shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Let It Be / The Beatles

2009-09-30 | The Beatles
 日本における「レット・イット・ビー」の人気は絶大なものがある。アナログLP時代はビートルズのラスト・アルバムということもあってかオリジナル・アルバムの中で最高の売り上げを誇っていたというし、今回のリマスターでも「アビー・ロード」に次ぐ売り上げ(それにしても3万円を超えるボックス・セットが1週間で56,000セットも売れるとは... これに輸入盤も入れたら凄い数字になりそうやな...)だったし、発売後40年近く経っても “レット・イット・ビー神話” は健在といったところだろう。
 しかしこのアルバムはその制作過程のゴタゴタを反映してか、すべてのビートルズ・ファンから諸手を上げて歓迎されているわけではない。そういう意味では非常に因果な宿命を背負った鬼っ子アルバムとも言える。その辺の複雑怪奇なストーリーは書いているとキリがないので省略するが、要するに何度も “一応完成→あっさり却下→ミックスし直し” を繰り返した結果、ジョージ・マーティンやグリン・ジョンズ、そして問題の男フィル・スペクターといった様々な人間がプロデュースしたヴァージョンが生まれ、そこにメンバー間の対立という要素が絡んで、ファンは “グリン・ジョンズ版ゲットバック派” と “フィル・スペクター版レット・イット・ビー派” とに分かれ、 “一体どっちが本物やねん?” と喧々諤々の議論を展開してきた。しかも困ったことに(←ファンとしては嬉しいのだが...)そこに「アンソロジー3」での発掘ヴァージョンや「レット・イット・ビー・ネイキッド」の修正強化ヴァージョン(テイク○とテイク△を繋いだとか、どの音を消したとか、もうワケがわからん!)までもが加わり、しっちゃかめっちゃかのバトルロイヤル状態で、頭の悪い私にはとてもついていけない泥沼と化していた。
 この問題については、これまで本やらネットやらで色んな人の意見を目にしてきたが、私に言わせれば、これはもう真贋の問題ではなく単純に聴く人の好みの問題だ。例えるなら、(1)薄化粧のグリン・ジョンズ版、(2)厚化粧のフィル・スペクター版(リマスターは化粧直し?)、(3)ほぼスッピンのアンソロジー版、(4)最新テクノロジーで整形したネイキッド版(日本盤CCCDはゴミ以下やけど...)、のどれが好きか、といったところだろう。因みに私の好みの音は基本的には(1)なのだが、曲によっては(2)(3)(4)にもエエのがあるなぁ、という感じで、それぞれ違ったものとして楽しんでいる。何と言っても素材はビートルズなのだ。化粧していようがしていようまいが美しいことに変わりはない。最高の素材を色々なミックスで楽しめることをむしろ喜ぶべきだろう。
 ビートルズのアルバムはA面1曲目に強力なナンバーを持って来るのがお約束なのだが、それを知ってか知らずかスペクターが選んだのが①「トゥ・オブ・アス」だ。ハッキリ言ってこれは弱い。曲の良し悪しではなく、インパクトが弱いのだ。それともスペクターは最初からこのアルバムをビートルズのスワン・ソングとして上品に仕上げるつもりだったのだろうか?冒頭にジョンのジョーク“I dig the pygmy...” を配したのは大正解で、私なんかコレがないと「トゥ・オブ・アス」を聴いた気がしない。曲そのものは上品なアコースティック・ナンバーで、エンディングの口笛なんかほのぼのしていてコレはコレでエエのだが、私としては映画の前半(「マックスウェル」の次やったと思う...)でジョンとポールがおどけながら歌っていたノリノリのロックンロール・アレンジ(←1本のマイクを挟んで二人が向かい合って歌うシーンが最高!)の方により魅かれる。②「ディグ・ア・ポニー」はルーフ・トップ・ヴァージョンで、曲としては何かダル~い感じでイマイチ華が無いのだが、ライヴの勢いで何とか押し切っている。
 ③「アクロス・ザ・ユニヴァース」は歌詞といい、旋律といい、後期ビートルズのジョン曲では屈指の名バラッド。元々は「アンソロジー2」で聴けるシンプルなヴァージョン、ジョージ・マーティンがチャリティー・レコード用にテープ・スピードをやや上げて鳥の羽音やコーラスを大きくフィーチャーした通称バード・ヴァージョン、スペクターが逆にテープ・スピードをやや落として荘厳なコーラスとストリングスを被せた正規ヴァージョン、そして途中まではめっちゃエエ感じやのにエンディングで気持ち悪いぐらいのリヴァーヴをかけて全てが台無しのネイキッド・ヴァージョン、の4種類が存在し(もう一つ、グリン・ジョンズ・ヴァージョンが存在するが未聴)、どれがベストかファンの間で意見が分かれるところだが、私はこのスペクター・ヴァージョンの幻想的な雰囲気が一番好きだ。皆さんはどうですか?④「アイ・ミー・マイン」はジョージのロック・ワルツで、これを聴くとどうしてもスタジオでダンスに興じるジョンとヨーコのシーンが目に浮かんでしまう。あぁ嫌だ(>_<) せっかくのビートルズ映画でヨーコは見たくない。
 ⑤「ディグ・イット」は単調なメロディーの繰り返しで延々と続きそうなジャム・セッションの一部を抽出したわずか50秒と言う短いトラックで、最初のうちは “何じゃコレは?” と思っていたが、後になってブートレッグで聴いたグリン・ジョンズ・ヴァージョンでは4分26秒に亘ってうねるようなグルーヴを生み出しており(←ビリー・プレストンの貢献が大!)、すっかりこの曲を見直してしまった(^.^) ⑥「レット・イット・ビー」は美しい旋律の奥底に潜むゴスペルとしての本質を鋭く見抜いたジョージ・マーティン・プロデュースのシングル・ヴァージョンの方が断然良い。興味のある方はぜひ聴き比べてみて下さい。⑦「マギー・メイ」はイギリスのトラディショナル・フォーク・ソングで、ミックス違いもクソもないわずか40秒の演奏というのが返す返すも残念だ。それにしても荘厳な⑥の直後にコレというのは、ちょうど「アビー・ロード」のB面大メドレーが終わった後に「ハー・マジェスティー」が置かれてたのと共通するモノを感じるのだが、どうなんだろう?
 ⑧「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」はジョンとポールがそれぞれ未完成の2曲を持ち寄って完成したという、二人がまだ仲が良かった頃を想わせるような合作で、2分44秒で炸裂するリンゴのドラムから二人のヴォーカルが折り重なるようにして対位法で進行していく所なんかもう涙ちょちょぎれまくる。映画ではポールとジョージの口論の場面がショックだったが、その直後に演奏されたこの曲の中で欝憤を晴らすかのように “Good morning!” と叫ぶポールが印象的だった。⑨「ワン・アフター・909」はデビュー前にジョンが書いたロックンロールで、ルーフ・トップ・コンサートでもノリノリのプレイが印象的だった。「アンソロジー1」でこの曲の初期ヴァージョンが聴けるが、どちらも甲乙付け難い名演だと思う。
 ⑩「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」を巡る論争はもう語り尽くされた感があるが、私見としてはスペクターもポールもどちらも正しいと思う。つまり、あくまでも “ロック・バンドのシンプルなバラッド” として処理することを望んだポールと、より一般ウケするようにオーケストラを加えた(←老若男女すべてにアピールするよう割り切って考えればこのアレンジは見事やと思う...)スペクターの視点の違いなのだ。私的にはムード・ミュージックみたいなお涙頂戴ソングに堕したスペクター・ヴァージョンはあまり好みではない。
 ジョージの⑪「フォー・ユー・ブルー」は一見地味なのだが、私はこの曲の軽妙なブルース・フィーリングが結構気に入っている。映画では各メンバーがアップル・オフィスに入っていく場面で流れたこの曲、特にジョンのスライド・ギターが抜群の効果を上げている。そういえば高校の音楽の時間に、アコギの弦に万年筆をスライドさせて “フォー・ユー・ブルーごっこ” をやって遊んだのを思い出す(笑)。 ⑫「ゲット・バック」はこのアルバムの中で最も好きな曲で、(アルバム発売順で言えば)ビートルズの最後をビシッとキメた、胸のすくようなロックンロール・ナンバーだ。リンゴのドラミングが演奏をグイグイと引っ張り、ジョージがめちゃくちゃ巧いリズム・カッティングで絶妙なグルーヴを生み出し、ジョンのリード・ギターはバンド全体をドライヴさせ、ポールのベースがブンブン唸り、ビリー・プレストンのファンキーなキーボードが熱気に拍車をかけるという、まさに全員が一丸となった入魂のプレイが楽しめるのだ。どちらかというとシングル・ヴァージョンの方が好みだが、大差はない。これだけの名曲名演になると、スペクターもあれこれこねくり回すことが出来なかったのだろう。
 まぁこのアルバムに関してはヴァージョン違いの話題は避けて通れないので何やかんやと好き放題書き散らしてしまったが、正直に言うと一番愛聴してるのはUKオリジナル盤(ブックレットなしの初版で16ポンドでした...)ではなく、アナログのブートレッグ「スウィート・アップル・トラックス」と「モア・ゲット・バック・セッション」の2枚ですねん(^o^)丿 はよ映画版のDVD出ぇへんかなぁ... (≧▽≦)

The Beatles, Get Back

White Album (Disc 2) / The Beatles

2009-09-29 | The Beatles
 今日も昨日の続きで「ホワイト・アルバム」の後編である。C面に入ってもポールは相変わらずの絶好調ぶりで、いきなりノリノリのロックンロール①「バースデー」で幕開けだ。もう完全にイケイケ状態ですな。リンゴの強烈なフィルインから全員が一丸となって疾走するその様は圧巻で、全編を通して聴けるリンゴのハイ・テクニックを駆使したドラミングや、0分56秒からギターが鋭く切り込んできてお約束のハンド・クラッピングが加わり、ジョンの “イェスウィ ゴーイントゥア パーティパーティ...” 3連発が炸裂するところなんか血沸き肉踊る超スリリングな展開で、このどんちゃん騒ぎ曲が持っているお祝い気分を大いに盛り上げている。やっぱりビートルズは別格やね。尚、イーグルスのアルバム「ザ・ロング・ラン」に入っていた「グリークス・ドント・ウォント・ノー・フリークス」にこの曲のリフがそのまんま出てきた時はワロタ(^.^)
 ポールの残る2曲③「マザー・ネイチャーズ・サン」と⑥「ヘルター・スケルター」は同じ人間が書いたとは思えないぐらい好対照をなすナンバーで、牧歌的な雰囲気がたまらない癒し系の極北③に対し、暴力的なまでにラウドなロック⑥での無軌道ぶりは尋常ではない。そのテンションの高さは凄まじく、喉も張り裂けんばかりにシャウトするポールのヴォーカルを始め、荒れ狂うギター・リフ、暴れ回るベース、親の仇でも取るかのように連打されるドラムスと、ありとあらゆる音が大量投下された破壊的なナンバーで、ヘヴィー・メタルの先駆け的作品と言われるのも当然だ。それにしてもこの時期のポールって向かうところ敵なし、って感じがするなぁ... (≧▽≦)
 ジョンの3曲②「ヤー・ブルース」、④「エヴリバディーズ・ガット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー」、⑤「セクシー・セディ」ではワイルドなロックンロールが爆裂する④がダントツに好きで、イントロから終始一貫してカッコ良いリズムを刻み続けるギターや2分3秒から唐突に大噴火するポールのベース・ラインも刺激的。リンゴのドラミングは相変わらず最高だ。②はまさにビートルズ版ブルースで、後の「コールド・ターキー」の原型と言えるようなヘヴィーなナンバーだ。揺れるようなピアノのイントロが耳に残る⑤はマハリシを糾弾する辛辣な歌詞をオブラートで包んでシンプルなバラッドとして提示したもので、C面に来てジョンが息を吹き返したかのようだ。ジョージのリリカルな⑦「ロング・ロング・ロング」はほとんど話題に上らない不憫なナンバーだが、私は結構良い曲だと思っている。ただ、衝撃的な「ヘルター・スケルター」の後という箸休め的な配置なので、印象が薄いのもしゃあないか。
 D面は良くも悪くもジョン・サイドと言っていいだろう。まず①「レヴォリューション1」は最初、同曲シングル・ヴァージョンのスロー&アコースティック版だと思っていたが、実際はこちらが先で、シングルの方は一般ウケするようにテンポを上げ、ラウドなエレクトリック・ヴァージョンに仕上げたとのこと。レイドバックしたアコギがジョンのアンニュイなヴォーカルやユル~いシュビドゥワ・コーラスと見事にマッチして絶妙な緊張感を醸し出している。「ホェン・アイム・64」の流れを汲む②「ハニー・パイ」は今にもフレッド・アステアが出てきそうな20年代風バンド・サウンドをフィーチャーしたノスタルジックなナンバーで、ポール版「踊るリッツの夜」といった塩梅だ。
 私がD面で一番好きなのが何を隠そうこの③「サヴォイ・トラッフル」で、イントロで聴けるリンゴのスネアのカッコ良さに始まり、ウキウキするような心地良いノリを持ったメロディーやサウンドに厚みを持たせて見事なグルーヴ感を生み出しているホーン・アレンジ、更に歌詞の中にさりげなく「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」が入っていたりと、もう楽しさ満載だ。誰も褒めないのが不思議なぐらいの名曲名演だと思う。④「クライ・ベイビー・クライ」はアコースティックなバラッドで、旋律はシンプルで単調ながらジョンのヴォーカルだけで聴かせてしまうところが凄い。ピアノやオルガンが隠し味的に効果的に使われているのも◎。エンディングにポールがくっつけた鼻歌みたいなパートが何故かしっくりと収まっているのが不思議だ。
 ⑤「レヴォリューション№9」はワケのわからんサウンド・コラージュで、前衛音楽嫌いの私としてはパス。ビートルズ・ファンでこんなん聴きたい人、いてるんかいな?そしてそんな気まずい空気を打ち消すようにこの超大作を締めくくるのはゴージャスな⑥「グッド・ナイト」。ジョンがジュリアンのために書いた壮大なバラッドで、なぜか自分が歌わずリンゴがオーケストラをバックに単独録音したという異色のナンバーだ。
 こうやって聴いてくると実にヴァラエティー豊かな面白いアルバムだなぁと改めて感心してしまう。そのせいか、オープン・トップのUKオリジナル・モノ盤はオークションでの入札競争が熾烈を極め、良いコンディションの盤を手に入れるのに77ポンドもかかったが、耳慣れたステレオ・ミックスとは違うテイクも多く、十分にその価値はあったと思っている。
 「ペパーズ」を整然とした高級ブランド・ショッピング・モールだとすれば、この「ホワイト・アルバム」は何でもアリの精神で様々な商品が雑然と積み上げられているドンキホーテに似たワクワクドキドキ感がある。庶民派の私にとって、ビートルズのありったけの魅力を無節操に詰め込んだこのアルバムは、掘り出し物が一杯の音楽玉手箱みたいな面白さで、「ペパーズ」よりもターンテーブルに乗る回数が遙かに多い超愛聴盤なのだ。

Beatles- Birthday

White Album (Disc 1) / The Beatles

2009-09-28 | The Beatles
 一昔前までは「サージェント・ペパーズ」が過大評価とも思えるぐらい絶賛の嵐だったのに対し、この「ホワイト・アルバム」は “統一性がなく散漫な印象を与えるアルバム” というイマイチな評価が大勢を占めていた。今なら “何を眠たいこと言うてんねん!” と一笑に付すことが出来るが、まだ右も左も分からなかった初心者の頃はそういった妄言を鵜呑みにしてこのアルバムを購入リストの下の方に入れていた。ところがたまたまラジオのビートルズ特集で耳にした「バック・イン・ザ・USSR」や「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」の素晴らしさに完全KOされ、 “これって「ペパーズ」よりエエやん!” と慌ててレコード屋に走ったのを覚えている。
 で、実際にアルバム2枚全27曲を通して聴いてみると、確かに統一性なんかクソくらえという感じの不揃いな作品集だしその内の何曲かは ??? なのだが、その一方でめちゃくちゃ気に入ったナンバーも多く、どちらかというとシングル盤志向で曲を “単品聴き” する傾向のある私にとっては「ペパーズ」よりも遙かに面白いアルバムで、 “コンセプトを持たない” というコンセプトがすっかり気に入ってしまった。しかもバラバラでありながらも(たとえメンバーが単独で録音した楽曲であっても...)出来上がったものはちゃーんとビートルズの薫りがしたし、それらを “ここしかない!” という絶妙な配置でA~D面に振り分けることによって各面それぞれに大きな流れを作る、というビートルズ・マジックも健在だった。
 まずA面ではいきなり①「バック・イン・ザ・USSR」でガツン!とやられる。チャック・ベリーの「バック・イン・ザ・USA」をビーチ・ボーイズ風コーラスでパロッたビートルズの音楽的センスが素晴らしい!!! 曲中何度もフェード・イン&アウトを繰り返すジェット音のSE、本家BB5も顔負けのコーラス・ハーモニー、ドライヴ感溢れるプレイで煽りまくるピアノとギター、リンゴとはまた違った味わいのポールのバラケたドラミング、そしてお約束とも言えるハンド・クラッピング... その徹底的に練り上げられ作り込まれたアレンジのすべてがただでさえ素晴らしいこの曲にターボ・ブーストをかけたような疾走感を与え、後期ビートルズの中でも屈指のロックンロール・ナンバーに仕上がっている。
 ジョンがインドで書いたという内省的なバラッド②「ディア・プルーデンス」に続く③「グラス・オニオン」はリンゴがグループ復帰記念とばかりにビシッとキメるイントロのスネア2連発がめちゃくちゃカッコ良い!その絶妙なニュアンス・味わいはちょうど「フリー・アズ・ア・バード」のリンゴの一打で時計の針が一気に逆戻りし、あたりの空気が60's色に染まってしまう、あの感覚そのものだ。又、自分たち自身をパロディーの対象にしたシュールな歌詞も面白い。 “ストルベリー・フィールズ” “ウォルラス” “レディ・マドンナ” “フィクシング・ア・ホール”といった過去の名曲たちのタイトルがガンガン登場する中で、「フール・オン・ザ・ヒル」という言葉のバックで鳴り響くリコーダーには参りましたという他ない。このように細部にまで凝りまくるところがビートルズの魅力の一つだろう。
 ④「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」はキャッチーという言葉を絵に描いたようなカリプソ・ナンバーで、弾むようなイントロのピアノからズンチャッ ズンチャッというリズムを刻みながらデズモンドとモリーの楽しいストーリーを綴っていく。それにしてもノリノリのロックンロールあり美しいバラッドあり楽しいカリプソありと、まったくポールの天衣無縫ぶりには頭が下がる思いだ。⑤「ワイルド・ハニー・パイ」は以前タモリの空耳アワーで“大仁田... 大仁田~♪” っていうのを見て以来どうしてもそのイメージが拭えない(>_<) 空耳ってホンマにオモロイですね(^.^) ⑥「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」は曲としては割と好きなのだが、ヨーコが歌うたった1行のヴァースがすべてを台無しにしている。私はジョンのソロ「ライヴ・ピース・イン・トロント’69」で “メェェェ~” としか聞こえない奇声を発し続けるヨーコを聴いて以来どうしても彼女に対しては生理的に拒否反応を覚えてしまうのだ。そもそもマトモな音楽が出来ない輩がムチャクチャやってるだけにしか聞こえない前衛音楽にかぶれたヨーコがビートルズのアルバムに参加すること自体が言語道断であり、鬱陶しいことこの上ない。ヨーコは東京ボンバーズだけで十分だ(笑)
 ⑦「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」はジョージの傑作と言えるドラマチックなナンバーで、ジョージのヴォーカルもクラプトンのギターも徹底して “泣き” まくるという凄まじさ。このアルバムのジョージにはシタール曲が1つもないのが嬉しい。⑧「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」はいかにもこの時期のジョンらしい曲で、何も考えずに書いた旋律を繋ぎ合せて出来たような感じがする。曲としてはそこそこだが、ジョンのヴォーカルの吸引力は相変わらず見事だ。
 B面はマッカートニー・サイドと言ってもいいぐらいポールが突出している。特にエレガントな①「マーサ・マイ・ディア」、シンプル・イズ・ベストな③「ブラックバード」、絶世の隠れ名曲⑧「アイ・ウィル」の3曲で水晶のような輝きを持った美しいメロディーをストレートに歌うポールは “20世紀最高のメロディー・メイカー” の名に相応しい素晴らしさだ。個人的にはポール・マッカートニーという音楽家のエッセンスを1分45秒にギュギュッと凝縮したような⑧が白眉だと思う。⑤「ロッキー・ラックーン」はポールお得意の物語風の歌詞をユーモラスな語り口調で歌っており、中間部のホンキー・トンク・ピアノも絶妙な味わいを醸し出していて面白い。⑦「ホワイ・ドント・ウィー・ドゥー・イット・イン・ザ・ロード」を聴いていると彼の1st ソロ・アルバム「マッカートニー」が頭に浮かぶ。いかにも即興で作ったようなシンプルな歌詞とメロディーで、初心者の頃は “何じゃこりゃ?” と思ったが、何度も聴くうちにその面白さが分かってきた。ラフで荒削りながらその核にあるのはあくまでポップ、まさにダイアモンドの原石と呼ぶに相応しい1曲だ。
 そんなポールに対し、ジョンの2曲②「アイム・ソー・タイアード」は⑨「ジュリア」は今一つインパクトに欠けるように思う。②は「アイム・オンリー・スリーピング」の続編的な雰囲気を湛えたナンバーで、曲そのものよりも彼のヴォーカルで聞かせてしまうという感じがする。⑨はいかにもジョンなバラッドながら、 “オーシャン・チャイルド” で気分は一気に萎えてしまう。何と言われようが嫌なものは嫌なのだ。ジョージの④「ピッギーズ」は上流階級を痛烈に皮肉ったシニカルな歌詞がバロック調のメロディーに乗せて歌われる面白い佳曲。ハープシコードの音色がこれまた曲想にピッタリ合っており、実にエエ味を出している。⑥「ドント・パス・ミー・バイ」はリンゴが歌うC&W風味のポルカで、いかにも彼らしいハッピー・ソングに仕上がっている。この曲をストレートなロックンロールにアレンジしてカヴァーしたジョージア・サテライツのヴァージョンもオススメだ。(つづく)

The Beatles - Back In The USSR

Yellow Submarine / The Beatles

2009-09-27 | The Beatles
 アルバム「イエロー・サブマリン」は発売順でいけば「ホワイト・アルバム」の後に来るのだが、収録曲の録音時期はすべて「ホワイト」よりも前だし、何よりも「ペパーズ」や「MMT」時代のサイケな薫りを引きずっているナンバーもあるということで、サウンドの整合性という面からこっちを先に取り上げることにした。「ペパーズ」→「MMT」→「イエサブ」→「ホワイト」→「レリビー」→「アビロー」という流れで聴くのが私的には一番しっくりくるのだ。
 このアルバムはご存知の通り、LPのB面すべてがジョージ・マーティン・オーケストラの演奏という半分詐欺みたいな内容で、しかもA面6曲中純粋な新曲は4曲のみというからもうお話にならない。ビートルズ・ファンでこのアルバムだけは持ってないという人も少なからずいるだろうし、かく言う私もこのアルバムを買ったのは他のマトモなアルバムをすべて揃えてからだった。そういう意味ではファンからでさえ軽く見られている不憫なアルバムといえる。そもそもこの映画「イエロー・サブマリン」の制作はブライアン・エプスタインが生前に映画会社と契約してしまっていたもので、 “今更映画なんか...” とその企画に乗り気でなかったビートルズが67年のセッションで一旦ボツにしていたものを引っ張り出してきたりスタジオでササッと書いてチャチャッと録音したりと、 “まぁこんなモンでエエやろ” 的な感じで作られたアルバムだった。当初はこの新曲4曲でEPとしてリリースする予定だったらしいが、「マジカル・ミステリー・ツアー」の時と同じくアメリカのマーケットに不向きという理由で、このような形のアルバムをでっち上げることになったらしい。B面を1回しか聴いた覚えがない私(しかも退屈すぎてすぐに針を上げてしまった記憶が... CDになってからは1回も聴いてないし...)としてはEP盤の方がスッキリすると思うし、そしたら今頃は「パスト・マスターズ」に入っとったワケで、CD1枚分のムダが省けたのに、と思うのだが。
 このようにあまり期待をせずに買った「イエロー・サブマリン」だが、手抜きというか投げやり状態で作られた新曲4曲はどれも私の好みにピッタリで、中でも④「ヘイ・ブルドッグ」はめちゃくちゃ気に入ってしまった。少なくとも後期のジョン曲の中で三指に入るスーパーウルトラ愛聴曲だ(≧▽≦) まずは何と言ってもイントロがカッコイイ!初期の「マネー」を彷彿とさせるようなヘヴィーなピアノにファズ・ギターが被さり、更に縦横無尽に動き回るポールのベース(今回のリマスターでよりクリアなったので是非聴いてみて下さいな)が重なっていくところなんかもう鳥肌モノだ。ジョンのヴォーカルはダブル・トラッキングが抜群の効果を上げているし、間奏で聴ける過激なギター・ソロもたまらない。この圧倒的なドライヴ感、下半身がムズムズしてくるようなグルーヴ、重金属のようなへヴィーネス... そのすべてが圧巻で、全員が一丸となってノリまくっている様子が手に取るようにわかる名曲名演だと思う。しばらくサイケ路線を突っ走っていたジョンが久々に聴かせてくれたヘヴィーでストレートアヘッドなロックというのもめっちゃ嬉しかった。
 ③「オール・トゥゲザー・ナウ」はポールが即興でササッと書いたようなシングアロング・タイプの楽しい曲で、彼らが毎年ファン・クラブ会員向けに配っていたクリスマス・レコードのようなノリだ。ビートルズ版「ビーチ・ボーイズ・パーティー」といってもいいかもしれない。アニメ映画なんだから肩肘張らずに楽しみましょうというわけだろう。ジョージの②「オンリー・ア・ノーザン・ソング」と⑤「イッツ・オール・トゥー・マッチ」の2曲は滅多に話題にも上らないが、私は中々良く出来ていると思う。少なくとも同時期の「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」や「ジ・インナー・ライト」といったインド・レストラン用BGMよりも遙かに魅力的なサイケ曲だ。特に6分を超える大作⑤の後半の作り込みはハンパではなく、フリーキーな不協和音を生み出すフィードバックからテープの逆回転まで、ありとあらゆるスタジオ・テクノロジーを大量投下して出来上がった混沌としたサウンドが耳に心地良いし、ジミヘンをパロッたイントロやナンセンス丸出しの歌詞も効果的だ。
 「リヴォルヴァー」で既出のアルバム・タイトル曲①「イエロー・サブマリン」は私にとっては赤盤全26曲を締めくくるナンバーとしてのイメージが強い。サウンド・エフェクトのこれでもか攻撃が実に楽しいこの曲はリンゴが歌っていることもあって、最初はリンゴが書いた曲だと思っていた。それにしても「黄色い潜水艦」をテーマにしたヒット曲なんて発想は当時としては実にブッ飛んでいたと思うのだが、これなんかポールの発想の先取性を如実に示している好例だと思う。尚、例の音聴き会G3でこの曲をかけた時、plincoさんに教えていただいた空耳 “おっさんが屁ぇこきまっせぇ~ おっさんの屁ぇ~♪” (←間奏の1分33秒から)には一同大爆笑!調べてみると実際は “Full speed ahead, Mr. Boatswain, full speed ahead” と言っているらしいのだが、私の耳には “おっさんの屁” にしか聞こえない(笑) ホンマにビートルズは色んな楽しみ方がありまんなぁ(^o^)丿
 「マジカル・ミステリー・ツアー」のラストを飾った⑥「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」はフランス国歌「ラ・マルセーユズ」からアダプトしたイントロが実にキマッている。私の知る限り国歌をヒット曲に使った例はこれだけなのだが、こーゆーのって使用許可とかどーなってるんやろ?そのあたりも含め、一国の国歌を堂々と(?)引用し、それを世界初の衛星同時中継番組で歌ってしまうあたり、さすがはビートルズだ。ストリングスや管楽器群のアレンジも絶妙で、この曲の持つ共同体的雰囲気を更にアップさせている。エンディングで怒涛のように繰り出される「イン・ザ・ムード」「グリーンスリーヴズ」そして「シー・ラヴズ・ユー」の波状攻撃は圧巻だ。こうやって聴いてくるとA面めっちゃよろしいで(^.^) 
 アップルから出たこのアルバムのUKオリジナル盤(ステレオ)は他のアルバムほど売れなかったせいか(当然だ...) eBay オークションでも結構レアで、実質A面しか聴かないLPなのに21ポンドもした(>_<) 今となっては EP盤でも何でもエエからビートルズの演奏だけで出してくれればよかったのになぁ... と思える片面愛聴盤だ。

The Beatles - Hey Bulldog in the studio

Magical Mystery Tour / The Beatles

2009-09-26 | The Beatles
 私がビートルズを聴き始めた1970年代半ばには DVD はもちろんのこと、レーザーディスクやビデオデッキすらなく、映画は映画館で見るものと決まっていた。だから見たい映画があってもどこかの映画館で上映してくれるか、あるいはテレビでやってくれるのを辛抱強く待つしかなかった。私はレコードの解説やビートルズ本を読んで、「ア・ハード・デイズ・ナイト」、「ヘルプ」、「マジカル・ミステリー・ツアー」、そして「レット・イット・ビー」といったビートルズ映画が見たくて見たくてたまらなかったが、こればっかりはどうしようもなく、ただ黙々とレコードを聴いて過ごしていた。
 そんなある時、友人が “ビートルズ復活祭” と題した上映会の情報を教えてくれた。聞けば大阪の中之島公会堂でビートルズの映画やプロモーション・フィルムを一気に上映するという。私は大喜びして早速見に行ったのだが、その時見たのがこの「マジカル・ミステリー・ツアー」だった。LP のブックレットに載っていたあの “セイウチ” や “エッグマン” が見れるとあって、私は大きな期待を抱いてスクリーンに見入った。しかしそこで私が見たのは、ストーリー展開がまったくワケのわからない、意味不明な映画だった。“何でジョンがウエイターになって太ったオバチャンにシャベルで(!)スパゲッティを盛り続けてんねん???”(←今ではこのシーンめっちゃ好きやけど...)とか、 “何で天下のビートルズがストリップ観て(;´Д`)ハアハア せにゃならんのか???” とか、 “飛行場跡でみんなで走り回って一体何がしたいねん???” とか、とにかく頭の中が混乱しっ放しで、時々挿入される音楽は素晴らしかったものの、映画を見終わった後は言いようのないモヤモヤ感だけが残った。そしてそんな想いが私だけではなかったことは、開演前にあれほど盛り上がっていた会場がシラーッとした空気に包まれていたことからも容易に想像出来た。
 この映画が初めてイギリスのTVで放映された時もボロクソに叩かれたらしいが、今にして思えば、そもそもストーリーのない映画に「ア・ハード・デイズ・ナイト」や「ヘルプ」のような完成度を求める方が無茶だったし、要するにこれは “ドラッグ体験を通して広がったイメージを映像化した実験的なフィルム” とでも呼ぶべきものであり、いくらビートルズでもクリスマスのTVスペシャルでコレを流すというのは大衆性という点から言っても(←TV視聴者がみんなマリファナでラリッてるんなら別やけど...)無理があり過ぎた。因みに最近はこの「マジカル・ミステリー・ツアー」を見直す動きがあるようなので、ぜひ早く再DVD化してほしいと思う... それもリーズナブルな価格で!(←「ヘルプ」のDVD 5,800円は完全なぼったくり価格やったもんなぁ... 東芝EMIさん!)
 このレコードのUKオリジナル盤は映画で使われた6曲を収めた2枚組EP盤(45回転)だったが、当時のシングル5曲を追加して1枚のLPに仕立て上げたUS盤が今やスタンダードとしてまかり通っているし(←結局イギリス・パーロフォンでも76年にLPフォーマットで発売してるし...)、今回のリマスターでもUS盤仕様が採用されている。しかし USキャピトル原盤の何曲かは私の大嫌いな疑似ステレオらしく、「ビートルズ・セカンド・アルバム」や「ビートルズ '65」での過剰なエコー処理(風呂場で聴くような「ロール・オーヴァー・ベートーベン」や「シーズ・ア・ウーマン」にはワロタ...)が脳裏を横切りどうしてもUS盤への不信感をぬぐい去れない私は、結局UKオリジ・モノEP2枚組(12.50ポンド)とワールド・レコード・クラブ・レーベルのオーストラリア盤(別ジャケ、全曲リアル・ステレオ・ミックスで20.80ポンド)の2種類の盤をeBayで入手した。
 ①「マジカル・ミステリー・ツアー」は派手なホーン群が炸裂するイントロから “ララ~ッ ララッファザ ミステリ トゥウア♪” といきなり全開で飛ばすポールの勢いが凄まじい(≧▽≦) その万華鏡のようなカラフルなサウンドの奔流は圧巻の一言に尽きる。今回のリマスターでポールのベースがよりクリアになったのも嬉しい。まさにポールの才気煥発といえる1曲だ。②「フール・オン・ザ・ヒル」はいわゆるひとつの “ポールなメロディー” 横溢の名バラッドで、リコーダーの音色が何とも言えない雰囲気を醸し出し、この曲の名曲度を更にアップさせている。この曲を聴くと丘の上でスキップしたりおどけたりするコート姿のポールが目に浮かぶでしょ?
 ③「フライング」はいかにもサントラ盤らしい、映像あってのインスト・ナンバーで、特にどーってことないBGM、それ以上でもそれ以下でもないと思う。そういう意味では④「ブルー・ジェイ・ウェイ」も似たり寄ったりで曲としては大したことないと思うのだが、そのミステリアスなムードはいかにも東洋的で、何か空中浮遊のBGMにでも使ったらピッタリはまりそうな幻想的なサウンドだ。
 ポールの⑤「ユア・マザー・シュッド・ノウ」とジョンの⑥「アイ・アム・ザ・ウォルラス」はこのアルバムの中でも屈指の名曲名演で、A面ではこの⑤⑥、B面では⑦⑧⑨の連続攻撃が白眉だろう。⑤はノスタルジックな曲想に涙ちょちょぎれる超愛聴曲で、哀愁舞い散るピアノの旋律も洗練されたコーラス・ハーモニーも、そのすべてが素晴らしい!!!!! 真っ白な燕尾服に身を包んだ4人がワルツのステップで階段を降りてくるという、この難解な映画の中で唯一マトモなシーン(笑)で使われていた印象的なナンバーだ。⑥も聴きまくったなぁ... この曲だけで3千回ぐらいは聴いてるかもしれない(笑) 「リヴォルヴァー」以降のジョンの曲はポールに比べると明らかに量・質共に負けていると言わざるを得ないのだが、この「アイ・アム・ザ・ウォルラス」と「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」の2曲はポールが逆立ちしても書けないような物凄い曲だと思う。私としては “何かワケがわからんけど、めっちゃ好き!” というしかない。意味不明だがめっちゃクールでカッコイイ歌詞、凝りに凝りまくったサウンド・プロダクション、そしてジョンのヴォーカルの恐るべき吸引力... すべてが最高だ。被りものギミックの演奏シーンもインパクト絶大で、特にイントロのドラムが入る所でポールがのけ反りながらリンゴを指さす仕草がたまらなく好きだ。
 B面冒頭のシングル3連発も強烈だ。⑦「ハロー・グッバイ」は単純な歌詞をキャッチーなメロディーに乗せてポールが歌う典型的な3分間ポップス。エンディングの “クッチャッ クッチャッ...♪” がめっちゃ好き(^.^) プロモ・ビデオで彼らが襟なしスーツを着て手を振るシーンは過去の自分達へのグッバイだろう。⑧「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」はこれまた何がどうなってるのかワカランぐらい複雑なサウンド・プロダクションが施されているが、そのすべてが音楽的・必然的・有機的に結びつき、混然一体となって素晴らしい効果を上げている。目を閉じれば眼前にイチゴ畑が広がっているかのような錯覚を覚えてしまう凄いナンバーだ。⑨「ペニー・レイン」はイントロなしでいきなり “ペニレイン♪” で弾むように飛び出すポールの清々しさがいい。このワクワク感がたまらんなぁ...(^o^)丿 どことなく昔懐かしい感じを出すのにピッコロ・トランペットを使った慧眼もお見事、どこを切っても大英帝国の薫りがする名曲だ。それにしても⑧⑨で両A面シングルって... やっぱりビートルズは凄いわ(≧▽≦)

The Beatles - I Am the Walrus (STEREO) HQ

Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

2009-09-25 | The Beatles
 この「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(以下「ペパーズ」と略す)というアルバムは、これまで異常なくらい高い評価を受けてきた。曰く “ビートルズのみならず、ポピュラー音楽史上に燦然と輝く最高傑作” “ポップスの方向性に革命をもたらした、世紀を揺るがす大名盤” “ロックンロールにシンフォニーの概念を適用し、芸術的素材にまで高められたアルバム” etc... とまあ、よくもこれだけ褒めちぎれるもんだと感心するぐらいの美辞麗句が並ぶ。まさに猫も杓子も「ペパーズ」礼讃で、赤盤でビートルズに入門したばかりでまだ純真無垢な青年(笑)だった私は “そんなに凄いのか... めっちゃ楽しみやな(^.^)” とそれらの評論を鵜呑みにして、赤盤の次に早速このアルバムを購入した。 “最高傑作ってゆーぐらいやから、全曲「オール・マイ・ラヴィング」や「ヘルプ」みたいな大名曲が並んでるんやろなぁ...” などというド素人丸出しの期待感、先入観を持ってこのアルバムを聴いた私は思いっ切り肩透かしを食い、“コレのどこが最高傑作?” とガッカリしてしまった。もちろんビートルズの歌と演奏なんだから悪かろうはずはない。めっちゃ気に入った曲も数曲ある。でも最高傑作はないよな~ (>_<) と思った私は一旦このアルバムをライブラリーにしまい込み、初期のドライヴ感溢れるロックンロール曲や中期のビートリィなポップ曲を聴いて楽しんでいた。とどのつまり、 “ポピュラー音楽史” “シンフォニー” “芸術的” といった言葉は私が求める “キャッチーでノリの良いロックンロール” とは全く違う世界のものだったし、“歴史上の名盤”というのは概してファンが目を細めて聴き入る愛聴盤とは違うんだということも分かっていなかった。しかも当時は電蓄に毛の生えたような小型プレイヤーを使っていたのだ。これでは「ペパーズ」を味わうどころではない。
 その後コツコツとビートルズの全アルバムを日本盤LPで揃え、念願のステレオ・コンポも買った私は大晦日から元旦にかけてビートルズの全アルバムを 1st から順番にブッ通しで聴きまくる “年越しビートルズ祭り”(←なんか今とあんまり変わらへんな...)をやったことがあった。私は昔から紅白とか正月番組の類が大嫌いで、あんなゴミみたいな番組見るぐらいやったら大好きなビートルズを浴びるように聴こう、と思って始めた祭りだったが、その時大音響で聴いた「ペパーズ」の印象は第一印象とは打って変わって面白く、スピーカーから溢れ出る絢爛豪華な音のパノラマに釘付けになってしまった。 “ペパーズってこんなに良かったっけ?” と不思議な思いだったが、今になって考えてみると “①変な先入観を持たずに真っ白な心で、②まともな再生装置を使って大きな音で、③AB面ブッ通しで” 聴いたのがよかったのかもしれない。とにかくそれ以降、私は「ペパーズ」を “ヒット曲や名曲の集合体としての” アルバムではなく、1枚の作品として楽しめるようになった。つまりこのレコードは13の楽章からなる組曲風の大作として捉え、LP1枚が1曲のごとく一気呵成に聴き通すことによって初めてその真価がわかるニクイ盤だったのだ。私はこの時初めて“トータル・コンセプト・アルバム”という言葉の意味が理解できた気がした。
 やがてメディアがCDに変わり、87年のCD化の時は同じステレオ・ミックスということもあって大きな感慨もなかったが、04年にUKオリジナルのモノラル盤(例の紅白インナー付きで41ポンドだった...)を買って聴いた時は本当にビックリした(゜o゜) ステレオとモノラルでミックスが違う曲が多く、特にタイトル曲なんかSEの入り方一つでかなり印象が変わってくる。「ペパーズ」との長年の付き合いで一番驚いたのはこの時かもしれない。
 アルバム冒頭を飾る①「サージェント・ペパーズ」はビートルズがなりすました架空のバンドの紹介ソングであり、ラス前で再び⑫「サージェント・ペパーズ(リプリーズ)」として繰り返されるのだが、私はこの⑫の躍動感溢れる活き活きした演奏が昔から大好きで、わずか1分18秒しかないのが本当に残念でならず、もっともっと聴かせてくれい!と思っていた。だから「アンソロジー2」でポールのガイド・ヴォーカル入りのベーシック・トラックが聴けたのはめっちゃ嬉しかった。何と言ってもポールがノッているし、リンゴのドラムの一打一打もビシバシきまって、気持ちエエことこの上なし。アンソロジー・シリーズは宝の山だ(^o^)丿
 話を「ペパーズ」に戻して、②「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」、③「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」と続く2曲は珠玉のビートルズ曲の中ではそれほど凄い曲だとは思わない。「ペパーズ」A面前半の流れの中で聴いてこそ初めて活きてくるといった感じなのだ。それにしても①や⑦も含めてこのアルバムにはタイトルが長すぎる曲が多いなぁ...(>_<)
 ④「ゲッティング・ベター」と⑤「フィクシング・ア・ホール」はテンポの差こそあれ、曲想が似通った親戚同士みたいな曲。④は “キャンキャン” というギター・リフが思いっ切り目立っているが、聴くべきは縦横無尽に歌いまくるポールのベース・ラインで、私はオーディオ装置をグレードアップして初めてこの曲の真価が分かった。中間部とエンディングで響きわたるコンガも絶妙なアクセントになっている。⑤はハープシコードのサウンドが曲想にピッタリ合っているのだが、この曲に限らずポールの楽器選択の慧眼、音楽的センスにはもう参りましたというしかない。
 ⑥「シーズ・リーヴィング・ホーム」はポールのリード・ヴォーカルと娘に家出された両親の感情を表現したジョンのバック・コーラスとが交差するパートが鳥肌モノ。⑦「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」はジョンがサーカスをイメージして書いた曲らしいが、古き良き時代の庶民的な遊園地を彷彿とさせる音の洪水の中、シュールで不気味な雰囲気を醸し出すジョンのヴォーカルが耳に残る。⑧「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」はインド料理レストランのBGMにならピッタリ合うかもしれないが、抹香臭くて付き合いきれない。アルバム「ラヴ」のリミックス・ヴァージョンには唸ったけど...(^.^) ⑨「ホエン・アイム・64」はポールの素っトボケたヴォーカルがエエ味出してるナンバーで、ジョージのバック・コーラスもこの曲に絶妙な色付けをしている。尚、この懐古趣味路線(?)は「ホワイト・アルバム」の「ハニー・パイ」へと受け継がれていく。
 ⑩「ラヴリー・リタ」→⑪「グッド・モーニング・グッド・モーニング」→⑫「サージェント・ペパーズ(リプリーズ)」と続く疾走系ナンバー3連発が私的にはめっちゃツボ。曲間を詰めたりSEを使って曲を繋げたりすることによってよりスピード感が増し、その勢いで最終曲⑬のイントロへとなだれ込んでいくところなんか、まるで最終コーナーを立ちあがって加速していき一気にホーム・ストレートを駆け抜けていくような爽快感を味わえる。それにしてもリンゴのドラムは巧いなぁ...(^o^)丿
 ⑬「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」は、前後のジョンのパートと見事なコントラストをみせるポールの中間部の見事さだとか、オーケストラの盛り上がりの凄まじさだとか、ラストの “ガ~ン!” のインパクトだとか、色々聴きどころ満載だが、どれか一つと言われれば私はジョンのヴォーカルを挙げたい。この情感の深さ、表現力の豊かさこそが天才ヴォーカリスト、ジョン・レノンの真髄だ。歌詞もいかにもこの時期のジョンらしい思索的、暗示的なもので、この最後の最後まで飽きさせないところがビートルズの奥深さであり面白さだと思う。

The Beatles - Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise) (Mono)
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Revolver / The Beatles

2009-09-24 | The Beatles
 まだビートルズ・ド素人だった頃、私は彼らに関する膨大な情報を吸収しようと日々レコードを聴きまくり、それと同時に彼らについて書かれた様々な評論を読んで知識を増やそうと必死になっていた。もう学校の勉強なんてまったくせずに “寝ても覚めてもビートルズ”(←今と同じや... 全然進歩してへんやん!)だった。当時のアルバム評はどれもこれも判で押したように画一的で、この「リヴォルヴァー」の評価は “実験的なサウンドがいっぱいの野心作” “異次元の響きが感じられる問題作” ... 大体そんなところだったように思う。しかしビートルズに関して好奇心旺盛だった私は逆に “異次元” だとか “実験的” とかいう言葉に魅かれ、速攻でこのレコードを買いに走った。
 「リヴォルヴァー」を初めて聴いた時の衝撃は全ビートルズ・アルバム中、間違いなく№1だったと思う。少なくとも「サージェント・ペパーズ」や「アビー・ロード」よりは遙かにインパクト大だった。まずは何と言ってもA面1曲目の①「タックスマン」である。ギターの弦をいじっていると思しき音、誰かの咳払い... といったスタジオの雑音をバックに “ワン、トゥ、スリー、フォー、ワン、トゥ...” とカウントを取るジョージの声を何とイントロ代りに(←本当のカウントがちゃんと別に聞こえる)使っているのだ!これまで長いこと音楽を聴いてきたが、咳払いで始まるレコードなんてコレだけだ。そしてそれがまためちゃくちゃキマッててカッコエエのがビートルズの、そしてこのアルバムのマジックなのだ。この曲の聴き所はまだまだ一杯あって、まずはウィルソン首相やヒース首相が登場する歌詞がめっちゃシニカルで面白い。特に “車を運転したら道路に税金、座るのなら座席に税金、寒くなったら暖房に税金、歩こうものならアンタの足に税金だ!” のくだりが最高だ(^o^)丿 又、ポールの斬新なベース・ラインも素晴らしい。このベースは革新的ともいえるもので、洋の東西を問わずパクられまくっている。特に60年代後半から70年代前半にかけてのGSや歌謡曲にはよくこのベース・ラインが入っていて、テンプターズの「エメラルドの伝説」やフィンガー5の「恋のダイヤル6700」など、数え上げたらきりがないぐらいだ。題名は忘れたが、ミスチルの曲にも入ってたなぁ...(^.^) それと、間奏とエンディングで聴けるポールのキレたギター・ソロも圧巻だ。確か「アナザー・ガール」以来だと思うが、それにしてもこのポールの気合いの入りようはハンパではない。とにかくこの「タックスマン」、私はジョージの最高傑作だと思っている。
 このように強烈な①で始まる「リヴォルヴァー」だが、アルバム・ラストの⑭「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」はもっと凄い。イントロからシタールが鳴り響き、何種類もの録音テープをループにして逆回転させ例のカモメの鳴き声みたいなサウンドを作り、リンゴのバスドラも不気味に唸って不思議なグルーヴを生み出し、ジョンのヴォーカルもひしゃげたような感じに歪められて、そのすべてがサイケデリックな雰囲気を醸し出しているのだ。何でも “ダライ・ラマが山頂から歌っていて、そのバックで4000人の修行僧がコーラスしているような” サウンドをジョンが要求したらしい。歌詞もそれまでのポピュラー・ミュージックの世界では考えられないアヴァンギャルドなもので、ジョンはその思索的なメッセージをお経のような単調なメロディー(ワン・コードらしい...)に乗せて歌う。まさに孤高の天才、ジョン・レノンの才気迸るナンバーだと思う。尚、UKモノラルLPの 1st プレスはこの曲のミックス違い(雰囲気がちゃいます!)が収録された超稀少盤とのことで、この曲が大好きな私は前回のラウド・カット盤と同様に不退転の決意でスナイプし、 $113.50 でイタリア人のコレクターから手に入れた。日本国内で買うとこの何倍もするらしいので、eBay やっててホンマによかったと思った。
 ジョージの成長、ジョンのサイケなフィーリング、リンゴの絶妙なドラミングに加え、このアルバムのもう一つの特徴としてポールの充実ぶりが挙げられる。②「エリナー・リグビー」、⑤「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」、⑥「イエロー・サブマリン」、⑧「グッド・デイ・サンシャイン」、⑩「フォー・ノー・ワン」、⑬「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」と、すべて違ったタイプの曲で、そのどれもが傑作と言うから恐れ入る。特に②はもう絵に描いたような名曲で、“アー ルギャ オーダ ロンリ ピィポ~♪” とイントロなしでいきなりハイテンションなヴォーカルから入るビートルズお得意のパターンだ。しかもストリングス入りというと甘口のラヴ・ソングを予想してしまうが、いざ聴いてみるとアップテンポで疾走する辛口ストリングスがこの曲に更なる加速感を与え、2分4秒がアッという間に過ぎ去っていく。特に1分39秒からの “ハザマケンジ~♪” のバックのたたみかけるようなストリングス・アレンジは絶品で、この曲の持つ孤独感、せつなさを見事に表現している。⑤は赤盤に入っていなかったのでこの盤で初めて聴いたが、いやはや、もう参りましたというしかないぐらいの大名曲だ。こんな絶世の美曲を書けるのはこの地球上でポールをおいて他にいないだろう。しかも美しいのに甘くない... これはもう天才の仕事だ。⑥⑧⑩⑬もアレンジ、使用楽器、そしてその演奏法に至るまで徹底的に考え抜かれ、このアルバムにピタッとハマる名曲名演になっている。まさにポール全盛期の幕開けだ。
 そんなポールに対し、ジョンは③「アイム・オンリー・スリーピング」や⑦「シー・セッド・シー・セッド」といったサイケデリックな雰囲気の曲で対抗しており、歌詞、歌い方、演奏のどれを取ってもめっちゃリヴォッている。しかし私が大好きなのはストレートアヘッドな⑨「アンド・ユア・バード・キャン・シング」で、パワフルなツイン・リード・ギターが爆裂し、そこにポールの闊達なベースが絡んでいくという超カッコ良いロックンロールがたまらない。「アンソロジー2」の “笑い転げヴァージョン” も必聴だ。⑪「ドクター・ロバート」はクールでドライなリズム・ギターのカッコ良さにシビレまくった曲で、ポールが書いたミドルの “ウェル ウェル ウェル...♪” のパートがただでさえ素晴らしいこの曲の世界を更に広げているように思う。
 ジョージの④「ラヴ・トゥ・ユー」はシタールまみれで正直ツライもんがある。そもそもシタールなんてもんは「ノーウェジアン・ウッド」やストーンズの「ペイント・イット・ブラック」のようにスパイスとして使って初めて活きてくるのであって、インド音楽の楽器を西洋音楽のロックでいきなり全面フィーチャーしようなんて土台無理な話。まぁそれでも何とか聴けるものになっているというのが逆にビートルズの凄さなんだろうが、もろインド音楽はちょっと堪忍してほしい(>_<) それとは対照的にシタールのシの字もない⑫「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」はいかにもジョージらしい佳曲で、91年のクラプトン入り「ライヴ・イン・ジャパン」の1曲目でこの曲のイントロが聞こえてきた時はゾクゾクしたものだ。
 クオリティーの高い楽曲群に様々なアイデアが詰め込まれ、徹底的に作り込まれたこのアルバムは、ロック歴史において彼らが前人未到の新たな次元に突入したことを高らかに宣言した、エポックメイキングな大傑作だ。

Tomorrow Never Knows [Alternate Mono Mix]

Rubber Soul / The Beatles

2009-09-23 | The Beatles
 私のビートルズ入門は赤盤LPで、その後ディスコグラフィーを見ながら1枚ずつアルバムを買っていった話は前に書いた通りだが、この「ラバー・ソウル」からは6曲も(シングル曲を多く収録している関係で、他のアルバムからは平均2曲ずつぐらいしか入ってなかった...)入っていたので、このアルバムを買うのが後回しになり、そのせいか今でもオリジナル・アルバムの曲順よりも赤盤の「ノーウェア・マン」→「ミッシェル」→「イン・マイ・ライフ」→「ガール」という順番で聴く方がしっくりくる。困ったものだ(>_<)
 ご存知のように赤盤は彼らのデビューから66年の「リヴォルヴァー」までの前期の代表曲を時系列に沿ってまとめたものだが、エレキギター、ベース、ドラムスの組み合わせが生み出すギンギンのロックンロールしか知らなかった当時の中学生の耳に、赤盤D面の楽曲群は摩訶不思議な、得体の知れないサウンドとして響いた。まずは何と言っても④「ノーウェア・マン」の出だしの分厚いコーラスにビックリ(゜o゜) いきなり “ヒィザァリィウ~ ノォウェアマン シッティンインヒズ ノォウェアラン~♪” ときて左チャンネルからギターがスルスルと滑り込んでくる(←当時の日本盤LPは例の '65ステレオ・ミックスだった...)のである。 “何やコレ...???” それまでこんな強烈なイントロを聴いたことがなかった私は完全に圧倒されてしまった。 “何かようワカランけど、とにかくスゴイなぁ... (≧▽≦)” しかもジョンの一人三重唱に絡む “ア~ラァラァラァラァ~♪” というコーラスがこれまた絶妙で、私はいつの間にかこの曲に引き込まれていった。これに続くのが⑦「ミッシェル」で、中世ヨーロッパの舞踏会のテーマのような甘美で洗練されたサウンドと、左チャンネルから聞こえるコーラス・ハーモニーがこれまた印象的だった。リンゴのハイハット・プレイが見事な⑪「イン・マイ・ライフ」はいかにもジョンなメロディー横溢の大名曲で、特にジョージ・マーティンが弾く間奏のハープシコードみたいな音色のバロック風ピアノが曲想とベストのマッチングを見せ、この曲をより深いものにしていた。⑨「ガール」は曲調といい、ギターとブラッシュの醸し出すサウンドといい、ただでさえ哀愁舞い散る名曲名演なのに、それではまだ足らんとばかりに “スゥ~ッ” と息を吸う音を入れたり、サビの部分にアコギの音を模したような “テュッテュッテュッテュッ...♪” というコーラスを入れたりと、徹底的に作り込まれていた。C面ラスト2曲も「ラバー・ソウル」からのものだったが、とにかくこのD面4連発はまだド素人だった私の中に “ビートルズは凄いっ!!!” という強烈な想いを植え付けた。
 それから約30年が経ち、UKオリジナル盤LPの世界に足を突っ込んだ私は「ビートルズUKアナログ盤ガイドブック」という本を購入し、マトリクス・ナンバーetc の違いで初回盤を見分ける方法を研究したのだが、そこで指摘されていたのがこの「ラバー・ソウル」の通称 “ラウド・カット盤” と呼ばれるモノラル初回盤の存在である。マト枝番1のファースト・プレスは入力レベルが異常に高く、原盤カッティングの際のリミッターのかけ方も違うので、針飛びや歪みを起こしかねない分厚い音が入ってしまったとのこと。で、EMIのプレス工場からクレームがついて作り直したのがマト枝番2以降のプレスなのだが、回収が間に合わず初回出荷分のみこの “ラウド・カット盤” が出回ってしまったというのが事の真相らしい。大好きな「ラバー・ソウル」にそんな盤があるならぜひ聴いてみたいと考え、 eBayでチェックすると1枚だけ “VERY RARE UK ORIGINAL FIRST PRESS LP (“LOUD” CUT)” と引用符付きでリストアップされており、決死の覚悟で臨んだ私は早朝5時起きでスナイプを敢行、無事 $103.50でゲットした。 eBay は自動延長がないので一撃で勝負が決まり、追われる心配がないので気が楽だ(笑)
 届いた盤を例の音聴き会G3で早速試聴したのだが、①「ドライヴ・マイ・カー」のイントロでポールのベースが鳴り響いた瞬間、一同 “おぉ~” と思わず声が上がった。 “マッカートニー凄いなぁ!” と901さん。それはスピーカーの真ん前に座っておられたplincoさんが思わず身をのけぞらせるほどの物凄い音圧だった。それまであまり気にも留めていなかったポールのベースがブンブン唸りながら暴れ回るし、この盤の大きな特徴である “ドラムより目立つタンバリン” の音もリミッターで押さえた感じがしない生々しい音で、ほとんど歪む寸前だ。少々値は張ったが、これは良い買い物だった。尚、ビートルズ関係では他に「バンド・オン・ザ・ラン」の初回盤がラウド・カット仕様なので、興味のある方はどーぞ(^.^)
 ②「ノーウェジアン・ウッド」は “昔、女をひっかけた... いや、俺がひっかけられたのかな?” で始まり、 “かわいい小鳥は飛んで行ってしまった...” まで、ストーリーテラー、ジョンの面目躍如たる暗示的な歌詞とメロディアスな旋律を際立たせているのがシタールの独特な響きであり、そのツボを心得た使い方はもう見事という他ない。⑩「アイム・ルッキング・スルー・ユー」は「ザ・ナイト・ビフォア」や「アナザー・ガール」路線のキャッチーなナンバーで、キーボードとギターが生み出す “ギャンギャン!” というサウンドが良いアクセントになっている。大名曲というわけではないが、いかにもラバー・ソウルな作りの曲で、時々無性に聴きたくなる。要するにこの曲好きなんですわ(^o^)丿 好きと言えばB面ラストの⑭「ラン・フォー・ユア・ライフ」もめちゃくちゃ好きで、たとえ歌詞の一部がプレスリーの「ベイビー・レッツ・プレイ・ハウス」のパクリであろうが、作者のジョン自身が大嫌いな曲だと公言しようが、大好きなものは仕方がない。この疾走感、たまらんなぁ... (≧▽≦) 投げやりな感じで “ザッジ・エンダッ!” と語尾をスパッと断ち切るところやビートルズの専売特許 “ノノンノォ~♪” を全開にするところなんか最高だし、ラバー・ソウルなタンバリンも大活躍だ。
 ポールの③「ユー・ウォント・シー・ミー」、⑥「ザ・ワード」、⑫「ウエイト」といった曲はどれもビートルズとしては平均的な出来だと思う(←他のバンドなら立派なシングル候補かもしれないが...笑)が、タンバリン、キーボード、ハーモニウム、ギターのヴォリューム・ペダルといった様々な楽器を駆使して見事にラバー・ソウルな雰囲気を湛えた曲に仕上げているところが天才集団ビートルズの凄さだろう。
 このアルバムにジョージが提供した⑤「シンク・フォー・ユアセルフ」と⑬「イフ・アイ・ニーディッド・サムワン」の2曲では、昔から⑬の評価が高く逆に⑤はボロクソにけなされてばかりなのだが、私は初めて聴いた時から⑤の方が好きで、どことなく「ドント・バザー・ミー」の続編的な曲想も、ポールのファズ・ベースの暴れっぷりも言うことなしだ。因みに⑬はバーズの「ベルズ・オブ・リムニー」にインスパイアされてジョージが書いた曲で、そのあたりの聴き比べも結構面白いと思う。
 あくまでもポップでありながらサウンド的には凝りまくるという、明らかに新しい世界へと足を踏み入れたビートルズは、この後コンサート・ツアーを打ち切り、スタジオ・バンドへと加速的に変貌し、劇的な音楽的展開を見せるようになっていくのだが、そのきっかけとなったのがこのアルバムなのだ。

The Beatles Nowhere Man At budokan Japan 1966

Help ! / The Beatles

2009-09-22 | The Beatles
 ビートルズのアルバムは、彼ら自身の音楽的変化と連動するような形でそれぞれのアルバム毎に異なった色彩を帯びている。「プリーズ・プリーズ・ミー」と「ウィズ・ザ・ビートルズ」は荒削りなロックンロール、「ア・ハード・デイズ・ナイト」は躍動感溢れるキャッチーなポップス、「ビートルズ・フォー・セール」は渋く落ち着いたアコースティック・サウンド、というように、アルバム全体がそれぞれのトーンで統一されていた。そのように見てくると彼らの5作目に当たるこの「ヘルプ」は中々形容するのが難しい。カントリー・タッチの曲やソフトなロックが目立つということで前作の延長線上にあると言えなくもないが、それまでのアルバムが持っていたような統一感はあまり感じられない。むしろキャッチーなロックンロールあり、フォーク・ロックあり、カントリーあり、弦楽四重奏あり、古典的なロックンロール・カヴァーありと、ビートルズの多様な音楽性を一気に開陳したようなごった煮風の名曲名演集と言えるのではないだろうか。
 このアルバムに関しては、私はまず日本盤LP(当然ステレオ)で親しみ、その後初CD化された時もジョージ・マーティンによるステレオ・リマスターだったので、ステレオ・ミックスのサウンドしか知らずに30年間過ごしてきた。というか、まさかモノラルとステレオでミックス違いがある、それもパッと聞いて誰にでも分かるほどの違いがあるなんて夢にも思っていなかったので、5年前に初めてUKオリジナルのモノラル盤(19ポンドと前期の盤では最安値でした...)を聴いた時は一瞬 “何コレ?俺の知ってる「ヘルプ」と違うやん???” とビックリしてしまった(゜o゜)  まず①「ヘルプ」ではミックスがどうこういう以前にジョンのヴォーカルがモノラルとステレオではまったくの別テイクだったし、②「ザ・ナイト・ビフォア」に至っては、モノラル・ミックスではポールのヴォーカルにほとんどエコーがかかっていないのでまるで目の前で歌っているようなリアリティーが感じられるのに対し、87年CDのジョージ・マーティンによるステレオ・ミックスではヴォーカルに大量のエコーがかけられていて全く違って聞こえるのだ。例えて言うなら “すっぴん美人”のモノラル vs “お化粧美人”のステレオ、といった感じか。因みに私は断然 “すっぴん美人” 派です(^o^)丿 又、今回のリマスターではモノCDのボーナス・トラックとして65年のステレオ・ミックスが入っていたのでついでに聴き比べてみたが、 1st や 2nd アルバムの左右泣き別れ・カラオケ・ミックス(笑)とは又違った中抜け・スカスカ・ミックスだった(>_<)
 このアルバムはA面が映画に使われた曲、B面がそれ以外の新曲を集めたものだが、そのせいかA面の方が派手な印象を受ける。①「ヘルプ」は初めて赤盤で聴いて衝撃を受けて以来の超愛聴曲で、情感豊かなジョンのヴォーカルにポールとジョージの絶妙なバック・コーラスがくんずほぐれつ絡み合いながら疾走していく様は、これぞ3分間ポップスの最高峰!と言いたくなるようなカッコ良さだ。②「ザ・ナイト・ビフォア」と⑤「アナザー・ガール」は似たような雰囲気を持った曲で、どちらもシンプル&ストレートでメロディアスなロックンロール。②は大平原で戦車に囲まれて4人が演奏するシーン(エンディングで爆弾が爆発するんよね...)が、⑤は海岸で戯れながら演奏する4人の姿(確かポールが女の子をベースに見立てて弾いてた...)がそれぞれ目に浮かぶ。しかし映像のインパクトでいえば断然⑦「ティケット・トゥ・ライド」だろう。この曲のシーンではアルプスの雪山で戯れる4人の姿が実に生き生きと描かれており、その映像がまた音楽と見事にマッチしていて、80年代に全盛を迎えるプロモーション・ビデオを先取りしたような素晴らしい映像に仕上がっている。特に4人が手をつないで雪の上にバタンと倒れるシーンや音楽に合わせて電線に音符が付いていくシーン(←このアイデア凄い!)が大好きだ。③「ユーヴ・ガッタ・ハイド・ユア・ラヴ・アウェイ」の、部屋の中でソファーに腰掛けて演奏するシーンでは無表情でタンバリンを打ち鳴らすリンゴやいきなりフルート・ソロに入るオッサン(←誰?)がエエ味出してるし、⑥「ユア・ゴナ・ルーズ・ザット・ガール」のレコーディングのシーンではタバコの煙を小道具として使って(?)光線の当たり具合でクールな雰囲気を巧く演出していたのが印象的だった。
 このアルバムには④「アイ・ニード・ユー」と⑩「ユー・ライク・ミー・トゥー・マッチ」という、ジョージの作品が2曲も入っているが、④はヴォリューム・ペダルを駆使したジョージの揺れるようなギター・リフがこの曲のキャッチーなメロディーを引き立てており、その何とも言えない素朴な味わいが大好きだし、⑩はメロディーは単調ながら次作「ラバー・ソウル」で全開になる “ドラムよりも目立つタンバリン” やジョンの弾くエレクトリック・ピアノがサウンドに絶妙な色づけをするなど、飽きさせない作りはさすがと唸らせるものがある。更に単調な⑪「テル・ミー・ホワット・ユー・シー」にも⑩と同じことが言えるだろう。⑧「アクト・ナチュラリー」は日本盤シングル「イエスタデイ」の裏面(←というか、正式には「アクト・ナチュラリー」がA面で、「イエスタデイ」はB面扱いになってた!)に入っていた曲で、カントリー&ウエスタン調のロカビリーは私には軽すぎていまいちピンとこなかった。リンゴの唄も悪くはないけど正直言って1曲で十分だ。⑨「イッツ・オンリー・ラヴ」は当時のジョンにしては珍しい甘口のラヴ・ソングだが、そのせいかジョン自身は “嫌いな曲” に挙げている。因みに昔流行った雅夢というフォーク・デュオの「愛はかげろう」という曲のサビのメロディーがこの曲そのまんまだったのを今でもよく覚えている。
 このようにB面前半の4曲は地味だったり単調だったりでいまいちパッとしないのだが後半に入って空気がガラッと変わる。まずは⑫「アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス」の目も眩むような疾走感(≧▽≦) アコギのカッコ良さをこれほど見事に体現した曲を私は他に知らない。ウイングスのUSA ライヴ・ヴァージョンも必聴だ。⑬「イエスタデイ」はもう何も言うことがない絶世の大名曲。弦楽四重奏付きのコレも悪くはないのだが、私は “Next song we’d like to do is from ah, Help LP, LP... and it’s called, y, yesterday.” というジョージの舌っ足らずな曲紹介付き6/30日本公演ヴァージョンのシンプルな演奏により愛着を覚えてしまう。ラリー・ウイリアムスのカヴァー⑭「ディジー・ミス・リジー」は初期の彼らが得意としていた火の出るようなロックンロールで私も大好きなのだが、このアルバムの中で聴くと何故か浮いて聞こえてしまう。「ラバー・ソウル」前夜の胎動を感じさせる他の曲に比べると、いささかオールドファッションなのだ。1年前ならしっくりきただろう。しかしビートルズは立ち止まってはいなかった。私には彼らの進化スピードの凄まじさをこの曲が逆説的に証明しているように思えてならない。

The Beatles - Help! - "Ticket To Ride" Vid #13 Restored


The Beatles Live In Japan- Yesterday
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Beatles For Sale

2009-09-21 | The Beatles
 1964年はビートルズにとってアメリカを、そして世界を完全制覇した画期的な1年だった。「抱きしめたい」→「シー・ラヴズ・ユー」→「キャント・バイ・ミー・ラヴ」の3枚のシングルが連続して全米№1を14週に渡って爆走するわ、4/4付の全米チャートでは1位から5位までを独占するという空前絶後の大記録を打ち立てるわ、エド・サリヴァン・ショーに出演して72%という驚異の視聴率を叩き出すわ、テレビ出演やコンサート・ツアーを続けながら「ア・ハード・デイズ・ナイト」で映画にも出演するわ(しかも全曲傑作オリジナルでビシッとキメたサントラ盤まで作ってしまった!)で、もうどぉにも止まらない山本リンダ状態だった(≧▽≦) これに味をしめたレコード会社は、金の卵を産むニワトリであるビートルズに “もっと産め!” 、つまりその年のクリスマス商戦用のニュー・アルバムを作れという。いくら何でもムチャクチャである。しかしビートルズは殺人的なスケジュールの合い間を縫ってレコーディングを敢行、見事クリスマス・シーズンに間に合わせて完成させてしまったのだ。それが4枚目のアルバム「ビートルズ・フォー・セール」である。
 まずはジャケットに注目。そこに居並ぶ4人の表情にはさすがに疲れの色が見てとれ、目はうつろ状態で、 “ビートルズ売り出し中” とは言い得て妙というか実に皮肉なタイトルだ。中身の音楽の方も全14曲中オリジナルはわずか8曲で、アルバム全体のトーンとしてはジャケットの倦怠ムードを反映し、カラフルな前作「ア・ハード・デイズ・ナイト」でのワクワクドキドキするような躍動感や陽気でキャッチーなメロディーは影を潜め、ダーク・トーンというか、渋いというか、ドライというか、一見地味になったように見えるのだが、次段階への重要なステップとして不可欠なアルバムだと思う。アコースティック色が強いから言うのではないが、ちょうどゼッペリンのⅢみたいな位置づけだろう。因みに私のUK黄パロ盤は31ポンド、何故か中々キレイな盤が出てこずに手こずった1枚で、モノ・リマスターCDでは折り込み式のゲートフォールド・ジャケットを見事に再現している(←出し入れしにくいけど...)。
 ビートルズのアルバムの大きな特徴として、A面1曲目の出だしでいきなり聴き手をKOしてしまう傾向があることに最近気付いた(←遅っ!)。「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」、「イット・ウォント・ビー・ロング」、「ア・ハード・デイズ・ナイト」、「ヘルプ」、「ドライヴ・マイ・カー」、「タックスマン」、「SGT ペパーズ」、「バック・イン・ザ・USSR」、そして「カム・トゥゲザー」... どれもこれもいきなりガツン!!! とくる曲ばかり(アルバム「レット・イット・ビー」はフィル・スペクターがやったから「トゥ・オブ・アス」なんやろな...)である。そんなビートルズ鉄の掟(?)に従って1曲目に抜擢されたのがジョンの①「ノー・リプライ」である。レコードに針を落とす(或いはCDプレイヤーのボタンを押す)と、静寂を破っていきなりスピーカーから迸り出る “ディサプン ワンスビフォ~♪” というジョンの歌声で全身に電流が走る。この快感こそがビートルズを聴く醍醐味ではないか。そして不思議なことにこの電気ショック的快感は何百回何千回聴いても色褪せない。それこそがビートルズ・マジックなのだ。そういえばスターズ・オン45 のビートルズ・メドレーの出だしもこの曲だった。さすが、わかってるなぁ...(^.^)
 ジョンが “俺は負け犬” と歌う②「アイム・ア・ルーザー」はこのアルバムの大きな特徴の一つであるカール・パーキンス路線の土の薫りのするサウンドに軽~くボブ・ディラン風ハーモニカをまぶしたナンバーで、感情を抑制するというよりは消去したかのようなジョンのクールなヴォーカルはそれまでに聞かれなかったものだ。③「ベイビーズ・イン・ブラック」を聴くとどうしても日本公演で1本のマイクを2人で仲良く分けあいながらハモッていたジョンとポールの姿が思い浮かぶ。そういう意味では⑥「ミスター・ムーンライト」も同じで、テレビの日本公演特番の羽田から都内へ向かうビートルズの車の映像のバックで、先導するパトカーのサイレン音がフッと途切れて一瞬無音状態になった後、静寂を破るように響き渡った「ミスタァ~ァァ、ムゥンラァァイ!」っていう雄叫び(←2分24秒のところ... 鳥肌モンです!)にブッ飛んだのが忘れられない。④「ロックンロール・ミュージック」は確かこのアルバムを買う前に既にシングル盤を買っていて聴き狂った記憶があるキラー・チューンで、ジョンの息もつかせぬヴォーカルの何とカッコ良いことか!!! ジョージ・マーティンのピアノもノリノリで、この疾走感溢れるカヴァーはチャック・ベリーのオリジナルを軽く超えていると思う。
 このように①②③④⑥と、A面7曲中5曲をジョンが歌っており、残る2曲がポールの⑤「アイル・フォロー・ザ・サン」と⑦「カンザス・シティ~ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ」である。⑤はポールが10代の頃に作ったフォーキーな曲で、その後の彼のアコースティック・バラッド路線を予感させる佳曲だし、リトル・リチャードの名曲をメドレーでカヴァーした⑦では喉も張り裂けんばかりに絶叫するポールに彼のロックンローラーとしての真骨頂を見る思いがする。特に後半部分でポールvsジョン&ジョージが展開する狂乱のコール&レスポンスが圧巻だ。
 B面はA面に比べるとどうしても地味な印象があるが、それでも⑧「エイト・デイズ・ア・ウイーク」1曲のインパクトは何物にも代えがたい。フェード・インで始まるイントロやお約束のハンド・クラッピングがシャッフル・リズムをベースにしたこの小気味良いロックンロールの魅力を倍増させている。「アンソロジー1」で彼らが様々な試行錯誤を重ねてこの曲を作り上げていくプロセスが聴けたのは実に興味深くスリリングだった(^o^)丿 日本盤シングル「ロックンロール・ミュージック」のB面に入っていた⑪「エヴリ・リトル・シング」はあまり目立たないが聴けば聴くほどハマッてしまうスルメ・チューンで、リンゴのティンパニが曲をキリリと引き締めるスパイス的な役割を果たしている。残りの曲は他の曲に比べると私的にはインパクトがやや弱いように感じていたが、リミックス・アルバム「ラヴ」での⑬「ホワット・ユーアー・ドゥーイング」の絶妙な使われ方を聴いてこの曲を見直してしまった。
 一般的にビートルズがポップ・アイドルからロック・アーティストへと変貌し始めたのは「ラバー・ソウル」からだと言われるが、アコギを多用して単なるロックンロールではない新たなサウンドを模索し始めたこのアルバムに、そのあたりの伏線があるように思う。

The Beatles - Rock and Roll Music
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A Hard Day's Night / The Beatles

2009-09-20 | The Beatles
 今日はビートルズ3枚目のアルバムにして彼ら初のサントラ盤の「ア・ハード・デイズ・ナイト」である。80年代以降にこのアルバムを買われた方はまず、 “何このジャケット?” と思われるかもしれないが、これは我が家の初代「ア・ハード・デイズ・ナイト」、つまり私が中学生の時に買った日本盤LPのジャケットなんである。当時の私は初めて買ったビートルズの赤盤LPに付いていたディスコグラフィーをまるでバイブルのように信奉し、同じようなジャケットなのに日英米で収録曲の違う何枚かの盤(「ミート・ザ・ビートルズ」や「ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム」、「ザ・ビートルズ№5」etc...)に戸惑いながらも、なけなしの小遣いを貯めて1枚、また1枚と買っていったものだったが、そんな中でひときわカッコ良いジャケットが気に入って買った盤がこの「ア・ハード・デイズ・ナイト」だった。中身の方もキラキラと輝くような躍動感溢れるサウンドが満載で、来る日も来る日もこのジャケットを見ながら “ジャーン!!! イッツビナ ハァ~ デイズ ナァイ~♪” を聴いてコーフンしていた。まだまだビートルズに関してド素人だったその当時の私は、まさかそれが日本のレコード会社が勝手に作ったものだとは知る由もなく、その後アルバム・ジャケットがUKオリジナル盤に戻された時、ものすごい違和感を感じたものだった。それはもうデザインの良し悪しの問題でも好き嫌いの問題でもなく、私の頭の中で「ア・ハード・デイズ・ナイト」の全13曲とこの日本盤ジャケットとが密接に結びついており、言ってみれば既に “刷り込み” が完了してしまっていた。だからこの歳になった今でも「ア・ハード・デイズ・ナイト」といえばこのジャケットなのであり、いくらUKオリジ盤(43ポンドだった...)やリマスターCD(ステレオではこのアルバムから極端な左右泣き別れ感が徐々に解消されつつあります...)の音が良くってもこればっかりはどうしようもない(>_<)
 このアルバムを聴いてまず感じるのは、前作「ウィズ・ザ・ビートルズ」で究極のガレージ・サウンドを聴かせた彼らが全曲オリジナル、それも珠玉の名曲ばかりという強力なアルバムを引っさげて前人未到の領域へと第一歩を踏み出したということ。それまで地球上のどこにも存在していなかったようなキャッチーでポップな旋律のアメアラレ攻撃に、ジョージの12弦エレクトリック・ギターの煌びやかなサウンドが華を添え、そこに映画の映像との相乗効果も加わって、まさに鬼に金棒、フェラーリにシューマッハ状態なのだ。それともう一つ忘れてならないのが13曲中10曲がジョンの曲で占められているということ。一気通聴してみるとアルバム全体が完全にジョン色に染め上げられている。つまりこれはジョン・レノンという不世出の天才が作り上げた入魂の大傑作アルバムなのだ。
 このアルバム最大の聴き所は何と言ってもA面冒頭①「ア・ハード・デイズ・ナイト」の “ジャーン!!!” であり、B面冒頭⑧「エニー・タイム・アット・オール」のリンゴの一打 “バン!!!” に続くジョンの “エニタイ マトォ~♪”だと思う。特に超ハイ・テンションで疾走する⑧の狂おしいまでのジョンのヴォーカルは圧巻の一言!本気を出した天才ヴォーカリストの凄味が存分に味わえる1曲だ。尚、1980年代の一時期、関西ローカルで放送されていた人気番組「突然ガバチョ!」のオープニング・テーマ曲として①の手拍子入りリミックス(←今から考えるとよぉ許可下りたなぁ...)がお茶の間に流れてきた時はホンマにビックリした(゜o゜)
 ②「アイ・シュッド・ハヴ・ノウン・ベター」を聴くと私は必ず映画のシーンが思い浮かぶ。列車の客室でトランプに興じ、何故か檻の中で演奏する4人(特に女の子が格子の向こうから演奏中のリンゴに触ろうとする時の手の動きにはワロタ!)が実に生き生きしててカッコエエのだ。④「アイム・ハッピー・ジャスト・トゥ・ダンス・ウィズ・ユー」ではジョージのセピア色ヴォーカルとジョンの至芸ともいえるリズム・カッティングが絶妙なコンビネーションで心にグイグイ食い込んでくるし、⑥「テル・ミー・ホワイ」はオーヴァーダブによるジョンの一人多重唱によって、ただでさえ元気印のこの曲に更なるターボ・ブーストがかかり、凄まじいまでの加速感を生み出している。⑦「キャント・バイ・ミー・ラヴ」は4人が非常階段を駆け下り、屋外ではしゃぎまくるシーンにピッタリのロックンロールで、イントロなしでいきなりヴォーカルから入るというビートルズのお家芸が炸裂するカッコイイ疾走系ナンバーだ。
 そんなキャッチーでパワフルなロックンロール満載のA面にあってキラリと光る至高のバラッド2曲が③「イフ・アイ・フェル」と⑤「アンド・アイ・ラヴ・ハー」だ。③で聴けるジョンとポールのハーモニーはビートルズがただのロックンロール・バンドではないことを満天下に知らしめる素晴らしさだし、⑤のアコギが支配するサウンドにボンゴを組み合わせ、ラテン風アレンジで処理したポールの音楽的センスはもう凄いとしか言いようがない。まさに天才の仕事だと思う。
 B面は先述の⑧に始まり、一気呵成にたたみかける⑨「アイル・クライ・インステッド」、“ウォウオ ハァ~♪” と叫びまくる⑪「ホェン・アイ・ゲット・ホーム」、初期ビートルズのカッコ良さをギュッと凝縮したような⑫「ユー・キャント・ドゥー・ザット」、華やかな宴の余韻をドライなヴォーカルで絶妙に表現してアルバムのエンディングをビシッとキメた⑬「アイル・ビー・バック」と、もうジョン・レノン大爆発だ。又、そんなB面の中にあって⑩「シングス・ウィー・セッド・トゥデイ」というこれまた屈指の名曲1曲で存在感を示すポールも凄い。このような天才2人を擁したビートルズがポピュラー・ミュージックの歴史を完全に変えてしまったのも当然と言えば当然だろう。
 ここ何年間か、長尺で薄味の曲を70分近くダラダラと垂れ流して反省のかけらもないCDがめったやたらと多い。このアルバムは全13曲でわずか30分強と、すべて3分以内の曲で埋め尽くされている。音楽は濃い内容を短くキメるべし、という最高のお手本だと思う。

A Hard Days Night Trailer

With The Beatles

2009-09-19 | The Beatles
 この「ウィズ・ザ・ビートルズ」はビートルズの全アルバム中最もロックンロール色の濃いアルバムである。私は「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」、「レット・イット・ビー」といった有名曲からではなく、躍動感に溢れる初期の楽曲群から彼らに入門していったので、ビートルズ愛の原点はあくまでもアップテンポでノリノリのロックンロール・サウンドにあり、そういう意味でもこのアルバムへの愛着はハンパではない。当時中学生だった私はお金がないこともあって「ツイスト・アンド・シャウト / ロール・オーヴァー・ベートーベン」や「プリーズ・ミスター・ポストマン / マネー」といったシングル盤をパラパラと買っていたのだが、どの曲もあまりにもカッコ良かったので、 “これはやっぱりLP買わなアカン!” と思い、数少ない小遣いをせっせと貯めて買ったのが収録曲が同じで曲順が違う「ステレオ!これがビートルズ Vol.2」という日本盤LPだった。その後は昨日の「プリーズ・プリーズ・ミー」と同様にUKジャケ仕様の日本盤LP、87年旧規格CDへと進化(?)していき、2004年に私が “UKオリジナル盤の世界” という名の魔界に落ちたことは昨日書いたが、そのきっかけとなったアルバムが実はこの「ウィズ・ザ・ビートルズ」だったのだ。
 我が家で毎月開催している音聴き会G3の話はこれまで何度か書いてきたが、その年の2月定例会の場で、それまでジャズの話しかしていなかった901師匠が唐突に “今 eBayでビートルズの黄パロをウォッチしてんねん(^.^)” と仰ったのだ。この方は過去にもフランス・ギャルやスプートニクスを聴かせて下さって “イエイエ・パラダイス” や “テケテケ・ワールド” といった小魔界へと私を誘って下さった大恩人なのだが、今回はパーロフォンという大魔界(笑)。私も私でそれを聞いて “ビートルズのオリジナル盤かぁ... どんな音するんか興味あるなぁ(^.^)” と思い、会が終わって早速 eBayでチェック、盤質の良さそうな「ウィズ・ザ・ビートルズ」に試しにビッドしてみると偶然落札できてしまったのだ。しかも額は22ポンド... めちゃくちゃ安いっ!!! 送料込みでも約4000円である。10日ほど経って届いたアルバムは奇跡的なくらいにピッカピカで、ほとんどノイズレス!何よりも冒頭の①「イット・ウォント・ビー・ロング」のジョンの第1声 “イウォンビロン イェ~♪” のあまりの凄まじさにブッ飛んでしまった。巨大な音の塊りが押し寄せてくるその様はまるでラオウの天将奔烈、北斗剛掌波の直撃を食らったようなモンで、私のそれまでのリスニング人生において経験したことのない衝撃だった。とにかく音が “強い” のだ。 “良い音” という表現はよく聞くが、こんなに芯の強い音はちょっと記憶にない。目を閉じると眼前でビートルズが歌っているような錯覚に陥るほどの生々しさだ。 “いくらオトが良くなっても音楽自体が変わるワケじゃなし...” と言う人もいるが、ビートルズであれ何であれ、良い音で聴けば良い音楽がますます素晴しく聞こえると私は思う。
 イントロのジョージのギターがまるで鋭利な刃物のように耳に突き刺さる⑧「ロール・オーヴァー・ベートーベン」も強烈だ。お約束のハンド・クラッピングもパワーアップしたかのようで音楽のドライヴ感が増しているし、それまでCDや日本盤LPで聴いてちょっとぎこちないなぁと思っていたジョージのヴォーカルもまるでユンケルでも飲んできたかのように力が漲っている。
 ⑦「プリーズ・ミスター・ポストマン」は音が中域にダンゴ状に固まってスピーカーから飛び出してくるという、いかにもモノラルらしいサウンドがコーフンを呼ぶ。このマーヴェレッツのヒット曲はカーペンターズとビートルズのカヴァー・ヴァージョンが双璧だと思うが、洗練された聴き易いポップスの極みといえるカーペンターズに対し、粗削りだが理屈抜きにビンビン心に訴えかけてくるビートルズと言ったところか。何にせよ彼らがカヴァーしたおかげで、この曲は単なるモータウンの古いヒット・ソングから、誰もが知ってるポップス・スタンダードへと昇格したのだ。
 ⑭「マネー」はジョージ・マーティンの弾くピアノの低音の押し出し感がたまらない野性味溢れるロックンロールで、私は何よりもロック・ヴォーカリストとしてのジョン・レノンの凄さをこの曲で実感させられた。バレット・ストロングが歌った原曲と聴き比べれば一聴瞭然、ジョンのあの翳りのある太いシャウト・ヴォイスが曲に新たな生命を吹き込み、強烈にグルーヴさせている。そしてトドメとばかりに放った一撃 “オーイェー アイ・ワナ・ビー・フリー!!!” (←ジョンの即興らしい...)でこの曲は完全にジョン・レノンのものになったのだ。メル・テイラーみたいなグルーヴを生み出すリンゴのドラムスにも注目だ。
 アルバムはAB面共にトップとラストに火の出るような激しいロックンロールを配し、その合い間にミディアムやスロー・テンポのヴァラエティー豊かな曲を巧く並べてあるので、一気通聴してみて非常に快適だ。中でも印象的なのが②「オール・アイヴ・ゴット・トゥ・ドゥ」や⑬「ノット・ア・セカンド・タイム」といったジョンが歌うミディアム・スローのナンバーで、初期ビートルズの裏ベスト盤を作るなら真っ先に候補に挙げたい名曲名唱だ。ノリノリの⑤「リトル・チャイルド」におけるハーモニカやピアノの使い方は彼らの音楽性の高さを示しているし、⑫「デヴィル・イン・ハー・ハート」におけるジョージのヴォーカルとジョンとポールのバック・コーラスが織りなす絶妙なハーモニーも言葉では言い表せない素晴らしさ。「蜜の味」に続くポールのスタンダード・ナンバー・シリーズ⑥「ティル・ゼア・ワズ・ユー」はポールの歌い手としての実力を知らしめる名唱で、いかにもペギー・リー好きのポールらしい選曲だと思う。③「オール・マイ・ラヴィング」は私が初めてビートルズを赤盤で聴いた時に最もインパクトがあった曲で、ジョンのリズムギター三連符とポールなメロディーは正直言ってカルチャー・ショックに近いモノがあり、私が彼らに生涯の音楽を感じるきっかけとなった運命的なナンバーだ。
 とまぁこのように、このアルバムはビートルズ入門当初からの溺愛盤であり、21世紀に入ってからは魔界入り第1号(笑)として私のリスニング人生を大きく変えた1枚なのだ。これに味をしめた私はそれ以降ビートルズ・UKオリジ盤の深遠なる世界にハマッていった。

The Beatles It Won't Be Long (Promo HQ)
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Please Please Me / The Beatles

2009-09-18 | The Beatles
 9月前半はリマスター・ボックスが届くのを楽しみにしながら “勝手にポール祭り” で盛り上がらしてもらったので、9月後半は “一人ビートルズ・マラソン” と題して1日1枚ずつ好き放題に書いていきたいと思う。とは言っても私はマニアでもコレクターでもなく無責任が取り柄の一ファンにすぎないので、録音データがスベッただの、テイク違いがコロンだだのという小難しい話には興味がない。その辺はレココレ誌にお任せするとして、レコードの思い出とか、この曲のここが好っきやわぁ~とかいったミーハー丸出しのタワゴトの類を書き綴っていきたい。
 とゆーことで、第1日目はデビュー・アルバムの「プリーズ・プリーズ・ミー」である。初めて買ったのは別ジャケ同内容(曲順は違ったけど...)の「ステレオ!これがビートルズ Vol. 1」という日本盤LPで、その後UKジャケ仕様の日本盤LP、87年旧規格CDときて、それがそのまま私のリファレンスになっていた。そしてついに忘れもしない2004年2月、禁断のUKオリジナル盤の魔界に足を踏み入れ、当時ドップリとハマッていた eBay でまずは 2nd プレスであるイエロー・パーロフォン盤、通称黄パロを 21ポンドでゲット、その音のあまりの凄さに “CDなんか話にならへんな。やっぱりビートルズはUKモノに限るわ(≧▽≦)” と悦に入っていた。すると G3 の音楽仲間である plinco師匠や 901師匠から “この際やから金パロもいってみたら?” という悪魔の囁きが...(゜o゜)  金パロとはゴールド・パーロフォン、つまりこのレコードの 1st プレス盤のことで、相場は当時のレートでモノが500ポンド、ステレオに至っては2,600ポンドというから恐ろしい。そもそもUKオリジ盤というのはビートルマニア最後の秘境であり、一度その世界に足を踏み入れた者は生涯UKオリジ盤地獄から抜け出せないと言われている。その中でも難攻不落の砦として知られているのが金パロなのだ。 “そんなん無理に決まってますやん!桁が2つ違いますやろ(>_<)” と即座に否定しながらも、ひそかにネットオークションでチェックし始めるお調子者が私という人間なんである。で、それから1カ月、ついにヤフオクで盤質極上の金パロ・モノラル盤を発見!私は不退転の決意で臨むことにした。締め切り10分前に plincoさんから激励の電話(笑)があり、結局そのまま落札まで電話でライブ中継(←アホや)することに。私は77,000円を入れてトップだったが、2位のビッダーに猛烈に追い上げられ、画面の価格が数千円ずつハネ上がっていく。 “アカン!ヤバイ!やられる!助けてぇ~ (>_<)” と実況ならぬ絶叫する私。で、次の一撃で抜かれる、と覚悟を決めた瞬間、相手の攻撃がピタリと止んだ。敵はついに諦めたのだ。「終了」の文字を見て放心状態だった私は “shiotch7さん、大丈夫?おめでとう!!!” という plincoさんの言葉で我に帰り、“ありがとうございます...” と言うのが精一杯。 “声枯れてるで!” と plincoさんに大笑いされてしまった。結局、落札価格は76,600円... その後しばらくネットオークションを断ち、3回払いの分割で支払った。
 届いた盤はズッシリ重く、憧れのゴールド・パーロフォン・レーベルには風格すら感じられる。早速針を落とすと例の “ワン、ツー、スリー、ファッ!!!” から凄まじい音圧で弾けんばかりに若きビートルズの演奏が爆裂する。私はこの①「アイ・ソー・ハースタンディング・ゼア」のグイグイ前に進むようなドライヴ感が大好きで、これまで数え切れないくらい聴いてきたが、こんな衝撃は初めてだ。ハンド・クラッピングも切れ味抜群だし、何よりも音の塊がスピーカーからガンガン飛び出してくる。これこそまさにロックンロールの原点だ!!!
 ⑥「アスク・ミー・ホワイ」や⑨「P.S. アイ・ラヴ・ユー」といったレノン・マッカートニーの初期名曲群もそれまでのCDではノッペリしていた音像が眼前に屹立し、曲の良さを更に引き立てているし、⑦「プリーズ・プリーズ・ミー」ではジョンの “カモン!カモン!” の押し出し感がハンパではない。ターボ・ブーストが効いて一気に加速していくような快感が味わえる、初期ビートルズ屈指の大名曲だ。⑦の双子曲⑬「ゼアズ・ア・プレイス」も日本盤LPやCDでは味わえない生々しい歌と演奏が楽しめるし、初期ビートルズの代名詞とでも言うべき⑭「ツイスト・アンド・シャウト」の圧倒的なエネルギーの奔流に身を任せる快感はとても言葉では言い表せない。
 今回購入したモノ・リマスター盤CDではアンプの目盛りを5分ほど上げればかなりオリジ盤に近いパワフルでプリミティヴなサウンドが楽しめる。コスト・パフォーマンスの面から考えればこのモノ・ボックスはほとんど史上最強だろう。又、⑪「ドゥー・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」でリンゴが拍子木のように打ち鳴らすスティックの音や⑫「ア・テイスト・オブ・ハニー」でのケバ立つようなブラッシュの音が実にクリアに聴き取れたのにも感心してしまった。
 このように様々な「プリーズ・プリーズ・ミー」が散乱する我が家だが、音質面の差を車に例えるなら、金パロLP=フェラーリ、黄パロLP=ポルシェ、モノ・リマスターCD=ホンダ・NSX、旧CD=トヨタ・カローラ、日本盤LP=軽トラック、といった感じだ。私としては日常の下駄代わりにNSX・モノCDを楽しみ、ここぞという時にはフェラーリ・金パロLPでビシッとキメたいと思う。(←何のこっちゃ)

The Beatles Please Please Me Black Gold Parlophone Vinyl record 1st UK pressing


The Beatles - Please Please Me Stereo GOLD LABEL LP -- I Saw Her Standing There, Misery & Anna
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ビートルズのボックス・セットがやって来た (^o^)丿

2009-09-17 | The Beatles
 「ザ・ビートルズ・リマスター・ボックス」発売から1週間が過ぎた。世間では結構盛り上がっているようで、発売日の9月9日深夜に行列が出来ただとか、モノ・ボックスが早くも完売しそうだとか(←既に完売してアマゾンで5万円の値がついてます)、ポールがインタビューで “スマートだとか、洗練されたとか、そんなのじゃない。リアルなんだ。ボクらが作っていた音そのものだね。” と言っただとか、そんなファン心理を煽りまくるニュースを尻目にHMVの注文状況を1時間おきにチェックし(笑)、 “何でいつまでも出荷準備中やねん!” とイライラしながら悶々と過ごしていたのだが、ようやくステレオ・ボックスが9月10日に、モノ・ボックスが翌11日に届いた。出荷作業はとろかったけど、まぁ安う買えたからエエか。それにしても両ボックスとも輸入盤やのに何でシュリンクに日本語のステッカーが貼ってあるんやろ?(笑)
 まずはステレオ・ボックスだが、最初この黒い縦長の箱をどう開けていいかわからずあたふたしてしまった(>_<)←アホ で、パカッと開けるとCD14枚とオマケDVD1枚が上下2段に分かれて入っている。CDはエコ・デジパック仕様とかいう三つ折りゲートフォールド形式の分厚い紙ジャケに入っており、「ホワイト・アルバム」のDisc-1 が出し入れしにくい以外は文句なし。CDレーベルも「プリーズ・プリーズ・ミー」は金パロ・ステレオ(!!!)、「ウィズ・ザ・ビートルズ」から「サージェント・ペパーズ」までが黄パロ、「ホワイト・アルバム」以降の盤がアップルと、細部にまで拘っている。
 で、肝心の音の方だが、まだ時間をかけてじっくりと旧CDと全曲比較試聴してはいないけれど、明らかに音質は向上している。旧CDは「フォー・セール」までがモノラルだったので、同じステレオの「ヘルプ」以降で何曲か比べてみたが、音圧が上がったおかげで演奏の迫力が増したし、各楽器の輪郭がクッキリしてリアリティもアップ(特にポールのベース・ライン!)、過去のステレオ・ミックスで目立った過度なエコー処理もなく、今まで埋もれがちだった音もハッキリ聞こえるし、リマスター・チームはかなりエエ仕事をしたと言えるのではないか。第一印象では特に「フォー・セール」、「リヴォルヴァー」、「ホワイト・アルバム」あたりが印象に残った。これで20,980円、つまり1枚当たり約1,500円なら言うことなしだ。因みにオマケDVD(49分)は先日NHKで放送された「よみがえるビートルズ」とほぼ同内容なので、録画された方は字幕なし(英語字幕はアリ)の輸入盤で大正解だ。アホくそうて2,600円の日本盤なんか買えるか!
 次にモノラル・ボックスだが、こちらはステレオ・ボックスの半分の大きさの白い箱に CD 11枚と分厚い解説冊子(もちろん英語)1冊が入っている。CDはステレオとは違い、薄っぺらい普通の紙ジャケで、各アルバムごとにUKオリジナル盤を細部まで拘って再現してある。例えば「フォー・セール」では変形ゲートフォールド(←これがまた出し入れしにくい!)になっているし、「サージェント・ペパーズ」にはご丁寧にペッパー軍曹のカットアウト・シートや紅白サイケ・インナー・スリーヴ(←昔ヤフオクでこの紅白インナー単品が5,000円で落札されてるのを見てワロタ!)のミニチュア版が付いている。「マジカル・ミステリー・ツアー」にはちゃーんとブックレットが付いているし(しかもこの盤だけレーベルがキャピトルですわ)、「ホワイト・アルバム」はオープン・トップ(!)でインナーも黒という凝りようだ。もちろん4人のフォト・シートと歌詞付きポスターも入っている。でもここまでやるならシリアル・ナンバーも打って欲しかったなぁ... モノ・ボックスは初回限定生産なんやし。それともほとぼりが冷めた頃に “ファンの熱いリクエストに応えて再プレス決定!” とでも言う気ですか、EMIさん?
 このようにマニアが泣いて喜びそうな拘りの紙ジャケなのだが、コレクターでもマニアでもない私としてはこんな下らんことに金使うぐらいやったらもっと安うしてほしかった。そもそも、そんなに紙ジャケがありがたいんやったらLPを買うたらエエやん、と思うのだが。音に関しては、明らかにステレオとは違うポリシーでリマスターされている。つまりただ単に音圧を上げるとか、明瞭度を上げるとかいうのではなく、よりアナログに近いナチュラルで温か味のある落ち着いたサウンドになっているのだ。それでいて音密度は濃く、楽器やヴォーカルの音が近くなったように聞こえ、曲によってはジョンやポールがまるで目の前で歌っているような生々しいサウンドが楽しめる。何曲かUKオリジナル盤と比べてみたが、音の鮮度や迫力では及ばないものの、オリジナルの音をかなり忠実にCDフォーマットにトランスファーしているのが好ましい。ディーテイルに拘るオーディオ・マニアにはステレオ、オトよりも音楽を聴きたいビートルズ・ファンにはモノラル、という感じだろうか。因みに私はステレオの不自然な左右分離サウンド(特に初期盤!)がイマイチ好きになれないので、これまでもこれからも未来永劫モノラルがリファレンスだ。こちらは11枚入りで24,128円、1枚あたり約2,190円か。一生もののモノでこの値段なら御の字だ(^o^)丿
 先週末は休日出勤を余儀なくされ、今週に入ってからも超多忙でゆっくりと聴き込む暇がなかったので、今週末から始まるシルバー・ウイークはリスニング・ルームに籠って大音響で徹底的にボックスを聴きまくったろ(^o^)丿

The Beatles' Remasters unboxed
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Paul Is Live / Paul McCartney

2009-09-16 | Paul McCartney
 ポールのソロ・キャリアにおいて、70年代80年代の約20年間でリリースしたライブ・アルバムは、「ヴィーナス・アンド・マース」の大ヒットを追い風に75年から76年にかけて全米を席捲した伝説のツアーのライブ盤「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」のみだった。ポールは基本的にはライブで活きる人なので、こうやって見ると少なく感じられるが、それは70年代半ばを除いてはしっかりしたバンドに恵まれなかったからだろう。しかし89年の「フラワーズ・イン・ザ・ダート」以降、ポールは新作を出すたびにツアーをし、そのライブ盤を出すようになった。これは余程当時のバンドの状態に自信があったからに他ならない。そんな「フラワーズ...」ツアーのライブ盤が「トリッピング...」であり、新作「オフ・ザ・グラウンド」を引っさげた93年のワールド・ツアーの模様を収めたライブ盤シリーズ第2弾(?)と言えるのがこの「ポール・イズ・ライブ」というわけだ。それにしてもわずか3年のインターバルでライブ盤を連発(MTV アンプラグドのスタジオ・ライブも含めると4年間で3枚!)とは一体どういう風の吹き廻し?と発売前には訝しく思ったものだし、曲目も「トリッピング...」同様、解禁された(?)ビートルズ・ナンバーのオンパレードで、それはそれでめっちゃ嬉しいのだが、ポールの真意が測りかねるというのが正直なところだった。
 しかしそんな思いも①「ドライヴ・マイ・カー」のイントロと共に吹っ飛んでしまった。大好きなポールが大好きなビートルズ・ナンバー満載の新作ライブを届けてくれたのだ。これ以上何が望めるというのだろう?しかもバンドの演奏力も抜群で、その圧倒的なプレイにグイグイ引き込まれていく。②「レット・ミー・ロール・イット」はセット・リスト中、数少ないウイングス時代の曲で、ポールがいかにこの曲を気に入っていたかがわかる。新作から2曲③「ルッキング・フォー・チェンジズ」、④「ピース・イン・ザ・ネイバーフッド」では③がタイトでコンパクトにまとまっていてエエ感じなのに対し、④はこのライブの流れの中ではやや冗長に感じられる。⑤「オール・マイ・ラヴィング」はソロになって初めての登場だが、私をビートルズ狂いにしたのが何を隠そうこの曲なのだ。今まで何千回聴いたかわからないが、飽きるどころか聴けば聴くほどますます好きになっていく。やっぱりビートルズに勝るものナシだ(^o^)丿
 ロビー・マッキントッシュがチェット・アトキンスに捧げたギター・ソロ⑥「ロビーズ・ビット」から MTV アンプラグドの延長線上にあるアコースティック・セットに突入。同アルバムでも取り上げていた⑦「グッド・ロッキン・トゥナイト」と⑧「ウィー・キャン・ワーク・イット・アウト」はこのメンツで演奏しなれているせいか、実に安定したプレイが楽しめるのだが、特に⑧でポールのヴォーカルに寄り添うようなウィックスのアコーディオンがめっちゃエエ味を出している。⑨「ホープ・オブ・デリヴァランス」はスタジオ・ヴァージョンよりも格段に音の厚みが増したノリノリの疾走系アコースティック・ソングで、ザクザク刻むアコギ・カッティングが圧巻だ。エンディングで炸裂するリンダのオート・ハープもめちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) イントロだけで大歓声が上がる⑩「ミッシェル」はウィックスのアコーディオンがパリのエスプリを感じさせてくれる洗練された演奏だ。ポールの曲紹介が “バイカ ライカ ナイカ!” って聞こえる⑪「バイカー・ライク・アン・アイコン」も⑨同様、スタジオ・ヴァージョンよりも遙かにパワーアップしており、こっちを聴いた後オリジナルを聴くとスカスカに聞こえてしまう。とにかくこのトラックは超オススメだ。⑫「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」は⑦⑧同様 MTV アンプラグドで取り上げられていたナンバーで、オーディエンスの大歓声がこの曲の素晴らしさを物語っている。
 ポールのソロ・イヤーズにおけるバラッドの最高峰⑬「マイ・ラヴ」ではポールのヴォーカルが以前にも増して力強く響く。この曲は何度聴いても聴き入ってしまうなぁ...(^o^)丿 続く⑭「マジカル・ミステリー・ツアー」のイントロが鳴り響いた瞬間、全身に衝撃が走る。当時ステージでは再現不可能と言われたこの曲がライブで聴けるとは夢にも思わなかったのだ。しかも驚くべきことに可能な限りオリジナルに忠実に再現されており、このバンドの演奏力の高さを思い知らされる。まるで “ポールという本物を擁した世界最強のビートルズ・コピー・バンド” のようだ。⑮「カモン・ピープル」を挟んでここからが怒涛のビートルズ3連発!76年USツアー以来の⑯「レディ・マドンナ」、思わず66年日本公演でのグラグラ動くマイク・スタンドを思い出してしまう⑰「ペイパーバック・ライター」、⑭同様にステージでの再現はあり得ないと思われていた⑱「ペニー・レイン」と、ビートルズ好きにはたまらないヒット曲のこれでもか攻撃が凄まじい。更にウイングスのライブに欠かせない⑲「リヴ・アンド・レット・ダイ」での盛り上がり様はハンパではない。マグネシウム花火の効果もあるだろうが、やはり最後は曲の良さにつきるだろう。ダイナミックな曲想、スリル溢れる展開、はち切れんばかりの躍動感... 歴代の007テーマ曲の中でもダントツの素晴らしさを誇る1曲だ。カンザス・シティ公演で特別に演奏されたというご当地ソング⑳「カンザス・シティ」では地元ファンの喜びようは相当なもので、この大歓声がすべてを物語っている。ポールも粋なことをするものだ(^.^) これ以降は前ライブ「トリッピング...」同様サウンドチェックとしてリハ・テイクが3曲入っているのだが、私としてはライブで演奏されていながら選に漏れた楽曲の方を収録して欲しかった。まぁバラバラに入っていた前作と違って最後にまとめてあるだけマシだが...
 アルバム・ジャケットは名盤「アビー・ロード」の背景写真にポールと愛犬を合成したもので、タイトルが「ポール・イズ・ライブ」... つまり例のポール死亡説に対する “生きてるよ~(^.^)” に “ライブだよ~(^.^)” を引っ掛けたダブル・ミーニングで、いかにもノーテンキなポールらしい寒いギャグだ(笑)。そんな愛すべきポールの充実したプレイが満喫できるこのライブ盤は大好きな曲が一杯詰まっていることもあって常日頃から愛聴しているスーパー・ヘヴィー・ローテーションの1枚だ。

 ということで長らく続けてまいりました “勝手にポール祭り” ですが、ここらで一旦終了とさせていただきます。 “祭り” はやってみると結構楽しかったので気が向いたら又やりますわ(^o^)丿

All My Loving by Paul McCartney
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