shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Boots / Nancy Sinatra

2009-08-22 | Oldies (50's & 60's)
 私の座右の銘に “女性ヴォーカル盤はジャケットで買え!” というのがある。もちろん中身の音楽を聴くために買うというは正論中の正論なのだが、ジャケットが魅力的であれば万が一中身がハズレでも救われるし、好ジャケ盤はたとえ聴かずとも見るだけで永久保存の価値があると思う。ジャズ・ヴォーカルを聴き始めた頃、ジュリー・ロンドンやティナ・ルイスはその魅惑のジャケット目当てにオリジナル盤を買い集めたものだったが、ポップ歌手ではこのナンシー・シナトラがジャケ買い候補の筆頭(笑)である。
 彼女はその名の示す通りあのフランク・シナトラの長女で、61年に父フランクが設立したリプリーズ・レーベルからレコード・デビュー。当時の音楽界の状況を反映してカワイコちゃんアイドル路線で売り出し、日本ではイントロの “ジョニボーイ、テイキッスロー... ♪” の悩ましい囁きがたまらない「レモンのキッス(ライク・アイ・ドゥー)」を始め、「イチゴの片想い(トゥナイト・ユー・ビロング・トゥ・ミー)」や「フルーツ・カラーのお月さま(アイ・シー・ザ・ムーン)」、「リンゴのためいき(シンク・オブ・ミー)」といったフルーツ路線の邦題もあって “フルーツ娘” として親しまれたが、本国アメリカではテディ・ベアーズの「会ったとたんに一目惚れ」(アメリカではこの曲のB面が「レモンのキッス」だった...)やコール・ポーターの「トゥルー・ラヴ」といった名曲のカヴァーをシングル・カットしたものの、まったくの鳴かず飛ばずで、チャートの100位にすら入らなかった。まさにナンシー不遇の時代である。そんな彼女に転機が訪れたのがプロデューサー、リー・ヘイゼルウッドとの出会いだった。彼はアストロノウツ一世一代の名曲名演「太陽の彼方」(例の “ノッテケ ノッテケ ノッテケ サーフィン♪” ってヤツです)の作者として有名で、ナンシーのキャラを “親の七光りカワイコちゃん歌手” から “攻撃的でセクシーな大人の女” へと変身させた。それが見事に当たり、フォーク・ロック調の⑧「ソー・ロング・ベイブ」が初のトップ100入り、続いてリリースされた⑤「にくい貴方(ジーズ・ブーツ・アー・メイド・フォー・ウォーキン)」が初の全米№1に輝く大ヒットを記録したのだ。とてもあの「レモンのキッス」でブリブリとカワイコぶってたアイドル歌手と同一人物とは思えないパンチの効いた歌い方がめちゃくちゃカッコ良いナンバーで、特に1分52秒で彼女が叫ぶ “ハッ!!!” なんかもうたまらんなぁ... (≧▽≦)  「ラバー・ソウル」の残り物のようなドデカいタンバリンの音といい、音が少しずつ下がっていく印象的なベース・ラインといい、妙に耳に残るバックの演奏がいかにもこの時代の音と言う感じで私はこのチープさ加減が大好きだ。このアルバム「ブーツ」はそんな彼女のファースト・アルバムで、先にシングル・カットされた2曲以外は大半が当時の人気バンドのカヴァー曲で占められている。
 ストーンズの①「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」は当時世界的に流行していたボッサを巧みに取り入れたアレンジが秀逸で、続くビートルズの②「デイ・トリッパー」と共に彼女のロックンロール志向を如実に物語っている。その②ではアルマ・コーガンを不良化させたようなヴォーカルが面白い。「ブリリアント・ディスガイズ」なメロディーが清々しい③「アイ・ムーヴ・アラウンド」、タートルズがカヴァーしたディラン曲④「イット・エイント・ミー・ベイブ(悲しきベイブ)」の2曲はビリー・ストレンジのポップなアレンジが活きている。ウォーカー・ブラザーズの⑥「イン・マイ・ルーム(孤独の太陽)」とニッカ・ボッカーズ⑦「ライズ(いつわり)」は可もなく不可もなくといった感じだが、アルバム全体を⑤のカラーで統一しようという意図はよくわかる。⑨「フラワーズ・オン・ザ・ウォール」は③④同様、ビリー・ストレンジのカラーが強く出たキャッチーな曲。⑤の使い回しのような例の音が少しずつ下がっていくベース・ラインの大盤振る舞いがめっちゃ笑えるなぁ(^.^) アルバムのラストは再びビートルズのカヴァーで⑪「ラン・フォー・ユア・ライフ」なのだが、この曲の歌詞の内容から言っても女性シンガーによるカヴァーはかなりレア。歌詞の girl を boy に変え、I’d rather see you dead, little boy, than to be with another girl(アナタが別の女といるのを見るくらいなら、死んでもらった方がマシよ)とか、Catch you with another girl, that’s the end... you hear me?(浮気の現場を押さえたら、ただで済むと思わないでね、わかった?)とドスの効いた低い声で凄むナンシー姐さんにはクラクラする。この⑪は⑤と並ぶ私の愛聴曲で、 “名門シナトラ一家の不良娘” の面目躍如たる1曲だと思う。
 最初に書いたように彼女のアルバムはフェロモン度数の高いジャケットが多くてどれか1枚、と言われると悩んでしまうが、内容で言えば文句なしにこのデビュー・アルバムを推したい。

Nancy Sinatra - These Boots Are Made For Walking (1966)


RUN FOR YOUR LIFE / Nancy Sinatra (Music Only)