shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

「Layla」のUK “真正” 1stプレス盤ゲット!

2023-09-24 | Rock & Pops (70's)

 少し前にヤフオクで色々とレコードを見ていた時のこと、アイテム写真下の「この商品も注目されています」の欄にデレク&ザ・ドミノスの「Layla」が3万円ぐらいの値段で出ているのを見つけた。私は「Layla」のUK初回盤を確か£20ぐらいで手に入れた記憶があり、US初回盤も$20弱だったので “レイラってそんなに高かったっけ???” と興味を引かれた。
 “これってヤフオクでよく見かける素人コレクター狙いのボッタクリかな?”とも思ったが、“もしかして何か凄いレア盤なのかも?” という好奇心に駆られて見てみると、タイトルに [稀少] UK初回マト A1/B2/C1/D2 [Peter Maurice 表記] と書いてある。 Peter Maurice? 誰やそれ? ゼップの Peter Grant みたいなモンか? と不思議に思ってネットで調べてみると、“初回マトの中でも最初期プレスの盤は Side-3のTrack 3の楽曲クレジット表記が Peter Maurice になっており、その後すぐに Lark Music に変更された” のだという。ちょうど「With The Beatles」UK 1N盤「Money」の Jobete → Dominion Belindaみたいなものだろう。
 へぇ~、そうなんや...(゜o゜)  自分のUK盤は確か eBayで1st プレスって書いてあるのを買った記憶があったが、念のためにと思って確認すると、そこには無慈悲な Lark Music の文字が...(*_*)  えぇ... 騙された... あるいはセラーが無知だっただけなのかもしれないが、とにかく私がUK 1stプレスと信じて聴いてきた盤は実は2ndプレスだったという厳しい現実に直面させられた。
 まぁ中途半端な知識しかないのにセラーの言葉を鵜呑みにした私が悪いのかもしれないが、そんなことよりもまず「Layla」のUK 1stプレス盤を手に入れることが先決だ。同じ失敗を繰り返さないためにネットで色々調べてみたところ、1stプレスの条件としては、①マトリクスがA1/B2/C1/D2、②センター・レーベル外縁部が凸ではなくフラット、③Side-3のTrack 3の楽曲クレジット表記が Peter Maurice 、というもので、更に④Side-2の楽曲クレジット表記が2行ではなく3行のものが1stプレスの中でも earliest なのだという。
 早速eBayをチェックしてみたところ、UK 1stプレスというタイトルで数枚出品されていたが、そのどれもが Lark Music 表記だった。次に Discogs を見てみたが、1970年にUKでリリースされた「Layla」だけで何と9種類も載っていてビックリ。ここのセラーには商品説明の写真とは違う盤を平気で載せているド素人が少なくないので、いちいちセラーにメールして確認するしかない。私は盤質 VG+以上のブツを出品しているセラーに片っ端からメールして返事を待った。
 結局上記の条件④を満たしている盤は1枚だけでしかも送料込みで4万円以上もしたので即却下。それ以外ではアイスランドのセラーが盤もジャケットもキレイな Peter Maurice表記盤を出していたが、送料が$52とバカ高いのと、メールした直後に$10も値上げするという畜生っぷりにムカついたので即ブロック。結局残った中で盤質が一番良さそうな盤をイギリスのセラーから購入したのだが、ジャケットの縁がセロテープで補修されているということもあってか、たったの£28で買うことが出来た。送料込みでもヤフオクの1/3以下、アイスランド鬼畜野郎の約1/2の値段で買えたのが嬉しい。後は盤質が説明通りのコンディションであることを祈るのみだ。
 イギリスから2週間で到着したパッケージを開封して早速レコードをチェック。ジャケットのセロテープ補修が痛々しいが、肝心なのはレコード盤の方だ。マトリクスもフラット・レーベルも、そしてもちろんPeter Maurice表記もセラーの説明通りで、しかも嬉しいことに盤面も無傷のピッカピカ状態だったので大喜び。そして最後にデッドワックスに刻まれたスタンパー・ナンバーを見てぶったまげた。何と 1/1/1/1,、つまりスタンパーが “オール1” という奇跡的な盤だったのだ。
 Side-2の楽曲クレジットは3行じゃないので上記の条件④の信憑性に関しては大いに疑問符が付くことになるが、そんなことはどうでもいい。私にとっては盤質とスタンパー・コードこそが大正義なのだ。この「Layla」はビートルズで言えば 1G/1G、つまり最も若いスタンパーから作られた盤だということだ。因みにこのレコードはイギリスの老コレクターが終活の一環(!)として出品していたもので、“発売日にロンドンのレコ屋で買った...” とメールでは言っていたが、まさかこんな究極の最初期プレス盤を、しかもNM状態で手に入れることが出来るとは夢にも思わなかった。
 いつものようにウルトラソニック・クリーニングを行った後、ワクワクドキドキしながらレコードに針を落とすと、静寂の中からそれまで聴いたことがないような生々しい「Layla」がスピーカーから飛び出してきた。何じゃこりゃ!!!と思わず ! を3つも付けてしまうような凄い音だ。UKオリジナル盤はUS盤とは違ってラフ・ミックス、つまりお化粧を施していないすっぴんのレイラが楽しめることで人気が高いが、今、目の前で鳴っているのは “これまで聴いてきたレイラは一体何やってん!” と叫びたくなるような異次元のサウンドだ。中でも一番感銘を受けたのはギターの音の尋常ならざる野太さと抜けの良さで、とにかく 2nd プレス盤が裸足で逃げ出すくらいの超絶リアリティーなのだ。この衝撃は「Please Please Me」の 1G/1G盤を聴いた時の感動に近いものがある。
 元はと言えばヤフオクで見かけた盤がきっかけとなってとんでもない大物をゲットしたことになるが、これだからレコード・コレクターはやめられへんなぁ... と我が身の幸運をレコードの神様に感謝している今日この頃だ。

「Born To Run」RLカットのリマスター盤

2022-09-04 | Rock & Pops (70's)
 私は「リイシュー(再発)盤」「リマスター盤」と聞くと “どーせ薄っぺらい音しかせぇへんのやろ... そんなモンにいちいち金かけてられるかい!” という偏見・先入観をもって見下す悪い癖がある。実際のところ、リマスターやリミックスでいくら現代的な装飾を施そうが、音楽自体が持つチカラにおいてオリジナル盤を凌駕した例は「ペパーズ」のニンバス・スーパーカット盤という例外中の例外を除けばほとんど記憶にない。
 だからビートルズ(→もうすぐ出る「Revolver」のボックス・セット楽しみ~♡)以外の再発盤には目もくれずにスルーしてきたのだが、先日ネットで “ボブ・ラドウィックがリマスターした「Born To Run」がどーのこーの...” という記事を目にして居ても立ってもいられなくなった。
 ボブ・ラドウィックとはもちろんあの「Led Zeppelin Ⅱ」の “Hot Mix” 盤で有名な世界屈指のマスタリング・エンジニアのこと。そのRL刻印はジャズ界における RVG(ルディ・ヴァン・ゲルダー)刻印に匹敵するくらいの威光を放っており、ネット・オークションでRL刻印ありの盤にビッドが集中して値が吊り上がるのをこれまで何度見てきたことか。実際にそのロック魂溢れるサウンドを聴いてみれば、何故RL刻印盤がこれほど人気なのかがわかるだろう。
 そんな彼がロックのバイブルとでも言うべき「Born To Run」をリマスターしているとは知らなんだ... 私としたことが何たる不覚(>_<)  大慌てで調べてみると、確かに2014年にスプリングスティーンの全カタログをリマスターしているではないか! これはえらいこっちゃである。特にLPの方は8年前に限定盤でリリースされたこともあって、いつ廃盤になってもおかしくない。私はとりあえずまだ在庫のあるアマゾンで「Born To Run」を購入して一体どんな音に仕上がっているのか聴いてみることにした。
 そもそもこのレコードはその邦題をこのブログのタイトルにするぐらいの愛聴盤なのだが、その音質に関しては、“ブルースが敬愛するフィル・スペクターを意識して音を重ねたためにモコモコ感が拭えない、霧がかかったような音” とその筋では揶揄されてきた(←私はそうは思わないが...)という曰く付きのアルバムだ。今回せっかくの機会なので手持ちの「Born To Run」の聴き比べをやってみた。

①US盤
 私が持っている「Born To Run」のUS盤LPは、カタログ№がJCではなくPCで始まっていてマト末尾が 1A/1A、更に裏ジャケのプロデューサー名にスペルミス(→Jon Landau がJohnになっとる...)がある最初期プレスだ。そのせいか、音の鮮度は抜群で、Eストリート・バンドが生み出す圧倒的なグルーヴが実に気持ち良い。各楽器の音が混然一体となって襲い掛かってくるようなプリミティヴなサウンドはまさにロックの王道という感じで説得力抜群! これのどこに “霧” がかかっているというのだろう? この音が気に入らない人はきっとオーディオ的にどうこうと言いたいのだろうが、少なくともロックンロール的にはこの野太い音で全く問題ないと思う。

②UK盤
 私の「Born To Run」UKプレスはマト A1/B1盤で、ビートルズのUKオリジナル盤で言えば “1G” に相当する、こちらも最初期プレスである。当然裏ジャケもUS盤と同様にJohn Landau 表記だ。音の方は中低音がしっかりしたUK盤ならではの腰の据わったサウンドで、武骨なUSオリジナル盤よりも抜けが良く、クリアーで派手な音作りが印象的だ。ちなみにこのレーベル・デザインは Sunburst Label というらしい(←勉強になるわぁ...)が、ネット・オークションでたまに見かける赤CBSレーベルのUK盤はレイター・プレス(A5/B4)なのでご注意を!

③2014リマスター盤
 で、いよいよ2014年にボブ・ラドウィックがリマスターした盤である。まず手に持った感触がズシリと重くて(180g!)期待に胸が高鳴る。針を落とした数秒後に静寂を破ってリスニングルームに響き渡るA①「Thunder Road」のイントロのピアノとハーモニカの音からしてめちゃくちゃクリアーで驚かされるが、私が何よりも凄いと思ったのは各楽器の音をクリアーに響かせながら、なおかつ音全体のエネルギー感が格段にパワー・アップしているところ。ただ単に音圧を上げただけの “なんちゃってリマスター” とは激しく一線を画す “高品位な爆裂サウンド(?)” なんである。上記のUS盤とUK盤の “良いとこ取り” という感じの、真にあらまほしき音なのだ。いやぁ、やっぱり巨匠の技は凄いですわ。
 ということで、もうこーなったらスプリングスティーンだけでなく、ありとあらゆるロック名盤をRLカッティングで聴いてみたい... と思わせるくらいこのリマスター盤の音には感銘を受けた。手持ちの音源をRLカッティング仕様とかニンバス・スーパーカット仕様、インドのチューブ・カッティング仕様(笑)みたいな感じで自在に調節できる高性能イコライザーとかあったらエエのになぁ...
Bruce Springsteen - Born to Run (Official Video)

各国盤頂上決戦⑫「Hotel California」

2022-08-28 | Rock & Pops (70's)
 私が各国盤にまで手を出すケースというのは、そのレコードを色んなヴァリエーションの良い音で楽しみたいと思えるほど惚れ込んだ、超の付く愛聴盤に限られる。イーグルスの「Hotel California」もこれまでに取り上げた「Asia」や「Thriller」なんかと同様に、各国盤蒐集の底なし沼にハマってしまった1枚だ。ということで今日は「Hotel California」の各国盤聴き比べをやってみた。

①インド盤(6E 103-A-1A / 6E 103-B-1C)
 他の各国盤入門と同様に「Hotel California」の場合もまず最初に買ったのはインド盤。ハンガリーのセラーから$6.99という信じられない安値で購入したもので、送料込みで2,000円弱だから大ラッキーと言えるだろう。このインド盤 “ホテカリ” の特徴は何と言っても太くせり出した中域の気持ち良さで、USの6Eをベースにしたチューブ・カッティングの濃厚な音が楽しめる。特にベースの音は唯一無比の気持ち良さで、タイトル曲A①のイントロなんかもう快感!の一言に尽きるが、A②「New Kid In Town」のマッタリ感も絶妙で、ヴォリュームを上げて聴くとその快適指数はハンパない。このインド盤はUS初版のキレッキレの轟音とは又違ったインティメートな良さがあり、手持ちのホテカリ・コレクションには無くてはならない1枚だ。

②トルコ盤(SSLP 11035A / 6E 103 B-3RE CSM STERLING LH "V.O.L IS FIVE PIECE LIVE")
 トルコ盤の “ホテカリ” はシングル・ジャケットで、表ジャケは少し黄色みが強く、裏ジャケは全体的に色合いが薄くて粗悪なコピーみたいな感じ。このレコードはA面が独自マトでB面がCSMのUSマザーという複雑怪奇なプレスになっているが、両面共に音は至ってマトモだ。特に低域の押し出し感はさすがトルコという感じで、音楽の根底をしっかりと支えている。上記のインド盤ほどのインパクトはないにせよ、これで $20なら上等な部類だろう。

③ペルー盤(ELECTRA-1084-A- / ELECTRA-1084-2L-)
 去年の9月にペルー盤にどっぷりハマって同一セラーから一気に10枚まとめ買いした時の1枚がこのレコード。セットプライス€20に1枚当たりの送料を足しても3,000円でお釣りがくるレベルだ。南米のレコードは送料が$40とか$50とかめちゃくちゃかかかるので、私のような貧乏コレクターにとっては大量一括購入していかに送料を安く上げるかが重要なのだ。ジャケットはシングル・タイプで、表ジャケはかなり赤みがかっており、裏ジャケは他の多くのペルー盤と同様にモノクロになっている。レコードはUSオリジナルとは全く異なる手書きの独自マトなのだが、この音がもうお世辞抜きで素晴らしい!!! タイトでキリリと引き締まったクリアーな音像、エモーショナルにして繊細なギターの響き、そして音圧も申し分なし... という具合に良いところを上げていくとキリがないくらいに見事な音作りだ。それにしてもホテカリの各国盤ってホンマにレベルが高いですなぁ... (≧▽≦)

④イスラエル盤(6E 103 A 21 AR "IS IT 6 O'CLOCK YET?" B-14665 STERLING / 6E 103 B 21 AR "V.O.L IS FIVE PIECE LIVE" B-14666)
 イスラエル盤を狙っているコレクターは滅多にいないらしく大抵のレコードは$10~$15ぐらいで手に入る。このホテカリも例外ではなく $9.99という安値でゲット。他の盤と一緒に買ったので1枚当たりの送料も$5弱と超お買い得だった。レコードはUSマザーで、6Eということは初回盤7Eの1年後に出た2ndプレスのものになるが、手持ちのUS初回7E盤と聴き比べても何ら遜色のない鮮度の高い音にビックリ(゜o゜)  イスラエル盤ならではのプレス枚数の少なさというメリットもあるのだろうが、とにかくこの力強い音は大いに魅力的だ。A③「Life In The Fast Lane」におけるドン・ヘンリーのヴォーカルなんてもう生々しすぎて、まるでかぶりつきの特等席で聴いているかのようなリアリティーだ。

【追悼】オリビア・ニュートン・ジョンの思い出

2022-08-10 | Rock & Pops (70's)
 朝、パソコンを立ち上げるといきなり「オリビア・ニュートン・ジョンさん死去」というヤフー・ニュースが目に飛び込んできて思わずわが目を疑った。記事によると享年73歳とのことだが、ちょうど昨日、次元大介役の声優さんが亡くなったと聞いて “知ってる有名人がどんどん死んでいくなぁ...” と淋しく思っていたところにオリビアの訃報である。「カントリー・ロード」で彼女の存在を知り、「フィジカル」での全米完全制覇まで、彼女の全盛期をずーっとリアルタイムで見てきた洋楽ファンとしては胸に穴があいたような虚脱感を感じざるを得ない。ということで今日は在りし日の彼女を偲んで個人的に思い入れの深い曲を特集しようと思う。

①Take Me Home Country Roads
 70年代に洋楽を聴いて育った音楽ファンでこの曲を知らない人はいないのではないか... と思うくらい私の学生時代にラジオやらテレビやらでかかりまくっていたのがこの「カントリー・ロード」だ。元々は1973年にシングルとしてリリースされたものの、イギリスでは15位止まりでアメリカに至っては119位までしか上がらなかったという不発曲だったが、1976年に日本で「おはよう700」という朝のテレビ番組の挿入歌として使われたのをきっかけに爆発的にヒット。何と50万枚を売り上げてオリコン6位まで上がったという、まさに “日本が生んだヒット曲” なのだ。オリジナルはもちろんジョン・デンヴァーだが、少なくともこの日本においてはジブリ云々を抜きにしてもこの曲こそがオリビアの代表曲として認知されていると言っても過言ではないと思う。美しい女性歌手が親しみやすいメロディーを快活に歌うという、まさにポップスの王道中の王道をいくキラー・チューンだ。これ以上の名曲名唱があったら教えを乞いたい。
H264_ カントリーロード TAKE ME HOME, COUNTRY ROADS /  Olivia Newton-John


②Have You Never Been Mellow
 オリビアの有名曲と言えば「カントリー・ロード」以外にも「ジョリーン」や「たそがれの恋」、トラボルタとの「愛のデュエット」など、どちらかというとアップ・テンポの曲が多いような気がするが、彼女の魅力が一番活きるのはミディアム・テンポでリラックスした歌声を聞かせてくれるナンバーではないかと思っている。そんな私が “これぞオリビア!” と愛聴しているのが1975年に出た「Have You Never Been Mellow」(→「そよ風の誘惑」などというワケのわからん邦題つけんなよ...)で、彼女にとって2枚目の全米№1に輝いた大ヒット曲だ。イントロに続いて彼女の “There was a time when I was...♪” という柔らかい歌声が聞こえてきた瞬間にフニャフニャと腰砕けになってしまうのは私だけではないだろう。バックのコーラス・アレンジも最高だ。
Olivia Newton-John - Have You Never Been Mellow


③Jolene
 1976年にリリースされた彼女の7枚目のアルバム「Come On Over」からは同名のタイトル曲がリード・シングルとして切られたが、曲調がシングル向きでなかったこともあってパッとせず、それならこれでどーだとばかりに日本と彼女の母国オーストラリアのみでシングル・カットされたのがこの「Jolene」だ。この曲はドリー・パートンのカヴァーだが、英語が苦手な日本人に “ジョリーン、ジョリーン~♪” という覚えやすいサビ(→じょり~んと髭を剃るってゆう感覚らしいwww)が大ウケして60万枚以上を売り上げる大ヒットを記録したという、実に大らかでエエ時代だった。当時中学生だった私も喜び勇んでシングル盤を買いに走ったクチだが、歌詞カードを見て初めて “お願い、彼を奪わないで!” と女友達に懇願するシュールな内容の歌だと知って驚いたのが今となっては懐かしい思い出だ。
Olivia Newton-John - Jolene / Live in Japan 1976 Remaster


④Grease Megamix
 オリビアが70年代の “清純派の歌姫” 路線から80年代初頭の「運命のいたずら」や「フィジカル」といった “イケイケの健康セクシー” 路線へとイメチェンするきっかけとなったのが1978年にジョン・トラボルタと共演した映画「グリース」のサントラからシングル・カットされて世界中で大ヒットした「愛のデュエット」だ。私はこの曲と同サントラ収録の「グリースト・ライトニン」「サマー・ナイツ」のオイシイところを繋げて1991年にシングルとして出された「グリース・メガミックス」が大好きで、まだネットもなかった時代に足を棒にしてその12インチ・シングルを探し回り、ようやくアメ村のタワー・レコードで見つけた時の嬉しさを今でもハッキリと覚えている。映画のシーンを上手く繋げたビデオクリップも “あの時代” を思い出させてくれて実に微笑ましい。尚、ジョン・トラボルタ氏の演技はギャグだと思って生温か~い目で見てあげて下さい(笑)
Grease Megamix - John Travolta Ft Olivia Newton (Video HD)


⑤Physical
 初めて「フィジカル」のビデオクリップを見た時は本当に驚いた。ショート・カットにエアロビのインストラクターみたいなレオタード姿で “身体でお話ししましょうよ...♪” と歌う彼女にはもはや70年代の歌姫イメージのかけらもなかったが、中でも “You gotta know that you're bringin' out the animal in me.”(あなたが私の中の野性を引き出しているのよ。)と歌うくだりが超刺激的で、大学に入ったばかりの私は盛りが付いたように “アンナモーレンミィ~♪” が脳内リフレインする日々だった。この曲に限らず、彼女の歌を聴くと当時のことが色々と思い出されて懐かしい気分に浸れるのが嬉しい。
 この曲はビルボード誌の全米シングル・チャートで10週連続№1を記録したことでも有名だが、私はこの曲に阻まれてフォリナーの「ガール・ライク・ユー」が10週連続2位(!)に終わったという不憫なチャート・アクションの方が印象に残っている。尚、「フィジカル」はいくつかの州で放送禁止になったのでエアプレイ回数のみのランキングであるラジオ&レコーズ誌では逆に「ガール・ライク・ユー」が6週連続№1で、「フィジカル」は3位か4位止まりだったような記憶がある。このように、私がヒット・チャートに興味を持つきっかけになったという意味でも思い出深い1曲なのだ。
Olivia Newton-John - Physical (Official Music Video)


⑥What Is Life
 私は洋楽を聴き始めた1976年に「カントリー・ロード」や「ジョリーン」からオリビアに入門したので彼女の初期のアルバムを聴いたのはずっと後になってからなのだが、彼女が1972年リリースのセカンド・アルバムでジョージ・ハリスンの「What Is Life」をカヴァーしていると知った時は驚くと同時に大喜びして聴きまくったものだった。因みに彼女はこの曲の他にも「Behind That Locked Door」や「If Not For You」(←こちらはデビュー・アルバムに収録)と、ジョージの「All Things Must Pass」から3曲もカヴァーしているのは非常に興味深い。オリビアのこのヴァージョンはバックの器楽アレンジがイマイチで、ギターがしゃしゃり出てきて目立とうとするのが玉にキズだが、私はジョージ屈指の大名曲を可憐なオリビア節で聴けるだけでも儲けものだと思っている。
 尚、オリビアのビートルズ・カヴァーとしてはもう1曲、「The Long And Winding Road」があるが、ビートルズ愛に溢れた、聴く者の心に沁みる名唱なので是非聴いてみて下さい。
Olivia Newton-John - What Is Life

Olivia Newton-John - The Long And Winding Road


R.I.P. オリビア、素晴らしい思い出の数々をありがとうね。

「In The Court Of The Crimson King」イスラエル盤

2022-01-23 | Rock & Pops (70's)
 「クリムゾン・キングの宮殿」のイスラエル盤を手に入れた。私はいつも送料を節約するために、セラーが出している他のレコードも細かくチェックしてなるべく複数枚を一度に買うようにしているのだが、そんな other items の中にクリムゾンの「宮殿」があったのだ。
 「宮殿」のイスラエル盤やとぉ...??? 何か面白そうやんけ...(^.^) と思って商品説明文を読むと、残念なことにその盤は1976年に出たリイシュー盤で、レーベルもアトランティックではなくポリドールのものだったので迷うことなくパス。初心者の頃に喜び勇んで買った「いとしのレイラ」のUK盤が実はポリドールのリイシューで、めっちゃショボイ音しかしなかったという嫌な思い出があるからだ。音の薄っぺらい再発盤なんぞに用はない。
 好奇心に火が付いた私が早速「宮殿」のイスラエル盤をeBayで検索してみたところ、同じ再発ポリドール盤がゴロゴロしている中に1枚だけアトランティック・レーベルの「宮殿」を発見。説明を読むと “FIRST EDITION IN ISRAEL” とハッキリ書いてある。おぉ、これはめっちゃラッキーだ。盤もジャケットもEXコンディションで$45、しかも同セラーが出しているゼップの「Ⅲ」と同時購入で送料たったの$15(←南米やったら確実に$45は取られるよな...)だった(^o^)丿
 3週間ほどして届いたレコードはEXに+++を付けたいくらいのピッカピカ盤。例のスキッツオイド・ジャケットは赤味が強いUK盤と橙色のトルコ盤のちょうど中間ぐらいの色合いで、ちょうど顔の右目の上あたりに小さな字で “IN THE COURT OF THE CRIMSON KING”、左目の上には “AN OBSERVATION BY KING CRIMSON” とアルバム・タイトルが記されているところが他国の盤とは違う特徴だ。
 マトは “ST-A-691699D AT/GP PR / ST-A-691700D PR” となっているのでUSアトランティック系の音だと思われるが、特筆すべきはビートルズのイスラエル盤に多く見られた “I2” と“LN”という2つの刻印がAB両面に押されていることで、イスラエル独自のカッチリした音作りが期待できる。
 実際に聴いてみた感想としてはまさにこちらが期待した通りのサウンドで、“I2” “LN”刻印のなせるワザなのか、とにかくベースラインがよく出ており、A①「21st Century Schizoid Man」のすばしっこいベースの動きが見事に再現されていて思わず唸ってしまう。UKオリジナル盤と聴き比べてみると、楽曲に漲るプログレ特有の緊張感ではさすがにUK盤に一日の長があるが、“歌モノ”音楽としてのバランスの良さではイスラエル盤(つまりUSの音ですね)の方が勝っているように感じられた。
King Crimson - 21st Century Schizoid Man (Including "Mirrors")


 しかしこのレコードで一番嬉しかったのはこちらの予想を遥かに超える盤質の良さだ。ほぼノイズレスの美音でクリムゾンの「宮殿」を楽しめたことが何よりも嬉しい。私のUKオリジナル盤はA②「I Talk To The Wind」とB①「Moonchild」でちょっとチリパチが目立つのが玉にキズなのだが、このイスラエル盤ではそういったチリパチ音に苛まれることなくこの稀代の傑作アルバムを堪能できるのが嬉しい。
 それにしてもA③「Epitaph」に出てくる “Confusion will be my epitaph.”(混乱こそ我が墓碑銘)って何度聴いてもカッコ良いフレーズやなぁ... (≧▽≦) 歌そのものもグレッグ・レイク一世一代の名唱と言っても過言ではないし、あの強烈なジャケットを眺めながらこの「Epitaph」をじっくりと味わう時間を大事にしたいと思う。まるで哲学者にでもなったような至福のひと時だ。
King Crimson - Epitaph (Including "March For No Reason" and "Tomorrow And Tomorrow")

「In The Court Of Crimson King」トルコ盤

2021-05-15 | Rock & Pops (70's)
 ビートルズやポールのソロ・アルバムのトルコ盤を数枚買ってその独特の音作りがすっかり気に入った私は他のアーティストのレコードもトルコならではの重低音爆裂サウンドで聴いてみたいと思うようになり、信頼できるトルコのセラーの出品リストをこまめにチェックして、これぞ!というアルバムを何枚か入手した。どのアルバムもビートルズの時と同様に重心の低いガッチリしたサウンドが楽しめて大喜びなのだが、中でも特に気に入っているのがキング・クリムゾンの「宮殿」だ。
 このアルバムは10年くらい前にUK 盤1stプレス、通称 “ピンク i レーベル” 盤(マト A2/B2 )を手に入れ、それ以来その鮮烈な音にすっかり満足していたのだが、セラーの販売リストの中に「宮殿」を見つけた私は “トルコ独自カットの音で「宮殿」を聴いてみたい!” という好奇心から購入を即決。€32というのが高いのか安いのか、トルコ盤の相場なんて全く分からないが、盤質VG++ ジャケVGで4,000円ならお買い得だと思うし、他のアルバムと5枚併せ買いして送料€22だったので1枚当たり600円というのも嬉しい。良い品をより安く手に入れるというのが買い物の醍醐味だ。
 届いた盤を手に取ってまず気が付いたのが、全体の色合いがUKオリジナル盤とかなり違っていることで、赤っぽいUKに比べトルコ盤の方はどちらかというと橙色に近い感じ。ジャケット左下にある白いステッカー風の “This album contains the hit single EPITAPH” が実は印刷というのもユニークだ。
 しかし一番ビックリしたのはA①「21世紀の精神異常者」のイントロ部分で、レコードに針を落とすと冒頭に30秒ほど入っているはずの “ボー” という列車の警笛のようなノイズがバッサリとカットされており、いきなり例の “ジャーン!” から始まったのだ。まぁポールの「London Town」のトルコ盤でBラスの長尺曲「Moose Moose And The Grey Goose」が3分ほどでフェイドアウトした時の驚きに比べると可愛いモンだが(笑)、それにしてもこの「スキッツォイド・マン」には度肝を抜かれた。
King Crimson - 21st Century Schizoid Man (Radio Version)


 サウンド自体は私が期待していた通りの芯の強いマッシヴなサウンドで、UK盤に負けないスキッツォイド指数の高い演奏(?)が楽しめて大喜びヽ(^o^)丿  今のところトルコの独自カット盤にハズレ無しである。A③「エピタフ」のメロトロンの重厚なサウンドは快感そのものだし、B②「クリムゾン・キングの宮殿」で聴けるダイナミックな音の洪水も圧巻だ。
 ふとしたきっかけで始めたトルコ盤蒐集だが、ウルグアイ盤に続く大当たりの予感がする。まぁトルコ盤で大騒ぎしているレコード・コレクターなんて他にそんなにいないと思うので、今のうちに目ぼしい盤を徹底的に買い漁ってやろうと思っている。トルコのロックダウン解除まであと2日、次はどのレコードを買おうかな...(^.^)
King Crimson - Epitaph


TOTO Ⅰ

2021-03-13 | Rock & Pops (70's)
 少し前の話になるが、昔録画した映画を観ていた時にたまたま渡辺謙が出ているスズキ・ワゴンRのCMが流れた。おぉ、こんなんあったなぁ~と懐かしがりながらも私の耳はバックで流れるメロディーに吸い寄せられた。演奏はヴァイオリン奏者デヴィッド・ギャレットによる「子供の凱歌」のカヴァー・ヴァージョンだったが、映画の本編に戻ってからも私の頭の中ではTOTOのオリジナル・ヴァージョンが鳴り出して映画どころではなくなってしまった(笑)
 結局、映画鑑賞を途中で切り上げて2Fのオーディオ・ルームへと駆け上がり、レコード棚からTOTOの1stアルバム「宇宙の騎士」(←この邦題なんとかならんかったんか...)を取り出してターンテーブルに乗せた。う~ん、素晴らしい!!! 久々に、本当に久々に(←5年ぶりくらいか...)TOTOを聴いたがやっぱりエエわぁ...(≧▽≦) 彼らはアホなロックジャーナリズムによってフォリナーやジャーニー、ボストンらと共に “産業ロック” と揶揄されてきたが、私はこれらのバンドはみんな大好き(^.^)  キャッチーなメロディーをギンギンのロックに仕立て上げるなんて最高ではないか! そういう意味でも80年代の洋楽黄金時代において重要な役割を果たしたTOTOというグループはもっとリスペクトされていいと思う。
 そもそも70年代に登場した新人バンドのデビュー・アルバムの中で衝撃の大きかった私的TOP3がヴァン・ヘイレン、ボストン、そしてこのTOTOだった。彼らの1stシングル「Hold The Line」を初めて聴いたのは高1の時だったが、パーカッシヴなピアノの連打と唸りを上げるギターの咆哮が織りなすオリジナリティー溢れるそのユニークなサウンドがとても新鮮に聞こえ、すぐにアルバムを買いに走ったのを覚えている。
Toto - Hold The Line (Official Video)


 アルバムを買ってきてレコードに針を落としていきなり聞こえてきたのがA①「Child's Anthem」だった。おぉ、この風雲急を告げるようなイントロ、めっちゃカッコエエやん!!! たたみかけるようなジェフ・ポーカロの驚異のドラミングの前に理性など吹っ飛んでしまい、アドレナリンがドバーっと出まくる。血湧き肉躍るとはまさにこのこと。そういえば昔テレビのスポーツ番組を見ていてBGMでこの曲がかかった時は担当ディレクターの選曲センスに唸ったものだ。
Toto - Child's Anthem


2ndシングルのA②「I’ll Supply The Love」は後半部分の盛り上がりが何といっても素晴らしい。このサウンドを換骨奪胎してジョン・ウェットンの翳りのあるヴォーカルが醸し出すウエットな要素を付け加えて大仰に飾り立てるとエイジアになる... と言ったら言い過ぎか(笑)
 B面では1曲目に置かれたB①「Girl Goodbye」がカッコイイ! 3rdアルバム「Turn Back」に入っている名曲「Goodbye Elenore」(←なんか Goodbye 多いな...)に繋がるような歯切れのよいアッパー・チューンで、ジェフ・ポーカロが繰り出す変幻自在なリズムに乗ってボビー・キンボールのエモーショナルなヴォーカルが炸裂する。全開で突っ走るスティーヴ・ルカサーのギター(←この人、「ハード・デイズ・ナイト」が自分の音楽の原点だと公言してるガチのビートルズ・ファンです...)もたまらんたまらん!
Toto - Girl Goodbye


 とまぁこのようにこのアルバムはシングル曲以外にもヒット・ポテンシャルの高いナンバーが数多く収録されており、彼らのキャリアの中で一番売れた「Ⅳ」と並ぶ最高傑作と言っていいと思う。極端な言い方をすれば、80'sロックとして究極の完成度を誇る「Ⅳ」に対し、クオリティーの高いデビュー作としての衝撃性に圧倒される「Ⅰ」... という感じか。
 因みにこのレコードのUS盤を買った当時はまだオリジナル盤云々の知識が皆無で、何も知らずに2ndプレス盤(PCナンバー)を買ってしまいUS盤にしては音がイマイチやなぁと思っていたのだが、それから何年か経って1stプレス(JCナンバー)に買い直して聴いてみたところ、これぞ TOTO とでも言うべき元気ハツラツなサウンドが聴けて大満足ヽ(^o^)丿  デッドワックス部分を見ると両面共に TML-M の刻印があり、これはつまり The Mastering Lab でマスタリングされたことを示している。どうりで音のヌケが良いわけだ。Discogsで調べてみるとこのアルバムのUSオリジナル盤は他にも色んなヴァージョンが出ているようなので注意が必要だ。
 それともう一つ、つい最近ビートルズ関連のウルグアイ盤を買った時に追加送料なしであと2枚送れますよとのことだったので、モノのついでにとこの「TOTO Ⅰ」($15)を買ってみたところ、独自カットでUS盤とは又違った味わいの音が楽しめたのだが、面白かったのは、A③「Georgy Porgy」のエンディングの2回リフレインをあろうことか1回目で終わったものと勘違いしてフェイド・アウトしてしまい、間違いに気付いたエンジニアが慌てて2回目のリフレインを途中からフェイド・インしていること。ちょうどビートルズのイタリア盤「Abbey Road」でAラスの「I Want You」が強制フェイド・アウトする(笑)のと同じようなアクシデントだと思われるが、こちらは明らかにミスに気付いているわけで、それでも “まぁエエか...” とばかりにそのまんま商品化してしまうところが細かい事に拘らないウルグアイらしくて可笑しかった。

DCC Compact Classics盤で聴く70年代ロック/ポップス特集

2014-06-29 | Rock & Pops (70's)
 ポールのDCC盤をすべて手に入れた私はDCCカタログに載っている他のアーティストのアルバムも聴いてみたくなり(←いつもの散財パターンやね...)、手広く網を張って1枚また1枚とゲットしていった。今日はそんな中からDCC盤のメインストリームである70年代ロック/ポップスの名盤を大特集だ。

【ヴァン・ヘイレン】
 DCC のカタログを見て真っ先に興味を持ったのがハードロック・ギターの聖典とでも言うべきヴァン・ヘイレンのデビュー・アルバム。スティーヴ・ホフマンのリマスタリングでハード&へヴィなVHサウンドがどう聞こえるのか興味津々だったのだが、「エラプション」におけるエディーの突き抜けるようなギター・サウンドはUSオリジナルLPにも負けない凄まじさだし、「ユー・リアリー・ガット・ミー」~「エイント・トーキン・バウト・ラヴ」~「アイム・ザ・ワン」と続くイケイケ・ノリノリ大爆裂ハードロック大会のカッコ良さはとても言葉では表現できない。ビールのCMキャッチコピーじゃないが、コクがあるのにキレがあるとでも言えばいいのか、エディーにしか出せないあの音色で聴かせる超速弾きプレイをものの見事に再現しているところが凄いのだ。いやはや、まったくスティーヴ・ホフマン恐るべしである。ヴァン・ヘイレン・ファン、いや、すべてのハードロック・ファン必聴の痛快無比な1枚だ。
Van Halen - You Really Got Me [DCC]


【リンダ・ロンシュタット・グレイテスト・ヒッツ Vol. 2】
 私が持っているリンロンのUSエレクトラ/アサイラム盤CDはどれもこれもプアーな音で、ヴォリュームを上げて聴こうという気がおきない代物だったので、DCCカタログにリンロンのグレイテスト・ヒッツを見つけた時は狂喜した。主に70年代のヒット曲を集めた「Vol. 1」も悪くはないが、私的にはリアルタイムで衝撃を受けた「シンプル・ドリームス」「リヴィング・イン・ザ・USA」「マッド・ラヴ」からのヒット曲を集めた「Vol. 2」により愛着を感じてしまう。サウンドの奥行き感や空気感までもバッチリ表現した「イッツ・ソー・イージー」、彼女の艶やかなヴォーカルを極上サウンドで堪能できる「ブルー・バイユー」、バンドが一体となって生み出す躍動感がハンパない「バック・イン・ザ・USA」、ねちっこいリズムが生み出すグルーヴが快感を呼ぶ「タンブリング・ダイス」など、リンロン・ファンにとってはたまらない逸品だ。
It's So Easy [DCC Ver.]


【スティーヴ・ミラー・バンド・グレイテスト・ヒッツ 1974-78】
 私はスティーヴ・ミラー・バンドの大ファンで、特に70年代半ばから80年代初め頃までの楽曲の充実ぶりは神憑ってさえいると思う。日本ではあまり人気が無いせいか彼のDCC盤はヤフオクでもアマゾンでも全然出てこずに苦労させられたが、eBay でチェコのセラーが大幅値下げしたのを運良く見つけて即決ゲット(^.^)  手持ちのUSマーキュリー盤CDはリンロンのアサイラム盤同様のヘタレなサウンドだったが、このDCC盤の音は期待以上の素晴らしさで、このバンドの身上とも言える圧倒的なドライヴ感を見事に表現している。「テイク・ザ・マネー・アンド・ラン」~「ロックン・ミー」~「セレナーデ」と続くあたりなんかもう快感!の一言に尽きるし「フライ・ライク・アン・イーグル」でギター&ハモンド&シンセが生み出すスペーシーなサウンドも実に気持ちエエのだが、私的ベスト曲はやはり唯一無比のグルーヴ感が楽しめる「ジェット・エアライナー」だ。
Jet Airliner [DCC Ver.]


【リンゴ】
 ビートルズ関連のDCC盤はポールの6枚以外ではこの「リンゴ」1枚しか存在しない。ジョンのソロはMFSL盤のみだし(←それもヨーコ監修によるリミックス版のマスターが使用されているらしい...)ジョージに至っては高音質リマスター盤が1枚も制作されていないのが残念だ。話を「リンゴ」に戻すが、彼のアルバムはベースの音がどうとかヴォーカルのリアリティがこうとかいった聴き方をしても始まらない。あれこれ考えずにただひたすらその親しみやすいヴォーカルを楽しめばいいのだ。スティーヴ・ホフマンはアナログらしい温かみがありそれでいて力強く濃厚なサウンドに仕上げることによってそんなリンゴの魅力を巧く引き出しており、特に「ユア・シックスティーン」や「オー・マイ・マイ」なんかもうお見事という他ないトラックになっている。ボートラとして「イット・ドント・カム・イージー」を含む3曲が入っているのも◎。とにかくビートルズ利権を独占したいアップルが、SACDにせよハイレゾにせよ、ビートルズ関連音源のリマスターを今後他社に許可することは考えにくいので、この「リンゴ」はファンとしては見つけ次第 “買い” の1枚だと思う。
You're Sixteen [DCC Ver.]


【ホテル・カリフォルニア】
 スティーヴ・ホフマンによると、イーグルスの代表作「ホテル・カリフォルニア」のリマスタリング作業は困難を極め、ブーミーな低音域を自分の思い描いたサウンドに仕上げるのにかなり苦労したという。 “もう二度と思い出したくない悪夢” のようなプロジェクトだったそうだ。その甲斐あってかこのDCC盤ではUSエレクトラ/アサイラム盤CDでは聴いたことがないような豊潤なサウンドがディスクに封じ込められている。手持ち盤聴き比べの結果、迫力の点ではUSオリジナルLPがベストだと思うが、何度も聴きたくなるのはこのDCC盤の方だ。タイトル曲におけるドン・ヘンリーのヴォーカルはより深みを増し、ギターの音色はえもいわれぬ愁いを帯びて響く。それでいてツインギターの絡みは切れ味抜群でドラムの押し出し感もしっかり表現されているのだから言うことナシだ。
Eagles - Hotel California - 1976 - DCC Remastered 1992


【マシン・ヘッド】
 DCC Compact Classics社は1992年から2000年までの約8年間で116タイトルの24KゴールドCDをリリース(GZSシリーズ)、その後Audio Fidelityへと社名を変え、2009年からHDCDエンコード(←何のこっちゃよーわからん...汗)したゴールドCDをリリースし始めたのだが(AFZシリーズ)、ニューDCCとでもいうべきAFから出たこの「マシン・ヘッド」を買った時はそんなこととは知らずに “何でケースがリフトロック式とちゃうんやろ?” と不思議に思ったものだった。この盤は何と言っても1曲目の「ハイウェイ・スター」の圧倒的なスピード感が聴き所なのだが、いざ実際に音を聴いてみて自分が期待していたサウンドとはかなり違っていたので拍子抜けしてしまった。何かフツーというか、DCC盤が持っていたアナログ的な空気感が希薄なのだ。誤解を恐れずに言えば “優等生的な音”... AFZシリーズはブンブン・ベースや飛び出すヴォーカル(笑)のような、DCCのGZSシリーズを初めて聴いた時の驚きやスリルに乏しいのだ。リマスタリングは同じスティーヴ・ホフマンなので、HDCDエンコードの影響なのか、マスタリング機材の違いなのか、あるいはその両方なのだろう。全7曲中で最も旧DCC的なサウンドを聴けたのが「スペース・トラッキン」で、バンドが一体となって生み出す破天荒なエネルギーがビンビン伝わってきて気持ち良かった。
Space Truckin' [DCC Ver.]
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ロックンロール黄金時代 / モット・ザ・フープル

2012-05-08 | Rock & Pops (70's)
 私がモット・ザ・フープルというバンドの存在を初めて知ったのは高校生の時だった。彼らはシングル・ヒット曲を連発するタイプのバンドではなかったので、ヒット・チャート番組が主な情報源だった私はそれまで彼らの曲を聴いたことがなかったのだが、音楽雑誌の「ロック名盤○○」とかいう記事のライヴ名盤特集で彼らの「ライヴ」が取り上げられているのを読んで興味を持ったのだ。当時はもちろん今のようにすぐにネットで試聴できるような恵まれた環境ではなく、ライターの文面からどんな音かを想像して自分の好みに合いそうなら安い中古盤を探して買うようにしていたのだが、 “聴く者をアブナイ衝動に駆り立てる暴力的なロックンロール” という表現や、「華麗なる煽動者」というインパクト抜群の邦題、そしてその風変わりなバンド名が気に入って、すぐに日本橋のワルツ堂へアルバムを買いに行った。
 しかし残念ながらお目当てのライヴ盤は置いておらず、代わりに彼らの代表曲と言われる「オール・ザ・ヤング・デューズ」(邦題:すべての若き野郎ども)を収録した同名のスタジオ録音盤が安かったので買って帰り、 “まぁライヴ盤とはちゃうけど、その暴力的なロックンロールとやらで思いっ切り煽動してもらおうやないか...” との期待に胸を膨らませてレコード盤に針を落とした。しかし聞こえてきたのは暴力的とは程遠い端正なグラム・ロック・サウンドで、事前の期待とのあまりのギャップに愕然とし、しっかりと聴き込みもせずに2・3回聴いて売っ払ってしまった。今の耳で聴くとイントロのギターの泣き加減とかサビの盛り上がりとか中々エエ感じの名曲なのだが、ひたすら “暴力的なロックンロール” を求めていた当時の私(笑)には刺激が足りず平板に聞こえたのだった。
 そしてその後しばらくの間は “モット・ザ・フープル = 期待外れ” と頭の中に刷り込まれてしまっていたのだが、そんな私の誤解を木端微塵に打ち砕いたのがこの「ゴールデン・エイジ・オブ・ロックンロール」(邦題:ロックンロール黄金時代)という曲だった。確かラジオの “ブリティッシュ・ロック特集” みたいな番組で流れてきたのを偶然耳にしたのだが、そのあまりのカッコ良さにブッ飛んだのを今でもよく覚えている。それはワイルド&アグレッシヴなサウンドでグイグイ押してくる痛快無比なロックンロール・ブギーで、 “1曲まるごとノリの塊” といっても過言ではないぐらいの圧倒的なグルーヴが脳の快楽中枢を刺激するのだ。この理屈を超えた生理的な快感こそロックンロールの原点だろう。ボブ・ディランの影響を感じさせるイアン・ハンターのヘタウマ・ヴォーカルがこれ又実にエエ味を出しており、私はこの曲こそが70年代ブリティッシュ・ロックが生んだ偉大なるロックンロール・アンセムだと思う。

MOTT THE HOOPLE - The Golden Age Of Rock And Roll (1974 UK TV Appearance) ~ HIGH QUALITY HQ ~


 そんな大名曲であるにも関わらずカヴァーが少ないのはモット・ザ・フープルによるオリジナル・ヴァージョンがあまりにも完璧すぎて誰も手を出せないからではないだろうか? だからこそデフ・レパードがアルバム「Yeah!」でオリジナルへのリスペクトに溢れたカヴァーを聴かせてくれた時はめちゃくちゃ嬉しかったし、 “イエロー・モンキー祭り” の時に取り上げたフープルへのトリビュート・アルバム「モス・ポエット・ホテル」の中で甲本ヒロト率いるハイロウズがカヴァーしたヴァージョンもロックンロールへの愛情がビンビン伝わってくる名カヴァーだ。
 「最近どう?」
 「レコード買ってるよ」
 「レコードっつーとやっぱ何かね?」
 「やっぱロックンロールしかないね」
 「何つってもロックンロール黄金時代~♪」
というイントロのダイアローグから一気に盛り上がっていき、 “バンバンバン~♪” へとなだれ込む展開なんかもうたまらんたまらん(≧▽≦)  やっぱりロックンロールは最高やね...(^o^)丿

THE HIGH LOWS THE GOLDEN AGE OF ROCK'N ROLL ~ロックンロール黄金時代~

Rumours / Fleetwood Mac

2011-12-11 | Rock & Pops (70's)
 先日、若手の同僚 H君が私の所へ来て “shiotch7さん、洋楽好きでしたよね?” と訊いてきた。 “うん、好きやけど、一体どーしたん?” “実はフリートウッド・マックっていうグループの「噂」っていうアルバム聴いてみたいんですけど、持ってはります?” とのこと。彼は今時の若者には珍しい良識ある好人物で、クラシック音楽が好きとは聞いていたが、どこかで偶然マックの「噂」を耳にしたのだろうか? “へぇ~ 中々エエ趣味してるやん!対訳・解説とか付いてない輸入盤でよければ明日持って来たげるわ。” とまぁこんなやり取りがあったのだが、サムがオーストラリアへ帰ってしまって以来久々に職場で音楽の話ができて楽しかった。
 というワケで家に帰って「噂」を聴いてみたのだが、久しぶりに聴くマックは実に新鮮でめっちゃエエ感じ。思えば去年の1月頃にマックにずっぽりハマッてこのブログでも大特集したが、H君のおかげでこの数日というもの、マック熱が再燃している。きっかけを作ってくれたH君に大感謝だ。ということで今日はフリートウッド・マック屈指の名盤「噂」でいくことにしよう。
 このアルバムは全米チャートで31週(←約8ヶ月間!)1位を記録し、アメリカだけでも1,900万枚を売り上げたという大ヒット盤なのだが、当時の私はまだ洋楽を聴き始めたばかりでビルボードのビの字も知らず、リアルタイムでその凄さを実感したわけではなかった。彼らに興味を持ったのはNHKの「ヤング・ミュージック・ショー」を見てからで、スティーヴィー・ニックスの妖艶な魅力にコロッと参ってしまい、すぐにレコード店へと走って「ファンタスティック・マック」と「噂」を購入した。
 元々はブリティッシュ・ブルース・ロック・バンドだったマックがリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスの加入により1975年のアルバム「ファンタスティック・マック」でアメリカナイズされたポップ・バンドへと大きく方向転換し、更にその路線を推し進めたのが1977年の「噂」で、この2枚はジャケット・イメージといい、洗練された女性ポップ・ヴォーカル・グループとしての魅力を前面に打ち出したサウンドといい、収録されている楽曲のクオリティーの高さといい、まさに一卵性双生児と言ってもいいぐらい雰囲気が似たアルバムである。それなのになぜ「噂」だけがあれほど異常に売れた(←「ファンタスティック・マック」も全米1位を獲得し、500万枚を売り上げた大ヒット・アルバムなのだが...)のだろうか?
 まず第一に「ファンタスティック・マック」がリリースから1年以上かかって1位になり、彼らの唯一無比なポップ・サウンドを受け入れる素地が十分出来上がったところへ絶妙のタイミングで「噂」をリリースしたことが挙げられる。しかも⑤「ゴー・ユア・オウン・ウェイ」(10位)、②「ドリームス」(1位)、④「ドント・ストップ」(3位)、⑧「ユー・メイク・ラヴィング・ファン」(9位)と、カットしたシングルを全てトップ10に送り込むことによって更にアルバムの売り上げを伸ばすという “80's型プロモーション” が功を奏したと言えるのではないか。例えるならデフ・レパードの「パイロメニア」と「ヒステリア」みたいなモンである。
 「ファンタスティック・マック」とのもう一つの違いは非常に微妙ながらアルバム全体に一種独特の緊張感が漲っていること。ポップ路線への転換が見事に当たってまさに絶頂期を迎えんとしていたマックだったが、それとは対照的にグループ内の人間関係は最悪で、リンジーとスティーヴィー、ジョンとクリスティンという2組のグループ内カップルが破局を迎え、リーダーのミックも離婚したばかりだった。普通ならそんな状態の5人が揃ってもロクな音楽は出来そうにないのだが、彼らは自作曲において逆境に置かれた自らの心情を赤裸々に吐露し、異常なまでの高い集中力で数々の名曲名演を生み出していったのだ。まさにプロフェッショナルの鑑である。
 中でも痛烈なのがリンジーの⑤「ゴー・ユア・オウン・ウェイ」で、 “君を愛したのは間違いだった... もう君の好きなようにしろよ... どこへでも行けばいい” と別れたばかりのスティーヴィーに対する捨て台詞のような歌詞は辛辣そのものだ。当時のライヴでサビのコーラスを付けるスティーヴィーの心情は如何ばかりだったろうかと思うが、97年のリユニオン・ステージでは酸いも甘いも噛み分けた(?)良き友人としてまるでお互いを慈しむように向き合いながらこの曲を歌っており、そんな二人の姿にジーンときてしまう。
 スティーヴィーの②「ドリームス」は名曲「リアノン」の流れを汲むナンバーで、彼女の妖艶な魅力が全開だ。しかしその歌詞は⑤に負けず劣らず辛辣そのもので、女を作って出て行ってしまったリンジーに対して “心を静めて自分が何を失ったか思い出してみるといいわ... あなたの前に現れた女たちもいつかは去っていく... 頭を冷やせばよく分かるはずよ...” とこれまた容赦ない(笑) ヴォリューム奏法(?)で幻想的なムードを巧く醸し出しているリンジーだが、この勝負、スティーヴィーの勝ちかな(^.^) この二人、レコーディング中は口もきかなかったらしいが(←怖っ)、歌詞を通して痴話ゲンカしてそれがミリオン・セラーになってしまうのだから音楽の世界は面白い。
 そんな愛憎渦巻く二人に比べ、穏健派(?)のクリスティン・マクヴィーが書いた④「ドント・ストップ」は “過去を振り返らずに未来に目を向けよう” というポジティヴな歌詞が◎。やっぱりこの人、オトナですね(^.^)  リユニオン・ライヴでの南カリフォルニア大学マーチング・バンドとの共演での盛り上がりは圧巻の素晴らしさだった。
 煌めくようなポップ・センス溢れる洗練されたサウンドとグループ内のドロドロした男女関係が生んだ人間臭い歌詞(←ぜひ注目して下さい!)が絶妙に溶け合ってアンビバレントな魅力を放つこの「噂」はフリートウッド・マックを、いや70年代ポップスを代表する金字塔的な1枚だと思う。

Fleetwood Mac - Go Your Own Way - Dance Tour '97


Fleetwood Mac - Dreams - The Dance -1997


Fleetwood Mac Don't Stop

Larks' Tongues In Aspic / King Crimson

2011-05-08 | Rock & Pops (70's)
 すっかりプログレ・ウイークと化してしまった今年の GW も今日でお終い、フロイド、EL&P と来ればシリーズ最終回は当然キング・クリムゾンである。絵的には牛、ガイコツに続いて “赤ら顔がうわぁぁぁ!” な「宮殿」でシメれば申し分無いのだが、コレは以前に2回も取り上げたのでパス。クリムゾンはリーダーのロバート・フリップを核にしてメンバー・チェンジを繰り返しながらその時々で異なる音楽性を提示してきた非常にユニークなグループなので、私的にはその時期ごと、アルバムごとに好き嫌いがハッキリ分かれてしまう。
 具体的に言うと、69年の「宮殿」~70年の「リザード」までを第1期、71年の「アイランズ」~72年の「アースバウンド」までを第2期、73年の「太陽と戦慄」~74年の「レッド」までを第3期と分類し、そして80年代の3枚は「ディシプリン・クリムゾン」と呼ぶのが一般的だと思うのだが(←90年代以降の盤は聴いてないのでよく分からない)、デビュー作にして最高傑作となった「宮殿」を別にすれば管弦楽器を多用した叙情的なサウンドを主体とする第1期~第2期のクリムゾンは私の嗜好とはかけ離れていてあまり楽しめない。
 私が好きなのはインプロヴィゼイション主体のエキセントリックなプレイがたまらない第3期とドライなギター・サウンドによるジャングル・ビートが快感を呼ぶ80’sディシプリン・クリムゾン。メロトロンがブワァ~な曲も決して嫌いではないのだが、やはりクリムゾンは緊張感漲るスリリングな演奏がベストと思ってしまう。今回はそんな中でも一番の愛聴盤でジャケットもタイトルも意味深な「太陽と戦慄」でいくとしよう。
 まずはアルバム・タイトルの原題 Larks' Tongues In Aspic、直訳すると “ヒバリの舌のゼリー寄せ” となり全く意味不明である。Elephant Talk の FAQ8 によると、スタジオで “このアルバムのタイトル何にする?” みたいな話になった時にパーカッションのジェイミー・ミューアが “そんなモン、Larks' Tongues In Aspic で決まりやん!” と言ったのを聞いたフリップがそのコトバの持つ響きを気に入ってそのまま採用されたとのことで、当初はタイトルそのものに特に深い意味はなかったらしい。一説によるとこのタイトルは男女のまぐわいを暗示しているらしいのだが、いずれにせよこーやって色々と言葉の裏に隠されたメッセージを探そうとしてしまうところがプログレのプログレたる所以なのかもしれない。
 太陽と月をあしらったジャケットも暗示的だ。後にフリップがインタビューで語ったところによるとこのアルバムの基本コンセプトは荒々しさを表す男性的特質と繊細さを表す女性的特質の融合らしいが、そうするとこのジャケットも “太陽=男” で “月=女” という隠喩なのだろうか。さすがはプログレ界でも孤高の存在と言われるクリムゾン、音を聴く前から既にプログレ特有の難解なオーラに頭がクラクラしてしまうが、いずれにせよ邦題を「太陽と月」にせず(←それじゃあドリス・デイになってしまう...)、そのスリリングな演奏を “旋律” と引っ掛けて「太陽と戦慄」とした担当者のセンスはさすがだと思う。
 このアルバムにはインスト3曲とヴォーカル入り3曲の全6曲が収められているが、聴き物は何と言ってもインストのA①B②③の3曲だ。初めてこれらのトラックを聴いた時は全くワケが分からず、ただ何となく怖いものを聴いてしまったような、そんな感じだったが、怖いもの見たさ、じゃなかった聴きたさに何度も繰り返し聴いているうちに、クリムゾンの演奏と自分の身体感覚が共鳴現象を起こしたかのような不思議な感覚を覚え、気が付けばアンプのヴォリュームを上げていた。
 まずアルバム冒頭を飾るA①「ラークス・タングズ・イン・アスピック・パート1」、最初はガムラン音楽みたいなイントロが延々と続いて少々ウンザリさせられるのだが、2分53秒を過ぎたあたりから緊張感を煽るようなヴァイオリンの細かい刻みに導かれるようにディストーションを効かせたギターがフェイドイン、思いっ切り不安感をかき立てておいて3分40秒でアンサンブルが大爆発し、それ以降はブラッフォードの叩き出す複雑でタイトなリズムにウェットンの強靭なベースが絡み、その中をフリップのアグレッシヴなギター・リフと狂気に満ちたミューアのパーカッションが乱舞しながら疾走していくという、実に緊張感とエネルギーに満ち溢れた破壊的な音世界を構築している。7分40秒以降は静謐なヴァイオリン・ソロが続くのだが私には退屈以外の何物でもない。邪道ではあるが、私は序章の冗長なガムランと後半の退屈なヴァイオリンのパートをカットして「自家製・太陽と戦慄パート1」を編集して楽しんでいる。
 A②「ブック・オブ・サタデー」とA③「エグザイルズ」、そしてB①「イージー・マネー」ではジョン・ウェットンのヴォーカルが楽しめる。A②③は落ち着いた雰囲気の叙情的なバラッドなのだが、A①のインパクトが強すぎるせいか、あまり印象に残らない。B①は変拍子炸裂のナンバーで、ブラッフォードの変幻自在のプレイに耳が吸い付く。パーカッションの “ポヨ~ン” やエンディングの笑い袋(?)には思わず脱力してしまうが、何はともあれ面白い曲だと思う。
 B②「トーキング・ドラム」は風が吹きわたるような音の中をパーカッションがフェードイン、ドライヴ感溢れるドラムのビートに乗って延々と反復されるベースのリフ(←このベースラインがこの曲のキモやと思います...)に怪しげなメロディーを奏でるヴァイオリンとギターが重なり合いながら絡みつき、壮絶なインプロヴィゼイションが繰り広げられるという、キング・クリムゾンにしか作り得ない名演だ。
 そして徐々に音圧が増していき、悲鳴のような金属音から切れ目なしにB③「ラークス・タングズ・イン・アスピック・パート2」へとなだれ込む瞬間こそがこのアルバム最大の聴き所。ヘビメタよりもヘヴィーでメタリック、凄まじいくらい攻撃的なギター・リフが変拍子満載で堪能できるのだからたまらない(≧▽≦) このあたりはメタリカのルーツと言っても過言ではないくらいスリリングだし、不協和音を奏でるヴァイオリンも狂気を感じさせる。反復運動を繰り返しながら徐々に絶頂へと向かい最後の最後でエクスタシーの大爆発を迎える様を見事に音で表現したパートは聴いていて実に心地良いもので、このカタルシスは一度味わうとクセになる麻薬的な魅力を内包している。コレはまさに男女のセックスを連想させるものであり、タイトルからジャケット、そして演奏に至るまで全てがフリップの言う “男女の融合” というコンセプトで見事に貫かれていることが分かる。とにかくこの曲はクリムゾンの私的トップ3に入る超名曲名演だ。
 第3期のクリムゾンは、同じプログレ・バンドでも感性に訴えかけてくるようなフロイドとは対照的に何かこうネチネチと攻めてくる理詰めのサウンドというイメージがあるが、このアルバムは綿密に計算・構築されたサウンドとスリリングな即興演奏の融合というアンビバレントな手法を両立させた類稀なる傑作で、決して万人にオススメできるような盤ではないが、個人的には「宮殿」に比肩するくらい愛聴している1枚だ。

King Crimson - Lark's Tongues In Aspic, Part I


King Crimson "Easy Money"


King Crimson - The Talking Drum


King Crimson - Lark's Tongues In Aspic, Part II
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Brain Salad Surgery / Emerson Lake & Palmer

2011-05-04 | Rock & Pops (70's)
 “勝手にプログレ” シリーズ、牛に続く第2弾はしゃれこうべである。アルバムは大好きな EL&P の「恐怖の頭脳改革」。ジャケットは映画「エイリアン」のデザイナーとして有名なH.R.ギーガーのアートワークで邦題共々おどろおどろしい雰囲気を醸し出しているが、このガイコツ・ジャケット、アナログLPは観音開き仕様になっており、開けるとギリシア神話に出てくる妖女メドゥーサ(目を瞑っているので石にならずにすみます...)が現れるという仕掛けである。
 原題の「Brain Salad Surgery」は直訳すると “脳ミソサラダ外科手術” と意味不明なのだが、いくら何でもコレを邦題にするワケにはいかない。後にキース・エマーソンがインタビューで語ったところによれば、コレは性的な意味を持つスラングなんだそうで、確かに円内の女性の口元から下の部分(特に喉仏)をよくよく見ればなるほどなぁと思えるが、高尚な音楽ブログを目指す私としてはこれ以上は書けない(笑) そんなアブナイ原題をガイコツのイメージと Brain Surgery というコトバを巧く組み合わせて「恐怖の頭脳改革」としたセンスは見事だと思う。
 このアルバムの聴き所は何と言ってもA面ラストからB面すべてを使い、トータル30分近くにわたって繰り広げられる空前絶後のプログレ絵巻「カーン・イーヴル9」(邦題:「悪の経典#9」)である。この曲はA⑤「1st インプレッション・パート1」、B①「1st インプレッション・パート2」、B②「2nd インプレッション」、B③「3rd インプレッション」の3部構成になっており、当時最先端だったモーグ・シンセサイザーを大胆に導入しながら “キーボード主体のハードロック” とすら呼べそうなイケイケのナンバーに仕上げている。
 A⑤とB①の「1st インプレッション」は一番ロック色の濃い演奏で、プログレのお約束とでも言うべき細かい転調はあるものの、緊張感漲る3人のプレイが混然一体となって有無を言わせぬパワーで迫ってくる。その圧倒的なスケール・存在感はもう凄いという他ないし、何よりもこのたたみかけるようなスピード感がたまらない(≧▽≦) 尚、アナログLPでは収録時間の関係からAB面でパート1と2に分かれているが、B面アタマで “Welcome back, my friends, to the show that never ends...” とフェイド・インしてきていきなり全開で突っ走るところがカッコ良くて好きだ。
 B②の「2nd インプレッション」はキースのジャジーなピアノ・プレイからパーカッシヴなパートへと一気になだれ込む怒涛の展開にゾクゾクさせられる。タイトルの Karn Evil とは Carnival を一ヒネリした造語なのだが、特にカーニバル感が強いのがこのパートで、2分22秒あたりで炸裂する「セント・トーマス」の一節にはニヤリとさせられる。この後静と動のコントラストを描くようなピアノ主体のパートが続くのだが、ここはもうキースの独断場。実にスリリングなインプロヴィゼイションが楽しめて言うことナシだ。
 B③の「3rd インプレッション」は宇宙戦艦ヤマトのテーマみたいな勇壮な感じの行進曲調で始まり、そのまま大団円に向けて予定調和的に突き進むのかと思いきや、さすがはプログレ、そうは問屋が卸さないとばかりにキースのシンセが4分25秒あたりから風雲急を告げるようなフレーズを連発、変幻自在なプレイでもう一盛り上がりをブチかまし、今度こそ怒涛のエンディングへ... しかしコレがピコピコ音を前後左右に振り回しながら突然スパッと終わるという何とも尻切れトンボ感が拭えないトホホなエンディング。何コレ? ドラマチックな大作のエンディングに相応しくもっと大仰でカッコエエ終わり方にしてほしかったというのが正直なところだ。(←ゼータク言うな!)
 このA⑤B①②③と続く「カーン・イーヴル9」の組曲的展開はまさに圧巻の一言で、起伏に富んだメロディーや緩急を付けたリズムを駆使した見事な構成によって30分という長さを感じさせずに一気呵成に聴かせてしまうところが凄い。とにかくプログレの持つ重苦しい思想的・観念的・哲学的な側面、そしてすぐにクラシック音楽に色目を使いたがる技術偏重主義的な所が大嫌いなカタギのロック・ファンである私にとって、この痛快無比な「カーン・イーヴル9」はクリムゾンの「21世紀の精神異常者」、フロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」と並ぶプログレ3大名曲名演の1つであり、これら3曲は大音量で音の洪水の中に身を投げ出すようにして聴くとその凄さが実感できると思う。
 私がこのアルバムをかける時はいつもA⑤からで、A面アタマの4曲は滅多に聴かない。壮大なオープニング曲と言える①「エルサレム」は讃美歌っぽくてあまり好みではないし、②「トッカータ」なんてシンセに寄りかかっただけの何の面白味もない無機質な演奏であり、ハッキリ言って私がEL&P の中で最も嫌いなタイプのトラックだ。③「スティル・ユー・ターン・ミー・オン」はグレッグ・レイクお得意のアコースティックなバラッドで①②よりは遥かにマシだが、このタイプの曲ならやはり1st アルバムに入っていた「ラッキー・マン」の方がいい。
 ④「ベニー・ザ・バウンサー」はこの4曲の中では1番楽しめるアップテンポなナンバーで、ラグライム・ピアノ主体の軽快なロックンロール。カール・パーマーのパスパスと手数の多いドラミングが良い味を出しているが、所詮は大作⑤に入る前のお遊び的な楽曲に過ぎない。私的にはむしろ “久しぶり そいつはゲイだ なぁ部長~♪” という空耳ソングとして忘れ難い1曲だ。
 1973年に彼らが設立したレーベル「マンティコア」からのリリース第1号となったこの「恐怖の頭脳改革」はA面の一部を除けば(←しつこい)間違いなく EL&P の最高傑作であり、このアルバムで彼らはプログレ・ロック・トリオとしての可能性の限界を極めてしまった感がある。だからこれ以降彼らが失速してしまったのも大いに頷けるのだが、その事実が逆説的にこのアルバムのとてつもない完成度の高さを証明しているように思う。

Emerson, Lake & Palmer - Karn Evil 9: 1st Impression


Emerson Lake & Palmer - Karn Evil 9 2nd Impression


Emerson, Lake & Palmer - Karn Evil 9: 3rd Impression

Atom Heart Mother / Pink Floyd

2011-05-01 | Rock & Pops (70's)
 今年に入って震災は起こるわ、仕事は忙しゅーなるわ、スーちゃんは亡くなるわで自分的には暗い気分の日が続いている。こんな時こそ音楽を聴いてスカッとしたいものだが、ヒネクレ者の私は凹んだ時に明るい音楽を聴いても全然楽しめず、むしろ暗くてヘヴィーな音楽を本能的に求めてしまう傾向がある。ということで最近はカラッとしたアメリカン・ロックよりも翳りのあるブリティッシュ・ロック、それもハッピーで分かりやすい80's よりもちょっと難解な70'sのロックをよく聴いている。
 難解なロックといえば真っ先に頭に浮かぶのがプログレである。私は基本的にはビートルズやラモーンズのような分かりやすいストレートなロックンロールが好きなのでプログレに関しては専門外なのだが、そんな私でもピンク・フロイド、EL&P、キング・クリムゾンの三大バンドだけはそれなりに聴いてきた。EL&Pはギター抜きとはいえ基本的には自分が聴いてきたロックのノリとほとんど変わらなかったし、クリムゾンも当たり外れはあるにせよ「宮殿」を含め何枚かは自分の嗜好に合っていたのだが、フロイドだけはどうにもつかみどころがないという感じで、「吹けよ風、呼べよ嵐」や「マネー」、「シープ」といったイケイケなナンバーを除けば私には敷居が高い演奏が多く、 “やっぱりプログレは難しいわ” という思いを植え付けられたものだった。
 私が基本的にプログレ・ド素人なせいかもしれないが、ピンク・フロイドほどその時々でアルバムの好き嫌いが乱高下するバンドは珍しい。「ザ・ウォール」なんて発売された当時は結構好きでよく聴いていたが、最近久々に引っ張り出して聴いてみるとそのあまりの暗さに辟易して途中で聴くのをやめてしまった(>_<) 逆に「炎」は昔はそんなに好きじゃなかったのに、彼らの音楽の根底に潜むブルース・バンドとしての魅力に目覚めてからは愛聴盤になったのだから、やはりフロイドは一筋縄ではいかないというか、奥が深いバンドである。
 今日取り上げる「原子心母」は私が初めて買ったフロイドのアルバムで、別に「神秘」でも「おせっかい」でも「狂気」でも良かったのだが、ジャケットのインパクト一発でこのアルバムを選んだのだ。今ではヒプノシス(←フロイドの主要作品や後期ゼッペリン、ウイングスにT.レックス、ユーミンまで手掛けた名デザイン・グループ)の作品ということで大いに納得だが、当時中学生だった私にとっては “牛のジャケット” というのがメチャクチャ衝撃的だった。牛でっせ、牛。しかもこの牛、こっちを振り向いてガンを飛ばしてるように見えるではないか。ここで引いたら負けである。(←何のこっちゃ!) 因みに裏ジャケでは3頭の牛が正面からメンチを切っている。コレはさすがにコワイですわ...(>_<)
 このアルバムはジャケットのみならず、邦題タイトルのインパクトも絶大だった。原題の Atom Heart Mother を、竹を割ったような潔さで直訳して「原子心母」ときたモンだ。「げんししんぼ」って私にはまるで既成の四字熟語みたいに聞こえるのだが、このコトバの響きには何か人を引き付けてやまないサムシングがあるように思えてならない。原題は原子力電池で動くペースメーカーを付けた妊婦さんの新聞記事から取られたらしいが、ここはやはり重厚な響きを持つ「原子心母」(←何か原子力空母の名前みたい...)の方が「アトム・ハート・マザー」よりも数倍カッコイイ(^o^)丿
 邦題と言えば、アルバム・タイトルだけではなく各曲の和訳も面白い。「ミルクたっぷりの乳房」(←濃厚な牛乳が飲めそう...)に「むかつくばかりのこやし」(←くっさ~)、「喉に気をつけて」(←製薬会社のCMかよ!)、「デブでよろよろの太陽」(←どんな太陽やねん!)など、まるでリスナーを笑わそうとしてるんか、と思いたくなるような迷訳珍訳のオンパレードなのだが、コレがまた音楽を聴く前からこちらの好奇心・想像力をビンビン刺激してくる。とにかくシュールなジャケット、重厚な邦題、笑える曲名と、これでつかみは完璧にOKだ。
 このアルバムは何と言ってもA面すべてを使ったタイトル曲①「アトム・ハート・マザー」が圧倒的に、超越的に、芸術的にすんばらしい!巷では “オーケストラとの共演によりクラシック音楽の要素を導入” という点ばかりが強調されているような感があるが、クラシックがナンボのもんじゃいと思っている私にとってはロック・シンフォニーがスベッただの、合唱隊のコーラスがコロンだだのといった能書きはどうでもいい。心して聴くべきはデイヴ・ギルモアのブルージーなギター・ソロが炸裂するパート(3:50~5:21と10:10~13:25あたり)と「レヴォリューション№9」みたいなサウンド・コラージュ・パートを経て曲のテーマのフラグメンツが現れては消え、消えては現れを繰り返しながら徐々に形を整えて大団円に向かって収斂していくかの如きエンディング・パート(18:40~23:45)、コレに尽きると思う。A面を聴き終えた頃にはもう「アンクル・アルバート~アドミラル・ハルセイ」を裏返しにしたようなテーマ・メロディの脳内リフレインは確実だ。
 B面の大半はA面とは対極に位置するようなアコースティック・ナンバーで、そのあまりの落差に唖然とさせられるが、①「イフ」は曲調は思いっ切り地味だがその歌詞はアルバム「狂気」へと繋がる重要なナンバーだし、牧歌的な雰囲気で始まるリック・ライトの②「サマー’68」なんかブラスが炸裂する1分12秒あたりからのポップな展開は「マジカル・ミステリー・ツアー」の頃のビートルズっぽい味わいがあって結構気に入っている。③「ファット・オールド・サン」は沈む間際の大きく見える太陽のことで、その名の通り何となくよろよろした歌声に脱力感を禁じ得ない(笑)が、ギルモアの歌い方といい、ニック・メイソンのドラミングといい、どことなく「マザー・ネイチャーズ・サン」っぽい雰囲気を持ったナンバーだと思う。
 ④「アランズ・サイケデリック・ブレックファスト」はバンドのロード・マネージャーだったアラン・スタイルズの朝食風景を音で表現したもの。蛇口から雫ががポタポタ落ちる音やジュージューと目玉焼きを焼く音、ガツガツ食ってゴクゴク飲む音etcをフィーチャーしたミュージック・コンクレート風のナンバーだが、随所に挿入されるピアノやギターが奏でるメロディーの断片が素晴らしく(←特に「上を向いて歩こう」みたいなピアノと「ディア・プルーデンス」みたいなアコギが好き!)、いかにも前衛やってます的ないやらしさは微塵も感じられない。スピーカーに対峙して聴くような音楽ではないが、何かをしながらBGMとして聴けば中々面白いトラックだと思う。
 この「原子心母」は初めて聴いた時はどこがエエのか全く分からずすぐに売っ払ってしまったが、 “ひょっとして自分の感性が乏しいんとちゃうやろか...” とその後も心の片隅でずっと気になっていた因縁浅からぬアルバムで、それから30年ぐらい経ってCDレンタルで聴き直して、初めてその真価が分かったというニクイ1枚なのだ。やはりプログレの道は1日にしてならず、ということだろうか。

Pink Floyd - Atom Heart Mother Suite


Pink Floyd - Summer '68


Pink Floyd-Alan's Psychedelic Breakfast

ピアノ・マン / ビリー・ジョエル

2011-02-09 | Rock & Pops (70's)
 先週の土曜日、サムとデイヴがウチの家へ遊びに来てくれた。G3 以外で友人を家に呼ぶのはホンマに久しぶりである。ベジタリアンの二人のために頑張ってイタリアンのミニ・コースを作ったらめっちゃ喜んでくれた。お世辞半分だとしても “美味しい!” と言ってもらえるとやはり嬉しいモンである。そんなこんなで料理や音楽の話で会話も弾み、すっかりリラックスした我々はリスニング・ルームへと移動した。
 部屋に入った二人は壁一面の LP を見て “ワァオ~(゜o゜)” と驚きながらも早速 LP 棚をチェックし始めた。とにかく二人とも CD には目もくれずに LP オンリーである。サムは60's オールディーズのコーナーを、デイヴは70's ロックのコーナーを熱心に見ている。 “気に入った盤あったら何でもかけるから言ってね~ (^_^)” と言うと二人は “You look like a DJ!” と笑いながら次々と LP を棚から引き抜いて渡してくれた。
 G3 の時と同じで、ある LP の中からどの曲を選ぶかでその人の趣味嗜好というものが浮き彫りになるものだが、二人の選曲は実に私と似通っている。サムはジャッキー・ウィルソンの「リート・ペティート」やサム・クックの「チェイン・ギャング」、デイヴはカーズの「ジャスト・ホワット・アイ・ニーディッド」やフォリナーの「コールド・アズ・アイス」などを選曲したが、彼がクリムゾンの 1st から「21センチュリー・スキッツォイド・マン」と「ザ・コート・オブ・ザ・クリムゾン・キング」を、エルヴィスのラスベガス・ライヴから「イン・ザ・ゲットー」と「サスピシャス・マインド」と、それぞれ2曲ずつ指定してきた時は以心伝心というか、私も全く同じチョイスを考えていたので嬉しくなり思わずハグしてしまった(笑)
 そんな中、サムが大好きだというビリー・ジョエルの2枚組ベスト・アルバム「グレイテスト・ヒッツ Vol.Ⅰ& Vol.Ⅱ」を私に差し出し、どれでもいいから好きな1曲を選べと言う(←なぜか「オネスティ」だけは嫌いらしいが...)。ビリー全盛期の名曲が満載のアルバムから1曲というのはかなり難しい注文だが、私は一瞬迷ったあげく、初期の大名曲「ピアノ・マン」を選んだ。もちろんメロディーもサウンド・プロダクションも素晴らしいのだが、何と言ってもその歌詞が最高なのだ。
 この曲はあるバーに集まる常連客についてピアノ弾きが見聞きしたことを語りながら孤独な現代人の心情を見事に描いたもので(←YouTubeで訳詞付きのヤツを見つけたので下に貼っときました)、目を閉じて聴いていると薄暗いバーの光景が、そしてそこでピアノ弾きが目にする人間模様が鮮やかに浮かんでくる。ビリーの歌声は登場人物の語りの部分で何かを訴えるようにより力強く響き、エンディングの自らへの問いかけ “Man, what are you doing here?” でそれが最高潮に達するのである。何という見事な語り口だろう!まさに稀代のストーリーテラー、ビリー・ジョエルの面目躍如と言っていいナンバーだ。
 彼のピアノも緩急自在なプレイで曲の魅力を最大限引き出していて言うことナシ。しかも間奏のハーモニカ(正式にはブルースハープ)がこれまた絶品で、私の心の琴線をビンビン震わせる。そんなビリー屈指の名曲名演を音楽好きの朋友と共に大音量で聴く喜びを何と表現しよう? この曲は中学の頃からもう何百回と聴いてきたが、これまでで一番感動した「ピアノ・マン」だった。言葉の壁を乗り越えて素晴らしい音空間を分かち合えたサム&デイヴにはいくら感謝しても足りない。やっぱり持つべきものは音楽の話が出来る友人やねぇ... (≧▽≦)

PIANO MAN 訳詞付 / ビリー・ジョエル


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Dark Side Of The Moon / Pink Floyd

2010-12-04 | Rock & Pops (70's)
 キング・クリムゾン、ELP、イエス、ピンク・フロイドという、いわゆる“プログレ四天王”の中で私にとって最も難解なバンドがフロイドである。ELP はギターの代わりにキーボードを使ったハードロックみたいなモンだし、クリムゾンも聴きようによっては過激なへヴィー・ロックとして十分楽しめる。逆にイエスは私には退屈な催眠音楽にしか聞こえないので別にどうでもいい。しかしフロイドにはめっちゃ楽しめる演奏(←ミーハーでゴメンやけど、ブッチャーのテーマにも使われた「吹けよ風、呼べよ嵐」が最高!!! 発表当時賛否両論渦巻いた「アニマルズ」も結構好きだったりする...)とワケのわからない演奏(←「神秘」とか「ファイナル・カット」とか全く意味不明...)が混在しており、諸手を挙げて大ファンとも言えないし、かといって一刀両断に切って捨てることもできないという、中々一筋縄ではいかないバンドなのだ。
 私が初めて彼らの存在を知ったのは中学生の時で、「ビートルズ・フォーエヴァー」という来日10周年記念の緑色の冊子(←コレがまた読み応え十分な内容で、当時の自分にとってはまさに座右の書だった…)の巻末に東芝EMIグループ所属の他バンドのレコード紹介欄があり、フロイドはそこでベイ・シティ・ローラーズやスージー・クアトロ、ボブ・マーリィらと一緒に十把一絡げで紹介されていた。当時の私はまだ洋楽を聴き始めたばかりのヒヨッ子だったが、なぜか “ピンク・フロイド” というグループ名が印象に残り、そこに載っていた簡単な解説を何度も読んで、試しに1枚聴いてみようと思った。そこで私が選んだのが「原子心母」。「Atom Heart Mother」という原題を直訳しただけの日本語タイトルだが、その四字熟語的な言葉の響きが気に入ったのと、例の牛さんジャケットのインパクトが大だったという実に単純な理由からだった。
 早速安い中古盤を買ってきて一通り聴いてみたのだが、コレがもう何が何だかサッパリ分からない。ビートルズ、ウイングス、カーペンターズ、ベイ・シティ・ローラーズ、キッス、クイーン、ディープ・パープルぐらいしか聴いたことがなかった当時の私は、思わず身体が揺れるようなロックンロールのノリが全く感じられないフロイドのプログレッシヴ・ロックに全く馴染めず、 “コレのどこがロック史上に残る不朽の名作やねん!” とそれまでの期待が大いなる失望に変わり(←よくあることです...)、そのLPをすぐに売っ払ってしまった。今にして思えばそのレヴューの中の “クラシック音楽の要素を導入” とか “実験音楽の成果を大胆に取り入れ” といった箇所の示唆するところが全く分かっていなかった自分がアホなだけだったのだが...(>_<)
 それから数年後、「ザ・ウォール」が全世界で爆発的にヒットし、ラジオでも「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール・パート2」がガンガンかかり始めて私は再び彼らに興味を持った。今でもよく覚えているのだが、風邪を引いて高熱を出した時のこと、私は布団の中でアルバム「ザ・ウォール」のエアチェック・テープをヘッドフォンの大音量で聴きながらユメウツツの世界を彷徨った。気がついてみると音楽は2枚組ラストの D面にさしかかっており、あれほど高かった熱がウソのように下がっていた。まるでトランス状態のような、その時の “何かワケわからんけど気持ちイイ” 感覚こそがフロイドの本質ではないか(←ドラッグやりながら聴くと最高にハマるっていうのはそういうことなのかも…)と考えた私は他の盤も聴いてみようと思い、色々調べて白羽の矢を立てたのが彼らの最高傑作と言われるこの「狂気」である。
 フロイド・ミュージックの大きな特徴として SE を駆使したその立体的なサウンド・プロダクションが挙げられるが、スポンティニアスなノリの良さを求める私にとっては、心臓の鼓動音から始まる①「スピーク・トゥ・ミー / ブリーズ・イン・ジ・エアー」も、タイムワープみたいな②「オン・ザ・ラン」も、感心はするが感動はしない類の音楽だ。
 しかし③「タイム」で一斉に時計が鳴り出すところには度肝を抜かれるし、ギルモアのギターが訥々と叙情的なフレーズを放射するパートなんか思わず聴き入ってしまう。この人のギターは目立った速弾きをしないので地味に聞こえるが、ブルースをベースとしているだけあってツボを押さえたプレイというか、心にグッと響く音を紡ぎ出すところが凄いと思う。
 フロイドのアルバムの多くは、1枚丸ごと1つの組曲みたいな感じなので曲単位でどうこう言ってもしゃあないところがあり、この盤も①②は③に至る長~いイントロのように思えてくるし、④「ザ・グレート・ギグ・イン・ザ・スカイ」も③の後奏曲に思えてくるから不思議なものだ。気がつけばすっかり彼らの音世界にハマりこんでいる自分がいるのだが、これがフロイド・マジックなのか?
 B面では何と言っても⑤「マネー」が圧巻!!! イントロでレジやお金の音がベースと重なり、それがそのまま曲のリズムへと変化していくアイデアには唸ってしまうし、ギルモア入魂のアグレッシヴなギター・ソロは何度聴いてもゾクゾクさせられる。この曲は上記の「吹けよ風、呼べよ嵐」と並ぶ超愛聴曲で、私のようにプログレの持つ思想的・観念的側面が息苦しくてどうも苦手というカタギのロック・ファンがフロイド聴くならまずこの2曲!というのが正直なところだ。
 インタールード的な⑦「エニーカラー・ユー・ライク」から⑧「ブレイン・ダメージ」、⑨「エクリプス」へと至る流れも聴き所。そのドラマチックで壮大なスケールの音世界はさすがという他ない。彼らの歌詞は文学的というか哲学的というか、とにかく深いモノが多く、私は考えるのが面倒臭いのでいつも聞き流しているが(笑)、このアルバムのテーマである“狂気”に言及した⑧こそがロジャー・ウォーターズが最も表現したかったことなのかもしれない。
 全米アルバム・チャートの200位内に1973年から88年までの15年間に亘ってランクインし、全世界で4,500万枚を売り上げたというこのアルバム、まだまだその凄さの一端しか分からないが、ぜひ一度 SACD のような高音質フォーマットで、それも音の洪水の中にどっぷり浸かるようにして聴いてみたいものだ。

Money - Pink Floyd + Lyrics


Time - Pink Floyd (Stuido Version)