shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

マイ・ロマンス / ペギー・リー

2010-01-31 | Standard Songs
 私の愛読しているブログに shoppgirl 姐さんの ☆★My Willful Diary★☆ がある。何気ない日々の出来事を綴った日記風のブログで、毎回姐さんお気に入りの “この1曲” を紹介されているのだが、そのセンス抜群の選曲と絶妙な “なりきり意訳” 、それにウィットに富んだ文章が楽しみで毎日チェックしている。
 先週そこでジェームズ・テイラーの「マイ・ロマンス」が紹介されていた。おぉ、我が愛聴曲が取り上げられとるやないか!しかもめっちゃ分かりやすい意訳付きで...(^.^) 根が単純で影響を受けやすい私は早速自分のブログでもこの曲を取り上げることにした。
 アメリカを代表する作曲家リチャード・ロジャースがミュージカル用に作ったこの曲は、元々はロマンチックな歌詞を切々と歌い上げるスローなナンバーで、ドリス・デイを始めリー・ワイリーやジョニ・ジェイムズといった古き良きアメリカを象徴する女性シンガーの名唱を生んできた。姐さんが紹介されていたジェームズ・テイラーのヴァージョンも胸に沁み入る歌声と粋な口笛がたまらない、まさに名曲は名演を呼ぶの好例だろう。姐さん、エエのを紹介して下さりありがとうございました(^o^)丿
 私は基本的にアップテンポでスインギーなジャズが好きなので、スロー・バラッドの愛聴曲というのは非常に少ない。だから最初のうちはこの曲に特に魅かれることもなかったのだが、ジャズ・ピアノ屈指の名盤「ワルツ・フォー・デビィ」のB面1曲目に収められていたスインギーなヴァージョンを聴いた瞬間にこの曲にすっかりハマッてしまった。それ以来、私は “スイングする「マイ・ロマンス」” を探し求めて現在に至っている。ということで今日はスインギーな「マイ・ロマンス」5連発です;

①Peggy Lee
 「フィーヴァー」の名唱で有名なペギー・リー 1961年のライヴ盤「ベイズン・ストリート・イースト」の中でこの曲は「One Kiss ~ My Romance ~ The Vagabond King Waltz」というメドレーの1曲として歌われていたが、私は今までこれほどスイングする「マイ・ロマンス」を聴いたことがない。更に凄いのはスイングしながらも随所でペギー・リー節を連発するところで、特に “soft guitar” の soft の発声なんかもう見事という他ない。出来ればメドレーの一部としてではなくフル・ヴァージョンで聴いてみたかった。
ペギー・リー


②Bill Evans
 エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビィ」と言えばほとんどの人がA面1曲目の「マイ・フーリッシュ・ハート」と2曲目のタイトル曲にしか言及しないのは一体どういうワケだろう?みんなB面聴いてへんのかな?それに口を開けばアホの一つ覚えみたいにエヴァンスとラファロのインタープレイのことしか言わへんけれど、私はポール・モチアンの絶妙なブラッシュ・ワークこそがこのアルバムを際立たせている陰の立役者だと思う。とにかくこの「マイ・ロマンス」、私にとってはエヴァンスの、そしてピアノ・トリオ・ジャズの金字塔と言える演奏だ。
マイ・ロマンス


③Lem Winchester
 ヴァイブ奏者レム・ウインチェスターの知る人ぞ知る “隠れ名盤” 「ウィズ・フィーリング」のラストにひっそりと収められていたこの「マイ・ロマンス」を発見した時は本当に嬉しかった。軽快なヴァイブの音色が耳に心地良いが、この演奏をスイングさせているのは名人ロイ・ヘインズの変幻自在のブラッシュ・ワークだ。ブラッシュ良ければすべて良し、の典型といえる名演ではないだろうか?
レム・ウインチェスター


④Charly Antolini
 スイングするフォービート・ジャズにかけてはヨーロッパ随一といわれる名ドラマー、チャーリー・アントリーニは60年代からスイング一筋の頑固一徹オヤジである。そんな彼が1990年にリリースした「クッキン」でこの曲を豪快に料理、歌心溢れるテナーはディック・モリッシーだ。
チャーリー・アントリーニ


⑤平賀マリカ
 マリカ姐さんは私が大好きなジャズ・ヴォーカリスト。彼女が選曲するスタンダード・ナンバーは私の好みとコワイぐらいに一致しており、アルバム全曲が愛聴曲で埋め尽くされているのが嬉しい(^.^) そんな彼女の 4th アルバム「モア・ロマンス」に入っていたこの曲、しっとりした歌い出しから気持ち良さそうにスイングし始め、フェイクを交えて活き活きとこの名曲を歌い切るあたり、正統派ジャズ・シンガーの面目躍如である。
平賀マリカ
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The Dance (DVD) / Fleetwood Mac

2010-01-30 | Rock & Pops (80's)
 フリートウッド・マック/スティーヴィー・ニックス・ウイークもいよいよ最終回、今日は1997年の奇跡的なリユニオン・コンサートの模様を収録した DVD「ザ・ダンス~グレイテスト・ヒッツ・ライヴ」である。洋楽暗黒時代の1997年にこのフリートウッド・マック再結成ライヴが出た時、ラップやオルタナだらけの洋楽とほぼ絶縁状態にあった私はそのリリースすら知らなかったし、たとえ知っていたとしてもそれまでと同じような期待感を持って CD を買いに走ったとは思えない。過去に栄華を極めたスーパー・グループの再結成、リユニオンというのは全盛期が凄ければ凄いほどその凋落ぶりが浮き彫りにされ、あまりの落差にガッカリということが多かったからだ。だからその後何かでこのアルバムの存在を知った時も食指は動かなかった。リンジー抜きの「ビハインド・ザ・マスク」(90年)がとてもマックとは思えないようなトホホなアルバムだったこともあって、私の中ではマックは87年の「タンゴ・イン・ザ・ナイト」で既に終わっていたも同然だったし、ライヴ盤なら80年の「フリートウッド・マック・ライヴ」があるから今さら同窓会的なリユニオン・コンサートのライヴ盤を聴いてもしゃあないわ、と思ったのだ。
 そんなある日のこと、ゲオの100円キャンペーンで店内を物色していた時、音楽 DVD コーナーで偶然この「ザ・ダンス~グレイテスト・ヒッツ・ライヴ」DVD を見つけた。“マックか... 懐かしいなぁ... そー言えば DVD は1枚も持ってへんかったから試しに借りてみよか...” という軽~いノリでこの盤を借りてきた。私は単なる “懐メロ” と割り切って楽しもうと思っていたのだ。そんな気分は1曲目の①「ザ・チェイン」を見終わった時には完全に吹き飛んでいた。これは...凄い。金目当てのお気楽な同窓会なんかじゃない。その真剣勝負のテンションの高さがビンビン伝わってきてゾクゾクしてしまう。名曲②「ドリームス」は20年の時を経てその輝きを増しているように思えるし、大好きな③「エヴリホエア」は「タンゴ...」収録のスタジオ・ヴァージョンよりも活き活きと響く。クリスティンに寄り添うスティーヴィーとリンジーのバック・コーラスが絶妙な味を出しており、やっぱりマックはこの3人が揃ってナンボやなぁと改めて実感させられる1曲だ。
 このライヴで一番強いインパクトを残したのは大好きなスティーヴィーでもなければクリスティンでもなく、間違いなくリンジーだった。そのヴォーカルといい、ギター・プレイといい、全盛期を凌ぐ切れ味を見せており、 “リンジーってこんなに凄いギタリストやったんや...(゜o゜) ” と再認識させられた。⑤「アイム・ソー・アフレイド」における入魂の、そして大名曲⑧「ジプシー」(←典雅に回るスティーヴィーもたまりません!)における変幻自在のプレイも凄いが、何と言ってもコンサート中盤に設定された2曲のソロ・パフォーマンスが圧巻だ。他のメンバーが一旦ステージから引き揚げ、リンジーが語り始める;“次の曲を書いた時、僕はマックでの終わりを迎えていた。グループを抜けるのはツラかったけど、成長するためでもあった。そして皆成長し、僕も昔の自分とは違う。演奏の仕方も変わった...” と言っておもむろにアコギの弾き語りに突入... ⑨「ビッグ・ラヴ」だ。我々の知っているあの完全無欠なポップ・ソングがまるで違う曲のように聞こえる。心の内にあるものを曝け出すかのような彼の魂の叫びが会場に響き渡り、オーディエンスも水を打ったように静まり返っている。凄まじいまでの緊張感だ。彼が歌い終わると万雷の拍手が湧き起こり、何とここでスタンディング・オベーション! 続く⑩「ゴー・インセイン」も原曲の片鱗はもはやなく斬新なアプローチで歌い演奏される。その鬼気迫るパフォーマンスに表現者としてのリンジーの進化が表れているように思う。オーディエンスは連続スタンディング・オベーションという形で彼に最大限の賛辞を贈ったが、私も心を大いに揺さぶられた。この2曲だけでもこのライヴを見てよかったと思えるほどだ。
 再びメンバー全員がステージに揃って後半はヒット曲のアメアラレ攻撃で、中でも私が一番好きなのが⑫「セイ・ユー・ラヴ・ミー」だ。ポップスの楽しさ、素晴らしさをこれ以上ないぐらいに見事に表現したウキウキするようなメロディーを持ったマック屈指の名曲を、メンバー全員がステージに横一列に並んで楽しそうに歌い演奏するのだ。“ウ~ ラン ララ~♪” というコーラス・ハーモニーもたまらない(^o^)丿 フリートウッド・マックでどれか1曲選べと言われたら私は迷うことなくコレを選ぶ。⑯「オーヴァー・マイ・ヘッド」もグッとくる。この曲を聴いていると、クリスティンのホンワカしたヴォーカルこそがフリートウッド・マックというバンドに必要不可欠なものだと改めて痛感させられる。彼女抜きの今のマックは私にとってはもはやマックではない。
 アンコールでは南カリフォルニア大学のマーチング・バンドとの共演で⑳「タスク」と(21)「ドント・ストップ」を披露、会場はもう大盛り上がりだ。どちらもスタジオ録音版を遥かに凌駕するダイナミックで躍動感に溢れるヴァージョンに仕上がっている。音楽ってエエなぁ...と思わせてくれるこの素敵なライヴ盤は全米アルバム・チャート初登場1位を記録、結局500万枚を売りつくしマックにとって久々の大ヒットとなったのだが、まさにフリートウッド・マックという偉大なバンドの最後を飾るに相応しい傑作ライヴだと思う。尚、 CD よりも5曲多く収録された DVD が絶対的にオススメだ。

Fleetwood Mac - Say You Love Me - The Dance -1997


FLEETWOOD MAC/Сhristine McVie. Everywhere.


Fleetwood Mac - Big Love (Live: The Dance)


Fleetwood Mac - Go Insane - The Dance -1997


Fleetwood Mac "the Dance" TUSK
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Crystal Visions (DVD) / Stevie Nicks

2010-01-29 | Rock & Pops (80's)
 今日は「クリスタル・ヴィジョンズ」の DVD編だ。スティーヴィーのビデオクリップ集というのは単体では出ていないのでめっちゃ嬉しい。コレだけで元が取れてしまうくらいの凄いオマケだ。ベスト盤に過去のクリップ集DVDを付けるというのは他のアーティストもぜひマネをしてほしいフォーマットだ。特に彼女のようにヴィジュアル面での魅力が大きいアーティストなら売上アップにつながること間違いなし。とにかくコレは目と耳の両方で楽しめる至福の全13曲約60分なんである。
 ①「ストップ・ドラッギン・マイ・ハート・アラウンド」は彼女のソロ初ヒットで、艶めかしい黒のドレスに身を包み、物憂げなカメラ目線で(?)トム・ペティとデュエットするスティーヴィーに萌えてしまう。真横を向きながら身体を反らすポーズには荒川静香も顔負けだ。②「エッジ・オブ・セヴンティーン」は以前書いたように私のスティーヴィー狂いを決定的にしたライヴ映像。白いドレスで歌い踊るスティーヴィーがク~ッ、タマラン!!! 「スタンド・バック」は③スカーレット・ヴァージョンと④スタンダード・ヴァージョンの2種類が連続収録されているが、③はこの曲がヒットしていた当時には見たことがなかったもので、私にはストーリー展開がイマイチわかりにくい。やっぱりコレは躍動感溢れるダンス・シーン満載の④がいい。こっちは彼女の全ビデオの中で②と並ぶ私の超お気に入り映像で、 “ヒラヒラ、回転、イナバウアー(笑)” と、スティーヴィーの魅力を余すところなく捉えた傑作クリップだと思う。特に回転に関しては浅田真央もビックリの回りっぷりでトリプルアクセルを連発、数えてみたら24回転も回っていた。⑤「イフ・エニーワン・フォールズ」はセピア色の世界とのコントラストを巧く使い、カラーの世界で歌う彼女の姿を際立たせているのがワザありだ。それにしても彼女独特の身のこなしは何度見てもマニアにはたまらんわ(笑)
 ⑥「トーク・トゥ・ミー」は彼女の持ち味を100%引き出す必殺のテンポ設定により、アンニュイで寛ぎに溢れた歌声が楽しめる。こういうのを肩の力の抜けた名唱というのだろう。ビデオの方も軽やかにステップを踏むお姿が実にチャーミングやし、間奏でバックに大写しになるサックス・ソロの映像もめちゃくちゃ渋くてカッコイイ!!! このサックス、パーソネル・データではバルネ・ウィランってなってるけど、ホンマかいな(゜o゜) ⑦「アイ・キャント・ウエイト」はホール&オーツの「アウト・オブ・タッチ」を高速回転させて派手なビートでコーティングしたような(?)ナンバーで、それまでの彼女にはなかったような大胆なサウンド処理がカッコイイ(^o^)丿 激しく歌い踊る彼女の姿を捉えた映像は必見だ。
 ⑧「ルームズ・オン・ファイア」は③同様中世ヨーロッパっぽい設定の PV なのだが、これもやはりストーリー展開がよく分からない。曲は大好きなのだが...(>_<) ⑨「ホール・ロッタ・トラブル」は疑似ライヴ映像で、私はやはりこういう単純明快なビデオが好きだ。スラッシュみたいな帽子がめっちゃ似合ってます。⑩「サムタイムズ・イッツ・ア・ビッチ」はスティーヴィー版「ブリリアント・ディスガイズ」を想わせるスプリングスティーンっぽいナンバーで、まるでスティーヴィー・ニックスというアーティストの半生を振り返るかのように過去のビデオクリップの名場面が随所に挟まれているのがファンには涙モノ。コレはグッときますぜ(^.^) ⑪「ブルー・デニム」はフリートウッド・マックの薫りが強く感じられる曲で、コレはコレで十分エエのだけれど、出来ることならコレをリンジーのギターで、クリスティンのコーラスで、ミックの叩き出すリズムで聴いてみたかったと思ってしまう。逆に⑫「エヴリ・デイ」はメロディー展開がやや平板に聞こえてしまい、私的にはイマイチだ。ラストの⑬「ソーサラー」は彼女を深くリスペクトしているというシェリル・クロウとの共演(アメリカではスティーヴィーは同性からの支持が絶大だという...)で、ちょうど彼女の「チューズデイ・・ナイト・ミュージック・クラブ」みたいなサウンドながら、二人が並ぶとあのシェリル・クロウが霞んでしまうぐらいスティーヴィーの存在感は絶大で、例のドスの効いたべらんめぇヴォーカルにも益々磨きがかかっているようだ。男から見ても女から見てもカッコ良く、カリスマ的な雰囲気すら漂ってくるスティーヴィー... こりゃあロザリー校長じゃなくてもシビレますわ(≧▽≦) 人間、こんな歳の取り方したいモンですなぁ...(^.^)

Stevie Nicks - Talk To Me (Official Video)


Stevie Nicks - Blue Denim (Official Video)

Crystal Visions / Stevie Nicks

2010-01-28 | Rock & Pops (80's)
 スティーヴィー・ニックスのキャリアは長い。マック加入からもう35年の月日が流れ、その間にグループの一員として、そしてソロとして数多くのヒットを飛ばしてきたロック・ディーヴァである。80年代に活躍したアーティストの多くはグランジ/オルタナ系ロックやラップといった非メロディー志向のサウンドが台頭した90年代(私に言わせれば “洋楽暗黒時代” であり、ポップスは死んだも同然だった...)に失速し、21世紀に入って再評価されるというパターンが見受けられるのだが、多くのアーティストがそんな紆余曲折の中でベスト盤、それもたいていはレーベルの枠を超えたオールタイム・ベストを出しており、彼女も例外ではなかった。しかし 80'sに一区切りつけた「タイム・スペース」(91年)は正直言って選曲がイマイチだったし、ボックス・セット「エンチャンティッド」(98年)は3枚組ということもあってあまり一般向けとは言えなかった。そんな不満を一気に解消してくれてオツリまで来そうな究極のベスト盤が3年前にリリースされたこの「クリスタル・ヴィジョンズ」である。
 このCDは「ベラ・ドンナ」(81年)、「ザ・ワイルド・ハート」(83年)、「ロック・ア・リトル」(85年)、「ジ・アザー・サイド・オブ・ザ・ミラー」(89年)、そして「トラブル・イン・シャングリラ」(01年)という5枚のオリジナル・アルバムからのセレクション(94年の「ストリート・エンジェル」からは選ばれていない...)に加えて、未発表ライヴ音源も何曲か収録されているのが嬉しい。又、ライナーには曲ごとに彼女自身による解説がついており、ファンには興味深い内容だ。更にこのアルバムにはCDオンリーと、CD+DVDという2種類のフォーマットがあり(←最近こーゆーパターン多いよなぁ...)、DVDには過去のビデオクリップ13曲分(それぞれ彼女のコメント音声入りとナシの両方が選べます)にプラスして、1st アルバム「ベラ・ドンナ」制作時のレコーディング風景が30分も入っているのだ!!! コレ、ホームビデオで撮影されているので画質はあまり良くないが、私のようなスティーヴィー・マニアにはたまらない超お宝映像だ。ただ、日本盤はCDオンリー(←レコード会社はヤル気ないんか?)なので、ほぼ同価格で倍以上楽しめるリージョン・フリーDVD付き輸入盤の方を迷わずゲットだ。
 上記の未発表音源だが、「噂」からの 2nd シングルで全米№1を獲得した名曲⑦「ドリームス」は “ディープ・ディッシュ・クラブ・ミックス” という何のこっちゃわからん過激なハウス・リミックスによって換骨堕胎され、ダンス・ナンバーへと華麗な(?)変身を遂げている。最初聴いた時は “何じゃいコレは?” と思ったが、何度も聴くうちに違和感は雲散霧消し、気がつけばリズムに乗って首を振っている始末(笑) ファンとしての心の広さを試される面白いトラックだ。「ファンタスティック・マック」に入っていた彼女の出世作⑧「リアノン」は2005年サンタ・バーバラでのライヴ・ヴァージョンで、97年のマック・リユニオン・アルバム「ザ・ダンス」に似たアレンジだ。この曲は今まで何百回と聴いてきたが全然飽きない。彼女のヴォーカルも昔に比べて衰えは微塵も感じられず、むしろ円熟味も加わって魅力を増しているようにすら思う。
 ⑪「ランドスライド」と⑯「エッジ・オブ・セヴンティーン」は2006年のメルボルン交響楽団との共演ライヴ・ヴァージョンで、特に弦入りで聴く⑯が実に新鮮に響く。そして本盤最大の目玉がゼッペリンの⑭「ロックンロール」をカヴァーした2005年のライヴ・ヴァージョン。彼女の解説によるとゼッペリンは昔から大好きで、この曲をずぅ~っと歌いたかったのだそうだ。女性ロッカーの「ロックンロール」といえばハートの高音炸裂ヴァージョンがすぐに思い浮かぶが、スティーヴィーも負けず劣らずロックしている。ちょうどステージ袖で見ていたロバート・プラントが絶賛したということだが、還暦を迎えてますます盛んな彼女を突き動かすこの曲の、そしてロックという音楽の底知れぬパワーを痛感させられる。とにかく妖精のスティーヴィーしか知らない人はコレを聴いてブッ飛んで下さいな。もうめっちゃカッコエエでぇ~(^o^)丿 

Stevie Nicks - Rock 'n Roll (Live) HD


Deep Dish Feat. Stevie Nicks - Dreams [Official Video HD]

The Wild Heart / Stevie Nicks

2010-01-27 | Rock & Pops (80's)
 1983年の夏、私は大学の長期休みを利用してアメリカへ遊びに行った。もちろん留学とか語学研修などという眠たい旅行ではない。文字通り遊びに行ったのだ。ちょうどその前年に奈良へ観光に来ていたテリーという音楽好きのアメリカ人とたまたま知り合って意気投合し、 “次はアンタがアメリカへ遊びにおいで!” と言ってくれていたからだ。当時私はアメリカン・トップ40 の楽しさ溢れる80'sポップスにハマリまくっていて “いつかはアメリカに行ってみたいなぁ...” と思っていたが、当時のレートは $1=250円 という今からは信じられないような超円安だったので、貧乏学生だった私にとってホテル代も食事代も浮くこのお誘いは渡りに船だった。テリーの住んでいるフロリダのデイトナ・ビーチをメインにし、後は単純思考の私らしくニューヨーク、ワシントン、サンフランシスコ、ロスアンゼルス、ホノルルといった大都市をハシゴしてアメリカを横断した。
 デイトナにいる間はテリーが車であちこち連れて行ってくれたのだが、何よりも嬉しかったのは、ハイウェイを飛ばしながらFMラジオから流れてくるヒット曲の数々を聴けることだった。DJのリズミカルな英語のお喋りに続いて好きな曲のイントロが流れてくる瞬間のゾクゾクするような感覚を味わった私は “やっぱりアメリカはエエわぁ” と大喜び(^o^)丿 中でも超へヴィー・ローテーションで1時間に1度と言っていいくらい頻繁にかかっていたのがスティーヴィー・ニックスの⑥「スタンド・バック」だった。とにかく曲のテンポ、リズムがハイウェイ・ドライヴの BGM にピッタリで、あのイントロが聞こえてくるたびにコーフンしまくっていた(←アホ!)。車を運転される方は一度この曲をかけながら時速80kmぐらいで流してみて下さい。結構エエ感じですよ。因みに車線変更しまくって他車を抜いていく “一般車スラローム” をやる時はマイケル・ジャクソンの「ジャム」がオススメです。何のこっちゃ!
 この曲は彼女のセカンド・アルバム「ザ・ワイルド・ハート」からの第1弾シングルで、シンセのイントロにドラムのビートが絡んでいく瞬間がたまらない、もう絵に描いたような80年代サウンドだ。私は基本的にシンセのサウンドはあまり好きではないのだが、これほど巧く使われるともう参りましたと言うしかない。結局全米チャートでは5位まで上がったが、私の中ではマイケルの「ビリー・ジーン」、「ビート・イット」と並ぶ1983年度トップ3であり、80年代通しでもトップ10入り確実なスーパー・ウルトラ愛聴曲だ。 2nd シングル②「イフ・エニーワン・フォールズ」はシングルとしてのインパクトには欠けるかもしれないが、繰り返し聴くうちに彼女の術中にハマり、気がつけば1日に1回どころか何回も聴かないと禁断症状を起こしてしまいそうな麻薬的な魅力を持ったアブナイ曲。彼女のアンニュイな魅力を見事に捉えたPVもファンは必見だろう。
 このアルバムはプロデューサーも参加メンバーも基本的に前作「ベラ・ドンナ」と同じなのだが、サウンド面ではカントリー色の強かった前作とは大きく異なり、シンセを多用しビートを強調した80年代っぽい音作りを推し進め、 “コケットリーな妖精” から “危険な薫りをふりまくロック・ディーヴァ” へと変貌を遂げており、アップテンポの曲が増えたのが何よりも嬉しい。①「ワイルド・ハート」はアタマから気合十分、 “このアルバムはロックでいくわよ宣言” みたいに響く力強いナンバーだし、④「エンチャンティッド」もノリノリのウエストコースト・ロックでライヴ感一杯だ。私この曲大好きですねん!(^.^)
 「スタンド・バック」みたいなイントロで始まり、コーラス面での工夫などその後の展開に結構ヒネリが効いていて思わず聴き入ってしまう⑤「ナイトバード」、トム・ペティーとのデュエットで、曲想も雰囲気も「嘆きの天使」そっくりな⑦「アイ・ウィル・ラン・トゥ・ユー」、彼女のロック・スピリットがビンビン伝わってくるミディアム調のロック・ナンバーで、このアルバム中でもひと際ワイルドな雰囲気を持った⑧「ナッシング・エヴァー・チェンジズ」と、ウエストコースト・ロックを巧く消化して自分のサウンドに昇華させている。⑨「セーブル・オン・ブロンド」はフリートウッド・マックを彷彿とさせるサウンドで、「噂」のスタジオ・アウトテイクだと言われたら信じてしまうかもしれない。ここまでガンガンやってきて、最後はスロー・テンポで切々と歌う⑩「ビューティ・アンド・ザ・ビースト」でアルバムをシメるなんて、実にニクイ演出だ。この余韻がたまりません。
 このアルバムはオリジナル・アルバムでありながらまるでベスト・アルバムみたいな感じで聴けてしまう捨て曲なしの超愛聴盤で、ウチの家には英米日それぞれの初版LPと独WEA盤CDが1枚あるが、残念ながらCDはカッティング・レベルが低くて音がヘタレなので、一番音の良いイギリス盤LPで聴いている。出来ることなら 24ビット・リマスターで再発してくれへんかなぁ...

いつもより余計に回っております↓
stand back. stevie nicks.


Stevie Nicks - If Anyone Falls (Official Video)
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Bella Donna / Stevie Nicks

2010-01-26 | Rock & Pops (80's)
 私がスティーヴィー・ニックスを初めて見たのはまだ高校生だった頃、たまたまテレビをつけたらNHK の “ヤング・ミュージック・ショー” で女性二人がフロントを務めるバンドのライヴをやっていた。 “誰やコレ?外人のバンドやけど、見たことも聞いたこともないなぁ...(>_<)” 当時の私は洋楽中心の音楽生活を送ってはいたが、情報源といえばミュージック・ライフや音楽専科といったティーンエイジャー向けの雑誌類だけだったので、毎号大々的に取り上げられるクイーン、キッス、エアロスミスやベイ・シティー・ローラーズといったアイドル系バンドの動向には詳しかったが、滅多に記事にならないフリートウッド・マックなんて名前すら知らなかった。
 そんな私の目を釘付けにしたのは画面に大写しになったスティーヴィー・ニックスの艶やかな姿だった。まるで中世ヨーロッパの魔女のような衣装をヒラヒラさせながら、例の低くハスキーな声で気だるそうに歌うその姿に私はすっかり心を奪われ、番組のエンディング時に画面隅に出た “フリートウッド・マック” というバンド名を必死でメモっていた。その後しばらくしてマックの新作「タスク」がリリースされ、ラジオでオンエアされたものをテープに録音した私は何度も何度も聴き込んだ。このアルバム、世間の評判はあまり良くなかったが、私はタイトル・トラックの「タスク」の大胆なまでにリズムを強調したユニークなサウンドに心惹かれるものがあったし、何よりもスティーヴィーが歌う「セーラ」の夢見心地のようなサウンドが頭から離れず、超へヴィー・ローテーションで聴きまくっていた。
 やがて80年代に入り “ベスト・ヒット・USA” がスタート、私の住む関西地区では確か81年の9月から放送が始まったと記憶しているが、その第1回放送時のカウントダウンUSAで「エンドレス・ラヴ」「スロー・ハンド」に次ぐ第3位に入ってたのがスティーヴィー・ニックスの「ストップ・ドラッギン・マイ・ハート・アラウンド(邦題:嘆きの天使)」(6週連続全米3位)だった。 PV で黒いドレスをヒラヒラさせ(笑)、共演のトム・ペティの方を見ながらほぼ横向きで歌うコケットリーなお姿に私は又々胸キュンしてしまった。尚、この2年後にウィアード・アル・ヤンコヴィックが歌詞の “ハート” を “カー” に変えて車をレッカー移動された不幸を嘆く傑作パロディー・ソング「ストップ・ドラッギン・マイ・カー・アラウンド(邦題:嘆きの点数)」もオモロイのでオススメだ。
 貧乏学生で今みたいにホイホイとレコードを買えなかった私は、当時全盛を誇っていた貸しレコード屋(黎紅堂やったっけ?)へと走り、この「ベラ・ドンナ」をレンタル→ダビングした。まずはジャケットに目が行くが、注目は裏ジャケ...もう小悪魔オーラ出まくりである。音の方を一言で表現するとカントリー・フレイヴァー溢れるウエスト・コースト・ロック。ワディ・ワクテル(g) にラス・カンケル(ds) といったL.A.の腕利き連中がバックを固め、先のトム・ペティやドン・ヘンリー、そしてE ストリート・バンドのロイ・ビタンなど、超豪華な顔ぶれが参加している。特にアルバム・タイトル曲①「ベラ・ドンナ」、⑤「アフター・ザ・グリッター・フェイズ」、ドン・ヘンリーとのデュエット⑧「レザー・アンド・レース」(2nd シングルで全米6位)、隠れ名曲⑩「ザ・ハイウェイマン」といったトラックは70年代リンロンやイーグルスのあのサウンドが好きな人間にはたまらない内容だと思う。
 私がこのアルバムで一番好きなのが 3rd シングルになった⑥「エッジ・オブ・セヴンティーン」(全米11位)。ワディ・ワクテルのワイルドなギターに乗せられて、妖精の殻をかなぐり捨てたスティーヴィーがロック・ディーヴァの本性むき出しのハイ・テンションなヴォーカルを聴かせてくれる。この曲はアルバム・ヴァージョンもいいが、ライヴ・ヴァージョンはもっと凄い。私が持っているレーザーディスク「スティーヴィー・ニックス・イン・コンサート」(←DVD化を激しく希望!)がそれだ。スティーヴィー・ファン必見のこの映像は9分という時間を全然長く感じさせない素晴らしさで、白いドレスをヒラヒラさせながら(笑)力強いヴォーカルを聴かせるスティーヴィーのお姿を何度繰り返し見たことか... もう彼女の一挙一頭足にシビレまくりで、私をスティーヴィー狂いにしたのがこの映像なのだ。後半部の “I hear the call of a nightbird~♪” の執拗なリフレインが生み出す高揚感なんかもう圧巻の一言に尽きるし、エンディングでプレゼントをいっぱい抱えながらオーディエンスに手を振る仕草(8分20秒あたり)もたまらない。バックの演奏もノリノリで、凄まじいグルーヴ感を生み出している。
 彼女のソロ・アルバムではこの1st アルバムと 次作「ザ・ワイルド・ハート」が双璧と言えるが、この2枚はホントにもうアホみたいに聴きまくった記憶がある。私の大学生時代の、いや80年代の思い出が一杯詰まったかけがえのない愛聴盤なのだ。

Stevie Nicks - Edge of Seventeen 1981 Live


【おまけ】S.Nicksファンのオウム出現!ロザリー校長も顔負けですね(^.^) ↓
Snowball (TM) and Stevie Nicks

Tango In The Night / Fleetwood Mac

2010-01-25 | Rock & Pops (80's)
 フリートウッド・マックは1982年に「ミラージュ」という素晴らしいアルバムでその健在ぶりをアピールした。リンジー、スティーヴィー、クリスティンという個性豊かなソングライター3人の傑出した作品がバランス良く収められ、アルバム全体がキラキラとポップな輝きに満ちていたが、それは又、この3人がソロ活動を通してそれぞれメインを張れるほど大きな存在になったことを意味しており、3つの大きく異なった個性をこれ以上1つのバンドの枠内にとどめておくことは至難の技に思われた。案の定、その後メンバーのソロ活動が活発になり、特にスティーヴィーはアルバムもシングルも大ヒットを連発してすっかりソロ・アーティストとしての地位を確立、マック解散説が流れる中、バンドは大いなる眠りについてしまった。
 それから約5年の月日が経った 1987年4月のこと、毎週聴いていたケイシー・ケイサムのアメリカン・トップ40で突然マックの新曲①「ビッグ・ラヴ」がチャート・インしてきた。これがもう5年のブランクなど瞬時に吹き飛ばしてしまうようなカッコ良い曲で、私の耳はスピーカーに釘付けになってしまった。トットコ トットコするマック独特のリズム(←コレ、結構ハマリます...)に乗ってリンジーの力感漲る歌声が炸裂、エキゾチックなメロディーも涙ちょちょぎれる素晴らしさで、まさにリンジー・バッキンガムここにありと言いたくなるような斬新さと攻撃性を前面に打ち出したキラー・チューンだ。その翌週、タワレコへこの曲の12インチ・シングルを買いに走ったのは言うまでもない。(久しぶりに聴こうと思ったらどこにいったのか分からへん...泣) 下にアップしたこの曲のPVも、エンディングに向けて逆再生で加速していく映像と唸りを上げるリンジーのギターが完璧にシンクロし、そこにミック・フリートウッドの怒涛のようにたたみかけるドラミングが絡んでいく様がめっちゃスリリング! リンジーの目ヂカラも強烈だ。この曲は全米5位まで上がったが、私の中ではそれ以上のインパクトがあった。
 少し遅れてリリースされたアルバムも当然買った。まずは内容云々よりもジャケットがセンス抜群でカッコ良い(^o^)丿 しかし左下に映っている白鳥を見た瞬間、コレはマックのスワン・ソング(最後の作品)なのか?という思いを強く抱かざるを得なかった。中身の方は表層的には相変わらずのマック・サウンドながら、それまでのアルバムとは微妙に雰囲気が違っていて、どこか達観したようなムードが漂っている。バラバラになっていたメンバーがもう一度再結集してバンドの最後にふさわしいアルバムを作ろうとしたように感じられるのだ。「噂」がマックの「ペパーズ」なら、さしずめこの「タンゴ」は「アビー・ロード」みたいなもんか。
 2nd シングルになったスティーヴィーの②「セヴン・ワンダーズ」は彼女にしては可もなし不可もなしといった平均点レベルの作品で、そのせいかチャート・アクションも鈍く、全米19位がやっとだった。全体的に見て今回は3人の中ではスティーヴィーの影がやや薄いが、ソロで頑張り過ぎた疲れが出たんかな?
 上記の 1st シングル①と比肩するほど素晴らしい出来なのが 3rd シングルになったクリスティンの⑦「リトル・ライズ」(全米4位)だ。私はマックを聴き始めた当初はスティーヴィーの妖艶な魅力にハマッていたのだが、前作あたりからクリスティンの温か味のある歌声に魅かれ始め、この「リトル・ライズ」で完全に彼女の魅力に参ってしまった。この歌声にはホンマに癒される。そしてお家芸の美しいコーラス・ハーモニー多重唱(←コレたまりません!)の後にさりげなく入るスティーヴィーの合いの手が、料理の甘みを引き出す微量の塩のような見事な効果を上げている。とにかく洗練の極みとでもいうべきこの⑦は非常にクオリティーの高いポップ・ソングであり、まさに絵に描いたような名曲名演だと思う。
 4th シングルの③「エヴリウェア」(全米14位)もクリスティン... もう大活躍だ。私には70年代の彼女よりも年齢を重ねてからの方が内面から滲み出るようなその美しさに磨きがかかったように思える。まるで年月を経て味わいが増すワインのようだ(^.^) 今の私は “クリスティン萌え” 状態(笑)なので彼女の歌声が聴けるだけで嬉しい。流れるようなメロディー・ラインは彼女ならではのものだし、彼女の歌に不可欠な美しいコーラス・ワークも存分に堪能できて言うことナシだ。そしてラストの⑫「ユー・アンド・アイ・パート2」、ウキウキするような曲想のこの曲をこんな風に小粋なポップスに仕上げられるのは世界広しと言えどもマックだけだろう。絶妙な味わいのコーラス・ハーモニーも聴きものだ。
 このアルバムの後、リンジー、スティーヴィー、クリスティンの3人は出たり入ったりを繰り返し、5人が鉄壁のチームワークでマック黄金時代のような傑作アルバムを作ることはなくなってしまったが、そういう意味でも稀代のスーパー・ポップ・バンド、フリートウッド・マックのスワン・ソングとして忘れられない1枚だ。

追記:ジャケットの鳥は白鳥ではなくサギとのことです。確かに、よ~く見ると白鳥とはちゃいますね(笑)

Fleetwood Mac - Big Love (Official Music Video)


Fleetwood Mac - Little Lies (HQ)


Fleetwood Mac - You And I (Part 2)
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Mirage / Fleetwood Mac

2010-01-24 | Rock & Pops (80's)
 フリートウッド・マックは実に不思議なグループである。彼らのサウンドはブリティッシュ・ブルース・バンドとしてスタートした60年代のものから度重なるメンバー・チェンジを経て大きく変貌していくのだが、私にとってのマックは自分がリアルタイムで経験してきた「ファンタスティック・マック」以降の、アメリカナイズされたポップ・ロック路線のマックであり、1つのバンドの中にリンジー、スティーヴィー、クリスティンと3人もの “歌えるソングライター” を擁したザ・ワン・アンド・オンリーなスーパーグループとしてのマックなのだ。その音楽性は他に類を見ないユニークなもので、例えば “ボン・ジョヴィみたいな感じのハードロック” とか、 “デュラン・デュランみたいなダンス・ポップ” という言い方はよく耳にするが、 “フリートウッド・マックみたいなサウンド” を持ったグループを私は他に知らない。彼らの音楽には真似したくても出来ないようなグルーヴがあり、ジャンル分け不可能な孤高の存在なのだ。
 マックといえば何はさておき「噂」(77年)である。全米チャートで31週№1を記録したこのアルバムは彼らの代表作であり、「ファンタスティック・マック」(75年)の続編的なジャケットとサウンドも含めて傑作には違いないのだが、彼らの全作品中ターンテーブルに乗った回数が最も多いのは間違いなくこの「ミラージュ」(82年)の方だ。商業的に大成功を収めた「噂」で行くとこまで行ってしまったマックの次作「タスク」(79年)が様々なアイデアを盛り込んだヴァラエティー豊かな内容の2枚組になったのは、私の中では何となくビートルズの「ホワイト・アルバム」とイメージがダブるところがあって、マックがこの時点で解散していても何ら不思議はない。80年には70's後半の黄金時代の総決算とも言うべき「フリートウッド・マック・ライヴ」さえ出している。しかし彼らはグループとして持ちこたえ、80'sポップス黄金時代の幕開けにこの「ミラージュ」をひっさげて戦線復帰したのである。82年といえば、楽しさ全開のポップスが雨後のタケノコのように続々と登場し全米チャートを賑わせていた頃だが、そんな中にあってマックの煌びやかなポップ性は際立っていた。売り上げやチャート成績では「噂」に遠く及ばないものの、各曲のクオリティーの高さではむしろこちらの方が上ではないかと思えるぐらい良い曲が揃っているし、そのサウンドはより洗練され、徹底的に磨き込まれている。
 アルバム冒頭を飾るのはクリスティンの①「ラヴ・イン・ストア」で、彼女のクリスタル・ガラスのように透明感の高い歌声にスティーヴィーが寄り添うようにコーラスをつけるパートにゾクゾクする。これはタマランなぁ...(^.^) この曲は3rd シングルとしてカットされ全米22位まで上がったが、シングルよりもアルバム1曲目としての存在感の方が遥かに大きい。アルバムからの 1st シングルは同じクリスティンの⑨「ホールド・ミー」で、いかにも彼女らしいキャッチーなメロディーを持ったこの曲を、ギターのサウンドひとつ取っても様々な音色を使い分けてオーヴァーダブしながら絶妙なサウンド・プロダクションでもって完全無欠なポップ・ソングに仕上げている。リンジーとクリスティンのツイン・リード・ヴォーカルに美しいコーラス・ハーモニーが幾重にも重ねられていくところなんかもうゾクゾクする。「アイ・オブ・ザ・タイガー」、「アブラカダブラ」、「素直になれなくて」といったウルトラ・メガ・ヒット曲の首位争いの割りを食って7週連続全米4位という珍しい記録を作ってしまった曲としても忘れられない。尚、メンバーが砂漠を彷徨うPVはストーリー性がイマイチ意味不明だが、各人のキャラが立っているので見ていて飽きない。2nd シングル⑤「ジプシー」は妖精スティーヴィーの魅力を凝縮したようなアップテンポのナンバーで、コワイぐらいに曲のイメージを表現したモノクロ基調のPVが何と言っても素晴らしい。ドリーミーでポップな曲想、ステーヴィーの魔性(?)ヴォーカル、リンジーの歌心溢れる速弾きソロ、弾けまくるリズム... そのすべてが圧巻で、名曲名演揃いのこのアルバムの中でも一番好きなナンバーだ。全米12位は不当なまでに低すぎると思う。
 シングル曲以外にもクオリティーの高い曲が多い。リンジーの②「キャント・ゴー・バック」は彼のポップ・センスが存分に発揮された名曲名演。弾むようなリズムに乗ったウキウキ・サウンドがたまらない(^o^)丿 私的には上記のシングル群に比肩するフェイヴァリット・トラックだ。スティーヴィーの③「ザッツ・オールライト」と⑧「ストレート・バック」はソロ・アルバムの成果が存分に発揮されているし、リンジーの⑩「ダイアン」や⑪「アイズ・オブ・ザ・ワールド」は新味はないもののいかにも彼らしいポップなナンバーだと思う。
 この「ミラージュ」はロック・ジャーナリズム的には歴史に名を残すような “大名盤” ではないかもしれないが、ファンが目を細めて聴き入るタイプの、長~く愛され続ける好盤だと思う。黒を基調としたシックなジャケットもカッコエエなぁ... (≧▽≦)

Fleetwood Mac - Gypsy [Official Video - Mirage CD Mix]


Fleetwood Mac - Hold Me High Definition (ORIGINAL)


Fleetwood Mac - Can't Go Back

悪女 c/w MELODY / 平山みき

2010-01-23 | 昭和歌謡
 平山みきは実に不思議な魅力に溢れたシンガーである。特に歌唱力があるわけでもないし、その歌声も美しい外見からは想像もつかないようなドライてハスキーなものだ。彦磨呂流に言えば、“昭和歌謡界のスティーヴィー・ニックスやぁ~” といったところか。しかし彼女の歌には聴く者の心を捉えて放さない、抗しがたい魔力が潜んでおり、一旦その魅力にハマってしまうと中々抜け出せない。挙句の果てに彼女の音源を求めて中古盤屋を彷徨い歩き、ネット・オークションに首を突っ込むようになる。しかし彼女の場合、CDアルバムに未収録な音源、それもシングルとして出ていながらアルバムになっていない音源がいくつかあり、それらの中には埋もれさせてしまうにはあまりにも惜しいモノがあるので要注意だ。
 まずはワーナー・パイオニア時代、シングル「マンダリン・パレス」のオリジ・ヴァージョンや「冗談じゃない朝」を含む4曲を追加収録して復刻されたアルバム「魅嬉環劉嬲」は何故かずーっと廃盤のままで鬼のようなプレミアがついている。いくら何でもCD1枚に1万円近い金を払わないと聴けないなんて異常事態もいいところ。又、2001年に “奇跡体験アンビリーバボー” のエンディング・テーマとしてリリースされたCD MAXI盤「パーフェクト・サマータイム」なんかも行き場を失って廃盤一直線だ。しかし一番酷いのが90年代にポリスター・レコードから出た4枚のシングルAB面8曲のうち5曲がアルバム未収録のまま放置されていることで、中でも90年代ミキティーの最高傑作シングル「悪女 c/w MELODY」をアルバム未収録という理由で入手困難なまま放っておくなんてレコード会社は職務怠慢も甚だしい。毒にも薬にもならないような J-POP を出すヒマがあったら、この辺のモノを1枚のアルバムにまとめてちゃんと出してほしいと思う。
 私はミキティーが「悪女」を歌っていると知った時、 “あの声であの旋律” が脳内リピートされ、コレはもう絶対に聴きたい、何が何でも聴きたい、天地が逆になっても聴きたい!と思った。そしてネットで網を張ること半年、念願叶ってアマゾン・マーケットプレイスでゲットできた時はもうめちゃくちゃ嬉しかった。この曲のオリジナルがヒットしていた81年当時、若かった私にはここで歌われている微妙な女心が分からず、もっぱらユニークなメロディー展開が気に入って聴いていたのだが、今の耳で改めて聴いてみると凄い歌詞だ。まさに天才中島みゆきの才気煥発!絶対に彼女にしか書けない大名曲だと思う。そんな “中島みゆき・わーるど” 炸裂の有名曲を絶妙なヴォーカルで歌いこなすミキティーもさすがは歴戦のツワモノだ。多分昔の彼女ならこれほど上手く歌えなかったであろうこの曲をまるで自分のために書かれた曲のように自然体で歌っているところに “進化するミキティー” を感じる。特に “行かないでぇ~♪” の声色変化は絶品だ。「悪女」のカヴァーとしてはクレモンティーヌのアンニュイなフレンチ・ボッサ・ヴァージョンやシルヴィ・バルタンのしっとり系バラッド・ヴァージョンも好きだが、何と言ってもミキティーのこのヴァージョンが私的には断トツの№1だ。
 B面というのか 2nd beat というのか、要するにカップリングされている曲がサザンの「MELODY」というからこれまたビックリだ。そーきたか...(゜o゜) 桑田師匠の書く曲にはいくつかのパターンがあり、私が特に好きなのは「ホテル・パシフィック」みたいな “ラテン歌謡路線” と「そんなヒロシに騙されて」みたいな “昭和歌謡路線” の2本柱なのだが、この曲はそういった次元を遥かに超越して存在する桑田師匠屈指のバラッドだと思う。そんな名曲を強烈な打ち込みビートとブンブン唸るベースに乗って女性が低い声で歌うなんて普通なら考えられない展開だが、彼女のあの個性的な歌声はめっちゃグルーヴしてるし、隠し味的に投入されたアコギのサウンドも効果抜群で、私の感性のスウィート・スポットをビンビン刺激するのだ。
 中島みゆきとサザンオールスターズという邦楽を代表する2組のアーティストの名曲カヴァーをカップリングした超豪華な組み合わせのこの盤、ひょっとして平山みき史上最強のシングルじゃないだろうか?

悪女

筒美京平を歌う アンド・モア (Disc 2) / 平山三紀

2010-01-22 | 昭和歌謡
 「平山三紀 筒美京平を歌う アンド・モア」の Disc-2 はまず1984年のアルバム「EMISSION」収録曲からスタートするのだが、私的にはこの頃のJ-Pops 曲は70年代に比べるとどうしても薄味に聞こえてしまうし、そのサウンドもシンセの打ち込み音とかが多くてどうも苦手である。特に Disc-1 から通して聴いてくるとその落差に愕然としてしまう。筒美京平という人は常にその時代の大衆のニーズに応えてきた究極の職業作家なので、コレが 80’s J-Pops だと言われるとぐうの音も出ないのだが...(>_<) そんな中ではシングル①「サイレン」のB面だった②「ヨコスカ・マドンナ」がエエ感じ。やっぱり彼女にはヨコスカがよく似合う。⑤「AZABUまで」も昭和っぽいメロディーがあちこちに顔をのぞかせていて悪くない。ただ、③「嫌だ!」のイントロは完全にカーズの「ユー・マイト・シンク」そのものだし、④「人間失格」のベース・ラインはフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「リラックス」そっくりで、このあたりはミエミエのパクリなのか、確信犯的にウケ狙いで笑わそうとしてるのか、どーなんやろ? 続く87年のアルバム「チェス」の曲もいま一つ心に響いてくるものがない平凡なナンバーが並んでいる。これならむしろシングルになった「冗談じゃない朝」(←イントロがブロウ・モンキーズの「イット・ダズント・ハフ・トゥ・ビー・ザット・ウェイ」そのまんま!)や「ヴァイア・コン・ディオス」を入れた方が良かったように思うのだが、その辺は何か大人の事情があるのかな?
 このDisc-2 は後半にコロムビア及びソニー音源の外国曲カヴァーが並んでおり、前半部よりも遥かに魅力的だ。まずは71年のデビュー・アルバム「ビューティフル・アルバム」に収められていた外国曲カヴァーを6連発なのだが、コレがもうめちゃくちゃ素晴らしい!!! 当時は新人のデビュー・アルバムにはオリジナル曲不足を補うためにポップスのカヴァーを収録することが多かったのだが、今にして思えば非常に貴重な音源のオンパレードになっている。ドーンの⑩「ノックは3回」、ビートルズの⑪「ア・ハード・デイズ・ナイト」、映画主題歌⑫「ある愛の詩」、ダスティ・スプリングフィールドの⑬「この胸のときめきを」と⑭「スプーキー」、そしてボビー・ヘブの⑮「サニー」という、平山三紀の資質を見抜いた橋本=筒美コンビによる絶妙な選曲に脱帽だ。特に⑪はあの妖しさ満点の和モノ・ビートルズ・カヴァー・コンピ集「フロム・リヴァプール・トゥ・トーキョー Vol. 2 」にも入っていたのでご存じの方も多いかもしれないが、京平さんのユニークなディキシー・アレンジがかえって新鮮に聞こえるのが面白い。ダスティの2曲はコワいぐらいに彼女のヴォーカルに合っていて参りましたという感じ。⑮は以前このブログでも取り上げた超愛聴曲で、この曲をミキティーが歌ってくれただけで嬉しくってたまらない。この曲の旋律と彼女のハスッパな歌い方が絶妙のマッチングを見せている。エンディングの “ラララッ!!!” もたまらんなぁ...(≧▽≦)
 最後の6曲は74年のソニー移籍第1弾アルバム「熟れた果実」に入っていたもので、ダスティの⑯「ジャスト・ア・リトル・ラヴィン」、スリー・ディグリーズの⑰「荒野のならず者」、ロバータ・フラックの⑱「やさしく歌って」、ヘレン・レディの⑲「リーヴ・ミー・アローン」、レオン・ラッセルというよりは断然 “カレン・カーペンターの曲” というイメージが強い⑳「マスカレード」、ダイアナ・ロスの(21)「ラスト・タイム・アイ・ソー・ヒム」と、この時代を反映した選曲だ。これまたどれも良い出来なのだが、やはり大好きな⑳にトドメをさす。これこそまさに洗練の極み、ジャジーなムード横溢で、 “ボッサ・スイング・ヴァージョン” と言ってもいいぐらいカッコ良いアレンジに涙ちょちょぎれる。彼女のヴォーカルも貫録十分だ。平山三紀といえばどうしても「真夏の出来事」を始めとするオリジナル・ヒット曲に目が行きがちだが、カヴァーも抜群に巧いということが良く分かる Disc-2 後半である。彼女はまだまだヤル気満々で現役感バリバリなので、これからもドンドン新作を出して我々ファンを楽しませてほしいものだ。

マスカレード
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筒美京平を歌う アンド・モア (Disc 1) / 平山三紀

2010-01-21 | 昭和歌謡
 平山三紀は記録よりも記憶に残るシンガーである。レコード売り上げとか、ヒットチャート順位で言えば彼女よりも凄い人はいくらでもいるかもしれないが、彼女が第一線で活躍していた頃からもう40年近く経つというのに未だに彼女の人気は健在で、多くのコアなファンによって支えられている。もちろん私もその一人なのだが、とにかく今の時代、あれほど存在感のある “声” は見当たらない。ある意味、彼女こそ昭和の薫り・雰囲気を纏った最後のシンガーと言えるかもしれない。
 そんな “最後の大物” 平山三紀に入門するにはどのアルバムがいいのだろうか?アマゾンで彼女の名前で検索するとズラズラ~とベスト盤が出てきてどれを買ったらいいか迷ってしまう。彼女はこれまでレコード会社を転々としていて何度も自らのヒット曲をリメイクしているので、同じ曲でもヴァージョン違いだったりすることも多い。こっちのCDに入ってるのは “コロムビア・ヴァージョン” で、そっちのCDは “ソニー・ヴァージョン” だ、なんてことはどこにも書いてないから紛らわしいことこの上ない。
 私がオススメなのはレーベルの枠を超えて彼女の代表曲を上手くまとめたこの「平山三紀 筒美京平を歌う アンド・モア」という2枚組ベスト盤である。このアルバムは Disc-1 には「マンダリン・パレス」以外はすべてソニー音源を並べ、Disc-2 には前半にビクター / BMG時代のアルバム「EMISSION」と「チェス」から数曲ずつ、後半に外国曲カヴァーをコロムビア音源、ソニー音源とこれまた数曲ずつ収録しており、初CD化音源あり全曲彼女自身によるコメントありで、コスト・パフォーマンスは抜群に高い。
 Disc-1 は何と言ってもコロムビア時代のヒット曲を1975年にリメイクしたソニー・ヴァージョン4連発が圧巻だ。昭和歌謡の薫りが横溢する①「ビューティフル・ヨコハマ」、日本のポップ音楽史上に燦然と輝く永遠の名曲②「真夏の出来事」、ミディアムで気持ち良さそうにスイングする③「フレンズ」、疾風怒濤のロックンロール歌謡④「恋のダウンタウン」と、必殺の京平メロディーのアメアラレ攻撃に私は完全にKOされた。平山三紀といえばまずこの4曲なのだ。真のミキティー・マニア(?)を目指すならコロムビア・レーベルの「平山三紀 筒美京平ウルトラ・ベスト・トラックス」収録のオリジナル・ヴァージョンや2006年の大傑作「This is Miki Hirayama」収録の絶品アレンジ・ヴァージョン(?)との聴き比べも楽しい。
 京平さんが「真夏の出来事」の二匹目のドジョウを狙ったソニー移籍第1弾シングル⑤「熟れた果実」はイントロがジュリーの「追憶」してて思わず “ニーナ~♪” と口ずさんでしまいそうだし(笑)、一聴地味ながら聴けば聴くほど味が出るスルメ・チューン⑥「愛の戯れ」では彼女のヴォーカルの微妙な表現力が聴き所。「ビューティフル・ヨコハマ」な世界を「恋のダウンタウン」な雰囲気で歌ったロックンロール歌謡⑦「真夜中のエンジェル・ベイビー」は平山三紀にしか歌えないザ・ワン・アンド・オンリーな世界。彼女には横須賀、横浜、六本木が良く似合う。
 ⑩「私は女」は Disc-1 の私的隠れ名曲№1で、昭和歌謡のエッセンスを濃縮還元したような哀愁のメロディーがたまらない。一転してジャジーな雰囲気横溢の⑫「想い出のシーサイド・クラブ」、“平山三紀の声にはジャズが似合う” と喝破した京平さんのピアノがめちゃくちゃカッコ良いキラー・チューンだ。⑰「マンダリン・パレス」はこの後彼女が何度もリメイクするお気に入りのナンバーで、元々79年にシングルで出たワーナー・パイオニア・ヴァージョンがオリジナルなのだが、これはレアなBMG ファンハウス・ヴァージョンで、いかにも80's J-Pops という感じの無機質なサウンドが時代を感じさせて面白い。⑱「ブルー・ライト・ヨコハマ」は76年のオムニバス盤「筒美京平メモリアル・アルバム」収録の貴重な音源で、この超愛聴曲を平山三紀の歌声で聴けるとは思わなんだ(≧▽≦) 長生きはするモンやね。バックの演奏がもろフィリー・ソウル風MFSBしてるのはご愛嬌。こーなったらいっそのこと「平山三紀・コンプリート・ボックス10枚組」とか出してくれへんやろか、ワシ、喜んで買いまっせ!!! (つづく)

恋のダウンタウン

キャバレー・ガール / 平山みき

2010-01-20 | 昭和歌謡
 ヒマラヤ・ミキを聴くとどうしても本家の平山みきを聴きたくなってくる。ヒマラヤ嬢の声のカスレ具合なんか私の好みにピッタリで、実は “やや” さんのCDも2枚持っている(笑)のだが、いくら声質が似ていても、いくら名前が面白くても、悲しいことにホンモノだけが持つ圧倒的な存在感が希薄なのだ。ということで今日はホンモノ中のホンモノ、平山みきの降臨である。彼女のキャリアは長く、1970年のデビューから今年で40周年というから、ちょうど私が小学生だった頃から歌っている計算になる。しかし彼女の歌を聴いたのはずっと後になってからのことだった。もちろん “平山三紀” という名前は何度も耳にして、何となくその名前に才能を感じ(←コレが “山田花子” やったら今ほど好きになってなかったかも...笑)、まだ彼女の顔も知らなかったしその歌声すら聴いたこともなかったのに、何故か好感を持っていた。
 やがて時代は21世紀に入り、ネットをするようになって一気に世界が広がったところへ “あの平山三紀がジャズのスタンダード・ナンバーを歌ったアルバムがあるらしい...” という噂を聞きつけ、色々調べてやっとのことで手に入れたのがこの「キャバレー・ガール」である。平山三紀とのファースト・コンタクトが彼女の代名詞とも言える「真夏の出来事」でもなければ「ビューティフル・ヨコハマ」でもなく、87年にリリースされたこの裏名盤的ジャズ・カヴァー・アルバムだったというのが私らしいと言えば私らしい。
 このアルバムにはタイトルが示す通り、場末のキャバレー歌手的なチープな雰囲気が濃厚に立ち込めている。彼女のハスキーな声も投げやりな歌い方もジャズに向いており、アタマの①「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」からアンニュイなムードが全開だ。②「ジョージア・オン・マイ・マインド」は真っ向勝負のストレートなアレンジで、この大スタンダード曲を自分の世界に引き込んで見事に料理している。聴かされてしまうなぁ... (≧▽≦) 我が愛聴曲③「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」はヘレン・メリル・ヴァージョンそのまんまのアレンジで、スカみたいなバックの演奏はメリル版のチープなコピーにすぎないが、ミキティーのヴォーカルの吸引力は圧倒的で、ジャジーな雰囲気が横溢している。まさに平山みきここにあり、と言いたくなる歌声だ。
 ④「サテン・ドール」でウォーキング・ベースのリズムに乗ってスイングするミキティーのカッコ良さ!この曲はイキそうでイカない淡白な展開がちょっと苦手だったのだが、彼女のドスの効いたヴォーカルによって見事に味付けされてちょうど良い感じに仕上がっている。⑤「ステラ・バイ・スターライト」はイントロが長すぎる(1分30秒も!)し、バックを埋めるシンセが耳触りで鬱陶しい。ちあきさんの「港が見える丘」もそうだったが、どーして日本人アレンジャーはこうもシンセを使いたがるのだろう?しかも飛びきりヘタクソな使い方で...(>_<) 彼女のヴォーカルが素晴らしいだけに勿体ないことこの上ない。とにかくこのアホバカ・アレンジだけは絶対に許容できない。ステラの綴りも間違っとるで!
 クラリネットとヴァイオリンをフィーチャーしたインスト曲⑥「アイ・キャント・ライト・ザ・ワーズ」(←別に要らんと思うけど...)に続くのは彼女のヒット曲⑦「フレンズ」のジャズ・ヴァージョン。その軽妙洒脱な歌と演奏はオリジナルの歌謡ポップス・ヴァージョンに勝るとも劣らない出来映えで、筒美メロディーの奥の深さの一端が垣間見れるトラックだと思う。⑧「ベイビー・フェイス」は軽自動車のCMでよく耳にする楽しい曲で、オリジナルはビキニ坊やこと、ブライアン・ハイランドが歌うオールディーズ。彼女もイタズラッぽく歌っている。ただ、エンディングの奇妙奇天烈なアレンジは余計だ。まったく、もう...(>_<) ⑨「ダイナ」で弾むようなピアノに乗って余裕綽々でスイングするミキティーは貫録十分、めっちゃジャジーなヴォーカルを聴かせてくれる。軽やかなクラリネットもエエ味出している。⑩「バイ・バイ・ブラックバード」では又々シンセが出しゃばってきてウザイったらないのだが、そんなマイナス要素を木っ端微塵に打ち砕くぐらい彼女のヴォーカルの存在感は強烈だ。アレンジャーが一流だったら大傑作アルバムになっていただろうに...(>_<)

ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ

真夏の出来事 / ヒマラヤ・ミキ & Modokees

2010-01-19 | Cover Songs
 私はちょっと変わった盤、面白い盤が大好きで、このブログでもパンクルズや王様は言うまでもなく、 “ビートルズと童謡の融合” や “ボッサ化された脱力系ストーンズ” 、 “ロシア語で唄われるザ・ピーナッツ” に “カーペンターズの関西弁ヴァージョン” といったいわゆる “面白カヴァー” を率先して取り上げてきた。関西人特有のいちびりなDNAのせいなのか、あるいは後天的に身に付いたものかは分からないが、とにかく珍盤・奇盤・怪盤には目がない。
 以前平山みきにハマって彼女のディスコグラフィーを調べていた時に、彼女最大のヒット曲「真夏の出来事」のカヴァー・ソングの存在を知った。歌手の名は... ヒマラヤ・ミキ...??? ヒラヤマではなくヒマラヤってアンタ、面白すぎるやん(^o^)丿 一体誰が考えたのかは知らないが、私はこういう洒落っ気が大好きなんである。コレは絶対に聴きたいっ!!! と思ってネットで色々調べてはみたものの、アルバムは出ていないらしい。そりゃそうや、こんなおちゃらけたネーミングはどう考えても一発狙い... シングル盤1枚のワン・ヒット・ワンダーズ・コースだ。
 更に色々調べていくうちにオドロキの事実が発覚した。このヒマラヤ・ミキなる歌手、あの「夜霧のハウスマヌカン」を歌っていた “やや” という女性シンガーの変名だというのだ。1986年に流行ったこの「夜霧」、シングル盤のジャケットに “空前絶後のプログレッシヴ演歌” とあるのが笑える(←キング・クリムゾンかよ!)が、 “蒼いうなじは心意気...触れてください後ろから...刈り上げても剃り上げても...また毛が生えてくる~♪” とか、 “お金もないのにミエをはる...また昼はシャケ弁当~♪” とか、一度聴いたら忘れられないようなユニークな歌詞が大好きで、当時洋楽一辺倒だった私でもこのノベルティー・ソングだけはよく聴いていた。YouTube で映像を見ると結構キレイな女性で、何でも元モデル出身なんだそうだ。そんな彼女が “やや” としてデビューする前の1982年にヒマラヤ・ミキ & Modokees 名義で出したシングルが上記の「真夏の出来事」なのだ。
 「夜霧のハウスマヌカン」が “プログレッシヴ演歌” ならこのシングルは80年代初頭に流行った “テクノ歌謡” そのもので、 “やや” 改めヒマラヤさん(笑)のハスキーな声質は平山みきにそっくり。ミキティーをサイボーグ化したような歌い方とシンセやドラム・マシーンを駆使したバックの無機質なサウンドが絶妙にマッチしており、コレはコレで面白い。このカヴァーが出た時、本家のミキティーは自分のパッチモンの出現に憤慨したらしいが、作者の筒美京平さんの “ニセモノが出てくるなんて凄い事だ... 一流の証だよ。” の一言で納得したとのこと。京平さんらしいエピソードだ。そんなヒマラヤ・ミキの「真夏の出来事」、ミキティー・マニアなら持っていて損はない貴重な1枚だと思う。

真夏の出来事 ヒマラヤ・ミキ


夜霧のハウスマヌカン やや Yaya 2008

Rokoko Jazz / Eugen Cicero

2010-01-18 | Jazz
 昨日 “クラシック音楽のジャズ化” 特集のことを少し書いたが、以前はジャズメンがクラシックの曲を演っていると聞くといつもネガティヴに捉え、色眼鏡で見ていた。実際、クラシックのジャズ化を大々的に謳ったジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」シリーズは完全にクラシック寄りでどれもこれもスイングしないトホホ盤ばっかりだったし、モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)のリーダー、ジョン・ルイスに至っては、グループの音楽にクラシックもどきの演奏を持ち込むという暴挙に出て鬱陶しいことこの上なく、 “コレのどこがジャズやねん!” と言いたくなるような眠たい演奏は虫唾が走るほど嫌いだっだ。
 そんな “クラシック = 眠たいからイヤ” な私が唯一ハマったのがオイゲン・キケロというピアニストの演奏だった。キッカケは3年ほど前の G3 で「Softly As In A Morning Sunrise(朝日のようにさわやかに)」というジャズの有名スタンダード曲の特集をやった時に 901 さんが “冗談半分で” 持ってこられたキケロの「バッハのソフトリー・サンライズ」がそもそもの始まりだった。その旋律はタイトルとは裏腹にベンチャーズの(というかジョニー・スミスの)「ウォーク・ドント・ラン」だったが、そんなことよりもハジけるようなタッチでギンギンにスイングする彼のスタイルにすっかり惚れ込んでしまった。その日からネットでの情報を頼りに私のキケロ探究が始まった。彼はルーマニア出身のピアニストで、1960年代後半にドイツの MPS レーベルからショパン、チャイコフスキー、リスト等の作品集を出しているが、そんな中でも傑出した内容を誇っているのがデビュー・アルバムの「ロココ・ジャズ」なのだ。
 私は全くクラシックを聴かないので、曲名を見ても「XX曲 ○短調」とか、「XX組曲 第○番」とか、何のこっちゃサッパリなのだが、大切なのはジャズとしてスイングしているか否か、その一点に尽きる。私は彼のMPS 時代の音源をほとんど聴いたが、原曲がクラシックとはとても思えないぐらいバリバリにスイングしているのだ。そしてその原動力となっているのがドラムスのチャーリー・アントリーニだった。管入りハードバップであろうが、ピアノトリオであろうが、フォービート・ジャズを演らせたらヨーロッパでこの人の右に出る者はいない、と言われるぐらい強烈にスイングする人である。そんな彼が超高速ブラッシュ・プレイでキケロを煽りたて、それに対してキケロがノリノリのプレイで応えるという理想的な展開だ。バッハ?何様や?チャイコフスキー?それがどーした?誰の曲でもワシがスイングさしたるでぇ~... みたいな潔さが痛快だ。
 アルバム1曲目の①「ソルフェジオ・ハ短調」、いきなりの疾走系ピアノ・トリオ・ジャズだ。さっきクラシックは退屈と書いたが、その眠たい部分をキレイサッパリ削ぎ落とし、キャッチーなサビのメロディーを中心に高速でインプロヴィゼイションを展開していく。コレはたまらない。息をつく間もなく過ぎ去っていくハイ・テンションな5分43秒だ。②「スカルラッティのソナタ・ハ長調」、まるでイタメシのメニューみたいな名前のこの曲は聞いたことのないメロディーだが、相変わらず一糸乱れぬピアノ・トリオ・ジャズが楽しめる。キケロの流麗なプレイを支えるアントリーニのブラッシュがエエ仕事しとります(^.^) ③「クラヴサン曲集から小さな一生」でもやはり満を持したように0分34秒でブラッシュがスルスルと滑り込んでくる瞬間が鳥肌モノ。変幻自在のブラッシュ・プレイに息をのむ1曲だ。
 ④「バッハのソフトリー・サンライズ」は私でも知っている “チャララァ~ン♪” というフレーズが導入部に使われており、そこから一気にベンちゃんの「ウォーク・ドント・ラン」へとなだれ込む。キケロの躍動感溢れるピアノとアントリーニの瀟洒なブラッシュが生み出す歯切れの良いスイング感が絶品だ。⑤「幻想曲・ニ短調」はスローな前半部が眠たいが、2分28秒から一気に加速するところがエエ感じ。後半部はオスカー・ピーターソンばりの力強いタッチが楽しめる。⑥「マタイ受難曲より 神よあわれみたまえ」は以前ラジオ番組で日本チャーリー・パーカー協会の辻バードさんが “人類史上最高の曲” と大絶賛していたが、一体コレのどこが人類史上最高やねん?どうやら私の一番苦手な眠たいパターンがクラシックのファンには最高らしい。コレは私的には要らない曲だ。できれば最後までノリノリで行ってほしかった(>_<)
 このアルバムはジャック・ルーシェやジョン・ルイスのように変にクラシックに媚を売ることなく、あくまでもクラシック曲をジャズの素材として取り上げ、その旋律の美味しい所を活かして目の覚めるようなスインギーなジャズに仕上げた画期的な1枚だと思う。

オイゲン・キケロ バッハのソフトリー サンライズ

Bossa Nova Soul Samba / Ike Quebec

2010-01-17 | Jazz
 アート・ブレイキー、バド・パウエルと超メジャー級アルバムが続いたブルーノート4000番台の愛聴盤シリーズの最終回は一転してマイナーな盤である。ジャズの紹介本や雑誌で取り上げられるアルバムというのはいつも判で押したように皆同じで、先の2枚やソニー・クラークの「クール・ストラッティン」、ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」、ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビィ」にマイルス・デイビスの「サムシン・エルス」(←キャノンボール・アダレイの、とは言いませんね、普通...)と、どれもこれもビッグ・ネームの有名なアルバムに偏ってしまい、一向にその先に話が進まないのが現状だ。しかし露出が少ないせいであまり知られてはいないが内容はめちゃくちゃエエ盤、いわゆるひとつの “裏名盤” がジャズ界にはゴロゴロしており、そんな “自分だけの名盤” を見つけていくことこそがジャズを聴く醍醐味だと思う。
 このブログに何度も登場する 901 さんや plinco さんと一緒に月に1度ウチの家で G3 という音聴き会をやっていることはこれまで何度も書いてきた。基本的にはジャズがメインでそこに時々60年代の懐メロも加わるのだが、毎回決められたテーマに沿ったレコードや CD を持ち寄ってみんなで聴きながらワイワイやるのがたまらなく楽しい。少し前にその G3 で “クラシック音楽のジャズ化” 特集をやった時に 901 さんが “コレ、めっちゃエエねん!リストの「リーベンストラウム」演ってんねんで” とおっしゃって1枚のレコードを取り出された。それが今日ご紹介するアイク・ケベックの「ボサノヴァ・ソウル・サンバ」である。
 まずは何と言ってもタイトルが凄い。ボサノヴァ+ソウル+サンバ??? 一体どんな音楽やってんねん?と思われそうだが、中身は至ってノーマルな穏健派ジャズ、ボッサのユル~いリズムに乗ってブルージーなムード満点のテナー・サックスが楽しめる寛ぎの1枚なのだ。特にサイドメンとして参加しているケニー・バレルのギターが絶妙な味わいを醸し出しており、リラクセイション溢れるプレイを聴かせてくれる。渋いなぁ... (≧▽≦) 
 このアルバムは CD で持っていて何度か聴いているハズなのに、不覚にも内容をよく思い出せず、確か「家路」入ってたよなぁ... それからバレルの「ロイエ」が良かった気がするなぁ... 正直言ってそれくらいの印象しかなかった。確かに一聴して強烈なブロウとかは皆無だし、ボッサの単調なリズムのせいもあってかどの曲も同じように聞こえてしまっていたのだろう。それが今聴くと寛ぎの要素が横溢でめっちゃエエのである。私も plinco さんも “エエなぁ...(^.^)” と喜んでいると 901 さんが我が意を得たりとばかり、“でもな、ホンマはこの次の「シュ・シュ」が一番エエねん!” とおっしゃるので皆で聴いてみることに... リズミカルなイントロに続いてケベックのテナーが滑り込んできた瞬間、一同 “おぉ~” と声にならない声を上げる。何と歌心に溢れたテナーだろう! 目からウロコとはこのことだ。しかも何という名旋律!まさに B面2曲目に名曲アリだ!!! とにかくコレはもう哀愁舞い散るテナーの名演ベスト3に入れたい大名演だ。
 ⑥「シュ・シュ」があまりにも良かったので、結局通して1曲目から皆で聴いてみることになった。ギターのケニー・バレル作の①「ロイエ」、コレも⑥と並ぶ哀愁の大名曲だ。ケベックのテナーも飄々とスイングし、そこに艶めかしいバレルのギターが絡んでいくという理想的な展開に涙ちょちょぎれる。それ以外にもドヴォルザークの③「ゴーイン・ホーム(家路)」やリストの⑤「リーベンストラウム(愛の夢第3番)」といったクラシックの名曲が見事にジャズ化されており、どっちの原曲も聴いたことがない私でも十分楽しめた。④「ミー・ン・ユー」や⑧「ファヴェーラ」でもケベックの肩の力の抜けたプレイがエエ感じ。実はこのレコーディングの3ヶ月後に彼は肺ガンでこの世を去るのだが、そんなことは露ほどにも感じさせない素晴らしいプレイの連続である。決して出しゃばらず寄り添うように唄うバレルのギターは助演男優賞モノだ。これはもう匠の技という他ない。
 このアルバムはバリバリのコアなジャズ・ファンよりも、ポップスや歌謡曲も聴く音楽ファンにオススメしたい “G3 認定ジャズ裏名盤”(←スイ○グ・ジャー○ル誌選定ゴールド・ディスクなんかよりもずっと信頼出来まっせ... 笑)の1枚なのだ。

アイク・ケベックのシュ・シュ