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shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

AI Cover で聴くビートルズ・ソロ・ナンバー

2025-03-09 | The Beatles

 先週だったか、吉本ばななの名を騙って生成AIで作ったフェイク作品がアマゾンの電子書籍で販売されたという詐欺事件がニュースになっていた。そもそも電子書籍などというわけのわからんもんとは無縁の私には対岸の火事のようなものだったが、よくよく考えてみると音楽の世界でも十分にありえることなので、自分には全く無関係な事件と切って捨てるわけにもいかない。実際、YouTube上ではビートルズを素材とした “AI カバー” が我が物顔で跋扈しており注意が必要だ。
 ただ、何でもかんでもAIが悪いというのではなく、その出自をはっきりさせたうえで “よくできたフェイク作品” と割り切って楽しむ分には(権利関係とか難しい話は横に置いといて)何の問題もないのではないか。例えるなら優秀なカバー・バンドみたいなモンで、 “本物とは違う土俵でやっますよ” と明言してくれればファンとしても楽しみが増えて大歓迎だ。
 で、その “AI カバー” だが、本家ビートルズの作品に関してはハッキリ言ってイマイチ。私が注目したのはメンバーのソロ曲で、“もしもジョンがポールの、あるいはポールがジョンの曲に参加していたら、一体どんな感じになっていただろう?” という、いわゆるひとつの “What if” 系の作品だ。今日はそれらの中からいくつか傾聴に値するものを取り上げようと思う。
 まず最初は「Egypt Station」に入っていた名バラッド「I Don’t Know」だ。この曲はアルバム中でも一二を争う愛聴曲なのだが、そんな名曲をAIが換骨奪胎して “架空のジョンとポールの共演作” としてリメイクしたのがこのヴァージョン。ポールの声もオリジナルより少し若返り補正されているように聞こえて面白いが、何と言っても1:28から(AIが作った)ジョンの声が入ってくるところが一番の聴きどころ。これ、めっちゃエエやん! 改めてジョンとポールの声の組み合わせって人類史上最高最強なんだということを思い知らされる。2:50から入ってくるバック・コーラスもビートリィな薫りが横溢で、AI否定派のビートルズ・ファンにも一度は聴いてほしい1曲だ
Paul McCartney & John Lennon I Don't Know


 「I Don’t Know」を聴いて “こんなん他にもあるんちゃうか...” と思った私がYouTubeで検索をかけまくってみたところ、ピンからキリまで一杯出てきてビックリ。まさに “AIビートルズ玉石混交” の状況を呈しており、何じゃこりゃ?みたいな “石” も一杯出てくるが、そんな中からお気に入りの “玉” を探すのが楽しいのだ。そんなこんなで見つけたのがこの「NEW」で、ここでもやはり0:45からジョンそっくりの声が何の違和感も感じさせずに “We can do what we want~♪” と滑り込んでくるところがたまらない(≧▽≦) 「Sgt/Pepper’s」~「Magical Mystery Tour」期のビートルズ作品に紛れ込ませても全く遜色のない逸品に仕上がっているところが凄いと思う。
Paul McCartney ft. John Lennon - NEW (Lyrics Subtitulado en español)


 次に見つけたのは「Real Love」だ。「Now And Then」が発表された時は “いかにしてジョンの声をピアノの音と分離してクリアーに抽出するか” というテクノロジー面においてAIが大活躍したわけだが、この「Real Love」はテンポを上げて曲想までガラリと変えてしまうという大胆不敵な行為にまで踏み込んでいる。ビートルズ・ファンの中では賛否両論がわき起こりそうだが、私はこのトラックが大好き。まず聴いててとても気持ち良いし、原曲のメロディーの良さを殺さずに、しかもそこかしこにビートリィなフレイバーを織り交ぜながら(←エンディングのテープ逆回しwww)、これだけの作品に仕上げてしまったところに脱帽だ。
The Beatles - Real Love - 1967 Version [ AI cover]


 「Real Love」を作ったTimmySeanという人は他にもいくつかこの手の作品をアップしているが、中でも私が気に入ったのが「Wonderful Christmastime」だ。ほとんどのAIカバーが見落としがちなリンゴのドラム・サウンドに焦点を当てているのがポイントで、「1967 Version」と謳うだけあって「Magical Mystery Tour」期あたりのサウンドを見事に再現している。1967年のファンクラブ向けクリスマス・レコードに入れたらぴったりハマりそうな仕上がりだ。
The Beatles - Wonderful Christmastime - 1967 Version [ Paul McCartney song A.I. cover ]


 最後はジョンの全作品中でも屈指の名旋律に涙ちょちょぎれる「Grow Old With Me」をビートリィにアレンジしたヴァージョンだ。実際に聴いてもらうしかないが、ハッキリ言ってこれ、超凄くないですか? 0:58からジョンのリード・ヴォーカルに優しく添い寝するバックのコーラス・ハーモニーはビートルズそのものだし、1:43から “Spending our lives together~♪” のラインをポールの声が歌うところなんてもう2人の蜜月時代を彷彿とさせる完成度で、不覚にも目頭が熱くなってしまった。このAI、めっちゃヤバいわ。これでリンゴのドラムが本物に近かったら(←ヴォーカルやアレンジの素晴らしさに比べるとさすがにちょっとショボすぎる...)私的には100点満点をあげたいくらいだ。
The Beatles - Grow Old With Me - Lyric Video (AI Cover)


【おまけ】感動的な「Grow Old With Me」の後にこれはないやろと言われそうだが、同じAI繋がりということで気にせず紹介。AIを駆使してフレディー・マーキュリーに「おジャ魔女カーニバル」を歌わせようという発想も凄いが、まるで本当にクイーンが超満員のウェンブリー・アリ-ナでこの曲を演っているかのように錯覚させるくらい見事な動画編集技術にはもう感心するしかない。特に口の動きと歌声の合い方なんかもう我が目と耳を疑うレベルだ。権利関係とか色々ややこしいことがあるのかもしれないが、こういう使い方こそがAIの活かし方ではないかと思わされる笑撃のケッ作だ。
QUEEN - おジャ魔女カーニバル!! (LIVE) AI COVER

「原色のスタークラブ」/ The Beatles

2024-11-03 | The Beatles

 いつもビートルズ関連のブートレッグを買っている福武多聞堂から来たメールマガジンを見ていて“XAVELレーベル監修のオリジナル・ディミックス&リマスター・シリーズ” という項目が目に留まった。面白そうなのでクリックしてみると、以前このブログで取り上げた武道館ライヴの「聖域番外地」や映画「レット・イット・ビー」の2024ニュー・マスター・ブルーレイ盤などが載っていたのだが、その中で私の興味を引いたのがこの「原色のスタークラブ」だった。
 早速商品説明を見てみると、“ハンブルグ時代の初期ビートルズの集大成として有名なスタークラブでのライヴが、これまで出回ってきたいかなる音源とも一線を画す強烈なサウンドで登場! 大好評の武道館ライヴ『Please Don’t Go Home “聖域番外地”』に続く、XAVELレーベル・プロデュースのオリジナル・ディミックス&リマスター・シリーズ第2弾” とある。
 更に読み進めると、“現存する最良の状態のマスターを2024年最新のAIを用いてディミックス処理。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムといった複数のトラックに分離された素材を圧倒的なバランスのステレオ・サウンドに再構築。さらに入念なリマスター作業によって音の細部にわたり極限まで磨きあげるという、これら一連の作業の全てをXAVELレーベル監修のもとに行った完全オリジナルのスタークラブ・ライヴ” とのこと。
 Xavel レーベルはその過剰なまでの自画自賛インフォで有名なのでいつも眉に唾を付けて商品説明を読むようにしているのだが、“各パートのセパレート感、定位感はこれまでに出回っていた他のディミックス音源とは別次元の驚異的なもので、その迫力には誰もが息をのむ。さながらこれまでは会場内の最後方席から鑑賞していたライヴを、今作では最前列フロントロウで楽しむことが出来るような、そのぐらいの差がある” とまで言い切られては、これはもう自分の耳で確かめてみるしかない。
 ただ、Xavelのこのシリーズは第1弾「聖域番外地」こそ定価2,800円と許容範囲内の値付けだったが、この第2弾「原色のスタークラブ」は2枚組ながら4,000円、更に第3弾「ハリウッドランド・フォーエヴァー」(3枚組)に至っては8,200円と常軌を逸した値付けがなされているので、音を聴かずに買ってハズレだった場合のリスクを考えると正規盤を買うのはためらわれる。紙ジャケとか帯とかいった意味のないことをやらんでええからその分値段を下げればいいのに。私は他の業者が出しているコピー盤を1,600円で買った。音さえ同じならプラケース入りのCD-R盤で十分だ。
 で、肝心のディミックス&リマスター・サウンドに関して言うと、“最前列” を期待して聴くと肩透かしを食う。単体で聴いてもそれほど凄い音には思えないのだ。しかし2台のCDプレイヤーを使って同じトラックを上記のムーンチャイルドイルド盤と交互に聴き比べてみると、確かに距離感は近くなっていて、音質向上は間違いない。高音域を強調し過ぎなのかシンバル音がひしゃげて聞こえるところもあるが、全体的に言えばこれまで聴いたことのあるスタークラブ・ライヴの音としては間違いなく最上位と言えるだろう。まぁマスターテープの音自体がプアーなので、現在のテクノロジーをもってしてもこれくらいが限界なのだろうし、これを超えるには、映画「ゲット・バック」で名を馳せたピーター・ジャクソン監督の AI技術を駆使して “スタークラブ・ライヴ” をオフィシャル・リリースしてもらうしかないと思うのだが、さすがにそれは権利関係で無理かな...(>_<) 
 私はビートルズの火の出るようなロックンロールを楽しむなら「BBC ライヴ」かこの「スタークラブ・ライヴ」が一番と信じている人間なので、音質が向上したこの「原色のスタークラブ」は買って正解だった。音が良くなったことも喜ばしいが、最近聴いてなかったスタークラブのライヴを久々に聴いて初期ビートルズ熱が再燃(←しょっちゅう再燃してるけど...笑)したのが何よりの収穫だ。

Let It Be 2024 New Master Definitive Edition

2024-07-28 | The Beatles

 先週、ビートルズをメインに扱うブートレッグ通販ショップ「福武多聞堂」から新作案内メールが届いた。最近これぞ!というレコードやCDに巡り合えずに飢餓状態にあった私は待ってましたとばかりにリストに目を通したのだが、既発音源のAI解析による新編集リミックスとか最新マルチトラック・リミックスとかそういった類の盤ばかりで、さすがのブート屋さんもネタ切れやなぁ... とちょっとガッカリ。ところがその中に「レット・イット・ビー・フィルム コレクターズ・エディション 2024 NEW MASTER DEFINITIVE EDITION(1BDR)」というのがあって思わず “おっ、これは!” となった。
 「レット・イット・ビー」の2024って、今年の5月からネズミー・プラスで独占配信されてるリマスター映像のやつとちゃうんか!とコーフンしながら商品説明を見ると、ハッキリと “映画『レット・イット・ビー』2024年度版ニュー・マスターをデジタル・リマスタリング収録したHDクオリティの美麗ブルーレイ・エディション” と書いてあるではないか。これはえらいこっちゃである。
 私は今の時代に逆行するような配信嫌いのディスク至上主義者で、更にネズミーのことはそれに輪をかけて忌み嫌っている人間だ。2年前に「ゲット・バック」見たさにネズミー・プラスと2ヶ月だけ契約してすぐに解約したのだが、ネットのニュースで「レット・イット・ビー」の独占配信のことを知った時は “また糞ネズミーと契約せなアカンのか...” と不快な気持ちになった。しかしどんなにネズミーが嫌いでも、レストアされたキレイな映像で「レット・イット・ビー」を観るためなら喜んで悪魔に魂を売るのが私という人間である。それにしても「ゲット・バック」に続いて「レット・イット・ビー」までネズミーに差し出すとはアップルは一体何を考えとるんじゃ! ネズミーなんかと関わるとロクなことがないのは「スター・ウォーズ」の凋落ぶりを見ればアホでもわかることなのに...
『ザ・ビートルズ: Let It Be』|予告編|50年以上ぶりに伝説のロックバンド ザ・ビートルズ(The Beatles)幻のドキュメンタリー映画が復活|Disney+ (ディズニープラス)


 仕事がヒマな8月になったらネズミー・プラスと渋々契約するつもりだった私にとって、このブルーレイのリリースはまさに渡りに船、いや、地獄で仏(←この使い方であってるのかな?)レベルの朗報である。私は迷うことなく即オーダーした。
 で、この「レット・イット・ビー2024」のブルーレイを実際に観た感想としては、とにかく画質がめちゃくちゃキレイだということ、これに尽きる。まぁ2024年のテクノロジーで徹底的にレストアして画質が大幅に向上したブルーレイなのだから美麗映像に仕上がっているのは当然といえば当然なのだが、それにしてもこれほどまでにクリアーな映像で「レット・イット・ビー」が観れるとは夢にも思わなんだ。薄暗くて寒々しいイメージのあったトゥイッケナム・スタジオのシーンですら印象がガラリと変わるくらいなのだからこれはもう参りましたとひれ伏すしかない。例えるなら視力0.5ぐらいの人が初めて眼鏡を作っていきなり2.0まで見えて “何じゃこれは!” と腰を抜かしたような、そんな感覚なのだ。とにかく画質に限って言えば、100点満点、いや、120点をあげてもいいくらいのクッキリ・ハッキリ感で、これだけでも十分3,800円の元は取れたと思っている。
The Beatles: NEW Let it Be (2024) vs Original Let It Be (1970) part 2


 しかし長年オフィシャル・リリースが渇望されてきた映画「レット・イット・ビー」に関してはこれにて一件落着... となるかと言えばそうはならないのが辛いところ。何度も見返すうちにいくつか気になる点が出てきたのだ。まず、観始めて数分と経たないうちに “あれ? 何じゃいこれは???” と思わされたのが、音声の不自然な差し替えである。モノラル音声をステレオにするとか、そういう些細なレベルなら別に気にならないのだが、ポールが弾く物悲しいピアノに続いてジョンが豪快に “Don't let me down~♪” とシャウトするはずのところで、ジョンの歌い方から荒々しさがキレイさっぱりと消えており、私は “えっ、何これ?” とさっきまでの高揚感が一気に萎んでしまったし、続く「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」でも、オリジナルではカン!カン!と響いていたマル・エヴァンスが叩くハンマーの金属音がほとんど目立たないレベルまで抑えられており、めっちゃ違和感を感じてしまった。
 違和感を覚えたのは映像編集も同様で、例えばエンディングでジョンの “オーディションにパスするといいんだけど” 発言の後、メンバーが楽器を置いたところで画面が止まり、エンド・クレジットが入ると共に「ゲット・バック」のリプリーズが流れてきて大団円となるはずが、画面が止まった所でスパッと終了していきなりメニュー画面に戻ってしまうのがめっちゃ興ざめ。これでは尻切れトンボ感がハンパないではないか! 特に私はあの「ゲット・バック」リプリーズの脱力感(笑)を味わってこそのエンディングだと思っているので、この終わり方は全く納得がいかないのだが、ひょっとするとエンディング画面にネズミ―関連の表示が出るとかで慌てて映像をちょん切ったのかも...
 又、トゥイッケナム・スタジオからサヴィル・ロウのアップル・スタジオに切り替わるシーン、そしてスタジオから屋上へと切り替わるシーンでゆっくりと幕を引くように暗転するはずなのがいきなり画面が替わってしまうのも何だかなぁ... という感じ。「ハリウッド・ボウル・ライヴ」ニュー・リマスター盤のオフィシャル発売の時にも感じたことだが、画質や音質を向上させるのは大いに結構なのだけれど、オリジナル作品に手を加えて作り変えたものをオフィシャル・リリースするということは裏を返せばオリジナルの存在を永久に葬ってしまうことをも意味するわけで、旧来のファンとしては一抹の寂しさを覚えてしまうのだ。
 それと、余計なお世話というか、蛇足感がハンパないのが日本語字幕だ。商品説明に“要望の多かった日本語字幕にも対応。関東と関西の2種類より選択可能。” とあったので嫌な予感はしていたのだが、蓋を開けてみると悪いことにその予感が的中。関西ヴァージョンの字幕では例えばポールとジョージの口論の場面で “ワイがなんぞ言うとジブンいつもイラつくやないか” ってポールが自分のことを “ワイ” と呼んでて雰囲気ぶち壊しだし、他の関西弁も “ジョージがただ今感電しましてん” とか “何ともおまへんで”(←吉本新喜劇かよ!)みたいに不自然極まりない使い方が多くて(←ちょうど我々関西人がふざけて使う怪しい標準語みたいな感じ...)呆れてしまった。こんなアホバカ字幕を “要望” するファンが “多かった” とでもいうのだろうか? まぁ字幕選択を関東にしておけばすむことだが、ファンの一人としては “ビートルズで遊ぶな!” と言いたい。
 ということで、まぁ今挙げたようにいくつかの欠点はあるにせよ、HDクオリティの超絶美麗映像であの「レット・イット・ビー」が楽しめるという厳然たる事実の前にはそういった些細な不満はすべて戯言として雲散霧消すること間違いなしの家宝級ブートレッグだ。

「聖域番外地」/ The Beatles

2024-06-30 | The Beatles

 今日6月30日は “ダーク・スーツの日” である。とはいってももちろん洋服の青山やアオキの宣伝ではない。このブログをお読みの方ならもうお分かりだと思うが、ビートルズ・ファンにはいくつかの “特別な日” があって、たとえば 1月30日は “ルーフトップの日”、8月15日は “シェア・スタジアムの日” という感じで、ファンはこれらの日にはそれぞれのライヴ音源を聴きながら “自分もその場に居合わせたかったなぁ...” と思いを馳せるのだ(←でしょ?)。来日公演に関してもそれは同じで、彼らが羽田空港に降り立った6月29日は “来日記念日”、濃いモス・グリーンのスーツ姿で武道館のステージに立った6月30日は “ダーク・スーツの日”、オレンジのストライプが入ったライト・グレーのスーツ姿でライヴを行った7月1日は “ライト・スーツの日” として日本のビートルズ・ファンの心に深く刻まれている。
 私もご多分に漏れず、この期間は武道館ライヴのDVDを観たりCDを聴いたりして過ごすのが当たり前になっている。ちょうど土用の丑の日にウナギを食べるようなモンである。映像に関しては手持ちの中では HMCの「Tokyo 1966」ブルーレイが一番キレイなので(→もっとキレイなのがあればぜひ教えて下さい... m(__)m)そればっかり観ているが、音源に関してはどれもこれも帯に短しタスキに長しで、私の知る限りではこれぞ!といえる決定版はこれまで無かったように思う。アップルからオフィシャル盤が出ない以上、我々ファンはブートレガーたちが手を変え品を変え自画自賛インフォと共に出してくる “自称” アップグレード・ヴァージョンに “あんまり変わり映えせんやろうけどやっぱり気になるから一応買っとこ...” とついついお金をつぎ込んでしまうのだ。
 今日ご紹介する「聖域番外地」もそんな1枚で、狙いすぎて見事にスベッた感のあるこのクッソダサい邦題はもしや Xavel では?と思ったらやはりそうだった(笑)。無駄の最たるものと言える “帯付き” というのも相変わらず。ライトハウスですら赤面しそうなこっ恥ずかしい自画自賛インフォはもはや様式美と言えるもので、 “これまで登場したいかなるブドーカン・ライヴとも異なる革新的なサウンド・バランスで捉えた会心作” とハイ・テンションな紹介文が笑わせてくれる。
 しかしそれに続く一文が心に引っ掛かった。曰く、 “6/30夜のステージと7/1昼のステージを収録した現存する最良の状態のサウンドボード・マスターを最新AIを用いてディミックス処理。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、黄色い歓声といった複数のトラックに分離された素材を完璧なバランスのステレオ・サウンドに再構築。さらに入念なリマスター作業によって音を極限まで磨きあげた完全オリジナルの武道館ライヴで、各パートのセパレート&定位感はまさしく驚異的と形容するに相応しく、その明瞭な音像には誰もが驚かされることでしょう。” と書いてあるのだ。
 ジャイルズ・マーティンやピーター・ジャクソンが関わった一連のリマスター・プロジェクトの驚異的な成果を身をもって体験した者としては、あの武道館ライヴ音源を “最新AIを用いてディミックス処理したサウンド” とやらを何としても聴いてみたい... という衝動を抑えきれず、ヤフオクに送料無料で出ていた新品未使用盤を即決購入。知らん間に勝手に溜まってた PayPayポイントとクーポンを使ってほぼタダ同然で手に入れたので、これなら万が一ハズレでも腹は立たないし、もし当たりだったらめっちゃ得した気分に浸れるだろう。
 早速届いたCDを聴いてみる。まずは6/30からだが、確かにこれまで聴いてきた音とは一味も二味も違う立体的なサウンドで、おっ、これはなかなか... と思わせてくれる。良い意味で予想を裏切られて感心してるとアッという間に1ステージ35分が過ぎ去り、続けて 7/1に突入。こっちの方は更に音が良く、出るところは出て引っ込むところは引っ込むという音の奥行き感がしっかりと感じられるのだ。これまで聴いてきた武道館ライヴのモノラル音源を “平板な写真” とすれば、このディミックス・サウンドはさしずめ “出来の良い油絵” といったところか。とにかくこのCDは小さな音で聴くよりも大音量で聴いた方が違いがよくわかると思うし、是非とも大音量で聴くべきサウンドだと思う。スピーカーと対峙して聴くに十分値するというか、私的には少なくともハーフ・オフィシャル級の音でビートルズの武道館公演が楽しめる傑作ライヴ盤として “買って大正解!” だったと自信を持って言える逸品だ。
THE BEATLES - YESTERDAY (Nippon Budokan, Tokyo 1966-7-1) Audio

スペイン盤特集⑦「A Hard Day's Night」

2024-05-12 | The Beatles
 ビートルズのスペイン・オリジナル盤蒐集で最後の最後まで残った最難関盤が「A Hard Day's Night」だった。他のレコードはみんなスムーズに入手できたのに、この盤だけはありとあらゆるサイトを探してみても全く出てこない。痺れを切らした私は以前ビートルズのスペイン盤を買ったeBayのセラーにメールして “「ハード・デイズ・ナイト」のゴシック・オデオン・ロゴ(1stプレス)盤ありませんかねぇ?” と訊いてみたのだが、返ってきた答えは“Almost impossible to find even in Spain...”(スペイン本国でも見つけるのはほぼ不可能に近いで...)という絶望的なものだった。まぁ無いものはしゃあないので、私は手に入れられればラッキーぐらいの軽~い気持ちでそこら中のWant List に登録しておいた。
 すると先日、Discogsから “Want Listのアイテムが出品されたよ~♪” メールが来たので見てみると、何とこのレコードが €90で出品されているではないか! eBayでは過去15年間で3枚しか出品されておらず、そのどれもが数百ユーロで取り引きされていた稀少盤がたったの €90ってホンマかいな??? いつもならメールでセンター・レーベルの写真を送ってもらって確認するのだが、そんな悠長なことをやっている間にライバルに先を越されたら悔やんでも悔やみきれないので、“発送前に必ずセンター・レーベルが商品説明ページの写真と同じゴシック・オデオン・ロゴであることを確認して下さいね!” というメッセージを添えて購入した。
 それからちょうど2週間ほど経ってブツが届いた。あれから何の返答もなく普通に発送されたようなので私は “しめしめ、超の付くレア盤が安ぅ手に入ったわい...(^.^)” と楽しみにしていたのだが、いざレコードを取り出してみるとビッグ・オデオン・ロゴの 2ndプレス盤ではないか! “何じゃあ、こりゃあ!” と松田優作が憑依した私はすぐにセラーに怒りのメールを送ったのだが、いくら待っても返事は来ない。
 舐めたマネをしやがってと激オコ状態でペイパルに異議申し立てのクレームを起こすとやっと返事が来たのだが、ふざけたことにスペイン語でワケのわからんことを書いてきよったので “商品説明と違う物を送り付けてバックレるのは完全な詐欺行為。悪質セラーとしてオマエを訴えてペイパルで商売出来んようにしたるから覚悟せえ! それと今後二度とスペイン語なんかでメールしてくるな、ちゃんと英語で書いてこい!” とブチギレ・メールを返したところ、態度が180°変わって英語で謝罪メールが届いた。
 それでも最初は “半額返金しますので何とかそれで許してもらえませんか?” と虫のいいことを言うてきよったので、“2ndプレス盤に €45も払うアホがどこにおるんや? そっちが送料持って送り返して完全返金にするか、それともこっちが €20で引き取って残り €70を返金か、どっちかを選べ!” って返したらすぐに €70返金してきやがった。向こうからすれば身から出た錆とは言え、送料を往復2回分払うよりは大幅値引きの方がマシと考えたのだろう。私としてもこのクッソ忙しい時期にわざわざ郵便局まで行って送り返すのは面倒臭かったし、€20やったら 2ndプレスでもとりあえずの filler(埋め草、つなぎ)として許せる範囲内だったので手打ちにして訴えを取り下げ、ケースを終了することにした。
 とまぁこのようにスッタモンダの末に我がコレクションに加わったこのレコードだが、実際に聴いてみると実に鮮烈な音がしてビックリ(゜o゜)  そもそも「A Hard Day's Night」というレコードはA面アタマの “ジャーン!” とB面アタマの “バン!” に尽きると思うのだが、この盤はそのどちらもガツン!とくる音がして大喜び。盤質は VGで「And I Love Her」でややチリパチが目立つのが玉にキズだが、それ以外のトラックはキズなんて笑い飛ばしてしまうくらい豪快なモノラル・サウンドが楽しめた。
 まぁよくよく考えてみると「A Hard Day's Night」がリリースされた1964年というのはちょうどセンター・レーベルがゴシック・オデオン・ロゴからビッグ・オデオン・ロゴに切り替わった年で、プレス時期的にほとんど差がないことになる。しかも私が手にした盤は裏ジャケットのデザインが 1stプレスのものだったので、2ndプレスといってもその最初期のものであることは明白。つまり実質的には 1stプレス盤とほぼ変わらないということだ。不愉快な思いをして手に入れたレコードだが、最終的には数百ユーロ相当の稀少盤とほぼ変わらない爆音盤を1/10以下の値段で買えて結果オーライ。レコードの蒐集っていうのはホンマに一筋縄ではいかんもんですな。

901さんと久々のオフ会④

2024-05-07 | The Beatles

901さん:じゃあ次はいよいよ1Gお願いします
私:その前に、さっきバーデン・パウエルでステレオ針に変えたので、せっかくやからニンバス盤聴かはります? ビートルズのステレオ盤では一番音がエエやつです。
901さん:UKパーロフォンとは又違うんですか?
私:ニンバス盤は80年代にイギリスのオーディオ専門誌が企画した超高音質盤で、クラシック専門レーベルがカッティングから徹底した音質重視で作って通販のみの少数限定で発売されたレコードなんですよ。私がこれまで買った中で一番高かったですわ。
901さん:へぇ~、いくらしましたん?
私:20万ほどです。
901さん:ひょえ~(゜o゜)  それはぜひ聴かせて下さい。
私:【♪~】どうですか?
901さん:さすがにエエ音やねぇ... めちゃくちゃクリアーやわ。せっかくやからUKオリジナルの1stプレスの音も聴かせてもらえる?
私:もちろんです。【♪~】いかがでしょう?
901さん:これは又かなり違うねぇ... 何ていうか、これはこれで迫力あるよねぇ。
私:でしょ? どちらの音も捨て難いんですよ。
901さん:Shiotchさんがどちらも持ってはるの、よぉわかりましたわ。 
私:レコードによって色んな音が楽しめる贅沢がビートルズにはあるんですよ。
901さん:じゃあ次は 1G!
私:ずっと楽しみにしてはりましたもんね。お待たせしました。
901さん:ブログ読ませてもろうて、どんな音するんやろうかと思うてましてん。
私:じゃあまずは「Please Please Me」の金パロの両面1G盤から。
901さん:これはB-SELS ですか?
私:いえ、eBayで買いましてん。
901さん:高かったでしょう?
私:確か10万ちょっとで手に入れました。今やったら円安もあるから軽く倍以上するでしょうね。
901さん:$1=75円の頃が懐かしいねぇ。
私:ホンマにあの時代は良かったですよね。手当たり次第買いまくってました。eBay始めるのがあと10年遅かったらこんなにレコード買えてなかったと思います。
901さん:今は160円?
私:150円台後半です。全部アホバカ日銀のせいですわ。何だか腹立ってきたんで(笑)曲聴いて心を落ち着けましょう。(「I Saw Her Standing There」をかける)【♪~】
901さん:うわぁ、凄い音やなぁ...(と唖然とされてる901さん)。
私:じゃあ次はラウドカットの1Gいきますか?
901さん:あっ、それ(「RUBBER SOUL」を指して)ここで初めて聴かせてもろうた時にあまりの凄さに腰抜かしそうになったヤツですね。
私:そうそう、それです。
901さん:よぉ覚えてますよ。それまでマッカートニーのベースなんて気にも留めてなかったので、あれはホンマに衝撃的でした。
私:A面は1Gじゃないんですが、ここはやっぱり思い出の「Drive My Car」いきましょか。
901さん:【♪~】これこれ、このベースの音。ホンマにビックリしたなぁ、もう(笑)
私:じゃあ次は別のラウドカットの1Gいきましょう。「With The Beatles」です。
901さん:あっ、それ B-SELS へ2日連続でラウドカット盤を買いに行って店主の方が呆れてはったっていうヤツでしょ?
私:そうです(笑)
901さん:そりゃあビックリしやはったでしょうね...(笑)
私:あの時の Sさんの反応はよぉ忘れませんわ(笑)
901さん:じゃあその盤をお願いします。
私:一番エグいのいきましょう。(「Roll Over Beethoven」をかける)【♪~】どうですか?
901さん:絶対にその曲くると思うてました(笑) もの凄い迫力ですね。
私:私のパワーの源です。これ聴くとホンマに元気出ますよ。
901さん:凄い音やなぁ...(と言葉を失われる901さん)
私:じゃあ次はコレいきましょうか。「Beatles For Sale」を。
901さん:あっ、それちょっと地味なヤツですよね。
私:よくご存じですね。カントリーやロカビリー色が濃いです。(「Rock And Roll Music」をかける)【♪~】
901さん:いやぁ、コレも凄い迫力...
私:これ盤質がめちゃくちゃ良くてほとんどミント状態の盤なので、1Gの凄みが際立つんです。
901さん:(スピンドル・マークを確認しながら)ホンマにほとんど聴かれてないといっていいくらいキレイですね。
私:チリパチ皆無の1G盤が手に入ったのは奇跡に近いです。
901さん:いやぁ~、1G盤連発ですっかり満腹になりましたわ。又やりましょうね。
私:こちらこそ、ぜひお願いします。一緒に音楽聴きながら喋るのホンマに久しぶりなんですけど、全然ブランク感じひんかったです。今日はホンマに楽しかったです。是非又やりましょう!

ということで約5時間にわたって一緒にレコードを聴きまくって楽しいひと時を過ごし、大いにリフレッシュできた。やはり持つべきは同好の音楽友達。このブログをお読みの音楽好きの皆さんもこんな風にレコードを持ち寄って一緒に音を聴きながら音楽談義の花を咲かせるオフ会をされてみては如何だろう。自分1人で聴いているのとは又違った新たな世界が広がるはずだ。

スペイン盤特集⑥「Please Please Me」「With The Beatles」

2024-04-28 | The Beatles

 今日は久々のビートルズ各国盤、それも去年の末に“残すは初期3部作のみ” というところまでやっておきながらその後放置していたスペイン盤特集の続編である。スペイン盤というと例の各国盤ガイド本「アナログ・ミステリー・ツアー」で完全にシカトされているせいもあってかあまり話題に上らないが、私はイスラエル盤やペルー盤に比肩する高音質爆音盤として非常に高く評価している。
 去年の夏以降はそんなスペイン盤を1枚、また1枚と買い集めて楽しんできたのだが、稀少性や値段のせいでかなり入手に苦労したのが1963年から1964年にかけてセンター・レーベルに旧型のゴシック・オデオン・ロゴ(← UK盤で例えるとゴールド・パーロフォンみたいなモンです...)がフィーチャーされた「Please Please Me」「With The Beatles」「A Hard Day's Night」の3枚だった。これらのうち「A Hard Day's Night」だけはどこを探しても見つからずに長期戦を強いられたが、「Please Please Me」と「With The Beatles」は意外と簡単に手に入った。
 まず「With The Beatles」をヨーロッパ盤に強い CD and LPでスペインのセラーからゲット。€150という値段が高いか安いかは買う方の価値観次第だが、盤質がピッカピカの NMでビートルズの稀少な初期盤が買えるのだから私としては御の字だ。もう一方の「Please Please Me」はそれから数日後に偶然 eBay France(!)で見つけたもので、こちらは盤質 Exで €120というかなりリーズナブルなお値段で買うことが出来た。
 先に届いたのは「With The Beatles」の方で、スペインならではの独自マトの爆裂具合を UKマザーのラウドカットと比べてやろうとワクワクしながら盤に針を落としたのだが、出てきた音は予想とは正反対のヴィンテージ感溢れるサウンドでちょっと肩透かしを食らった感じ。UKマザーの音を鋭利なナイフとするなら、こちらはナタでぶった切るような、高音も中音も低音も意識させない大きな音の塊なのだ。端正で律儀そのものの音はいかにも60年代モノラルという感じなのだが、「Beatles For Sale」以降のスペイン・ビッグ・オデオン・ロゴのモノラル盤のようなキレッキレの爆裂感を期待すると “何これ?” となってしまう。「It Won't Be Long」も「Roll Over Beethoven」も UKラウドカットのように “風圧” で聴く者を圧倒するようなサウンドではないが、逆を言えば “音” よりも “音楽” を聞かせる狙いとでも言えばいいのか、とにかく素直で聴きやすい音作りであり、これはこれで決して悪い音ではない。要するに音作りのコンセプトが違うということだ。続いて届いた「Please Please Me」もやはり「With The Beatles」同様のヴィンテージなサウンドで、これがスペインのゴシック・オデオン・ロゴ盤の音なんだと納得した。
 それからしばらくして B-SELSへ行った時にたまたま「Please Please Me」のビッグ・オデオン・ロゴ、すなわち 2ndプレス盤を見つけたのでこれ幸いと試聴をお願いした。あの音が 1stプレスであるゴシック・オデオン・ロゴ盤特有のもので 2ndプレス盤はそれとは又違った鋭利な音がするのか、それともどちらも同じようにヴィンテージな音がするのかを確かめる絶好のチャンスだったからだ。はたしてお店のスピーカーから出てきた音は自宅で聴いている 1stプレス盤とほとんど同じ温かみのある音で、ごく一般的な “60年代モノラル・サウンド” のイメージに近い。どちらにせよ UKマザーのキレッキレの音とは対極にあることだけは確かなようだ。一緒に聴いていたSさんも “以前買っていただいた「Revolver」とはかなり音の傾向が違いますね。” と仰っていた。
 このようにスペイン盤の「Please Please Me」は 1stプレスも 2ndプレスも音は変わらないということが証明されたワケだが、各国盤で 1stプレスと 2ndプレスの聴き比べなんて中々出来ることではない。貴重な機会を提供して下さった Sさんに感謝感謝だ。

「Sgt. Pepper's」と「Venus And Mars」のフラット・トランスファー盤

2024-04-21 | The Beatles

 ビートルズ関連のブートレッグは前回取り上げた「Reunion Tracks 1994-2023」以外にも色々面白そうなのが出ていたのだが、その中でも一番気になったのが「Sgt.Pepper's」と「Venus And Mars」の “フラット・トランスファー” というヤツだ。
 最初は “フラット・トランスファー” というテクニカル・タームが何を意味するのかよくわからなかったが、「ペパーズ」の方の商品説明に “迫力をアップさせたりヒスノイズを目立たなくしたりというようにリリースに向けての手が加えられる前の、マスターテープありのままな状態を再現してくれる” と、また「ヴィーナス」の方に “「ペパーズ」の時よりも進化した70年代の録音機材を使って豊かな音で録音されたバンド・サウンドのアルバムなので余計に違いが解りやすい” と書いてあるのを読んで、音にイコライズやコンプレッサーといった手が加えられていない “すっぴん状態” のことではないかと考えた。おそらくフラット(均一)な状態のままトランスファー(移し換え)するということなのだろう。すっぴんのペパーズって面白そうやん... と興味を引かれた私は早速この2枚を注文した。
 欧州向けLPカッティング用38cm/sオープンリールマスターから一度コピーした1st Genリールよりデジタル化したというこの盤を実際に自分の耳で聴いてみた感想としては、確かにこれまでレコードやCDで聴いてきたオフィシャルのサウンドとは各楽器のバランスや聞こえ方が微妙に違う。
 まず「ペパーズ」の方だが、一番の特徴は各楽器の音色・響きがナチュラルなことで、特にリンゴの叩くドラムの音が一番わかりやすい。お化粧を施した “最終完成版” と聴き比べてみたが、ビートルズ好きなら “なるほど、これがすっぴんのペパーズか...” と興味深く聴けること間違いなし。オープンリール・テープならではの雄大な低音域との相乗効果なのか、苦手な「Within You Without You」もインドの抹香臭さが緩和されてゆったりと包み込まれるように気持ち良く聴けたのには我ながらビックリしたし、「When I'm Sixty-Four」が醸し出すのほほんとした雰囲気もよりリアルに伝わってきて実にエエ感じだ。
 「ペパーズ」はUKオリジナル盤をはじめ、ニンバス盤やドイツ盤、スペイン盤など高音質盤が目白押しだが、ちょうど独自マトの各国盤にUKマザーの音とは又違った魅力があるのと同じように、このフラット・トランスファー盤もマニアなら一聴の価値アリだと思う。同じ曲を様々な味付けのサウンドで聴いてここまで楽しめる懐の深さを持ったアーティストはビートルズだけだ。
 「ヴィーナス・アンド・マース」は私が初めて買ったポールのソロ・アルバムだけあって想い入れ入れもひとしおの溺愛盤なのだが、アーカイヴ・コレクションでリマスターされたCDの音は自分が聴いてきた「ヴィーナス・アンド・マース」と比べて “何か違う感” が拭えず、CDに関してはスティーヴ・ホフマンがマスタリングした DCC盤の方が圧倒的に私の好みだった。今回購入したこのフラット・トランスファー盤はまさにそのDCC盤と同傾向の音で、音圧至上主義の凡百リマスター盤とは激しく一線を画す繊細で自然な響きと中低域の分厚さが耳に心地良い。
 それと、これは「ペパーズ」のフラット・トランスファー盤でも感じたことだが、あまりにも自然と言うか、耳にスーッと入ってくるため、アルバムの最初から終りまで実に気持ち良く一気呵成に聴けてしまう。変な例えだが、ブリタで濾過した水が喉ごし良くゴクゴク飲めてしまうような感じなのだ。又、音が刺激的でないのでヴォリュームをどんどん上げていっても大丈夫なところも重要なポイント。このあたりはニンバス盤に通じるものがあるが、私は一にも二にも大きな音で聴きたい人なので、フラット・トランスファーのこの特性は大歓迎だ。
 発売から50年以上経ってもなおこのように新たなソースが発掘され、それがまた立派に商売になってしまうあたりにビートルズの偉大さを感じるが、AIを使ってしょーもないリミックス作成に走る昨今の糞ブートとは激しく一線を画すこの2枚はビートルズの各国盤蒐集が一段落した私の “一味違うサウンド” への渇望を大いに満たしてくれた。私としては「Revolver」や「Magical Mystery Tour」、「White Album」あたりのフラット・トランスファー盤も聴いてみたくなったが、果たしてどうなることやら... 今後の発掘に期待しながら待つとしよう。

Reunion Tracks 1994-2023 / The Beatles

2024-04-15 | The Beatles

 この1年ほどブートレッグ関連の情報は意識的にシャットアウトしてきたのだが、今回のクイーン祭りで久々にリリース情報に目を通していた時のこと、「Get Back」を巡るアレやコレやでさすがにもうネタ切れやろ... と思いながらもビートルズ関係のブツをチェックしてみたところ、予想に反して一杯出ていてビックリ(゜o゜)  ブート屋さんにとってビートルズはどこまでいっても“金の卵を産むガチョウ” なんやなぁ... と痛感させられた。
 そんな中でふと目に留まったのが去年の末にリリースされて1ヶ月で完売したという「Reunion Tracks 1994-2023」。ちょうど「Now And Then」の公式リリースにタイミングを合わせて、「Free As A Bird」や「Real Love」も含めた “リユニオン音源” のアーリー・テイクやらドルビー・アトモス・ミックス(←何のこっちゃサッパリやけど何となく音が良さそう...笑)などを整理して1枚のCDにまとめたものだ。YouTubeで音源を丹念に拾い上げて時間をかけて編集すれば似たようなものを作ることは可能かもしれないが、超の付く面倒臭がり屋であれこれ整理するのが苦手な私には到底無理な話。それを他人がやってくれて2,500円で手に入るなら安いものだ。
 メーカー完売ということで LH や Kent のカタログには載っていなかったのでヤフオクやメルカリを探すと4,000~5,000円前後というふざけた値付けばかりで呆れたが、こまめにチェックしていたメルカリで送料込み2,500円ポッキリのブツが出品されたのを偶然見つけて即ゲット。このタイトルには「初版限定カラー・ジャケット」と「通常版モノクロ・ジャケット」があって、限定盤の方は完売直後にヤフオクで6,000円オーバーが続出する人気ぶりだったようだが、私はよほど変てこりんなデザインでない限りジャケットなんかどーでもいいので当然通常版モノクロ・ジャケットの方を買った。
 聴いた感想としては買って損はなかった... という感じ。2015年の「1」ブルーレイ・ミックス①②と1995年の「Anthology」ミックス⑫⑬を聴き比べると20年という年月のテクノロジー進化には隔世の感があるし、私が超苦手とする“配信限定”(←こーゆーのホンマにやめてほしい...)で未CD化のドルビーアトモス版の③も確かにボーカルやギターが大きくてジョンの存在感が増していて、これはこれで面白い。
The Beatles - Now And Then (Dolby Atmos)


 中間部にまとめられたデモ・テイク、アーリー・テイクに関しても曲の進化/深化がわかるように上手く並べられているし、昨年リリースされた「Now And Then」オフィシャル・ヴァージョンの原型となった⑪も今回カットされたパートがしっかりと聞けるので、⑭の45rpm Vinyl Rip Version と聴き比べれば何故カットしたのか大いに納得がいく。このあたりのセンスの良さはさすがポール・マッカートニーである。Bメロのカットに関しては、理論的かつ分かりやすく分析・解説した動画がYouTubeにあったので貼っときます↓。
【THE BEATLES】NOW AND THEN 徹底解説 【コード進行&歌詞】【隠されまくった秘密】

スペイン盤特集⑤「Magical Mystery Tour」「Yellow Submarine」

2023-12-24 | The Beatles

 「Magical Mystery Tour」の各国盤は US編集アルバムと同じ形態(黄色ジャケ)で出ている国が大半で、UKに倣った EPフォーマット(薄青色ジャケ)でリリースされている国は少なく、しかもそのモノラル盤となると、ステレオを無理やりモノラルにした “偽モノ” 盤を除けばオーストラリア、ニュージーランドなど片手で足りるくらいしか存在しない。しかし嬉しいことにスペイン盤の「Magical Mystery Tour」は EPフォーマットでモノとステレオの両方が出ており、私は当然モノ盤をチョイス。盤質NMで €30ならお買い得と言えるのではないか。届いたレコードのレーベル面は同時期のアルバムと同じ濃青色で、デッドワックスには UKとは違う字体の独自マトが刻まれていた。
 実際に聴いてみた感想としては、キレイキレイな音が特徴の NZ盤とは好対照をなすラフでドライな音が気持ち良く、その竹を割ったようなストレートアヘッドなサウンドはアッパーなA①「Magical Mystery Tour」やメリハリの効いたC②「Flying」(←これホンマにエグい音です!)にとてもよく合っている。重低音に独特の魅力があるスペイン盤らしくポールのベースが大活躍で、私のようなパワー至上主義者にはたまらん音作りだ。A②「Your Mother Should Know」なんかちょっとベースがデカすぎるんとちゃうかといいたくなるくらい目立っているし、C①「The Fool On The Hill」も一音一音が強すぎて癒しの要素というかリラクセイションに欠けるようにも思えるが、これはこれで私的には楽しめるし、この音作りこそがスペイン盤のアイデンティティーなのだ。
 私のフェイバリット・トラックであるB①「I Am The Walrus」はまさに威風堂々という感じで基本的には UK盤や OZ盤と同傾向のサウンドだが、やはりパワーでゴリゴリ押してくる音作りと言える。特にビシバシきまるリンゴのドラミングが最高に気持ち良くて、リンゴって凄いドラマーやなぁと改めて思い知らされる。まぁ、この曲は低音がスベッたとか倍音がコロンだとかいう次元を超越して、ジョンのサイケな世界に引き込まれてついつい聴き入ってしまうという “理屈を超えた” 名曲名演なので、これ以上あれこれ分析するのは野暮というものだろう。とにかくこのスペイン盤 EPは買って正解だった。
 「Magical Mystery Tour」を手に入れた私が次に狙ったのが「Yellow Submarine」だ。大好きな「Hey Bulldog」をスペイン盤の豪快な音で聴きたいという思いが強く、「Let It Be」(→イエサブの次に買ったけど 1P/1Gにもかかわらず平凡な音だった...)よりもこちらを優先したのだ。早速 Discogsで調べたところ、同一デザインで濃青色と赤色の2種類のレーベルが存在することが判明。どちらが初期プレスなのかわからなかったので、その両方併せた中から一番盤質が良さそうなのを探したところ A面が Ex+でB面が VGという、絶対にA面しか聴かない私にドンピシャの盤があったので喜び勇んでそいつを購入。B面のキズのおかげで €20という安値で買うことができて願ったり叶ったり。実質A面オンリーのイエサブはこのパターンが理想的だ。
 届いた盤はA面のマザー/スタンパーが 1Pで、間違いなく初期プレスだ。音の方も期待を裏切らないもので、細かいことを気にせずにパワーでグイグイ押してくるプリミティヴな音作りが実に気持ち良い。A④「Hey Bulldog」はイントロからもう“最高!!!”と ! を3つも付けたくなるくらい凄まじい勢いでアグレッシヴなブルドッグがスピーカーから飛び出してくる。調子に乗ってアンプのヴォリュームを上げていくと、闊達に躍動するポールのベースを全身で体感できて大満足。スピーカーの上に飾ってあるダース・ベイダーのフィギュアが振動で倒れたくらいだからどれほどの重低音かわかるだろう。シスの暗黒卿をもブッ倒してしまう強靭なブルドッグ... 地響きを立てて迫りくる重戦車のようなサウンドがたまらんたまらん...(≧▽≦)  
 続くA⑤「It's All Too Much」もドッシリとした重心の低い音作りで、高音域のクリアネスも申し分なくキレッキレのサウンドが楽しめる。A②「It's Only A Northern Song」もそうだがジョージの控え目なヴォーカルがこのスペイン盤ではまるでユンケルでも飲んだかのように力強く聞こえるのだから不思議なものだ。とにかくこの時期のビートルズならではのサイケな音空間がまるですべてを飲み込むブラックホールのように強烈な吸引力で襲いかかってくるのが実に気持ち良い。
 私がこのアルバムでブルドッグの次に好きなA③「All Together Now」も最高の仕上がりだ。この曲は何と言ってもザクザク刻むアコギのカッティング音の生々しさを楽しむのが私流なのだが、このスペイン盤はクリアー&クリスプな音で躍動感溢れるトラックに仕上がっており、リズムに乗って思わず身体が動いてしまう。A⑥「All You Need Is Love」も雄大な音場の中でジョンのヴォーカルが力強く響きわたるところが◎。スタンパーの若さやら盤質の良さなど、様々な要因でこれだけの音が聴けるのだろうとは思うが、スペイン盤の「Yellow Submarine」が侮れない存在であることは間違いない。ヴォリューム上げてもう1回ブルドッグ聴こ...

スペイン盤特集④「Abbey Road」2種聴き比べ

2023-12-17 | The Beatles

 ビートルズ中期のスペイン・モノラル盤はB-SELSでゲットした「Revolver」でコンプリートできた。どの盤も入手には苦労したが、その甲斐あって力強い音を聴かせてくれるので大満足だ。改めて “独自マトのスペイン・モノラル盤にハズレ無し” を確信させられた。まぁ盤質の良いブツを見つけるには少々忍耐力が必要だが...
 一方、後期のステレオ盤は「Hey Jude」を除いてすべて手に入れた。このアルバムはUS編集のコンピ盤ということで世間では少し軽く見られているように感じるのだが、後期の重要なシングル曲が一杯入っているこの盤を私は「Yellow Submarine」のA面と「Let It Be」の間を埋める準オリジナル・アルバムとして重要視している。ところがスペイン盤の「Hey Jude」は宗教上の理由とやらで、あろうことか私の大好きな「The Ballad Of John And Yoko」がカットされており、私としてはそんな欠陥品を買う気にはなれなかったのだ。ジョンのキリスト教発言に対するアメリカ人の反応を知った時は “キリスト教徒ってホンマに心の狭い連中やなぁ...” と呆れたものだが、スペインでもこの有り様だ。キリストも草葉の陰で泣いとるで、ホンマに。
 話をスペイン盤に戻そう。後期のステレオ盤で一番音が良かったのは断然「Abbey Road」だ。このレコードは世界中で売れまくっただけあってかなりの数の盤が市場に出ているが、リリースから1年かそこらで濃青レーベルから薄青レーベルへ切り替わったこともあってかリイシュー盤率が異常に高くて要注意だし、何よりも問題になるのはその盤質だ。少々のキズなど笑い飛ばしてしまうモノラル・カートリッジとは違い、ステレオ・カートリッジはどうしてもキズに弱いし、この「Abbey Road」を聴く場合、B①「Here Comes The Sun」の繊細なイントロ部分でチリパチ、ブツブツとノイズが入ってしまうともう雰囲気ブチ壊しなので、盤選びには慎重にならざるを得ない。
 私は数種類の候補の中から NM表記で尚且つセラーの “Pristine condition” という文言を信じて1枚に絞って購入。届いた盤のマザー/スタンパーは 2GM/2R で、スパインには、細字で “Abbey Road The Beatles” とあり、カタログ№ “1J062-04243M” も記されている。盤に針を落とすとA①「Come Together」なんか実にソリッドな音で上々の立ち上がりだったのだが、続くA②「Something」、A③「Maxwell's Silver Hammer」でチリパチが目立ち、A④以降は持ち直したものの、肝心かなめのB①「Here Comes The Sun」でチリパチが再発してガッカリ。見た目は Ex でも実際に聴くと VG という、レコード・コレクターにとっては一番嬉しくないパターンだ。入っている音そのものはキラリと光るものがあるので実に勿体ない。
 私はどうしても諦めきれず、「Abbey Road」のスペイン盤を買い直すことにした。このレコードを聴くたびに要らぬストレスを溜めるくらいなら、数千円の追加出費で気持ちよく聴ける「Abbey Road」を手に入れた方が精神衛生上遥かに良いと思ったからだ。今度はネガティヴ・フィードバックがゼロのセラーが出しているブツの中から厳選し、更に送ってもらった写真を拡大して詳細に分析・比較した上で €50 の VG+盤に決定。さすがに3枚目は考えてないのでこれがラスト・チャンスだ。
 レコードが届いて恐る恐る盤面をチェックすると見た目は文句なしに合格だ。マザー№は 2/1 でスタンパーは刻印されておらず、しかもB面のセンター・レーベルに Her Majesty の表記が無くて、ジャケットの色合いも先に買った盤よりも深みがあってスパインのデザインも違う(←太字の “Abbey Road The Beatles” のみでカタログ№なし)。どうやら今回送られてきた方が正真正銘の 1stプレスのようだ。要するにレーベルの色やデザインばかりに注意が行っていて「Abbey Road」購入時の基本中の基本とでも言うべき Her Majesty 表記の有無の確認を怠っていたのだが、怪我の功名というべきか、そのおかげでスペイン盤「Abbey Road」の 1stプレスと 2ndプレスの聴き比べをすることが可能になった。
 こちらの 1stプレス盤は聴いてて不快に感じるチリパチはほぼ無くて一安心。2ndプレス盤と比較して、盤質の良さを差っ引いても鮮度の高さ故かこちらの 1stプレス盤の方がパワー/クリアネス共に上回っており、結果論になるが、この2枚目アビー・ロードを買って大正解だった。これからスペイン盤「Abbey Road」を買おうかなぁと考えている人は焦らずに盤質の良い Su Majestad(Her Majesty)無しの 1stプレス盤一点狙いがいいと思う。

スペイン盤特集③「Help!」「Revolver」

2023-12-10 | The Beatles

 ビートルズのスペイン・オリジナル盤を探していて感じたのは、後期のステレオ盤がわりとすんなり手に入ったのに対し、「Revolver」以前、すなわち “赤盤イヤーズ” のモノラル盤を探すのは結構大変だということだ。それも初期のアルバムになればなるほど入手困難で、中でも「Please Please Me」「With The Beatles」「A Hard Day's Night」の最初期 “ゴシック・オデオン・ロゴ” 盤に至っては超稀少で滅多に市場に出てこない。
 「Beatles For Sale」以降のいわゆる “ビッグ・オデオン・レーベル” 盤では少しはマシになるものの、盤質の良いブツを見つけるのは難しく、こちらとしてはじっくりと腰を据えて長期戦を覚悟せざるを得ない。そういうワケで前回取り上げた「Beatles For Sale」と「Rubber Soul」の後しばらくは何の成果も得られなかったのだが、1ヶ月ほど粘ってようやく見つけたのが「Help!」だった。盤質表記はVG+で説明文には great copy と書いてあったので早速写真を送ってもらったところ、まごうことなきビッグ・オデオン・レーベルだ。盤面もキレイそうだったので即オーダーしたのだが、裏面にステッカーの剥がし跡があったおかげで €35 というリーズナブルなお値段で買うことが出来た。
 「Help!」というと本来ならば音質最強であるべきUK盤の音がイマイチなので各国盤、特に独自マトの盤を買う時には期待が高まるのだが、このスペイン盤(マザー/スタンパーは1L/1O)ではイタリア盤のような奇跡は起きず、“悪くはないけどそれほど良くもない” という感じのごく普通の「Help!」だった。特にA⑥「You're Going To Lose That Girl」の眠たさは他のUKマザー盤と同じ症状で、B面になると少しマシになるところまで酷似しており、もちろん個体差もあるかもしれないが、「Help!」に関する限りはスペイン盤といえども “目の覚めるような音” とはいかなかった。まぁこればっかりは実際に自分の耳で聴いて確かめるしかないのでしゃーないか。
 このように音の方はともかくとしてやっとのことで「Help!」を手に入れて、「Beatles For Sale」以降はいよいよ残すところあと1タイトルとなったスペイン盤。その残り1枚の未入手盤というのが「Revolver」だったのだが、先月久しぶりにB-SELSに立ち寄ってエサ箱を漁り始めてすぐ、スペイン濃青ビッグ・オデオン・レーベルの「Revolver」を発見! オリジナル・アルバム13タイトルの内、ピンポイントで私が探している盤が置いてあるなんて何たる偶然... こんなこともあるんやねぇ...(-。-)y-゜゜゜
 私はここ20年くらいはほとんどネットでレコードを買ってきたこともあって、このように幸先よくお目当てのレコードを見つけて “誰にも渡さんぞ” とばかりに小脇に抱えながらエサ箱チェックを続けるこのウキウキワクワク感はめっちゃ久しぶりで、実に懐かしく心地良いものだった。先にレコード試聴されていたお客さんが遠くから来られていたこともあって、ジモミンの私は聴かずに買って帰ろうかとも思ったのだが(←B-SELSの盤質表記の正確さはこの私が一番良く知っている...)、Sさんとそのお客さんのご厚意で両面のアタマの数曲だけ聴かせていただくことになった。
 A①「Taxman」から私の予想通り、いやそれ以上の骨太モノラル・サウンドがお店のスピーカーから飛び出してきた。横で一緒に聴いておられたそのお客さんも “スゴイ音ですねぇ...” と感心しておられる。Sさんはいつものアルカイック・スマイルだ。A②「Eleanor Rigby」のストリングスが硬派な響きでグイグイ迫ってくるこの快感は筆舌に尽くし難い。B面ではB②「And Your Bird Can Sing」のジョンのヴォーカルがワイルドでアグレッシヴに前面に出てきて惚れ惚れする。スペイン独自マト、しかも1G/1Rという最初期スタンパーが生み出すこの野太い中域がジョンの翳りのあるシャウト・ヴォイスの魅力を存分に引き出しているのだ。
 試聴はもうこれで十分と判断してB面途中で針を上げてもらい、支払いを済ませて家に飛んで帰って自分のシステムで聴いてみたが、お店で聴いた通りのごっついモノラル・サウンドが楽しめて大満足\(^o^)/ あんまり嬉しかったので、同じ盤を2連続で聴いてしまったほどだ。細かいことを気にせずにパワーでグイグイ押し切るスペイン盤の豪快なモノラル・サウンドは一度ハマったら病み付きになりまっせ... (≧▽≦)

スペイン盤特集②「Beatles For Sale」「Rubber Soul」

2023-12-03 | The Beatles

 私の各国盤蒐集は一旦火が付くと止まらない。これと決めたらありとあらゆる通販/オークション・サイトを調べ上げて一気呵成に根こそぎ買い漁るパターンなのだが、そんな私が今ハマっているのがスペイン盤だ。きっかけは前回ここに書いた「ペパーズ」のモノ盤で、続いて「ホワイト」を首尾よくゲットした後、三匹目(?)のドジョウを狙って eBayで“Beatles, LP, Spain (Spanish)” で検索してみたが、出品されているブツは Light Blue Label(薄青レーベル)、つまり70年代プレスのステレオ盤ばかり。言っちゃ悪いが再発ステレオ盤なんぞに用はない。私が欲しいのは 1stプレス、つまりリアルタイムで60年代にプレスされた爆音モノラル盤だ。まぁ無いものはしゃあないので、ここしばらく絶縁状態だった Discogs を久々にチェックしてみた。
 Discogsは新しいβヴァージョンになって自分的には見にくくなったのだが、プレス国を絞って検索・表示できるようになった点だけは(←日本語表示だとバグるが、英語表示にすると何故か機能する...)各国盤蒐集の観点から言うとめちゃくちゃ助かる。私は1枚につき予算1万円以内で盤質VG+以上のレコードを狙って探すことにした。
 その結果わかったことは、60年代プレスのスペイン・モノ盤って状態の良いものは思いのほか少ないということ、そしてスペイン人のセラーに “写真を送って!” とメールしても返事が返ってくる確率が他国セラーに比べてめちゃくちゃ低いということだ。とにかく “こいつらホンマにヤル気あんのか???” と疑いたくなるぐらい返事が来ない。英語がワカランのか、そういう国民性なのか、それともスマホがそれほど普及してないのか(笑)、とにかくコミュニケーションが取りづらい連中だ。スペイン盤は70年代初めに濃い青色のレーベルから薄青レーベルに変わるのだが、Blue間違いで薄青の再発盤なんぞを送ってこられたらたまったモンじゃないので、写真によるチェックは必須なのだ。
 そんなこんなで苦労しながらまず手に入れたのが「Beatles For Sale」だった。盤質表記は VG+ だったが送られてきた写真を見ると目立ったキズも無さそうだし、excellent sound という説明を信じて即決。届いた盤を目視チェックするとスピンドル・マークがほとんどない極上NM盤で、もちろん独自マト(マザー/スタンパーは1R/1A)である。一体どんな音で鳴るのか興味津々で盤に針を落としたところ、A①「No Reply」のジョンのザラついた声がリスニング・ルームに響き渡り、部屋の空気をジャケット・イメージと同じ黄土色に染め上げた。う~ん、これはエエ感じだ。
 A④「Rock And Roll Music」はギター、ベース、ドラムス、ピアノが混然一体となって凄まじい勢いでドドーっと迫ってくるところが超絶気持ち良いし、その一方でA⑤「I'll Follow The Sun」の温もりを感じさせるヴォーカルにはホッコリさせられる。A⑦「Kansas City」のアーシーな感覚の表現には唸ってしまうし、B⑤「I Don't Want To Spoil The Party」のジョージのギターもキレッキレで言うことナシ。アルバム全編を通してとにかく音の密度感が高いのだ。溝の状態の良さも寄与していると思うが、それも元々の音が良ければこそだ。このレコードを聴いてスペインのモノラル盤に対する私の信頼は確固たるものになった。
 このように幸先良く「Beatles For Sale」のピカピカ盤を手に入れた私がその次にゲットしたのが「Rubber Soul」だ。このレコードも盤質の良い濃青ビッグ・オデオン・レーベル盤は中々出てこずに苦労したが、1ヶ月近く粘って盤質VG+のブツがeBay に出品されて即ゲット。届いた盤に盛大なスピンドル・マークがあって一瞬ヤバいかなとも思ったが、丁寧に聴かれていたのか盤が強いのかその両方なのか、ほとんど問題の無いExレベルの音で鳴ってくれて一安心。もちろんこちらも独自マト(マザー/スタンパーは1GM/1R)である。その音はラウドカットではないものの、他のスペイン・モノラル盤同様の豪放磊落なサウンドで聴いてて実に気持ちが良いのだが、何よりも驚かされたのがその重低音の豊かな響きで、下の下の方まで余裕で出ている感じがする。これはUK盤はもちろんのこと、他のどの各国盤とも違うスペイン盤ならではの長所ではないかと思う。
 いきなりA①「Drive My Car」から腰の据わった低重心サウンドがパワー全開でグイグイ押してくるこの快感... (≧▽≦) A④「Nowhere Man」なんかもう重厚なコーラスに圧倒されて気持ち良いことこの上ない。A⑥「The Word」のギターのシャープな切れ味も格別だし、歪みなしの大音量でA⑦「Michelle」を聴ける喜びを何と表現しよう? B③「I'm Looking Through You」の地の底で蠢くようなおどろおどろしいベースには驚愕させられたし、B④「In My Life」の音のバランスの良さも最高だ。特に赤盤の2023Mixを聴いた後では(←不自然なくらいに強調されたベルの音がうるさすぎて聴くに堪えない糞ミックス...)余計にそう思ってしまう。とにかく細かいことを気にせずにモノラルの爆音で気持ち良くビートルズを聴きたいという人にとって、スペイン盤はピンズドではないかと思う。

スペイン盤特集①「Sgt. Pepper's」「White Album」

2023-11-26 | The Beatles

 少し前のことになるが、ヤフオクでビートルズ関連のレコードを定期チェックしていて、「この商品も注目されています」 という欄に(←最近このパターン多いなぁ...)「激レア!『Sgt.PEPPERS LONELY HEARTS CLUB BAND』スペイン モノ盤 ODEON 赤レーベル 1967年オリジナル 美品」というのを見つけた。スペイン盤というと私はポールの「RAM」1枚しか持っていなかったのだが、きめ細やかで音圧低めなその音作りはパワー至上主義者の私にとってはイマイチ物足りなく感じられ、それ以降スペイン盤は購入対象から外れていた。
 しかし今回私が魅かれたのは “モノ盤” というパワー・ワードである。「Please Please Me」から「Let It Be」に至るまで、UKオリジナル盤は一応モノとステレオの両方を持ってはいるものの、モノ盤が存在する「White Album」まではターンテーブルに乗る比率は9:1かそれ以上の圧倒的大差でモノ盤だし、カートリッジ交換や針圧調整が面倒臭くなってくると「Abbey Road」「Let It Be」「Hey Jude」のようにステレオ盤しか存在しない後期の盤も、邪道かもしれないがブラジル盤やアルゼンチン盤のモノラル・サウンドで楽しむことが少なくない。そんな “モノ大好き人間” の私にとって、モノラル衰退期にリリースされたせいでステレオ盤が多数を占めるペパーズとホワイトは “モノ盤” というだけで魅かれてしまうのだ。
 オーディオをフレッシュン・アップしてますますモノラル盤のパワー偏重主義に拍車がかかっていた私は “スペインのモノ盤か... 音圧はちょっと低そうやけど、ヴォリュームを上げたったらUKマザーとは又一味違うペパーズが聴けるんちゃうか...” と考えた。早速商品説明欄を見てみると “1967年に発売されたスペイン製オリジナルのモノラル盤で、ジャケのダメージも、レコードのスピンドル・マークも、スクラッチノイズ・サーフェイスノイズもありません。音質は英国盤にも増して繊細な印象です。現在これだけのコンディションのスペイン製モノ盤を入手するのは困難です。” とある。
 おお、これは中々良さそうだ。あと1日を残して既に8,000円まで上がっているのがちょっと不気味だったが、スペイン独自マトの繊細な音をモノラルの爆音で聴けるというのは興味津々だし、わざわざ海外のセラーから盤質ギャンブルしてレコードを買うよりは少々お高くてもヤフオクでピカピカ盤を買うた方がエエんちゃうか... と考え、私はこのレコードをウッチリストに入れておいた。しかし残念なことに締め切り直前の1時間で値段が一気に跳ね上がり、私はただ指をくわえて見守るのみ... 結局34,700円という高値で落札された。
 スペイン盤のくせに(←失礼!)何でこんなに人気あるんやろ?と怪訝に思いながらも私はこのレコードのことが頭から離れず、やっぱり自力で海外から買うしかないかと eBay でチェックしてみたところ、Ex−の盤が1枚だけオーストラリアのセラーから出ており、送料込みでも7,000円ちょっとというお手頃価格だったので即決。あとは盤質がそれなりに良いことを願うのみだった。
 レコードはオーストラリアからの発送ということでわずか10日で到着。アメリカやヨーロッパとは違って送料が安くてしかも早く着くのが嬉しい。肝心の盤質は静音部で少しチリパチはあるものの、いったん音楽が始まってしまえば全く問題にならないレベルで、コスパを考えれば十分満足のいくもの。支払いがオーストラリア・ドル(←米ドルより遥かにマシ...)というのもラッキーだった。
 音の特徴は予想に反してガッツのある力強いサウンドでビックリ(゜o゜)  嬉しくなってアンプのヴォリューム・ノブを更に右に回しながらパワーをぶち込んでやるとえげつないぐらいのラウドで気持ちの良い音がスピーカーから迸り出て来る。これを聴いて、他のどの各国盤とも違うスペイン独自カッティングならではの緻密な音作りこそ、可能な限りヴォリームを上げて聴くのが大正解だと思った。ペパーズのモノ盤と言えばこれまでUK盤一択に近い状況で、たまに気が向いた時に南ア盤やオランダ盤、インド盤なんかを聴く程度だったが、このスペイン盤の満足度はモノラル・ペパーズの中でもピカイチ。プレスやカッティングの違いで楽曲が色んな表情を見せてくれるのがビートルズ各国盤蒐集の面白さだ。
 すっかり調子に乗った私が(←いつもこのパターンやな...)ついでにホワイトもいったれと eBay をチェックするとラッキーなことに VG+の盤が €60で出ており、盤質もまあまあ良さそうだったし送料も2枚組にしては安かったので BUY IT NOW でゲット。これまでも何度か手に入れようとしたことがあったのだが、値段とか盤質の点で良い出物が無くて半ば諦めかけていたのだ。今回はホワイトのモノ盤がVG+で12,000円弱ということでかなり良い買い物をしたと思っている。
 私はペパーズと同様にホワイトもステレオ・ミックスよりもモノ・ミックスの方が好きなのだが、このアルバムが出た1968年というのは世界的にモノラルが廃れてステレオが主流になっていた時期なので、ホワイトのモノラル盤というのは非常に貴重。私の知る限りではUKオリジナル以外ではオーストラリアとスペイン盤があるのみ(→ブラジル、アルゼンチンといった南米勢のホワイト・モノ盤はステレオ・ミックスを無理やりモノに加工した「偽モノ」)だ。ましてや独自マトのホワイトとなると世界広しといえどもこのスペイン盤だけなんである。
 レコードの方はVG++ぐらいの盤質でA③「Glass Onion」のエンディングに少しノイズが入るのを除けばExレベル。音の傾向はスペイン盤ペパーズとほぼ同じで、パワー全開のラウドなサウンドで大好きなホワイトが楽しめる。とにかく中低域がしっかりしており、腰の据わった骨太のモノラル・サウンドがスピーカーからドドーッと飛び出してくるのだ。
 中でもA⑧「Happiness Is A Warm Gun」のまるで大蛇のようにうねるベースの音には心底ブッたまげたし、C⑥「Helter Skelter」のベースなんてもう狂喜乱舞という表現がピッタリの大暴れ。続くC⑦「Long Long Long」の、まるで地の底から響いてくるかのような重低音の響きはUK盤すら凌駕している。高域の抜けの良さも特筆モノで、何度も繰り返し聴きたくなるような親しみ易い音作りだ。先のペパーズといい、このホワイトといい、スペインのモノラル盤って侮れへんなぁ... とそれまでの考えを改めさせられた。

「赤盤」「青盤」リミックス2023

2023-11-12 | The Beatles
 「Now And Then」が届いてちょうど1週間になるが、聴けば聴くほど胸に沁み込んでくる。実に滋味深い味わいの一曲である。ましてや4人が “共演” しているプロモビデオを観てしまうとそれこそ目頭が熱くなってしまう。この曲を聴いた時の反応をYouTube上で様々な人たちがアップしているのを見たが、中でもこの人↓のがわかりやすくて良かった。
Classical Composer Reacts to THE BEATLES: NOW AND THEN | The Daily Doug (Ep. 686)


 今回の「Now And Then」プロジェクトにおいて、“デミックスによる奇跡的な新曲の完成” と並ぶもう一つの目玉が「赤盤」「青盤」の2023リミックス盤のリリースだ。これまで何度も書いてきたように「赤盤」こそが私が初めて買ったビートルズのレコードであり、もしもこのレコードとの出会いがなかったら、ヘタをすれば今とは全く違った無味乾燥な人生を送っていたかもしれない。金パロ盤やニンバス盤、スタンパー1G盤や高音質各国盤の入手に一喜一憂するビートルズ・アナログ桃源郷の楽しさを知らずに生きる人生なんて、考えただけでもゾッとする。つまり「赤盤」がなければ今の私は存在しない... と言えるぐらい絶大な影響を受けているわけで、同じベスト盤でも「Oldies」や「1」のように何の想い入れもない凡盤駄盤の類とは激しく一線を画す、特別なレコードなんである。
 シングル「Now And Then」の1週間後にそんな「赤盤」のニュー・リミックス盤が「青盤」と同時リリースされると聞いて私の胸は高鳴った。2017年の「Sgt. Pepper's」を皮切りに「White Album」「Abbey Road」「Let It Be」「Revolver」と続いてきたジャイルズ・マーティンによるリミックス・プロジェクトが初期の作品をどのように聴かせてくれるのか興味津々だった私にとって、「赤盤」というのは今後のビートルズ・リミックス盤の出来を占う大きな試金石のようなものだったからだ。
 話が「赤盤」に偏ってしまったが、後期の曲はシングルではなくアルバム単位で聴くことがほとんどだったせいもあって「青盤」に対しては愛着が薄く “後期の有名曲をただ並べただけ” というのが正直なところだったし、その考えは今も変わらないが、US編集LPである「Magical Mystery Tour」「Hey Jude」収録の曲や、ボートラ扱いの「Hey Bulldog」をジャイルズがどのように料理するかに興味があったので「赤盤」「青盤」の両方とも一気買いすることにした。当然輸入盤LP狙いである。いくつかのサイトを比較した結果 “まとめ買い価格” を使ったHMVが一番安かったのでそこですぐに予約した。
 レコードは発売日の11/10に到着。新品なのでクリーニングの必要がないのが嬉しい。すぐに「赤盤」のディスク1をターンテーブルに乗せて針を落とす。そこで静寂の中から聞こえてきた「Love Me Do」はベースがめっちゃデカく入っていて全体のバランス・印象が旧来のミックスとはかなり異なっており、のっけから驚かされた。実を言うとシングル「Now And Then」のB面はテキトーに1回聴いただけでA面ばかり繰り返し聴いていたのでこんなことになっていようとは夢にも思わなかったのだ。続く「Please Please Me」も何か思うてたのと違う。しかし「She Loves You」あたりからこのニュー・ミックスの音作りに慣れてきて、「I Want To Hold Your Hand」や「All My Loving」なんかは結構楽しめたし、弦楽器の配置を変えて音場の広がり感をアップさせた「Yesterday」はその包み込まれるような感じが気持ち良い。ただ、上記の初期シングル曲やボートラの「I Saw Her Standing There」などを聴いていて思ったのだが、ひょっとすると1963年の最初期2トラック録音はデミックスといえども音質面で色々と難しい部分があるのかもしれない。
 今回のプロジェクトは “左右泣き別れステレオ” を解消して定位を整えるというメリットと、それぞれ楽器ごとにデミックスしてからそれらを改めてリミックスするために楽器の音が少し変わってしまうというデメリットの狭間で落としどころを見つけるという気の遠くなるような作業だったと思うのだが、それぞれの曲の最適解というのは当然聴く人によって変わってくるわけで、今回のジャイルズのリミックスに関しては賛否両論あって当然だろう。私的には曲によって当たり外れはあるものの、それなりに興味深く楽しめたと言えるが、こればっかりは個人個人で今回のニュー・ミックスに対する好き嫌いを判断するしかないだろう。
 そんな中で私が “さすがにこれはちょっとやりすぎでは???” と思ったのが「青盤」収録の「I Am The Walrus」だ。特に曲の中盤から後半にかけては各楽器のバランスがかなり変えられており、それだけでも結構違和感があるのに、エンディングに近づくにつれてこれまで聴いたことがないような音(←ラジオ音声やオーケストラetc)がわちゃわちゃ出てきてもう何が何だか... の世界。おそらくオリジナルのマルチトラックにあったボツ音源をジャイルズの判断で復活させたのだと思うが、ハッキリ言ってこういう改悪はやめてほしかった。例えるならクラシック・カーのエンジンを最新型に載せ替えて更にリアウイングやディフューザーまで取り付けたような感じ、といえばわかってもらえるだろうか?
I Am The Walrus (2023 Mix)


 「赤盤」では「In My Life」がキツかった。どういうわけかデジタル臭さが強く出過ぎて、この曲のキモというべき抒情性に浸ろうと思っても高音がやかましすぎて楽しめないのだ。ストリーミング音源をスマホとイヤホンで聴いている今時の若者ならこういうのも平気なのかもしれないが、昭和育ちのコテコテ・アナログ人間の私は正直ちょっとついていけない。お父さんの故ジョージ・マーティンがこれを聴いたらどう思うだろうか?
In My Life (2023 Mix)


 私に関する限り、ビートルズのニュー・リミックスというのは物珍しさで買って聴き、しばらくすると飽きて結局オリジナル盤に戻るというパターンが圧倒的に多かった。「Yellow Submarine Songbook」しかり、「Let It Be Naked」しかりである。今回の2023年ミックスの「赤盤」「青盤」もおそらくそうなるだろうし、それで十分だと思っている。こう言っては身も蓋もないが、“珍味” と “美味しい” は違うのだ。そう言えばこの2023年ミックス盤が届いた同じ日にたまたま「青盤」のスペイン・オリジナル盤が海外から届いたので興味本位で聴き比べてみたのだが、私の耳にはスペイン盤の方が圧倒的に心地良く響いた。今後もテクノロジーの進化と共にどんどん新しいミックスが作られることになるのだろうが、それによって逆にオリジナル盤の価値が上がっていくという皮肉な現象が生まれてきそうだ。

【追記】レコードが届いてから数回聴き込んで徐々にこの新しいミックスにも慣れてきたところだが、今一番不満に感じるのは「青盤」のボーナス・トラックの選曲だ。新曲「Now And Then」はまぁ仕方ないとしても(←でもみんなシングル盤で既に買ってるでしょ?)、残り8曲の中で新出といえば「Hey Bulldog」のみ(←期待したわりにはイマイチのミックスやった...)で、後は「Sgt. Pepper's」や「White Abbum」で既出の音源ばかり。私としては「Magical Mystery Tour」や「Yellow Submarine」で未だニュー・ミックスを出してない曲(→「Your Mother Should Know」聴きたかったなぁ... 「It's All Too Much」なんか絶対面白そうなのに...)でボーナス・ディスクを作ってほしかった。“ビートルズはファンに二度買いさせない...” とは何だったのか。