shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ドイツ盤「Die Beatles」マト1 vs マト2 聴き比べ

2018-08-25 | The Beatles
 今回も引き続きドイツ盤の「プリーズ・プリーズ・ミー」だ。前回取り上げた輸出仕様のオデオン盤「プリーズ・プリーズ・ミー」はジャケットがUK盤とほぼ同じアートワークだったが、60年代にドイツ国内向けにリリースされたこのレコードは上の写真のように完全なるディフ・ジャケ仕様で、通称は「Die Beatles」(Dieは英語のTheにあたる冠詞で、「ダイ」ではなく「ディー」と発音するらしい...)。レーベルはオデオンではなく HÖR ZU(ドイツ語で「ヘール・ツー」と読むらしいが、私は長い間「ホーズー」やと思ってた...)になっているのだが、そもそもこの HÖR ZU というのはレコード・レーベルではなくドイツのTVマガジンで、タイアップしたレコードにロゴを印刷していたらしい。正式なタイトルは「Please Please Me Und Andere Knüller」(←英訳すると“Please Please Me and other blockbuster”)で、副題が「Die Zentrale Tanzschaffe der Weltberühmten vier aus Liverpool」(←“The dance music created by the world-famous four from Liverpool”の意)となっている。まだ世界的大ブレイク前ということでわざわざこのような副題を付けたのかもしれないが、ちょうど US盤「Meet The Beatles」の“The First Album by England's Phenomenal Pop Combo” みたいなモンだろう。
 私がこのレコードに興味を持ったきっかけは例のスティーヴ・ホフマンのフォーラムで(←このパターン多いよな...)、それによるとドイツ盤「プリーズ・プリーズ・ミー」にはマト末尾が A-1 / B-1の独1stプレス(1964年発売)とマト末尾が A-2 / B-2の独2ndプレス(Discogsでは1966年発売となっているが、同時期の他のドイツ盤の音質傾向から類推すると1967~1968年頃の発売ではないかと思う...)の2種類のレコードが存在し、1stプレスのマト1盤は音が悪くて(←sound like garbageってボロクソやん...笑)真に聴くべきは2ndプレスであるマト2盤の方だというのだ。
 実を言うとディフ・ジャケ目当てでこの盤は既に購入済みだったのだが、慌ててマトを確認すると、悲しいことに “音が悪い” 方のマト1盤だった(>_<)  買った時は確かに音圧が低くて迫力に欠けるカッタルイ音やなぁという印象だったが、60年代プレスの他のドイツ盤はみんな目クソ鼻クソ同然の眠たい音やったので所詮ドイツ盤なんてこんなもんやろ... と特に気にはしていなかったし、送料込みの €21はディフ・ジャケ代と割り切っていた。
 しかし “音が良い” ドイツ盤が存在するということになると、これはエライコッチャである。一体どんな音で鳴るのか是非とも聴いてみたい。ということで、横野さんのHPでレーベルやジャケットの詳細を確認してから(←ホンマにいつもお世話になってます... 大感謝!!!)Discogsで検索をかけると10アイテム以上出ていたので、その中から盤質の良さそうなものを €25でゲット。ドイチェ・ポストは送料がめっちゃ安い(←日本国内の宅急便とほぼ同額!)のが何よりも嬉しい。
 そもそも各国盤の音が違うのは、レコード化の際のカッティング/マスタリング技術(又はプロセス)が国によって異なるからで、コレクターとしてはそれぞれのタイトルでお気に入りの音の盤を見つけるのが一番の楽しみだ。ネット上では “このマト2盤はUK盤とはマスターが異なり、コンプをかける前の一世代若いテープが使われている”だとか、“いや、英EMIが加工処理(?)前のテープを他国に送るなんてありえない” とか喧々諤々の議論がなされているようだが、まぁ理由はどうであれ(←というか、別にどっちでもエエやん...)私にとっては自分好みの音が聴ければそれで満足。ということで私はUK黄パロのステレオ盤とドイツ盤2枚とを聴き比べてみることにした。
 3枚の中で私が一番気に入ったのはコンプのガンガンかかったUK盤のアグレッシヴな音作りで、「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の疾走感や「ツイスト・アンド・シャウト」のプリミティヴなパワーを味わいたいなら迷わず黄パロ一択だ。私は初期ビートルズの一番の魅力はそのエネルギー感にあると信じているので誰が何と言おうとUK黄パロが№1だ。
 それに対し、「アンナ」や「アスク・ミー・ホワイ」、「ドゥー・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」といったミディアム・テンポのポップス系作品は独マト2盤がエエ感じ。ミックスは多分同じはずなのにコンプ感がほとんど感じられないナチュラルで柔らかい感じのサウンドで、“へぇ~、確かにUK盤とは違うわ...” と感心してしまう。料理に例えるなら、絶妙なソースの味付けで最高に美味しく食べさせてしまうフランス料理がUK盤で、素材そのものの味を活かした薄い味付けの日本料理が独マト2盤という感じ。私のように(たとえ作り物であっても)濃厚な音が好きなオールド・ロック・ファンにはUK盤、ナチュラルでフラットなサウンドこそ最高と信じるオーディオマニアには独マト2盤が合っているように思う。
 独マト1盤はハッキリ言って論外で、garbage(ゴミ)扱いされてもしゃーないヘタレなサウンド。こぢんまりとまとまった「ツイスト・アンド・シャウト」なんかもう聴いてて悲しくなってくる(>_<)  この“軟弱”1stプレス盤は “美音”2ndプレス盤とはマト枝番以外にもジャケット左上のHÖR ZUロゴの大きさ(マト1盤の方が1.5倍ぐらい大きい)やセンター・レーベル下部の (ST)(33) のフォント(マト1盤は全角でマト2盤は半角っぽい)など細部で色んな違いがあるので、買う前によく確認してカスをつかまされないよう気をつけましょう。

Please Please Me ZTOX 5550(ドイツ盤エクスポート仕様)

2018-08-18 | The Beatles
 今日は久々のビートルズだ。去年個人的に大いに盛り上がったビートルズ各国盤祭りの際に取りこぼした稀少盤が数枚あって、ネット上で網を張りながら手に入れるチャンスを虎視眈々と窺っていたのだが、先日ついにそのうちの1枚をゲットすることが出来た。それが「プリーズ・プリーズ・ミー」エクスポート(輸出)仕様のドイツ盤(ZTOX-5550)で、同時期のドイツ国内盤(HÖR ZUレーベル)とは違ってホワイト&ゴールド・オデオン・レーベルだ。エクスポートと言っても別にドイツ国外へ輸出するというのではなく、米ソ冷戦時代に西ベルリン(←懐かしいなぁこの言い方...)にあった外国の軍事基地用に作られたものらしい。この盤は製作枚数がかなり少なかったらしく(←ドイツ国内に駐留してる外国の軍人の数なんてたかが知れてるもんね...)ネット上ではビックリするくらいの高値で取り引きされており、最低でも$350~$400、高いものになると$1,200~$1,400というアホバカ・プレミア価格が付いている。
 そもそも私がこの盤の存在を知ったのは暇つぶしにeBayで金パロ・ステレオ盤の相場を調べていた時のことで(←あくまでも暇つぶしです... いくら何でもレコード1枚に50万も60万も出せませんわ...)、関連アイテムとしてUKステレオ盤に混じって$1,600で出ていたのを偶然見つけ、“何でたかがドイツ盤ごときにこんな高値がついとんねん???” と興味を持ったというわけだ。早速 eBayやDiscogsで調べてみたらUK黄パロのステレオ盤よりも高い値段だし、ディスクユニオンのビートルズ廃盤アナログセールでも82,000円という信じられない値段が付いている。60年代プレスのドイツ盤は音質的にハズレが多いが、「SGTペパーズ」のホワイト&ゴールド・オデオン盤のように奇跡的に超高音質な盤も存在するので、“この「プリーズ・プリーズ・ミー」もきっとめちゃくちゃ音が良いに違いない...” と考え、“絶対欲しいというワケじゃないけど、もし安ぅ買えるんなら欲しい盤リスト(笑)” に入れて2万円を切るのを辛抱強く待っていた。
 そして待つこと1年半、ついに念願のZTOX盤が $75という Low Start Bid で私の射程圏に入ってきた。ジャケットはVG+だが盤質のヴィジュアル・グレードがVG-(←少しプチプチ音が出る擦り傷が少々)ということで由緒正しいコレクター諸氏は敬遠しそうだ。私は千載一遇のチャンスとばかりに $150を付けたのだが、入札者はわずか4人で結局 $113.50で無事落札。送料込みでも15,000円を切るというラッキーに恵まれた。
 アメリカから約1週間で届いたこのレコード(←早っ!)、ジャケットはディフ・ジャケ仕様で有名なドイツ国内盤とは違ってUKオリジナル盤とほぼ同じデザインながら、ジャケ左上にはカラフルなパーロフォン・ロゴの代わりにモノクロのオデオン・ロゴが入っている。がっしりした厚手の作りで、ちゃーんとコーティングも施されていてめっちゃエエ感じだ。しかし盤を取り出してみてビックリ(゜o゜)  スクラッチ云々というレベルではなく、盤全体にブツブツがあって、見た目は最悪。これでははるでサメ肌ではないか!


 そういえば以前 Discogs で見たセラーの説明に“what seems to be bubbles on the surface of the vinyl... looked unplayable, but it did play through!(盤の表面に気泡みたいなブツブツがあってレコードをかけるのは無理っぽく見えましたけど最後まで針飛びせずに聴けました!)”というのがあって何のこっちゃと思っていたがコレのことやったんか... そういえばユニオンの盤質説明にも “盤質経年劣化あり... 60年代独プレスは材質上ほぼ劣化してしまいます” と書いてあったが、“劣化” にも程があるやろ...(>_<)  “こんなんVG-どころか POOR やんけ、あの糞セラー野郎!” と怒りが沸々と湧いてきたが時すでに遅しである。しっかりとした下調べもせずに大枚を叩いてしまった自分が悪い。
 15,000円近くした盤に一度も針を落とさずに隣室送りにするのも癪なので、“but it did play through!”という言葉に一縷の望みをかけてターンテーブルに乗せ、針を落とす。ステレオ針がブツブツ、いやバブルを通過するたびにアップダウンを繰り返し、それが “ゴソゴソ...” というノイズとして音楽に纏わりついて(←例えるなら遠くの方で雷がゴロゴロ鳴っている中でレコードを聴いているような感じ...)、とてもじゃないが気持ちよく聴いていられない(>_<)  15,000円がドブに消えたか!
 しかしここで一つのアイデアが閃いた。そう、モノラル・カートリッジである。繊細なステレオ針とは違い、少々のノイズなど笑い飛ばしてしまう野太いモノラル・サウンドで聴いてやろうというワケだ。で、実験の結果は大成功!!! かすかにノイズは聞こえるものの、意識して耳を澄まさなければほとんど分からないレベルだ。しかもかなりガッツのある豪快なモノラル・サウンドで鳴ってくれるのでめっちゃ嬉しい。お金が無駄にならずにホンマに良かったぁ...(^_^)   ということで、この盤は隣室送りを免れ、今後はモノラル盤として生きていくことになりました。めでたしめでたし...ヽ(^o^)丿

【おまけ】私のブツブツはまだマシな方で何とか聴けたけど、eBayで見つけた下の盤の写真を見たら聴ける聴けないを通り越して何かもう気持ち悪ぅなりますな。因みにセラーの説明は “Don't know how to explain this one but the album seems to have gotten a ton of bubbles from some sort of separation from the layers of vinyl. I have never seen this type of wear on a record and was surprised to see that it actually played. There is obviously some noise from the needle constantly moving up and down the bubbles. So I rate it AWESOME!”(これを何と説明したらいいのかわかりませんが、ビニール表層の剥離のせいで盤面にものすごい数のバブルがあります。こんな状態の盤を見るのは初めてですが、実際にかけてみたらちゃんとかかるので私も驚いています。バブルに当たるたびに針が常に上下しているので明らかにノイズは聞こえます。だから私の盤質評価は“凄い!”です。) 因みに盤質評価の欄にはVGとかPではなく "Bubbly” と書かれていた(笑) それにしてもこんなガチャ盤↓に $400も出すやつホンマにおるんかいな???

Led ZeppelinⅠ US盤聴き比べ

2018-08-11 | Led Zeppelin
 少し前に「Led ZeppelinⅠ」UK盤の1stプレスと2ndプレスとの聴き比べというのをやったが、ほんなら US盤はどーやねん?という好奇心が沸々と湧き上がってくるのがコレクターの哀しい性というもの... しかしゼップの US盤に関してはカッティング・エンジニアやプレス工場の違いで音はコロコロ変わるので一筋縄ではいかない。結局 US盤の「Led ZeppelinⅠ」を何枚も買うことになってしまったのだが、そのどれもが実にユニークというか、一聴して UK盤とはかなり違う音作りなので、今回はそれらの US盤を取り上げてみようと思う。
 私が初めて手に入れた「Ⅰ」のUS盤は purple/tan レーベルで、ド素人の私はてっきりコレが red/greenレーベルの前のデザインだと勘違いして1stプレスのつもりで買ったのだが(←10年以上前のことで $76で買えたけど、今は倍以上の額で取り引きされているようだ...)、実際に針を落としてみると A面B面ともにまるで薄皮を剥いだかのように生々しくてスタジオライヴっぽい音だし、曲間の無音部の長さも他の盤と違っていてビックリ。特にB③の前後の間がやけに大きく開いていて、B②が終わると同時にB③の突き刺さるようなイントロが聞こえてくるという構成に慣れている耳には違和感が強かった。
 後になってこれは1stプレスではなくどうやら RCA Record Club イシューらしいということが分かったのだが、最終ミックス前段階のラフ・ミックスが何らかの手違いで流出してしまったかのような感じだ。何故こんな音の盤が、しかも Atocoもどきの紛らわしいレーベル・デザインでリリースされたのかは謎だが、珍盤奇盤怪盤の類が好きな私としてはコレはコレでエエかなぁという感じで(というか、結構音が気に入って...笑)愛聴している。
 しかし今回の第2次ゼップ祭りでまともな US 1stプレス盤の音を聴いてみたくなり、レーベル面の住所が Broadway表記の MO(モナーク)プレスでマトリクス末尾が “AA” という最初期盤をゲット。US盤はあまり人気がないのか Discogsで $20で買うことができた。
 早速届いた盤を A面から聴いていく。音の方は一言で言うと “平面的” でレンジが狭く、スピーカーの左右にブワーッと広がるような感じ。エネルギーの塊のような音がスピーカーからドバーッと押し寄せてくる UK青ロゴ盤とはエライ違いで、ゼップの熱さがイマイチ伝わってこない。乱暴な言い方をすれば “ただ音がそこで鳴っているだけ” に聞こえるのだ。ハッキリ言ってコレは期待ハズレである。
 ところが B面に入ると急に音のエネルギー感がアップし、音楽が躍動し始めた。A面の生気に乏しい演奏がウソのように活き活きとしてアグレッシヴな音がスピーカーから飛び出してくるのだ。ビックリして一旦針を上げてマトリクスを確認すると、A面のマト末尾は “AA” なのに対し、こちらの面は “CC - REPL - AT/GP” となっている。ネットで調べてみたところ、この “AT/GP”というのは mastered by George Piros at Atlantic” という意味らしいのだが “REPL" は不明(← replacement “差し替え” かな???)。ただ一つハッキリと言えるのはこのジョージ・ピロスというエンジニアがめっちゃ有能だということで、結果としてA面の “RG" 、つまりロブ・グルネルというエンジニアはまるで公開処刑されているようなものだ。
 このように A面と B面でマスタリング・エンジニアが違うというのも珍しいが、AAよりも CCの方が音が良いっていうのも驚きだ。もちろんプレス時期が早いからと言って必ずしも音が良いとは限らないというのはこれまで何度も経験しているが、1枚のレコードの A面と B面でこれほど音質差のある盤は初めてだ。


 そういうワケで私はジョージ・ピロスのマスタリングしたA面が無性に聴きたくなり Discogsで調べてみたところ、Broadwayアドレスの初期盤には2種類のピロス盤が存在することを発見。それがマト末尾が “C AT/GP PR” のPR(プレズウェル)プレス盤と、“CC - REPL - AT/GP” の MO(モナーク)プレス盤で、スティーヴ・ホフマンのフォーラム“Best Led ZeppelinⅠon Vinyl” でもピロス盤がUS盤の中でベストという意見が多く(← holy grail という最高の褒め言葉でその高音質を絶賛してあった...)入手はかなり難しそうだ。しかしここまできた以上、私としては両方とも手に入れてその音の違いとやらを実際にこの耳で確かめたい。ということで、いつものように片っ端から eBayと Discogsのセラーにメールしまくって運良く2枚とも手に入れることができた。
 そしていよいよ聴き比べだ。私は好奇心満々でこの AT/GP盤の PRプレス盤($55)と MOプレス盤($25)を1曲ずつ交互に聴き比べてみたのだが、ハッキリ言ってほとんど同じ音(←まぁ普通に考えたらそうなりますな... 笑)。音の特徴を一言で言うと “イケイケのハードロック” そのもので、とにかく音圧が高く、パワーでグイグイ押しまくる痛快無比なサウンドだ。A①「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」イントロのバン!バン!だけでリスニングルームが地鳴り鳴動するし、B③「コミュニケイション・ブレイクダウン」でスピーカーから迸り出る破天荒なエネルギーの奔流も凄まじい(≧▽≦)  初期ゼップのハード&ヘヴィーなロックを全身で浴びたいというファンには超オススメの逸品と言えるだろう。


 そんなこんなでこの短期間に3枚も「Ⅰ」の US盤を買ってしまったのだが、色々と勉強になったので自分的には良い買い物をしたと思っている。更に UK盤2枚と上記の purple/tan レーベル盤を含めると全部で6枚もの「Ⅰ」がレコード棚に並ぶことになってしまったが、その時々の気分次第でどの「Ⅰ」を聴くかを選ぶ贅沢を満喫している今日この頃だ。

【おまけ】久々の素人さんコーナーです。これは完全にボンゾが憑依しとるな...(゜o゜)
『Hit Like A Girl Contest 2018』Good Times Bad Times - LED ZEPPELIN / Cover by Yoyoka


それを見たプラントの反応www↓
Robert Plant reacts to 8-year-old girl playing Led Zeppelin on drums

In Through The Out Door / Led Zeppelin

2018-08-05 | Led Zeppelin
 音楽ファンにとって、お気に入りのアーティストのニュー・アルバムをリアルタイムでドキドキワクワクしながら体験することに勝る喜びはない。私の場合、音楽を聴き始めたのが1975年なのでビートルズ関連ならポールの「ヴィーナス・アンド・マース」やジョージの「33&1/3」あたりからが純粋な新譜になるのだが、ゼップは前作「プレゼンス」から3年半ぶりにリリースされたこの「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」が最初にして最後の “新譜” 体験だった。
 当時の私の情報源はFMラジオがメインだったが、そんな中でも一番好きだったのが日曜深夜にFM大阪でやっていた「ナガオカ・ワールドミュージック」。小林克也氏がキャッシュ・ボックス誌の編集部に国際電話をかけ、誌面に載る前のシングルとアルバムの最新チャート・トップ20を紹介していくという、洋楽ファンにとってこれ以上のものは考えられないのではないかと思える音楽番組で、今でも英語で相槌を打つ時は “Uh-Huh?” とか “Yeah?” とかいう感じで克也氏が憑依してしまうのだが(笑)、その中の新譜アルバム紹介コーナーで強~いインパクトを受けたのがゼップの「イン・スルー・ジ・アウト・ドア」だった。
 このアルバムは当時首位を突っ走っていたザ・ナックの「ゲット・ザ・ナック」を蹴落として初登場№1になり(←赤丸急上昇を “With a bullet” って言ってた...)その後イーグルスの「ザ・ロング・ラン」に取って代わられるまで10週近く首位を独走したように記憶しているが、とにかく毎週毎週 “The No.1 Album of this week is IN THROUGH THE OUT DOOR by LED ZEPPELIN” という同じフレーズが繰り返されるのを聞いて “やっぱりゼップの強さは別格やなぁ...(≧▽≦)” と感心したものだ。
 しかしこのアルバムを初めて聴いた時の印象はかなり微妙で、A面1曲目の「イン・ジ・イヴニング」こそ、そのカッコ良さに痺れまくって “このヘヴィーなグルーヴ最高や!!!” と大コーフンしたものの、A②以降はゼップらしくない曲がずらりと並び、正直 “はぁ? どーなってんの、これ??” と戸惑ってしまったというのが正直なところ。ホンキートンク調ピアノとプレスリーみたいなヴォーカルに面食らうA②「サウスバウンド・サウレズ」、フォークダンス調から一転してサンバのリズムが出てきて “何じゃいコレは???” 状態だったA③「フール・イン・ザ・レイン」、ジョーンジーのノリノリのピアノをバックにペイジがロックギターでカントリー&ウエスタンを弾き倒すという空前にして絶後のゼップ版ロカビリーA④「ホット・ドッグ」、10分を超す冗長なゼップ流シンセ・ポップB①「ケラウスランブラ」、名曲は名曲なんだけどゼップにしては甘ったるすぎるB②「オール・マイ・ラヴ」、そしてスロー・バラッド2連チャンでアルバムが終わってしまうという閉塞感にガッカリしたB③「アイム・ゴナ・クロール」と、楽曲そのものは決して悪くはないのだが、少なくとも私が彼らに求めているのはあくまでもA①のようにリフを主体としたグルーヴで聴く者を圧倒するハード&ヘヴィーなロックであって、サンバやC&Wやバラッドではない。
 良く言えば “ヴァラエティーに富んだ”、悪く言えば “まとまりのない” このアルバムの内容を “まるでフィジカル・グラフィティのよう” と評したレヴューをいくつか読んだことがあるが、一体どこを聴いとんのじゃ??? 過去のいくつかのセッションの寄せ集めでありながら一本ハガネのような筋の通ったへヴィー・ロックが展開される「フィジカル・グラフィティ」とこのアルバムに類似点など微塵も感じられない。私にはバンドとしての煮詰まりから(←というか実際にはペイジとボンゾがそれぞれドラッグとアルコールに溺れていて物事がうまく進まなかったというのが真相らしいが...)新たな方向性を模索する“悩める王者”の姿を浮き彫りにしているように思えてならないのだ。そういう意味ではこのレコードは「聖なる館」に通じるものがあるように思った。
 そういうワケで彼らのアルバムとしてはイマイチではあるもののA①1曲の魅力で十分オリジナル盤を買う価値があると考えた私は十数年前に£6.50でUK盤をゲット。マト末尾は A5/B5 で、両面に機械打ちで STRAWBERRY の刻印が入っている。更に今回のゼップ祭りで RI(リッチモンド)プレスのUS盤も入手。こちらの方は ULTRASONIC CLEANING (←ヤフオク業者風に言うと“神洗浄” か... 笑)で有名なクリーヴランドのセラーから $25で買ったもので、マト末尾はAB両面とも KKK。やはり STRAWBERRY 刻印入りだが、UK盤とは違って手書きで刻まれている。
 いつものように UK盤とUS盤の音を比較してみたところ、US盤の方が音場が広く感じられてダイナミックなサウンドに思えたのだが、その違いが US盤自体の優位性なのか、手書きSTRAWBERRY に起因するものなのか、それとも ULTRASONIC 洗浄効果から来ているのか、私にはよく分からない。ただ、これまでの他のアルバムのような大きな違いではないので、このアルバムに関してはUK・US云々よりも盤質重視で買うのがいいと思う。
Led Zeppelin - In the Evening , Vinyl Sound .