毎年お盆の時期になるとテレビでは終戦記念日ということで第2次大戦がどーのこーのとか、首相が靖国参拝をするとかせんとか、相変わらずな話題がよく取り上げられるが、私は日本の歴史にも政治にも何の関心もないのでハッキリ言ってどーでもいい。お盆を迎えるにあたって私の頭に浮かぶのはキング・オブ・ロックンロールこと、エルヴィス・プレスリーなのだ。
今日8月16日はエルヴィスの命日である。彼が42才の若さで亡くなってかれこれ32年の月日が流れたわけだが、私がまだ人並みにテレビやラジオを見たり聞いたりしていた1980年代には、8月半ばを迎えるとFMでプレスリー特集が組まれたりBSで彼の映画が放映されたりで、根が単純な私はいつの間にか “お盆=プレスリー” という刷り込みがなされていった。ちょうど土用の丑の日と聞くとウナギを食べたくなるようなものかもしれない。
私は当初エルヴィスに関して “50年代のパワフルなロックンロールの数々は凄かったが60年代に入ると毒にも薬にもならん映画出演にうつつをぬかして失速していった人” という認識を持っていた。実際、56~57年にかけては「ハートブレイク・ホテル」、「ハウンド・ドッグ」、「冷たくしないで」、「ラヴ・ミー・テンダー」、「オール・シュック・アップ」、「監獄ロック」と、まさに怒涛のような名曲名演ラッシュだったものが、それ以降の楽曲レベルのパワーダウンは否めず、真の名曲名演と呼べるのは「イッツ・ナウ・オア・ネヴァー」や「好きにならずにいられない」ぐらいではないだろうか?個人的にはポールのカンボジア難民救済コンサートでロバート・プラントがカヴァーしていた「リトル・シスター」(61年)なんかはかなりの名曲だと思うのだが、それすらチャートでは5位になるのがやっとだった。だから “ロッカーとしてのエルヴィスは50年代で終わった” と思っていたのだ。
そんな私の目からウロコを落としたのは「エルヴィス・オン・ステージ」(原題:Elvis - That’s The Way It Is)というコンサート・フィルムだった。そこで見たのは白いジャンプ・スーツに身を包み、派手なアクションでロックンロールからゴスペル・ブルース、ロッカ・バラッドに至るまで、縦横無尽に歌いまくるエルヴィスの雄姿だった。確かにそこで聴けるのは相も変わらずの「ハウンド・ドッグ」であり「ハートブレイク・ホテル」である。しかしそれがどーしたソーホワット、これがオレの音楽なんだという強い説得力がウムを言わせず堂々と迫ってくるのである。その熱気、勢いにはもうひれ伏すしかない。大きな衝撃を受けた私はすぐにCDカタログ(当時はまだCDが普及し始めたばかりでレコ屋に置いてある分厚いカタログだけが頼りだった...)を調べ、ラスベガス・インターナショナル・ホテルでのライブ盤が Vol. 1 から Vol. 3 まで出ていることを突き止めた。曲目を見ると私の好きな曲が Vol. 3 に集中していたので早速購入。それがこの「エルヴィス・イン・パーソン(邦題はエルヴィス・オン・ステージ Vol. 3)」である。尚、後でわかったことだが3枚ともこの映画とは違うライブ音源で、Vol. 1 は70年8月の、Vol. 2 は70年2月の、そしてVol. 3 は69年7月のラスベガス公演のものだった。
オリジナルのカール・パーキンス盤よりもエルヴィス盤のインパクトの方が強烈だった①「ブルー・スウェード・シューズ」は彼の十八番で、ここでも9年ぶりのライブ・パフォーマンスとは思えないような素晴らしい歌声を聴かせてくれる。1分40秒で炸裂する「ベイベッ!!!」は言葉を失うカッコ良さだ。②「ジョニー・B・グッド」ではさらにテンポを上げて疾走感溢れるロックンロールを炸裂させる。このプリミティヴなパワー、この凄まじいまでのエネルギーの奔流は “過去の人” どころか現役感バリバリだ。③「オール・シュック・アップ」はオリジナルではミディアム・テンポだったものを思いっ切り高速化、12年後の再演でただでさえ素晴らしかったオリジナルを凌駕してしまうというとんでもない1曲だ。
スローな④「今夜はひとりかい」で一旦クール・ダウンした後、火の出るようなシャウトから始まる⑤「ハウンド・ドッグ」で再加速、初レコーディングから13年経ってなおこの破壊力だ。彼こそまさにロックンロールを歌うために生まれてきた男なのだと改めて実感させられた。⑥「愛さずにはいられない」、このレイ・チャールズ色の濃いナンバーをラクラクと自分の色に染め上げてしまうエルヴィスのヴォーカリストとしての懐の深さには脱帽だ。⑦「マイ・ベイブ」でもソウルフルなヴォーカルを披露し、キング健在を満天下に知らしめる。⑧「ミステリー・トレイン~タイガー・マン」のメドレーはメジャー・デビュー前のサン・レコード時代を彷彿とさせるようなカントリー調のロカビリーだ。この手の曲を歌わせたらエルヴィスの右に出るものはいないだろう。
箸休め的なバラッド⑨「ワーズ」に続く⑩「イン・ザ・ゲットー」は、シカゴのゲットーに生まれた少年が貧困から犯罪に走りやがて逃げ疲れて自殺するまでの短い生涯を歌った歌詞が感動的で、エルヴィスの後半の盛り上げ方も圧巻だ。この曲は69年にエルヴィス久々の大ヒット(全米3位)を記録した “キング・エルヴィス・イズ・バック” 的なナンバーで、ちょうどこのライブが行われた7月時点では最新のヒットだったせいか、拍手も一段と大きい。
“発売されたばかりの新曲です。気に入っていただければいいのですが...” というMCから始まる⑪「サスピシャス・マインド」はこのライブが行われた3ヶ月後にエルヴィスにとって8年ぶりの、そして最後の全米№1ヒットになるのだが、ここでは⑩で完全復活を遂げたエルヴィスが約7分にわたる熱唱を聴かせてくれる。⑩⑪と客席の興奮がピークに達したところでラストの⑫「好きにならずにいられない」、エルヴィス本人のスタジオ・テイクも含めてこの曲の様々なヴァージョンを聴いてきたが、誰が何と言おうとダントツに素晴しいヴァージョンがコレだ。映画では確か曲のエンディングで客席が映るのだが、ステージ上で両手を大きく広げて歌うエルヴィスに対する万雷の拍手喝采、スタンディング・オべージョンの嵐が今でも瞼の裏に焼きついている。それにしても何と感動的な歌声だろう。エルヴィスがエンタテイナーとして優れていただけでなく、素晴らしい声質、底知れない声量、そして抜群の歌唱力に恵まれた天性のヴォーカリストであったことがよくわかる。
エルヴィスはこの後も「アロハ・フロム・ハワイ・ヴィア・サテライト」の制作etc 順調に活動していくのだが、カムバックの一つのキッカケになったのがこのアルバムであり、かつての私のように50年代のエルヴィスしか知らない人に超オススメの逸品だ。
Elvis Presley - I can't help falling in love with you - live 1970
Elvis Presley - Suspicious Minds
今日8月16日はエルヴィスの命日である。彼が42才の若さで亡くなってかれこれ32年の月日が流れたわけだが、私がまだ人並みにテレビやラジオを見たり聞いたりしていた1980年代には、8月半ばを迎えるとFMでプレスリー特集が組まれたりBSで彼の映画が放映されたりで、根が単純な私はいつの間にか “お盆=プレスリー” という刷り込みがなされていった。ちょうど土用の丑の日と聞くとウナギを食べたくなるようなものかもしれない。
私は当初エルヴィスに関して “50年代のパワフルなロックンロールの数々は凄かったが60年代に入ると毒にも薬にもならん映画出演にうつつをぬかして失速していった人” という認識を持っていた。実際、56~57年にかけては「ハートブレイク・ホテル」、「ハウンド・ドッグ」、「冷たくしないで」、「ラヴ・ミー・テンダー」、「オール・シュック・アップ」、「監獄ロック」と、まさに怒涛のような名曲名演ラッシュだったものが、それ以降の楽曲レベルのパワーダウンは否めず、真の名曲名演と呼べるのは「イッツ・ナウ・オア・ネヴァー」や「好きにならずにいられない」ぐらいではないだろうか?個人的にはポールのカンボジア難民救済コンサートでロバート・プラントがカヴァーしていた「リトル・シスター」(61年)なんかはかなりの名曲だと思うのだが、それすらチャートでは5位になるのがやっとだった。だから “ロッカーとしてのエルヴィスは50年代で終わった” と思っていたのだ。
そんな私の目からウロコを落としたのは「エルヴィス・オン・ステージ」(原題:Elvis - That’s The Way It Is)というコンサート・フィルムだった。そこで見たのは白いジャンプ・スーツに身を包み、派手なアクションでロックンロールからゴスペル・ブルース、ロッカ・バラッドに至るまで、縦横無尽に歌いまくるエルヴィスの雄姿だった。確かにそこで聴けるのは相も変わらずの「ハウンド・ドッグ」であり「ハートブレイク・ホテル」である。しかしそれがどーしたソーホワット、これがオレの音楽なんだという強い説得力がウムを言わせず堂々と迫ってくるのである。その熱気、勢いにはもうひれ伏すしかない。大きな衝撃を受けた私はすぐにCDカタログ(当時はまだCDが普及し始めたばかりでレコ屋に置いてある分厚いカタログだけが頼りだった...)を調べ、ラスベガス・インターナショナル・ホテルでのライブ盤が Vol. 1 から Vol. 3 まで出ていることを突き止めた。曲目を見ると私の好きな曲が Vol. 3 に集中していたので早速購入。それがこの「エルヴィス・イン・パーソン(邦題はエルヴィス・オン・ステージ Vol. 3)」である。尚、後でわかったことだが3枚ともこの映画とは違うライブ音源で、Vol. 1 は70年8月の、Vol. 2 は70年2月の、そしてVol. 3 は69年7月のラスベガス公演のものだった。
オリジナルのカール・パーキンス盤よりもエルヴィス盤のインパクトの方が強烈だった①「ブルー・スウェード・シューズ」は彼の十八番で、ここでも9年ぶりのライブ・パフォーマンスとは思えないような素晴らしい歌声を聴かせてくれる。1分40秒で炸裂する「ベイベッ!!!」は言葉を失うカッコ良さだ。②「ジョニー・B・グッド」ではさらにテンポを上げて疾走感溢れるロックンロールを炸裂させる。このプリミティヴなパワー、この凄まじいまでのエネルギーの奔流は “過去の人” どころか現役感バリバリだ。③「オール・シュック・アップ」はオリジナルではミディアム・テンポだったものを思いっ切り高速化、12年後の再演でただでさえ素晴らしかったオリジナルを凌駕してしまうというとんでもない1曲だ。
スローな④「今夜はひとりかい」で一旦クール・ダウンした後、火の出るようなシャウトから始まる⑤「ハウンド・ドッグ」で再加速、初レコーディングから13年経ってなおこの破壊力だ。彼こそまさにロックンロールを歌うために生まれてきた男なのだと改めて実感させられた。⑥「愛さずにはいられない」、このレイ・チャールズ色の濃いナンバーをラクラクと自分の色に染め上げてしまうエルヴィスのヴォーカリストとしての懐の深さには脱帽だ。⑦「マイ・ベイブ」でもソウルフルなヴォーカルを披露し、キング健在を満天下に知らしめる。⑧「ミステリー・トレイン~タイガー・マン」のメドレーはメジャー・デビュー前のサン・レコード時代を彷彿とさせるようなカントリー調のロカビリーだ。この手の曲を歌わせたらエルヴィスの右に出るものはいないだろう。
箸休め的なバラッド⑨「ワーズ」に続く⑩「イン・ザ・ゲットー」は、シカゴのゲットーに生まれた少年が貧困から犯罪に走りやがて逃げ疲れて自殺するまでの短い生涯を歌った歌詞が感動的で、エルヴィスの後半の盛り上げ方も圧巻だ。この曲は69年にエルヴィス久々の大ヒット(全米3位)を記録した “キング・エルヴィス・イズ・バック” 的なナンバーで、ちょうどこのライブが行われた7月時点では最新のヒットだったせいか、拍手も一段と大きい。
“発売されたばかりの新曲です。気に入っていただければいいのですが...” というMCから始まる⑪「サスピシャス・マインド」はこのライブが行われた3ヶ月後にエルヴィスにとって8年ぶりの、そして最後の全米№1ヒットになるのだが、ここでは⑩で完全復活を遂げたエルヴィスが約7分にわたる熱唱を聴かせてくれる。⑩⑪と客席の興奮がピークに達したところでラストの⑫「好きにならずにいられない」、エルヴィス本人のスタジオ・テイクも含めてこの曲の様々なヴァージョンを聴いてきたが、誰が何と言おうとダントツに素晴しいヴァージョンがコレだ。映画では確か曲のエンディングで客席が映るのだが、ステージ上で両手を大きく広げて歌うエルヴィスに対する万雷の拍手喝采、スタンディング・オべージョンの嵐が今でも瞼の裏に焼きついている。それにしても何と感動的な歌声だろう。エルヴィスがエンタテイナーとして優れていただけでなく、素晴らしい声質、底知れない声量、そして抜群の歌唱力に恵まれた天性のヴォーカリストであったことがよくわかる。
エルヴィスはこの後も「アロハ・フロム・ハワイ・ヴィア・サテライト」の制作etc 順調に活動していくのだが、カムバックの一つのキッカケになったのがこのアルバムであり、かつての私のように50年代のエルヴィスしか知らない人に超オススメの逸品だ。
Elvis Presley - I can't help falling in love with you - live 1970
Elvis Presley - Suspicious Minds