shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン / ジャンゴ・ラインハルト

2012-02-26 | Standard Songs
 “「Kisses On The Bottom」収録スタンダード・ナンバー特集” の第3弾は有名な「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」。この曲は1932年にハロルド・アーレンが曲を書き、E.Y.ハーバーグとビリー・ロウズが詞を付けたもので、最初は「イフ・ユー・ビリーヴド・イン・ミー」というタイトルでブロードウェイの芝居に使われたが、翌1933年に改題されて映画「テイク・ア・チャンス」に、1945年と1973年にもそれぞれ別の映画で使われてリヴァイヴァル・ヒットした。
 この曲は何と言っても歌詞が面白くて、 “紙でできた月も、布で作った空も、君が僕を信じてくれたら偽物じゃなくなるんだ...” というユニークなもの。古き良き時代の雰囲気が伝わってくるこの曲のポイントは “軽妙なスイング感” だと思うが、そういう視点から私が常日頃愛聴しているヴァージョンを5つセレクトしてみた。

①Django Reinhardt
 ジプシー・ジャズの創始者であるジャンゴ・ラインハルトが1949年にヴァイオリン・ジャズの巨匠ステファン・グラッペリと共演した “ローマ・セッション” を収録した彼の代表作「ジャンゴロジー」に入っていたのがコレ。ジャンゴのギターはまさに圧巻と言ってよく、 “ジプシー・ジャズの最高峰” の看板に偽りなしのスリリングなプレイの連続にはもう平伏すしかない。ジプシー・ギターというと速弾きばかりに注目が集まりがちだが、ジャンゴの凄さはそのハイテクニックはもちろんのこと、とめども尽きぬアドリブ・フレーズを織り交ぜながらメロディアスにスイングするところにあると思う。
 それと、私はどちらかと言うとヴァイオリンが苦手でジプシー・ジャズの CD でもついついヴァイオリンの入っていない “ザクザク・ギター乱舞盤” ばかり買ってしまうのだが、このグラッペリの躍動感あふれるプレイには思わず聴き入ってしまう。苦手な楽器でも好きにさせてしまうこのような演奏を真の名演と言うのだろう。とにかく一日中でも聴いていたい、そう思わせる素晴らしい演奏だ。
Django Reinhardt - It's Only A Paper Moon - Rome, 01or02. 1949


②江利チエミ
 日本人シンガーで「ペイパー・ムーン」といえばまず頭に浮かぶのは美空ひばりだが、それは以前このブログで取り上げたので今回はひばりと同じ三人娘の一人、江利チエミにしよう。まるで大排気量の高級サルーンカーのようにジャズでもリズム歌謡でも演歌でも正面からガッチリと受け止めてその圧倒的な歌唱力で歌いこなしてしまうひばりに対し、チエミはワインディングを軽快に飛ばしていくハンドリング抜群のスポーツカーといった感じで、まさに “駆け抜ける喜び” という表現がピッタリのスキャットやフェイクを織り交ぜながら軽やかにスイングしており、ひばりとは又違った味わいがある。
 この「ペイパー・ムーン」は1953年にリリースされたSP音源で、何とチエミ16歳の時の録音というから驚きだ。そのナチュラルでラヴリーな歌声はまるで開き始める直前のつぼみのような生硬さで、原信夫とシャープス&フラッツをバックに軽やかにスイング。曲の途中で歌詞が英語から日本語にスイッチするところなんかも雰囲気抜群だ。尚、この曲は何種類かの CD に入っているが、私は針音の向こうから聞こえる温もりのある歌声がノスタルジーをかきたてるようなリマスタリング処理をされた「SP原盤再録による江利チエミ ヒット・アルバムVol. 1」収録のものを愛聴している。
Chiemi Eri - IT'S ONLY A PAPER MOON


③Ella Fitzgerald
 江利チエミがお手本にしたのがエラ・フィッツジェラルドのこのヴァージョン。来日したエラがチエミの歌をラジオで聴いて “あら、私じゃないの...” と言ったというエピソードは有名だ。私は江利チエミの熱狂的なファンでエラのヴァージョンは後から聴いたので、スキャットのパートなんか “何やコレ... チエミにそっくりやん!” とエラくビックリしたものだ(笑)
 あわてて他の曲もチェックしてみたら、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」を筆頭にチエミで聴き慣れた節回しが一杯あってビックリ。これはエラいこっちゃである。大好きなアーティストのルーツを探求しながら新しい世界を知るのも楽しいものだ。白人美人女性ヴォーカルが大好きな私はエラおばさんの熱心な聴き手ではなかったが、改めて聴いてみるとそのジャズ・フィーリングはやっぱり凄い。不義理をしてエラいすんませんでしたm(__)m
 ということでエラ・フィッツジェラルドは “ジャズ・ヴォーカル界のファースト・レディ” と呼ばれるエラい人なんである。「エラ・アンド・ハー・フェラ」に収録されていたこの曲でもデルタ・リズム・ボーイズをバックにさりげなくスキャットを交えながら典雅にスイングするエラが楽しめて言うことナシだ。
ELLA FITZGERALD & THE DELTA RHYTHM BOYS- IT'S ONLY A PAPER MOON


④Dion & The Belmonts
 ビートルズ登場以前のオールディーズ・ポップスは何と言ってもシングル・ヒット曲が命だが、そのシンガーなりグループなりを好きになってアルバムにまで手を出すと、意外なスタンダード・ナンバーが入っていたりして驚かされることがある。ユニークな「トンデヘレヘレ♪」コーラスに耳が吸い付く「浮気なスー」の全米№1ヒットで有名なディオンは数多くのスタンダード・ナンバーをドゥー・ワップ化して楽しませてくれる貴重な存在で、この曲でもバックのベルモンツと息の合ったコーラスを聴かせてくれる。コレが収録されているアルバム「ウィッシュ・アポン・ア・スター」では他にも「星に願いを」「オール・ザ・シングス・ユー・アー」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」「セプテンバー・ソング」といったスタンダード・ナンバーを取り上げており “古き良きアメリカ” といった雰囲気が横溢、ポップス・ファンがスタンダードに親しむのにピッタリの1枚だ。
Dion And The Belmonts - It's Only A Paper Moon


⑤Nat King Cole
 スタンダード・ナンバーには個人的な嗜好というレベルを超越した次元でその曲の決定的名演というものが存在する。「ユード・ビー・ソー・ナイス...」ならヘレン・メリルとクリフォード・ブラウン、「マンハッタン」ならリー・ワイリー、「センチメンタル・ジャーニー」ならドリス・デイ、といった按配だ。そういう意味で、究極の「ペイパー・ムーン」と言えば間違いなく名盤「アフター・ミッドナイト」に収録されているこのヴァージョンで決まり!だろう。
 ナット・キング・コールはバラッド・シンガーとしても天下一品だが、私的にはスモール・コンボで小気味よくスイングするこのスタイルが一番好き。ジャズを知らない人に “スイングって何?” って聞かれたら、この曲を聴かせて “この思わず身体が揺れる感じ” と答えるだろう。ウキウキするようなリズムに乗って縦横無尽にスイングするキング・コールの軽妙洒脱なヴォーカルが最高だ(^o^)丿
Nat King Cole - It's Only A Paper Moon
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バイ・バイ・ブラックバード / ジュリー・ロンドン

2012-02-22 | Standard Songs
 ポール・マッカートニーが「Kisses On The Bottom」で取り上げたスタンダード・ナンバー特集の第2弾は「バイ・バイ・ブラックバード」だ。この曲は元々1926年にそこそこヒットした歌で、その後忘れられた存在だったものを1956年にマイルス・デイビスが名盤「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」で取り上げ、それがきっかけとなってジャズのスタンダード・ソングとして広く親しまれるようになったという経緯がある。
 歌詞に出てくる blackbird とは “不幸せ” の比喩みたいなモンで、 “心配事も悩みもすべてカバンに詰めて 歌いながら出かけるんだ ブラックバードよ さようなら... そこには僕を待っていてくれる人がいる 砂糖も甘いし彼女も甘い... ここでは誰も僕を愛しも理解もしてくれない... ベッドを作って明かりもつけておいてくれ... さようなら ブラックバード♪” と、自分を取り巻く悲惨な状況から抜け出して彼女が待つ幸せな場所へと向かうという内容の歌。そういう意味で、スロー・テンポであれミディアム・テンポであれ、ヴォーカル物であれインスト物であれ、前向きな明るさの中にも一抹の翳りが射すといった感じの主人公の微妙な心の綾をどう表現するかがそのシンガーなりプレイヤーなりの腕の見せ所と言えそうだ。

①Julie London
 女性ヴォーカルではヘレン・メリルやペギー・リーなど、私の好きな歌手がこぞってこの曲を取り上げているが、そんな中でも一番好きなのがセクシーな低音が魅力のジュリー・ロンドン。ヴォーカルは雰囲気を楽しむべし、を信条とする私がジャズ・ヴォーカルにハマるきっかけとなったのが彼女との出会いで、ネット・オークションなどまだ知らなかった時代にはるばる東京まで出かけて行ってジャズのレコ屋廻りを敢行、彼女の美麗オリジナル盤を根こそぎ買い漁ったものだった。特に梅ヶ丘にあったノスタルジア・レコードにはジュリーのレコードがほぼ揃っていてエサ箱の前で大コーフンし、それを見た店主の金子さんにジュリーのディスコグラフィーをコピーしていただいたのが今では良い思い出だ。
 この曲はスタジオ録音盤では「ジュリー」(←加藤茶の “ちょっとだけよ~” みたいに脚を上げてる悩殺ジャケがたまらんたまらん...)、ライヴ盤では「ジュリー・イン・パーソン」に収録されているという彼女お気に入りのナンバーで、ゾクゾクするようなハスキー・ヴォイスでジャジーに迫るジュリーにクラクラしてしまう(≧▽≦) 彼女の歌には何とも言えない気品が感じられ、それが凡百のセクシー系シンガーと激しく一線を画する要因となっているように思うのだが、そんな彼女の影響は同じ低音ハスキー系のダイアナ・クラールあたりにまで及んでいるのではないか。
 下に貼り付けたYouTubeの映像は1964年に来日した時に出演したテレビ・ショーのもので、アコベとのデュオでセクシーに迫るジュリーに目が釘付けだ。それにしてもベースのドン・バグレイ、思いっ切り羨ましいぞ!!!!!
Julie London & Bass Duet Bye Bye Blackbird Colour TV Show


②Miles Davis
 私がまだジャズ初心者だった頃、まるで歌うようにミュート・トランペットで可憐なメロディーを紡ぎ出していくマイルスのこの “卵の殻の上を歩くような” プレイを聴いて、楽器でこれほど情感を込めた吹き方が出来ることに衝撃を受け、 “歌心” という言葉の何たるかが分かったような気がした。この「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」というアルバムはモダン・ジャズを代表する屈指の名盤で、マイルス以外のメンバーも絶好調。レッド・ガーランドのコロコロと転がるような軽やかなタッチのピアノも、フィリー・ジョーの瀟洒なブラッシュも、音楽を根底からしっかりと支えるポール・チェンバースのベースも、すべてが完璧と言っていい。
 そういえば、それから何年か経って TV の CM で突然この曲が流れてきた時はビックリ(゜o゜) 確かサントリー・ウイスキーの CM だったと思うが、クレイ・アニメーションのマイルスがこの曲に合わせてトランペットを吹いている映像が雰囲気抜群で、めっちゃ粋な CM やなぁと感心したものだ。とにかく「バイ・バイ・ブラックバード」といえばマイルスのこのヴァージョンに尽きると思う。これ以上の名演があったら教えてほしい。
Miles Davis - Bye Bye Blackbird


③Ringo Starr
 リンゴの歌はヘタだという声をよく耳にするが、私はそんなに捨てたモンではないと思う。ただ、彼のちょっと鼻にかかった声質やそのすっ呆けた歌い方(笑)がロックンロールに合ってないだけの話で、要は彼に合った曲を選べばいいのだ。そういう意味で、1970年にリリースされた 1st ソロ・アルバム「センチメンタル・ジャーニー」に入っていたこの「バイ・バイ・ブラックバード」なんかリンゴにピッタリの選曲・アレンジではないか。「五匹の仔ブタとチャールストン」を想わせる陽気なブラス・アレンジはビー・ジーズのモーリス・ギブによるもので、リンゴの魅力を実に巧く引き出している。ヴォーカルをダブル・トラックにしたのも慧眼と言えるだろう。それにしてもまさかこの曲でポールとリンゴという元ビートルズ同士の聴き比べが出来るとは夢にも思いませんでしたわ。
Ringo Starr Bye Bye Blackbird ( Sentimental Journey 1970)


④Diana Krall
 今回のポールのスタンダード・アルバム成功の陰の立役者であるダイアナ・クラールはポールが「フラワーズ・イン・ザ・ダート」でコンビを組んだエルヴィス・コステロの嫁さんだが、ジャズ界では押しも押されぬスーパースターで、ナット・キング・コール・トリオの系譜を現代に受け継ぐ正統派ジャズ・ピアニスト兼シンガーだ。私は彼女の大ファンで CD もかなり持っているが、コレは知らなかった。調べてみると、映画「パブリック・エネミーズ」(2009年)の挿入歌としてサントラ盤に収録されているらしい。失速寸前のスロー・テンポで歌うダイアナ、そんな彼女に絡んでいくトランペットやテナーのオブリガート、ムードを盛り上げる瀟洒なブラッシュ... どこを切っても雰囲気抜群のジャズ・バラッドだ。
Bye Bye, Blackbird with Lyrics [Public Enemies soundtrack]


⑤Ben Webster
 ベン・ウェブスターは1930年代からビッグ・バンドのサイドメンとして活躍しているテナー・サックス奏者だが、私が好きなのは1950年代半ば以降のヴァーヴ・レーベル時代の彼の作品だ。特にスロー~ミディアム・テンポの楽曲における寛ぎと包容力に溢れたプレイは唯一無比で、その巧みなブレス・コントロールと男の哀愁をにじませたビブラート奏法はまさに円熟の境地と言っていいだろう。この曲でも名手オスカー・ピーターソンのトリオのツボを心得たバッキング(←レイ・ブラウンの剛力ベースが強烈!)を得て風格に満ちたスケールの大きいプレイを聴かせてくれる。テナー・サックスという楽器本来の低音の魅力を存分に楽しめる名演だ。
B.Webster & O.Peterson

手紙でも書こう / フランク・シナトラ

2012-02-19 | Standard Songs
 ポール・マッカートニーの最新アルバム「Kisses On The Bottom」の1曲目を飾り、その歌詞の一節が今回のアルバム・タイトルにもなったスタンダードの名曲「I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter」(邦題:手紙でも書こう)は何を隠そう私の超愛聴曲。ポールがこの曲を取り上げてくれただけでもう嬉しくてタマラン状態のだが、せっかくなのでこのブログでも特集することにした。
 この曲は多くの映画に曲を書いているジョー・ヤング&フレッド・アーラートの1935年の作品で、 “ストライド奏法” を確立したジャズ・ピアニスト、ファッツ・ウォーラーの弾き語りで大ヒット、それから21年経った1956年にはビリー・ウイリアムズという男性シンガーのコーラル盤がミリオン・セラーを記録し、リヴァイヴァル・ヒットした。
 彼女からの手紙が途絶えてしまい、その寂しさに耐えかねた男が、“自分で自分宛の手紙を書いて彼女からの手紙だと思い込もう” という何ともユーモアとペーソスに溢れる歌詞で(←そういう意味ではポールのアルバム・タイトルになった A lot of kisses on the bottom, I’ll be glad I got 'em... 手紙の最後にはキスを一杯して、それを受け取った僕は大喜びさ... のラインはトホホを通り越して一歩間違えれば変態になってしまうが...)、失恋ソングでありながらカラッとした雰囲気を持った面白い歌なんである。だからミディアムからアップテンポでカラッと健康的にスイングするヴァージョンがこの曲にピッタリだ。
 私のこの曲との出会いはフランク・シナトラの10インチ盤「スイング・イージー」(←海外オークションのeBayで初めて買った思い出のレコード!!!)で、そのリラクセイション溢れる絶妙なスイング感にすっかり KO され、それ以来この曲が入ったレコードは必ずチェックするほど気に入っている。
 下に挙げた以外にも、ビング・クロスビー、ルイ・アームストロング、サラ・ボーン、ディーン・マーティン、ベニー・グッドマン、カウント・ベイシー、アート・テイタム、ベン・ウエブスター、ルビー・ブラフといったジャズ界のビッグ・ネーム達がこぞって取り上げているし、面白いところではボビー・ヴィーとベンチャーズの共演盤やリンダ・スコットのコングレス盤なんかにも入っている。それでは久々のスタンダード特集をどうぞ!

①Frank Sinatra
 私にとってこの曲の決定的名唱と言えるのが1954年にキャピトルからリリースされた10インチ盤「スイング・イージー」に入っていたシナトラ・ヴァージョン。ネルソン・リドルの絶妙なアレンジによるレッド・ノーヴォ風中間派サウンドに乗って軽快にスイングするシナトラの粋な歌唱はまさにザ・ワン・アンド・オンリーだ。又、1962年にリプリーズからリリースされた「シナトラ・ベイシー」ではニール・ヘフティによる高速アレンジでベイシー楽団をバックにダイナミックにスイングするシナトラが楽しめる。両方貼っときますので興味のある方は聴き比べてみて下さいな。
I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter (Frank Sinatra - 1953 with Lyrics)

Sinatra in the studio 1962 I'm Gonna Sit Right Down & Write Myself A letter


②Nat King Cole
 私にとってシナトラと並ぶ男性ジャズ・ヴォーカルの最高峰がナット・キング・コールだ。コレは1961年にレコーディングされ、3年後の1964年にリリースされたアルバム「レッツ・フェイス・ザ・ミュージック」に収録されていたもので、分厚いブラス・サウンドでグイグイ迫るビリー・メイのアレンジで力強くスイングするキング・コールの歌いっぷりが圧巻だ。
Nat King Cole ::: I'm Gonna Sit Right Down (And Write Myself A Letter)


③Bill Haley & His Comets
 「ロック・アラウンド・ザ・クロック」でお馴染みのビル・ヘイリーによるこのヴァージョンは、古いスタンダード・ナンバーの数々をロックンロール・スタイルでアレンジした1957年のデッカ盤「ロッキン・ジ・オールディーズ」に収録されており、あまり話題には上らないが、私は結構好き。スタンダード・ナンバーとロックンロールの出会いが生んだ隠れ名演だ。
Bill Haley & His Comets - "I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter" - 1958


④Boswell Sisters
 これは女性ジャズ・コーラス・グループの草分け的存在のボスウェル・シスターズが解散した1936年にデッカに吹き込んだもので、彼女達の爛熟期の歌声が楽しめる。私は基本的にノリの良いロックやポップスがメイン・ディッシュなのだが、こういうノスタルジックな味わいのほのぼのとした癒し系女性コーラスも大好きだ。特にボスウェル・シスターズのこのヴァージョンは他とは違ってヴァースの部分から歌っており、非常に珍しくて貴重なものだと思う。
Boswell Sisters - I'm going to sit right down (1936)


⑤Rita Reys
ジャズ・ヴォーカル・ファンの間で根強い人気を誇るオランダ人女性シンガー、リタ・ライスの代表作であるフィリップス盤「ジャズ・ピクチャーズ」の1曲目に入っていたのがこの曲。バラッドよりもアップテンポな曲が得意な彼女にピッタリの軽快なアレンジでのびのびと歌っているところが◎。バックの演奏も絶品で、夫君のピム・ヤコブズのスインギーなピアノも素晴らしいが、何と言っても “ブラッシュの名手” ケニー・クラークが生み出す強烈なスイング感が最高だ。
I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter - Rita Reys
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Paul McCartney at Grammys 2012

2012-02-15 | Paul McCartney
 今日はイエロー・モンキー祭りをお休みしてグラミー賞のポール・マッカートニーだ。グラミーと言えば、80年代ポップス華やかなりし頃はこの季節になるとアメリカン・ミュージック・アウォードと連チャンで大コーフンしながらTVに釘付けになったものだったが、90年代以降はグラミー賞と言われても完全に他人事になっていて、全然見る気すら起こらなかった。
 ところが、さっきネット・サーフィンしていたらシネマ・トゥディというサイトの “ポール・マッカートニー、グラミー賞をザ・ビートルズの名曲で締めくくる! ブルース・スプリングスティーンらとギター競演!” という見出しが目に飛び込んできてビックリ(゜o゜)  ポールがグラミーに出演??? コレはエライコッチャである。ハッキリ言ってグラミー賞なんかどうでもいいが(←興味本位でノミネートされたアーティスト一覧を見てみたが、見事に1人も知らんかった... レディー・ガガは辛うじて名前だけ知ってる... というか、黒柳徹子のコスプレと志村けんのモノマネだけ写真で見たことある...)、ポールが出たとなれば、これは見ないワケにはいかない。
 急いで検索してみると、ありましたがな、キレイな映像が!!! さすがは YouTube、ホンマに何でもありますな...(^.^) 早速視聴。曲はアビー・ロードB面ラストのメドレー「ゴールデン・スランバーズ~キャリー・ザット・ウエイト~ジ・エンド」だ。中でも圧巻だったのがブルース・スプリングスティーンやジョー・ウォルシュらを従えて伝説のギター・バトルを再現した「ジ・エンド」で、ギブソンのレスポールを持ったポール(←ダジャレじゃありません...)のソロには涙ちょちょぎれるし、他のメンバーに “ハイ、次はオマエ!” “今度はオマエな!” とソロを指名していくところなんかは実に絵になるシーンで、何よりも心底楽しそうにプレイしているところがいい(^o^)丿 まぁコレを聴いているとギタリストとしての当時のジョン、ポール、ジョージのプレイが如何にクリエイティヴで凄いものだったかを改めて思い知らされるが...(笑)
 ポールは銭ゲバの前妻と揉めている時は正直老けたなぁと思ったものだったが、今は新しい伴侶を得てとっても幸せそうで何だか若返った感じ。 “オンナはいつも オトコで決まる~♪” と歌ったのは小山ルミだが、ポールを見ているとその逆もまた真ナリを痛感させられる。とにかくファンとしては一安心だ。それにしてもポールってもうすぐ70歳(!)だというのに、スーパースターのオーラが他を圧倒している感じがする。あのスプリングスティーンですら小さく見えてしまうのだからやっぱり凄いわ(≧▽≦)
 ポールと言えば、ハロルド・アーレンやアーヴィング・バーリン、フランク・レッサーといったティン・パン・アレーの作曲家たちの名曲、それもかなり渋~いナンバーを中心にカヴァーしたニュー・アルバム「Kisses On The Bottom」を先週リリースしたばかり。そんな古いスタンダード・ナンバー中心のカヴァー・アルバムの中にさりげなく入れられたジャジーな新曲の一つが「マイ・ヴァレンタイン」(←shoppgirl姐さんのブログでも早速取り上げられてましたので、そちらも是非ご覧下さい...)だ。今年はビートルズがデビューしてから50周年の節目の年ということでただでさえ注目が集まっているところに、ヴァレンタイン・デーを目前に控えたグラミー賞の大舞台で「マイ・ヴァレンタイン」という新曲を披露したのだからこれ以上の宣伝効果はないだろう。
 YouTube の関連動画で見つけたポールのインタビューで、アルバム・タイトルに関する面白いエピソードが語られていたので早速貼り付け。私も最初「Kisses On The Bottom」と聞いて “尻にキス??? 何じゃそりゃ???” と訝しく思ったのだが、このインタビューを見てその謎が解けた。要約すると “最初はアルバム・タイトルを「マイ・ヴァレンタイン」にするつもりだったんだけど、考え直したんだ。だってそれじゃあヴァレンタインデーの時だけの季節限定商品(←例えるならフィル・スペクターのクリスマス・アルバムみたいなモンか...)になってしまうからね。だから「You're My Baby」とか「Swing With Me」みたいな古典的なタイトルにしようと思ったんだ。で、思いついたのが「Kisses On The Bottom」だったんだけど、最初はもう大反対されたね。でもコレにはちゃーんした理由があるんだよ。コレはアルバム1曲目の「I'm Gonna Sit Right Down And Write Myself A Letter」という曲の歌詞の一節から取ったもので kisses on the bottom... of a letter という意味(←イギリスには親しい者同士で手紙の最後の行にキスを意味する xxx マークを入れる風習があるらしい...)なんだ。こう言うと皆納得してくれるんだけど、まぁ一種のジョークみたいなもんさ。” とのこと。ポールの遊び心は健在だ。
 それと、このアルバムはあのダイアナ・クラールが全面的にバックアップしているのだが、彼女のバンドのベーシストであるジョン・クレイトン(←モンティー・アレキサンダーの「モントルー・ライヴ」のベーシスト!)とのコラボレーションにも言及、二人でその場で即興的に曲を仕上げていく作業方法がとても楽しくてビートルズ時代を思い出させてくれるものだったとのことで、 “まさにジョンとポールさ。今回はジョンはジョンでもクレイトンだけどね...” とご満悦の様子である。
 このアルバムの通常盤は14曲入りなのだが、私は「バック・トゥ・ジ・エッグ」のラストに収められていた「ベイビーズ・リクエスト」(←ポールのオリジナル曲の中で最もジャジーなナンバーで、私の超愛聴曲!)の再録ヴァージョンとスタンダードの大名曲「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」の2曲のボートラを含む16曲入り UK デラックス・エディションがイギリスから届くのを首を長~くして待っているところだ。早く来い来い UK 盤♪

Grammy's 2012 - Paul McCartney - Golden Slumbers - Carry That Weight - The End


Sir Paul McCartney on His New Song "My Valentine" (at iHeartRadio)


Grammy's 2012 - Paul McCartney - My Valentine
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Jaguar Hard Pain 1944-1994 / The Yellow Monkey (Pt. 2)

2012-02-13 | J-Rock/Pop
 戦争、麻薬、売春といったダークでネガティヴな題材を扱った歌が多いこのアルバムだが、そんな中でポツンと浮いた感じがする超ポップなナンバーが我が愛聴曲④「ROCK STAR」だ。バブルガム色の濃いキャッチーなメロディーも魅力的だが、何と言ってもこの曲は後半部で繰り返される必殺の名フレーズ “死んだら新聞に載るようなロックスターに~♪” に尽きるだろう。 “テッテッテレッ テッテッテレレ~♪” という彼らお得意のフックの効いたサビも効果抜群で、この曲の名曲度アップに大きく貢献している。
 それともう一つ、この曲を聴いて感じたのはヒーセの “歌うベース” の圧倒的な存在感だ。ロックの世界におけるベースという楽器の立ち位置はどうしてもギターやドラムスに比べると地味な存在になりかねないが、ヒーセの場合は別に派手な事をやっているワケでもないのにその歌心溢れるプレイで聴く者の心に強烈な印象を残すことが多い。私見だが、彼こそがイエロー・モンキー・サウンドのカギを握っているキー・パーソンであり、彼のベースが無ければ決してイエロー・モンキーの音にはならない。ちょうどリンゴのあのドラムの音が無ければビートルズにならないのと同じような感じだ。他の曲でもヒーセは大活躍で、私はこのアルバムのキモはアルバム・コンセプト云々ではなく、ヒーセを中心としたバンド・サウンドの確立だと思っている。
 鼻血 PV(笑)のインパクトが強烈だった 3rd シングルの⑨「悲しきASIAN BOY」も大好きだ。イントロだけでもうめっちゃ盛り上がるこの曲は、軽快なメジャー・キーの曲なのに不思議な哀愁があって、この曲の良さが分かる日本人でよかったなぁと思ってしまう。まぁ、アジアとか兵士とかいったイデオロギー的な話はさておいて、吉井さんのおセンチな面がすごくよく出た歌詞が絶品で、好きな女性と愛し合いたいのにその勇気がなくて悶々としている男心を見事に表現した “桜色の口唇に 触れたいのに口唇に 強い弱さに縛られた~♪” のラインなんかもうめちゃくちゃ好き。この切なさがタマランなぁ... (≧▽≦)
 ライヴでこの曲のイントロが響き渡ると会場の盛り上がりが最高潮に達することも多く、オーディエンスとの一体感もハンパないキラー・チューンになっており、実際、120曲以上ある彼らの全公式録音曲の中で “ライヴで演奏された率” は恐らく№1だろう。とにかくほぼすべての時期のライヴ DVD に収録されており、手持ちのを数えてみたら8ヴァージョンもあった。私が “イエロー・モンキーというバンドのテーマ曲” を選ぶならこの曲以外に考えられない。
 私の嗜好のツボは “アッパーな疾走系チューン” なので、⑩「赤裸々Go!Go!Go!」なんかもうスウィート・スポットを直撃しまくりだ。曲想はズバリ、チェッカーズあたりが歌えばピタリとハマりそうな歌謡ロック。その妖しげでチープなノリはこの手の音楽が大好きな私にとってはたまらない魅力で、 “蟻地獄で逢いましょう~♪” のフレーズが耳に残るキャッチーなナンバーだ。ここでもヒーセ、めっちゃエエ仕事してますな(^.^)
 同じアッパー系の②「FINE FINE FINE」は「太陽にほえろ!」のメイン・テーマみたいなイントロが面白いが(←エマ大活躍!)、サビのメロディーの決着の付け方はイマイチ中途半端な感じがする。ちょうどエイジアの「ドント・クライ」みたいに途中まで期待が大きかった分、後半部の旋律的な尻すぼみ感が悲しいが、そんな中でアニーのパワフルなドラミングは必聴だ。
 ③「A HENな飴玉」は読んで字の如く “あっ! 変な” と “アヘンな” を引っ掛けたダブル・ミーニングのタイトルで、麻薬でラリパッパな状態を示唆する歌詞(←“汗だく 絶倫 バイブレーション... からみつけ子宮のマウスピース” とか...)が面白いが、イントロでエマの突き刺さるようなギター・リフにシタール(?)みたいな音が絡んでいく瞬間から怪しげなメロディー全開で突っ走るところがたまらなくカッコイイ(^o^)丿 万人ウケするタイプの曲ではないが、私は大好きだ。
 日本の歌のタイトルとは思えない⑤「薔薇娼婦麗奈」は、彼らには珍しくアンダルシアの風が似合いそうな(?)ラテンの薫り溢れるナンバーで、フラメンコな味わいを巧く取り入れている。特に扇情的なギター・ソロがめちゃめちゃカッコ良く、後半部でバイオリンが絡んでくる辺りなんかも彼らの音楽性の幅の広さ、懐の深さ如実に物語る、彼らの隠れ名演の一つと言っていいと思う。いやはや、それにしてもホンマに凄いバンドですわ。
 大衆の嗜好やロック・シーンの流れなどは一切無視し、自らの父親と母親をオーヴァーラップさせたジャガーとマリーの物語をイエロー・モンキーというロック・ユニットを使って表現したこのアルバム、吉井さんにしてみれば一表現者としてコレをやらねば先に進めなかったのだろう。そういう意味でも、カルト的なバンドとしてのイエロー・モンキーの最後を飾る1枚といえるが、私としては小難しいアルバム・コンセプトを抜きにしてカッコ良いロック・アルバムとして聴くことをオススメしたい。この後、バンドはいよいよ “死んだら新聞に載るようなロック・スター” への階段を上り始める...

Asian Boy - Tokyo Dome - The Yellow Monkey


[LIVE] THE YELLOW MONKEY - ROCK STAR


赤裸々GO!GO!GO!


薔薇娼婦麗奈
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Jaguar Hard Pain 1944-1994 / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-02-11 | J-Rock/Pop
 インフルエンザにかかってしまった(>_<) 先週の日曜に喉がイガイガしてきたのでてっきりフツーの風邪と思い、1日で治すつもりで「銀のベンザ」を飲んで夜9時に寝たものの、翌朝起きると38.7°の熱で頭がフラフラ... しかしインフルなんぞ全く疑わず(←気付けよ...) “汗かいたら熱下がるやろ” とばかりに通勤時に車内をガンガン暖房して発汗しまくりスッキリして出社、昼頃またまた高熱でボーっとするも職場の暖房で発汗して気分スッキリ(笑)、仲良しの同僚Aちゃんが心配してくれてるのに “風邪なんてもう治ったわ! ハハハハ...(^.^)” と息巻いて退社(←恥)、しかし運転中に顔が熱く火照ってきたので念のために病院に直行して調べてもらったところ、「インフルエンザです!」とキッパリ宣告され、火曜日から出勤不可。高熱と節々の痛みは1日で治まり水曜にはもうすっかり元気になったが、他人にウイルスをばら撒く可能性が大とのことで結局今週は今日まで家でゴロゴロ、この週末を入れると降って湧いたような6連休になったけど、どっかへ遊びに行くワケにもいかず、高齢の両親に移すとヤバいから完全自室軟禁状態で、もう死ぬほどヒマやった。おかげでブログの更新が進む進む...(笑) 冗談はさておき、皆さんもインフルエンザには十分お気を付け下さいませ。私の唯一の収穫は「パブロンのどスプレー」、コレめっちゃエエですわ(^o^)丿(←アマゾンで薬が買えることを今回初めて知りました...) それでは今日も元気にイエロー・モンキー祭りの始まり始まり...

 1st でカタツムリをおでこに乗せ、2nd では女装と、まさに我が道を行くグラム・ロック・スタイルを貫いてきたイエロー・モンキー。 “3rdは売れるモンを作れ” と言うレコード会社に対し、 “いや、コンセプト・アルバムやんないとシャレにならない!” と言って出来たのがこの「Jaguar Hard Pain 1944-1994」だ。デビッド・ボウイに心酔していた吉井さんは事あるごとに “3枚目は俺達なりの「ジギー・スターダスト」を作る!” と言ってきており、レコード会社の反対を押し切ってそれを実行に移した格好だ。
 ストーリーは、1944年に戦死した兵士ジャガーの霊が1994年の東京に甦って恋人マリーを探すというもので、主人公ジャガーのモチーフになったのは彼の亡くなったお父さん。前作「エクスペリエンス・ムービー」の最後の曲で母親をモデルにしたマリーという女性のことを歌っており、そこから繋がったロック・オペラ的なトータル・コンセプト・アルバムになっている。
 で、この「Jaguar Hard Pain 1944-1994」はコンセプト・アルバムだからなのか、その筋ではかなり評価が高く、コアなファンの中には最高傑作に挙げる人もいるようだ。しかし私的には、確かに良いアルバムではあるが正直言ってそこまでのものではない。というか、はっきり言ってロック・オペラ的なアルバムというもの自体、あまり好きではない。
 コンセプト・アルバムと言えばいの一番に頭に浮かぶのがビートルズの「サージェント・ペパーズ」だが、あれはコンセプトといっても “架空のバンドのショウ” というテーマ設定だけのシンプルなものなので、主人公を中心に物語が展開していくという類のオペラチックな作品が苦手な私でも違和感なしに楽しむことが出来た。フロイドの「狂気」(←まぁプログレ・バンドのアルバムはそのほとんどすべてがコンセプト・アルバムなわけだが...)や ELO の「タイム」、ミカ・バンドの「黒船」といったアルバムも同様だ。
 このように、 “あるテーマに基づいて全体が構成された” コンセプト・アルバムというのは全然 OK なのだが、そこにしっかりとしたストーリー性を持たせ、主人公を始めとするキャラクターを設定してその悲喜こもごもを描いたロック・オペラ的なアルバムとなるとイマイチ肌に合わない。ロック・オペラの金字塔と呼ばれるザ・フーの「トミー」なんかもそうだが、曲作りにおいてアルバムのストーリーに拘りすぎてキャラクターの制約に縛られてしまい、アルバム収録曲のクオリティーの点でマイナスに感じることが少なくないからだ。
 この時期の彼らのライヴは吉井さんがジャガーを演じるシアトリカルなステージなのだが、お芝居とか演劇とかに何の興味もない私としては DVD を見ていてもジャガーのセリフのシーンになると、音楽に余計な要素を持ち込まずにストレートにロックだけを演ってくれよと思ってしまう。私は戦争とか霊魂とか苦悩とかいったドロドロした物語が聴きたくてロックを聴いているのではない。だから私はジャガーがスベッただの、マリーがコロンだだのといった能書きは一切無視して、普通のロック・アルバムとしてコレを聴いている。コンセプト・アルバムを曲単体で聴いて都合の悪いことなど何もない。
 そうやってストーリーから離れて個々の曲の集合体として聴くと、ハードでグルーヴィーなロックとして眼前に屹立してくるのが⑦「RED LIGHT」だ。このアルバムのサウンドは、1st、2nd アルバムで顕著だった煌びやかなグラム・ロック色が後退、その後の大ブレイクへと繋がるストレートでズッシリとした質感の王道ロックが展開するのだが、そんなサウンドの変化が最も如実に感じられるのがこの曲なのだ。
 スタジオ・ヴァージョンでは曲のオープニングでインタールード的に吉井さんとゲスト女性ヴォーカル伴美奈子さんとのデュエットによる子守唄みたいなパートが1分ほど続いた後、静寂を破るようにハードなギター・リフとヘヴィーなリズムが爆裂、彼らなりの「ハードロック宣言」とも取れる勇ましいイントロにロックな衝動がこみ上げてくるが、何よりも衝撃的なのはそのあまりにも卑猥な歌詞で、何と “君の大切な ヴァギナが泣いてる~♪” とそのものズバリの露骨な単語が使われているのだ。前作の “改造ペニス” に続いて今度は “ヴァギナ” ... レコード会社もさぞや困ったことだろうが、聴いてる方にとっては痛快無比そのもの。しかし “濡れてる” ではただのエロ表現に堕してしまうところを、少女娼婦の悲哀を込めて “泣いてる” とした吉井さんのセンスはさすがという他ないだろう。どっちにしてもコレって放送コードに引っ掛かからへんのかな?
 そんな吉井節炸裂の感があるこのドギツいフレーズに、隠し味としてゲンスブールなリフを絡めた “ウーララ ウーララ ウーララ ウゥ~♪” というキャッチーなコーラスを添えて完成した “歌えるサビ” と、イエロー・モンキーは男でござる!を満天下に知らしめるかのようなヘヴィーなサウンド・プロダクションがこの曲のインパクトを高め、一度聴いたら脳内リフレイン確実なアクの強さを誇っている。とにかく彼らのハードでヘヴィーでエロい面(笑)が好きな人は、この1曲のためだけにこのアルバムを買ったとしても決して損はないと思う。 (つづく)

RED LIGHT

Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 3)

2012-02-09 | J-Rock/Pop
 このアルバムで①「Morality Slave」と⑪「Suck Of Life」に次いで好きなのが⑦「審美眼ブギ」だ。冒頭のシャウトからいきなり躁状態のマーク・ボランが吉井さんに憑依、軽快なシャッフル・リズムにウキウキワクワクさせられるこの曲は、「Sleepless Imagination」→「Foxy Blue Love」と続く “アッパーなグラム・ロック・チューン” の正しい発展形。お約束のハンド・クラッピングも効いている。やっぱりイエロー・モンキーはこうでなくっちゃ(^o^)丿
 そんなイケイケ・オラオラ系の曲調とは裏腹に歌詞は辛辣で、デビュー・アルバムが思うように売れず業界にも相手にされなかったことを痛烈に皮肉った内容だ。 “キリンの首をちょん切って馬にする” だとか “ゴーギャンの新聞紙で尻を拭く”だとかいった相変わらずの意味不明フレーズ(←まぁそこが面白いのだが...)に混じって “審美の目玉が割れてるよ” “不純な寄せ書きで 僕は遠くで君の言葉に嘆いてる” “退屈ならお手をどうぞ アンタの批評が大好きさ” といった皮肉たっぷりの言葉が速射砲のように飛び出してくる中、エンディングの “ライター!、リスナー!、DJ! I'm Gonna Suck You!” という絶叫がすべてを物語っているように思う。メカラウロコ10での “業界のバカヤロー!” も忘れ難い。
 2nd シングルになった⑨「アバンギャルドで行こうよ」もめっちゃ好き。この曲はとにかく陽気で明るくてチャーミングな “グラム歌謡” で、“ディンダン ディンダンダン♪” というキャッチーなコーラスを聴いているだけでもう楽しくなってくる(^o^)丿 デビュー・シングルがまったく売れなかったので今度は明るい曲調にして CM のタイアップを狙って作ったとのことで、曲が完成した時には “天下取った!” と思ったらしい(←結果的には惨敗に終わったが...)。 まぁ売り上げはともかく、どんなに凹んでる時でもコレを聴けばウキウキした気分になれそうな曲想で、そのポップなハジケっぷりは後の「悲しきASIAN BOY」、そして「Love Communication」へと受け継がれてゆく。どちらかと言うと重た~い雰囲気の曲が並ぶこのアルバムの中にあって、先の⑦と共にそのノリの良さは際立っている。
 この曲はライヴではコンサート終盤に演奏されることが多いが、それは “アバンギャルドで行こうよ BABY~♪” ってやってるだけでメンバーが楽しくて幸せになれるからフィナーレにピッタリとのことで、その他愛のなさ故にオーディエンスともその幸せ感を共有できるという、吉井さんにとっては “ドリフのババンババンバンバン~♪” みたいな位置付けらしい。なるほどね(^.^) この曲のライヴ・ヴァージョンの異様なまでのテンションの高さには圧倒されることが多いが、吉井さんのインタビューを読んでその理由がわかった気がした。
 それと、この曲にまつわる面白いエピソードとして、吉井さんがスウェードのライヴを見に行った時に、他の客に “アバンチュールで行こうよの奴だぜ” と言われてめっちゃムカついた、というのがあったが、そもそも平均的日本人にとって “アバンギャルド” などという言葉自体ほとんど縁が無い。私だってビートルズの「レヴォリューション№9」が無ければそんな単語は知らなかったかもしれない。ポップ・ソングのタイトルとしては “アバンギャルド” を “アバンチュール” と間違えた彼らに罪はない(笑)
 ②「Drastic Holiday」は曲の途中でマイナーからメジャーに転調する面白い曲。まるでフランスの歌謡曲(←そんなものあるわけがないが...)と言ってもいいような親しみやすいナンバーで、そのポップで楽しいノリが気に入っている。特に “パッパラッ パッパッパラッ” というコーラスがめっちゃ印象的で、聴くたびに思わず一緒に口ずさんでしまう。エマのリズム・カッティングも絶妙で、ポルカみたいな曲調のブリッジ部におけるユニークなギター・ソロ(←スティーヴ・ハウやブライアン・メイが次々と降臨...)も含めて大活躍だ。
 ⑤「Vermilion Hands」は直訳すれば “朱色の手” という意味で、一言で言えば爪切りの歌(笑)... ポップ・ソングとしてはまさに空前にして絶後な題材だ。イントロのドラムは「Fairy Lnad」を想わせるアダム&ジ・アンツ系で、ギターはエディー・ヴァン・ヘイレンが「Bottoms Up」や「I'm The One」といった初期の楽曲で多用していたリフを転用、「Chelsea Girl」っぽいノリで一気に突っ走るストレートアヘッドなロックンロールだ。曲構成そのものは平坦でワンパターンな繰り返しに過ぎないので一気呵成に聴くべし。
 このアルバムには吉井さんの中に存在する “私” “僕” “俺” という3つの自分をそれぞれ歌った超大仰バラッド⑧「4000粒の恋の唄」、⑩「フリージアの少年」、⑬「シルクスカーフに帽子のマダム」の3曲が入っており、アルバム後半はさながら吉井和哉版 “ジョンの魂” といった按配だ。アルバム・タイトルが「エクスペリエンス・ムービー」とはまさに言い得て妙と言えるだろう。これらはどれも6分を超える大作で、吉井さんの「僕を分かって欲しい」という心の叫びが聴く者の胸に突き刺さるヘヴィーなバラッドだ。
 このアルバムは爽やかなロック&ポップスが好きな堅気の音楽ファンには決してオススメできないが(笑)、一癖も二癖もある濃厚でディープな音世界にドップリと浸かりたいというその筋系の真正ロック・ファンにはイチ推しの個人的愛聴盤。コレが気に入ったら、もうイエロー・モンキーは特別なバンドになっているはずだ。彼らの全アルバム中、人間・吉井和哉の本質が最も顕著に表れた1枚。

審美眼ブギ


THE YELLOW MONKEY - アバンギャルドで行こうよ LIVE (640x480)


DRASTIC HOLIDAY


Vermilion Hands
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Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 2)

2012-02-06 | J-Rock/Pop
 このアルバムの中で①「Morality Slave」と並ぶ超愛聴曲が⑪「Suck Of Life」だ。この曲にはシングル「アバンギャルドで行こうよ」のB面に収録されていたオリジナル・ヴァージョンと、冒頭に “ファスナーをおろして~♪” の一節が追加されたアルバム・ヴァージョンがあり、私は先にオリジナル・ヴァージョンの方をベスト・アルバム「トライアド・イヤーズ・アクトⅡ」で聴いていたので、このアルバム・ヴァージョンを聴いた時は本当にビックリ(゜o゜)  というのも追加されたパートには重厚なエコー処理が施されて “あの時代” を思い起こさせる女性コーラスとハンド・クラッピングが寄り添い、何とカスタネットまで響き渡るという徹底ぶり... コレってもろにロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」のパロディーやん(笑) そう、この追加部分は意表を突いた “イエロー・モンキー版ウォール・オブ・サウンド” なんである。
 吉井さんが優れたミュージシャンである以前に洋楽ロック&ポップスや昭和歌謡の優れたリスナーであったことは彼らのアルバムを聴けば瞭然で、その音楽マニアとしての冷静な視線とマニアックなまでの拘りがイエロー・モンキーの音楽性にしっかりと反映されているところが大好きなのだが、まさかフィル・スペクターまでもが守備範囲だったとは思わなんだ... 吉井和哉恐るべしである。「ビー・マイ・ベイビー」をパロったのは、おそらく歌詞の “Be my suck of life” というフレーズから思いついたのだろう。
 本編の曲そのものは血沸き肉踊るようなバリバリのロック・チューンで、曲想はボウイの「Rebel Rebel」(←初期ボウイは苦手やけど、この曲はノリが良くて大好き!!!)に似ている気がするが(←ヒーセのベース・ラインもクリソツ!)、変則的なメロディーを軽やかに歌いこなす吉井さんのシンガーとしての実力がよく分かるナンバーだ。追加部分にクロスフェードするような形で切り込んでくるアニーのワイルドなドラミングや高揚感を煽りまくるエマのギター・リフもめちゃくちゃカッコ良く、この手のロックが大好きな私なんか何度聴いてもアドレナリンがドバーッと出まくって、ロックな衝動がマグマのようにこみ上げてくる。
 歌詞はもうめちゃくちゃ卑猥。特にヤバイ部分はすべて英語で歌われているので普通に聴いてる分には気がつきにくいが、タイトルに使われている suck とは「舐める、しゃぶる」という意味でそのものズバリだし、cock shock なんていうオゲレツな韻の踏み方してるし、要するに “もう我慢できない オレの○○○をしゃぶってくれよ わかるだろ?” という感じ(←訳すだけで恥ずかしいわ...)。しかも be my sucker (俺の×××になってくれ!)を繰り返しておいて最後に be my sucker of life (ずーっとそういう関係でいてくれよ)なんて... 日本語で歌ってたら放送禁止間違いなしのスゴい内容だ。エロ・パート(?)以外では “悪女の深情けは無用さ 女狐の涙に用はない 君の彼はゲイでおまけにデブ 幸せなんて言葉はな~い♪” のラインが気に入っている。
 この曲はライヴには欠かせない定番曲で、間奏で吉井さんとエマの妖しげな絡みがあったり途中にメンバー紹介を挟んだりで、ノッてる時は20分近く続くこともざら。このメンバー紹介がまためちゃくちゃ面白くって、2000年のスプリング・ツアーの時なんか、 “夜のお菓子、エマ!”(←うなぎパイかよ...)とか、 “ロッケンロール・ゴリラ、ヒーセ”(←ドリフの長さんみたいな仕草でオーディエンスを煽る吉井さんに大笑い...)とかもう抱腹絶倒モノで、このオバカ MC 見たさに DVD を取り出すことも多い(←おいおい...)。
 下に貼り付けた東京ドームのラスト・ライヴでも、吉井さんのオバカ MC は絶好調。 “エマに絡みたいけど... 髭が生えてるから嫌っ! [嫌がる吉井さんにエマが髭をスリスリ...] 痒い~ッ!!!”(4:48)とか、ジョー・ペリーを敬愛しているエマに向かって “兄貴っ、エアロスミスが演った東京ドームですよっ!”(6:50)とか(←間髪入れずにジョー・ペリー・ライクな即興フレーズで返すエマが最高!)、ゲスト・キーボーディストの三国さんをイジリたおしたりとか(7:47)、もうヘタなコントを見てるよりも遥かに面白い。
 又、コレが最後との思いからか、間奏で「追憶のマーメイド」(12:15)とか「ラヴ・コミュニケーション」(12:38)とか、「東京ブギウギ」(12:53)のフレーズを歌ったりして大サービスしてたのも印象的。ギンギンにロックしながらもエンターテインメントの要素も決して忘れない... やっぱりイエロー・モンキーのライヴは最高やね! (つづく)

Suck Of Life (Album Version)


Suck of Life -TokyoDome-COMPLETE- The Yellow Monkey

Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-02-04 | J-Rock/Pop
 イエロー・モンキーのメジャー2作目にあたるこの「Experience Movie(邦題:未公開のエクスペリエンス・ムービー)」は、この時期の彼らの特徴である “アクが強くて時代錯誤でマニアック” な路線を更に推し進めながらも、色々と戦略を考えすぎて “ポップなグラム・ロックと両性具有” という側面ばかりが突出してしまった感があった前作の方向性を軌道修正し、ヘヴィーな洋楽ロックとおセンチな歌謡曲、妖しげな似非ヨーロッパ風シャンソンといった様々な要素を巧く組み合わせることによって他の誰にも真似できない “ディープな音世界” を作り上げることに成功した初期イエロー・モンキーの傑作だ。
 そういえばこのアルバムが出た直後のインタビューで “一番やりたいのはホワイトサイド・ブラックサイドという二面性で、1st はホワイトサイドだったから 2nd はブラックサイドにしたんだ...” という趣旨のことを吉井さんが仰っていたが、それって「クイーンⅡ」のA面B面のイメージなんだろうか? 実際、詞の面でもサウンドの面でも “煌びやかな 1st に対して重た~い 2nd ” といった印象が強いが、とにかく吉井さんを語る上で、男と女、明と暗、陰と陽という風に “二面性” という言葉は重要なキーワードと言えるだろう。
 このアルバムは “馬鹿ポップ、ヘヴィー・シャンソン、内気ロック、ミクスチャー・グラム、90年代ムード歌謡、メッセージ色の強いふりしたロック、4LDKフォークを全部消化して、自分だけが「本物だ」と思うアルバムを作り上げた” という言葉通り、ダークで猥雑な①、ヨーロッパの薫り漂う②、ノリノリのアッパー・チューン③⑤⑦⑨⑪、耽美的な④⑥、オカマの失恋歌⑧、吉井さんの自叙伝的な⑩、美輪明宏風シャンソン⑫、自分の母親をモチーフにした⑬と盛り沢山な内容で、ハードなギターを前面にフィーチャーしたストレートなロック・チューンと古いモノクロ映画のサントラを想わせる妖しげなスロー・バラッドがほぼ交互に並べられており、聴けば聴くほど味が出るアルバムになっている。
 この時期の彼らの音楽性は一見とっつきにくいけれど一旦ハマると中々抜け出せない麻薬のような魅力を秘めており、イエロー・モンキーのコアなファンの中にはこのアルバムをベストに挙げる人も多いと聞く。かく言う私もそんな魔力にすっかりやられてしまった一人なのだが、中期のストレートアヘッドなロックンロールしか知らなかった私を初期のドロドロしたイエロー・モンキー・ワールドの魔界に引きずり込んだ張本人と言えるのが、このアルバムの1曲目に収められている①「Morality Slave」だ。
 アルバムの序曲ともいえるこの曲は、タイトルが示すように、未だに “道徳の奴隷” になっているような人達に向けてのメッセージ・ソング。イントロ部分では、奴隷の鎖の音のような SE をバックにベートーベンの「月光」が静かに流れ、“何かめっちゃ雰囲気あるけど、これから一体何が始まるねん...” と思いながら聴いていると徐々に悪魔の囁きのような声が高まっていき、いきなり「オペラ座の怪人」からアダプトしたようなダーク・トーンのギター・リフが切り込んできて曲がスタート、ボウイの「It's No Game」にインスパイアされたと思しき妖しげな女性のナレーションがこれに絡みついてくるところがめっちゃツボ! 更に “とぅるららら~♪” という呪文のようなコーラスを従えた吉井さんのダークな歌声が不気味な感じで煽りまくり、サビのパートでは「ロボトミー ロボトミー~♪」と連呼するという凄まじい展開に言葉を失う。このアングラ感がたまらんたまらん... (≧▽≦)  淫猥な歌詞をさらっと歌ってしまう吉井さんも凄いし、間奏で炸裂するソリッドで切っ先鋭いナイフのようなエマのギター・ソロも絶品だ。とにかくベートーベンから始まって、最後には “改造ペニスのロボトミー” なのだからこれを痛快と言わずして何と言おうか!
 因みにロボトミーとは医学用語で前部前頭葉切截術と呼ばれるもので、こめかみに穴をあけて脳の中で最も人間らしい知的活動を司っていると言われる前頭葉の神経を切断することによって廃人にする手術のこと。ロボットみたいになるからロボトミーなのかと思っていたが(←アホ)全然綴りが違うかった。曲の後半部には例のキュゥィ~ンという歯医者さんのドリルみたいな音の SE まで入っているという凝りようだ。お~こわ(>_<)
 1993年に彼らが日本青年館で行ったライヴで、頭に袋をかぶせられて手を縛られた裸の女性2人を吉井さんが孔雀の羽根でサディスティックにいたぶりながらこの曲を歌うという演出は実に衝撃的だった。「Life Time Screen」という DVD で見れるので興味のある方はどーぞ。1996年に日本武道館で行ったメカラウロコ・7のステージでもこの裸のネーチャンがクネクネする恐ろしいライヴを再現しようとしたものの、 “武道館は神聖な場所だからそういうことやっちゃいかん!” とクレームが付き、スリップ姿の女性を20人(!)登場させてこの曲を歌ったというエピソードがいかにも彼ららしくて面白い。 (つづく)

MORALITY SLAVE - THE YELLOW MONKEY

The Night Snails And Plastic Boogie / The Yellow Monkey (Pt. 2)

2012-02-01 | J-Rock/Pop
 アルバム全体の序曲といった感じの①「Song For Night Snails」は何とオール・フルファルセット... メジャー・デビュー・アルバムの1曲目にしていきなり裏声で、しかも “プリーズ イエスタデイ~♪” というデタラメな英語で始まり、めったやたらと脈絡のない英単語を連発、挙句の果てに “カタツムリは今夜モザイクを映さない~♪” などという摩訶不思議なフレーズまで飛び出すという実に怪しげなナンバーなのだが、吉井さんの囁くようなヴォーカルで聴く美しいメロディーにはどこか妖艶な響きがあり、ジャケットの雰囲気と怖いぐらいに合っていてコレが中々エエ感じなのだ。グラム・ロックに傾倒していた吉井さんの美意識を色濃く反映した1曲だと思う。
 エフェクト処理された①のエンディングにカウベルの逆再生音がかぶさり、そのまま繋がった感じで始まる②「Subjective Late Show」は初期イエロー・モンキーの魅力を凝縮したようなグルーヴが気持ち良いグラム・ロック・チューン。このイントロの元ネタは多分ボウイの「Diamond Dogs」あたりだと思うが、吉井さんはこの “前曲のエンディングでテープ回転を徐々に下げていき、そこにカウベルのリバース・サウンドをオーヴァーラップさせて次曲のイントロへと繋げる” 手法がかなりお気に入りのようで、彼らの最高傑作との呼び声も高い 6th アルバム「SICKS」でも「HOTEL宇宙船」~「花吹雪」への繋ぎに使っている。暗闇から忍び寄ってくるような無機質なループ音が不気味な雰囲気を醸し出しており、コレがあるのとないのではかなり印象が違ってくるように思う。
 歌詞の方は抽象的すぎてワケが分からないが、 “上目使いの Kinky lady~♪” (←kinky とは英語で “変態” のこと。ジャニーズの Kinki Kids とか、私の住んでる近畿地方とか、外人さんの耳にはどう聞こえてるんやろか???)とか、 “フェレイシオのような歯ざわりで~♪” とか早くもエロ路線が全開で、特に “シリコンのザリガニ” には大笑いさせてもらった。そんな中、“愛されない Paranoia band” という自虐的なフレーズをさりげなく織り込むあたりがいかにも吉井さんらしい。
 どこか懐かしさを感じさせるキャッチーなメロディーはとても親しみやすく、歌心溢れるエマのキラキラしたギター・リフもたまらんたまらん(≧▽≦) 個人的には “メカラウロコ 7” のライヴ・ステージでこの曲の間奏の時に、仮面ライダー変身ポーズからエマにチョップをお見舞いしたりしてちょっかいを出しにいく吉井さんの楽しそうな姿が微笑ましくて忘れられない。
 “メカラ 7” といえば何と言っても⑨「真珠色の革命時代」である。 “飾りたてた骸骨とラストダンス” だとか “アスファルトに刺した忘却の注射器” だとか、独創的な歌詞は相変わらずだが、とにかく切ないメロディーが大いなる感動を呼ぶ壮大なバラッドで、初期を代表する名曲の一つだと思う。特に間奏のギター・ソロは完全に洋楽ロックのレベルと言ってよく(←リッチー・サンボラ系の泣きのフレーズが最高!!!)、そのあまりの素晴らしさに涙ちょちょぎれるし、サビの “Sally, I love you~♪” のメロディー・ラインの美しさにも言葉を失う。終盤でストリングスが加わって更に盛り上がっていく様はまさに圧巻で、 “メカラウロコ 7” のライヴで吉井さんが生のオーケストラを自ら指揮する姿にはめっちゃ感動した。
 ⑤「Chealsea Girl」はキャッチーで疾走感溢れるノリノリのロックンロール。尖ったギター・リフと “トゥー トゥー イェー♪” というコーラスが実に印象的で、4th アルバム「Smile」で開花する “歌謡ロック” 路線の原点ともいえるナンバーだ。途中さりげなく入ってくるアコギが実にエエ味を出しているし(1:33~)、ギュイーンというギターのピック・スクラッチ音(1:40あたり)を入れるエマのセンスも素晴らしい。躍動感溢れるヒーセのベースも大活躍だ。歌詞はストレートに卑猥(笑)で、 “パパやママにはナイショだよ~♪” のくだりなんかもう最高だ。
 デビュー・シングルになった⑩「Romantist Taste」は絵に描いたようなグラム・ロックで、②にも通じるポップ・センスが快感を呼ぶ。歌詞はもう笑ってしまうぐらいワケの分からんカタカナ英語のオンパレードで、言葉の意味を空洞化することによって歌詞を一種のサウンドとして捉える過程で “そして夜は全てこの手の中 アルカロイドは君の中~♪” や “ラヴ・ポーションで妖艶にシャドウ~♪” といった名フレーズを生み出しているところが凄い。それにしてもデビュー・シングルで1曲丸ごと “意味なし言葉遊びゲーム” を貫き通す姿勢は実に痛快だ。
 上記の曲以外では、駆けていく馬の蹄のような音を巧く表現したアニーのパワフルなドラミングが心地良い③「Oh! Golden Boys」、ブライアン・メイっぽいエマのギターがオシャレなヨーロッパの風情を漂わせる④「Neurotic Celebration」、エマの繊細なアルペジオが奏でるメロディーの美しさに耳が吸い付く⑦「This Is For You」なんかが気に入っている。
 このアルバムはセールス的には大苦戦でわずか数千枚しか売れなかったらしいが、日本におけるグラム・ロックのマイナー性や強烈なヴィジュアル・イメージの先行、虫や爬虫類が一杯出てくるグロテスクな⑩の PV(←ハッキリ言って悪趣味以外の何物でもない...)といったマイナス・ファクターを考えれば一般ウケしなかったのも当然と言えば当然。しかし今の耳で聴けば、有象無象の邦楽ファンよりもむしろ年季の入った70~80年代洋楽ロック・ファンにウケそうな要素が満載だ。私のようにこのアルバムがストライク!!!な人にとって、彼らのインディーズ盤とメジャー初期3部作はきっと愛聴盤になると思う。

Subjective Late Show


真珠色の革命時代


the yellow monkey--Chelsea Girl.flv


Romantist Taste