shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Road Song / Wes Montgomery

2009-08-12 | Jazz
 世間で名盤と呼ばれるレコードには大きく分けて2つの種類がある。評論家が口を揃えて絶賛する “歴史的名盤” と、多くのリスナーに愛され “実際にターンテーブルに乗る回数の多い人気盤” である。ビートルズで言えば、前者は誰が何と言おうと「サージェント・ペパーズ」(←曲単位でシングル盤中心に聴くスタイルから、アルバム1枚で何かを表現するスタイルへと音楽の聴き方そのものを変えてしまったんだから次元が違う!)だろうが、後者に関してはハイそーですかとそう単純に割り切れるものではない。 “そんなもん「ミート・ザ・ビートルズ」の衝撃に決まってるやろ!” と言う人もいれば、 “「ハード・デイズ・ナイト」の躍動感に勝るものナシ!” と言う人もいるだろうし、 “「リヴォルヴァー」のサイケな感じがたまらんワ!” という人、 “「ホワイト・アルバム」ほど面白いアルバム他にないで!” という人、 “「アビー・ロード」のB面メドレーこそが神!” という人etc... 要するに名盤の尺度なんて、その人の思い入れの強さによって違ってきて当然なのだ。これは何もビートルズを始めとするロック/ポップスの世界に限ったことではなく、ジャズにおいても同じことが言える。
 ウエス・モンゴメリーは “モダン・ジャズ史上最高のギタリスト” と呼ばれている。アドリブの間の取り方の絶妙さ、ギターという楽器を通して最小限の言葉で表現できる雄弁さ、ギターでオクターブを同時に弾いてしまう驚異的なテクニック、何をどう弾いても素晴らしいジャズに仕上げてしまう構成力と、もう見事というほかない。彼のレコーディング・キャリアはバリバリのモダン・ジャズを展開していた前期(リヴァーサイド・レーベル)、ストリングスと共演するなどして音楽性の幅を広げた中期(ヴァーヴ・レーベル)、ポップ・ソングを積極的に取り上げ、コマーシャルに堕したとコアなジャズ・ファンからボロクソにいわれた後期(CTI レーベル)に分けることが出来るが、世間でウエスの代表作と言えば判で押したように前期の「インクレディブル・ジャズ・ギター」だもんね、となっているが、ホンマにみんなアレを愛聴しているのだろうか? “オクターブ奏法” というコワモテの専門用語に遠慮してるのではないか? 確かに演奏そのものは文句のつけようがない素晴らしさだ。特にサイドのトミー・フラナガンの絶妙なサポートを得て、リラックス・ムードの中、テンションの高い演奏が繰り広げられる。しかし残念なことに音がややこもって音像がボヤケたように聞こえるのでダイナミズムに少し欠けるように思う。その点ではもう1枚の名盤として挙げられる「フル・ハウス」の方が上かもしれない。
 私はバリバリのハードバップであれ、ウィズ・ストリングスものであれ、ウエスは基本的に全部好きなのだが、やはり一番よく聴くのはクリード・テイラー(プロデューサー)やドン・セベスキー(アレンジャー)と組んだ66年の「カリフォルニア・ドリーミング」から「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」、「ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド」、「ロード・ソング」といった “ウエス後期3部作” あたりへと続く円熟プレイだ。世間ではこういうのを “イージーリスニング・ジャズ” と呼んで低く見ているようだが、エエもんはエエんである。特にこの「ロード・ソング」というアルバムは私が大好きなポピュラー曲の数々をウエスがギターで見事に歌い切った超愛聴盤なのだ。
 ウエスのオクターブ奏法はポピュラー・ソングのメロディーを弾く上でも効果的で、わずか3分少々と言う短い曲の中で彼は持てるすべてのテクニックを駆使して歌いまくっている。素材はイギリス民謡②「グリーンスリーヴス」、ボッサ化された名スタンダード③「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、何の説明も不要なビートルズ・クラシックの④「イエスタデイ」と⑤「アイル・ビー・バック」(←この選曲は渋いね!)、S&Gの「スカボロー・フェア」、PPMの⑨「花はどこへ行った」といった超有名曲ばかりだ。その歌心溢れるプレイを聴けば彼が優れたアドリブ・プレイヤーであるだけでなく、メロディーを美しく歌わせることのできる一流の音楽家であることがわかるだろう。
 彼は68年にこのアルバムを出した直後、43才の若さで急逝してしまうのだが、死ぬ直前のインタビューで、やれポップだのコマーシャルだのといった批判に対して “評論家から何を言われようと気にしないよ。要は聴衆を楽しませること、それがすべてさ。それがプロってもんだろ?” と答えている。いやぁ、まったく同感だ。ホンマにエエこと言うやん(^.^) 残念ながらそれから40年経った今でもこのアルバムは硬派ぶったジャズ・ファンから完全に無視されているようだが、ここで改めて声を大にして言いたい... オクターブ奏法がそんなにエライんか!ポップで悪いか!と。

yesterday Wes Montgomery
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