shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ロネッツのカナダ盤ゲット\(^o^)/

2020-08-29 | Wall Of Sound
 私はガイド本「アナログ・ミステリー・ツアー」に各国盤蒐集の面白さを教えてもらった人間だが、実際のところ、そこまでして音の違いを楽しみたいと思えるほど入れ込んでいるアーティストはビートルズを筆頭にほんの一握りで、ほとんどの場合はオリジナル盤さえあればそれで十分だ。そんな私が“アーティスト”ではなく“レーベル”単位で各国盤の音の違いに興味を持っているのがご存知フィル・スペクターのフィレス・レーベルだ。
 ちょうど半年ほど前にも “新春音壁祭り” と題してフィレスのUK盤(ロンドン・レコードのプラム・レーベル)を特集したが、先日フィレスのカナダ盤を手に入れることが出来たので今回はそれを取り上げようと思う。
 ロネッツやクリスタルズがまだ現役バリバリだった60年代当時、オリジナルのUS以外でフィレス・レーベルのレコードがリアルタイムでリリースされていた国といえばイギリス、オーストラリア、カナダ、日本ぐらいだったが、そんな中でもカナダ盤はほとんど市場に出てこず入手が非常に困難なのだ。
 しかしラッキーなことに Discogsから “ほしい物リスト” に登録しておいたロネッツの「Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica」のカナダ盤が出品されたという通知が来たのでこれはエライコッチャとばかりに商品説明を見てみると、盤質 VG+で $160というお買い得価格だ。Discogs はeBay と違って写真が無いので普段ならメールで盤面やジャケットの写真を送ってもらうことにしているのだが、そんな悠長なことをしている間に他人に買われてしまっては元も子もないと思い、私は即買いを決めた。
 レコードが届いたのはその2週間後で、コロナのせいで1ヶ月くらいかかるんちゃうかと思っていた私の予想よりもかなり早く到着。急いで中身をチェックすると、盤質もジャケットも説明通りのコンディションで一安心だ。センター・レーベルはカナダ独自の黒レーベルで、初めて実物を手にできてめっちゃ嬉しい。60年代中期から後期のカナダ盤に多く見られるDG(←いわゆるひとつの深溝ですね)は無い。
 盤の重さは139gでUS盤(163g)UK盤(158g)OZ盤(160g)に比べると圧倒的に軽く、ビニールの材質も他国盤とはかなり違っているようだ。肝心の音の方はUSオリジナル初版の青レーベル盤ともUKプラム・レーベル盤ともOZ黒レーベルとも微妙に異なるカナダ独自のドライなサウンドで、こってりした濃厚な音が魅力のUS盤との聴き比べが楽しい。もちろんUS盤の方が王道の “ウォール・オブ・サウンド” だがこのカナダ盤の音も魅力的だし、ビートルズの場合と同じくロネッツもUS盤とカナダ盤で音が違うというのが実に面白い。
 ロネッツのこの「Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica」はビートルズ関連を除けば無人島ディスクの最有力候補と言ってもいいくらい大好きなレコードなので、それを各国盤の色んな音で取っかえひっかえ楽しめるというのが何よりも嬉しい。各国盤蒐集の楽しみは尽きませんな...(^.^)
THE RONETTES (HIGH QUALITY) - BABY I LOVE YOU

「Help!」南ローデシア盤

2020-08-22 | The Beatles
 B-SELSで「A Hard Day’s Night」の南ローデシア盤を買った話は以前ここに書いたが、好きなものは徹底的に極めないと気がすまない性格の私は、ビートルズの他のアルバムの南ロー盤も手に入れて聴いてみたいと思い、ネット上をくまなく検索してみた。
 まずeBayを見ると「Help!」と「Rubber Soul」の2枚が出ていたが、前者は£700(約98,000円)という人をバカにしたようなボッタクリ価格で論ずるにも値しない。後者はVGで$80という手頃な値段が付いていて一瞬 “おぉ、これはエエやん!” と色めき立ったのだが、よくよく商品説明を読んでみると occasional skips(数ヶ所針飛びする)とか very bad pressing quality(プレスのクオリティが劣悪)とか結構ボロクソに書いてある(笑)  「Rubber Soul」の南ロー盤ってどんな音がするんやろ?という興味はあるが、かと言って数ヶ所針飛びするのが分かっている劣悪プレス盤に1万円も出すほどおめでたい人間ではない。
 やっぱりアカンか... と思いながら次に Discogs で南ロー盤をチェックしてみたところ、驚いたことに「Help!」の VG盤が1枚だけ、何と$60で出ているではないか! $60って、さっき eBay で見た同タイトルの1/15以下やん... まさか0を一つ付け忘れたわけでもあるまいし、どーせ再発盤やろ... とも思ったが、ひょっとしたらひょっとするかもと考えてセラーにメールして写真を送ってもらったところ、eBay の £700盤と全く同じレーベル・デザインで、どこをどう見ても本物のオリジナル盤っぽい。これはめちゃくちゃラッキーや!と小躍りしながら私は ORDER をクリックした。
 届いた盤はずっしりと重く、レーベルは濃紺のクラシック・パーロフォンで(←「A Hard Day’s Night」は黒パロだった...)、60年代プレスの南ロー・オリジナル盤で間違いない。実際に針を落としてみると、スパーン!と竹を割ったようなドライなサウンドがスピーカーから迸り出てきてビックリ。「Help!」のUK盤は音がこもっていてイマイチだが、独自マトのこの南ロー盤はひと味もふた味も違うハードボイルドな音が楽しめて大喜びだ。A③「You’ve Got To Hide Your Love Away」の後半部で1ヶ所だけ針飛びするのが玉にキズだが、それを除けばVGどころか余裕でEXを付けれるくらい盤質も良く、これで$60なら御の字だ。私は南ロー盤の素晴らしさを教えてくださったSさんに聴いていただこうと思い、B-SELSにこのレコードを持ち込んだ。以下、Sさんとの会話;
 私:今日は前に言うてた「Help!」の南ローデシア盤持って来ましたで。
 Sさん:$60ってすごく良い買い物しはりましたね。普通ならもっとしますよ。
 私:はい、音もエエんでめっちゃ気に入ってます。でもA③で1ヶ所針飛びしますねん。
 Sさん:じゃあ最初にそこを見てみていいですか? 上手くいけば直せるかもしれません。
 私:ホンマですか! ぜひお願いします。
 Sさん:(2~3分ちょこちょこっと盤面をいじって)じゃあいきましょうか。
 私:えっ、もう直ったんですか... 私もやってみたんですけどあきませんでしてん。さすがはレコードのプロ! ホンマにありがとうございます!!!
 Sさん:斜めキズでした。もちろん上手くいかない場合もありますし、余計なキズをつけてしまう可能性もあるので、それを了承していただける場合にしか出来ませんけどね。
 私:そんなんダメ元ですやん。失うモン何もないですからね。あぁ、めっちゃ嬉しー(^o^) じゃあ聴きましょう。
 Sさん:(A①を聴き終わったところで)いいですねぇ... 伸び伸びした独自の音ですね。
 私:めっちゃドライというか硬質というか... ヴォーカルが生き生きと聞こえます。以前こちらでいただいた「A Hard Day’s Night」の南ロー盤と同傾向のサウンドですね。
 Sさん:ギターの音が伸びやかでメタリック。ちょっとこもりがちなUK盤の音とは違うカラッとしたドライなサウンドで、映画に出てきた南の島のイメージにピッタリの音ですね。
 私:上手いこと言わはりますね。このB①「Act Naturally」なんかその特徴が一番良く出てると思います。
 Sさん:そうそう、カントリーに合ってますね。
 私:もうキレッキレですやん。
 Sさん:今のB③「You Like Me Too Much」もかなり良いと思いますよ。
 私:「A Hard Day’s Night」や「Help!」のような煌びやかでポップなビートルズ映画曲にピッタリの音作りです。
 Sさん:B⑤「I’ve Just Seen A Face」のキレが良いですね。
 私:スピード感のアップを体感できますよね。
 Sさん:B⑥「Yesterday」も素晴らしい。
 私:このB⑦「Dizzy Miss Lizzy」なんかもう “ここまでやるか!” と思えるくらいこの曲のキモである喧騒感が上手く出てますね。う~ん、コレは参った...
 Sさん:ギターの高音が煌びやかでロックな音がしてますね。
 私:独自マトの盤ってこういう拾い物があるから楽しいです。
 Sさん:(レコードのデッドワックス部分を指差しながら)マトと言えばここに持ち主の名前が彫ってあるでしょう? 最初はエンジニアの名前かと思いましたよ。
 私:あっ、ホンマや。これ、Phil & Ronnie みたいな筆跡ですね。めっちゃ上手いこと彫ってあるから全然気ぃ付きませんでしたわ。
 Sさん:裏ジャケにペンで同じ名前が書いてあったので...
 私:なるほど、よぉ見てはりますなぁ... 私は前所有者の書き込みなんか完全スルーですわ。

【追悼】ミコたんのシングル盤特集② ~コロムビア・イヤーズ~

2020-08-15 | 昭和歌謡・シングル盤
 ミコたん特集の後半は、持ち前のパワーに加えて表現力に深みを増したことによって歌手としての円熟期を迎えた60年代中盤から後半にかけてのコロムビア時代を特集します。

①はじめての恋人 / 砂に消えた涙(SAS-432)1964.12
 「ヴァケーション」もそうだったが、彼女のシングルにはB面がA面を凌駕しているような盤も少なくない。このレコードもその典型で、A面の「はじめての恋人」も悪くはないが、やはりここはB面の「砂に消えた涙」に尽きるのではないか。この曲はオリジナルのミーナに加え、ザ・ピーナッツや竹内まりや、サンディーなどカヴァーにも名唱が目白押しだが、私的にはこの曲が持つ甘酸っぱい感覚をこれ以上ないくらい見事に歌い上げたミコ・ヴァージョンが一番好きだ。漣健児氏による “青い月の光を浴びながら~♪” というロマンチックな訳詞も素晴らしい。
弘田三枝子/砂に消えた涙 Un buco nella sabbia~Mina (1964年)


②太陽の海 / 夕陽のなぎさ(JPS-7)1965.06
 ①の「砂消え」に続いてまたまたミーナのカヴァーである。ビートルズの登場によって古き良きアメリカン・オールディーズの時代が完全に終焉を迎えたせいか、この頃になるとミーナやジリオラ・チンクエッティ、フランス・ギャルといったイタリアン / フレンチ中心のヨーロピアン・ポップスのカヴァーに軸足を移しつつあるのが当時の洋楽事情をダイレクトに反映していて中々興味深い。それにしてもミコのこのカヴァー、曲を完全に自家薬籠中のものにしており、ミーナのオリジナル・ヴァージョンよりも遥かに魅力的に響く。曲の知名度が低いせいで話題に上ることはあまりないかもしれないが、これもまたカヴァーがオリジナルを超える瞬間を音溝に刻んだ名シングルだと思う。尚、この曲に続いてリリースされた「夜の太陽」(←これも良い曲!)とタイトルが似ているのでいつもこんがらがってしまう。困ったものだ。
弘田三枝子 太陽の海 1965 / Stessa Spiaggia Stesso Mare


③レオのうた(SCS-1)1965.12
 このレコードは手塚治虫のTVアニメ「ジャングル大帝」の挿入歌を集めた4曲入りEPで、彼女が歌っているのはA②だけなのだが、彼女を語る上で欠かせない重要な曲なので気にせず紹介。この「レオのうた」という曲、子供向けアニメのエンディング・テーマ曲だからといってバカにしてはいけない。ここで聴ける彼女のヴォーカルはまさに “ザ・ワン・アンド・オンリー” と言ってもいいくらい素晴らしく、力強さとキメ細やかさを兼ね備えた抜群の表現力を駆使し、この難曲をものともせずに(←彼女以外でこの曲を歌いこなせる歌手は美空ひばりぐらいしか思いつかない...)壮大なスケール感を感じさせる伸びやかな歌声で聴く者を圧倒する。私に言わせれば彼女の全作品中でも三指に入る大傑作で、わずか1分43秒の中に弘田三枝子という稀代の名シンガーの凄さが濃縮された、まさに人間国宝級のヴォーカルが楽しめる1曲だ。因みにこの曲の作曲者がシンセサイザー奏者として有名なあの冨田勲だと知った時はビックリした。
レオのうた 弘田三枝子/コロムビア女声合唱団


④スーベニールス / そよ風に乗って(JPS-30)1966.02
 A面はコニー・フランシスのカヴァーだが、こういうさりげない隠れ名曲を取り上げるあたりはさすがという他ないし、洗練されたミコのヴォーカルは何度聴いてもウキウキワクワクさせられる。しかしそんなA面が霞んでしまうくらい凄いのがマージョリー・ノエル一世一代の名曲をカヴァーしたB面の「そよ風に乗って」だ。この曲は音域が広く音程も上下に分かれていてかなり難しい曲だと思うのだが、ミコは余裕すら感じさせる声量で原曲の持つ爽快な雰囲気を絶妙に表現している。囁くように歌いながらサビのパートで一気にたたみかけるところなんかもう快感そのもので、決してパンチ一辺倒ではない、軽やかな歌いっぷりで聴く者を魅了するヴォーカルこそが天才シンガー、弘田三枝子の真骨頂だと思う。
弘田三枝子 そよ風に乗って 1966 / Dans Le Meme Wagon


⑤黒いブーツと皮ジャンパー / 帰らぬ少年兵(SAS-879)1967.04
 A面の「黒いブーツと皮ジャンパー」は最初にタイトルを見た時はアダモの「ブルージーンと皮ジャンパー」の改題カヴァーだと思っていたのだが、実際に聴いてみると全く違う曲でビックリ。作詞作曲のクレジットを見ると、橋本淳=いずみたくコンビのオリジナル作品だった。哀愁舞い散るハーモニカや涼しげな音色のヴィブラフォンが絶妙な味わいを醸し出し、軽快に疾走するミコのヴォーカルを引き立てている。特に後半部分のジャジーなフィーリング横溢のスキャットがめっちゃクールでカッコイイ(^o^)丿 尚、B面はコーリン・ラベットのカヴァーで、時代の空気を感じさせるミコの語りが面白い。

⑥渚のうわさ / 風とオトコのコ(P-1)1967.07
 コロムビア・レコードのポップス歌謡部門であるPシリーズの記念すべき第1弾となったこのシングルは A B面ともに橋本淳=筒美京平コンビの作品だ。A面の「渚のうわさ」は清々しい歌謡ポップスで、ただでさえ美しいメロディーを更に引き立てるストリングスのアレンジが絶品の大名曲。緩急のツボを心得た彼女の伸びやかな歌声が耳に心地良い。B面の「風とオトコのコ」は昭和歌謡とGSが見事に融合した “ひとりGS” の大傑作で、ビートの効いたサウンドをバックにこの時代ならではのやさぐれ感を醸し出す彼女のヴォーカルが圧倒的に素晴らしい!!! ミコの歌謡曲路線の曲の中で私が一番好きなのが他でもないこの曲なのだ。それにしてもこの「渚のうわさ」と「風とオトコのコ」のカップリングって昭和歌謡史上最強と言ってもいいくらい凄いシングルだと思う。
弘田三枝子 - 渚のうわさ / 風とオトコのコ (1967)

【追悼】ミコたんのシングル盤特集①~東芝イヤーズ~

2020-08-10 | 昭和歌謡・シングル盤
 先月、弘田三枝子が亡くなった。私はビートルズだけでなく日本の歌謡ポップスも大好きで、中でも彼女は超お気に入りの歌手だったのでめちゃくちゃショック(>_<)  彼女を形容するのによく “パンチの効いた歌声” だとか “天性の歌唱力” だとかいった表現を目にするが、それは彼女の魅力のごく一部に過ぎない。彼女の真の凄さは、カヴァー・ポップスの訳詞を原曲のメロディーに乗せる時に符割りやアクセントの入れ方・発声法などを工夫することによって曲のニュアンスを自在に変え、オリジナルを超えるような作品を次々と生み出し続けたことにあり、私の知る限り、弘田三枝子以前に彼女のように歌った歌手はいない。そういう意味で、彼女こそが日本における女性ビート・ポップ・シンガーの先駆者であると同時に最高峰であると私は確信している。今日はそんな彼女の遺した膨大な数のシングル盤の中から東芝時代に絞って何曲か取り上げよう。

①子供ぢゃないの / 悲しき片思い(JP-5089)1961.11
 弘田三枝子の記念すべきデビュー・シングルで、オリジナルはAB面共にヘレン・シャピロの代表曲だが、どちらもシャピロ盤を超える出来に仕上がっているところが凄い。とにかくこれを聴けば彼女がとても14才とは思えない完成されたスタイルを持ったシンガーだったことがよく分かるだろう。漣健児の訳詞も実にユニークだし(←“隣のおじさんステキだけど 今でもガムを買ってくれるから嫌い” のラインなんかめっちゃ笑えるwww)、タイトルを「子供じゃ」ではなく「子供ぢゃ」としたセンスにも脱帽だ。
弘田三枝子 子供ぢゃないの


②かっこいい彼氏 / シェーナ・シェーナ(JP-5148)1962.09
 このシングル、コニー・フランシスをカヴァーしたイケイケなA面「かっこいい彼氏(Gonna Git That Man)」ももちろん良いが、さりげなくB面に入れられた「シェーナ・シェーナ」という隠れ名曲に注目したい。オリジナルはこれまた知る人ぞ知るガール・グループ、シェパード・シスターズなのだが、中近東をイメージさせるアップテンポな曲想が彼女のパンチの効いた歌声と見事にマッチして原曲を凌駕する作品に仕上がっている。
弘田三枝子 シェーナ・シェーナ 1962 / Schoen-a Schoen-a

シェファード・シスターズ シェイナ・シェイナ 1962 / Schoen-A Schoen-A


③リトル・ミス・ロンリー / ヴァケーション(JP-5161)1962.10
 このシングル盤を手に入れるまで、彼女の代表曲の一つである「ヴァケーション」がB面扱いだったとは夢にも思わなかった。まぁ「イエスタデイ」を「アクト・ナチュラリー」のB面として涼しい顔でリリースした東芝らしいといえばそれまでだが...(笑) 冗談はさておき、コニー・フランシスのオリジナルの歌詞が “夏休み” だけについて歌っているのに対し、漣健児の訳詞は発売日が10月になったからなのか、“夏→秋→冬→春” と1年を通した内容にアレンジされているのが面白い。その溌剌とした歌声は空前にして絶後と言っても過言ではない素晴らしさで、カヴァー・ポップスの楽しさを濃縮還元したかのような極めつけの名唱だ。
弘田三枝子 ヴァケイション


④想い出の冬休み / マック・ザ・ナイフ(JP-5199)1963.03
 これは凄いカップリングのシングルだ。A面はご存じコニー・フランシスの名曲のカヴァーだが、表現力を増した彼女のヴォーカルはまさに絶品と言ってよく、一人二重唱もばっちりキマッている。B面の「マック・ザ・ナイフ」はソニー・ロリンズの名演でも知られるジャズのスタンダード・ナンバーだが、何度聴いてもこの堂々たる歌いっぷりには圧倒される。しかもオール・イングリッシュでである。とてもじゃないが16才とは思えない、凄味すら感じさせる圧巻のヴォーカルだ。彼女が敬愛するエルヴィスの歌唱法がちらほら顔をのぞかせるあたり(1:16, 1:43, 1:52, 2:25)も実に面白い。
弘田三枝子 想い出の冬休み(1) 1963 / I'm Gonna Be Warm This Winter

弘田三枝子 マック・ザ・ナイフ 1963 / Mack The Knife


⑤悲しきハート / 月影のレナート(JP-5236)1963.07
 初期ビートルズでも明らかなように、カヴァーでオリジナルを超えるというのは超一流アーティストの証だと思うのだが、例えばこの「悲しきハート(Lock Your Heart Away)」という曲、スーザン・シンガーというイギリスの女性歌手(←ヘレン・シャピロのいとこらしい...)が歌うオリジナル・ヴァージョンを聴いてもあまり伝わってくるものがないのだが、ミコが歌うこのカヴァー・ヴァージョンは段違いの説得力でもってグイグイと心にくいこんでくる。彼女の歌声の魅力を最大限に引き出したアレンジが兎にも角にも素晴らしい。ミーナをカヴァーしたB面も素晴らしい仕上がりだ。
弘田三枝子 悲しきハート 1963 / Lock Your Heart Away


⑥ダンケシェーン / 涙のためいき(TR-1050)1964.03
 彼女は小学校6年生の時にジャズ・ミュージシャンのティーブ釜萢(←言わずと知れたムッシュかまやつのお父さん!)に師事して米軍キャンプのステージで歌っていたという凄い経歴の持ち主だけあって、純粋なポップスだけでなくジャズもラクラク歌いこなしてしまう筋金入りのシンガーだ。この「ダンケシェーン」という曲のアレンジはオリジナルであるブレンダ・リーのヴァージョンに倣ってジャジーなフィーリングに溢れているが、スモールコンボをバックにノビノビと歌うミコの歌声が快適そのもので耳に心地良い。決して “パンチ力” だけではない、このシンガーとしての懐の深さこそが歴史に名を残す彼女のような “選ばれし者” と凡百の流行歌手たちとの一番の違いだろう。
弘田三枝子 ダンケシェーン 1964 / Dank Schon

「Let It Be」UK BOXの極美品ゲット②\(^o^)/

2020-08-03 | The Beatles
 B-SELSに行った時はレコードを聴き終えた後も時間の許す限りSさんとビートルズ談議に花を咲かせるのだが、UKボックスを聴かせていただいた日は “じゃあ今日はこれくらいで...” とそそくさとお店を出た。何としてもこの逸品を手に入れたいという思いで頭が一杯で、一刻も早く家に帰って財布と相談したかったからだ。
 しかしそんな私を待っていたのは厳しい現実だった。ここのところ、車の修理代やらパソコンの修理代やら(←冷却ファンがぶっ壊れたのでアイスノンを下に敷いて使ってたらマザーボードが焼けてもうて起動せんようになった...)の高額出費が重なって、とてもじゃないが79,800円のボックス・セットをポンと衝動買いする余裕などない。私は “やっぱりアカンか...” と一旦は諦めかけた。
 しかしその日の晩ふとんに入って目を閉じると数時間前に聴かせていただいた “あの音” が頭の中で鳴り出して中々寝付けない。その翌日も同様で、ふとんの中で悶々とするハメに...(*_*) そこで私は考えた。こんなに気になるんやったら少々無理をしてでも買ってしまおうと。試聴ができないネット・オークションであれほど完璧なコンディションの「Let It Be」を見つけるなんて砂漠の真ん中で針を探すようなもの。もしもこうやって二の足を踏んでいるうちに売れてしまったら、今後ずーっとあのジャケットを見るたびに後悔するハメになるのは目に見えている。幸いなことに月曜は B-SELS の定休日なので、火曜に行けばまだお店にある可能性は高い。予定になかった79,800円の出費は確かに痛いが、来月レコードを一切買わなければ何とかなるだろう。去年 SGT ニンバス盤や PPM 1G 盤を買った時と同じく今年の夏もレコード断食をすることになろうとは夢にも思わなかったが、こんな千載一遇のチャンスを逃す手はない。
 そうと決めたら善は急げだ。翌日、私は仕事を早めに切り上げて有休を取り、ATM でお金を下ろしてから B-SELS に直行した。4月に転勤になったおかげで職場から20分で行けるようになったのもラッキーだ。もう一生今の職場でエエわ(^.^) 
 お店に入っていくと “えっ? 今日はどうしはったんですか?” と驚かれる Sさん。平日の午後4時すぎに行ったのなんて多分初めてだろう。“実は例のボックス・セットの音が忘れられませんねん。ふとんに入ってもアタマの中で鳴りっ放しやし、仕事中も気になってしゃあないしで、仕事を早めに切り上げて来ましたんや。もう一回聴かせて下さいm(__)m” とお願いすると快諾して下さった。
 う~ん、やっぱりミント盤はエエのぅ... と悦に入る私。Sさんも気持ちよさそうに目をつむって聴いておられる。やっぱり今日来て大正解やったわと思いながら、お店のスピーカーから飛び出してくる “すさまじい音” を堪能する。これは間違いなくくれまで聴いてきた中で最高の「Let It Be」... まさに “一生モノ” の音である。Sさんが商品説明に書かれた “極美品! 宝物です!!” という表現が決して誇張ではないことが実感できる究極の音だ。アルバムを聴き終わると同時に “これ、いただきます!” と言うと、Sさんも “ありがとうございます。これほどの美品は滅多に出ないと思います。” と一緒に喜んで下さった。
 早速家に持ち帰って自分のシステムで聴いてみる。う~ん、これは素晴らしい... いや、素晴らしすぎる!!! 手持ちの盤とも聴き比べてみたが、3U 盤との一番の違いは中低域の充実ぶりで、どっしりと腰の据わった豊饒なサウンドは快感そのもの。例の 2G 盤との比較では、A面はやはりボックス盤に一日の長ありで、敢えて点数をつければ10(ボックス)対9(2G)という感じ。B面は「The Long And Winding Road」の微妙な倍音の響きの美しさでは 2G 盤に一歩譲るが「I’ve Got A Feeling」の聴く者を圧倒するアーシーなノリや「For You Blue」の泥臭いグルーヴなど、2G 盤に迫る高音質で、B面は9.5(ボックス)対10(2G)と言えようか。どちらにせよ、B-SELS のおかげで、「Let It Be」50周年の今年ついに望みうる最高音質の盤を手に入れることができてめっちゃ嬉しいヽ(^o^)丿 
 レアなアナログ・レコードを探すのにネット・オークションは確かに便利だが、盤質チェックがいい加減なセラーやマザー/スタンパーの知識すらないド素人セラーも少なくないので、カスをつかまされるリスクを伴うのは避けられない。だから高額な盤はやはりこうやって実際に自分の耳で音を確かめてから買うのが一番だと思っている。そういう意味でも B-SELS のような信頼できるレコ屋さんが近くにあってホンマにラッキーだ。
The Beatles - Rare UK LET IT BE BOX

「Let It Be」UK BOXの極美品ゲット①\(^o^)/

2020-08-01 | The Beatles
 先日 B-SELS ホームページの「日記」のコラム(7/17付)を読んでいたら、お店に出品中の「Let It Be」UK BOX についての記述があり、その中で店主の Sさんは “すさまじい” という形容詞を用いてそのレコードの音を絶賛されていた。“良い音”“凄い音”という表現はよく耳にするが、“すさまじい音” という描写には滅多にお目にかかれるものではない。「Let It Be」といえば先月 B-SELS で極めつけの高音質を誇る “スタンパー2G盤” をゲットしたばかりだが、これまで何十枚何百枚(?)もの2U/2U赤りんごジャケ盤を聴いてこられたであろうSさんにこれ程のインパクトを与えた“すさまじい音” というのを是非とも聴いてみたいと思った私はこの前の4連休最後の日曜日に B-SELS に行ってみた。
 私がいつものように荷物置きにカバンを置くと、Sさんはすぐに「Let It Be」のUK BOX を壁から降ろされた。Sさんとのお付き合いはまだ2年にも満たないが、私の考えていることはすべてお見通しのようだ。Sさん曰く、“売れてしまう前に聴いていただこうと思いまして...” とのこと。私はSさんの仰る“すさまじい音” を聴き逃すまいと耳に全神経を集中させた。
 A①「Two Of Us」が始まった。おぉ、何と力強い音だろう! 私もこれまで数えきれないくらいこの曲を聴いてきたが、これほど力感漲る「Two Of Us」は聴いたことがない。しかも盤質がめちゃくちゃ良くて(←後で確認したら盤面ピッカピカでスピンドル・マーク皆無のミント盤だった...)ほぼノイズレスで超クリアー&クリスプな音が店内に響きわたる。
 A②「Dig A Pony」のジョンのヴォーカルがめちゃくちゃ近くて生々しい。何故か傷がついていることが多い最難関トラックA③「Across The Universe」もやはりノイズレスで、雄大なアコースティック・サウンドを心ゆくまで堪能できて言うことナシヽ(^o^)丿 気がつけば、音の分析を忘れてしまうくらい音楽そのものにグイグイ引き込まれていく自分がいた。A④「I Me Mine」のジョージのヴォーカルとギターも実にパワフルだ。
 しかしA面最大の聴き物はグルーヴィーなA⑤「Dig It」を露払いに登場する真打ちA⑥「Let It Be」だ。特に中間部のギター・ソロは圧巻そのもので、サウンドの熱量がハンパない。思わず “何だかもう別ミックス聴いてるみたいな感じですね!” と大コーフンしながらSさんに話しかけると “我が意を得たり” と言いたげな様子で満面の笑みを浮かべられた。
 私はこの音の秘密は何だろうと思いながら商品説明カードに目をやると、マザー/スタンパー・コードの欄に “- TP/2GDA” とある。ひょっとしてコレか... と思いながら “A面のマザーが「-」になってますが、この音の良さはそれと何か関係あるんですかね?” と伺うと“そうなんです。実はこのレコードにはマザーの刻印が打ってないんですよ。” と仰る。なんでも、たまたま常連さんが持ってこられたマザー刻印無しの「Let It Be」の音がめちゃくちゃ良かったので手持ちのレコードを調べてみたら同じようなマザー刻印無しの盤が2枚あって、そのどちらもが常連さんのレコードと同じような凄まじい音で鳴ったのだという。なるほどねぇ... 3枚の “マザー刻印無し盤” だけが同じような “すさまじい音” で鳴ったとすればSさんの仮説は大いに説得力を帯びてくる。独りで eBay や Discogs を漁っているだけではこのような貴重な情報は絶対に手に入らない。B-SELS の強みの一端はこのようなコレクター情報網にあるのだなぁと実感すると同時にそんなお店が近くにあってホンマにラッキーやなぁと思った。
 するとそこでSさんが “マザー刻印無しのもう1枚の盤がコレです。盤質はさすがにボックスより少し落ちますが、擦れ程度で深いキズは無いので十分楽しめます。” と仰ってエサ箱から赤りんごジャケ盤(←こちらは7/27付の「日記」に登場)を持ってこられた。こちらの方はボックスではないので14,800円と値段も手頃だ。 “こっちも聴かせていただいていいですか?” とお願いすると “もちろんです!” と快諾され、もう一度A①「Two Of Us」から聴き始めることになった。おぉ、確かにボックスのと同じ力強い音がする。Sさんの “マザー刻印無し盤最強説” に私も賛成だ。盤質もボックスのミント盤と比べるとほんのわずかノイズがあるかなぁレベルのすこぶる良好な状態(私の耳にはEX)で、コスパは圧倒的にこちらの方が高い。
 せっかくなのでB面の方も(←こっちの面はマザー刻印あり)聴かせていただいた。14,800円盤の方はマザーが1で盤質はB①~③がEX、B④~⑤がEX-という感じなのに対し、ボックスの方はA面同様の“ほぼミント”な盤質で、前者のLP単品の方だけ聴けば全く問題ない超お買い得盤なのだが、ほぼノイズレスなボックスの方を聴いてしまうとどうしても心が揺れてしまう。改めて “盤質こそが大正義” なのだと思い知らされた。
 貧乏コレクターの私はA面の聴き比べを聴き終えた時点では “B面はこの前の 2G盤があるし、あんまりお金ないからA面狙いで14,800円盤の方を買おうかな...” という気になっていたのだが、ミントなB面を聴き、更に奇跡的に新品同様状態(!)の写真集やジャケットを眺めているうちに “ミント状態の「Let It Be」を買えるチャンスなんてもう2度と巡ってこんかもしれへんで... ホンマに安い方でエエんか?” という悪魔の囁きのような(笑)内なる声が聞こえてきたのだ。ビートルズのことになると私が悪魔に魂を売ってしまうのはこのブログを読んでおられる方ならご存じの通り。
 もちろんその日は手持ちのキャッシュが無かったので(←毎回このパターンやな...)2枚のマザー刻印無し盤を聴き終えたところで “今日はホンマにエエもん聴かせてもらいました。大雨の中を来た甲斐がありましたわ。” とSさんにお礼を言って B-SELS を後にした。 (つづく)