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shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ / ドリス・デイ

2012-03-15 | Standard Songs
 2月の半ばから約1ヶ月にわたって続けてきた “ポールのスタンダード特集” も今日で最終回。通常盤に入っている中で特集可能な曲はすべてやり尽くしたので、今日は16曲入りのUK盤に収録されていたボーナス・トラックの1曲、「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」でいこう。
 この曲はロシアのクラシック作曲家アントン・ルビンシュタインという人の「ロマンス」という曲にインスパイアされて1953年にロバート・メリンが作詞、ガイ・ウッドが作曲した美しいラヴ・ソング。 “あなたを想うだけで私の心は歌い出す... あなたの手が触れただけでまるで天国にいるような気分... あなたへの想いで胸が一杯... あなたのキスの一つ一つが私の心に火をつける... 私は喜んですべてを捧げよう... 私のただ一人の愛しい人よ” という激甘な歌詞からも、ポールのナンシーさんへの熱い想いがヒシヒシと伝わってくる選曲だ。
 スタンダード・ナンバーとしての人気・知名度はまさにA級と言ってよく、ヴォーカル物では最初にレコーディングしたフランク・シナトラ(1953)を皮切りに、ジョニ・ジェイムズ(1955)、リタ・ライス(1955)、ジョー・ムーニー(1957)、リタ・ローザ(1957)、ジューン・クリスティ(1958)、ディオン(1961)、バリー・シスターズ(1961)、エラ・フィッツジェラルド(1962)、ジョニー・ハートマン(1963)、キャロル・スローン(1982)、リッキー・リー・ジョーンズ(1991)、ジャネット・サイデル(1998)、ロッド・スチュワート(2005)、ソフィー・ミルマン(2009)と挙げていけばキリが無い。まるでこの曲の美しいメロディーに魅せられたかのように我も我もと吹き込んでいるのだ。
 インスト物ではサックス、ピアノ、ギターに集中していて、ビリー・テイラー(1953)、アート・テイタム&ベン・ウェブスター(1956)、リッチー・カミューカ(1957)、ペッパー・アダムス(1957)、コールマン・ホーキンス(1958)、グラント・グリーン(1961)、オスカー・ピーターソン(1964)、ウェス・モンゴメリー(1965)、ケニー・バレル(1980)、アリ・リャーソン(2007)らの演奏があり、ジプシー・ジャズ系でもロマーヌ(2003)、イズマエル・ラインハルト(2006)、スウィング・アムール(2006)、ビレリ・ラグレーン(2008)とまさに引っ張りだこ状態である。ドラマチックな歌詞と美しいメロディー・ラインを持ったこのバラッド曲はある意味ごまかしがきかないというか、シンガー/プレイヤーとしての力量が試されるところがあり、そういう意味でも色々なアーティストを聴き比べて楽しめる1曲と言える。
 このように多くのアーティスト達が取り上げている中、ヴォーカルではシナトラかハートマン、インストはテイタム&ウェブスターがこの曲の決定版というのが一般的な世評だろう。確かにそのどれもが “王道” という言葉がふさわしい名唱・名演だとは思うが、ここでは敢えて shiotch7認定 “裏名演” 3ヴァージョンをピックアップしてみた。

①Doris Day
 元々この曲の歌詞は男性の立場で歌うように書かれたものだが(←“君は僕の腕の中”とか、“君は頬を赤く染める”とか...)、あまりの名曲故か、上に挙げたように女性シンガーもよく歌っており、そんな中でも一番気に入っているのがドリス・デイのヴァージョンだ。アンドレ・プレビン・トリオの伴奏でドリス・デイのヴォーカルが楽しめるジャジーなアルバム「デュエット」(1962年)に入っていたもので、彼女のほのかな色香の薫るハスキーな歌声と歌伴マイスターであるプレビンのツボを心得たピアノの相性もバッチリだ。甘い曲想をキリリと引き締めるレッド・ミッチェルの重低音ベースが絶妙な隠し味として効いており、文句なしの名演と言っていいだろう。ポピュラー・ソング、映画主題歌、そしてジャズのスタンダード・ナンバーと、どんな曲を歌っても彼女は決して期待を裏切らない。まさに “ドリス・デイに駄盤なし” だ。
Doris Day and Andre Previn My One and Only Love


②Benny Carter
 この曲のテナー・サックスによる決定版が「テイタム・ウェブスター」ならアルトはコレ! 1954年にリリースされた「ベニー・カーター・プレイズ・プリティ」というデヴィッド・ストーン・マーチンによるイラスト・ジャケで有名な10インチ盤に入っていたもので、ラヴ・ソングばかりを集めてカーターのメロウで芳醇なアルトの音色で楽しめるという悦楽盤だ。後に12インチ盤「ムーングロウ」として再発されているが、美女が佇むそっちのジャケも雰囲気抜群で甲乙付け難い。演奏の方も素晴らしく、豊かな歌心でロマンチックなメロディーを朗々と歌い上げるカーターの優美で流麗なソロがこの曲の素晴らしさを極限まで引き出している。大切な人と特別な時間を共有したい時の BGM にピッタリの名演だ。
Benny Carter - My One And Only Love


③キヨシ小林
 この曲は原曲のメロディーを崩さずにスロー・テンポのバラッドとしてしっとりと歌い上げるのが定石だが、そんなバラッドの名曲をジャンゴ・スタイルで見事にスイングさせているのが日本が世界に誇るマヌーシュ・ギタリスト、キヨシ小林のこのヴァージョン。アルバム「ジャンゴ・スウィング」には「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」のスロー・ヴァージョンとこのアップテンポ・ヴァージョンが2曲続けて収められており、本人の曲目メモによると、 “ここでは欲張ってスローとハイテンポでレコーディングしちゃいました。” とのことだが、テンポを上げてスイングさせるという発想そのものが素晴らしい。特に後者のザクザクと刻むギター2本とベース1本のトリオ演奏という最小限のユニットが放つ絶妙なスイング感がたまらなく耳に心地良い。やっぱりジプシー・ギターはエエなぁ... (≧▽≦)
キヨシ・コバヤシ
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アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ / ペギー・リー

2012-03-11 | Standard Songs
 それまでノーマークだった曲が何らかのきっかけで愛聴曲になることが私にはよくあるのだが、今回のポールのアルバムを聴いて改めてその良さが分かった曲が「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」である。ポールがミディアム・テンポで軽やかにスイングするこの曲は、スロー・バラッド中心の「Kisses On The Bottom」の中でひときわ輝きを放っており、曲自体は知っていたもののそれまで特に気にもせずにスルーしていた私はあわてて手持ちの CD やレコードを再チェックした。
 それにしても曲名の “Ac-Cent-Tchu-Ate” っていう単語、ハイフン3連結で初めて見た時は何のこっちゃ?と思ったのだが、よくよく考えてみると accent(アクセント、つまり強調)に -ate (~する)を足して動詞化した accentuate が口語的発音で Ac-Cent-Tchu-Ate と訛ったもののようで、直訳すれば “ポジティヴなことを強調しなさい” ということ。面白そうなので調べてみると、この曲を作詞したジョニー・マーサーがある神父さんのお説教を聞いて、その中に出てきた “You've got to accentuate the positive and eliminate the negative.”(ポジティヴなことは強調して、ネガティヴなことは取り除いてしまいなさい...)というフレーズが気に入ったのがきっかけだったという。
 後日、コンビを組んでいるハロルド・アーレンが口ずさんだメロディーに合うように “Ac-Cent-...” とハイフンを入れてブツ切りにし、 “Latch on to the affirmative, don't mess with Mr. In-Between”(しっかりと前向きに行こう、中途半端に迷っちゃダメだよ...)や “You've got to spread joy up to the maximum, bring gloom down to the minimum”(喜びは最大限にまで高めて、悲しみは最小限に抑えよう...)といった名フレーズを加えて曲を完成させたとのことだが、悩んだり苦しんだりしている人々を励ますような歌詞が軽やかなメロディーとバッチリ合っていて、思わず鼻歌で歌いたくなるキャッチーなナンバーだ。今日でちょうどあの悪夢のような震災から1年が経つが、どん底からの復興を目指す我々日本人にとってもまさにピッタリな内容の歌と言えるだろう。
 レコードでは1944年にマーサーがパイド・パイパーズと共に吹き込んだ盤が大ヒット。それを見て他の大物アーティストたちも次々とこの曲をカヴァー、1945年だけでもビング・クロスビー&アンドリュース・シスターズ、ケイ・スター、アーティー・ショウのリリース・ラッシュとなり、中でもクロスビー盤は2位まで上がるヒットになったというからこの曲のパワーは絶大だ。
 手持ちのヴォーカル盤ではペギー・リー、サム・クック、ビング・クロスビー&アンドリュース・シスターズが私的トップ3。私の好きなコニー・エヴィンソンやジョー・デリーズなんかも歌ってはいるのだが、どちらもアレンジをこねくり回し過ぎていて残念ながら全然楽しめない。今回ブログで取り上げるにあたって色々聴き比べてみて、この曲は策を弄せずストレートに歌ったものがベストというのが結論だ。尚、インスト物ではオスカー・ピーターソンのソングブック・シリーズの歌心溢れるヴァージョンが断トツに素晴らしいと思う。

①Peggy Lee
 1950年代の初め頃というのはラジオの全盛期で、多くのラジオ・トランスクリプション音源が残っているが、コレは1952年にペギー・リーが「ペギー・リー・ショー」というラジオ番組用にレコーディングしたもので、 Riff City という怪しげなレーベルから出たCD 「イッツ・ア・グッド・デイ」に収録されている。彼女が第1期キャピトル時代にレコーディングした膨大な音源で正式にレコード化されたのはLP「ランデヴー・ウィズ・ペギー・リー」で聴ける12曲だけなので、この時期の彼女の歌声が聴けるという意味でも非常に貴重な1枚だ。この曲では出だしの “ア~クセン♪” と伸ばしておいてスパッと切るところからもうペギー・リー・ワールド全開で、言葉と言葉の間の余韻を活かしたその唯一無比の歌唱法が原曲の軽やかな旋律と見事にマッチ、まるで彼女のオリジナル曲のように耳に響く。その歌声、節回し、スイング感... どれを取ってもまさにザ・ワン・アンド・オンリーだ。
Peggy Lee: Ac-cent-tchu-ate The Positive (Arlen) - Recorded ca. September 16, 1952


②Sam Cooke
 今から10年前、私は自分で直接海外からレコードを買うために不慣れなパソコンを購入して eBay オークションを始めた。おかげでオイシイ思いを一杯したが、特に嬉しかったのが 60’sオールディーズのオリジナル盤が数ドルでガンガン買えたことで、大抵の盤は送料込みでも2,000円前後で手に入れることが出来た。しかし中には競争が激しくて値段が3桁に届くような超入手困難盤があり、ロネッツやクリスタルズといったフィレス・レーベル盤と並んで入手に苦労したのがサム・クックのキーン盤だった。コレはそんなキーン・レーベルから1958年にリリースされた彼の2nd アルバム「アンコール」に入っていたもので、ゴージャスなビッグ・バンド・サウンドに乗ってアップ・テンポで快調に飛ばすサム・クックの歌声が楽しめる。彼はどちらかというとスロー~ミディアム・テンポの歌が多いが、ここで聴けるようなノリノリのサム・クックもめっちゃエエわ(^.^)
Sam Cooke - Accentuate The Positive (1958)


③Bing Crosby & The Andrews Sisters
 私はビング・クロスビーというと例の「ホワイト・クリスマス」の影響か、 “SP レコードのあのパチパチ・ノイズの向こうから聞こえてくるソフトでジェントルなヴォーカル” という刷り込みがなされていて、彼の歌声を聴くとどうしても第二次世界大戦の頃をイメージしてしまうのだが、この曲では軍服姿がトレードマークで “米軍御用達” みたいなイメージのあるアンドリュース・シスターズとの共演ということで、もうこれ以上ないくらいピッタリの組み合わせだ。もちろんイメージ面だけでなく音楽的にもお互いの持ち味が十分に活かされたコラボレーションになっており、懐古的な歌声の相乗効果で雰囲気抜群のヴァージョンに仕上がっている。
Ac-Cent-Tchu-Ate The Positive - Bing Crosby with The Andrews Sisters

ザ・グローリー・オブ・ラヴ / ジャッキー・アンド・ロイ

2012-03-07 | Standard Songs
 ポールのスタンダード特集も何やかんやで第6回、今日は以前アップしたインタビューの中でポールがジョン・クレイトンとのコラボレイションについて熱く語っていた「ザ・グローリー・オブ・ラヴ」だ。この曲は1936年にビリー・ヒルが書き、ベニー・グッドマンの演奏で大ヒットを記録、その屈託のない明るいメロディー故かその後も様々なアーティストたちによって取り上げられている名曲だ。
 この曲は当時のスタンダード・ナンバーには珍しく、映画やミュージカル用に書かれたものではなかったが、1967年にキャサリン・ヘプバーンがアカデミー賞の主演女優賞を受賞した映画「招かれざる客」(←まだ人種差別の激しかった時代に、白人の娘が黒人の彼氏を家に連れてきて結婚したいと言って両親を悩ませるというストーリー)のテーマ曲として使われてリバイバル・ヒットした。
 歌詞は “少しあげて少しもらう 少し傷つくこともあるわ... 少し笑って少し泣く それが愛の物語であり、愛の素晴らしさなのよ” という内容で、 “二人でいる限り世界の素晴らしさは私達のもの... たとえ世界が私達に背を向けても 二人には抱き合う腕があるわ” と歌うBメロ・パートなんてこの映画のテーマにピッタリだ。フランク・デ・ヴォールの心憎いアレンジも聴き所↓
招かれざる客 (Guess Who's Coming to Dinner - Glory of Love)


 この曲の私的トップ5は以下の5組だが、これら以外にもカウント・ベイシー(1937)、プラターズ(1956)、ケイ・スター(1958)が、比較的新しいところではベット・ミドラー(1988)やクリフ・リチャード(1990)なんかもカヴァーしており、ジャンルを問わずに人気のあるスタンダード・ナンバーといえるだろう。

①Jackie & Roy
 ヴォーカリーズもこなすオシドリ・デュオ、ジャッキー・アンド・ロイのABCパラマウント移籍第1弾となった名盤「ザ・グローリー・オブ・ラヴ」(1956年)のアルバム・タイトル曲。彼らの魅力であるジャジーでお洒落な雰囲気が横溢、その都会的なセンス溢れる洗練されたコーラス・ハーモニーは絶品だ。バックのメンバーも、ギターがバリー・ガルブレイス、ベースがミルト・ヒントン、そしてドラムスがオシー・ジョンソンと、趣味の良いプレイを身上とする名手揃いで(←ピアノはもちろんロイが担当)、メンツを見ただけで音が聞こえてきそうな感じがする。特にオシー・ジョンソンのブラッシュ・ワークは何度聴いても巧いなぁ...と唸ってしまう素晴らしさ。曲良し・演奏良し・雰囲気良しと三拍子揃った名演だ。
Jackie and Roy - THE GLORY OF LOVE


②Peggy Lee
ジャッキー・アンド・ロイと甲乙付け難い名唱がこのペギー・リーのヴァージョンだ。彼女にとってのキャピトル第2期の幕開けを飾る名盤「ジャンプ・フォー・ジョイ」(1958年)に収められたこの曲で、ネルソン・リドル指揮のビッグ・バンドをバックに “ペギー節” 全開で気持ち良さそうにスイングしている。1950年代半ばあたりからその表現力に一段と磨きがかかり、深みを増してきた彼女のヴォーカルが存分に楽しめる快唱で、歌詞を大切にしながら自然体で歌っているところが良い。ジャケットに写った彼女の表情も最高だ。
Peggy Lee - The Glory Of love


③Benny Goodman feat. Helen Ward
 この曲で最初に大ヒットを飛ばしたのがこのベニー・グッドマン。それも6週連続全米№1というのだから恐れ入る。当時のビッグ・バンドは “バンド・シンガー” と呼ばれる専属歌手が売り物の一つだったが、ヴォーカルは “The Queen Of Big Band Swing” と呼ばれ当時の若者達のアイドルとして絶大なる人気を誇ったヘレン・ウォード。彼女は抜群のリズム感と確かな歌唱力、そして何よりも溌剌とした歌いっぷりが魅力の美人歌手で、当時まだ18才だった彼女のピチピチと弾けるような活きの良い歌声がめちゃくちゃ気持ちいい(^o^)丿 スイング・ジャズの古臭いリズムは好き嫌いの分かれるところかもしれないが、慣れてしまえば気にならない。グッドマンのソロも快調だ。
Benny Goodman feat. Helen Ward


④Patti Page
 「テネシー・ワルツ」で有名なパティ・ペイジが1949年にラジオ放送用にレコーディングしたのがこの曲で、1940年代~1950年代前半のトランスクリプション音源を扱うハインドサイト・レーベルからリリースされた「パティ・ペイジ・ウィズ・ルー・スタインズ・ミュージック」に収録。彼女はポップスからカントリー、そしてスタンダード・ナンバーに至るまで様々なタイプの楽曲を歌いこなすヴァーサタイルな才能を持ったシンガーだが、私的にはやはりスタンダードを歌う彼女が一番好き。この曲でもそのしっとりと艶のある歌声でソフトに、そして軽やかにスイングしており、スタンダード・シンガーとしての魅力が存分に味わえる逸品だ。
Patti Page - The Glory of Love


⑤Lou Donaldson
 最後にジャズのインスト物を一つ。アルト・サックスのルー・ドナルドソンはガンガン吹きまくるパーカー派路線のスリリングなプレイよりも、アーシー&グルーヴィー路線の余裕と寛ぎに溢れた演奏の方が私には合っている。そんなリラックスしたリズムに乗って抜けの良いクリアなアルトの音を楽しむには美しいメロディーを持ったスタンダード・ナンバーがピッタリだ。フレーズもより滑らかになっているし、このような小粋な曲でこそルーさんの良さが活きると思う。やれポップになっただの堕落しただのと頭の固いジャズ・ファンからはボロクソに言われるが、コンガの導入によってアットホームな雰囲気が加わり、聴く者をほのぼのとした気分にさせてくれる。ブルーノート・レーベルの4000番台の前の方というのは軽快で親しみ易いアルバムが多いが、この曲の入った「グレイヴィー・トレイン」(1962年)もそんな楽しい1枚だ。
Lou Donaldson - Glory Of Love
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インチワーム / メリー・ホプキン

2012-03-04 | Standard Songs
 “ポールのスタンダード” 特集第5弾は「インチワーム」(←英語でシャクトリムシのこと)という曲で、作曲したのはポールが敬愛する作曲家、フランク・レッサーだ。 shoppgirl姐さんのブログで知ったのだが、2009年10月にブロードウェイで開かれたフランク・レッサー生誕100年を祝うチャリティー・コンサートにポールが出演して「スロー・ボート・トゥ・チャイナ」を歌っている映像が YouTube にアップされており、歌い始める前に “子供の頃、親族一同で集まって父のピアノに合わせてみんなでよく古い歌を歌ったものだけど、その時はそれが誰の曲かなんて考えもしなかった。やがて時が経ち、あの時歌っていた曲の多くがレッサーの作品だと知ったんだ。” とスピーチしているのだ。調べてみると、バディー・ホリーだけではなくレッサーの曲の版権もポールの MPL が所有しているというからその傾倒ぶりがわかろうというものだ。
Paul McCartney - On A Slow Boat To China


 この「インチワーム」という曲は元々1952年のミュージカル映画「アンデルセン物語」のためにレッサーが書いたもので、 “マリゴールドの花を測るシャクトリムシさん、計算が得意だね... でも立ち止まって花の美しさを見たらどうだい?” という主旋律部分と、“2+2=4, 4+4=8, 8+8=16, 16+16=32...” という足し算リフレイン部分で構成されており、“算数みたいに何でもビジネスライクに割り切って考えるのはやめたら?” と示唆する内容の歌だ。映画では教室の中で子供たちが足し算の輪唱パートを歌い、外の花壇の脇で主演のダニー・ケイがそれを聴きながら主旋律のパートを歌うという演出。素朴そのものだが、原点の光が輝いている。
Danny Kaye - Hans Christian Andersen


 一般的にこの曲はジャズのスタンダードというよりもむしろ子供向けのポピュラー・ソングという認知を与えられているようで、実際セサミストリートなんかでも使われている。ジャズでこの曲を取り上げたのは、大ベテランのイブシ銀ピアニスト、ジーン・ディノヴィのアルバム「リメンブランス」ぐらいしか思いつかない。シーツ・オブ・サウンドとかいう楽曲破壊奏法を得意とする某テナー・サックス・プレイヤーも演っているようだが、あんな悪魔の呪文みたいな気色悪い演奏はもちろん問題外。この「インチワーム」は曲を慈しみ、聴き手を癒すように優しく歌うシンガーにこそピッタリの佳曲なんである。ということで、以下の3ヴァージョンが私的トップ3だ。

①Mary Hopkin
 「インチワーム」と聞いて真っ先に頭に浮かんだのがポール自らがプロデュースした “アップルの歌姫” メリー・ホプキンのデビュー・アルバム「ポストカード」(1969年)に入っていたこのヴァージョン。まるで天使のような彼女の透き通った歌声、そしてそんな彼女の持ち味を存分に活かしたポールのアレンジがこの曲の髄を怖いぐらいに引き出しており、大袈裟ではなく、聴いていて背筋がゾクゾクしてしまう。その少し憂いを含んだ心に沁み入るような歌い方(←サムに教えてもらったのだが、英語では haunting って言うらしい...)はあの「悲しき天使」に迫る名唱と言えるだろう。
 それにしても自分の秘蔵っ子に歌わせ、40年余の時を経て再び自分のアルバムに入れるとは、ポールは余程この曲がお気に入りのようだ。「ポストカード」には他にも「木の葉の子守唄」や「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」、「ショーほど素敵な商売はない」といった古き良きスタンダード・ナンバーが収録されており、ポールの趣味・嗜好が色濃く反映されたアルバムになっているので、今一度そういう耳でチェックしてみるのも面白い。
Mary Hopkin - Inch Worm


②Anne Murray
 「インチワーム」の隠れた名唱として一押しなのがこのアン・マレー。常日頃愛聴しているというわけではないけれど、折に触れ取り出して聴いてみるとやっぱりエエなぁと思わせる... アン・マレーは私にとってそういう存在だ。この人はどちらかというとカントリー系のポップス・シンガーという位置付けで、大ヒット曲の「スノーバード」も「ダニーズ・ソング」も「ユー・ニード・ミー」も私にはいまいちピンと来ないのだが、カヴァーとなると話は別。特にモンキーズの「デイドリーム・ビリーヴァー」やビートルズの「ユー・ウォント・シー・ミー」のカヴァーなんかもうオリジナルに勝るとも劣らない必殺のキラー・チューンだと思う。
 この「インチワーム」は彼女が1977年にリリースした子供向けアルバム「ゼアズ・ア・ヒッポ・イン・マイ・タブ」(邦題:「愛のゆりかご」)に収録されていたもので、聴き手を優しく包み込むようなヴォーカルが絶品だ。モンキーズやビートルズをカヴァーした時と同様に、彼女の温か味のある歌声とキャッチーなメロディーとの出会いがマジックを生むのだろう。他にも「ユー・アー・マイ・サンシャイン」や「この素晴らしき世界」といった名曲が彼女のハートウォーミングな歌声で楽しめるこのアルバム、 “ウチのバスタブにはカバがいるぜ” というふざけたタイトルと可愛らしいジャケットのせいでスルーしてしまうと損をする1枚だ。
Anne Murray - Inchworm


③Doris Day
 ハートウォーミングな癒し系ヴォーカルの元祖といえばドリス・デイだ。彼女は数多くのスタンダード・ナンバーを始めとして様々なジャンルの曲を歌っているが、この曲は子供向けの曲ばかりを集めた企画物アルバム「ウィズ・ア・スマイル・アンド・ア・ソング」(1964年)に入っていたもので、子供たちの可愛らしいコーラスをバックにその人柄が滲み出るような優しい歌声を聴かせてくれる。このアルバムは子供向けのレコードということであまり取り上げられることはないが、アメリカの国民的シンガーとしてジャンルを超えた存在だった彼女ならではの1枚と言えるだろう。子供たちに囲まれて幸せそうなドリス・デイの表情が印象的なジャケットも実にエエ感じだ。
Doris Day - The Inch-Worm

ホーム (ホエン・シャドウズ・フォール) / マット・デニス

2012-03-01 | Standard Songs
 「Kisses On The Bottom」の通常盤には12曲のスタンダード・ナンバーが収録されているが、前にも書いたようにその選曲はめっちゃ渋い。いわゆる“超有名A級スタンダード”というのは「バイ・バイ・ブラックバード」と「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」ぐらいで、「手紙でも書こう」でB級、それ以外はC級D級、下手をすると曲名すら聞いたことがないようなE級(←ここで言う○級とは曲の良し悪しではなく、あくまでも知名度のことです、念のため...)の佳曲が選ばれている。
 アマゾンで予約した UK 盤が予想よりも早く届いて有頂天になり、その場の勢いで始めたこの “ポールのスタンダード特集” 、最初は上記の2~3曲で打ち止めにするつもりだったのだが、手持ちの盤を色々調べていくとカヴァーしているアーティストが結構かぶっていたり新発見があったりしてコレが結構面白い。同志のみながわさんや shoppgirl 姐さんにも楽しんでいただけているようなので、企画(?)を延長してC級D級まで掘り下げてみることにした。ただ、A級B級とは違ってカヴァーしているアーティストが少ないので、3つのヴァージョンで何とかお許しを... m(_ _)m

 ということで “ポールのスタンダード特集” 第4弾は「ホーム(ホエン・シャドウズ・フォール)」だ。この曲は1931年にオランダのバンド・リーダー、ピーター・ヴァン・スティーデンがハリーとジェフのクラークスン兄弟と共作して自分の楽団の演奏でヒットさせたもので、有名なところでは1932年にルイ・アームストルングが、1933年にミルドレッド・ベイリーが、1950年にナット・キング・コールが(←「ラッシュ・ライフ」収録)、1964年にサム・クックが(←「エイント・ザット・グッド・ニューズ」収録)それぞれカヴァーしている。
 歌詞の内容は “夕闇が迫り 木々が一日の終わりを囁く時、私の思いは家へと向かう... 太陽が丘の向こうに沈むと 星々が一つまた一つと姿を現し 夜の帳が下りる 運命の女神が私を見放したとしても いつだって甘い夢が私を家へと導いてくれるのさ...” というもので、えもいわれぬ郷愁を感じさせる美旋律との相乗効果もあって、愛する者の待つ “家” への思いが聴く者の心にしみじみと沁みわたる佳曲だと思う。

①Matt Dennis
 男性ジャズ・ヴォーカルで私がシナトラとキング・コールの二人に次いで好きなのがこのマット・デニス。その絵に描いたような “粋” な語り口は唯一無比のカッコ良さだ。美しいメロディーを持った曲を洒落たピアノの弾き語りでスマートに歌うのが彼の十八番で、そういう意味でも “home” をテーマにした曲ばかりを歌った「ウェルカム・マット・デニス」に収録されていたこの曲なんか、彼にピッタリの旋律美を持ったナンバーと言えるだろう。サイ・オリヴァー楽団のゴージャスな演奏に乗ってゆったりと歌うデニス... その寛ぎに溢れたハートウォーミングな歌声がリスナーの “home” への思いをかきたて、大いなる共感を呼ぶ。ホンマにコレはたまりませんわ(≧▽≦) 何となく曲想がポールの「ベイビーズ・リクエスト」と相通ずるモノがあるように思うのは気のせいか? 尚、アルバム・ジャケットも自分の名前と玄関マットを引っ掛けた洒落っ気たっぷりのもので、見ても聴いてもそのセンスの良さに唸らされる。私にとっては “ジャズ・ヴォーカル座右の盤” の1枚だ。
ホーム


②Helen Humes
 ヘレン・ヒュームズのコンテンポラリー盤「スインギン・ウィズ・ヒュームズ」は歌良し、演奏良し、スイング良しと三拍子揃ったジャズ・ヴォーカルの隠れ名盤。このレコードの魅力はヘレンの伸びやかなヴォーカルとそんな彼女を支えるバックの演奏陣の豪華さにあり、ジョー・ゴードン、テディー・エドワーズ、アル・ヴィオラ、リロイ・ヴィネガー、フランク・バトラーといったウエスト・コースト・ジャズの腕利きたちがガッチリと彼女をサポートしているのだが、中でも注目すべきはウイントン・ケリーのピアノだ。ダイナ・ワシントンのバックで鍛えられた彼の歌伴には定評があり、ここでもお得意の軽快なタッチでツボを心得たプレイを聴かせてくれる。ミディアム・テンポで軽快にスイングする「ホーム」というのも中々オツなものだ。
Helen Humes - 02 - Home (When Shadows Fall)


③Ventures
 ベンチャーズがメジャー・デビューする前にドン・ウィルソンとボブ・ボーグルが自ら立ち上げたブルー・ホライズン・レーベルから1960年に出したシングル「ウォーク・ドント・ラン」のB面がこの曲で(←印税を稼ぐために、ドルトンから再発されたレイター・プレスでは自作曲の「ザ・マッコイ」に差し替えられたが...)、同年にリバティー系列のドルトン・レコードからリリースされたデビュー・アルバム「ウォーク・ドント・ラン」ではA面3曲目に収録されていた。まだメル・テイラーは加入しておらず、ドラムスはスキップ・ムーア。リード・ギターはボブ・ボーグルで、ノーキー・エドワーズがベースを弾いている。この頃の彼らはチェット・アトキンスをよりロックンロールにしたようなスタイルで、彼らのトレードマークであるモズライト・ギターの野太い音色も一世を風靡したあのテケテケ・サウンドもないが、そのおかげで原曲の持つチャーミングなメロディーの素晴らしさが浮き彫りになっている。フェンダー・ギターのすっきり爽快なサウンドが耳に心地良く響く快演だ。
The Ventures - Home
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イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン / ジャンゴ・ラインハルト

2012-02-26 | Standard Songs
 “「Kisses On The Bottom」収録スタンダード・ナンバー特集” の第3弾は有名な「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」。この曲は1932年にハロルド・アーレンが曲を書き、E.Y.ハーバーグとビリー・ロウズが詞を付けたもので、最初は「イフ・ユー・ビリーヴド・イン・ミー」というタイトルでブロードウェイの芝居に使われたが、翌1933年に改題されて映画「テイク・ア・チャンス」に、1945年と1973年にもそれぞれ別の映画で使われてリヴァイヴァル・ヒットした。
 この曲は何と言っても歌詞が面白くて、 “紙でできた月も、布で作った空も、君が僕を信じてくれたら偽物じゃなくなるんだ...” というユニークなもの。古き良き時代の雰囲気が伝わってくるこの曲のポイントは “軽妙なスイング感” だと思うが、そういう視点から私が常日頃愛聴しているヴァージョンを5つセレクトしてみた。

①Django Reinhardt
 ジプシー・ジャズの創始者であるジャンゴ・ラインハルトが1949年にヴァイオリン・ジャズの巨匠ステファン・グラッペリと共演した “ローマ・セッション” を収録した彼の代表作「ジャンゴロジー」に入っていたのがコレ。ジャンゴのギターはまさに圧巻と言ってよく、 “ジプシー・ジャズの最高峰” の看板に偽りなしのスリリングなプレイの連続にはもう平伏すしかない。ジプシー・ギターというと速弾きばかりに注目が集まりがちだが、ジャンゴの凄さはそのハイテクニックはもちろんのこと、とめども尽きぬアドリブ・フレーズを織り交ぜながらメロディアスにスイングするところにあると思う。
 それと、私はどちらかと言うとヴァイオリンが苦手でジプシー・ジャズの CD でもついついヴァイオリンの入っていない “ザクザク・ギター乱舞盤” ばかり買ってしまうのだが、このグラッペリの躍動感あふれるプレイには思わず聴き入ってしまう。苦手な楽器でも好きにさせてしまうこのような演奏を真の名演と言うのだろう。とにかく一日中でも聴いていたい、そう思わせる素晴らしい演奏だ。
Django Reinhardt - It's Only A Paper Moon - Rome, 01or02. 1949


②江利チエミ
 日本人シンガーで「ペイパー・ムーン」といえばまず頭に浮かぶのは美空ひばりだが、それは以前このブログで取り上げたので今回はひばりと同じ三人娘の一人、江利チエミにしよう。まるで大排気量の高級サルーンカーのようにジャズでもリズム歌謡でも演歌でも正面からガッチリと受け止めてその圧倒的な歌唱力で歌いこなしてしまうひばりに対し、チエミはワインディングを軽快に飛ばしていくハンドリング抜群のスポーツカーといった感じで、まさに “駆け抜ける喜び” という表現がピッタリのスキャットやフェイクを織り交ぜながら軽やかにスイングしており、ひばりとは又違った味わいがある。
 この「ペイパー・ムーン」は1953年にリリースされたSP音源で、何とチエミ16歳の時の録音というから驚きだ。そのナチュラルでラヴリーな歌声はまるで開き始める直前のつぼみのような生硬さで、原信夫とシャープス&フラッツをバックに軽やかにスイング。曲の途中で歌詞が英語から日本語にスイッチするところなんかも雰囲気抜群だ。尚、この曲は何種類かの CD に入っているが、私は針音の向こうから聞こえる温もりのある歌声がノスタルジーをかきたてるようなリマスタリング処理をされた「SP原盤再録による江利チエミ ヒット・アルバムVol. 1」収録のものを愛聴している。
Chiemi Eri - IT'S ONLY A PAPER MOON


③Ella Fitzgerald
 江利チエミがお手本にしたのがエラ・フィッツジェラルドのこのヴァージョン。来日したエラがチエミの歌をラジオで聴いて “あら、私じゃないの...” と言ったというエピソードは有名だ。私は江利チエミの熱狂的なファンでエラのヴァージョンは後から聴いたので、スキャットのパートなんか “何やコレ... チエミにそっくりやん!” とエラくビックリしたものだ(笑)
 あわてて他の曲もチェックしてみたら、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」を筆頭にチエミで聴き慣れた節回しが一杯あってビックリ。これはエラいこっちゃである。大好きなアーティストのルーツを探求しながら新しい世界を知るのも楽しいものだ。白人美人女性ヴォーカルが大好きな私はエラおばさんの熱心な聴き手ではなかったが、改めて聴いてみるとそのジャズ・フィーリングはやっぱり凄い。不義理をしてエラいすんませんでしたm(__)m
 ということでエラ・フィッツジェラルドは “ジャズ・ヴォーカル界のファースト・レディ” と呼ばれるエラい人なんである。「エラ・アンド・ハー・フェラ」に収録されていたこの曲でもデルタ・リズム・ボーイズをバックにさりげなくスキャットを交えながら典雅にスイングするエラが楽しめて言うことナシだ。
ELLA FITZGERALD & THE DELTA RHYTHM BOYS- IT'S ONLY A PAPER MOON


④Dion & The Belmonts
 ビートルズ登場以前のオールディーズ・ポップスは何と言ってもシングル・ヒット曲が命だが、そのシンガーなりグループなりを好きになってアルバムにまで手を出すと、意外なスタンダード・ナンバーが入っていたりして驚かされることがある。ユニークな「トンデヘレヘレ♪」コーラスに耳が吸い付く「浮気なスー」の全米№1ヒットで有名なディオンは数多くのスタンダード・ナンバーをドゥー・ワップ化して楽しませてくれる貴重な存在で、この曲でもバックのベルモンツと息の合ったコーラスを聴かせてくれる。コレが収録されているアルバム「ウィッシュ・アポン・ア・スター」では他にも「星に願いを」「オール・ザ・シングス・ユー・アー」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」「セプテンバー・ソング」といったスタンダード・ナンバーを取り上げており “古き良きアメリカ” といった雰囲気が横溢、ポップス・ファンがスタンダードに親しむのにピッタリの1枚だ。
Dion And The Belmonts - It's Only A Paper Moon


⑤Nat King Cole
 スタンダード・ナンバーには個人的な嗜好というレベルを超越した次元でその曲の決定的名演というものが存在する。「ユード・ビー・ソー・ナイス...」ならヘレン・メリルとクリフォード・ブラウン、「マンハッタン」ならリー・ワイリー、「センチメンタル・ジャーニー」ならドリス・デイ、といった按配だ。そういう意味で、究極の「ペイパー・ムーン」と言えば間違いなく名盤「アフター・ミッドナイト」に収録されているこのヴァージョンで決まり!だろう。
 ナット・キング・コールはバラッド・シンガーとしても天下一品だが、私的にはスモール・コンボで小気味よくスイングするこのスタイルが一番好き。ジャズを知らない人に “スイングって何?” って聞かれたら、この曲を聴かせて “この思わず身体が揺れる感じ” と答えるだろう。ウキウキするようなリズムに乗って縦横無尽にスイングするキング・コールの軽妙洒脱なヴォーカルが最高だ(^o^)丿
Nat King Cole - It's Only A Paper Moon
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バイ・バイ・ブラックバード / ジュリー・ロンドン

2012-02-22 | Standard Songs
 ポール・マッカートニーが「Kisses On The Bottom」で取り上げたスタンダード・ナンバー特集の第2弾は「バイ・バイ・ブラックバード」だ。この曲は元々1926年にそこそこヒットした歌で、その後忘れられた存在だったものを1956年にマイルス・デイビスが名盤「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」で取り上げ、それがきっかけとなってジャズのスタンダード・ソングとして広く親しまれるようになったという経緯がある。
 歌詞に出てくる blackbird とは “不幸せ” の比喩みたいなモンで、 “心配事も悩みもすべてカバンに詰めて 歌いながら出かけるんだ ブラックバードよ さようなら... そこには僕を待っていてくれる人がいる 砂糖も甘いし彼女も甘い... ここでは誰も僕を愛しも理解もしてくれない... ベッドを作って明かりもつけておいてくれ... さようなら ブラックバード♪” と、自分を取り巻く悲惨な状況から抜け出して彼女が待つ幸せな場所へと向かうという内容の歌。そういう意味で、スロー・テンポであれミディアム・テンポであれ、ヴォーカル物であれインスト物であれ、前向きな明るさの中にも一抹の翳りが射すといった感じの主人公の微妙な心の綾をどう表現するかがそのシンガーなりプレイヤーなりの腕の見せ所と言えそうだ。

①Julie London
 女性ヴォーカルではヘレン・メリルやペギー・リーなど、私の好きな歌手がこぞってこの曲を取り上げているが、そんな中でも一番好きなのがセクシーな低音が魅力のジュリー・ロンドン。ヴォーカルは雰囲気を楽しむべし、を信条とする私がジャズ・ヴォーカルにハマるきっかけとなったのが彼女との出会いで、ネット・オークションなどまだ知らなかった時代にはるばる東京まで出かけて行ってジャズのレコ屋廻りを敢行、彼女の美麗オリジナル盤を根こそぎ買い漁ったものだった。特に梅ヶ丘にあったノスタルジア・レコードにはジュリーのレコードがほぼ揃っていてエサ箱の前で大コーフンし、それを見た店主の金子さんにジュリーのディスコグラフィーをコピーしていただいたのが今では良い思い出だ。
 この曲はスタジオ録音盤では「ジュリー」(←加藤茶の “ちょっとだけよ~” みたいに脚を上げてる悩殺ジャケがたまらんたまらん...)、ライヴ盤では「ジュリー・イン・パーソン」に収録されているという彼女お気に入りのナンバーで、ゾクゾクするようなハスキー・ヴォイスでジャジーに迫るジュリーにクラクラしてしまう(≧▽≦) 彼女の歌には何とも言えない気品が感じられ、それが凡百のセクシー系シンガーと激しく一線を画する要因となっているように思うのだが、そんな彼女の影響は同じ低音ハスキー系のダイアナ・クラールあたりにまで及んでいるのではないか。
 下に貼り付けたYouTubeの映像は1964年に来日した時に出演したテレビ・ショーのもので、アコベとのデュオでセクシーに迫るジュリーに目が釘付けだ。それにしてもベースのドン・バグレイ、思いっ切り羨ましいぞ!!!!!
Julie London & Bass Duet Bye Bye Blackbird Colour TV Show


②Miles Davis
 私がまだジャズ初心者だった頃、まるで歌うようにミュート・トランペットで可憐なメロディーを紡ぎ出していくマイルスのこの “卵の殻の上を歩くような” プレイを聴いて、楽器でこれほど情感を込めた吹き方が出来ることに衝撃を受け、 “歌心” という言葉の何たるかが分かったような気がした。この「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」というアルバムはモダン・ジャズを代表する屈指の名盤で、マイルス以外のメンバーも絶好調。レッド・ガーランドのコロコロと転がるような軽やかなタッチのピアノも、フィリー・ジョーの瀟洒なブラッシュも、音楽を根底からしっかりと支えるポール・チェンバースのベースも、すべてが完璧と言っていい。
 そういえば、それから何年か経って TV の CM で突然この曲が流れてきた時はビックリ(゜o゜) 確かサントリー・ウイスキーの CM だったと思うが、クレイ・アニメーションのマイルスがこの曲に合わせてトランペットを吹いている映像が雰囲気抜群で、めっちゃ粋な CM やなぁと感心したものだ。とにかく「バイ・バイ・ブラックバード」といえばマイルスのこのヴァージョンに尽きると思う。これ以上の名演があったら教えてほしい。
Miles Davis - Bye Bye Blackbird


③Ringo Starr
 リンゴの歌はヘタだという声をよく耳にするが、私はそんなに捨てたモンではないと思う。ただ、彼のちょっと鼻にかかった声質やそのすっ呆けた歌い方(笑)がロックンロールに合ってないだけの話で、要は彼に合った曲を選べばいいのだ。そういう意味で、1970年にリリースされた 1st ソロ・アルバム「センチメンタル・ジャーニー」に入っていたこの「バイ・バイ・ブラックバード」なんかリンゴにピッタリの選曲・アレンジではないか。「五匹の仔ブタとチャールストン」を想わせる陽気なブラス・アレンジはビー・ジーズのモーリス・ギブによるもので、リンゴの魅力を実に巧く引き出している。ヴォーカルをダブル・トラックにしたのも慧眼と言えるだろう。それにしてもまさかこの曲でポールとリンゴという元ビートルズ同士の聴き比べが出来るとは夢にも思いませんでしたわ。
Ringo Starr Bye Bye Blackbird ( Sentimental Journey 1970)


④Diana Krall
 今回のポールのスタンダード・アルバム成功の陰の立役者であるダイアナ・クラールはポールが「フラワーズ・イン・ザ・ダート」でコンビを組んだエルヴィス・コステロの嫁さんだが、ジャズ界では押しも押されぬスーパースターで、ナット・キング・コール・トリオの系譜を現代に受け継ぐ正統派ジャズ・ピアニスト兼シンガーだ。私は彼女の大ファンで CD もかなり持っているが、コレは知らなかった。調べてみると、映画「パブリック・エネミーズ」(2009年)の挿入歌としてサントラ盤に収録されているらしい。失速寸前のスロー・テンポで歌うダイアナ、そんな彼女に絡んでいくトランペットやテナーのオブリガート、ムードを盛り上げる瀟洒なブラッシュ... どこを切っても雰囲気抜群のジャズ・バラッドだ。
Bye Bye, Blackbird with Lyrics [Public Enemies soundtrack]


⑤Ben Webster
 ベン・ウェブスターは1930年代からビッグ・バンドのサイドメンとして活躍しているテナー・サックス奏者だが、私が好きなのは1950年代半ば以降のヴァーヴ・レーベル時代の彼の作品だ。特にスロー~ミディアム・テンポの楽曲における寛ぎと包容力に溢れたプレイは唯一無比で、その巧みなブレス・コントロールと男の哀愁をにじませたビブラート奏法はまさに円熟の境地と言っていいだろう。この曲でも名手オスカー・ピーターソンのトリオのツボを心得たバッキング(←レイ・ブラウンの剛力ベースが強烈!)を得て風格に満ちたスケールの大きいプレイを聴かせてくれる。テナー・サックスという楽器本来の低音の魅力を存分に楽しめる名演だ。
B.Webster & O.Peterson

手紙でも書こう / フランク・シナトラ

2012-02-19 | Standard Songs
 ポール・マッカートニーの最新アルバム「Kisses On The Bottom」の1曲目を飾り、その歌詞の一節が今回のアルバム・タイトルにもなったスタンダードの名曲「I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter」(邦題:手紙でも書こう)は何を隠そう私の超愛聴曲。ポールがこの曲を取り上げてくれただけでもう嬉しくてタマラン状態のだが、せっかくなのでこのブログでも特集することにした。
 この曲は多くの映画に曲を書いているジョー・ヤング&フレッド・アーラートの1935年の作品で、 “ストライド奏法” を確立したジャズ・ピアニスト、ファッツ・ウォーラーの弾き語りで大ヒット、それから21年経った1956年にはビリー・ウイリアムズという男性シンガーのコーラル盤がミリオン・セラーを記録し、リヴァイヴァル・ヒットした。
 彼女からの手紙が途絶えてしまい、その寂しさに耐えかねた男が、“自分で自分宛の手紙を書いて彼女からの手紙だと思い込もう” という何ともユーモアとペーソスに溢れる歌詞で(←そういう意味ではポールのアルバム・タイトルになった A lot of kisses on the bottom, I’ll be glad I got 'em... 手紙の最後にはキスを一杯して、それを受け取った僕は大喜びさ... のラインはトホホを通り越して一歩間違えれば変態になってしまうが...)、失恋ソングでありながらカラッとした雰囲気を持った面白い歌なんである。だからミディアムからアップテンポでカラッと健康的にスイングするヴァージョンがこの曲にピッタリだ。
 私のこの曲との出会いはフランク・シナトラの10インチ盤「スイング・イージー」(←海外オークションのeBayで初めて買った思い出のレコード!!!)で、そのリラクセイション溢れる絶妙なスイング感にすっかり KO され、それ以来この曲が入ったレコードは必ずチェックするほど気に入っている。
 下に挙げた以外にも、ビング・クロスビー、ルイ・アームストロング、サラ・ボーン、ディーン・マーティン、ベニー・グッドマン、カウント・ベイシー、アート・テイタム、ベン・ウエブスター、ルビー・ブラフといったジャズ界のビッグ・ネーム達がこぞって取り上げているし、面白いところではボビー・ヴィーとベンチャーズの共演盤やリンダ・スコットのコングレス盤なんかにも入っている。それでは久々のスタンダード特集をどうぞ!

①Frank Sinatra
 私にとってこの曲の決定的名唱と言えるのが1954年にキャピトルからリリースされた10インチ盤「スイング・イージー」に入っていたシナトラ・ヴァージョン。ネルソン・リドルの絶妙なアレンジによるレッド・ノーヴォ風中間派サウンドに乗って軽快にスイングするシナトラの粋な歌唱はまさにザ・ワン・アンド・オンリーだ。又、1962年にリプリーズからリリースされた「シナトラ・ベイシー」ではニール・ヘフティによる高速アレンジでベイシー楽団をバックにダイナミックにスイングするシナトラが楽しめる。両方貼っときますので興味のある方は聴き比べてみて下さいな。
I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter (Frank Sinatra - 1953 with Lyrics)

Sinatra in the studio 1962 I'm Gonna Sit Right Down & Write Myself A letter


②Nat King Cole
 私にとってシナトラと並ぶ男性ジャズ・ヴォーカルの最高峰がナット・キング・コールだ。コレは1961年にレコーディングされ、3年後の1964年にリリースされたアルバム「レッツ・フェイス・ザ・ミュージック」に収録されていたもので、分厚いブラス・サウンドでグイグイ迫るビリー・メイのアレンジで力強くスイングするキング・コールの歌いっぷりが圧巻だ。
Nat King Cole ::: I'm Gonna Sit Right Down (And Write Myself A Letter)


③Bill Haley & His Comets
 「ロック・アラウンド・ザ・クロック」でお馴染みのビル・ヘイリーによるこのヴァージョンは、古いスタンダード・ナンバーの数々をロックンロール・スタイルでアレンジした1957年のデッカ盤「ロッキン・ジ・オールディーズ」に収録されており、あまり話題には上らないが、私は結構好き。スタンダード・ナンバーとロックンロールの出会いが生んだ隠れ名演だ。
Bill Haley & His Comets - "I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter" - 1958


④Boswell Sisters
 これは女性ジャズ・コーラス・グループの草分け的存在のボスウェル・シスターズが解散した1936年にデッカに吹き込んだもので、彼女達の爛熟期の歌声が楽しめる。私は基本的にノリの良いロックやポップスがメイン・ディッシュなのだが、こういうノスタルジックな味わいのほのぼのとした癒し系女性コーラスも大好きだ。特にボスウェル・シスターズのこのヴァージョンは他とは違ってヴァースの部分から歌っており、非常に珍しくて貴重なものだと思う。
Boswell Sisters - I'm going to sit right down (1936)


⑤Rita Reys
ジャズ・ヴォーカル・ファンの間で根強い人気を誇るオランダ人女性シンガー、リタ・ライスの代表作であるフィリップス盤「ジャズ・ピクチャーズ」の1曲目に入っていたのがこの曲。バラッドよりもアップテンポな曲が得意な彼女にピッタリの軽快なアレンジでのびのびと歌っているところが◎。バックの演奏も絶品で、夫君のピム・ヤコブズのスインギーなピアノも素晴らしいが、何と言っても “ブラッシュの名手” ケニー・クラークが生み出す強烈なスイング感が最高だ。
I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter - Rita Reys
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君微笑めば 【パート2】/ 矢野沙織

2011-01-16 | Standard Songs
 調子に乗って今日も「君微笑めば」の続編である。私は “この曲が入ってたら買う!” と決めている超愛聴スタンダードが数十曲あって、この曲もその一つ。手持ちの盤をチェックしてみたら何と17ヴァージョンもあった。前回はその中から超メジャーな王道系ヴァージョンを取り上げたので、今回は “ちょっとマイナーやけど結構エエやん” と思える隠れ名演をセレクトしてみた;

①矢野沙織
 チャーリー・パーカー直系のビバップなプレイで2003年に衝撃のデビューを飾ったアルト・サックス奏者、矢野沙織。レコーディング当時はまだ16歳だったというから、街で見かけるアホバカ高校生の姿を考えるととても同じ人類とは思えない。その太くて逞しいトーンといい、速射砲のように繰り出されるパーカー・フレーズの連続攻撃といい、まるでベテラン・アーティストのプレイを聴いたような満足感を味わえる。日本チャーリーパーカー協会の辻バード氏が言うように、彼女にはその有り余る才能をモード・ジャズなんかに浪費せずに、この曲のような良質のスタンダード・ナンバーをパーカー憑依状態でストレートに吹く、という道を極めてほしいものだ。
君微笑めば


②バンバンバザール
 これまでビートルズやジブリの “ウクレレ・コンピCD・シリーズ” で何度か取り上げてきたバンバンバザール。アコースティックな音作りに拘りながら、ハワイアン、フォークロック、ジャズ、カントリーといった様々なジャンルのエッセンスのごった煮のようなユニークな音楽を聞かせてくれる貴重な存在だ。この曲でも吸引力抜群のハスキーなヴォーカルに思わず身体が揺れるようなウクレレのスイング感と、彼らの魅力が全開だ。
君微笑めば(When You're Smiling)~バンバンバザール


③熊田千穂
 熊田千穂は銀座キラ星カルテットを率いて古き良き昭和のジャズ・ソングやディキシーランド・ジャズを中心に歌うジャズ・ヴォーカリスト。歯切れの良いリズムを刻むバンジョー、しなやかにスイングするテナー、そしてベースラインをしっかり支える管バスのスーザフォンが生み出す “上海バンスキングな” サウンドに乗って気持ち良さそうにスイングするノスタルジックな歌声が、小難しい理屈抜きで音楽の楽しさを再認識させてくれる。やっぱり古い音楽は心に響くなぁ...
When You're Smiling@熊田千穂と銀座キラ星カルテット


④真梨邑ケイ
 本格的にジャズを聴き始めるずっと前の1980年代、私にとってのジャズ・ヴォーカルのイメージはこの真梨邑ケイだった。テレビの深夜番組で彼女が「素敵なあなた」を歌っているのを見てその大人の女性の気だるい色香を感じさせる洗練された雰囲気に魅かれ、いっぺんにファンになった。彼女のような “ジャジーな” 美人ヴォーカルを硬派なジャズファンはバカにする傾向があるが、イイ女がイイジャズを歌う... それで十分ではないかと思う。雰囲気に酔う女性ジャズ・ヴォーカルというのも中々エエものだ(^.^)
When You're Smiling / 真梨邑 ケイ


⑤Carol Welsman
 キャロル・ウェルスマンはカナダ出身の女性ジャズ・ヴォーカリストで、ピアノを弾きながら歌うそのスタイルは同郷のダイアナ・クラールを想わせるが、ダイアナがドスの効いたヴォーカルでハスキーに迫るのに対し、キャロルの方はしっとりと落ち着いた歌声で、私的にはキャロルのクセのないナチュラルな唱法が好き。この曲は彼女の最新アルバム「アイ・ライク・メン~リフレクションズ・オブ・ミス・ペギー・リー」に収められていたもので、イントロからコンテンポラリー感覚の “大人のジャズ” が展開される。ただ、ケン・ペプロウスキーのクラリネットが出しゃばりすぎで、まるでハエや蚊のようにキャロルのヴォーカルにまとわりついてうるさいのが玉にキズ(>_<)
キャロル・ウェルスマン

君微笑めば / ビリー・ホリデイ with レスター・ヤング

2011-01-13 | Standard Songs
 私は色んな音楽ブログを愛読しているが、その選曲センスの見事さにいつも唸らされるのが shoppgirl 姐さんの ☆★My Willful Diary★☆ である。今年のお正月も新年早々ドリス・デイの「君微笑めば」を取り上げられているのを見て “さすが姐さん、目の付けどころが違うわ!” と感心してしまった。この曲には「枯葉」や「スターダスト」、「サマータイム」のような超有名スタンダードには無い “小品の良さ” があって、私はそれが大好きなんである。これまでも「タミー」、「ラヴァーズ・コンチェルト」、「マイ・ロマンス」と、姐さんのブログに刺激されて後追い特集を組んできた経緯があるので、今回も早速便乗させていただくことにした。姐さん、thanks a lot です(^o^)丿
 この曲は1928年に作られ、翌29年にルイ・アームストロングがレコーディングして有名になり、その後多くの歌手に取り上げられるようになったとのこと。 “君が微笑めば世界中が微笑む。でも君が泣けば雨が降り出す。だから溜息をつかないでもう一度微笑んで。” という内容の、凹んだ時なんかに聴くとめっちゃ元気になれる歌で(←ちゃんとした対訳は shoppgirl 姐さんのブログでどうぞ!)、特にレスター・ヤング屈指の名演が聴けるビリー・ホリディ盤は究極の名演だ。ということで、今日はこの曲の代表的名演をセレクトしてみた;

①Billie Holiday with Lester Young
 ビリー・ホリディというとどうしても陰々滅々たる雰囲気のコモドア盤「奇妙な果実」のイメージが強くて敬遠されがちだが、若かりし頃のこの愛らしい歌声を聴けばそんな偏見も木端微塵に吹き飛ぶだろう。それまでインスト・ナンバーとして聴いていたこの曲の歌詞を “エエなぁ... (≧▽≦)” と実感させてくれたのがコレだ。バックの演奏も素晴らしく、2:06からスルスルと滑り込んでくるレスター・ヤングの歌心溢れるテナーといい、テディ・ウィルソンのコロコロ転がるようにスイングするピアノといい、まさに絵に描いたような名曲名演だ。
When You're Smiling(君微笑むとき) - Billie Holiday


②Ruby Braff
 スイング・トランペットの名手と言えばこの人、ルビー・ブラフ。彼の美しい演奏はベツレヘム・レーベルに数多く残されているが、そんな中でもダントツに好きなのがコレ。懐かしさ溢れるペットの音色、エリス・ラーキンスの上品なピアノ、名手ボビー・ドナルドソンのツボを心得たドラミングと、いいことずくめのキラー・チューンで、特に上記①のレスターのソロを再現したサックス・アンサンブルはまさに50年代の “スーパー・サックス” と言っても過言ではない心地良さだ。
ルビー・ブラフ


③Art Pepper
 私が最初にこの曲を好きになったのはアート・ペッパーの「モダン・アート」、通称 “イントロのペッパー” がきっかけだった。リー・コニッツにも一脈通じるような “抑制の美” とでも言えばいいのか、聴く者に緊張感を強いるような演奏が続く中、ホッと一息つかせてくれたのがこの曲で、その軽妙にして洒脱な語り口に耳が吸い付く。 “クールに、軽やかに、粋にスウィング” のお手本のようなヴァージョンだ。
Art Pepper Quartet 1957 ~ When You're Smiling


④Frank Sinatra
 この曲の男性ヴォーカル物と言えば何はさておきフランク・シナトラのこのヴァージョン。心にポッと温かい灯がともるような柔らかな歌声を聞かせるビリーに対し、こちらは男性的な包容力を感じさせるゴージャスでリッチなシナトラ節が炸裂だ。バックの演奏も当意即妙といった感じでシナトラをがっちりサポート。スインギーな男性ヴォーカルを腹一杯聴きたい時はシナトラに限りますな(^.^)
Frank Sinatra When you're smiling


⑤Louis Armstrong
 滋味溢れるヴォーカルが魅力のルイ・アームストロング。昔はその良さがサッパリ分からなかったが、最近ようやくその酸いも甘いもかみ分けたような歌声の魅力が分かってきた。 “古き良きアメリカ”を感じさせるその枯れた味わいはまさに “ザ・ワン・アンド・オンリー” だ。尚、この曲は日本でも iPhone 4 のCMで使われていたが、私は YouTube で見つけたアメリカ版の CM が好きだ。
Apple - iPhone 4(Louis Armstrong - When You're Smiling)

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A列車で行こう / 美空ひばり

2010-12-12 | Standard Songs
 前回に続いて今日も G3 ネタである。毎月の定例会ではスタンダード・ナンバーの中から課題曲を決めて各人のお気に入りヴァージョンを持ち寄ることになっており、今回のお題はデューク・エリントンの「A列車で行こう」だった。
 エリントンの片腕と言われる作編曲家ビリー・ストレイホーンによって作られたこの曲は1941年の初レコーディング以降何度も再演されてきたエリントン楽団を代表するナンバーで、 “A列車” という邦題からどうしても “蒸気機関車” をイメージしてしまいがちだが、コレはニューヨーク地下鉄のブルックリンからハーレム経由でマンハッタンを結ぶ8番街急行電車のことで、“ハーレムのシュガー・ヒルに行くのなら、(停車駅が少なくて速く着く急行の)A-トレインに限る さぁ来たぞ 乗ろう” という歌なんである。
 私はジャズを聴き始めて15年ぐらいになるが、正直言って未だにエリントンの良さがよく分からない。別に彼の音楽が嫌いとかそういうのではなく、ビッグバンド・ジャズというフォーマット自体が大の苦手なのだ。私の音楽の原点はあくまでもソロを重視するロックなので、ジャズであれクラシックであれ、大人数で合奏というオーケストラ・スタイルが肌に合わないのだろう。
 しかし女性ヴォーカル・ヴァージョンとなると話は別で、今回も「A列車」と聞いてすぐに頭に浮かんだのが美空ひばり、アニタ・オデイ、そしてクラーク・シスターズの3組だった。正統派のジャズ・ファンからしたら “何じゃい、それは!” と言いたくなるようなチョイスだと思うが、私は自分が楽しめるモノしか聴かないのでコレでいいのだ。ということで、今日は私のようなビッグバンド門外漢でも楽しめる、 “A列車・ヴォーカル編” です;

①美空ひばり
 私にとって「A列車」と言えば何はさておき美空ひばりのこのヴァージョン。初めて聴いた時はそのあまりのカッコ良さにブッ飛んでしまった。日本人でこれほど強烈にスイングするシンガーを私は他に知らない。最初は日本語詞で歌い始め、途中から英語にスイッチして抜群のノリで一気に加速していくところなんかもうめちゃくちゃカッコ良い。特に1分55秒から炸裂する高速スキャットは圧巻の一言。しかも驚くべきはコレがひばり17才時の録音(1955年)だということ。天賦の才とはこういうものか。
A列車で行こう Take the 'A' Train/美空ひばり


②Anita O’Day
 スキャットと言えばやはりこの人アニタ・オデイ。人気投票でトップになったことのあるジャズメンの曲ばかりを歌ったアルバム「アニタ・オデイ・シングズ・ザ・ウィナーズ」の1曲目に収録されていたのがこの「A列車」で、彼女のジャズ・フィーリングが如何なく発揮された粋なヴォーカルが楽しめる。貫禄十分のスキャットは自由奔放というか変幻自在というか、まさに “ジャズ・シンガー歌うところのジャズ・ソング” の王道を行くヴァージョンだ。
Anita O'Day - Take The "A" Train


③Clark Sisters
 クラーク・シスターズはスイング時代の名曲の数々を見事なアレンジによって換骨堕胎し、美しい癒し系ハーモニーで楽しませてくれるコーラス・グループ。私にジャズ・コーラスの楽しさを教えてくれたのも彼女達だ。コレは1959年にドット・レーベルからリリースされた「スイング・アゲイン」というアルバムに収められていたヴァージョンで、まるで春の陽だまりにいるような心地良さを味わえる快適な「A列車」になっており、治安の悪さで有名な地下鉄にも一度乗ってみようかな、という気にさせられる(?)名唱だ。
クラーク・シスターズ


④江利チエミ
 美空ひばりと共に3人娘として一世を風靡した江利チエミ。彼女は「テネシー・ワルツ」のイメージが強いが、私に言わせればバリバリのジャズ・シンガーだ。特に白木秀雄クインテットをバックにカール・ジョーンズとデュエットした「クレイジー・リズム」を初めて聴いた時の衝撃は忘れられない。コレは彼女のデビュー30周年記念として制作された1981年のアルバム「ナイス・トゥ・ミート・ユー」の冒頭を飾る1曲で、師匠のカール・ジョーンズにヴォイス・トレーニングを受けてレコーディングに臨んだだけあって、一語一語とても丁寧に歌い込んでいるのが印象的だ。バックはひばり盤と同じ原信夫とシャープス&フラッツで、実にゴージャスな演奏をバックに円熟のヴォーカルが堪能できる。しかし出来ることなら、あのカウント・ベイシー・オーケストラと五分に渡り合った全盛期の彼女の高速スキャットで聴いてみたかったなぁ...
A列車で行こう


⑤Duke Ellington featuring Betty Roche
 私はビッグバンドは聴かないが、コレは例外的に大好きだ。ヴォーカル入りということもあるが、何よりも嬉しいのがコンボ編成で曲がスタートするというユニークなアレンジのおかげでビッグバンド臭さを感じさせない所。特にルイ・ベルソンのドラミングが最高だ。美空ひばりがお手本にしたと思しきベティ・ローシェの軽やかなスキャットも聴き所で、私がこれまで聞いてきたエリントン楽団ヴァージョンの中では文句なしにベスト。 901さんと plinco さんが偶然バッティングしたエリントン屈指の大名演だ。
Take the A Train.wmv

ラヴ・ユア・スペル・イズ・エヴリウェア / カーティス・フラー

2010-12-10 | Standard Songs
 先月の G3 定例会に plinco さんがカーティス・フラーの名盤「ブルース・エット」の別テイク集「ブルース・エット Vol. 2」を持参された。「ブルース・エット」といえば星の数ほどあるジャズ・アルバムの中でも一番好きなスーパー・ウルトラ愛聴盤だ。「2」と聞いて私は最初1993年に出た「ブルース・エット・パート2」という棺桶に片足を突っ込んだようなヨレヨレ演奏の再録音リメイク集と勘違いしたのだが(←同じようなジャケットで Vol.2 と Part 2 って紛らわしすぎる...)、 plinco さんの説明で50年代録音の未発表別テイク集と分かって大喜び(^o^)丿 こういうボツ・テイクというのはミスがあったりソロがイマイチだったりと何らかの欠陥があるのが普通だが、この盤には本テイクと比べても何ら遜色のないヴァージョンが並んでいる。中でも我が愛聴曲「ラヴ・ユア・スペル・イズ・エヴリウェア」におけるトミフラのメロディアスなソロが絶品で、本テイクと甲乙付け難い出来栄えだ。
 この曲は元々1929年の映画「トレスパッサー」の中で主演のグロリア・スワンソンが歌ったものがオリジナルで、その後ペギー・リーやテディ・キング、ヘレン・フォレストといった王道女性シンガーらが取り上げているが、極めつけはやはりゴルソン・ハーモニーが冴えわたるカーティス・フラーのヴァージョンだと思う。ということで今日はこの曲の愛聴ヴァージョンをご紹介;

①Curtis Fuller
 「ブルース・エット」は1曲目に置かれた大名曲「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」にばかり目が行ってしまいがちだが、B面ラス前に置かれたこの曲こそ “隠れ名曲” の最たるものだろう。素材である原曲の魅力をこれ以上ないぐらいに引き出した見事なアレンジと絶妙なテンポ設定に脱帽だ。トミー・フラナガンの歌心溢れるソロ(4:00~5:35あたり)は何度聴いても心が洗われるようで、 “名盤の影にトミフラあり” とはよくぞ言ったものだと思う。ジミー・ギャリソンの轟音ベースもタマランなぁ... (≧▽≦)
カーティス・フラー


②Kenny Burrell
 ジャズ・ギターで哀愁の名曲を弾かせたらケニー・バレルの右に出る者はいない。この演奏はなぜか録音当時にはリリースされずに埋もれていたもので(←もったいない!)、「フリーダム」というバレルの未発表音源集の中にこの曲を見つけた時は大コーフンしたものだ。渋~いギターの音色といい、グルーヴィーなノリといい、やっぱりバレルは最高やね!
Kenny Burrell - Love, your spell is everywhere


③Alex Kallao
 アレックス・カラオはアート・テイタムの流れを汲む盲目のピアニスト。このデビュー盤でもミルト・ヒントンの堅実なベースとドン・ラモンドの瀟洒なブラッシュをバックに粋なプレイを聞かせてくれる。音楽とは関係ないけど、もう1枚のリーダー作である Baton 盤のジャケットのグラサン姿を見るたびに「スパイダーマン2」に出てきた敵役オクタビアス博士を思い出してしまうのは私だけ?
アレックス・カラオ


④Jaye P. Morgan
 この曲のヴォーカル・ヴァージョンで好きなのが、張りのあるパンチの効いた歌声で堂々たる歌いっぷりのジェイ. P. モーガン。説得力溢れるヴォーカルで聴き手をグイグイ引き込むパワーはさすがの一言。お色気ムンムンの悩殺ジャケットとは裏腹に、バックのマリオン・エヴァンス・オーケストラの好演もキラリと光る正統派女性ヴォーカルだ。
ジェイP.モーガン


⑤Platters
 「オンリー・ユー」で有名なプラターズがこの曲をカヴァーしていると知った時はビックリしたが、よくよく考えてみると彼らは「スモーク・ゲッツ・イン・ユア・アイズ」を始め数々のスタンダード・ナンバーも取り上げている。美しいコーラス・ハーモニーをバックに哀愁のメロディーをソウルフルに歌い上げた名唱だ。
The Platters Paul Roby - Love, your magic spell is...
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ビトゥイーン・ザ・デヴィル・アンド・ザ・ディープ・ブルー・シー / ジョージ・ハリスン

2010-11-29 | Standard Songs
 この「Between The Devil And The Deep Blue Sea」という曲は1931年にハロルド・アーレンによって書かれ、1935年にヘレン・ウォードをフィーチャーしたベニー・グッドマン楽団のレコードでヒットし、その後は主にジャズ・シンガーによって歌われてきた古いスタンダード・ナンバーだ。浮気が発覚した相手と別れたいが未練があって別れられない、どうしたらいいの???、という内容の歌で、タイトルは日本で言えば “前門の悪魔、後門の深海” みたいなニュアンスだろう。要するに “どっちへ転んでもやっかいなことになる” ということで、邦題は「絶体絶命」となっている。アップテンポでスインギーに歌われることが多く、ヘレン・ウォードを始め、アニー・ロス、ブロッサム・ディアリー、ペギー・リー、ジョニ・ジェイムズ、リー・ワイリー、ヘレン・フォレストなど、私の大好きな女性ヴォーカリスト達がこぞって取り上げている我が愛聴曲だ。

①George Harrison
 長年音楽を聴いていると “エッ、この人がこんな曲をカヴァーしてるの?!” と驚かされることが時々ある。ジョージの遺作「ブレインウォッシュト」のトラックリストの中にこの曲の名を見つけた時は本当にビックリした。元ビートルズのメンバーがアメリカの古いジャズ・スタンダード・ナンバーを? ビートルズとジャズというのは一見あまり接点が無いように思えるのだが、よくよく考えてみるとジョージはアルバム「33&1/3」の中でコール・ポーターの「トゥルー・ラヴ」を、「サムウェア・イン・イングランド」でもホーギー・カーマイケルの「ボルチモア・オリオール」をカヴァーするぐらいアメリカン・スタンダード・ナンバーにも造詣が深い。そういう意味ではこの選曲も何となく合点がいく。
 で、実際に聴いてみるとコレがもう実に肩の力の抜けた名演で、参加しているミュージシャンみんなが心から楽しんでいる様子がヒシヒシと伝わってきて “音楽っていいモンやなぁ~(^.^)” と思わせてくれるのだ。 PV の映像で実にリラックスした表情で楽しそうにこの曲を歌っているジョージを見た時は思わずジーンときてしまった。愛用のウクレレを弾きながらこの曲を慈しむように歌うジョージ... ここで見れるのは元ビートルズというよりも、人生の晩年を迎えて純粋に音楽を楽しむ達観の境地に達したかのような一人のミュージシャンとしての姿である。病魔に蝕まれた身体で枯淡な味わいのヴォーカルを聞かせる様は感動的だ。
 若くして不世出のロックバンドの一員として世界制覇を成し遂げ、ジョンとポールという二人の天才の陰に隠れながらもコツコツと独自のスタイルを築き上げて晩成し、ソロになってからはその滋味溢れるプレイでファンを魅了し続けたジョージ。私はそんな彼がたまらなく好きだ。
Between The Devil And The Deep Blue Sea


②Helen Ward with Benny Goodman Orchestra
 ヘレン・ウォードは1930年代にベニー・グッドマン楽団のバンド・シンガーとして一世を風靡した人気歌手。独特な節回しでスイングする彼女の歌声は録音から70年以上経った今でも瑞々しく響く。
ヘレン・ウォード


③Annie Ross
 アニー・ロスは後年の姉御肌のヴォーカル・スタイルも捨てがたいが、私にとってはこの初レコで聞ける蕩けるような歌声がベスト。22才にして既に貫禄が備わっており、ジャジーなくずしの妙味も聞き物だ。
アニーロス


④Modern Jazz Quartet
 ③のセッションでアニー・ロスのバックを務めていた MJQ (ピアノはブロッサム・ディアリーだったが...)はこの曲を2度レコーディングしている。私は端正なアトランティック盤(57年)よりも親しみやすいこのサヴォイ盤(51年)のヴァージョンが好きだ。
MJQ


⑤Bing Crosby
この曲は圧倒的に女性ヴォーカルが多いが、男性ヴォーカルではこのビング・クロスビーのヴァージョンがいい。あくまでも軽やかに、そして粋にスイングするホワイト・クリスマスな歌声は唯一無比だ。
Bing Crosby - Between The Devil And The Deep Blue Sea -

ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト / アニー・ロス

2010-04-29 | Standard Songs
 テレビドラマを見ていてたまたま自分の好きな曲が印象的なシーンで効果的に使われていたりすると嬉しいものである。だから大好きなスタートレック・シリーズの中でも一番のお気に入りである「スタートレック・ディープ・スペース・ナイン」にジェームズ・ダーレンがヴィック・フォンテーンというホログラム・シンガー・キャラで登場し、ストーリー展開にピッタリ合ったスタンダード・ナンバーをチョイスして次から次へと歌ってくれた時は大喜びしたものだ。さすがアメリカのドラマ作りは奥が深いわいと感心したものである。そんなヴィックの数々の名唱の中でも一番印象に残っているのが最終回に宇宙ステーションのクルーの別れの宴で歌われた「ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト(邦題:今宵の君は)」である。
 この曲は元々1936年のミュージカル映画「有頂天時代」の中で “今宵の君を愛せるなら他には何もいらない” とフレッド・アステアが歌い、アカデミー賞を受賞したバラッドの逸品だが、私は蕩けるようなアニー・ロスのヴァージョンを聴いてその優しさ溢れる旋律と愛情がヒシヒシと伝わってくる歌詞をすっかり気に入り、それ以降この曲が入った盤はすべて買うようになった。流れるようなメロディーとコード進行のせいか、モダン・ジャズのインストではスタン・ゲッツ、アート・ペッパー、ジョニー・グリフィン、ロリンズ&モンクなど、アップテンポで快調に飛ばす名演が多いが、今日は敢えてヴォーカル物で、しかも多分私しか選ばないであろう極私的愛聴盤を5つご紹介;

①Annie Ross
 アニー・ロスの初録音で、22才という若さのせいか、とにかく初々しくて可愛いところがいい。その甘~い歌声は聴いてるこっちがフニャフニャと腰砕けになっちゃいそうなくらい魅力的。後年の姐御肌のロスとは別人のようだ。バックがジョン・ルイスの代わりにブロッサム・ディアリーが入ったMJQというのも珍しいし、何よりミルト・ジャクソンの歌伴というのが貴重だと思う。
アニー・ロス


②June Christy
 ジューン・クリスティーのケントン楽団退団直後の SP 音源を集めたCD「デイ・ドリームズ」収録のこのヴァージョン、何とスキャットのみで歌い切ってしまうという大胆さ、40年代においてここまでやってしまう斬新さに改めて彼女のモダンなジャズ・フィーリングを実感させられる。スイングせずに何のジューン・クリスティーか、と言いたくなるようなカッコ良さだ。
ジューン・クリスティ


③The Dinning Sisters
 癒し系女性コーラス・グループで愛聴しているのがこのディニング・シスターズ。綴りにnが2個あるので決して “ダイニング” ではない(←食堂じゃあるまいし...笑) コレは43年録音のSP音源で、ピッタリ息のあったコーラス・ハーモニーが生み出すノスタルジックな響きにウットリ聴き入ってしまう。寝る前に聴くと安眠できそうな名唱だ。
ディニング・シスターズ


④Sara Lazarus
 以前このブログでも取り上げたサラ・ラザラス盤の中でも一番好きなトラックがコレ。もちろんサラのヴォーカルもエエのだが、それに輪をかけて素晴らしいのがバックに回って歌心溢れるプレイを聴かせるビレリ・ラグレーンだ。特に1分35秒から始まる変幻自在のソロは何度聴いても鳥肌モノ。ここまできたらもうジャンルもヘッタクレもない、音楽ってホンマにエエよなぁ...と思わせてくれる至福の3分16秒である。
サラ・ラザラス with ビレリ・ラグレーン


⑤James Darren (Vic Fontaine)
 筋金入りのスタートレック・ファンとしては、「今宵の君は」と言えばやはりジェームズ・ダーレンのクルーナーぶり(←ホンマに渋いッ!!)が存分に発揮されたこのシーンを忘れることはできない。特に鼻筋に独特の皺があるという設定のベイジョー人、キラ少佐(赤い軍服の女性)に向かってさりげなく And that laugh that wrinkles your nose と歌うくだり(3分50秒あたり)なんか、テレビを見ていて思わず唸ってしまった。バックのトランペットもエエ味出してるなぁ...(≧▽≦)
DS9 - The Way You Look Tonight
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ブルー・プレリュード / モニカ・ゼタールンド

2010-02-16 | Standard Songs
 私は哀愁を感じさせるマイナー調のメロディーを持った曲に目がない。「ディア・オールド・ストックホルム」や「ゴールデン・イヤリングス」など、ジャズのスタンダード・ナンバーの中にはそのような哀調曲ゾーンがあり、アルバム中にその曲が入っているだけで買ってしまう。そんな哀調愛聴曲(?)の一つがこの「ブルー・プレリュード」である。
 この曲は有名なスタンダード・ソング「グッドバイ」の作者ゴードン・ジェンキンスが1932年に作曲した古い歌モノで、知名度が低いせいかあまり取り上げられることのない “知る人ぞ知る” 隠れ名曲。歌詞の内容は “愛は哀しみへの前奏曲” というブルーなムードに満ちた歌で、ブルージーなメロディー・ラインに涙ちょちょぎれる。この曲とのファースト・コンタクトはちょうどジャズを聴き始めた頃で、スウェーデンの№1ジャズ・シンガー、モニカ・ゼタールンドの歌うヴァージョンがラジオから流れてきたのを聴いて一目惚れならぬ一聴惚れしてしまった。しかし色々調べてみるとこの曲の入っているモニカのCDは既に廃盤になっておりどこを探しても見つからず凹んでいたが、数年後に高田馬場のディスク・ファンで1,000円で見つけ、大コーフンしたのを今でもよく覚えている。
 先日ちあきさんの「リサイタル」で偶然この曲の日本語ヴァージョンと邂逅した時は本当に驚いたが、よくよく考えてみれば下に挙げたシンガーはみな大好きな人ばかり。歌声が好きな歌手とは何故かその選曲の趣味までバッチリ合うというのが面白い。ということで今日は哀愁の名曲「ブルー・プレリュード」5連発です;

①Peggy Lee
 この曲が入ったアルバム「ビューティ・アンド・ザ・ビースト」は1959年のリリース当時はライヴ音源ということになっていたが、後になって実はスタジオ録音に拍手を被せたものだということが判明したいわくつきの盤。しかし名唱であることに変わりはない。ジョージ・シアリング・クインテットの瀟洒な演奏をバックにミディアム・テンポで淡々と歌いきるペギー・リーの何と粋なことか!
Peggy Lee - Blue Prelude


②Monica Zetterlund
 「ワルツ・フォー・デビィ」をモニカのオモテ名盤とすれば、この曲が入った「メイク・マイン・スウェディッシュ・スタイル」はまさに彼女の裏名盤。ビッグバンド系よりもスモール・コンボ系のジャズ・ヴォーカルが好きな私にとって座右の1枚と言えるほど気に入っている。クリスプなピアノトリオをバックにブルージーに迫るモニカがたまらなくカッコイイのだ(≧▽≦)
モニカ・ゼタールンド


③ちあきなおみ
 ちあきさんはジャズを歌おうがシャンソンを歌おうが、単に旋律をなぞって歌うのではなく、曲の髄を引き出して他の誰にも真似できないような “ちあき・わーるど” の中で表現し、まるで彼女のオリジナル曲であるかのような錯覚を抱かせるところが凄い。この「裏窓」もすぐには「ブルー・プレリュード」だとは気付かなかったほど “ちあきなおみの歌” に昇華されている。バックのヴィブラフォンが雰囲気抜群だ。
裏窓


④Zoot Sims
 スローテンポの女性ヴォーカルが主流のこの曲だが、意表をついたアップテンポで成功したのがコレ。70年代ズート・シムズの中では一二を争う名演だ。いつもは辛気臭いピアノを弾くジミー・ロウルズがここでは水を得た魚のようにスイングし、それに触発されたのかズートも負けずに歌心溢れるソロを連発する。インストの「ブルー・プレリュード」の白眉だろう。
ズートシムズ


⑤Linda Ronstadt
 まずはジャケットのリンロンに注目!とても58歳には見えない、まさにウィッチー・ウーマンの面目躍如たる美しさである。2004年にリリースされた「ハミン・トゥ・マイセルフ」はジャズのスタンダード集だが、一連のネルソン・リドル・オーケストラとの共演モノとは違い、本格的なジャズ・コンボをバックに歌っているのが嬉しい。そしてその凛とした歌声がまたコワイぐらいにキマッているのだから恐れ入る。大好きなリンロンが大好きな「ブルー・プレリュード」を歌う... これ以上何を望めというのだろう?
ブルー・プレリュード
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