョンを聴いてきたが、誰が何と言おうとダントツに素晴しいヴァージョンがコレだ。映画では確か曲のエンディングで客席が映るのだが、ステージ上で両手を大きく広げて歌うエルヴィスに対する万雷の拍手喝采、スタンディング・オべージョンの嵐が今でも瞼の裏に焼きついている。それにしても何と感動的な歌声だろう。エルヴィスがエンタテイナーとして優れていただけでなく、素晴らしい声質、底知れない声量、そして抜群の歌唱力に恵まれた天性のヴォーカリストであったことがよくわかる。 
 エルヴィスはこの後も「アロハ・フロム・ハワイ・ヴィア・サテライト」の制作etc 順調に活動していくのだが、カムバックの一つのキッカケになったのがこのアルバムであり、かつての私のように50年代のエルヴィスしか知らない人に超オススメの逸品だ。

Elvis Presley - I can't help falling in love with you - live 1970


Elvis Presley - Suspicious Minds
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Appetite For Destruction / Guns N' Roses

2009-08-15 | Hard Rock
 ガンズ & ローゼズといえば昨年オリジナル・スタジオ・アルバムとしては17年ぶりの新作「チャイニーズ・デモクラシー」を発表、待ちに待った80'sハードロック・アイコンの復活、そして例のドクター・ペッパー騒動(ガンズがもし年内に新作を発表したら全米国民にドクター・ペッパーを無料プレゼントというアホな飲料会社の大風呂敷キャンペーン、結局賭けに負け、しかもバンドから訴えられるというトホホな結果に...笑)という派手な話題も手伝って全米でミリオンセラーを記録したばかりだ。私も大いなる期待を持って聴いたのだが、最初の数曲はまあまあ良かったものの、その後は楽曲の魅力に乏しく、全然心に残るものが無かった。ハードでアグレッシヴな印象の曲でも歌やギターはメロディアスというのがガンズの大きな魅力だと堅く信ずる私にとって、結局、ガンズ・サウンドの要だったスラッシュもいなければ曲作りにおいて重要な役割を担っていたイジーもいないガンズはもはやあのガンズではなく、「チャイデモ」は実質的にはアクセルのソロ・アルバムとして捉えるべきものだった。今にして思えば私にとってのガンズは80'sで終わっていたのかもしれない。
 彼らの登場はとにかくセンセーショナルだった。健康的なバンドが増えてハードロックが巨大なビジネスとして成立していた80年代の後半に出現したバンドでありながら、彼らには70'sハード・ロックが持っていた危険な匂いが充満していた。そのプリミティヴなパワーが最も見事な形で結実したのが1988年に大ヒットした衝撃のメジャー・デビュー・アルバム「アペタイト・フォー・デストラクション」なのだ。
 ①「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」、まさに衝撃の幕開けである。ゾクゾクするようなイントロからスラッシュの縦横無尽なギターが炸裂、シンプルなリフ攻撃がえも言えぬ快感を呼ぶ。アクセルのカメレオン・ヴォイスが一触即発の危険なムードを醸し出し、圧倒的な存在感で迫ってくる。中間部のダフのワイルドなベース・ラインもめっちゃカッコエエし、ホンマに最高、最強のロックンロールだ。続く②「イッツ・ソー・イージー」はパンク・ロック譲りの破壊衝動を内包した野性味溢れるナンバー。それにしてもアクセル、よぉこんな低い声出すよなぁ(>_<)
 ③「ナイトレイン」はノリノリの疾走感がたまらないストレートなロックンロールで、そのライブ感溢れる荒削りなサウンドはエアロスミスもぶっ飛ぶカッコよさ。特にストリートの匂いをプンプンさせながら毒を撒き散らすスラッシュとイジーのギター・ソロが圧巻だ。④「アウタ・ゲット・ミー」も③と同様エアロスミスを源流とするラフで荒削りなバッド・ボーイズ・ロックンロールで、まさに打てるもんなら打ってみろの直球勝負。特にイントロの入り方がめっちゃカッコ良くてシビレるわぁ...(≧▽≦)
 ⑤「ミスター・ブラウンストーン」は一転してウネリまくるギターが生み出すグルーヴがユニークな曲で、テンポはそんなに速くないのに何と言うハイ・テンションなんだろう! エンディングの空耳 “兄貴の位牌... ヤクザ!” にも大笑いしたっけ。⑥「パラダイス・シティ」はスローでメロディアスな前半から徐々に加速していって後半の疾走感溢れる大盛り上がり大会へと繋がる怒涛の展開が凄まじい。そのエネルギーの大爆発に思わず “これがロックだ、文句あるか!” と叫びたくなる衝動に駆られる1曲だ。
 ⑦「マイ・ミシェル」はイントロで “おっ、ついにスロー・バラッドか???” と思わせておいて、一転してラウドなリフが爆裂!いかにもガンズなサビもキャッチーでエエ感じだ。⑧「シンク・アバウト・ユー」は筋金入りの疾走系ロックンロールで、ハードでありながらメロディアス、サビのバックで聞こえるメランコリックなアルペジオが絶妙な隠し味になっている。
 2週連続全米№1を記録したガンズの出世作⑨「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」はもうイントロだけでメシ3杯は食えそうな大名曲で、ポップで甘酸っぱいメロディーもガンズの手にかかるとこの通り、スラッシュの煌くようなギター・ソロといい、アクセルのミャ~ミャ~したヴォーカルといい、実に見事なパワー・バラッドになっている。疾走系ロックンロール満載の本アルバム中でも一ニを争うスピード感がたまらない⑩「ユーアー・クレイジー」、ひたすらラウドに弾きまくるギターの刻みがめちゃくちゃカッコ良いパンキッシュなナンバーだ。
 ⑪「エニシング・ゴーズ」はグルーヴィーなギター・リフが支配する前半部分からリズム・チェンジして後半たたみかけるようなシャッフル・ビートで一気に押し切る構成が面白い。トーキング・モジュレーターを始めとする様々なギミックも効果的に使われている。⑫「ロケット・クイーン」は前半部分はイマイチわけが分からんのだが、転調してからの後半のロッカ・バラッド風展開はこの破天荒なアルバムのシメに相応しいと思う。疾走系ロックンロールのアメアラレで暴走しまくっておいて、このようにドラマティックな大団円を演出する構成力はとてもデビュー・アルバムとは思えない。
 どこを切ってもラフなロックンロールが飛び出してくるこのアルバムはアクセル、スラッシュ、イジー、ダフ、そしてスティーヴンの5人が揃って初めてケミストリーが生まれることを如実に物語っている。スリル満点のサウンド、理屈抜きのカッコ良さ、そして既成概念を寄せ付けないカリスマ性... これはおそらくこの時期の彼らにしか作り出せなかったであろうハードロックの奇跡的名盤なのだ。

Sweet Child O' Mine Music Video

エンド・オブ・ザ・ワールド / スキーター・デイヴィス

2009-08-14 | Oldies (50's & 60's)
 曲のタイトルというのはいわば顔のようなモノである。今と違い情報が限られていた60年代において、特に洋楽ポップスの邦題はその曲のイメージを決定づける重要なな要素だった。テディ・ベアーズの「To Know Him Is To Love Him → 会ったとたんに一目ぼれ」やバリー・マンの「Who Put The Bomp? → シビレさせたのは誰?」のような名訳も多かったが、その一方でミスリーディング、つまり曲の内容を誤解させるような、いわゆる “誤訳” もあった。その最たるものがこのスキーター・デイヴィスの「エンド・オブ・ザ・ワールド」で、何をトチ狂ったのか「この世の果てまで」とやってしまったがために、何も知らない純真無垢な人達が “永遠の愛を誓う歌” だと誤解し、あろうことか結婚式のBGMに使われたりしているらしい。曲調だけを考えれば確かに心を洗われるような屈指の名バラッドなのだが、歌詞はといえば “なぜ太陽は今も輝き、海辺には波が押し寄せ、小鳥たちは今もさえずっているの?もう世界が終ったのを知らないのかしら?私があなたの愛を失った時に終わったというのに...” という暗~い内容なのだ。しかも単なる失恋ソングではなく、元々は作詞者のシルヴィア・ディーが父親を亡くした悲しみを綴ったもので、そのせいか愛する者を失った深い悲しみ、絶望感が行間から滲み出ている。つまり “愛する者の死” についての歌であって、欧米では葬儀の際に流されているという。結婚式で流すなど不謹慎この上ない。尚、スキーター・デイヴィスはソロ・デビューの数年前にデュオの相棒だった親友を自動車事故で亡くしており、彼女はこの曲のレコーディングに際し、亡き友への想いを込めて歌ったとのこと。まさに名曲の陰に人生ありである。それにしてもこのメロディー、シンプルなのに聴けば聴くほど心に染みわたってきてジーンとなってしまう。この曲のカヴァー私的Top 3はジュリー・ロンドン、カーペンターズ、そして竹内まりや姐さんなのだが、カレンとまりや姐さんには毎回のように登場願っているし(笑)皆さんよ~くご存知と思うので、今回はあえてこの日米トップ・女性シンガー2人以外で5つのヴァージョンをご紹介:

①Skeeter Davis
 ポップ・カントリー・シンガー、スキーター・デイヴィス一世一代の名唱。チェット・アトキンスのプロデュースでナッシュビルの一流ミュージシャンたちがバックアップしている。彼女の歌声は素朴そのもので、一人二重唱も効果抜群だ。特に語りの部分は胸を締め付けられるような説得力に溢れている。
Skeeter Davis - The End Of The World (1963)


②Julie London
 以前タバコのCMで流れていたジュリー・ロンドンのこのヴァージョンは私の大のお気に入り。セクシーな魅力全開のハスキー・ヴォイスは特にムーディーなスロー・バラッドで威力を発揮するが、そんな彼女の持ち味と曲想とがピッタリ合って心に染みる名唱になっていると思う。
The End of the World -Julie London-


③Herman's Hermits
 この曲の男性ヴォーカル・ヴァージョンは非常にレアで、私はディオン、ジョン・メレンキャンプ、そしてこのハーミッツの3つしか知らない。下手なアレンジを受け付けない完璧な曲なので、ピーター・ヌーンもしっとりと歌い込んでいる。
Herman's Hermits - End Of The World


④Twinkle
 夢シャン・カヴァーを漁っていて出会ったイギリス人ポップ歌手トゥインクル。チャート上の成績はイマイチだったが、サンディー・ショウらと共にモッズのアイドル的存在だったらしい。その素人っぽい歌い方は “イギリスの浅田美代子” みたいな感じで私は結構気に入っている。それにしても目がイッちゃってる写真が多いのは何故?
End of the World - Twinkle


⑤Agnetha Faltskog
 元アバのアグネッタが劇的なカムバックを果たしたアルバム「マイ・カラリング・ブック」に入っていたのがコレ。そうそう、この声、懐かしいなぁ...(^.^) まるで「チキチータ」あたりとメドレーでつなげれそうだ。アバ・ファンにはたまらないあの伸びやかな歌声は今も健在で、やはり歌とは最終的に声の魅力に尽きるということを改めて実感させられた。
Agnetha Faltskog (ABBA) : The End of the World (2004)
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Singles Collection / The Chiffons

2009-08-13 | Oldies (50's & 60's)
 ローリー・レーベルは60年代に数々のドゥー・ワップやガール・グループ・クラシックスの名曲を世に送り出した名門である。そんな中でドゥー・ワップの最高峰ディオン&ザ・ベルモンツと並んで同レーベルを支えたのがこのシフォンズだった。シフォンズというと “例の「マイ・スウィート・ロード」の元ネタとなった「ヒーズ・ソー・ファイン」を歌ってたグループ” という認識が一般的でそれ以上のことはあまり知らないという音楽ファンも多いかもしれないが、実にもったいない話だと思う。スプリームズやロネッツといった一部の例外を除けば、一発屋で消えていった多くのガール・グループの中で10曲近いヒットを放ったシフォンズは黒人ガール・ポップ・グループの代表格なのだ。
 彼女たちの魅力は何と言ってもそのポップ感覚溢れるコーラス・ワークとそれを存分に活かしたキャッチーな楽曲群にある。私の知る限りでは1曲中に占めるコーラスの割合は全ガール・グループ中ダントツではないだろうか?もちろんコーラスが売りというレーベル・カラーもあるだろうし、プロデュースがトーケンズ(「ライオンはねている」で有名なコーラス・グループ)というのもあるだろう。とにかくシフォンズの歌声にはワクワクさせてくれる理屈抜きの楽しさが溢れており、まさに “ガール・グループの鏡” と言える存在だった。
 私が初めて聴いたシフォンズは多くの人と同じく「マイ・スウィート・ロード」つながりで③「ヒーズ・ソー・ファイン」だった。その時は “確かによぉ似とるなぁ...” と2つの曲の類似性にばかり関心が行ってしまって曲そのものを純粋に楽しむことが出来なかった。こーなってくると一種の弊害である。今では “ドゥー ラン ドゥー ラン ドゥラン~♪” という軽快なコーラス・ハーモニーを目一杯楽しんでいる。
 次にシフォンズを耳にしたのはFMのオールディーズ特集か何かの番組で①「ワン・ファイン・デイ」を聴いたのだが、この曲のインパクトは絶大でめちゃくちゃ気に入ってしまった。何と言ってもイントロの躍動感あふれるピアノを聴いただけでこれから素晴らしい音楽が始まる雰囲気が醸し出される。そして実際、キャロル・キングが弾いてるこのピアノに先導されたシフォンズの溌剌としたコーラス・ハーモニー“シュビドゥビドゥビ ドゥビドゥワッワァ~♪”がウキウキした気分を盛り上げる。お約束のハンド・クラッピングも効果抜群だ。ジェリー・ゴフィン=キャロル・キングが書いたこの曲は全米5位にまで上がるヒットを記録、カーペンターズが名盤「ナウ&ゼン」でカヴァーしたヴァージョンも忘れ難い超愛聴曲だ。
 又、ちょうどその頃買ったガール・グループのオムニバス盤にたまたま⑪「スウィート・トーキング・ガイ」が入っており、その見事なコーラス・ハーモニーの波状攻撃にも完全KOされてしまった。リード・ヴォーカルとバック・コーラスの絶妙なコール&レスポンスはまさに円熟の境地といえる素晴らしいもので、特に2分6秒からの“スウィ スウィ スウィー トーキン ガァ~イ♪” とたたみかけるようなコーラスが耳に焼き付いて離れないキラー・チューンだ。これはもう絶対にシフォンズ単独のCDであのコーラス・ハーモニーを思う存分聴きたい!と思い、早速買ってきたのがこの「シフォンズ・シングル・コレクション」である。
 このベスト盤、全21曲 約50分に渡って目も眩むようなコーラス・ハーモニーの大展覧会というか、万華鏡のような楽しさ溢れるポップ・ワールドが展開される。4週連続全米№1となった③に続く 2nd シングルの②「ラッキー・ミー」は作者が③と同じロナルド・マックということで “シャグラン シャグラングラン...” というコーラスで始まるところとか曲の作りもそっくりだ。まぁ2匹目のドジョウ狙いがミエミエだが、この手のポップスが大好きな私としては大歓迎。必殺のメロディーに必殺のコーラス・ワーク... これこそオールディーズ・ポップスの王道なのだ。ジェフ・バリー=エリー・グリニッチ作の⑤「アイ・ハヴ・ア・ボーイフレンド」は “バーンシュバン バーンシュバン♪” というコーラスが耳について離れない胸キュン・ソング。わかってはいてもハマッてしまう、絵に描いたようなブリル・ビルディング系ポップスだ。
 思わず口ずさんでしまいそうな楽しいコーラスやハンド・クラッピングを多用した④「ラヴ・ソー・ファイン」や⑥「トゥナイト・アイ・メット・アン・エンジェル」はシフォンズの魅力全開のポップ・チューンだが、⑦「セイラー・ボーイ」や⑧「ストレンジ・フィーリング」あたりは少しこじんまりとまとまりすぎかもしれない。⑨「ノーバディ・ノウズ」は曲自体は単調だが “ウォウ ウォウ ウォウ ウォウ ウォウ ウォウォウ~♪” という重厚なコーラスと要所要所を引き締めるスプリングスティーンの「ブリリアント・ディスガイズ」なメロディーが耳に残る。⑫「アウト・オブ・ジス・ワールド」はメロディー展開といい、コーラス・ワークといい、バックの音作りといい、何から何まで⑪にそっくりだが、エエもんはエエんで何か2倍得したような気分だ。
 ⑬「ストップ・ルック・アンド・リッスン」ではブリル・ビルディング系ポップスにスプリームズを意識したモータウン・サウンドのエッセンスを塗して往年の溌剌としたムードが復活、シフォンズ最後のヒット曲(66年)である。それ以降は完全に失速してしまったようで、エンジェルズのカヴァー⑭「マイ・ボーイフレンズ・バック」はシフォンズならではの個性に乏しいし、「マイ・スウィート・ロード」の逆カヴァーも話題性は十分ながら肝心の音楽(特にバックのサウンド・アレンジ)はトホホな出来だった。まぁこのあたりの凋落ぶりは彼女らに限ったことではなく、60年代前半に活躍したブリル・ビルディング系シンガー/グループはほぼ壊滅状態で、大輪の花を咲かせてパッと散る、それもまたポップスの宿命というものだろう。
 ⑳「ホエン・ザ・ボーイズ・ハッピー」はシフォンズの前身であるフォー・ペニーズ時代のナンバーで、ジェフ・バリー=エリー・グリニッチ作の楽しさ溢れるポップスだ。やっぱりガール・グループはこうでなくちゃね(^.^) とにかくこのシフォンズはコーラスの楽しさを教えてくれる、オールディーズ・ポップスには無くてはならない存在なのだ。

ONE FINE DAY - The Chiffons

Road Song / Wes Montgomery

2009-08-12 | Jazz
 世間で名盤と呼ばれるレコードには大きく分けて2つの種類がある。評論家が口を揃えて絶賛する “歴史的名盤” と、多くのリスナーに愛され “実際にターンテーブルに乗る回数の多い人気盤” である。ビートルズで言えば、前者は誰が何と言おうと「サージェント・ペパーズ」(←曲単位でシングル盤中心に聴くスタイルから、アルバム1枚で何かを表現するスタイルへと音楽の聴き方そのものを変えてしまったんだから次元が違う!)だろうが、後者に関してはハイそーですかとそう単純に割り切れるものではない。 “そんなもん「ミート・ザ・ビートルズ」の衝撃に決まってるやろ!” と言う人もいれば、 “「ハード・デイズ・ナイト」の躍動感に勝るものナシ!” と言う人もいるだろうし、 “「リヴォルヴァー」のサイケな感じがたまらんワ!” という人、 “「ホワイト・アルバム」ほど面白いアルバム他にないで!” という人、 “「アビー・ロード」のB面メドレーこそが神!” という人etc... 要するに名盤の尺度なんて、その人の思い入れの強さによって違ってきて当然なのだ。これは何もビートルズを始めとするロック/ポップスの世界に限ったことではなく、ジャズにおいても同じことが言える。
 ウエス・モンゴメリーは “モダン・ジャズ史上最高のギタリスト” と呼ばれている。アドリブの間の取り方の絶妙さ、ギターという楽器を通して最小限の言葉で表現できる雄弁さ、ギターでオクターブを同時に弾いてしまう驚異的なテクニック、何をどう弾いても素晴らしいジャズに仕上げてしまう構成力と、もう見事というほかない。彼のレコーディング・キャリアはバリバリのモダン・ジャズを展開していた前期(リヴァーサイド・レーベル)、ストリングスと共演するなどして音楽性の幅を広げた中期(ヴァーヴ・レーベル)、ポップ・ソングを積極的に取り上げ、コマーシャルに堕したとコアなジャズ・ファンからボロクソにいわれた後期(CTI レーベル)に分けることが出来るが、世間でウエスの代表作と言えば判で押したように前期の「インクレディブル・ジャズ・ギター」だもんね、となっているが、ホンマにみんなアレを愛聴しているのだろうか? “オクターブ奏法” というコワモテの専門用語に遠慮してるのではないか? 確かに演奏そのものは文句のつけようがない素晴らしさだ。特にサイドのトミー・フラナガンの絶妙なサポートを得て、リラックス・ムードの中、テンションの高い演奏が繰り広げられる。しかし残念なことに音がややこもって音像がボヤケたように聞こえるのでダイナミズムに少し欠けるように思う。その点ではもう1枚の名盤として挙げられる「フル・ハウス」の方が上かもしれない。
 私はバリバリのハードバップであれ、ウィズ・ストリングスものであれ、ウエスは基本的に全部好きなのだが、やはり一番よく聴くのはクリード・テイラー(プロデューサー)やドン・セベスキー(アレンジャー)と組んだ66年の「カリフォルニア・ドリーミング」から「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」、「ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド」、「ロード・ソング」といった “ウエス後期3部作” あたりへと続く円熟プレイだ。世間ではこういうのを “イージーリスニング・ジャズ” と呼んで低く見ているようだが、エエもんはエエんである。特にこの「ロード・ソング」というアルバムは私が大好きなポピュラー曲の数々をウエスがギターで見事に歌い切った超愛聴盤なのだ。
 ウエスのオクターブ奏法はポピュラー・ソングのメロディーを弾く上でも効果的で、わずか3分少々と言う短い曲の中で彼は持てるすべてのテクニックを駆使して歌いまくっている。素材はイギリス民謡②「グリーンスリーヴス」、ボッサ化された名スタンダード③「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、何の説明も不要なビートルズ・クラシックの④「イエスタデイ」と⑤「アイル・ビー・バック」(←この選曲は渋いね!)、S&Gの「スカボロー・フェア」、PPMの⑨「花はどこへ行った」といった超有名曲ばかりだ。その歌心溢れるプレイを聴けば彼が優れたアドリブ・プレイヤーであるだけでなく、メロディーを美しく歌わせることのできる一流の音楽家であることがわかるだろう。
 彼は68年にこのアルバムを出した直後、43才の若さで急逝してしまうのだが、死ぬ直前のインタビューで、やれポップだのコマーシャルだのといった批判に対して “評論家から何を言われようと気にしないよ。要は聴衆を楽しませること、それがすべてさ。それがプロってもんだろ?” と答えている。いやぁ、まったく同感だ。ホンマにエエこと言うやん(^.^) 残念ながらそれから40年経った今でもこのアルバムは硬派ぶったジャズ・ファンから完全に無視されているようだが、ここで改めて声を大にして言いたい... オクターブ奏法がそんなにエライんか!ポップで悪いか!と。

yesterday Wes Montgomery
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Pistol / The Punkles

2009-08-11 | Beatles Tribute
 CDを買う時に一番迷うのが輸入盤にするか、国内盤にするかということである。一昔前なら “そんなモン安い方がエエに決まってるやん!” ということで迷わずに輸入盤を買っていた。今のご時世、歌詞・対訳を知りたければネットですぐに出てくるし、一部の例外を除けばCDの解説なんてゴミ同然で、ロクなことが書いてあったためしがない。それと、一部のマニアが後生大事に取っておく “オビ” も要らない。あれこそムダの最たるものだろう。このように無意味なモンばかりゴテゴテと付けて値段を上げるという売り方は日本に古くから根付いている悪しき商売法で、賢い消費者を目指す私としては輸入盤を買えばすむ話だったのだが、最近はそうも言っていられない。
 一番困るのは “国内盤のみボーナス・トラック2曲追加” とかいうキッタナイやり方である。まぁ冷静に考えれば今まで聴いたボートラで大したものはほとんど無かったことぐらいすぐに分かりそうなものなのだが、 “今度のヤツはひょっとしたら凄い名演かもしれん...” とか考えるといても立ってもいられなくなってしまう。だからこういう “ファンの足元を見るような” 売り方は不愉快だ。もっと言わせてもらえば、ボートラも含め、 “発売国によって収録曲が違う” というのは紛らわしくて買う方にとってはいい迷惑だということである。グレイテスト・ヒッツ物なら国によってヒット状況が違うので(クイーンの「手をとりあって」が日本盤のみ収録とか...)まだ分からんでもないが、フツーのオリジナル・アルバムで何の説明もなしに曲目が違うというのはやめてほしい。今日取り上げるパンクルズの「ピストル」も何も知らずに国内盤を買って失敗した1枚だ。
 パンクルズといえばラモーンズ・スタイルでビートルズをパンク・カヴァーするドイツの “おバカ” バンドで、以前このブログでも「ヘルプ!」をもじった黄色いジャケの「パンク!」を取り上げたことがあったが、このモノクロ・ジャケの「ピストル」が「リヴォルヴァー」のパロディーであることは一目瞭然。タイトルは銃器つながりの単語で、パンクの元祖、セックス・ピストルズに引っ掛けたものだろう。
 で、何が問題なのかと言うと、国内盤はオリジナルのドイツ原盤に入っていたストレートアヘッドな演奏をカットして、代わりに⑯「レヴォリューション1-2-3-4」という、「レヴォリューション№9」まがいのワケの分からん演奏を収録しているのだ。この7分21秒は資源の無駄使い以外の何物でもない。パンク・バンドが前衛に走るというのも問題アリだが、それを “興味深い” とか “意欲的” などという中途半端な形容詞で持ち上げる音楽ジャーナリズムも最低だ。誤魔化さずに “良い” のか “ダメ” なのかハッキリしてほしいし、私はこんな “前衛くずれ” を聴くほどヒマではない。ヤフオクで安かったからといってしっかり調べもせずに飛びついた自分が情けない...(>_<)
 何だかグチっぽくなってしまったが、先述の出来そこないアヴァンギャルド⑯とキモいレゲエ調の⑮「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」以外のトラックは相変わらず楽しいロックンロール大会だ。これぞパンクルズの真骨頂というべき “やけくそパワー” 炸裂の①「マジカル・ミステリーツアー」、ゆったりした原曲を高速回転させることによって新たなグルーヴを生み出すことに成功した②「ヘイ・ジュード」、テンポを上げても独特のブルージーな味わいは変わらないのが凄い③「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」、ガレージ・バンドっぽい荒々しさが新鮮な⑦「ザ・ナイト・ビフォア」、駆け抜けるような疾走感がエエ感じの⑧「アイム・ルッキング・スルー・ユー」、サイケ色を一掃して痛快なロックンロールとして生まれ変わった⑨「アイ・アム・ザ・ウォルラス」、ラウドなギターがエエ味出してる⑫「アナザー・ガール」、ジョージア・サテライツの名カヴァーに迫る勢いの⑭「ドント・パス・ミーバイ」といったところは文句なし。ただし、原曲がそこそこアップテンポであまり変わり映えがしない④「マネー」、⑤「バッド・ボーイ」、⑥「エニータイム・アット・オール」といった曲ではヴォーカルの吸引力に圧倒的な差(まぁ天下のジョン・レノンと比べるのも酷な話だが...)を感じてしまうし、⑩「ウイズ・ア・リトル・ヘルプ...」、⑪「トゥ・オブ・アス」、⑬「ハニー・ドント」あたりはいまいちハジケ方が足らず、もっと心を鬼にして高速化してほしかったというのが正直なところ。
 このバンドは存在自体がジョークみたいなモンなので、サウンドの完成度など1曲1曲をどうこう言ってもしゃあないところがあり、 “こんなん聴くんやったらオリジナル聴くわ!” の一言で片付けられそうだが、だからこそ “おバカ” に徹して超高速パンク化に命をかけるべきだったように思う。せっかく開拓した新たな世界、これからもカタイことは抜きにしてみんなの大好きなビートルズ曲で楽しいハイスピード・ロックンロールを聴かせてほしいものだ。

The Punkles "Hey Jude" (2003)

The Honeys Capitol Collector's Series

2009-08-10 | Oldies (50's & 60's)
 ガール・グループはオールディーズの華である。彼女たちはそれまでのスタンダード・ナンバーを主体としていたマクガイア・シスターズやレノン・シスターズらとは違った、ドゥー・ワップやロックンロールのフィーリングを織り込んだ斬新なコーラス・スタイルで人気を集めた。実際、1961年頃から63年くらいまでの、いわゆるブリティッシュ・インヴェイジョン前夜におけるガール・グループたちの活躍は目覚ましいものがあった。私の場合、ロネッツやクリスタルズといったいわゆるフィレス系グループとの出会いでその楽しさ溢れるポップ・サウンドに目覚め、エンジェルズやシャングリラス、シフォンズらを聴いて完全にガール・グループ中毒(笑)になり、しまいにはヒット曲があろうがなかろうが関係なしに、とにかくその手のガール・グループ・サウンドでありさえすれば満足と、片っ端から聴き漁っていった。そんなガール・グループ・ジャンキー時代に出会ったグループの中でピカイチの存在がこのハニーズである。
 彼女らは日米ともにヒット・チャート上ではそれほど目立った成績を残してないが、そのサウンドはまさに “女声版ビーチ・ボーイズ” といった感じで、実際ブライアン・ウィルソンからソングライティングやプロデュースといったサポートを受けながらサーフィン・ソングを歌う “BB5の妹分” 的な存在だった。メンバーはマリリンとダイアンのローヴェル姉妹に従妹のジンジャーの3人で、マリリン(ジャケット真ん中の女性)は後にブライアン・ウィルソン夫人になる人だ。グループ名の “ハニーズ” はBB5のヒット曲「サーフィン・サファリ」の歌詞の中にも登場するサーファー用語で、 “サーファーの女の子たち” という意味らしい。そんな彼女らのキャピトル時代の音源をまとめたのがこの「ザ・ハニーズ・キャピトル・コレクターズ・シリーズ」である。
 まずはこのキュートなジャケット、サーフボードに頬杖ついて3人揃ってハイ、ポ~ズって感じが胸キュンだ(≧▽≦) で、よくよく見ると彼女らのバックに描かれた音符が蜂の柄というのも凝っててエエなぁ。構成としては①~⑫までが60年代の録音で、①②、⑤⑥、⑦④、⑪⑫がキャピトル時代の4枚のシングル両面、⑧⑨がワーナー・ブラザーズからのシングル両面、③⑩がキャピトル時代の未発表音源となっており、⑬以降は77年以降の録音である。
 “39313, Shoot The Curl, Take 7, lucky 7...” というブライアンらしき声に続いて始まる①「シュート・ザ・カール」は典型的なガール・グループ・サウンドで、“シューシュー、シュータ カール~♪” というコーラスが楽しいキャッチーなナンバー。②「サーフィン・ダウン・ザ・スワニー・リヴァー」はブライアンがフォスターの「スワニー河」に新しい歌詞を付けた、ハニーズのデビュー・シングル。絶妙なコーラス・ハーモニーといい、必殺のハンド・クラッピングといい、ウキウキするようなワクワク感に溢れた実に楽しい曲だ。③「レインドロップス」は “コーデッツの「ロリポップ」を裏返しにしたようなメロディーを「ダ・ドゥ・ロン・ロン」なスペクター・サウンドでキメてみました” というような、ガール・グループ・サウンドの魅力を凝縮したような曲で、こんな素晴らしいトラックをリリースしなかったなんて信じられない。④「フロム・ジミー・ウィズ・ティアーズ」はダジャレではないが地味な曲で、メロディーも単調だ。そのせいかすぐにはリリースされず、後になってシングルB面として日の目を見ることになる。
 ⑤「プレイ・フォー・サーフ」はハニーズの 2nd シングルで、ジャン&ディーンみたいなサーフィン・ミュージックをブライアン風ウォール・オブ・サウンドで表現した感じ。⑥「ハイド・ゴー・シーク」は初期BB5っぽい曲想のナンバーで、彼女らのヴォーカルもバックの分厚いサウンドに負けじと実にパワフルに響く。 “オリ オクセン フリフリフリ~♪” というコーラスが耳に残るキャッチーな曲だ。⑦「ザ・ワン・ユー・キャント・ハヴ」はハニーズの 3rd シングルで、多分彼女らの代表曲といえるナンバー。流れるようなメロディーに思いっ切りスペクター全開のサウンドが耳に心地良い(^o^)丿 ズンドコ・ドラムにタンバリンの多用、仕上げはお約束のハンドクラッピングとくればもう言うことなしのガール・グループ・クラシックだ。
 1964年にワーナーに移籍してリリースした⑧「ヒーズ・ア・ドール」は⑦に勝るとも劣らないワクワクドキドキ系のキャッチーなナンバーで、コーラス・アレンジとい、エコーのかけ方といい、カスタネットの波状攻撃といい、ブライアン流スペクター・サウンドの極めつけといえるだろう。ロネッツやクリスタルズ好きには涙ちょちょぎれるキラー・チューンだ。そんな名曲名演が何故ヒットしなかったのか... このシングルが発売された64年の4月というのはビートルズが全米チャートの1位から5位までを独占したB4旋風吹き荒れる真っ只中だったのだ。せめてあと1年、いや半年早くリリースされていれば大ヒット間違いなしだったと思うのだが...(>_<)
 ⑨「ザ・ラヴ・オブ・ア・ボーイ・アンド・ガール」はおセンチ系バラッドで、サウンド面も至ってシンプルな作りになっている。⑩「カム・トゥ・ミー」は68年の録音と言うことで①~⑦までとは全く違う傾向のサウンド、例えるならダイアナ・ロス&スプリームズを漂泊したような感じとでも言えばいいのか、とにかく時代が歪み始めたのを反映したような淡白な音作りだ。⑪「トゥナイト・ユー・ビロング・トゥ・ミー」は古いアメリカのポピュラー・ソングのカヴァーで、彼女らの見事なコーラス・ワークが思う存分堪能できる。エンディングの “トゥナイト!!!” がたまらない。同趣向の⑫「グッドナイト・マイ・ラヴ」はハニーズにとって60年代最後の録音で、アン・ルイスあたりが歌いそうな夢見るしっとり系のバラッドだ。
 ⑬~⑳までは先述のように70年代後半のハニーズ音源で、もはやガール・グループ・サウンド特有の楽しさはなく、時流を意識した普通のソフト・ロックという感じに変貌してしまっている。思えばシングル盤中心でメロディーを大切にする60年代が終わり、混沌とした70年代に入ってワクワク・ドキドキするような楽しいポップスが時代遅れになり、ガール・グループたちはその使命を終えたのである。

The Honeys - "He's A Doll"

サニー / ボビー・ヘブ

2009-08-09 | Oldies (50's & 60's)
 私はビートルズのような一部の例外を除けばアーティストよりも曲そのものに入れ込む傾向がある。だから好きな曲をどんどん集めているうちに自然とCDやLPが増えていって、そうこうしながら未知のアーティストと出会っていく。例えばこの「サニー」という曲、オリジナルは1966年のボビー・ヘブによる全米№2ヒットで、追いはぎに兄を殺されたヘブが悲嘆にくれ、神に祈る日々の中で浮かんだ旋律を歌にしたものだという。歌詞だけ見ると甘いラヴ・ソングのようだが、実はサニーという名を借りて神に語りかける一種のブルースであり、どこか物悲しさを感じさせるのはそのせいかもしれない。初めて聴いたのは多分ボニーMのヴァージョンだったと思うが、気が付いた時にはその不思議な哀愁を湛えたメロディーが心の中に刷り込まれていた。一説によるとカヴァー・ヴァージョンは軽く100を超えるというこの曲を本気で集め出したのはここ数年ぐらいのことで、まだ50そこそこしか集まっていないが、驚くべきことにジャズ、ロック、ソウル、ディスコ、GS、昭和歌謡からマヌーシュ・スウィングに至るまで、ありとあらゆるジャンルでカヴァーされているのだ。きっとこの旋律には歌手やミュージシャンを惹きつける特別な何かがあるのだろう。ということで、今日は超愛聴曲「サニー」大会です。

①Bobby Hebb
 黒人ということでコテコテのソウルフルなヴォーカルをイメージしていたが、聴いてみるとこれが意外なほどのあっさり味。淡々と歌うソフトロックという感じで、清涼感溢れるヴァイブが良い味を出している。素朴そのものの歌い方だが、さすがはオリジナルだけあって原点の光が輝いている。
Bobby Hebb "Sunny" (1966).


②Dusty Springfield
 私の大好きなダスティ・スプリングフィールドもこの曲をカヴァー。彼女のメランコリックな歌声、キメ細やかな表現力はこの曲の魅力を120%引き出しているし、バックのオケのジャジーなアレンジも絶妙で、ひいき目を抜きにしても同曲のベスト・ヴォーカル・ヴァージョンに認定したい素晴らしさだ。
Dusty Springfield - Sunny


③Oscar Peterson
 このサニーという曲は不思議とジャズ・ミュージシャンにも人気があって様々なカヴァーが出ているが、ウエス・モンゴメリーのものと並んで私が最も愛聴しているのがこのオスピー・ヴァージョン。コロコロ転がるようなピアノの音色でスインギーかつダイナミックに弾きまくるピーターソンの魅力が全開だ。
オスカー・ピーターソン


④平山三紀
 日本人シンガーのカヴァーとしては弘田三枝子が「ミコ・イン・ニューヨーク」で歌ったものが有名だが、隠れ名演として私のイチオシがミキティーのこのヴァージョン。彼女独特の投げやりな歌い方を上手く活かしたノリノリ・アレンジが絶品だ。エンディングの “ラララ!!!” なんかもうたまらんなぁ... (≧▽≦)
サニー


⑤Boney M
 1976年のボニーMによるディスコ・カヴァー・ヴァージョン。当時アメリカで全盛を誇っていた軽薄ディスコ・ミュージックを私は大嫌いだったのだが、何故かこのボニーMだけは好きだった。他の凡百ディスコ・アーティストとは激しく一線を画す選曲に彼らの音楽的センスが現われていたが、この「サニー」なんかその最たるものだろう。名曲はジャンルを超越するという絶好の見本だと思う。
Boney M. - Sunny (1977) HQ

ウクレレ・ドリーミング / サンディー

2009-08-08 | Cover Songs
 私はウクレレの持つ独特のスイング感とその癒し系サウンドにハマッて以来、好きな楽曲をウクレレ・カヴァーした企画モノ・アルバムを見つけたら必ず買ってしまう習性がある。このブログでもビートルズを筆頭にウルトラマンからジブリまで何枚か取り上げてきたが、そんな数あるウクレレ・カヴァー・アルバムの中で私が最も愛聴しているのが、サンディー&ザ・ザンセッツでリード・ヴォーカルを取っていたサンディーがオールディーズの名曲たちをハワイアン・アレンジでカヴァーした「ウクレレ・ドリーミング」である。
 彼女は日本人とスペイン人のハーフで東京生まれのハワイ育ち、エキゾチックな美貌と抜群のプロポーションを誇るアジアン・ビューティだが、何よりも彼女の最大の魅力は聴く者を優しく包み込むようなその歌声にある。疲れた心を癒してくれるような、まるで南斗慈母星ユリヤの如き不思議な魅力が彼女の歌声にはある。ライナーでよしもとばななさんが “部屋全体が柔らかい光にくるまれたような感じ” と表現しているが、言い得て妙、まさにユリヤのイメージそのものではないか。そんな母性愛に満ちた歌声でウクレレの癒し系サウンドをバックにオールディーズ、それも当時の日本人女性シンガーたちがこぞって取り上げた和製カヴァー・ポップスの名曲の数々(まりや姐さんの「ロングタイム・フェイヴァリッツ」に近い選曲だ...)を歌っているのだ。これで名演が生まれないワケがない。
 ライナーによると、このアルバムのプロデューサーがイメージしたのは映画「ティファニーで朝食を」の中でギターを爪弾きながら「ムーン・リヴァー」を歌うオードリー・ヘプバーンで、これを “ニューヨーク→ハワイ” 、 “アパートの非常階段→ヤシの木陰” 、 “ギター→ウクレレ” 、 “ムーン・リヴァー→オールディーズ” 、そして “へプバーン→サンディー” へと変換するのだという。いやはや、ワカッたようなワカらんような5段変格活用だ。更に随所にウクレレによるインタールード風インスト①⑥⑩⑭が挿入されており、チルアウト気分を盛り上げてくれる。細工は流々といったところか。
 シンセ・サウンドをバックにした波の音①に続いて歌われるのはコニー・フランシスの②「ボーイ・ハント」、山内雄喜氏による情緒纏綿たるウクレレのイントロからもう夢見心地、アルバム・タイトルにあるように “ウクレレ・ドリーミング” な世界が展開する。サンディーのヴォーカルもまるで夢物語を語って聴かせているような趣があり、この名曲に不思議な魅力を与えている。3分19秒あたりで呟く “ヘィ ケ アロハ♪” が何とも言えず艶めかしい。ミーナの③「砂に消えた涙」は弘田三枝子を始め、ザ・ピーナッツ、竹内まりやという錚々たる顔ぶれがカヴァーし、桑田佳祐師匠も “大好きな曲!” と言ってはばからないヨーロピアン・ポップス屈指の名曲だが、サンディーは関口和之氏のウクレレをバックに一言一言噛みしめるように歌う。1st ヴァースをイタリア語で、2nd ヴァースからは日本語で歌うというニクイ演出も効果抜群だ。彼女の歌声にピッタリ合った絶妙なテンポ設定も名演度数をアップさせている。
 ヴィッキーで大ヒットしたポール・モーリアの④「恋はみずいろ」は、歌伴の名手オータサンのツボを心得たウクレレ演奏といい、サンディーのアンニュイな歌声といい、心に染み入る名曲名演だ。それにしてもこのサンディーという人、聴けば聴くほど惹き込まれていくような不思議な魅力を持ったヴォーカリストだ。フルーツ娘こと、ナンシー・シナトラの⑤「レモンのキッス」では②③④とは違って原曲の持つラヴリーな雰囲気を見事に表現した胸キュン・ヴォーカルを聴かせてくれるサンディーにタジタジだ。2分44秒の“kiss like I do... smack!” もたまらない(≧▽≦)
 スラッキー・ギター(ギターのキー・チューニングを緩めて弾く奏法)の名手ピーター・ムーンが奏でるウクレレのこのユルユルなイントロを聴いて “一体何の曲?” と考え込んだ瞬間、サンディーが “陽に焼けた 頬寄せて 囁いた 約束はぁ~♪” と歌い始める。ザ・ピーナツの⑦「恋のバカンス」だ。その歌声は抗しがたい吸引力に満ち、寄せては返す波の音と哀愁舞い散るウクレレのサウンドが夏の終わりの黄昏時を描写する。こんな素敵なカヴァーをされては宮川先生も天国でさぞや喜んでおられるにちがいない。
 シェリー・フェブレーの⑧「ジョニー・エンジェル」ではアタマの “Johnny Angel, You’re my angel to me...” を英語ではなく “ジョニー・エンジェル~ エク ウア ネェラァ~♪” とハワイ語(やと思う...)で歌うところがめちゃくちゃカッコイイ。この曲に限らず、私は曲の最中に言語をスイッチする歌い方が大好きなのだが、その極めつけと呼べるのがウィルマ・ゴイクの⑨「花のささやき」で、前半の日本語詞に続いて “セェ~ ノォコォリィ~♪” とサンディーの流暢なイタリア語がスルスルと滑り込んでくるところが鳥肌モノ。山内雄喜氏の品格滴り落ちるウクレレ・プレイも絶品だ。
 ヴォーグズの⑪「マイ・スペシャル・エンジェル」はこのアルバム中最もハワイらしいおおらかな雰囲気を持った曲で、ハーブ・オオタ・ジュニアの奏でるウクレレのサウンドを聴いていると “この曲はハワイの伝統的な民謡です!” と言われたら納得してしまいそうなぐらいハワイっぽい曲だ。サンディーも水を得た魚のように伸び伸びと歌っている。
 ケイシー・リンデンの⑫「悲しき16才」ではウクレレは完全に脇役に徹し、 “ヤヤヤ~ヤ ヤヤヤヤ♪” というリフレインが強烈なインパクトを残す。要所要所でサンディーの歌声がダブル・トラッキングで微妙にハモるところなんかもうゾクゾクする(≧▽≦) ロネッツの⑬「ビー・マイ・ベイビー」、ウォール・オブ・サウンドとは対極をなすシンプルな編成ながら、サンディー入魂のヴォーカルが聴く者の心を捉えて離さない。ホンマに見事な表現力だ。ジリオラ・チンクエッティの⑮「夢見る想い」も⑨同様、途中からイタリア語にスイッチするキラー・チューンで、彼女の優しく包み込むような声で “ノノレタァ~♪” と歌われた日にゃあ、もうどーにでもして!という気分になってくる。エンディングの “ウ~ナモ~レ ロマンティコ...” は何のこっちゃ分からんけど、それが又めっちゃカッコエエのよね~(^o^)丿 シンプルなウクレレの伴奏だけで淡々と歌い綴るジョニー・ソマーズの⑯「ワン・ボーイ」、まさに “シンプル・イズ・ベスト” を地で行く名唱だ。エンディングは波の音とともにフェイド・アウト... と思ったら再びフェイド・インってか。このヘルター・スケルターなアレンジ、ようやってくれるわ。

花のささやき

Kingdom Come

2009-08-07 | Hard Rock
 “クローン” と言う言葉はネガティヴなニュアンスを内包している。要するに“本物に似てはいるが、所詮はニセモノ” という否定的なイメージが常につきまとっているのだ。クローン牛しかり、クローン人間しかりである。今から約20年ほど前のこと、バイオテクノロジーの世界でではなく私の大好きなハードロックの世界で “クローン論争” が大いに盛り上がったことがあった。昨日取り上げたゲイリー・ムーアの「レッド・クローンズ」なんかはその最たるものだったが、要するにレッド・ゼッペリンそっくりのスタイル、音作りで大ヒットを飛ばした新人バンド、キングダム・カム(英語で “来世” という意味)が、アホな音楽評論家連中や心の狭いゼッペリン・ファン、そして同業者であるミュージシャンたちをも含めて、周りからボロクソにけなされ徹底的に叩かれ続けた一連の大論争(というかイジメに近いバッシング)のことである。私もFMの音楽番組で初めて彼らの曲「ゲット・イット・オン」を聴いた時はブッ飛んだ。 “これって「カシミール」やん...(゜o゜)” 確かにそのサウンドはゼッペリンのそれに酷似していたし、ヴォーカルのレニー・ウルフのハイトーン・ヴォイスはロバート・プラント唱法そのまんまだったが、何よりも強烈だったのは音楽そのものが放つ凄まじいまでのエネルギーで、この手の音が大好きな私は大コーフンしてCD屋へと走った。で、その時に買ったのが彼らのデビュー・アルバム「キングダム・カム」である。
 アルバムを通して聴いてみてまず思ったのは、 “ゼッペリンが再結成して本気出して作り上げた渾身のアルバム” と言えばそれでまかり通ってしまいそうなほどゼッペリンしてる、ってこと。特にレニー・ウルフは声質といい、歌い方といい、感情移入の仕方といい、往年のロバート・プラントそのものだし、バンドの音の組み立て方や空間の取り方も本家そっくりだ。しかしそのサウンドは決して単なるデッド・コピーではない。ゼッペリン的なブルース・ロックを一度完全に消化し、彼らのオリジナリティーをブレンドした上で、プロデューサーである巨匠ボブ・ロックが硬派なサウンド・プロダクションを施してガチガチに磨き上げた逸品なのだ。否定派のクリティック連中は二言目には “オリジナリティーが...” 云々と御託を並べるが、そんなものクソクラエだ。私は “つまらないオリジナル” よりも “素晴らしいクローン” を聴きたい。オリジナリティーがどーのこーのというのは素直に音楽を愉しめない眠たい連中のタワゴトにしか聞こえない。
 彼らを攻撃したミュージシャン連中だってそうだ。このアルバムは全米でプラチナ・ディスク、つまりミリオンセラーになる大成功を収めたのだが、それはすなわちこの音を渇望していたファンが全米だけで100万人以上いたということだろう。それだけのニーズがあるにもかかわらず誰も手を付けられなかったことを彼らが実践したにすぎない。勝手にゼッペリンを聖域視してやらなかったのか、それともゼッペリン・サウンドを再現するだけの能力がなかったのかは知らないが、とにかく彼らが売れたもんだから嫉妬しているようにしか思えない。みっともないねぇ、男のジェラシーは(笑)
 ということで私はこのアルバムが大好き(^o^)丿 もう何百回聴いたかわからないくらいだが、未だに飽きないどころか聴けば聴くほど好きになる。こんなアルバムは滅多にない。まずは①「リヴィング・アウト・オブ・タッチ」、イントロで骨太ドラムの一撃がビシバシきまるところでもう理性が吹っ飛んでしまうが、哀愁舞い散る泣きのメロディがたまらないキラー・チューンである。3分47秒からの「ホール・ロッタ・ラヴ」なリフは鳥肌モノだ。②「プッシン・ハード」、レニーのエモーショナルなヴォーカルが全開で、2分33秒からの “レッ・ザ・モモモモモモモゥメンツ...” にはゾクゾクする。クローンでも何でもエエもんはエエんじゃい!
 ③「ホワット・ラヴ・キャン・ビー」は「シンス・アイヴ・ビーン・ラヴィング・ユー」へのオマージュで、いきなり “クク、クッ、カム・トゥ・ミー・ナウ...” とレニーさん、完全にプラントが降臨してます(笑) 胸を締め付けられるようなブルージーなバラッドで、ヴォーカルもギターもため息が出るほど素晴らしいし、曲そのものの完成度も抜群に高い。この①②③の流れは完璧だと思う。
 ④「セヴンティーン」はドリフの「ヒゲダンス」のテンポを思い切り落として大仰なドラムの波状攻撃にさらし、ヘヴィーなリフを曲全体にまぶして一丁上がり、みたいな単調な曲展開で、ちょっと間延びする感じは否めない。⑤「シャッフル」は “どこかで聞いたような感じはするがそれが何か思い出せない” 系のメロディーが支配するノリの良い曲。2分32秒から大盤振る舞いされるレニーの追っかけコーラスが「移民の歌」してて思わずニヤリとしてしまう。
 ⑥「ゲット・イット・オン」、衝撃のファースト・シングルである。そう、このイントロ、このリフ、このシャウト、この絶妙な間、この爆裂ドラム... すべてが圧巻だ。私の知る限り最高最強のゼッペリン・オマージュで、死ぬまで聴き続けたい超愛聴曲だ。⑦「ナウ・フォーエヴァー・アフター」はこのアルバム中一番ゼッペリンに似てない曲(笑)で、キャッチーでノリの良いオーソドックスなハードロックに仕上がっている。⑧「ハイダウェイ」はこれまたヘヴィーなリフがカッコ良いナンバーで、ビシバシきまる打ち下ろしドラミングが快感だ。エイジアっぽいシンセを絶妙な隠し味に使っているあたりに彼らの恐るべき音楽的センスの一端が垣間見れる。
 ⑨「ラヴィング・ユー」は「ゼッペリンⅢ」で顕著だったブリティッシュ・トラッド・フレイバーたっぷりの1曲で、彼らのゼッペリン愛がダイレクトに伝わってきて嬉しくなってしまう。レニーのエモーショナルなヴォーカルの吸引力が強烈だ。⑩「シャウト・イット・アウト」は⑦同様あまりゼッペリンに似てない曲で、ストレートなハードロックと言う感じ。どちらもセカンド・アルバムの作風に似ているのでこれが彼らの素のサウンドなのかもしれない。
 あれから20年が経ち、 “クローン論争” も今や懐かしい思い出になってしまったが、私の中でこのアルバムは80'sハードロック名盤10選に必ず入れたいスーパーウルトラ愛聴盤として永遠の輝きを放っているのだ。

Kingdom Come - Get It on

After The War / Gary Moore

2009-08-06 | Hard Rock
 昨日は B'z の新曲にガツンとやられ、アドレナリン出まくりでコーフンしてしまい中々寝付けなかったのだが、久々やなぁこの血沸き肉踊る感じ...(^o^)丿 このブログは自分の音楽日記みたいなモンなのでちょっと最近のエントリーを見てみると B'z の前は、ザ・ピーナッツ、マントラ、麻丘めぐみ、ラバカン、デビッド・ボウイ、リー・ワイリー、ベイ・シティ・ローラーズ... と、もうムチャクチャ(笑)な選盤で何も考えずに手当たり次第聴いてるのがもろバレなのだが、そんな中にハードロックが入っていないことに気が付いた。やっぱり夏はハードロックを聴いて元気を出さねばならない。ということで何故か直感的に頭に浮かんだのがゲイリー・ムーアの「アフター・ザ・ウォー」、久々のブリティッシュ・ハードロックである。
 このゲイリー・ムーアというギタリストは北アイルランド出身で、地元のローカル・バンドでプレイしているところをフリートウッド・マック(当時はまだバリバリのブルース・ロック・バンドだった...)のピーター・グリーンに見い出されて70年代初めにイギリスへと渡り、コロシアムⅡやシン・リジィといったバンドに在籍して独創的な奏法を追求してきた人だ。彼の精神に宿るケルティック魂が土着的な旋律を掘り起こし、実に美しいメロディーのソロを連発してきたのだ。そしてそんな哀愁溢れるソロ(フェリー・エイドの「レット・イット・ビー」で聴けるゲイリー入魂のソロは鳥肌モノ!)と並ぶもう一つのウリが目にもとまらぬハイスピードで弾き切るマシンガン・ピッキングである。この2つが聴けさえすれば私は大満足なのだ。だからアルバムとしての統一感においてはこの前作「ワイルド・フロンティア」の方が遙かに優れていて世評も圧倒的に高いにもかかわらず、私はこの「アフター・ザ・ウォー」の方を愛聴している。
 ①「ダンルース・パート1」はわずか1分強のギター・インストで、 “戦闘開始宣言” のように響くソロだ。②「アフター・ザ・ウォー」は私の大のお気に入りナンバーで、何と言ってもまず楽曲としての出来が素晴らしい。この疾走感こそハードロックの醍醐味だ!!! ゲイリー・ムーアのムラなくハイスピードで弾き切るピッキングといい、アグレッシヴに切り込んでくるコージー・パウエルの重量級ドラミングといい、ハードロックのエッセンスを凝縮したようなカッコ良いナンバーだ (^o^)丿 ②のエンディングと間を置かずにいきなりラウドなイントロが炸裂する③「スピーク・フォー・ユアセルフ」、鬼神の如く弾きまくるマシンガン・ピッキングが凄まじいし、サビの哀愁の旋律にも涙ちょちょぎれる。このヘヴィーで切れ味抜群のリフはちょっと他では聞けない人間国宝級のワザだと思う。それにしても②③と続くこのテンションの高さは何なのだろう?④「リヴィン・オン・ドリームス」はゲイリーにしてはちょっと軽めでキャッチーな感じの曲で、②③との落差に???となるが、このあたりが “統一性に欠ける” と言われてしまうのだろうか?まぁアルバム中では箸休め的な1曲だと思う。
 ⑤「レッド・クローンズ」はタイトルからも分かるようにレッド・ゼッペリンそっくりのサウンドで当時アメリカで爆発的なアルバム・セールスを誇っていた2つのバンド、キングダム・カムとホワイトスネイクを露骨に皮肉った内容で、「カシミール」をベースにゼッペリンそのまんまのリフやストリングスを大量投下、キングダム・カムの「ゲット・イット・オン」(←イントロなんか笑えるほどソックリ!)やホワイトスネイクの「スティル・オブ・ザ・ナイト」を想わせるフレーズも随所に織り込まれているし、何よりも “You've stolen from the houses of the holy” や “You've rolled into the kingdom of the snake”(笑)といった歌詞がすべてを物語っている。まぁここまで徹底すると個人攻撃なのかジョークなのか分からなくなってくるが、こういうパロディ(?)は結構好きなので個人的には大いに楽しんで聴いている。この曲のみヴォーカルはゲストのオジー・オズボーンなのだが、ゲイリー、コージー、そしてオジーと実に豪華な取り合わせだ。コージーのドラミングは墓場からボンゾが蘇ってきたかのよう(4分17秒からの大爆発!)だし、オジーの見事なプラント唱法(2分44秒からの “ウゥ~♪” なんてもうモノマネ大賞をあげたいぐらい...)が聴けるだけでも貴重なナンバーだ。そーいえば昔ロック川柳で “オジーさん、年を取ったら お爺さん” というのがあって大笑いしたっけ(^.^)
 ロイ・ブキャナンの名曲カヴァー⑥「ザ・メシア・ウィル・カム・アゲイン」はブルースのインスト曲で、ゲイリーの泣きのチョーキングが思う存分堪能できるナンバーだ。ギターという楽器でここまでエモーショナルに泣きまくれるゲイリーのプレイは名人芸と呼ぶに相応しい。⑦「ラニング・フロム・ザ・ストーム」は②を裏返しにしたような雰囲気の曲で世間では全く黙殺されているが、私は結構好き。3分20秒からのギターソロは強烈無比のカッコ良さだ。⑧「ディス・シング・コールド・ラヴ」は「ライブ・ワイアー」の頃のモトリー・クルーみたいなアグレッシヴなナンバーだが、曲としてはやや弱いか。⑨「レディ・フォー・ラヴ」はリズムといい、バックのコーラスといい、アメリカンな雰囲気のロックンロールに仕上がっていて決して悪くはないが、何でこれをゲイリーがせなアカンの?というのが正直なところ。⑩「ブラッド・オブ・エメラルズ」は実質的にはアルバムのラストを飾る大作で、ゲイリーの熱きケルティック魂がビンビン伝わってくるドラマチックなナンバーだ。ゲイリーはこのアルバムを最後にハードロックからブルースへと大きく方向転換してしまうので、後から振り返って考えればアイリッシュ・メロディー横溢のこの曲でハードロック・シーンへの別れを告げているように思えてならない。
 これ以降の彼のアルバムは持っていないが、私としては泣きのソロとマシンガン・ピッキングが十分に堪能できるこのアルバムのゲイリーが聴ければそれでいいのだ。

Gary Moore - After the war

イチブトゼンブ・DIVE / B'z

2009-08-05 | B'z
 今日仕事から帰るとアマゾンで予約しておいた B'z の新曲「イチブトゼンブ / DIVE」が届いていた。暑さ負けでグッタリして帰ってきても、ヤフオクやアマゾンのブツが届いていると疲れも一気に吹き飛ぶ(^.^) ましてやそれが待ちに待ったB'zの新曲であればなおさらである。黄色いパッケージがいかにも夏らしい。6月にプロモーション用として期間限定で YouTube でワン・コーラス1分10秒だけ聞けてた時は音声をCD-RWに落としてリピート再生していた(笑)ので「DIVE」の1コーラス目だけは耳に穴があくほど聴きまくったが、その後、両A面のもう1曲のタイトルが「イチブトゼンブ」と判明し、月9の何とかいうドラマの主題歌になったということで世間では結構盛り上がっていたらしいが、あの手のドラマは見る気がしないのでアマゾンで予約した後はひたすら発売日を指折り数えながら待ち続けた。発売日の2週間も前から YouTube でフル試聴可能な PV も、逆に発売日へのワクワク感も何もあったもんじゃないので出来るだけ見ないように我慢していた。本当は明日が発売日なのだが、アマゾンでフラゲ出来てうれしーなったらうれしーな(^o^)丿 いよいよ B'z の1年4ヶ月ぶりのシングルを大音響で聴けるのだ。確かに去年は20周年ということでベスト盤やら特番やらDVDやらで盛り上がったが、やはり新曲が聴ける嬉しさは格別で胸が高鳴る。
 ①「イチブトゼンブ」、6月の時点では “スローなバラッドか、それともポップなミディアム調か...” と予想していたが、ズバリ後者だった。まずは何ちゅーてもイントロがエエなぁ... この歌心溢れるギター、松本さん絶好調やね(^.^) 稲葉さんのヴォーカルは相変わらず凛としてカッコイイ!特に一人追っかけコーラス(?)のパートなんかもう鳥肌モノだ。曲全体の印象としてはハードな要素をある程度封印して B'z ファン以外にもアピールするような作りになっているが、そこはそれ、稲葉さんらしい詞に松本さんらしいメロディーで、ハードなロックからポップなドラマ主題歌までこなしてしまうB'z の懐の深さが実感できる。聴けば聴くほどその良さがジワジワと染み渡ってくるような1曲だ。
 ②「DIVE」はくぐもった様なサウンド処理されたヴォーカルから入っていきなりラウドなギターが炸裂する。やっぱりアップテンポでハードに迫るB'z が最高やねぇ(^o^)丿 6月の時にも書いたように、 “「ウォーク・ドント・ラン」なギター・リフに「ビッグ・マシーン」的なハードロック処理を施し、それで「ステイ・グリーン」を包んでじっくり焼き上げ、仕上げにライブを意識して「BANZAI」の打ち上げ花火的なフレイヴァーをたっぷり効かせて出来上がり、という感じの曲” である。その心地良い疾走感といい、圧倒的なテンションの高さといい、 ロックな衝動に溢れためっちゃカッコ良いナンバーだ。 “こんなんじゃいやだもん” というフレーズを高速でここまでカッコ良く響かせるヴォーカリストは稲葉さんをおいて他にいないだろう。とにかくハードでありながらメロディアスにロックするという80年代アメリカン・ハードロックのエッセンスを消化し、ものの見事に自分たちのサウンドへと昇華させているところが凄い。松本さんの縦横無尽なギターが唸り、稲葉さんの “ラララララ~♪” 波状攻撃が炸裂、まさに “夏だ!B'zだ!サマー・フェスだ!” という感じの、ライブで最高に盛り上がれるキラー・チューンだ。
 ③「National Holiday」、いかにも松本さんなギターのイントロに続いて出てくる歌詞 “だらだら過ごしたら あっと言う間 昼過ぎ スケジュールはガラ空き 今日は国民の休日” って、一日中音楽ばっかり聴いてて出不精の自分のことを言われてるのかと思った(笑) 要するにB'z版 “書を捨て街へ出よう!” みたいないわゆるひとつの “お出かけソング” なのだが、何気ない平凡な日常が実に上手く描写されており、稲葉さんの表現力というか、言葉を操る才能には脱帽だ。それにしても“ラランラランラランララン~♪” って、この盤には “ラララ” がやたらと多用されているが、稲葉さん、よっぽど気分が良かったのかな??? そんな楽しい歌詞が “愛まま” 系のライトでポップな感じの曲想とピッタリ合っててとっても軽やかな曲に仕上がっている。①②③とこれだけヴァラエティーに富んでいながらその全てが傑作と言うのだからB'zは凄い。1年半近く待った甲斐があったというものだ。
 このCDシングル、3曲10分44秒をもう何回リピートしたかワカランけど、何かめっちゃ元気出てきたぞー(^o^)丿 やっぱり B'z は最高の活力源やね。よっしゃー、明日から頑張ろ... ♪ラララララァ~ 未来へと DIVE!!!

DIVE / B'z
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フィーリン・グッド ~ピーナッツの新しい世界~

2009-08-04 | 昭和歌謡
 昨日に続いて今日もバカラックでいこう。いわゆるバカラック集といえばディオンヌ・ワーウィックが有名だが、私が愛聴しているのはザ・ピーナッツが1970年に出した「フィーリン・グッド ~ピーナッツの新しい世界~」というアルバムである。このアルバムは厳密に言うとLPのA面にあたる6曲が “バート・バカラックとザ・ピーナッツ” と題された文字通りのバカラック集で、B面は “ニュー・ボッサとザ・ピーナッツ” ということでファンキー・ジャズの定番「モーニン」からビートルズ曲に至るまで、様々なジャンルの曲がボッサ化されている。
 私がこのアルバムを好きなのは一にも二にもアレンジの面白さである。全11曲中クニ河内氏が6曲、宮川先生が5曲の編曲を担当されており、まるで二人で張り合っているかのように斬新なアレンジがポンポン飛び出してきて実にスリリングなのだ。そもそもアレンジというのはフランス料理のソースみたいなもので、食材(=楽曲)の旨さをいかに最大限に引き出すかが勝負のポイントである。どんなに素晴らしいソースでも食材そのもの、すなわち楽曲がつまらなければ決して美味しい料理にはならない。その点バカラックやビートルズなら最高級の食材(?)といえるのでシェフ2人も腕のふるい甲斐があるというものだろう。どちらかというとクニ河内氏の方が斬新かつユニークな発想で切り込み、宮川先生が王道を行くアレンジでガッチリと受けて立つというような構図だが、そう単純に割り切れるようなものでもない。宮川先生は何と言っても「恋のフーガ」でいきなりティンパニをドドド~ン!と鳴らしてしまうような人である。そんな2人が腕を競い合っているのだ。しかも歌っているのはザ・ピーナッツ、これで傑作が生まれないワケがない。
 まずは①「恋よさようなら」の冒頭でいきなりカッ、カッ、カッ、チーン♪とメトロノームのメカニカルな音が響き渡る。宮川先生のアレンジなのだが、この発想は凄いとしか言いようがない。ピーナッツのヴォーカルも完全にバックの演奏に溶け込んで一体化しており、それまでのピーナッツとはまったく異次元の、まさにアルバム・タイトルにあるように New Dimension (新しい次元)のサウンドだ。
 ②「雨にぬれても」、③「愛を求めて」と今度はクニ河内氏のアレンジで、②のジャクソン5なイントロから入ってカーペンターズなサウンドへと帰着する発想といい、③におけるストリングスの使い方といい、様々なアイデアを大量投下しながらも原曲の持ち味を巧く引き出しているところが凄い。アレンジャーが変わってもピーナッツのヴォーカルは実に自然な形でサウンド化(?)されており、そのことがこのアルバムに見事な統一感をもたらしている。
 ④「恋のおもかげ」は再び宮川先生のアレンジで、隠し味も含めて大量のスパイス、つまり楽器を投入、それらがピーナッツの歌声と音楽的、有機的に結びつき、一体となって響く快感は筆舌に尽くし難いものがある。
 ⑤「ディス・ガール」はもう絵に描いたような名曲なのだが、ここでは普通に歌うだけでは芸がない(?)とばかりクニ河内氏がスリリングなアレンジを施してバカラックな美メロが横溢するこの曲に強烈なメリハリをつけている。特に凄いのがエルビン・ジョーンズみたいなブラッシュの乱れ打ちで、このバラけた感じが非常に高いテンションを生み出しており、このアルバム中でも屈指の名演になっている。
 ⑥「小さな願い」はCDの表記は “編曲:クニ河内” となっているが、各楽器の使い方etc どう考えても宮川先生っぽいアレンジに聞こえるのだが真相はどうなのだろう?それにしても実に洗練されたカッコイイ歌と演奏で、もろ昭和歌謡からカヴァー・ポップス、そしてこのような斬新なバカラック集までこなしてしまうピーナッツの懐の深さを改めて痛感させられる。
 さて、ここから後はニュー・ボッサ・サイドである。アート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの代名詞とも言うべき⑦「モーニン」は宮川先生が当時ハマっておられたセルジオ・メンデスの影響を上手く消化してめっちゃクールなボッサに昇華されている。それにしてもあのピーナッツが「モーニン」とは...
 デヴィッド・トーマスの⑧「スピニング・ホイール」はボッサはボッサでもフレンチ・ボッサ、ちょうど例のイザベル・オーブレ盤のようなサバービアな薫りが立ち込める洒落たアレンジだ。時折右チャンネルから聞こえてくる三味線とか、ちょっとやり過ぎの感もあるが、クニ河内氏の鬼才が存分に発揮されたトラックだと思う。
 負けじとアップテンポのギター弾き語りみたいなアンビリーバボーなイントロから始まる⑨「ミッシェル」、宮川先生お得意の物量作戦で大量の楽器とコーラスを投入、それでいて全然うるさくないという匠のワザが堪能できる。続く⑩「アンド・アイ・ラヴ・ヒム」はクニ河内氏がアレンジを担当、⑤と同様にバラけたブラッシュとベースがインパクト大だがそれ以上に凄いのが木琴とトライアングルの絶妙な使い方で、この細部まで徹底的に凝りまくったサウンドはとても1970年の歌謡曲のアルバムとは信じがたいマニアックなものだ。⑨⑩共に是非ともポールに聴かせたい素晴らしいトラックだと思う。
 ラストの⑪「祈り組曲」はセルメン・サウンドを下敷きにして「祈り」~「コンスタント・レイン」~「君に夢中」~「イパネマの少年」といった珠玉の名曲たちがメドレー形式で歌われており、宮川先生の遊び心溢れるアレンジは “これでどうよ、音楽って楽しいでしょ!” とばかりに圧倒的な疾走感で迫ってくる。まさに完璧なエンディングと言えるだろう。
 このようにザ・ピーナッツの中では異色とも言えるこのアルバム、純粋にバカラック集として聴くもよし、洗練された邦楽ポップスとして聴くもよし、とにかく聴くたびに新発見がありそうで楽しみが尽きない1枚だ。

恋よさようなら

クロース・トゥ・ユー ~遥かなる影~ / ケイト・ザ・キャット

2009-08-03 | Cover Songs
 バート・バカラックという人はコンテンポラリーなソングライターにしては珍しく格調高い曲を書く。彼の曲は、チャートを急上昇してピークを極めたと思ったらすぐに急降下していくような一過性音楽ではなく、何度も耳にしているうちに感動がジワジワと押し寄せるような長~くつきあえる持続性音楽である。しかしだからといって一聴して分かりにくいということは決してない。むしろその逆で、「雨にぬれても」や「恋よさようなら」といったバカラック・クラシックスから「アーサーのテーマ」(クリストファー・クロス)や「愛のハーモニー」(ディオンヌ&フレンズ)といった80年代の作品に至るまで、彼の書くメロディーは覚えやすく、親しみやすい。その品格滴り落ちるメロディアスな作風はまるでジェローム・カーンやリチャード・ロジャースといったティン・パン・アレイ時代の名作曲家たちが書いたスタンダード・ソングを思い起こさせるものだ。
 そんなバカラック曲の中で私が一番好きなのがこの「クロース・トゥ・ユー~遙かなる影~」である。初めて聴いたのはもちろんカーペンターズのヴァージョンで、世界最高の女性シンガー、カレン・カーペンターが曲の魅力を120%引き出しており、屈指の名曲名唱として私の心に刻みつけられた。それ以降、この曲のカヴァーをチェックするようになったが、あれほどの決定的名唱を残されるとカヴァーする方はツライ。カレンの歌声と比較すれば他のヴォーカル・ヴァージョンは瞬時にして砕け散るが、今日は敢えてカレンやダスティ以外の、世界各国のちょっと変わったカヴァーをご紹介。題して “玉砕覚悟のインターナショナル・クロース・トゥ・ユー” 大会です!!!

①Kate The Cat
 ケイト・ザ・キャットは正体不明のドイツ人シンガー。彼女の2枚組CD「ラヴ」にはこの曲が2ヴァージョン(しっとり系の“ラウンジポップ”とオラオラ系の“ラテン・ジャズ”)入っておりどちらもごっつうエエ感じなのだが、そのハジケっぷりからここでは後者をオススメ。ちょっと他所では聴けないオルガンバー・サバービアな “遙影” をどうぞ。
ケイト・ザ・キャット


②Cranberries
 クランベリーズはアコースティック・ポップを得意とするアイルランドの紅一点ロック・バンドで、このヴァージョンはインディーズ系バンドによるカーペンターズへのトリビュート企画アルバム「イフ・アイ・ワー・ア・カーペンター」に収録されたもの。このアンニュイな雰囲気横溢の何ともいえない気だるさがたまらない(≧▽≦)
The Cranberries - (They Long To Be) Close To You


③Claudine Longet
 フランスからは激甘ささやき系女性ヴォーカルの元祖であるクロディーヌ・ロンジェがエントリー。別にカマトトぶってるんじゃなく元々こういう歌い方の人なのだが、まるでハチミツの中を泳いでいる様な気分にさせられる甘~い歌声はその筋の(どんな筋や?)ファンには堪えられない。CD1枚通して聴くとフニャフニャの抜け殻になっちゃいます(笑)
Claudine Longet - They Long To Be (Close To You)


④Birgit Lystager
 以前このブログで取り上げたこともあるデンマークの歌姫ビアギッテ・ルゥストゥエア。その可憐で伸びやかな歌声は女性ヴォーカル好きにはたまらない魅力なのだが、ここでは何とデンマーク語(NAER VED DIG)で歌っている。英語以外で聴く「クロース・トゥ・ユー」って結構レアじゃないッスか?
ビアギッテ・ルゥストゥエア


⑤Pacifists
 これは敬慕か冒涜か... 屋敷豪太がイギリスで活躍するミュージシャンを集めて作ったパシフィスツはカーペンターズの珠玉の名曲群をレゲエ・ヴァージョンでカヴァー。最初は“おっ、面白そうや!”と思ったけれど、リズムが単調なのですぐに飽きてしまった。正直、レゲエは何を聴いても同じに聞こえてしまう(>_<) ただ、ヴォーカルのシャローナ・ホワイトは中々エエ声してて掘り出し物やと思うけど...
パシフィスツ 遥かなる影

The Best Of Manhattan Transfer

2009-08-02 | Jazz Vocal
 熱狂的にハマって四六時中聴いているというわけではないけれど、たまに取り出して聴いてみると “やっぱりエエなぁ...(^.^)” と思わせるアーティストがいる。マンハッタン・トランスファーは私にとってちょうどそんな存在である。つい最近も彼らの83年の「マン・トラ~ライブ・イン・トキョー~」をBGMに仕事をしていていつの間にかその歌声に耳が吸い付き、まったく仕事にならなかった(>_<) 
 彼らは1975年にレコード・デビューし、1920年代から現代に至るまでのアメリカの音楽をコンテンポラリーな感性で捉え、ノスタルジーを巧くブレンドしながら自分たちのスタイルを確立してきたコーラス・グループだ。私が彼らを初めて知ったのは81年のことで、アド・リブスをカヴァーした「ボーイ・フロム・ニューヨーク・シティ」がポインター・シスターズやエア・サプライ、リック・スプリングフィールドらのヒット曲に混じって全米シングル・チャートで7位にまで上昇するという、ジャズ・コーラス・グループとしては画期的な大成功を収めていた頃である。ちょうど来日していた彼らが小林克也さんの「ベスト・ヒット USA」に出演したのを見たのだが、その時にスタジオで披露した「バークレー・スクエアのナイチンゲール」での美しいコーラス・ハーモニーがインパクト絶大で、私はそれ以降彼らに注目するようになった。
 その翌年、今度はボビー・トゥループ作の名スタンダード「ルート66」を斬新なアレンジでリバイバル・ヒットさせ、又々その卓越したコーラス・ワークに魅せられた私はオリジナル・アルバムに未収録(バート・レイノルズ主演のアクション映画「シャーキーズ・マシーン」のサントラ用に特別にレコーディングされたらしい...)だったこの曲のシングル盤を買いにレコード屋へと直行、そこでシングル盤と一緒にアルバムのコーナーも覗いて見つけたのがこの「ザ・ベスト・オブ・マンハッタン・トランスファー」で、前述の「ボーイ・フロム・NYC」や「バークレー・スクエア...」も入っていて良さそうだったので一緒に購入した。いわゆる衝動買いである。
 私はこのアルバムを一聴してその抜群のハーモニーと歌唱力の素晴らしさに圧倒された。いきなりライブの歓声で始まる①「タキシード・ジャンクション」はグレン・ミラー・オーケストラの演奏で有名なナンバーで、彼らはハイ・センスな華やかさ溢れる実に粋なヴァージョンに仕上げている。わずか3分のトラックだがつかみはOKだ(^o^)丿
 ジャニス・シーゲルの伸びやかで弾むような歌声がたまらない②「ボーイ・フロム・NYC」ではジャズとポップスの境界線をいとも簡単に超えてみせる。彼らにジャンルの壁は通用しない。ドゥー・ワップ・スタイルで軽快なノリが何とも言えず楽しいこの曲、全米大ヒットも頷けるキャッチーなナンバーで、この曲を聴いて心がウキウキしてこないようなら私はその人の感性を疑ってしまう。
 ③「トワイライト・ゾーン」、多分彼らの名前を聞いたことのない人でも近未来を予想させるようなこの曲のイントロはどこかで耳にしたことがあるのではないか?ゾクゾクするほどカッコ良いメロディーに高度なハーモニー、そして弾むようなバックの演奏と、3拍子揃ったキラー・チューンだ。
 ④「ボディ・アンド・ソウル」は有名スタンダードなのだが曲自体が地味であんまり好きじゃないのでサッと流し、リー・モーガンの代名詞とでもいうべき⑤「キャンディ」へ。ややスロー・テンポで実にノスタルジックな味わいのリラクセイション溢れる懐古調アレンジだ。このように彼らのアルバムはヴァラエティー豊かなので飽きがこない。⑥「フォー・ブラザーズ」はウディー・ハーマン楽団のヒット曲でアニタ・オデイやキング・シスターズのカヴァーでもお馴染みだが、4人のメンバー達がそれぞれ個性を発揮してノリノリの快唱を聴かせてくれる。
 ⑦「バードランド」はウェザー・リポートの曲で、フュージョン・バリバリの原曲は趣味ではないが、一旦マントラの手にかかるとその見事なテクニックとアレンジで曲の良さが活きてくる。まるで音の魔術師のようだ。これをマントラのオリジナルだと思っている人も多いと思うのだが、カヴァーがオリジナルを喰ってしまった典型的な例かもしれない。⑧「グロリア」は50'sドゥー・ワップそのものの歌とコーラスで、いかにもアメリカン・グラフィティな作りになっている。これは⑩「オペレイター」にも言えることで、共に1st アルバムに入っていたことを考えるとデビュー当初はこういう路線を考えていたのかもしれない。
 ⑨「トリックル・トリックル」は私がこのアルバム中最も好きなナンバーで、ロックンロールの気分でジャジーにコーラスしてみましたといった感じがたまらない(≧▽≦)  その疾走感溢れる痛快なコーラス・ハーモニーは圧巻だ。一転してスローで迫るインク・スポッツのカヴァー⑪「ジャヴァ・ジャイヴ」、何とまぁ粋な歌声だろう!その都会的なセンス溢れる洗練されたコーラス・ワークは唯一無比で、私はこの落ち着いた「ジャヴァ・ジャイヴ」を聴く静かな時間を大事にしたいと思う。ラストの⑫「バークレー・スクエアのナイチンゲール」は彼らの本領発揮といえるアカペラで、この世のものとは思えないような美しいコーラス・ハーモニーが絶品だ。現在もなおトップ・コーラス・グループとして第一線で活躍中の彼ら、流行とは関係なしにこれからも末長く愛聴していきたいグループだ。

Manhattan Transfer Boy From New York City
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