shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ウクレレ・ドリーミング / サンディー

2009-08-08 | Cover Songs
 私はウクレレの持つ独特のスイング感とその癒し系サウンドにハマッて以来、好きな楽曲をウクレレ・カヴァーした企画モノ・アルバムを見つけたら必ず買ってしまう習性がある。このブログでもビートルズを筆頭にウルトラマンからジブリまで何枚か取り上げてきたが、そんな数あるウクレレ・カヴァー・アルバムの中で私が最も愛聴しているのが、サンディー&ザ・ザンセッツでリード・ヴォーカルを取っていたサンディーがオールディーズの名曲たちをハワイアン・アレンジでカヴァーした「ウクレレ・ドリーミング」である。
 彼女は日本人とスペイン人のハーフで東京生まれのハワイ育ち、エキゾチックな美貌と抜群のプロポーションを誇るアジアン・ビューティだが、何よりも彼女の最大の魅力は聴く者を優しく包み込むようなその歌声にある。疲れた心を癒してくれるような、まるで南斗慈母星ユリヤの如き不思議な魅力が彼女の歌声にはある。ライナーでよしもとばななさんが “部屋全体が柔らかい光にくるまれたような感じ” と表現しているが、言い得て妙、まさにユリヤのイメージそのものではないか。そんな母性愛に満ちた歌声でウクレレの癒し系サウンドをバックにオールディーズ、それも当時の日本人女性シンガーたちがこぞって取り上げた和製カヴァー・ポップスの名曲の数々(まりや姐さんの「ロングタイム・フェイヴァリッツ」に近い選曲だ...)を歌っているのだ。これで名演が生まれないワケがない。
 ライナーによると、このアルバムのプロデューサーがイメージしたのは映画「ティファニーで朝食を」の中でギターを爪弾きながら「ムーン・リヴァー」を歌うオードリー・ヘプバーンで、これを “ニューヨーク→ハワイ” 、 “アパートの非常階段→ヤシの木陰” 、 “ギター→ウクレレ” 、 “ムーン・リヴァー→オールディーズ” 、そして “へプバーン→サンディー” へと変換するのだという。いやはや、ワカッたようなワカらんような5段変格活用だ。更に随所にウクレレによるインタールード風インスト①⑥⑩⑭が挿入されており、チルアウト気分を盛り上げてくれる。細工は流々といったところか。
 シンセ・サウンドをバックにした波の音①に続いて歌われるのはコニー・フランシスの②「ボーイ・ハント」、山内雄喜氏による情緒纏綿たるウクレレのイントロからもう夢見心地、アルバム・タイトルにあるように “ウクレレ・ドリーミング” な世界が展開する。サンディーのヴォーカルもまるで夢物語を語って聴かせているような趣があり、この名曲に不思議な魅力を与えている。3分19秒あたりで呟く “ヘィ ケ アロハ♪” が何とも言えず艶めかしい。ミーナの③「砂に消えた涙」は弘田三枝子を始め、ザ・ピーナッツ、竹内まりやという錚々たる顔ぶれがカヴァーし、桑田佳祐師匠も “大好きな曲!” と言ってはばからないヨーロピアン・ポップス屈指の名曲だが、サンディーは関口和之氏のウクレレをバックに一言一言噛みしめるように歌う。1st ヴァースをイタリア語で、2nd ヴァースからは日本語で歌うというニクイ演出も効果抜群だ。彼女の歌声にピッタリ合った絶妙なテンポ設定も名演度数をアップさせている。
 ヴィッキーで大ヒットしたポール・モーリアの④「恋はみずいろ」は、歌伴の名手オータサンのツボを心得たウクレレ演奏といい、サンディーのアンニュイな歌声といい、心に染み入る名曲名演だ。それにしてもこのサンディーという人、聴けば聴くほど惹き込まれていくような不思議な魅力を持ったヴォーカリストだ。フルーツ娘こと、ナンシー・シナトラの⑤「レモンのキッス」では②③④とは違って原曲の持つラヴリーな雰囲気を見事に表現した胸キュン・ヴォーカルを聴かせてくれるサンディーにタジタジだ。2分44秒の“kiss like I do... smack!” もたまらない(≧▽≦)
 スラッキー・ギター(ギターのキー・チューニングを緩めて弾く奏法)の名手ピーター・ムーンが奏でるウクレレのこのユルユルなイントロを聴いて “一体何の曲?” と考え込んだ瞬間、サンディーが “陽に焼けた 頬寄せて 囁いた 約束はぁ~♪” と歌い始める。ザ・ピーナツの⑦「恋のバカンス」だ。その歌声は抗しがたい吸引力に満ち、寄せては返す波の音と哀愁舞い散るウクレレのサウンドが夏の終わりの黄昏時を描写する。こんな素敵なカヴァーをされては宮川先生も天国でさぞや喜んでおられるにちがいない。
 シェリー・フェブレーの⑧「ジョニー・エンジェル」ではアタマの “Johnny Angel, You’re my angel to me...” を英語ではなく “ジョニー・エンジェル~ エク ウア ネェラァ~♪” とハワイ語(やと思う...)で歌うところがめちゃくちゃカッコイイ。この曲に限らず、私は曲の最中に言語をスイッチする歌い方が大好きなのだが、その極めつけと呼べるのがウィルマ・ゴイクの⑨「花のささやき」で、前半の日本語詞に続いて “セェ~ ノォコォリィ~♪” とサンディーの流暢なイタリア語がスルスルと滑り込んでくるところが鳥肌モノ。山内雄喜氏の品格滴り落ちるウクレレ・プレイも絶品だ。
 ヴォーグズの⑪「マイ・スペシャル・エンジェル」はこのアルバム中最もハワイらしいおおらかな雰囲気を持った曲で、ハーブ・オオタ・ジュニアの奏でるウクレレのサウンドを聴いていると “この曲はハワイの伝統的な民謡です!” と言われたら納得してしまいそうなぐらいハワイっぽい曲だ。サンディーも水を得た魚のように伸び伸びと歌っている。
 ケイシー・リンデンの⑫「悲しき16才」ではウクレレは完全に脇役に徹し、 “ヤヤヤ~ヤ ヤヤヤヤ♪” というリフレインが強烈なインパクトを残す。要所要所でサンディーの歌声がダブル・トラッキングで微妙にハモるところなんかもうゾクゾクする(≧▽≦) ロネッツの⑬「ビー・マイ・ベイビー」、ウォール・オブ・サウンドとは対極をなすシンプルな編成ながら、サンディー入魂のヴォーカルが聴く者の心を捉えて離さない。ホンマに見事な表現力だ。ジリオラ・チンクエッティの⑮「夢見る想い」も⑨同様、途中からイタリア語にスイッチするキラー・チューンで、彼女の優しく包み込むような声で “ノノレタァ~♪” と歌われた日にゃあ、もうどーにでもして!という気分になってくる。エンディングの “ウ~ナモ~レ ロマンティコ...” は何のこっちゃ分からんけど、それが又めっちゃカッコエエのよね~(^o^)丿 シンプルなウクレレの伴奏だけで淡々と歌い綴るジョニー・ソマーズの⑯「ワン・ボーイ」、まさに “シンプル・イズ・ベスト” を地で行く名唱だ。エンディングは波の音とともにフェイド・アウト... と思ったら再びフェイド・インってか。このヘルター・スケルターなアレンジ、ようやってくれるわ。

花のささやき