shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

The Ultimate Collection / The Who

2011-12-30 | Rolling Stones / The Who
 今年も残すところあと1日、振り返ってみれば世間的には3月の大震災に始まって放射能騒ぎやら何やらで悪いニュースばかりだったし、自分のプライベートでも色々とストレスの多い1年だったのだが、こと音楽生活に関しては非常に充実していて、特にブリティッシュ・ロックと昭和歌謡の2つのジャンルで収穫が大きかったように思う。試しにこのブログでのエントリー数をアーティスト別に数えてみると、1位:ザ・フー(15)、2位:クイーン(9)、3位:西田佐知子(8)、ということでザ・フーが断トツだった。
 そもそもの始まりはウチに遊びに来てくれたサムとデイヴの影響でブリティッシュ・ロック熱が再燃したことで、それからイーベイでオリジナル盤獲りまくり → 「ライヴ・アット・リーズ」でザ・フーにハマる → 念願だった「マイ・ジェネレイション」の UK オリジ盤を遂にゲット→ザ・フー熱がピークに... という流れで、来る日も来る日も彼らの爆音を聴いてコーフンしていた。ということで、今年最後のエントリーは当ブログの “アーティスト・オブ・ザ・イヤー” ザ・フーだ。
 彼らは日本で人気が無いと言われるが、その割にベスト盤は何種類も出ている。私はあるアーティストに興味を持った時はまずベスト盤を聴いてから気に入った曲が入っている盤へと進むことが多いのだが、ザ・フーの場合はどのベスト盤を買っていいのか分からなかったので、知っている曲を頼りにオリジナル・アルバムを買っていき、一通り聞いた後でヴァージョン違いやミックス違いの穴を埋めるためにベスト盤を物色するという変則的な順番になった。
 ベスト盤で一番大切なのはもちろん選曲だと思うが、ザ・フーのような60年代のバンドの場合、モノラル/ステレオのミックス違いも重要だ。ただ、選曲にしてもミックス違いにしても人によって好みは様々なのでどれが良いとは一概に言えないので、彼らのように長い歴史を持ったバンドのベスト盤を選ぶのは非常に難しい。
 まず一番手っ取り早いのはシングルを集めたものだが、彼らにもそのものズバリの「ザ・シングルス」(1984)という盤がある。しかしビートルズの「1」と同様に無味乾燥きわまりない選曲で全く食指が動かない。大体「アイ・キャント・エクスプレイン」も「ババ・オライリー」も入ってない盤など論外だし、そもそもザ・フーの魅力はシングル曲だけではとうていカバーできない多面性にこそあると思う。そういう意味では1988年に出た「フーズ・ベター・フーズ・ベスト」も似たようなもんだし、リマスターされていない旧規格 CD なのであまり音が良くない。ほぼ同じ選曲でリマスターされた「マイ・ジェネレイション~ザ・ベリー・ベスト・オブ・ザ・フー」(1996)という盤もあるにはあるが、全20曲中7曲が疑似ステレオだなんてアホらしくてハナシにならない。一体何が悲しゅうて今の時代にスカスカの疑似ステを聴かにゃあならんのか! そんなこんなで悩んだ挙句、私が買ったベスト盤がこの「アルティメット・コレクション」という40曲入りの2枚組 UK 盤(←初回盤には更にもう1枚、レア・ヴァージョン4曲と映像2曲が入ったボーナス・ディスクが付いてます!)だった。
 私がこの盤を選んだのは、2枚組ということで収録時間の制限が撤廃され、シングルになっていない隠れ名曲も一杯入っていることが一番の理由で、ちょうどビートルズの赤盤と青盤を足したような位置付けだ。それともう一つ、今現在出回っている CD は “リミックス・リマスター” といってミックスの段階から様々な修正を加えた盤が主流なのだが、コレに入っているのはオリジナル・ミックスに手を加えずにリマスターだけを施したものなので、今となっては音源的にこっちが貴重だということ。過去の音源を再発する時に、それが最初に世に出た時のオリジナル・フォーマットを尊重するという見識が素晴らしい。ということで、これからザ・フーを聴いてみようかな、という人にはこの「アルティメット・コレクション」がオススメだ。
 下に貼り付けたのは2010年スーパーボウルのハーフタイム・ショーに彼らが出演した時の映像で、「ピンボール・ウィザード」~「ババ・オライリー」~「フー・アー・ユー」~「シー・ミー・フィール・ミー」~「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」と、まさにベスト・オブ・ベストという選曲だし、レーザー光線が会場中を照らし出す光と音の壮大なスペクタクル・ショーは圧巻の一言。特に、飛び散る火花、迸る閃光をバックにザック・スターキーがブチかます爆裂ドラミング(11:15~)なんかもう鳥肌モノで、ロックな初期衝動がマグマのように押し寄せる決定的名演だ。
 ということで、今年はこれでおしまい。ここまで読んで下さった皆さん、ホンマにどうもありがとうございました。来年も好きな音楽だけを徹底的に極めていこうと思うとりますので宜しければまたお付き合い下さいね。それでは良いお年を...(^.^)
The Who - Live at the Super Bowl (full)
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Philles Album Collection

2011-12-27 | Wall Of Sound
 みなさんこんにちは。ヒッピーな、じゃなかったハッピーなクリスマスを過ごされましたでしょーか? デートしてくれる可愛い彼女もいない私は家でコタツに入って音楽を聴くという “いつものメリークリスマス” 状態だったのだが、コタツにはミカンとネコが欠かせないように、音楽ファンにとってのクリスマスといえば何はさておきフィル・スペクターである。ウォール・オブ・サウンドなんである。聖夜には轟き渡る分厚いエコーがよく似合うのだ(←何という強引な展開...)。ということで今日は2011年の私的 “リイシュー・オブ・ザ・イヤー” といえるフィル・スペクターの7枚組ボックス・セットをご紹介。
 この「フィレス・アルバム・コレクション」はフィル・スペクターがフィレス・レーベルからリリースした全アルバムから例のクリスマス・アルバムを除いた下記の6枚を紙ジャケ(←私の EU 盤は結構ソリッドな作りになってます...)でオリジナル通りに復刻、更に7枚目としてシングル B 面に収録されたインストルメンタル音楽を集めた「フィルズ・フリップサイズ(← flipside とは “シングル B 面” という意味)by フィル・スペクター・ウォール・オブ・サウンド・オーケストラ」というボーナス・ディスクまで付いた、まさにオールディーズ・ファン垂涎モノのボックス・セットなのだ。
 1) Twist Uptown / The Crystals
 2) He's A Rebel / The Crystals
 3) Zip-A-Dee-Doo-Dah / Bob B. Zoxx And The Blue Jeans
 4) The Crystals Sing The Greatest Hits
 5) Philles Records Presents Today's Hits
 6) Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica
因みに日本盤はありがたい解説付きの(←皮肉です)Blu-Spec CDとやらで1万円を超える超ボッタクリ価格だったので私は迷わず輸入盤をチョイス。アマゾン・マーケットプレイスのイギリス直送便で新品が何と3,000円ポッキリだ!!! ということは1枚当たり430円... 円高サマサマというか、ホンマに良い世の中になったものだ(^.^) 
 上記の6枚は個々に独立した作品だし、今ここでそれぞれの盤についての感想を書く気力も体力も無いのでそれは又の機会に譲るとして、7枚目のボーナス・ディスクについて少し触れたい。フィレス・レーベルのシングル B 面用インストは、リハーサルの合い間に録ったジャム・セッション音源に身内や関係者の名前をテキトーにタイトルに付けただけ、というものがほとんどで、中には “何じゃこりゃ?” というトラックもあるが、興味深い音源も少なくないので油断できない。
 スタイル的には大きく分けてロックンロール風とフォービート・ジャズ風の2種類に大別され、前者ではクリスタルズの「ヒーズ・ア・レベル」とジョンの「ロックンロール」を足して2で割ったみたいな雰囲気の③「ドクター・カプランズ・オフィス」(←スペクターがかかっていた精神科医の名前から取ったもので、「GO! GO! ナイアガラのテーマ」としても有名ですね...)が気に入ったが、何よりも面白かったのは後者のジャズっぽい演奏だ。 “スペクター・サウンドでジャズ” というのも中々オツなもので、バーニー・ケッセルのギターを大きくフィーチャーした⑨「ミス・ジョーン・アンド・ミスター・サム」、フレディー・グリーンみたいにザクザク刻むリズム・ギターが快感を呼ぶ⑫「ギット・イット」、ガンガン弾きまくるパウエル直系のピアノとビッグ・バンド風の爆裂ドラム・ソロに圧倒される⑭「チャビー・ダニー・D 」、ブンブン唸るベースとスインギーに乱舞するピアノの絡みがたまらない⑯「アーヴィング」など、結構面白い音源が多くて楽しめた。
 このようにいいことずくめに思えるこのボックス・セットだが、唯一不満なのがモノラル音源から最新リマスターを施したというその音質だ。常日頃 iPod で音楽を聴くような人達には無縁のハナシだが、オリジナル盤 LP のスピーカーから迸り出るような迫力満点のモノラル・サウンドと比べるとその差は歴然(>_<) 月とスッポン、ラオウとジャギ、レッドブルと HRT ぐらいの違いがある。ノペーッとしていて平面的というか、脱脂綿で拭いたような清潔な感じのサウンドで、全体的にガッツに乏しいのだ。ジャズで言うと ECM みたいな音作りなのだが、ウォール・オブ・サウンドはやはりブルーノートのような無骨な音で聴きたい。あの “音の壁” はあくまでも十分な音圧あってのもので、エコー感だけが残った薄っぺらいサウンドではその魅力が半減してしまうように思う。せっかくの好企画なのに、それだけが惜しい。画龍点睛を欠くとはまさにこのことだ。
 このようにリマスタリングには不満が残るものの中身の方は文句の付けようがない珠玉の名曲名演アメアラレ攻撃で、オリジナル盤 LP はその人気と希少性ゆえに数万円で取引されているため余程のコレクターでない限り聴けないようなフィレス・レーベルの貴重な音源が、ヘタレな音とはいえ(←しつこい!)手軽に楽しめるようになっただけでも感謝せねばならないだろう。それに7枚組といっても1枚30分前後の盤ばかりなので、今年の大晦日はコタツに入って(←ホンマにコタツ好きやなぁ...)スペクター・サウンドを一気聴きするというのもエエかもしれない。

Phil Spector jukebox


Phil Spector house band - Dr. Kaplan's Office


GO! GO! Niagaraのテーマ~Dr.Kaplan's Office


Chubby Danny D
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いつかのメリークリスマス / B'z

2011-12-24 | J-Rock/Pop
 昨日台所で晩メシを作っていた時のこと、 BGM 代わりにつけっ放しにしていたテレビから、いきなり B'z の「いつかのメリークリスマス」が流れてきた。驚いてテレビ画面を見ると、ペプシの新しい CM である。タイアップは春先の「さよなら傷だらけの日々よ」と夏の「C'mon」で終わったものと勝手に思い込んでいたし、炭酸飲料という商品の性格上、まさか真冬のこんなクソ寒い季節に彼らの新作 CM が見られるとは思ってもみなかったのでコレはもうウルトラ・サプライズ! しかも曲が「いつかのメリークリスマス」とくれば、これでコーフンするなというほうがおかしい。
 “Xmas Lover篇” と題されたこの CM はこれまでのペプシ作品とは違って一見主演の女の子がメインに見えるが、それがかえってわずか数秒しか映らない B'z のお二人の存在感を際立たせているように思える技アリの逸品だ。大きな鐘の前に座ってまるで天使のように眼下のカップルをやさしく見守りながら歌い演奏するお二人がカッコ良すぎて私は画面に釘付けになってしまった。この神 CM を見て、この冬はどんなに寒くってもペプシを飲もうと心に誓い、今日早速ケーキとペプシを買ってきた。やっぱり炭酸はペプシに限るね(笑) 
 この曲は1992年にリリースされたミニ・アルバム「フレンズ」に収められていたもので、シングル・カットされていないにもかかわらず、その切ないくらいに泣ける歌詞と哀愁舞い散るメロディーの相乗効果によってB'zファンだけでなく多くの音楽ファンが “日本が生んだクリスマス・ソングのスタンダード” と認める名曲中の名曲だ。そういうワケで、この曲は様々なミックス違いのヴァージョンが作られ、色んなベスト盤に収録されている。私の知る限りでも、
 ①オリジナル・ヴァージョン(「フレンズ」、「トレジャー」、「ザ・バラッズ ~Love & B'z~(白盤)」、「ウルトラ・プレジャー」に収録)
 ②「フレンズ」で①のリプリーズとしてラストに置かれたピアノ・ソロによる短いインストルメンタル・ヴァージョン(「フレンズ」収録)
 ③打ち込み音を大胆にフィーチャーしたポップ・アレンジ・ヴァージョン(「ザ・バラッズ ~Love & B'z~(白盤)」のシークレット・トラックとして収録)
 ④ドラムを排し、イントロに鈴の音を加えた静謐なアンプラグド “恋するハニカミ” ヴァージョン(「プレジャーⅡ(赤盤)」収録)
 ⑤松本さんがソロ・アルバムでオーケストラと共演したインストルメンタル・ヴァージョン(「ハウス・オブ・ストリングス」収録)
と、5つのヴァージョンが存在する。まさに “いくつかのメリークリスマス” 状態だが、ペプシの CM で使われているのは①のオリジナル・ヴァージョンだ。
 この曲で特に印象的なのが、“稀代のストーリーテラー” 稲葉浩志の天才ぶりが存分に発揮されたその歌詞である。 “いつまでも手をつないでいられるような気がしていた~♪” “君がいなくなることを初めて怖いと思った~♪” のラインは愛する女性と別れたオトコの未練を見事に描き切っていて同じような思いをした人間(←私も含め、誰でもこういう経験一度はあるでしょ?)にとっては涙ちょちょぎれる歌詞だし、失って初めてその大切さが分かったという後悔の念を絶妙に表現した “人を愛するということに 気がついたいつかのメリークリスマス~♪” は稲葉さんが書いたフレーズの中でも屈指の出来ではないだろうか? しかもそれだけで終わらせず、 “荷物を抱え 幸せそうな顔” で “足早に通り過ぎる誰か” に昔の自分をダブらせてラストをシメるあたりに稲葉さんの天才を見る思いがする。
 そしてそんな歌詞の魅力を倍増させているのが “グラミー” 松本孝弘のアコギ・プレイで、稲葉さんのヴァーカルを引き立てるアルペジオといい、ここ一番という所で披露する歌心溢れるソロといい、そのツボを心得た伴奏には唸らされるし、イントロをオルゴールの音色で始めるというアイデアも素晴らしい!!! ギタリストでアレンジャーでプロデューサーという、松本さんの多才ぶり、音楽家としての懐の深さがよくわかる仕上がりだ。
 目を閉じてこの曲を聴いていると、音楽ってエエなぁ、B'zに出会えてホンマによかったなぁ、と実感させられる。人を愛するということの大切さに改めて気づかせてくれたペプシの新 CM は B'z のお二人から私達への最高のクリスマス・プレゼント。そんな「いつメリ」を聴きながら、みなさんも素敵なクリスマスをお過ごし下さい。

B'z / pepsi NEX TVCM Xmas Lover篇(60sec)


B'z - いつかのメリークリスマス


【おまけ】ヴァイオリンで聴く「いつメリ」(1:08~)も風情があって中々よろしいで (^o^)丿
played with Violin " いつかのメリークリスマス " [B'z]
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DELICIOUS / JUJU

2011-12-22 | Jazz Vocal
 先日いつものようにパソコンを立ち上げてヤフーのトップページを見ると、ニュース下にある “今知っておきたいエンターテインメント情報” 欄に “ジャズ初心者にもオススメ。JUJUが初のジャズカヴァーアルバム「DELICIOUS」を語る。” という記事があった。ジャズがエンタメのニュースになること自体珍しいが、それよりも私の関心を引いたのは JUJU というシンガーだった。
 私が彼女の存在を知ったのは去年のことで、マイラバの「Hello Again ~昔からある場所~」をカヴァーしたPVを YouTube で見てエエなぁと思ったのが最初だった。彼女はカヴァーだけでなくオリジナル曲でもコンスタントにヒットを飛ばしている人気歌手らしいのだが、今時の J-Pop に何の興味も関心もない私と彼女の接点はマイラバのカヴァー1曲のみで、それ以降彼女のことはすっかり忘れていた。
 ところが先月だったか、CS放送でF1 を見終わった後、テレビをそのままつけっ放しにしていたところ、 “JUJU苑” と題した彼女のライヴ番組が始まったのだ。 “あぁ、マイラバをカヴァーしてたあの歌手か... 一体どんな曲を歌うんやろ?” と思って見ていると、中森明菜の「セカンド・ラヴ」や小林明子の「恋におちて」といった邦楽に混じって何とエルトン・ジョンの「ユア・ソング」やキャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」といった洋楽の名曲をカヴァーしているのだ。特に「ユア・ソング」は名唱と言っていい素晴らしさで、“JUJU って有象無象の J-Pop 歌手とは違うんやな...” と感心したものだった。そういうわけで JUJU がジャズを歌っているという記事に興味を引かれた私は早速ネットでそのジャズ・カヴァー・アルバム「DELICIOUS」について調べてみることにした。
 私は未知のジャズ・ヴォーカル盤に出会うとまずその選曲を見る。過去の経験から言って、自分の好きなスタンダード・ソングを多く取り上げている歌手は十中八九気に入るものだ。そういう意味で、この「DELICIOUS」の選曲は私の趣味にピッタリで、②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」に⑦「ララバイ・オブ・バードランド」という “コレが入ってたら絶対に買います” レベルのスーパー・ウルトラ愛聴曲を始め、③「ナイト・アンド・デイ」、④「キャンディー」、⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」、⑥「ガール・トーク」、⑨「キサス・キサス・キサス」と、まるでこちらの嗜好を見透かしたかのような名曲のアメアラレ攻撃である。アマゾンで試聴してみた感じもかなり良かったので、Blue Note Tokyo でのライヴを収録したDVD付きの初回生産限定盤を注文することにした。再販制度という摩訶不思議なシステム(笑)のおかげでDVD付きの方が安いのだ。(私は2,980円で買ったけど、さっきアマゾン見たら6,280円になっとった... おぉこわ!)
 このアルバムで聴ける彼女のヴォーカルはリラクセイション感覚に溢れる癒し系。YouTube の関連動画にあった彼女の J-Pop 曲では、いかにも今の若者にウケそうな “声を作って歌う” 歌唱法が少々鼻につくが、このアルバムではスタンダード・ソングへの愛情とリスペクト故か、肩の力を抜いて自然体で歌っているところが◎。JUJU には J-Pop よりも Jazz が良く似合う。
 桑田佳祐師匠の「夷撫悶太レイト・ショー」や「歌謡サスペンス劇場」を手掛けた島健氏がアレンジを担当、ピアニストとしても歌心・遊び心に溢れるプレイを披露しており、このアルバムの成功の多くは彼に負う所が大きいと思う。特に②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」ではヘレン・メリルの、⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」ではジュリー・ロンドンの、⑦「ララバイ・オブ・バードランド」ではサラ・ヴォーンの決定的名演に敬意を払いながら JUJU の魅力を巧く引き出しているところが素晴らしい。
 インタビューを読んで知ったのだが、彼女は芸名の JUJU をウエイン・ショーターのブルーノート盤から取った(←アーチー・シェップじゃなくてよかったわ... 笑)というぐらい年季の入ったジャズ・ファンらしい。このアルバムではそんな彼女が長年聴き込んできたスタンダード・ソングの数々をストレートに歌い上げており、実に聴きやすくて心地良いヴォーカルが楽しめる。そのへんの軽薄 J-Pop 歌手が話題作りのためにジャズ・アルバムを作ってみました、というのとはワケが違うのだ。特に、シングル・カットされた⑦「ララバイ・オブ・バードランド」で聴かせる彼女のDNAの一部と化したジャズ成分を巧く散りばめた歌唱はまさに絶品で、その微妙なくずし具合に彼女のジャズ愛を見る思いがする。
 それともう一つ彼女が凄いのはそれぞれのスタンダード・ソングの歌詞の内容をしっかりと理解しているということ。以前「ジャズ詩大全」の筆者である村尾陸男氏が、日本の“自称”ジャズ・シンガーの中には歌詞の意味をよくわからずに歌っている人が少なくないと嘆いておられたが、下に貼り付けた彼女のライヴ MC を聞けばわかるように、英語に堪能な彼女は歌詞の意味をしっかりと理解し、噛みしめながら歌っている。⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」では自分をふった男に対して “何よ今更...” 、⑨「キサス・キサス・キサス」では曖昧な態度を取る男に対して “多分、とかじゃなくてハッキリ言ってよ!” というオンナの気持ちを巧く表現しているし、“あなたと離れるたびに私の心が少し死んでいく” と歌う⑪「エヴリタイム・ウィー・セイ・グッドバイ」では恋する女性の切ない想いを見事に歌い上げている。
 アマゾンや YouTube の書き込みを見ると “めっちゃエエ雰囲気!” という肯定的な意見と “こんなのジャズじゃない!” という否定的な意見の賛否両論真っ二つに分かれて喧々諤々で中々面白い。昔スイング・ジャーナルというジャズの雑誌で “フランク・シナトラはジャズ・ヴォーカルか否か” という不毛な論争を読んで “アホくさ...” と思うと同時に不快感を覚えたことを今思い出したが、感性で音楽を楽しむのではなく理屈で音楽を “語りたがる” 連中は、クラシックやジャズを崇め奉り、逆にロックやポップスを軽視する傾向があるような気がする。同じ音楽なのに何と心の狭いことか。ジャズ界の巨匠デューク・エリントンの有名な言葉に「音楽を型にはめ、分類するのはおかしい。そんなことは無意味だ。世の中には2種類の音楽しかない。良い音楽とつまらない音楽だよ。」というのがあったが、まったくもって同感だ。音楽に高尚もクソもないのだ。
 偉大なる先人達による名演への敬意を払いながら、愛するスタンダード・ソングの数々を自分のスタイルでストレートに歌い上げる JUJU の Jazz は素晴らしい。大好きなスヌーピーをフィーチャーし、ご自慢の(?)美脚を惜しげもなく披露したジャケットも含め、ジャジーな雰囲気横溢の素敵なヴォーカル・アルバムだ。

Lullaby Of Birdland


A Woman Needs Jazz / You'd Be So Nice To Come Home To


Night And Day / Candy


Cry Me A River / Girl Talk
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1969 / 由紀さおり

2011-12-18 | Cover Songs
 前回はかなりの変化球を承知でイエモン・ヴァージョンの「夜明けのスキャット」を取り上げたので、今回はストレートに由紀さおりの「1969」について書こうと思う。
 このアルバムの存在を知ったのは11月の初め頃で、私の歌謡曲好きを知っている母親が “今、由紀さおりがアメリカで売れてるらしいで!” と彼女の特集記事が載った新聞を見せてくれたのが最初だった。 “由紀さおり節 欧米魅了 新アルバム ネットで1位” と題されたその記事によると由紀さおりのジャズ・アルバムがアメリカ、カナダ、ギリシャなどでヒットしているという。由紀さおりがジャズ・アルバムで1位??? 大いに興味を引かれた私が早速アマゾンで検索すると、US 盤やら UK 盤やらの各国盤が何種類かゾロゾロ出てきた。
 私がまず注目したのはその選曲だ。彼女の代表曲である「夜明けのスキャット」を始め、いしだあゆみや黛ジュンといった歌謡曲はもちろんのこと、セルジオ・メンデスに PPM 、そしてペギー・リーまでやっているのだ。なんでも彼女がデビューした1969年のヒット曲を集めたらしいが、これはかなり面白そうだ。US アマゾンで試聴してみて結構エエ感じやったので購入決定。ちょうど日本盤も発売間近だったが、相変わらずのボッタクリ価格やし、東芝EMIは大嫌いやし、オリジナル盤と曲順も違うしで(←1曲目の「夕月」を6曲目の「ブルー・ライト・ヨコハマ」と順序を差し替えるあたりにEMIの商魂が透けて見えるが、私はオリジナルの構成が好き...)、日本盤の半額以下の UK 盤を注文した。
 届いた盤を聴いてまず感じたのは、由紀さおりって相変わらず歌が上手いなぁということ。「夜明けのスキャット」のあの心に沁み入る伸びやかな歌声は今も健在だ。もちろん若い頃に比べてキーは若干下がったように聞こえるが、むしろそれによって表現力に深みが増したようで、まさに “円熟” という言葉がピッタリの、極上のヴォーカル・アルバムに仕上がっている。
 ただ、何度聴いても巷間で言われているような “ジャズ・アルバム” という感じはしないし、かといってただの “懐メロ・アルバム” でもない。私には古き良き歌謡曲やポップスのスタンダード・ナンバーをジャズ系イージー・リスニングを得意とするピンク・マルティーニの新しい感覚でアレンジして現代に蘇らせた “無国籍音楽” に聞こえるのだ。
 アルバム冒頭を飾る①「夕月」なんかその最たるもので、黛ジュンのオリジナルとはまた違った味わいを醸し出す彼女の歌声は、カヴァーという概念を遥かに超越して聴く者の前に屹立する。なぜコレが1曲目に置かれたのかがよくわかる感動的な名唱であり、曲順をいじるなど言語道断。確かに⑥「ブルーライト・ヨコハマ」の方が知名度は高いが、意表を突いたチャチャのリズムが心地良いこの「ブルヨコ」はアルバムに変化を持たせる “お口直し” 的に真ん中あたりに置いてこそ真価を発揮するように思う。そういう理由で「夕月」のあのまったりした琴のイントロで始まらない日本盤「1969」は私的には NG なのだ。
 私がこのアルバムで瞠目したのがヒデとロザンナの②「真夜中のボサノバ」だ。恥ずかしながらこのアルバムを聴くまで私はこの曲の存在を知らなかったのだが、コレがもうめちゃくちゃクールでカッコイイ(^o^)丿 クレジットをよくよく見れば、何と橋本淳&筒美京平という昭和歌謡の黄金コンビということで大いに納得。40年の時を経て京平先生の和ボッサ名曲が世界に向けて発信されるなんて実に痛快だし、軽やかに揺れるような由紀さんのヴォーカルがボサノバのリズムとバッチリ合っていて絶品なのだ。それにしてもシングル「ローマの奇跡」の B面にヒッソリと収められていた知る人ぞ知る隠れ名曲を選曲したのは一体誰だったのだろう? 由紀さん本人のチョイスなのか、それとも日本のレコード会社のディレクターなのか(←まさかこのアルバムをプロデュースしたピンク・マルティーニのリーダー、トーマス・ローダーデール氏ではないと思うが...)、ちょっと興味を引かれるところだ。
 もう1曲のボッサ・チューン⑧「マシュケナダ」も素晴らしい。40年前に「夜明けのスキャット」で “ル~ル~ルルル~♪” と透明感溢れる歌声を聴かせていた歌謡曲の歌手が還暦を過ぎて “オ~ アリア~ライォ~ オパ オパ オパ~♪” とエモーショナルに歌っているのである。とにかくこのリズム、このノリ、最高ではないか! “ハービー・マンのように舞い、ボビー・ジャスパーのように刺す” フルートの変幻自在なプレイが印象的なバックのサウンドも彼女のヴォーカルを上手く引き立てているし、1分17秒から始まる彼女の囁き声によるカウント “いち... に... さん... し...” なんかもうゾクゾクさせられる。由紀さんには是非ともイザベル・オーブレみたいな全編ボサノバのサバービアなアルバムを作ってほしいものだ。
 彼女は歌手としてだけでなく女優やナレーターとしても活躍しているが、そんな彼女のマルチな才能が存分に活かされたトラックがペギー・リーの⑨「イズ・ザット・オール・ゼア・イズ」だ。この曲は半分以上が日本語の “語り” なのだが、これがもう女優としての抜群の演技力を活かした名人芸で思わず聴き入ってしまう。 “○○なんてこんなもんだったの? こんなもんなの?” という疑問を投げかけておいて “そんなもんよ~♪” と歌い出すところなんかもう見事という他ない。
 そういう意味ではピーター・ポール&マリーの④「パフ」も必聴だ。何でもマレーネ・デートリッヒによるカヴァー・ヴァージョンを意識して “語るような” イメージで歌ったらしいが、低い声で説得力抜群の語りを聴かせる由紀さんは、かの大女優と甲乙付け難いくらいの圧倒的な存在感を誇っている。
 デビュー40周年を迎えるにあたってもう一度日本の歌謡曲を歌いたいという由紀さんと、彼女の歌声に惚れ込み “日本のバーバラ・ストライザンド” と絶賛するトーマス氏のコラボレーションが生んだこのアルバムは、日本の歌謡曲の中にも “スタンダード・ソング” として時の試練に耐えうるクオリティーを持った楽曲が数多く存在することを如実に示している。単なるノスタルジーではなく “21世紀の歌謡曲” として大切に聴き続けていきたい1枚だ。

由紀さおり - Internet Radio Program


Midnight Bossa Nova


由紀さおり&ピンク・マルティーニ - マシュ・ケ・ナダ


夕月 由紀さおりさん 1969
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夜明けのスキャット / The Yellow Monkey

2011-12-14 | Cover Songs
 今、なぜか由紀さおりが海外で大人気だという。新聞やテレビでも取り上げられて話題になっているので私のような歌謡曲ファンでなくてもご存知かもしれないが、彼女がアメリカのジャズ・オーケストラ、ピンク・マルティーニと共演したアルバムがアメリカやカナダの iTunes ジャズ・チャートで1位になったのを始め、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開いたコンサートをソールド・アウトにして喝采を浴びるなど、まさに大ブレイクと言ってもいいモテモテぶりなのだ。
 事の発端は、ピンク・マルティーニのリーダーが地元オレゴンの中古レコード店で偶然見つけた彼女のLPをジャケ買いし、その中に入っていた「夜明けのスキャット」を聴いてその美しい歌声に魅了され、ついには彼女との共演に至ったというものらしい。ヒットの裏側と言うか、こういった偶然から始まるインサイド・ストーリーというのは実に面白いものだが、今日は今話題のアルバム「1969」ではなく、そのきっかけとなった42年前のヒット曲「夜明けのスキャット」、それもロック・バンドによるカヴァーを取り上げようと思う。
 この曲は1969年に彼女が本名の安田章子から由紀さおりへと改名してリリースした最初のシングルで、彼女の透明感溢れる歌声が幻想的な夜明けをイメージさせる曲想に見事にマッチして150万枚を売り上げ、年間チャート1位に輝いたという大ヒット曲。1番の歌詞が “ル~ル~ルルル~ ラン~ラ~ラララン~♪” の繰り返しという当時としては非常に斬新な構成から “日本初のスキャット・ヒット” と呼ばれているらしい。
 ただ、イントロの訥々としたアルペジオは洋楽ファンなら誰でも知ってるあの曲そのまんまで、思わず “Hello darkness, my old friend...♪” と口ずさんでしまいそうだ(^.^)  試しに「夜明けのスキャット」でググってみると検索候補にまで出てきたのには笑ってしまったが、海外の人達がこのイントロを聴いてどう思ったのかちょっと気になるところだ。因みに作曲はいずみたくである。
 パクリ疑惑はさておき、ここからが本題だ。確かに由紀さおりが歌うオリジナル・ヴァージョンは魂が浄化されるような美しさを持った名演(←ちょうどエンヤやメリー・ホプキンを聴いた時の感じに似てる...)には違いないのだが、私が実際に愛聴しているのは日本が誇るロック・バンド、 The Yellow Monkey によるカヴァーの方で、これこそまさに私にとって究極と呼べるヴァージョンなのだ。
 イエロー・モンキーによるこのカヴァーは元々1995年に出たシングル「嘆くなり我が夜のファンタジー」のB面に入っていたもので、私は初期の隠れ名曲を収めたベスト盤「ザ・トライアド・イヤーズ・アクトⅡ」で初めてコレを聴いて大感激!!! あの美しい昭和歌謡の名曲にロック魂を注入し、ハードボイルドでありながら深みのあるバラッドに昇華させているところが何よりも素晴らしい。特に圧巻なのが中性的な魅力を湛えた吉井さんの艶のあるヴォーカルで、何度聴いても心にグイグイ食い込んできてゾクゾクさせられてしまう。決して大袈裟ではなく、聴く者の魂を揺さぶる歌声で、その魅力に一旦ハマると病み付きになること請け合いだ。
 バックの演奏・アレンジもヴォーカルに負けず劣らずのカッコ良さで、ドスドスと切り込んでくる重量感溢れるドラムスも不思議なくらい違和感なく曲に合っているし、何と言っても3分30秒を過ぎたあたりから炸裂する入魂のギター・ソロが最高だ。由緒正しい音楽ファンが聴いたらイスから転げ落ちるかもしれないが、私はこういうの大好き(^o^)丿 彼らの原曲に対する愛情とリスペクトがビンビン伝わってきて嬉しくなってしまう。
 名曲は時を超え、ジャンルを超えて歌い継がれていく。イエロー・モンキーで聴く “ロックな” 「夜明けのスキャット」は私のように昭和歌謡を愛するロック・ファンにピッタリのスーパー・ウルトラ・キラー・チューンなのだ。

夜明けのスキャット / THE YELLOW MONKEY


夜明けのスキャット(オリジナル・ヴァージョン)由紀さおり


【おまけ】特に深い意味はありません(笑)
サウンド・オブ・サイレンスThe Sound of Silence/サイモンとガーファンクル

Rumours / Fleetwood Mac

2011-12-11 | Rock & Pops (70's)
 先日、若手の同僚 H君が私の所へ来て “shiotch7さん、洋楽好きでしたよね?” と訊いてきた。 “うん、好きやけど、一体どーしたん?” “実はフリートウッド・マックっていうグループの「噂」っていうアルバム聴いてみたいんですけど、持ってはります?” とのこと。彼は今時の若者には珍しい良識ある好人物で、クラシック音楽が好きとは聞いていたが、どこかで偶然マックの「噂」を耳にしたのだろうか? “へぇ~ 中々エエ趣味してるやん!対訳・解説とか付いてない輸入盤でよければ明日持って来たげるわ。” とまぁこんなやり取りがあったのだが、サムがオーストラリアへ帰ってしまって以来久々に職場で音楽の話ができて楽しかった。
 というワケで家に帰って「噂」を聴いてみたのだが、久しぶりに聴くマックは実に新鮮でめっちゃエエ感じ。思えば去年の1月頃にマックにずっぽりハマッてこのブログでも大特集したが、H君のおかげでこの数日というもの、マック熱が再燃している。きっかけを作ってくれたH君に大感謝だ。ということで今日はフリートウッド・マック屈指の名盤「噂」でいくことにしよう。
 このアルバムは全米チャートで31週(←約8ヶ月間!)1位を記録し、アメリカだけでも1,900万枚を売り上げたという大ヒット盤なのだが、当時の私はまだ洋楽を聴き始めたばかりでビルボードのビの字も知らず、リアルタイムでその凄さを実感したわけではなかった。彼らに興味を持ったのはNHKの「ヤング・ミュージック・ショー」を見てからで、スティーヴィー・ニックスの妖艶な魅力にコロッと参ってしまい、すぐにレコード店へと走って「ファンタスティック・マック」と「噂」を購入した。
 元々はブリティッシュ・ブルース・ロック・バンドだったマックがリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスの加入により1975年のアルバム「ファンタスティック・マック」でアメリカナイズされたポップ・バンドへと大きく方向転換し、更にその路線を推し進めたのが1977年の「噂」で、この2枚はジャケット・イメージといい、洗練された女性ポップ・ヴォーカル・グループとしての魅力を前面に打ち出したサウンドといい、収録されている楽曲のクオリティーの高さといい、まさに一卵性双生児と言ってもいいぐらい雰囲気が似たアルバムである。それなのになぜ「噂」だけがあれほど異常に売れた(←「ファンタスティック・マック」も全米1位を獲得し、500万枚を売り上げた大ヒット・アルバムなのだが...)のだろうか?
 まず第一に「ファンタスティック・マック」がリリースから1年以上かかって1位になり、彼らの唯一無比なポップ・サウンドを受け入れる素地が十分出来上がったところへ絶妙のタイミングで「噂」をリリースしたことが挙げられる。しかも⑤「ゴー・ユア・オウン・ウェイ」(10位)、②「ドリームス」(1位)、④「ドント・ストップ」(3位)、⑧「ユー・メイク・ラヴィング・ファン」(9位)と、カットしたシングルを全てトップ10に送り込むことによって更にアルバムの売り上げを伸ばすという “80's型プロモーション” が功を奏したと言えるのではないか。例えるならデフ・レパードの「パイロメニア」と「ヒステリア」みたいなモンである。
 「ファンタスティック・マック」とのもう一つの違いは非常に微妙ながらアルバム全体に一種独特の緊張感が漲っていること。ポップ路線への転換が見事に当たってまさに絶頂期を迎えんとしていたマックだったが、それとは対照的にグループ内の人間関係は最悪で、リンジーとスティーヴィー、ジョンとクリスティンという2組のグループ内カップルが破局を迎え、リーダーのミックも離婚したばかりだった。普通ならそんな状態の5人が揃ってもロクな音楽は出来そうにないのだが、彼らは自作曲において逆境に置かれた自らの心情を赤裸々に吐露し、異常なまでの高い集中力で数々の名曲名演を生み出していったのだ。まさにプロフェッショナルの鑑である。
 中でも痛烈なのがリンジーの⑤「ゴー・ユア・オウン・ウェイ」で、 “君を愛したのは間違いだった... もう君の好きなようにしろよ... どこへでも行けばいい” と別れたばかりのスティーヴィーに対する捨て台詞のような歌詞は辛辣そのものだ。当時のライヴでサビのコーラスを付けるスティーヴィーの心情は如何ばかりだったろうかと思うが、97年のリユニオン・ステージでは酸いも甘いも噛み分けた(?)良き友人としてまるでお互いを慈しむように向き合いながらこの曲を歌っており、そんな二人の姿にジーンときてしまう。
 スティーヴィーの②「ドリームス」は名曲「リアノン」の流れを汲むナンバーで、彼女の妖艶な魅力が全開だ。しかしその歌詞は⑤に負けず劣らず辛辣そのもので、女を作って出て行ってしまったリンジーに対して “心を静めて自分が何を失ったか思い出してみるといいわ... あなたの前に現れた女たちもいつかは去っていく... 頭を冷やせばよく分かるはずよ...” とこれまた容赦ない(笑) ヴォリューム奏法(?)で幻想的なムードを巧く醸し出しているリンジーだが、この勝負、スティーヴィーの勝ちかな(^.^) この二人、レコーディング中は口もきかなかったらしいが(←怖っ)、歌詞を通して痴話ゲンカしてそれがミリオン・セラーになってしまうのだから音楽の世界は面白い。
 そんな愛憎渦巻く二人に比べ、穏健派(?)のクリスティン・マクヴィーが書いた④「ドント・ストップ」は “過去を振り返らずに未来に目を向けよう” というポジティヴな歌詞が◎。やっぱりこの人、オトナですね(^.^)  リユニオン・ライヴでの南カリフォルニア大学マーチング・バンドとの共演での盛り上がりは圧巻の素晴らしさだった。
 煌めくようなポップ・センス溢れる洗練されたサウンドとグループ内のドロドロした男女関係が生んだ人間臭い歌詞(←ぜひ注目して下さい!)が絶妙に溶け合ってアンビバレントな魅力を放つこの「噂」はフリートウッド・マックを、いや70年代ポップスを代表する金字塔的な1枚だと思う。

Fleetwood Mac - Go Your Own Way - Dance Tour '97


Fleetwood Mac - Dreams - The Dance -1997


Fleetwood Mac Don't Stop

ロックンロール・ミュージック / ビートルズ

2011-12-08 | The Beatles
 ビートルズ者にとって11月29日が “ジョージ・デイ” なら今日12月8日は “ジョン・デイ” だ。この日は世界中のビートルズ・ファンがお気に入りのレコードやCD、DVD を引っ張り出し、それぞれ自分なりのやり方でジョンを偲ぶことになる。
 あるアーティストのイメージというのはファースト・コンタクトした曲によって大きく変わってくるものだが、ジョン・レノンの場合、その死後に彼を知った人達は “白亜の屋敷で白いピアノを弾きながら「イマジン」を歌う愛と平和の人” のイメージが強いのではないだろうか? ヨーコによるプロパガンダとまでは言わないが、何かと言えばすぐに “ジョン・レノン=ラヴ・アンド・ピースだもんね” 的な風潮は私はあまり好きではない。ジョンはマーティン・ルーサー・キングではないのだ。もし仮に今ジョンが生きていたとして、聖人扱いされて喜ぶとはとても思えない。
 私が初めてジョン・レノンの歌声を聴いたのは初期ビートルズのヒット曲の数々だった。パワー全開で火の出るようなロックンロールを歌いまくるジョンを聴いて全身に電気が走るようなショックを受け、それ以来ず~っと No Music, No Life な毎日だ。あれがもしも「イマジン」や「ラヴ」のようなバラッドだったら、これほど音楽にハマることはなかったかもしれない。ヨーコが何を画策しようとも、白い服を着てバラッドを歌う姿よりも黒の皮ジャンに身を包んでロックンロールをシャウトする姿こそがジョン・レノンの本質だと私は信じている。ジョン・レノンは平和運動家なんかではなく、バリバリのロックンローラーなのだ。
 ということで、今日はジョン・レノンがビートルズ時代に歌ったロックンロール・クラシックスのカヴァーにスポットを当ててみたい。下に貼り付けた「ロックンロール・ミュージック」、「ツイスト・アンド・シャウト」、「プリーズ・ミスター・ポストマン」、「マネー」、「スロー・ダウン」といったカヴァーは、どれもジョンのあの翳りのある太いシャウト・ヴォイスを得て、オリジナルを遥かに超越した次元にまで到達しているのだ。
 中でも日本公演の1曲目でも演奏された「ロックンロール・ミュージック」は圧巻の素晴らしさで、 “ジャジャジャジャ♪” というギターのイントロからいきなり “ジャスレッミィァ サマザ ロックンロールミュージック~♪” というジョンのヴォーカルが炸裂する瞬間なんかもう鳥肌モノだし、メロディー楽器としての役割から解き放たれリズム楽器としてガンガン叩きつけるように乱打されるピアノ(←1台のピアノをジョン、ポール、ジョージ・マーティンの3人で弾いてるらしい...)もめちゃくちゃカッコイイ!!! ビートルズが来日した66年の時点で日本で最も売れていた彼らのシングル盤が「イエスタデイ」ではなく、この「ロックンロール・ミュージック」だった(←現在でも「レット・イット・ビー」「ヘイ・ジュード」に次ぐ第3位!)というのもナットクのスーパーウルトラ大名演だ。とにかくワンテイクのみの一発録りでキメたこの曲にはありとあらゆる理屈を超えたロックンロールの魅力が凝縮され、チャック・ベリーのオリジナルとは全く別の “ビートルズの曲” になっているところが凄い。
 同様の事は他のカヴァー曲にも言える。ジョンの凄まじいシャウトが聴く者の心を震わせる「ツイスト・アンド・シャウト」、アグレッシヴなジョンのリード・ヴォーカルとポール&ジョージのバック・コーラスが織りなす掛け合いの妙が見事な「プリーズ・ミスター・ポストマン」、 “へヴィー” という形容詞はこの曲のためにあると言い切りたいくらい強靭なサウンドに圧倒される「マネー」、ダブル・トラックを駆使しながらノリ一発でジョンが疾走する快感がたまらない「スロー・ダウン」と、その “声” の魅力一発で原曲に新たな生命を吹き込みオリジナルを凌駕するカヴァーに仕上げるヴォーカリスト、ジョン・レノンの天才ここに極まれりだ。
 アナログからデジタルへとテクノロジーがいかに進化しようとも、音楽にとって一番大切な要素である “人間の声” が人の心を打つという事実は変わらない。ジョンが歌うロックンロール・クラシックス... 今日はこれらの曲を聴いて、筋金入りのロックンローラーとしてのジョン・レノンの魅力に思いっ切り浸ってみませんか?

ロック・アンド・ロール・ミュージックRock and Roll Music/The Beatles


Twist and Shout - The Beatles ツイスト.アンド.シャウト


Please MR Postman - The Beatles プリーズ.ミスター.ポストマン


The Beatles - Money (that's what I want) ;; lyrics


Slow Down - The Beatles スロー.ダウン
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セシリア / タヒチ80

2011-12-03 | Cover Songs
 私にとって金曜の夜の楽しみは「探偵!ナイトスクープ」を見ることだ。世間の流行に無関心な私が見るテレビ番組は CS の F1中継を除けばほとんどコレだけと言ってもいい。関西ローカルでもうかれこれ20年以上続いている超人気バラエティー番組で、私はコレを見ないと1週間が終わった気がしない。
 昨日、いつものように「ナイトスクープ」を見ようとリビングへ降りていき、ネットをしながら番組が始まるのを待っていると、テレビからいきなり聞き覚えのある懐かしい曲が流れてきた。このウキウキワクワクするようなメロディーはサイモン&ガーファンクルの「セシリア」ではないか! いやしかし、この声、このサウンドは S&G のものではない。誰か他の歌手によるカヴァーだ。それも爽やかなコーラス・ハーモニーとメリハリのあるリズムが絶妙に絡み合っていてめっちゃエエ感じなんである。コレは思わぬ掘り出し物だ。
 私はアーティスト名を確認しようと慌ててテレビ画面に目をやったがどこにも表示されていない。唯一の手がかりは LOWRYS FARM という言葉で、どうやら洋服のブランド名らしいのだが、ファッションに何の興味もない私には初めて目にする名前だ。そこで手元にあったパソコンで早速ググってみると、 Yahoo 知恵袋に同じ質問が寄せられていて即解決(^o^)丿 歌っているのは Tahiti 80 というフランスのポップ・グループらしい。さらに YouTube で検索してみるとラッキーなことに一発でお目当ての音源を見つけることが出来た。
 そもそも S&G といえばどうしても「サウンド・オブ・サイレンス」や「明日に架ける橋」といった超有名曲ばかりに目が行きがちだが、そういった代表曲のその先にある隠れた名曲を探すことこそが音楽ファンとしての使命(?)であり大いなる喜びなのだと私は信じている。 S&G ではポール・サイモンの力強いコードストロークと目の覚めるようなフィンガーピッキングをフィーチャーした「ミセス・ロビンソン」や「ボクサー」、そしてこの「セシリア」のようなドライヴ感溢れるナンバーが大好きだ。
 タヒチ80が歌う爽快感溢れるこの「セシリア」カヴァーは原曲の良さを損なうことなくリズミカルでキャッチーなサウンドに仕上がっており、一瞬にしてリスナーの耳を吸い付けることを要求されるCMソングにはうってつけだ。ポップス・ファンでなくても、テレビからこの曲が流れてきたら私のように手を止めて画面を見てしまうのではないか。これはちゃんとした CD で手に入れたい。
 しかしアマゾンで調べてみたらこの曲はどうやら CD 化はされてないようで YouTube から直接 DL するしかない。解説によると LOWRYS FARM CM のメイキング映像から音声だけを抜き出したもののようで、1分08秒の所で “ハイ、カット!” という声が入っているが、こればっかりはどうにも仕方がない。この曲は結構評判が良さそうなので CD 化したら売れるやろうし、いっそのこと CD 1枚丸ごと S&G カヴァー集なんていう企画盤を出したら結構面白いと思うねんけど...

仲里依紗 CM LOWRYS FARM 「バス」篇


Cecilia - Tahiti80 (Simon & Garfunkel cover.)
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