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shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

夜のつづき / 八代亜紀

2025-05-25 | Jazz Vocal

 八代亜紀の「夜のつづき」アナログLPを手に入れた。このアルバムは既にCDで持ってはいたのだがアナログ盤を買いそびれていて、気がついた時には定価の倍をゆうに超える1万円以上のプレミアが付いてしまっていて手が出なかったのだ。こういう場合は無理をせずに状態の良い中古盤が市場に出るまで辛抱強く待つことにしているのだが、先月アマゾンのマーケットプレイスにこのレコードのデッドストックが「新品」として4,800円という良心的な値段で出品されているのを見つけて即決。ヤフオクやメルカリでごく普通の中古盤が12,000円~20,000円という高額で取り引きされていることを考えると大ラッキーだ。
 このレコードはタイトルが示す通り2012年に出た彼女の本格的ジャズ・アルバム「夜のアルバム」の続編で、コアなジャズ・ファン向けにアナログ盤が数量限定で製作されていたが、どちらの盤も即完売。特に1作目にあたる「夜のアルバム」はある意味待ち望まれていた “八代亜紀のジャズ・アルバム” ということでインパクトも絶大で、HMVが2度再発して現在は3rdプレスまで出ているという人気ぶりだ。
 この1作目に関しては幸いなことに1stプレスLPを首尾よく手に入れて喜び勇んで聴き始めたのだが、全収録曲中で「Sway」と並んで最も出来の良かった「私は泣いています」(←りりぃのカバー曲)が “収録時間の関係で未収録” となっていてめちゃくちゃガッカリしたのを覚えている。これって例えるならドジャーズのスタメンから大谷を外すようなものだろう。救いはアナログ盤の一番の長所である中低域の分厚さがハンパないサウンドだったことで、これに比べると世評の高いらしいSHM-CDの音(←私はどこがエエのかサッパリわからんのやけど...)が薄っぺらく聞こえてしまう。
Watashiwa Naite Imasu

 そういうワケで「夜のつづき」のアナログ盤も是非とも聴いてみたいと楽しみにしていたので、今回適正価格でゲット出来て嬉しかった。実際に聴いてみた感想は、期待にたがわぬ、いや、期待を上回る“濃厚一発官能二発”なサウンドで大喜び\(^o^)/  やっぱり音楽はアナログ・レコードが最高ですな。ハッキリ言ってCDはカーステレオ用と割り切って買っている。
 このアナログ盤はA面B面を意識したのかCDとは大きく曲順が変えられていて、A面1曲目と5曲目に「夜のつづき」というタイトルのインスト曲を配置してコンセプト・アルバム風になっているのだが、八代亜紀のリスナーは “なんちゃってコンセプト・アルバム” なんか求めてはいない。ただ、彼女の歌が聴きたいだけなのだ。私としてはインスト曲自体が不要と思っているのでCDではいつもスキップ・ボタンを押しているが、LPではいちいち針を上げるのが面倒くさいので適当に聞き流している。まぁ「夜のアルバム」みたいに曲をカットしてないだけまだマシと言えるが...
 内容に関しては、私的には前作「夜のアルバム」よりも断然こっちの方が好きだ。敢えて点数をつけるとすれば「夜のアルバム」が70点でこの「夜のつづき」は95点といったところ。「夜のアルバム」は初めての本格的ジャズ・アルバムということで力が入りすぎたのか、「枯葉」や「サマータイム」「オーバー・ザ・レインボー」といった超有名スタンダード・ナンバーが並んでいて何だかなぁ...という感じだったが、この「夜のつづき」は有名スタンダード曲に拘らずにジャンルを超えた、ある意味 “攻めた選曲” がされており、彼女の持ち味を存分に引き出すようなアレンジが施されているところが一番の魅力だ。
 具体的に言うと、エミー・ジャクソンのA④「涙の太陽」や日吉ミミのA⑦「男と女のお話」、そして何と浅川マキのB⑦「夜が明けたら」といった錚々たる昭和歌謡の名曲を見事にジャズ化しているのだ。特に「夜が明けたら」で聴かせる抑制の効いたクールなヴォーカルにはゾクゾクさせられた。又、ナンシー・シナトラのB⑤「にくい貴方」やサーチャーズで有名なB⑥「ラヴ・ポーション№9」といったポップスも「サイドワインダー」を想わせるアレンジで真っ当なジャズ・ロックに仕上がっており、聴きごたえ十分だ。
Yoga Aketara

 王道中の王道と言えるA②「フィーヴァー」とB①「ユード・ビー・ソー...」はどちらもさすが八代亜紀と言いたくなるようなハスキーなヴォーカルが満喫できるトラックだ。惜しむらくは日本語詞で “You’d be so...♪” のパートを “指をからませ~♪” とか、“You give me fever~♪” のパートを“熱い火が~♪” といったようにウケ狙いのライミングにしているところ。こういうのをかっこいいと勘違いしている製作者サイドのレベルの低さが情けない。八代亜紀という屈指のヴォーカリストを起用してアルバムを作るのだから、ヘタな小細工はせずに英語で直球勝負に徹したらいいのにと思う。まぁ彼女の歌自体は文句なしの出来なので、大した問題ではないのだが...
Fever

 このように名曲名唱の宝庫のようなアルバムなのだが、そんな中でも私がとりわけ気に入っているのがA⑥「赤と青のブルース」とB③「ワーク・ソング」だ。前者はマリー・ラフォレのオリジナル・ヴァージョンとタイマンを張れるくらいクールな歌唱にシビレるし、バックのヴァイブやギターのアレンジもカッコ良さがハンパない。後者では全編英語で貫録十分なヴォーカルを聴かせてくれるのだが、その堂々たる歌いっぷりにはもう参りましたとひれ伏すしかない。やっぱり八代亜紀は最高っすなぁ~ (^o^)丿
Saint-Tropez Blues

Work Song

【おまけ】八代亜紀といえば何と言ってもマーティ・フリードマンとのメタル共演が忘れられない。彼女こそ間違いなく日本が生んだ最高の歌手の一人だと思う。
MARTY FRIEDMAN - 【マーティ】 ヘヴィメタ・メドレー 【八代亜紀】

「Helen Merrill with Clifford Brown」の南アフリカ盤

2025-02-16 | Jazz Vocal

 レコード収集における私の基本ポリシーは “音の良さ、生々しさ、迫力” を何にもまして重視することであり、ほとんどの場合はオリジナル盤を手に入れればそのタイトルに関してはミッション完了となるのだが、内容があまりにも好きすぎて “これを色んな音作りで楽しみたい” とまで思えるレコードに関しては各国盤にまで手を出すことになる。ビートルズを除けばそれほど溺愛している盤は数が限られているのだが、この「Helen Merrill with Clifford Brown」はそんな “別格中の別格” といえる数少ないレコードの1枚だ。
 去年のGW明けにこの「Helen Merrill with Clifford Brown」熱が再燃してオーストラリア盤とオランダ盤を連続入手した話はここにも書いたが、あれから9ヶ月経ったこの2月、ついに南アフリカ盤をゲットした。私の調べた限りでは1950年代にリリースされたこのタイトルの各国盤は本国アメリカ以外ではオランダ、オーストラリア、南アフリカ、カナダの4種類が存在し、去年入手済みの2枚に対して残りの2枚はほとんど市場に出てこない入手困難盤なので Discogsの Want List に登録して長期戦を覚悟していたのだが、先月の末にこのレコードが出品されたという通知を受け取って久々に血がたぎるのを感じた。
 早速見てみると、イギリスのセラーから£80(約15,000円)というお手頃な値段で出品されており、送料を入れても2万円でお釣りがくる。状態表記は VG/VG で、商品説明を見てみると “Original South African copy. Light scuffs. Plays through well some light crackle. Very small edge warp not affecting play. ”(南アオリジナル盤。軽い擦れ。軽いチリパチはあるが大きな欠陥は無し。外縁部に小さな反りはあるがプレイに影響無し。)とある。盤質は概ね大丈夫そうだが、warpという単語が気になったのでそれがどれほどのものか確認するために warp部分の写真を送ってくれと連絡すると、このセラーさん、何とレコード再生中の針先をアップで撮影して音声入り動画(MP4)にして写真と一緒に送ってくれたのだ!
 その動画を見る限り、セラーの言う通りのごくごくわずかな “反り” で、針先の上下動も余程注意して見ていなければ気付かないレベル。もちろん再生音には全く影響していない。このセラーは信用できると確信した私は、ヘレン・メリルの南ア盤などという死ぬまでに手に入れれるかどうかわからんレベル(←大げさに聞こえるかもしれないが、Discogsではこの15年間で2枚しか出てきてない...)の稀少盤をリーズナブルな価格で入手できる千載一遇のチャンスを逃すまいと購入を即決した。
 発送連絡から10日でイギリスからレコードが届いた。はやる気持ちを抑えて梱包を解くと、中から出てきたレコードはめちゃくちゃソリッドで、手に持った感じがズッシリ重くてビックリ。重さを量ってみると何と215gもあるではないか! ジャケットの状態も良くて(←Discogsに載ってる写真はボロッちいジャケットだったので、何かめっちゃ嬉しい...)、レコードをターンテーブルに乗せる前からテンション爆上がりだ。
 いつも以上に丁寧に超音波クリーニングを施していよいよ音出しだ。無音部分のチリパチ音は VGというよりも VG+/Ex- レベルでこれにもニンマリ。スピーカーから出てきた音の第一印象はとにかく音圧が高くて、良い意味で予想を裏切ってくれたという感じだ。これってひょっとしてUSオリジナル盤よりも凄い音してるんちゃうか... とウキウキワクワクしながらA②「You'd Be So Nice To Come Home To」を待つ。もちろんお目当てはクリフォード・ブラウンの例のトランペット・ソロだ。私はUSオリジナル1stプレスの音も2ndプレスの音も骨の髄まで聴き込んできたつもりだが、スピーカーからピャーッと勢いよく飛び出してきた南ア盤のトランペットの音はUS盤をも凌ぐ圧倒的な破壊力で、ラオウの北斗剛掌波やダース・シディアスのフォース・ライトニングの直撃を食らったような凄まじさ(←マニアックな表現で申し訳ないけれど、わかる人にはわかりますよね...)。まさかヘレン・メリルの南ア盤でこんな物凄い音が聴けるとは思わなんだ... カッティング・エンジニアの腕の冴えなのか、215gという超重量盤の成せる業なのか、あるいは他に何らかの秘密があるのかわからないが、とにかくこれまでに聴いたことがないような凄い音であることだけは間違いない。
 話がクリフォード・ブラウンばかりになってしまったが、主役であるヘレン・メリルの歌声の生々しさはマジでハンパないし、オシー・ジョンソンのブラッシュの気持ち良さも特筆モノ。オスカー・ペティフォードのベースはドスンドスンと大地を揺るがすが如しだし、ジミー・ジョーンズの煌めくよなピアノも絶品で、これが2万円弱で手に入ったなんて何とラッキーなんだろう! このレコードの入手をはじめとして、2月に入ってからは他にも良いことが一杯あって、2025年は何だかすごく良い1年になりそうな予感がしている今日この頃だ。
Helen Merrill with Clifford Brown / You'd Be So Nice To Come Home To

901さんとの夏会'24 ① ~「Careless Love」特集~

2024-09-15 | Jazz Vocal
 3連休初日の昨日、うだるような暑さの中を901さんがレコードをたくさん抱えて我が家へ遊びに来て下さった。今年のゴールデン・ウイークに再開したオフ会の第2回目、“夏会 '24”である。今回のテーマは①スタンダード曲「Careless Love」聴き比べ、②ビル・エヴァンスの「Portrait In Jazz」聴き比べ、③「タンパのペッパー」を大音量で聴く... の3つだが、あとはその場の気分次第で何でもアリなのがこの会の良いところだ。

901さん:Shiotchさん、「Jazz Vintage Vinyl Want List」て知ってはる?
私:いいえ、知らないです。
901さん:ディスクユニオンが出してる廃盤買い取りリストなんやけど、ネットでも見れるから「Vol. 13」で検索してみて。ちょうどペッパーが特集されてるんよ。例の「タンパのペッパー」の買い取り価格が22万円やて!
私:ひょえ~、買い取りがそれやったら売り値は一体いくらぐらいになるんでしょうね? 普通は買い取り価格の3倍っていうのが目安でしょ?
901さん:そらもう数十万円はいくんとちゃう? “美品で楽譜2枚付き” やからそれだけの値段なんやろけどね。このレコードに元々楽譜が付いてたなんて、知ってはった?
私:楽譜の存在は知ってはいましたが、もちろんネットオークションでも見たことないです。まぁ自分は “生々しい音さえ聴ければ付属物なんて要らない派” なので楽譜には全然興味ないですけど。
901さん:でもShiotchさんお持ちの「イントロのペッパー」も買い取り22万円やし、そんな凄い盤をここの装置で聴かしてもらえるのホンマにありがたいですわ。
私:こちらこそ、901さんとアレやコレや喋りながらレコード聴くの、ホンマに楽しいんで。いつでも来て下さいや。
901さん:それと、「Vol. 12」の冊子がウチに2つあったので1つ差し上げようと思って持ってきましてん。モンクの特集ですわ。
私:うわぁ、ありがとうございます。貧乏なんで高いのはホイホイ買われへんけど(笑)こういうのは見てるだけで楽しいんでじっくり読ませてもらいます。それじゃあ早速「Careless Love」の特集から始めましょうか。
901さん:僕はちょっと変化球から行きますわ... レイ・チャールズの「Modern Sounds In Country And Western Music」です。
私:変化球どころか、いきなりド真ん中の直球ですやん。
901さん:この曲の次に入ってる「愛さずにいられない」はマーティ・ペイチが編曲やってますねん。
私:あの人、ピアニストというよりもアレンジャーの色が強いですからね。じゃあ私はナット・キング・コールで。「St. Louis Blues」っていうレコードです。
901さん:おお、これは珍しい。W.C.ハンディの曲をやってるんやね。
私:コールはハンディ役で彼の伝記映画に出てるんで、それでこのレコードを吹き込んだんでしょうね。あまり有名なレコードじゃありませんが、結構良いですよ、これ。
901さん:僕が次に出そうと思ってたレコードは「Louis Armstrong Plays W.C. Handy」なんやけど、このキング・コール盤と同じ曲が一杯入っる。「ハンディ集」が続くってすごい偶然!
私:ホンマですね。それにしてもレイ・チャールズに続いてサッチモって王道中の王道ですね。
901さん:まさに大御所やね。サッチモはあんまり聴かへんのやけど、こうやって聴くとやっぱりエエねぇ。音の張りが違うわ。モダン・ジャズにはない何かがあるねぇ。キング・コールとサッチモ続けて聴けるとこなんて、中々ないで。
私:ハハハ、確かに。じゃあ私も古いところでリー・ワイリーでいきましょうか。彼女のSP音源を集めた「Unforgettable」っていう国内盤コンピレーションなんですけど、温かみのある良い音がするので大好きなレコードです。
901さん:これは参りましたやなぁ。Shiotchさん、オリジナル盤だけやのうてこういうレコードもちゃんと聴いてるの、ホンマにエライと思うわ。昔、僕の友達がジャズの集まりに行ったんやけど、帰ってきて“二度と行くか!”って怒ってたんで何故か聞くと“オリジナル盤の自慢話ばっかり聞かされて気分悪かった” んやて。
私:わかります。そういう人、いっぱいいてますよね。まぁ自分はオリジナルかどうかよりも良い音で鳴ってくれるかどうかが大事なんで。生々しい音が聴けるんやったら2ndでも国内盤でも何でもエエんですわ。
901さん:なるほど。じゃあ次はインストでいきましょか。チェコのナイポンク・トリオ。これ十何年か前にイーベイで買ったんやけど、売り手がこのCDのプロデューサーで、“日本にいるあなたがよくぞこのCDを見つけてくれました...” っていうお礼のメモがCDと一緒に入っててビックリしましてん。どう、これ?
私:ヨーロッパとは思えないブルージーなピアノですね。こういうピアノ、大好きですわ。
901さん:正直言うて澤野のピアノトリオはもうウンザリ。どれを聴いてもみんな同じに聞こえるんで。こういうピアノトリオ出さんかい、って思うわ。
私:僕もあの金太郎飴みたいなピアノトリオには魅力を感じませんね。ジャズ・ピアノは黒人のグルーヴィーなノリが一番ですよ。ジョン・ライトとかジュニア・マンス系のヤツね。このピアノはまさにボビー・ティモンズ・リスペクトですね。
901さん:ホンマにこれよぉ聴いたわぁ。ジャズ・ピアノはこう弾けよ、っていう感じ。
私:何がきっかけでこれ見つけはったんですか。
901さん:実はこのジャケットなんですよ。
私:へぇ~、ヨーロッパのピアノトリオCDをジャケ買いってすごいですね。それじゃあ私は雰囲気をガラッと変えてコニー・フランシスの「Sings Folk Song Favorites」。
901さん:へぇ~、こんなとこに入ってんの? フォークソング集か。歌上手いねぇ。胸がすかっとするねぇ。コニー・フランシス一杯持ってはるの?
私:いえ、コニーはアルバムよりもシングル盤中心で持ってます。見ます?
901さん:わぁ、ジャケット自前で作ってるの凄いなぁ。
私:シングル盤ってジャケットが無いとレコード棚から取り出す時に区別つきにくくてめっちゃ不便じゃないですか。それで同タイトルの国内盤シングルのジャケット写真をネットで拾ってきて自分で作ったんです。以前の職場にたまたま珍しい高性能レーザープリンターがあったのがめっちゃラッキーでした。残念ながら今はもう無理ですけど。
901さん:なるほど。じゃあ次はディジー・ガレスピーの「New Wave」。ボサノバ集の中に何故かこの曲が入ってるという... これもあんまり聴くレコードやないんやけどね。ボサノバのボラ・セチっていうギタリストがここではエレキ弾かされてるのが聴き所です。ボラセチのエレキってここでしか聴けへんのでめっちゃ貴重ですよ。私の「Careless Love」はこれで終わりです。
私:じゃあ僕はローズマリー・クルーニーの「Thanks For Nothing」を。ビッグバンドをバックにアップテンポで歌ってて、このノリの良さがめっちゃ好きなんですよ。
901さん:この人、ハリー・ジェイムスともやってましたよね。ええレコードやわ。ジャケットもええね。
私:ゴージャスでしょ。リプリーズ・モノラルのサンプル盤って珍しいんです。
901さん:リプリーズのインナースリーヴも貴重やね。
私:ハハハ、確かに。次はテディ・キングです。
901さん:よぉこんなんオリジナルで持ってはるねぇ。これもインナースリーヴ付きや(笑) それにしても何でこの曲をやったんやろねぇ?
私:テディ・キングはリー・ワイリー直系の上品で優雅な歌唱スタイルなのでレコード会社がワイリーの曲を選んだ、ってどこかで読んだ記憶があります。
901さん: なるほどなぁ、勉強なるわ。
私:次は思いっ切り変化球でディック・ミネ。
901さん:へぇ~、これ何年の?
私:1935年やったと思います。リー・ワイリー版のSPが出た次の年ですね。
901さん:エエ曲一杯やってるやん... よかったらついでにこの「君微笑めば」も聞かしてくれる? 【♪~】おぉ、ハワイアンやん! 録音状態エエねぇ。スチールギターにやられてしまうわ。この曲、次の時に特集やりませんか?
私:いいですね。めっちゃ好きな曲なんで。あと、リナ・ホーンも用意してたんですけど、リー・ワイリーやテディ・キングとキャラが被るんでスキップします。「Careless Love」のラストはジャニス・ジョプリンで。
901さん:へぇ~、こんなんあるんや。
私:まだメジャー・デビュー前の1963年にサンフランシスコのクラブでレコーディングされた音源なんですけど、ラッキーなことにサウンドボード録音なのでめっちゃ凄い音してます。
901さん:演ってる曲、全部ブルースやん。この人のルーツはこういうとこにあったんやね。この人がどうやって「サマータイム」に至ったか、よぉわかりましたわ。 (つづく)

【70's ヘレン・メリル】「Helen Sings, Teddy Swings」「John Lewis / Helen Merrill」

2024-07-21 | Jazz Vocal

①「Helen Sings, Teddy Swings」
 私はジャズの全ての楽器の中ではブラッシュが一番好きだ。軽快にリズムを刻むあの “ザッ ザッ♪” という音を聴くだけでもう大喜びなのだが、そんな“ブラッシュ・バカ” の私が狂喜乱舞した1枚がこの「Helen Sings, Teddy Swings」だ。
 このレコードがリリースされた1970年というのはちょうどジャズの “暗黒時代” で、ヴォーカルのバッキング演奏もモードをこじらせたような奇天烈なものがあったりキモいエレピが入っていたりで要注意なのだが、ヘレンと共演しているテディ・ウィルソンはそういったアホバカ・ジャズとは激しく一線を画す王道ジャズの人だし、ビリー・ホリデイに因んだ選曲も私好みだったので迷わず購入。オリジナルは1970年にビクターから出た日本盤(SMJX-10111)で、巷に出回っている黄色ジャケのUS盤は1976年に Catalyst Records から出たリイシュー盤だ。
 このアルバムは誰が何と言おうとA面1曲目に収録されたA①「Summertime」が最大の聴きものだろう。そもそも「Summertime」という曲はオペラ「ポーギ―とベス」で使われた原曲がスロー・テンポなせいもあってか重苦しいヴァージョンが多くて個人的には辟易しており、軽やかにスイングするチェット・ベイカーのパリ録音ヴァージョンやクリス・コナーのダブル・エクスポージャー・ヴァージョンが私的ベストなのだが、テディ―・ウィルソンがバックを務めたこのA①もそれらと甲乙付け難いスインギーな歌と演奏だ。
 ここで鈍重な原曲を豪快にスイングさせている最大の要因は強烈なリズムで演奏をグイグイ引っ張っていく猪俣猛のブラッシュ・ワークだろう。とにかくこのブラッシュ、まるでタップダンスでも踊っているかのような感覚で気持ち良さそうにリズムを刻んでおり、ピアノはおろかヴォーカルよりも目立っているのだから笑ってしまう。私はこの演奏を聴いてすぐにバド・パウエルの「懐かしのストックホルム」を思い出したのだが、メロディーを奏でるような感覚で溌剌とリズムを刻んでいたカンザス・フィールズの爆裂ブラッシュ・ワーク(←あれをOKテイクにしたプロデューサーのエリントンの慧眼はさすがの一言!)を彷彿とさせる猪俣猛のプレイが圧巻だ。
 フロントのヴォーカルとバックのリズム・セクションのバランスが見事なのがB③「Pennies From Heaven」だ。軽快なリズムに乗って気持ち良さそうにスイングするヘレン姐さんが圧倒的に素晴らしい。特に姐さんがフェイクを織り交ぜながら絶妙な軽さで歌う “Be sure that your umbrella is upside down... ♪" のラインが好きだ。
 このレコードに関して残念なのは猪俣猛が参加しているのは全10曲中A①A⑤B③の3曲のみで、残りの7曲はレニー・マクブラウンが凡庸なドラムを叩いているせいか、スイング感がイマイチ。全曲猪俣猛が叩いていたら大傑作になっていたかもしれない。
hellen merrill teddy wilson summertime 1970


②「John Lewis / Helen Merrill」
 1977年に日本のトリオ・レコードからリリースされたこのアルバムはジョン・ルイスとの双頭アルバムという体裁を取っているが、アルバム全体を貫くトーンは紛れもなくジョン・ルイスのもので、ドラムがコニー・ケイだったり、選曲がMJQのレパートリーとダブることもあって、ヘレン・メリルがミルト抜きのMJQに客演しているかのような錯覚すら覚えてしまう。ただ、全9曲中でリズム・セクション入りの曲は3曲のみで残りの6曲はヴォーカルとピアノのデュオなのが実に残念。ロックであれジャズであれ、私は思わず身体が揺れるようなリズムが何よりも好きな人間なので、辛気臭いデュオは体質的に合わない。ということでこのアルバムを聴く時はいつもベースとドラムスの入った曲だけをつまみ聴きしている。
 まずはA①「ジャンゴ」だが、歌詞は無くてヘレン姐さんは全編ヴォーカリーズで押し通しており、ジョン・ルイスがヘレン・メリルのスキャットを一つの楽器と見なして「ジャンゴ」という曲に落とし込んでいってるように聞こえる。私はてっきり「ジャンゴ」のヴォーカル・ヴァージョンが聴けるものと思って興味津々だったので初めて聴いた時は少し肩透かしを食ったような気分だったが、二度三度と聴くうちにこの曲が持つ哀愁をMJQとは一味違う形で見事に表現したジョン・ルイスの凄さがわかってきた。リチャード・デイヴィスの轟音ベースもめっちゃ気持ち良い。
 A④「クローズ・ユア・アイズ」はMJQっぽい雰囲気が濃厚に立ちこめるトラックで、ミルトのヴァイブの代わりと言っては何だがヒューバート・ロウズのフルートが実に良い味を出している。「ジャンゴ」もそうだが、ジョン・ルイスのピアノはこういうマイナー調のメロディアスな曲とは抜群の相性を誇っており、醸し出す哀愁がハンパないキラー・チューンになっている。
John Lewis & Helen Merrill - Django

【60's ヘレン・メリル】「The Artistry Of Helen Merrill」「Bossa Nova In Tokyo」

2024-07-14 | Jazz Vocal

①The Artistry Of Helen Merrill
 この「ジ・アーティストリィ・オブ・ヘレン・メリル」はエマーシー/マーキュリー・レーベルを離れたヘレン姐さんが1965年に Mainstream Records というマイナー・レーベルからリリースしたレコードで、世界各国の民謡やポピュラー・ソングを歌ったいわゆる “企画アルバム” である。
 チャーリー・バードのバッキングの妙を楽しめるボサ・ノヴァの名曲A①「クワイエット・ナイツ」やアニマルズの名演で知られるA④「朝日のあたる家」、翌年リリースする「シングス・フォーク」でも再演するほどのお気に入り曲B③「五つ木の子守歌」や普通のジャズ・シンガーなら取り上げそうにないポピュラー・ソングB④「禁じられた遊び」など、実にヴァラエティーに富んだ選曲に驚かされるが、幅広いジャンルの曲を自分の色に染め上げて聴かせてしまうヘレン姐さんの面目躍如といえる内容だ。
 そんな中でも私の一番のお気に入りはA②「ケアレス・ラヴ」。これは元々アメリカ南部の民謡からW.C.ハンディがアダプトしたブルース曲だったものだが、このトラックではキーター・ベッツのウォーキング・ベースをバックに見事な歌声を聴かせるヘレン姐さんが実にカッコ良いのだ。
彼女は日本ではほとんどの場合 “ジャズ・シンガー” にカテゴライズされているのに対し、海外ではシナトラのようにジャズもポピュラーも歌える “キャバレー・シンガー” という捉え方をされることが多いのだが、このアルバムを聴けばそれも大いに納得させられる... まさにそんな1枚なのだ。
Careless Love


②Bossa Nova In Tokyo
 ヘレン・メリルは1966年から1972年まで日本に住んでいたほどの親日家で、「ヘレン・メリル・イン・トウキョウ」(1963)を皮切りに「ヘレン・メリル・シングス・フォーク」(1966)、「オータム・ラヴ」(1967)など、キングやビクターといった日本の会社からレコードをリリースしていたが、そんな “日本制作盤” の中で私が断トツに好きなのが「ボサ・ノヴァ・イン・トーキョー」(1967)だ。
 このレコードで彼女はA①「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、A②「イパネマの娘」、A③「いそしぎ」、A⑤「黒いオルフェ」、B②「ハウ・インセンシティヴ」、A⑩「おいしい水」といったボサ・ノヴァの定番曲を中心に、A⑥「夢は夜ひらく」(園まり)やB⑥「信じていたい」(西田佐知子)といった当時の歌謡曲、そして何とビートルズのB⑪「イエスタデイ」までもボッサ化しているのだ。
 で、その「イエスタデイ」だが、これが結構エエ感じ。ビートルズをカヴァーする場合、オリジナル・ヴァージョンが素晴らしすぎるが故にアレンジをしっかり工夫しないと悲惨な結果に終わってしまうことが多いが、メリル姐さんの「イエスタデイ」はボッサのリズムで換骨奪胎してあるだけあって一味違う「イエスタデイ」に仕上がっている。エンディングの “mmmm... yesterday♪” は前年の武道館公演を思い起こさせる。
 ボッサ・スタンダード曲はどれも素晴らしい出来だが、敢えて1曲選ぶとすれば「黒いオルフェ」だ。物憂げなヘレンのヴォーカルを際立たせる渡辺貞夫クインテットの哀愁舞い散る歌伴に涙ちょちょぎれる。ガチのボサ・ノヴァ・マニアの人達から見たらこのアルバムなんか雰囲気だけボサ・ノヴァを真似た “邪道” と言われるかもしれないが、ボサ・ノヴァ門外漢の私にとってはこれくらいがちょうど良いのだ。
イエスタデイ

黒いオルフェ

【50's ヘレン・メリル】「The Nearness Of You」「Parole E Misica」

2024-07-07 | Jazz Vocal

 ヘレン・メリルというとデビュー作の “「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」だけ聴いてればそれで十分” という声をこれまで何度も聞いたことがあるが、それって “イーグルスは「ホテル・カリフォルニア」だけ、フリートウッド・マックは「噂」だけ聴いてればいい” と言っているようなものだろう。しかしイーグルスに「テイク・イット・イージー」や「ザ・ロング・ラン」が、マックに「ファンタスティック・マック」や「タンゴ・イン・ザ・ナイト」があるように、ヘレン・メリルにだって「ウィズ・クリフォード・ブラウン」以外にも素晴らしいレコードがたくさんあるのだ。ということで当ブログではヘレン・メリルの “隠れ名盤” を年代別に特集してみたいと思う。まずは1950年代から...

①「The Nearness Of You」
 ヘレン・メリルは全盛期といわれる1950年代にはエマーシー・レーベルに5枚のアルバムを残しているが、クリフォード・ブラウンと共演したデビュー・アルバムに次いで私が好きなのが5作目にあたるこの「The Nearness Of You」だ。そもそも彼女のヴォーカルはねっとりとベタつくところがあるので、ウィズ・ストリングスやスロー・バラッドはあまり好きではない。“ニューヨークのため息” と言われる彼女のハスキーなヴォーカルが引き立つのはバックの演奏が軽快にスイングする楽曲で、このアルバムにはそんなスインギーなナンバーが何曲も入っており、聴いてて実に心地良いのだ。「Bye Bye Blackbird」や「I Remember You」「All Of You」といった有名スタンダード曲から「Dearly Beloved」「This Time The Dream's On Me」といった知る人ぞ知る佳曲に至るまで、ミディアム・テンポで軽快にスイングするメリル姐さんが最高だ。ジャジーなアレンジが光る「Softly As In A Morning Sunrise」も素晴らしい。
 このレコードはB面に収録されたニューヨーク・セッションにピアノのビル・エヴァンスが参加していることも大きな魅力で、一聴してすぐに彼とわかるユニークなフレージングに耳が吸い付くし、他にも絶妙な歌伴を聴かせるフルートのボビー・ジャスパーやギターのバリー・ガルブレイスを見事に活かしたジョージ・ラッセルのアレンジも素晴らしい。尚、裏ジャケにはドラマーが Jo Jones と書かれているが、特徴的なリム・ショットやブラッシュ・ワークなど、どこをどう聴いてもこれは Philly Joe Jones の間違いだろう。まぁフィリー・ジョーも一応 ”ジョー・ジョーンズ” なので勘違いしたのかもしれないが、そもそも音楽性が全然違うやん...
 尚、このレコードは1958年にリリースされてすぐに EmArcyレーベルが倒産したために 1stプレスの“ビッグ・ドラマー・レーベル” は非常に稀少で、今ではキレイな盤は何万円もするようだ。私は25年くらい前に難波のビッグ・ピンクで7,200円で購入したのだが、そのえげつない値上がりようにビックリさせられた。
Softly, as in a Morning Sunrise (Remastered 2016)


②「Parole E Misica」
 ヘレン・メリルは1959 年に渡欧してイタリアに居を構え、1962年までそこに滞在していたのだが、この「Parole E Misica」というアルバムはその滞在中1960年の10月から11月にかけてローマでRCAに吹き込んだもので(RCA Italiana LPM-10105)、日本では「ローマのナイトクラブで」というタイトルで知られている。
 このレコードは変わった作りになっていて、各曲が始まる前にイタリア語に訳されたその曲の歌詞が朗読されるのだが(←何でもイタリアにそういう趣向のTV番組があるらしい...)、イタリア語なんて当然何を言っているのかサッパリわからないし、朗読の仕方も聞いててこそばいというか、ムズムズするというか、何だかこっ恥ずかしい気持ちになってしまうので、私はちょっと苦手。日常的にはmp3DeirectCutというソフトを使ってCDの朗読パートをカットしてCD-Rに焼いたものを聴いているし(←朗読 “無し” と “有り” で雰囲気が全然違います!)、レコードで聴く時は少々面倒臭いが1曲ごとに朗読を飛ばすようにしている。
 このように私には不要な朗読パートが入っているというデメリットはあるものの、それを補って余りあるのが彼女の歌とバックの演奏の素晴らしさだ。彼女はこのレコードでピエロ・ウミリアーニと共演しており、ウミリアーニの編曲とピアノ、ニニ・ロッソのトランペット、ジノ・マリナッチのフルートなど、名うての名手たちの演奏に乗って軽快にスイングするメリル姐さんの浮遊感のある歌声で実に粋なジャズ・ヴォーカル・アルバムに仕上がっている。
 選曲も私の大好きなスタンダード・ナンバーばかり取り上げられており、それも私がこのアルバムを溺愛している要因の一つになっている。全曲気に入っているが、一番のお気に入りは軽快にスイングするB③「I've Got You Under My Skin」で、私にはジュリー・ロンドンと並ぶフェイヴァリット・ヴァージョンだ。 “軽快にスイング” という点ではB⑥「When Your Lover Has Gone」もB③に引けを取らない名演で、ヘレン姐さんのハスキーな声質と相俟って、どちらも“クールに、軽やかに、粋にスイング” というジャズ・ヴォーカルの真にあらまほしき姿を堪能できるトラックになっている。軽快なギターとフィンガー・スナップで始まる出だしからヘレン姐さんのヴォーカルがスルスルと滑り出すA①「Night And Day」もたまらんたまらん... (≧▽≦)
 このレコードのイタリアRCAオリジナル盤は昔から超入手困難盤として知られており、ごくたまに市場に出てきても5~8万円くらいで取り引きされている。私も当初はオリジナル盤なんて絶対に無理... と諦めていたのだが、ビートルズのイタリア盤をeBay Italiaで漁っていた時にたまたまこのレコードのオリジナル盤を€120で見つけて狂喜乱舞ヽ(^o^)丿 この機会を逃したら二度とチャンスは無いと思い、Strong VG という言葉を信じて即決。届いた盤は見た目は確かにVGだったが実際に聴いてみると VGどころかExレベルの盤質で大喜びしたのを今でもよく覚えている。初めてその存在を知ってから16年経ってようやくオリジナル盤を手に入れることができた掛け替えのない1枚だ。
Helen Merrill - I've Got You Under My Skin (1961)

Helen Merrill - Night and Day (1961)

「Helen Merrill with Clifford Brown」のオランダ盤

2024-06-23 | Jazz Vocal

 「Helen Merrill with Clifford Brown」のOZ盤を首尾よく手に入れた私は勢いに乗ってオランダ盤もゲットしてやろうとネット上を色々探しまわった。まずはDiscogsだが、イタリアのセラーからVG盤3万円、ドイツのセラーからNM盤7万円と2枚出品されていたが、私の希望購入価格の上限は1万円台後半であり、まかり間違っても2万円以上は出したくないのでアウト。そもそもDiscogsは出品しているセラーにいい加減なのが多いので(←ビートルズのスペイン盤で懲りました...)余程のことがない限りここでは買いたくないというのが正直なところ。今の自分にとって Discogsはレコードを買うところではなく、価格相場を知るための情報源に過ぎない。
 ところが頼みの綱とでも言うべき eBayには出品されておらず(←オランダ盤も Holland, Dutch, Netherlands, NL, NLD と色んな表示方法があるので面倒くさい...)、レア度をPopsikeで調べてみると過去20年間で4枚しか売れてないというスーパーウルトラ稀少盤だとわかってビックリ(゜o゜) こんな時、灯台下暗しでヤフオクなんかにしれっと出てたりすることがあるのだが今回はそれもない。
 よくよく考えてみるとプレス枚数が段違いに多いビートルズですらオランダ盤はあまり出てこないのに、ビートルズの100分の1、いや1000分の1ぐらいしかプレスされなかったであろうヘレン・メリルのレコードがそう簡単に見つかるわけがないのだ。しゃあないなぁ、 オランダ盤は諦めるか... と思い始めた時にあるレコード販売サイトのことが頭に浮かんだ。これまで何度かこのブログにも書いた「CD and LP」である。
 海外からレコードを買うとなると “Discogsで調べてeBayで買う” というのが私の定番パターンなので、ついついこの CD and LP というサイトの存在を忘れてしまいがちなのだが、フランスに本部を置くこのサイトは基本的にヨーロッパ盤に強く、これまでも何度かめちゃくちゃおいしい思いをさせてもらってきたことを思い出し、あわよくばと思って「Helen Merrill with Clifford Brown」のオランダ盤を検索してみると、ラッキーなことに1枚出品されていた。それもVG+コンディションで €120(約2万円)である。送料を入れると少し予算オ―バーになってしまうが、稀少度を知ってしまった今となっては 3,000円程度の誤差など問題にならない。このサイトはストック・フォトを載せていることが多いので(←これホンマに要注意です!)念のために写真画像を送ってもらったところ、盤面もジャケットもキレイなものだったので、私は嬉々としてOrder をクリックした。
 OZ盤が期待ハズレだったので今回はあまり期待せずにいたのだが、届いた盤はフラット・エッジで重さ158g、見た目はピカピカで申し分ない。ジャケットの状態も良く、裏ジャケはUS 1st/2ndプレスと同じブルーバックなのだが、悲しいことに写真画質のクオリティーの低さは一目瞭然で、その鮮明度は明らかに粗いコピー画質のレベルだ。
 さて、一番肝心な音についてだが、独自マトによるヨーロッパらしいキメ細やかな音作りであり、US盤とは又違った端正で整ったクリアーなサウンドでヘレン・メリルの最高傑作が楽しめる。どちらが好みかと問われれば私は迷うことなくUSオリジナル盤の濃厚で鮮烈な音に軍配を上げるが、このオランダ盤の音もこれはこれで捨て難い魅力がある。こういう楽しみ方があるから各国盤はやめられないのだ。
 ということで「Helen Merrill with Clifford Brown」に関しては、US 1stプレス盤、US 2ndプレス盤、オランダ盤、オーストラリア盤、日本盤という5枚のLPに加えて例のEP盤3枚を揃え、まさに絶世の美女を何人も侍らせまくったハーレム状態を満喫しながら “今日はどの女性とデート...じゃなかった、どのレコードを聴こうかな...” と矯めつ眇めつする今日この頃だ。

「Helen Merrill with Clifford Brown」の OZ盤

2024-06-16 | Jazz Vocal

 ゴールデンウイークに901さんとオフ会で盛り上がった話は以前ここに書いたが、その時にやった「Helen Merrill with Clifford Brown」の1stプレスと2ndプレスの聴き比べをきっかけに私の “ヘレン・メリル熱” が再燃した。あの日以来「You'd Be So...」や「'S Wonderful」を聴いて悦に入る日々が続いたのだが、ある時ふと “このレコードの各国盤ってどんな音がするんやろ???” と私の心の中に潜む悪魔(笑)が囁きかけてきた。
 こうやってドロ沼にハマっていくのがいつものパターンなのだが、今回も例によって好奇心に勝てず、早速 Discogsで1955年~1957年の間にプレスされた「Helen Merrill with Clifford Brown」の各国盤を調べてみた。1958年以降の Mercury レーベルになってからは音質がガタッと落ちるので対象外なのだ。その結果、南アフリカ、オランダ、カナダ、オーストラリアの4ヶ国の盤が存在することがわかった。更に調べてみると、南アフリカ盤とカナダ盤は超の付くレア盤のようで滅多に市場に出てこないがオランダ盤とオーストラリア盤の方は何とかなりそうだったので、とりあえずその2枚にターゲットを絞って探すことにした。
 そもそも最高峰である US盤 1stプレスを持っているのに何でわざわざ... と思われそうだが、ビートルズの各国盤蒐集で体験したように “独自マト盤がひょっとしてとんでもなく凄い音を出すのではないか?”、あるいは “US盤を凌駕することはないにしても、US盤とは又違った独自マトならではの、これまで聴いたことがないような音でクリフォード・ブラウンのトランペットが炸裂するのではないか?(←せぇへんせぇへん...笑)” という好奇心に抗えなかったのだ。ましてやプレス枚数の極端に少ないオランダやオーストラリアとくれば、めちゃくちゃ鮮度の高い音が聴けるのではないかと思ったのだ。
 そこでまず目に留まったのがオーストラリア盤だった。最初に調べたDiscogsには3枚出品されていたが、“コンディション G/G+” “日本からは購入不可” “お値段8万円超え” ということですべて問題外。それならばと eBayで検索してみると(←オーストラリア盤って Australia, Australian, Aussie, OZ, AUS, AU と色んなパターンで検索せなアカンのが面倒くさい...)ラッキーなことにニュージーランドのセラーから Strong VG コンディションの盤が NZ$100で出品されていた。写真で見る限りは盤面に目立ったキズは無さそうだし、それより何よりドルやユーロの異常な円安にウンザリさせられている身としては 1 ニュージーランド・ドル = 95円という為替レートがありがたすぎて(笑)即決。送料込みでも日本円にして12,000円ほどで買えたのがめちゃくちゃ嬉しい。中古盤というのは値段があってないようなモノだとはよく言われるが、これに比べるとDiscogsセラーの8万円という超強気の値付けは一体何なのだと思ってしまう。
 このセラーはとてもフレンドリーな人で、取り引きメールのやり取りの中で Domo Arigato を連発したり日本の話を振ってきたりするので何故なのか訊いてみたところ、昔2000年代に数年間大阪で子供達に英語を教えていたとのこと。しかも日本滞在中は関西のレコ屋巡りをしていたらしく、 The second hand market is so good there !(日本の中古レコ屋は充実してるよね!)と懐かしそうに語ってくれたが、ひょっとするとどこかのお店で隣り合わせでエサ箱を漁っていたかもしれないと思い、何となく親近感を感じてしまった。
 2週間ほどしてレコードが届いた。非常に珍しい OZのメリルさんだ。表ジャケは US盤の青よりもかなり淡い色合いで、左上の EmArcy のロゴには “Esquire MECURY” と入っている。なるほど、オーストラリアは UK系の Esquire なのか。裏ジャケは US 1st/2ndプレスのブルーバックではなく黒色印刷だ。盤はフラット・エッジでズシリと重く、量ってみると192gもあった。盤の重さと音質が比例しないことは重々承知だが、それでもやはりヴィンテージ・レコード・コレクターの心情としては大いなる期待を抱いてしまう。因みに US 1stプレスは166g、2ndプレスは175g、そしてこのレコードの国内盤では最も音が良いとされている91年プレス盤(DMJ型番)は120gだった。
 とまぁこのように大きな期待を抱いてターンテーブルに乗せ、ワクワクしながら針を落としたのだが、スピーカーから出てきた音はハッキリ言ってイマイチ。何か薄いベールを被せたようなこもった音で高域のヌケが悪く、USオリジナル盤はおろか国内盤にすら完全に負けている。本来ならば金粉をまいたかのように爆裂するはずのクリフォード・ブラウンのトランペットが借りてきた猫のように大人しいし、オシー・ジョンソンのブラッシュのキレ味が全く感じられないのが何よりも悲しい。もちろん US盤とは似ても似つかぬ手書きの独自マトなのだが、A①「Don't Explain」の2分20秒のところで一瞬音が撚れるようなところがあるので、ひょっとしたらオーストラリアに送られたマスターテープ自体に問題があったのかもしれない。
 そういうワケでこのレコードの第一印象は非常に悪く、その後数回聴いてもそのマイナス・イメージは払しょくできなかったのだが、ある時何とかして音質を改善してやろうとプリアンプのトレブルつまみを3目盛りほど右に回してみたところ、生まれ変わったかのように活き活きと鳴りだした。私はアンプの音質コントロール機能なんて滅多に触らないのだが、今回の “音に満足できなければこっちから積極的に音作りしてやろう” という思いつきは大成功で、このレコードは隣室のレコ墓場送りをギリで回避。まぁヘレン・メリルのオーストラリア盤なんて滅多に見ないので、珍盤として手元に置いておくのも悪くはないかもしれない。

ヤフオク大決戦③

2020-04-06 | Jazz Vocal
 先週書いたように、久々のオークション大バトルは5戦して “4勝1放棄試合” という上々の結果(^.^) 発送も早くて2日後にドドーン!とLP4枚が届いた。コロナが怖くて自主隔離中(←戒厳令の大阪や京産クラスターの京都に隣接する奈良の感染者数が30人弱なワケがない... 奈良県の隠蔽体質にはウンザリやわ...)で手持ちの盤を聴きつぶしている最中の身には最高のご褒美だ。今回は早速その戦果を報告したいと思う。

①Souvenirs de Django Reinhardt Vol.2 [Swing:M. 33.315]
 このSwing盤10インチはジャンゴが新生クインテットを率いて1947年に録音したもので、エレクトリック・ギターで縦横無尽にスイングするジャンゴが圧巻だ。手持ちの英Vogue盤と聴き比べてみたが、薄皮を1枚剥いだようなリアルなサウンドという点でこちらの仏オリジナル盤に一日の長があるし、ジャケット写真に至ってはコピー写真感丸出しの英Vogue盤では全く勝負にならない。このレコードがヤフオクに出ていることを教えて下さった901さんに改めて感謝感謝である。それにしてもジャンゴのスイングはいつ聴いても強烈やなぁ... (≧▽≦)
Blues En Mineur


②Teddy Wilson And His All Stars [Dial:213]
 Dialというレーベルはジャズ・ファン、特にチャーリー・パーカー信者にとっては憧れともいえる存在だ。何百ドルもするパーカー盤を買う気は毛頭ないが、テディ・ウィルソンならいけるかもと思ってトライしたら3,000円かそこらで買えて大ラッキー(^.^) 因みにPrice Guideでは$250だからヤフオクさまさまだ。いつも元気溌剌絶好調なテディ・ウィルソンのピアノはもちろん良いのだが、A面B面でのドラマーの違いによるサウンド比較が何と言っても聴き物で、A面担当の鈍重なダニー・アルヴィンに対し(←スウィングしない「Love Me Or Leave Me」はアカンやろ...)バンド全体をスウィングさせるB面担当のシド・カトレットの圧勝だ。やっぱりジャズはリズムが命やね。

③Action / B'z [Vermillion:BMJV-8019]
 私は70~80年代ハードロックのカッコ良さに日本独自の歌謡曲的な哀愁エッセンスをプラスしたB'zの音楽が大好きで、このサウンドをアナログ・レコードで聴けたら最高やろうなぁ... と思っていたのだが、まさかその夢が実現するとは思わなんだ。しかもB'zの初アナログ体験が、彼らのアルバムでは五指に入る名作と信じて疑わない「Action」というのも嬉しい。ワクワクドキドキしながらレコードに針を落とした瞬間からCDとは明らかに違う腰の据わったサウンドに耳が吸い付く。全曲大満足だが、敢えて1曲と言われればこの「Friction」が一番好き。この疾走感こそがB'zのカッコ良さの原点だ。空耳 “シャリがうまいねぇ...♪” にも大笑いヽ(^o^)丿
B'z - Friction


④Helen Merrill In Tokyo [King:KC3007]
 「Helen Merrill In Tokyo」はWaveから出た再発ステレオ盤もかなり良い音でジャケットの作りなんかも非常に良く出来ていたのだが、このオリジナル・モノラル盤はそんな高音質Wave盤をも遥かに凌ぐ素晴らしさ。何よりもまず音のバランスが最高で中低域が充実しており、ヘレン・メリルのヴォーカルがゾクゾクするほど生々しい。ブラッシュの音にも立体感があり、ベースもズンズンくるからたまらない。盤質はNMといってよく、ほとんどノイズレス(←もちろん超音波洗浄済み)というのが何よりも嬉しい。まるでスタジオ・ライヴをかぶりつきの特等席で聴いているような、そんな感じのサウンドなのだ。内容の方も素晴らしく、ヘレン・メリルのリラックスしたハスキー・ヴォイスで大好きなスタンダード・ナンバーが楽しめる喜びを何と表現しよう? 猪俣毅とウエストライナーズの伴奏も出色の出来で(←このレコードは日本録音)、まさに音良し・歌良し・伴奏良しと三拍子揃ったヴォーカル・アルバムの金字塔と言っても過言ではない。大枚を叩いた価値は十分あったと大満足の、まさに “家宝” と言える1枚だ。
Helen Merrill ‎– Helen Merrill In Tokyo [ヘレン・メリル・イン・トウキョウ] (1963)

ヤフオク大決戦②

2020-04-02 | Jazz Vocal
 まずは先鋒のジャンゴ・ラインハルトの仏Swing 10インチ盤「Souvenirs de Django Reinhardt Vol.2」だが、〆切直前に5,000円でビッドすると(←ヤフオクはeBayと違って時間延長というクソしょーもないシステムのため、スナイプしても殆ど意味がないんやけど...)一気に値段が3,900円にハネ上がってビックリ。しかも他にも2人参戦してきてドロ沼のバトルロイヤル状態に突入(>_<)  結局4,800円で落札できたが、薄氷を踏むような勝利はヒヤヒヤもので、これでは先が思いやられる。
 次鋒のテディ・ウィルソンDial 10インチ盤は盤質がVG-ということでとりあえず2,000円付けて一旦トップに立ったものの、すぐに逆転されるなど一進一退の我慢比べを繰り返した結果、相手が先に投了し3,210円で落札。何とか2連勝はしたものの、この先に控える高額アイテムのことを考えると気が重い(>_<)
 しかもヤバいことにこの時点で残りの3アイテムの内、中堅B'zと大将ヘレンメリルの2つが2万円を超えてしまい、予算的にどう考えても3連勝は不可能だ。貧乏コレクターの分際で、あれもこれもは所詮無理。何かを潔く切り捨てる決断をしなければいけない。肉を切らせて骨を断つ(←この使い方であってるのかな?)しか方法はないだろう。私はここで泣く泣く中堅B'z4枚組を諦め、その分の予算を副将と大将の2枚に廻すことにした。
 そしていよいよラス前の副将 B'zの「Action」だが、B'zを聴く層がアナログ・レコードまで買ってるという事実にまずビックリ。元々定価5,093円で販売されていたものがSold Outになり、廃盤状態のところへ私を含めた10人が参戦して入札し合うという修羅場が展開されたのだが、渾身の2万円ビッドでライバルどもを蹴散らし、結局14,510円で落札。この「Action」というアルバムは大好きな曲がいっぱい入っているので、それらをアナログの生々しい音で聴けるのがめちゃくちゃ嬉しい。
 さて、いよいよ残すは大将のヘレン・メリル1枚である。このアルバムは94年にWAVEから再発されたステレオ盤(SKJ 5)しか持っていなかったので、ヘレン・メリル・マニアの私は “激レア MONO キング完全オリジナル 両面DG深溝 KC3007” というタイトルの文句に魅かれ、初めて見るレーベル写真に大コーフン! しかしこのセラーは“和ジャズ/国内独自盤企画” という謳い文句でもう1枚「ヘレン・メリル・イン・トウキョウ」を出品しており、困ったことにレーベル面の写真もそっくりだし(←ちゃーんと深溝もある...)背面も再発盤の青色ではなくオリジナル盤と同じ白色で、写真からは全く区別がつかないのだ。これって一体何なん?
 私は大いに迷ったが、オリジナル盤なら “国内独自企画盤” などという回りくどい言い方はせずにハッキリとそう書くはずだし、901さんが “このセラーは在庫も凄いけど商品知識もめっちゃ凄いで!” と仰ってたのを思い出し、きっと誤解を避けるために同時出品したんやろうなぁと推測。紛らわしいのでこの偽物盤(?)はウォッチ・リストから削除し、オリジナル盤1本で勝負だ。
 〆切まで10分を切った段階で24,000円だったので念には念を入れて4万円をブッ込んだところ、相手の闘志に火をつけてしまい(←これやからヤフオクは嫌やねん...)1対1のサドンデス・タイマン勝負に突入。この機会を逃せばこんな珍しいレコードには二度と巡り合えないかもと考えた私は全霊をかけて怒涛の5万円ビッドで勝負。相手もネチこく食い下がってきたが、49,200円で力尽きたようでようやくオークション終了となった次第。因みに同タイトルの “国内独自企画盤” の方は14,755円で終わったようだ。 (つづく)

Crazy Rhythm / 江利チエミ

2019-06-27 | Jazz Vocal
 前回に続く “ついに手に入れた垂涎盤特集” 第2弾は江利チエミの痛快無比なジャズ・ヴォーカルが聴ける10インチLP「Crazy Rhythm」だ。私はこれまで何度もこのブログに書いてきたように江利チエミの大ファンで、カヴァー・ポップスであれラテンであれ民謡であれ、その唯一無比な歌声で歌われる彼女の歌はジャンルを超越して素晴らしいと思っているのだが、そんな中でも私がこよなく愛しているのが彼女のジャズ・ヴォーカル・ナンバーであり、特にアップ・テンポの曲における圧倒的なノリは他者の追従を許さないカッコ良さである。
 私がそんな彼女の魅力に開眼したのは “KING RE-JAZZ SWING” という和モノ復刻シリーズの1枚としてリリースされた「Chiemi Sings」という CDで、その1曲目を飾っていたのがこの10インチ盤のタイトル曲「Crazy Rhythm」だった。それまで「テネシー・ワルツ」しか彼女の歌を聴いたことがなかった私は「テネシー・ワルツ」とはまるで別人のように強烈にスイングする彼女のスキャットに完全 KOされ、その時以来彼女のレコードはほとんどすべて買い集めて愛聴しているのだが、そんな中で唯一手に入れることができていなかったのがこの10インチ盤というワケだ。
 江利チエミのレコードなんてヤフオクやメルカリを探せば簡単に入手できそうなものだが、なんだかんだ言っても所詮は和ジャズのヴォーカル・アルバム。しかも60年代モノとくれば市場に出回っている数は圧倒的に少なく、ヤフオクで過去11年の間にたったの2回しかお目にかかっていない(←どっちも2万円つけて負けた...)という超レア盤なのだ。
 しかも今回私がこの盤を見つけたのはヤフオクではなく eBayである。海外オークションならさすがにライバルは少ないだろうし、自動延長がウザいヤフオクとは違ってスナイプが有効な eBayなら多分大丈夫だろうとは思ったが、万が一今回負ければ次のチャンスはいつ巡ってくるか分からない。油断は禁物なのだ。そういうワケで $200という背水スナイプを敢行したら、何とか $163で落札できた。終了直前まで $9だったことを考えると、最後の数秒での戦いが凄まじかったということがよくわかる。2位の奴がおらんかったら$25で獲れてたと思うとムカつくが、まぁコレばっかりはしゃあない。
 ということで2万円近くを出してやっと手に入れたこのレコードはアメリカのコーラスグループ、デルタ・リズム・ボーイズのメンバーだったカール・ジョーンズとのデュエット・ジャズ・アルバムで、相方のカール・ジョーンズの声質は正直って好きではないので(←なんかキモいというか、私が一番苦手なタイプの歌声だ...)彼のソロ・ヴォーカル曲A②B②はいつも飛ばして聴いているのだが、そんなマイナス・ポイントを差し引いてもこのアルバムは素晴らしい。
 私がこのレコードを愛聴している理由は彼女のスインギーなヴォーカルともう一つ、バックを務めている白木秀雄クインテットの演奏の素晴らしさにある。特にA①「Crazy Rhythm」におけるブラッシュの名手白木の変幻自在のプレイは圧巻で、いきなりブラッシュの乱れ打ちで始まるイントロなんかもう最高(≧▽≦)  持てるテクニックを惜しげもなく投入し、秘術の限りを尽くしてチエミを猛プッシュする “和製フィリー・ジョー” 白木秀雄のドラミングは鳥肌モノだ。そんな彼のブラッシュの音をこのオリジナルLPで聴くと、今まで聴いたことがないような生々しい音がスピーカーから飛び出してきて超気持ちイイ(^.^)  やっぱり60年代の録音はオリジナル盤をヴィンテージ・オーディオで聴くのが最高ですわ(≧▽≦)
Chiemi Eri with Carl Jones - Crazy Rhythm


 タイトル曲のA①以外ではB面ラストに置かれた「I Get A Kick Out Of You」が気に入っている。スインギーなA①で始まったにもかかわらずAB両面共に2曲目にカール・ジョーンズのソロ、それも激甘バラッド曲を配置するというクソみたいな構成のせいで、アルバムとして通しで聴くとストレスが溜まる構成になっているが、そんな鬱憤を晴らすかのようにBラスのアッパー・チューンで颯爽とスイングするチエミが素晴らしい。
 尚、レコードでも CDでもA①が原信夫とシャープス・アンド・フラッツでB④が白木秀雄クインテットの演奏という表記になっているが、どこをどう聴いてもスモール・コンボをバックにしたA①が白木クインテットでビッグ・バンドをバックにしたB④がシャープス・アンド・フラッツだと思うのだが...???
Chiemi Eri with Carl Jones - I Get A Kick Out Of You

ヘレン・メリルのEP3枚ついにゲット!!! ②

2018-01-03 | Jazz Vocal
 3枚セットで10万円というニンピニン価格を見て “いくら何でもEP3枚でそれはないやろ...” と一旦は諦めたものの、心のどこかに “でもやっぱり欲しいなぁ... 何とかならんかなぁ...” という未練を残していたのも事実。そんな焼け木杭に火がついたのが今から数年前のことで、これらのEPが紙ジャケ3枚組の限定CDボックスで復刻され私は迷うことなく購入したのだが、精巧に復刻された紙ジャケを眺めているうちに “やっぱりコレはオリジナルの本物で手に入れたいなぁ...” という思いが沸々と湧き上がってきた。ドアーズじゃないが、まさにハートに火がついてしまったのだ。
 それからというもの、ネットを駆使してヘレン・メリルのEPを探す日々が始まった。ジャズのEPということでプレス枚数がめちゃくちゃ少なかったせいもあって見つけるのにかなり時間がかかったが、まず最初に手に入れたのが EP-1-6105(What's New / Born To Be Blue収録)で、Discogsでフランスのセラーからわずか €20で購入。盤質はG+ でちょっとヤバイかなとも思ったが一番大事なジャケットは一応VGだし、 “Permanent background noise. Scotch tape along edges. Please ask for details and pictures.” とあったので写真を送ってもらうと全然問題なさそうだったので即買いしたというワケだ。1週間ほどで届いたレコードはテープ跡も特に気にならないし盤質もG+どころかEXレベルで大喜び\(^o^)/  これが€20やなんてホンマにエエんかいな。
Helen Merrill with Quincy Jones Sextet - What's New?


 次に手に入れたのが EP-1-6103(You'd Be So Nice To Come Home To, 'S Wonderful / Don't Explain収録)で、「ユード・ビー・ソー...」が入っているせいか、あるいは身をよじるように歌うヘレンを捉えたジャケ写の風格ゆえか、これはさすがにeBayでビッドが殺到... 不退転の決意で $200つけたところ、何とか $175で手に入れることができた。嬉しいことに届いたレコードは盤もジャケットもNM状態で、ヘレンの魅惑のジャケットを見ながらブラウニーの “スピーカーから勢いよく飛び出す” トランペットを満喫している。Who can wish for more??? (^o^)丿
'S Wonderful- (Helen Merrill)


 3枚セットの中でも最難関と思われるEP-1-6103 をゲットし、いよいよ残すところあと1枚。ターゲットはもちろん EP-1-6104(Yesterdays / Falling In Love With Love)である。ビートルズ各国盤祭りの真っ只中にもかかわらず、私は最後の1枚であるこのEPをトップ・プライオリティー扱いとし、来る日も来る日も探し続けた。その甲斐あってか2ヶ月ほど経ってついにeBayで発見、盤質はVG+ だったがスリーヴの上下共に完全スプリット状態ということもあってジャケット・コンディションはGランクだ。正面から見て問題なければ上下が裂けていようが気にならないので強気の$120で入札したところ、呆気なく$79で落札。半年ほど前に落札された時の値段が $237だったことを考えると笑いが止まらない(^.^)  待てば海路の日和あり、とはこのことだ。
Helen Merrill with Quincy Jones Septet - Falling in Love with Love


 ということで夢にまでみたヘレン・メリルのEP盤3枚セットをようやく手に入れることができてめっちゃ嬉しい。3万円ちょっとで揃えることが出来たので私としては大勝利と言っていい。一昨年あたりから大物狙いに徹して私的垂涎盤を1枚また1枚とゲットしてきたが、果たして今年はどんなレコードに出会えるのか... 日課となったネット・オークション・チェックが楽しみでしようがない今日この頃だ(^.^)

ヘレン・メリルのEP3枚ついにゲット!!! ①

2018-01-01 | Jazz Vocal
 新年あけましておめでとうございます。このブログを始めたのが2008年の10月なので今年でいよいよ10年目に突入ということになるわけですが、何事にも飽きっぽくて長続きしない私が10年も続けてこれたというのはやはり大好きな音楽について書いてきたからだからだと思います。昨年はドイツに始まりフランス、オーストラリア、ニュージーランド、そしてスウェーデンと、ビートルズの各国盤蒐集に明け暮れた1年でしたが、今年は一体どんな1年になるのか、今からとっても楽しみです。まぁ何にハマるにせよ、今年もマイペースで続けていけたらと思いますので、どうぞ宜しくお願い致しますm(__)m

 私はジャズ・ヴォーカルが大好きで、特にハスキー系の女性ヴォーカルには目がない。中でも一番の愛聴盤が「ヘレン・メリルとクリフォード・ブラウン」で、“ニューヨークのため息” と呼ばれるヘレン・メリルのハスキー・ヴォイスに突き抜けるようなクリフォード・ブラウンのトランペット、そしてオシー・ジョンソンの神業ブラッシュ・ワークが愉しめるという、ジャズ・ヴォーカル史上最強の1枚だ。
 全7曲の中で私が断トツに好きなのが「帰ってくれたら嬉しいわ」というこっ恥ずかしい誤訳の邦題(←帰って “きて” くれたら嬉しいのではなく、帰って “いく” のが嬉しいのであって、全くの正反対...)で知られる「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」だ。もちろん曲そのものも大好きなのだが、何と言っても間奏部分でスピーカーから迸り出るクリフォード・ブラウンの歌心溢れるトランペットが最高で、これを全身に浴びたいがためにわざわざレコード・プレイヤーをトーレンスからガラードに買い換えたというぐらいの惚れ込みようなのだ。
 このレコードのもう一つの魅力はそのジャケットで、ヘレン・メリルのドアップにこれまた大写しになったマイクロフォンという構図がインパクト絶大で、眺めているだけで彼女の歌が聞こえてくるようだ。又、バックの鮮やかなブルーも印象的で、ヴィジュアル的にこれほど強烈にジャズを感じさせるヴォーカル・アルバムは他にないのではないかと思う。
Helen Merrill with Clifford Brown / You'd Be So Nice To Come Home To


 この「ヘレン・メリルとクリフォード・ブラウン」、一時期はアナログLPだけでも Big Drummer ロゴの 1stプレス、Small Drummer ロゴの 2nd プレス、そして Mercuryロゴの 3rdプレスの3枚所有していたほどの溺愛盤で(←この 3rdプレスは 1stプレスや 2ndプレスに比べて音が極端に悪かったので中古屋に売りに行ったらたまたま店主が外出中で、バイトの兄チャンが “これ高いヤツですよね!!!” とか言って12,000円で買い取ってくれた... 2,500円ぐらいいけば御の字と思っていたのだが... 一体いくらで店に出したんやろwww)、今でも 1stプレス盤と 2nd プレス盤はレコード棚の特等席に鎮座ましましている。
 そんな私がこの EP盤の存在を知ったのはまだインターネットのイの字も知らずに足繁く大阪京都神戸のレコ屋巡りをしていた頃のことで、大阪日本橋にあった名店 EASTの佐藤さんに見せていただいたのが EP-1-6105 だった。歌唱シーンを別アングルから捉えたジャケット写真はその小さなサイズからは考えられないような圧倒的な存在感を放っており、その魅惑のジャケットを見て私は一目惚れしてしまった。佐藤さんによるとこれはアルバムの音源を3枚の EPに分けてリリースしたうちの1枚で、市場には滅多に出てこない激レア盤なのだという。おいくらですかと訊くと売り物ではないとのことだったので、私はその麗しのジャケットを目に焼き付けてお店を出た。
 それからというもの、行く先々のレコ屋でヘレン・メリルの EP盤を探してはみたものの、関西圏にそんな激レア盤を置いているお店などなかったし、数回に亘る東京遠征でも見つけることができなかった。コレクターズにも、ノスタルジアにも、スリーリーにも、ユニオンにも置いてない...(>_<)  それから何年か経ってインターネットを始め、パソコン画面上で EP盤3枚の存在を確認することはできたものの、3枚セットで10万円(!)という目の玉が飛び出るような高値で取り引きされているのを目の当たりにし、“あぁ、これは自分みたいな貧乏コレクターが手に入れられるような代物じゃないな...” と一旦はギヴアップした。 (つづく)

ひばりジャズを歌う ~ナットキングコールをしのんで~ / 美空ひばり

2017-09-13 | Jazz Vocal
 常日頃愛聴しているというわけではないけれど、たまに取り出して聴いてみるとやっぱり凄いなぁ... と思わせるシンガーがいる。私にとって美空ひばりはちょうどそんな存在である。いわゆるひとつの “演歌” というジャンルが大の苦手な私は、「真っ赤な太陽」をはじめとする “ひとりGS歌謡” 路線の曲を除けば彼女のレパートリーの大半は聴く気になれないが、“ジャズ・シンガーとしての美空ひばり” は大好きで、スタンダード・ナンバーを歌わせたら日本人で彼女の右に出る者はいないとさえ思うぐらいその唯一無二のスイング感に惚れ込んでいる。
 私が持っている彼女のジャズ・ヴォーカル盤はナット・キング・コールへのトリビュート盤「ひばり ジャズを歌う」とコンピレーション盤「ジャズ&スタンダード」という2枚のCDで、ジャズ・ヴォーカルを聴き始めた頃にレコ屋のご主人から勧められて興味を持ったのだが、どちらも当時は廃盤状態だったこともあり、足を棒にして探し回ってやっとのことで手に入れた時の嬉しさは今でも忘れられない。
 そのCDを聴いてみて「スターダスト」や「ファッシネイション」、「慕情」のような悠揚迫らぬバラッドが上手いのは当然予想できたことなのでそれほど驚かなかったが、私が衝撃を受けたのは軽快にスイングする「ラヴ」や「ウォーキング・マイ・ベイビー・バック・ホーム」、「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」といったミディアム・テンポのナンバーで、日本人離れしたナチュラルなスイング感に耳が釘付けになったし、アップ・テンポの「ラヴァ―・カム・バック・トゥ・ミー」で聴かせるノリの良さにも圧倒され、美空ひばりという天才シンガーの凄みを再認識させられた。
IT'S ONLY A PAPER MOON(美空ひばり)

恋人よ我に帰れ(美空ひばり)


 とまぁこのように音楽的には申し分なかったのだが、正直言ってCDのマスタリングはイマイチ(>_<)  90年代に発売されたCDなのでヴォーカルが平板に聞こえるのは仕方ないにしても、ひばりのヴォーカルに対してバックのシャープス・アンド・フラッツの演奏が引っ込んで聞こえるのはいくら何でもいただけない。まるで歌と演奏が溶け合わずに乖離したまま平行線を延々と走っていくような感じで、バランスの不自然さが気になって音楽に100%のめり込むことが出来ないのだ。
 それから何年か経ってこの「ひばり ジャズを歌う」はコロムビアからアナログ重量盤LPという形で再発されたが、同じ重量盤再発シリーズで手に入れた弘田三枝子の「ミコ・イン・ニューヨーク」と「ミコ・イン・コンサート」がCDとあまり変わらない中途半端な音質だったこともあって購入は見送り。ミコたんの2枚はその後オリジナル盤LPを手に入れることが出来たのだが、その音質がめちゃくちゃ良かったこともあって、ひばりのジャズ盤もいつかはオリジナル盤を手に入れてやろうと心に決めた。
 しかし60年代邦楽のオリジナルLPを見つけるのは eBayやDiscogsを駆使してビートルズの各国盤を探すよりも遥かに難しい。そもそも世に出回っている数自体が圧倒的に少ないし、もし仮にオークションに出てきたとしても鬼のようなプレミアが付くことは必至。少なくとも今までにレコ屋の店頭で現物にお目にかかったことは一度もないし、ヤフオクでも年に2~3枚出るか出ないかという、まさに文字通りの “幻の名盤” だった。
 そんな “幻盤” が網に引っ掛かってきたのが3ヶ月ほど前のことで、登録しておいたヤフオク・アラートから届いたメールを見て “ついに来たか!!!” と大コーフンしたのだが、値段を見てビックリ(゜o゜)  49,800円て...??? アホらしゅうなった私はウォッチすらせずにスルーしたのだが、それからしばらくして又々アラートが... 同じブツが今度は1万円値下げして39,800円で再出品されたのだ。更にその数週間後には29,800円と、当初の強気が嘘のような大幅値下げだが、それでもまだまだ高すぎる。顔でも洗って出直してこい!と思って見ていたら、ついにスタート価格を 19,800円まで下げてきよった。2万円台前半までやったら思い切って “買い” やな... と思っていた私は満を持して参戦し、しつこいライバルを振り切って22,800円で落札に成功(^o^)丿  今年に限って言えば「Les Beatles 1965」に次ぐ高額な出費だが、かれこれ20年近く欲しくて欲しくてたまらなかった垂涎盤をやっとのことで手に入れることが出来た喜びは筆舌に尽くしがたい。
 届いた盤をターンテーブルに乗せて早速針を落とす。う~ん、コレは素晴らしい。ハッキリ言ってCDとは比べ物にならないぐらいのスーパーウルトラ高音質だ。60年代に作れたこの美音をテクノロジーが格段に進化した21世紀の再発盤でなぜ再現できないのか理解に苦しむ。何よりもまず美空ひばりの “声” が違う。人間の声をいかにリアルに再現するか… の成否を決する “中音域” の充実ぶりが月とスッポンで、CDに入っている彼女の声が二次元的で薄っぺらいのに対し、オリジナルLPの方は声に芯があって生々しく、目を閉じれば眼前にすっくと屹立する三次元的なヴォーカルの存在感に酔いしれることが出来るのだ。バックの演奏とのバランスもまったく問題なしで、CDのような違和感は感じない。結局レコードが届いた日の晩にAB面通して3回聴いてもまだ聴き足りないぐらい気に入ったのだが、これは大枚を叩いた甲斐があったというものだ。
 分厚くて奥行きを感じさせる美空ひばりの声の魅力をあますところなく音盤に刻み込んだこのレコード、今年も残すところあと4ヶ月を切ったが、“自分へのご褒美盤2017” はどうやらコレでキマリのようだ。

チエミのスタンダード・アルバム / 江利チエミ

2017-08-26 | Jazz Vocal
 多くのレコード・コレクターがやっているように、私もWANT LIST なるものを作っている。ビートルズ関係の盤が多いが、もちろん昭和歌謡やジャズのアーティストもリストアップしており、過去にレコ屋やネットで見かけたのに買いそびれてしまって今ではどこを探しても売ってない盤だとか、オークションで何度も獲り損ねて未だに入手できていない盤だとかがネットオークションに出品されたら絶対に逃さないように寸暇を惜しんでチェックしている。その甲斐あってか前々から欲しかった昭和歌謡歌手のレコードを最近何枚か手に入れることが出来たので、今日はそんな中から江利チエミの「チエミのスタンダード・アルバム」(LKF-1025)を取り上げよう。
 このレコードは1959年にリリースされた10インチ盤で、A面は東京キューバン・ボーイズをバックにラテン・ナンバーを4曲、B面は原信夫とシャープス&フラッツをバックにジャズのスタンダード・ナンバーを4曲歌っている。楽譜をあしらったオレンジ色の背景と彼女の白いドレスのコントラストが映えるジャケット・デザインも素晴らしい。
 A①の「ベサメ・ムーチョ」はトリオ・ロス・パンチョスやアート・ペッパーのようなスロー/ミディアム・テンポのアレンジが主流だが、私が一番好きなカヴァーはビートルズのスター・クラブ・ライヴに入っている疾走系ロックンロール・ヴァージョン(←映画「レット・イット・ビー」でポールが朗々と歌い上げるヴァージョンは正直言って苦手です...)。ここで聴けるチエミ・ヴァージョンは前半部分こそ切々と歌っているが2分を過ぎたところで一気にギアを上げてペースアップ、速射砲のようなスペイン語で一気呵成に突っ走るコモエスタな展開がク~ッ、タマラン! 更に2分35秒の “which means!” で英語に切り替え、“ベッサメ ベッサメ ベッサメ ムゥ~チョ~♪” とたたみかける “ベッサメ三段攻撃” の凄まじい吸引力... (≧▽≦) ここだけでメシ3杯は喰えそうだ。とにかく初期ビートルズ・ヴァージョンの次いで私が好きなベッサメ・カヴァーが他ならぬこのチエミ・ヴァージョンなのだ。
江利チエミ Chiemi Eri - ベサメ・ムーチョ Besame Mucho


 このアルバムでは途中でテンポを変えて曲にメリハリをつけるという彼女お得意の手法が多用されており、A④の「タブー」でも2分を過ぎたところでスローな前半部分から一転して高速シャバダバ・スキャットに突入、さすがは “和製エラ・フィッツジェラルド” の異名を取るだけあって縦横無尽にメロディーを操る歌唱は凄いの一言! 彼女の塩辛い声を活かした見事な歌いっぷりは何度聴いてもスリリングだ。又、B②「ザ・マン・アイ・ラヴ」でも2分08秒から漂白されたハンプトン・ホーズみたいな(笑)中村八大のスインギーなピアノ・ソロ(←バックのドラムの叩き方がもろにスタン・リーヴィーしててクソワロタ...)が炸裂し一気にヒートアップ、ノリノリの演奏をバックに変幻自在のヴォーカルで聴く者を一気にチエミ・ワールドへと引き込む展開がめちゃくちゃカッコ良い(^.^)  まさに彼女のジャズ・シンガーとしての魅力が堪能できる1曲だ。
 B③の「ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー」は1955年にSPでリリースしたものとは違うヴァージョンで、曲の後半部で唐突に “三日月ほのかにかすむ夜~♪” と日本語に切り替えるSPヴァージョンに対して全編英語で歌い切ったこちらのヴァージョンの方が断然カッコいい(^o^)丿 日本人が歌う「ラバカン」としては美空ひばりがナット・キング・コール・トリビュートLPでカヴァーしたヴァージョンと双璧を成す名唱だと思う。
 B④の「スワニー」も彼女は複数回レコーディングしており、1回目がこのアルバムの半年前に出たSPヴァージョン、2回目がこのアルバムのヴァージョンで、3回目が1963年にステレオ・レコーディングされたヴァージョンなのだが、ステレオ版は “I've been away from you a long time~♪” の前半部分をバッサリとカットしていきなり“Swanee, how I love you, how I love you~♪” で始まるという奇抜なアレンジに違和感を覚えるし、ステレオ感を出したかったのかバックの演奏に過剰なエコーがかかっており彼女の歌声だけが浮いてしまっているので私的にはNG(>_<)  SPヴァージョンとアルバム・ヴァージョンはほぼ同時期の録音ということもあってかアレンジがほとんど同じだなのだが、より伸びやかで表現力豊かな歌声が楽しめるという点でアルバム・ヴァージョンに軍配を上げたい。
 ジャズ・シンガーとして取り上げたスタンダード・ナンバーの数々でスキャットを交えながらスイングする “高速スキャットの女王” 江利チエミの魅力が存分に味わえるこのアルバム、復刻CDで持ってはいたが、やはりオリジナル盤の豊潤かつ濃厚な音で聴ける喜びは格別だ。やっぱり江利チエミはエエなぁ... (^o^)丿
Swanne江利チエミ