shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

スペイン盤特集①「Sgt. Pepper's」「White Album」

2023-11-26 | The Beatles

 少し前のことになるが、ヤフオクでビートルズ関連のレコードを定期チェックしていて、「この商品も注目されています」 という欄に(←最近このパターン多いなぁ...)「激レア!『Sgt.PEPPERS LONELY HEARTS CLUB BAND』スペイン モノ盤 ODEON 赤レーベル 1967年オリジナル 美品」というのを見つけた。スペイン盤というと私はポールの「RAM」1枚しか持っていなかったのだが、きめ細やかで音圧低めなその音作りはパワー至上主義者の私にとってはイマイチ物足りなく感じられ、それ以降スペイン盤は購入対象から外れていた。
 しかし今回私が魅かれたのは “モノ盤” というパワー・ワードである。「Please Please Me」から「Let It Be」に至るまで、UKオリジナル盤は一応モノとステレオの両方を持ってはいるものの、モノ盤が存在する「White Album」まではターンテーブルに乗る比率は9:1かそれ以上の圧倒的大差でモノ盤だし、カートリッジ交換や針圧調整が面倒臭くなってくると「Abbey Road」「Let It Be」「Hey Jude」のようにステレオ盤しか存在しない後期の盤も、邪道かもしれないがブラジル盤やアルゼンチン盤のモノラル・サウンドで楽しむことが少なくない。そんな “モノ大好き人間” の私にとって、モノラル衰退期にリリースされたせいでステレオ盤が多数を占めるペパーズとホワイトは “モノ盤” というだけで魅かれてしまうのだ。
 オーディオをフレッシュン・アップしてますますモノラル盤のパワー偏重主義に拍車がかかっていた私は “スペインのモノ盤か... 音圧はちょっと低そうやけど、ヴォリュームを上げたったらUKマザーとは又一味違うペパーズが聴けるんちゃうか...” と考えた。早速商品説明欄を見てみると “1967年に発売されたスペイン製オリジナルのモノラル盤で、ジャケのダメージも、レコードのスピンドル・マークも、スクラッチノイズ・サーフェイスノイズもありません。音質は英国盤にも増して繊細な印象です。現在これだけのコンディションのスペイン製モノ盤を入手するのは困難です。” とある。
 おお、これは中々良さそうだ。あと1日を残して既に8,000円まで上がっているのがちょっと不気味だったが、スペイン独自マトの繊細な音をモノラルの爆音で聴けるというのは興味津々だし、わざわざ海外のセラーから盤質ギャンブルしてレコードを買うよりは少々お高くてもヤフオクでピカピカ盤を買うた方がエエんちゃうか... と考え、私はこのレコードをウッチリストに入れておいた。しかし残念なことに締め切り直前の1時間で値段が一気に跳ね上がり、私はただ指をくわえて見守るのみ... 結局34,700円という高値で落札された。
 スペイン盤のくせに(←失礼!)何でこんなに人気あるんやろ?と怪訝に思いながらも私はこのレコードのことが頭から離れず、やっぱり自力で海外から買うしかないかと eBay でチェックしてみたところ、Ex−の盤が1枚だけオーストラリアのセラーから出ており、送料込みでも7,000円ちょっとというお手頃価格だったので即決。あとは盤質がそれなりに良いことを願うのみだった。
 レコードはオーストラリアからの発送ということでわずか10日で到着。アメリカやヨーロッパとは違って送料が安くてしかも早く着くのが嬉しい。肝心の盤質は静音部で少しチリパチはあるものの、いったん音楽が始まってしまえば全く問題にならないレベルで、コスパを考えれば十分満足のいくもの。支払いがオーストラリア・ドル(←米ドルより遥かにマシ...)というのもラッキーだった。
 音の特徴は予想に反してガッツのある力強いサウンドでビックリ(゜o゜)  嬉しくなってアンプのヴォリューム・ノブを更に右に回しながらパワーをぶち込んでやるとえげつないぐらいのラウドで気持ちの良い音がスピーカーから迸り出て来る。これを聴いて、他のどの各国盤とも違うスペイン独自カッティングならではの緻密な音作りこそ、可能な限りヴォリームを上げて聴くのが大正解だと思った。ペパーズのモノ盤と言えばこれまでUK盤一択に近い状況で、たまに気が向いた時に南ア盤やオランダ盤、インド盤なんかを聴く程度だったが、このスペイン盤の満足度はモノラル・ペパーズの中でもピカイチ。プレスやカッティングの違いで楽曲が色んな表情を見せてくれるのがビートルズ各国盤蒐集の面白さだ。
 すっかり調子に乗った私が(←いつもこのパターンやな...)ついでにホワイトもいったれと eBay をチェックするとラッキーなことに VG+の盤が €60で出ており、盤質もまあまあ良さそうだったし送料も2枚組にしては安かったので BUY IT NOW でゲット。これまでも何度か手に入れようとしたことがあったのだが、値段とか盤質の点で良い出物が無くて半ば諦めかけていたのだ。今回はホワイトのモノ盤がVG+で12,000円弱ということでかなり良い買い物をしたと思っている。
 私はペパーズと同様にホワイトもステレオ・ミックスよりもモノ・ミックスの方が好きなのだが、このアルバムが出た1968年というのは世界的にモノラルが廃れてステレオが主流になっていた時期なので、ホワイトのモノラル盤というのは非常に貴重。私の知る限りではUKオリジナル以外ではオーストラリアとスペイン盤があるのみ(→ブラジル、アルゼンチンといった南米勢のホワイト・モノ盤はステレオ・ミックスを無理やりモノに加工した「偽モノ」)だ。ましてや独自マトのホワイトとなると世界広しといえどもこのスペイン盤だけなんである。
 レコードの方はVG++ぐらいの盤質でA③「Glass Onion」のエンディングに少しノイズが入るのを除けばExレベル。音の傾向はスペイン盤ペパーズとほぼ同じで、パワー全開のラウドなサウンドで大好きなホワイトが楽しめる。とにかく中低域がしっかりしており、腰の据わった骨太のモノラル・サウンドがスピーカーからドドーッと飛び出してくるのだ。
 中でもA⑧「Happiness Is A Warm Gun」のまるで大蛇のようにうねるベースの音には心底ブッたまげたし、C⑥「Helter Skelter」のベースなんてもう狂喜乱舞という表現がピッタリの大暴れ。続くC⑦「Long Long Long」の、まるで地の底から響いてくるかのような重低音の響きはUK盤すら凌駕している。高域の抜けの良さも特筆モノで、何度も繰り返し聴きたくなるような親しみ易い音作りだ。先のペパーズといい、このホワイトといい、スペインのモノラル盤って侮れへんなぁ... とそれまでの考えを改めさせられた。

John Wick 4 Original Soundtrack

2023-11-19 | TV, 映画, サントラ etc
 私は好き嫌いがハッキリした人間で、映画はSFとアクション物しか観ない。要するに “広く浅く” の真逆を行く “狭く深く” が私の流儀なのだ。作品で言うと、「スター・ウォーズ」、「スター・トレック」そして「ジョン・ウィック」が3本柱で、これらのシリーズは何十回、いや、何百回と繰り返し観て楽しんできた。先月このブログに書いた「ジョン・ウィック4」も劇場で2回、そしてブルーレイは既に10回以上は観たが、飽きるどころかまだまだコーフン冷めやらずといったところだ。
 言うまでもなくこの映画はその怒涛のアクション・シークエンスが圧倒的な見どころなのだが、そこで使われている音楽もまた素晴らしい。もちろん楽曲単体でもそれなりに楽しめるが、映像を観ながら聴くとその魅力が何倍にもアップするという、サントラの鑑のような作品ばかりなのだ。ということで今回は世界に先駆けて日本で先行発売された「ジョン・ウィック4・オリジナル・サウンドトラック」CD、そしてオフィシャルのサントラ盤には入っていないけれどこの映画に無くてはならない音源について書いていこうと思う。

①Osaka Phonk / Le Castle Vania
 大阪コンチネンタル・ホテルが登場するシーンのバックで流れていたオリエンタルなムード横溢のエキゾチックなナンバーがこの「Osaka Phonk」だ。この曲はオフィシャル・サウンドトラック盤には収録されておらず、Le Castle VaniaがEPとして発表した音源をダウンロード(←アナログ人間の私にはMP3音源で “EP” という言い方はめっちゃ違和感がある...)するしかないのが非常に残念。音楽配信/ダウンロードというシステムを生理的に受け付けない私のような古いタイプの人間にとっては住みにくい世の中になったものだ。
John Wick: Chapter 4 (2023) - Osaka Continental | 4K HDR CLIP ALARAKHS HDR Grading Showcase


②Marie Douceur, Marie Colère / Manon Hollander
 グラモン侯爵の指示でDJが殺しを煽るという設定の中、パリの街中の大乱闘シーンのバックで流れるのがマノン・ホランダーという女性歌手がストーンズの「Paint It Black」をフランス語でカヴァーした「Marie Douceur, Marie Colère」だ。「Paint It Black」のフレンチ・カヴァーといえばマリー・ラフォレが真っ先に思い浮かぶが、こちらのヴァージョンもそれに勝るとも劣らない素晴らしい出来栄えだ。映画館で初めてこのシーンを見た時、女DJの “I think it's high time we paint him red...” という言葉で “えっ、ここでまさかのストーンズ来るんか?” と身構えたのだが、間髪を入れずに例のイントロが流れた時はカッコ良すぎて震えがきた。
John Wick: Chapter 4 (26M Bounty Scene) Paint It, Black | High Definition 1440p |


③Hate Or Glory / Gesaffelstein
 凱旋門の周回道路での超高速戦闘シーンで流れるクソカッコ良い曲がゲサフェルスタインの「Hate Or Glory」だ。感情を持たない殺人マシーンのように一人また一人と敵を処理していくジョン・ウィックのアクションと硬質な電子音が炸裂するアグレッシヴなサウンドが絶妙にシンクロしてカッコ良いことこの上ない。単調なフレーズの繰り返しが生み出す高揚感がたまらんたまらん... (≧▽≦)
John Wick 4 - Arc De Triomphe scene


④LED Spirals / Le Castle Vania
 焼夷弾で次から次へと敵を火だるまにしていくジョン・ウィックの戦いっぷりを上から俯瞰する映像のバックで流れるのがLe Castle Vania の「LED Spirals」だ。この曲は「ジョン・ウィック1」でもクラブ「レッド・サークル」でロシアン・マフィアのバカ息子を追い詰めていくシーンで使われて強烈なインパクトを残したが、この「4」でもジョン・ウィックが無慈悲に敵を撃ち殺していくシーンに無機質なビートが絶妙にマッチしており抜群の効果を上げている。映像と音楽をリンクさせるチャド監督のセンスには脱帽だ。
John Wick: Chapter 4 | 4K HDR | Overhead Gun Fight - Dragons Breath Rounds


⑤Eye For An Eye / Rina Sawayama
 ラストの墓地のシーンに続いて流れるエンディング・テーマはシマヅ(真田広之)の娘アキラ役で素晴らしい演技を見せたリナ・サワヤマが歌う「Eye For An Eye」だ。歌が本職とあって映画のラストを飾るに相応しい堂々たる歌声を聞かせてくれる。調べてみたらエルトン・ジョンと共演したり、2ndアルバムが日本人歴代最高記録となる全英チャート3位に入ったりと、今が旬のアーティストのようだ。彼女が参加したメタリカのカヴァー・アルバム(←声がかかるってだけで凄いなぁ...)の「Enter Sandman」も貼り付けておいたので興味のある方はどーぞ。
Rina Sawayama – Eye For An Eye (John Wick: Chapter 4 Original Motion Picture Soundtrack)

Rina Sawayama – “Enter Sandman” from The Metallica Blacklist


【おまけ】
 凱旋門の大乱闘シーンのメイキング映像をYouTubeで見つけた。へぇ~、あのシーンはこんな風にして撮ってたのか... とビックリ。VFX技術って凄いですな...
John Wick 4 - Arc De Triomphe - VFX Breakdown by Rodeo FX

「赤盤」「青盤」リミックス2023

2023-11-12 | The Beatles
 「Now And Then」が届いてちょうど1週間になるが、聴けば聴くほど胸に沁み込んでくる。実に滋味深い味わいの一曲である。ましてや4人が “共演” しているプロモビデオを観てしまうとそれこそ目頭が熱くなってしまう。この曲を聴いた時の反応をYouTube上で様々な人たちがアップしているのを見たが、中でもこの人↓のがわかりやすくて良かった。
Classical Composer Reacts to THE BEATLES: NOW AND THEN | The Daily Doug (Ep. 686)


 今回の「Now And Then」プロジェクトにおいて、“デミックスによる奇跡的な新曲の完成” と並ぶもう一つの目玉が「赤盤」「青盤」の2023リミックス盤のリリースだ。これまで何度も書いてきたように「赤盤」こそが私が初めて買ったビートルズのレコードであり、もしもこのレコードとの出会いがなかったら、ヘタをすれば今とは全く違った無味乾燥な人生を送っていたかもしれない。金パロ盤やニンバス盤、スタンパー1G盤や高音質各国盤の入手に一喜一憂するビートルズ・アナログ桃源郷の楽しさを知らずに生きる人生なんて、考えただけでもゾッとする。つまり「赤盤」がなければ今の私は存在しない... と言えるぐらい絶大な影響を受けているわけで、同じベスト盤でも「Oldies」や「1」のように何の想い入れもない凡盤駄盤の類とは激しく一線を画す、特別なレコードなんである。
 シングル「Now And Then」の1週間後にそんな「赤盤」のニュー・リミックス盤が「青盤」と同時リリースされると聞いて私の胸は高鳴った。2017年の「Sgt. Pepper's」を皮切りに「White Album」「Abbey Road」「Let It Be」「Revolver」と続いてきたジャイルズ・マーティンによるリミックス・プロジェクトが初期の作品をどのように聴かせてくれるのか興味津々だった私にとって、「赤盤」というのは今後のビートルズ・リミックス盤の出来を占う大きな試金石のようなものだったからだ。
 話が「赤盤」に偏ってしまったが、後期の曲はシングルではなくアルバム単位で聴くことがほとんどだったせいもあって「青盤」に対しては愛着が薄く “後期の有名曲をただ並べただけ” というのが正直なところだったし、その考えは今も変わらないが、US編集LPである「Magical Mystery Tour」「Hey Jude」収録の曲や、ボートラ扱いの「Hey Bulldog」をジャイルズがどのように料理するかに興味があったので「赤盤」「青盤」の両方とも一気買いすることにした。当然輸入盤LP狙いである。いくつかのサイトを比較した結果 “まとめ買い価格” を使ったHMVが一番安かったのでそこですぐに予約した。
 レコードは発売日の11/10に到着。新品なのでクリーニングの必要がないのが嬉しい。すぐに「赤盤」のディスク1をターンテーブルに乗せて針を落とす。そこで静寂の中から聞こえてきた「Love Me Do」はベースがめっちゃデカく入っていて全体のバランス・印象が旧来のミックスとはかなり異なっており、のっけから驚かされた。実を言うとシングル「Now And Then」のB面はテキトーに1回聴いただけでA面ばかり繰り返し聴いていたのでこんなことになっていようとは夢にも思わなかったのだ。続く「Please Please Me」も何か思うてたのと違う。しかし「She Loves You」あたりからこのニュー・ミックスの音作りに慣れてきて、「I Want To Hold Your Hand」や「All My Loving」なんかは結構楽しめたし、弦楽器の配置を変えて音場の広がり感をアップさせた「Yesterday」はその包み込まれるような感じが気持ち良い。ただ、上記の初期シングル曲やボートラの「I Saw Her Standing There」などを聴いていて思ったのだが、ひょっとすると1963年の最初期2トラック録音はデミックスといえども音質面で色々と難しい部分があるのかもしれない。
 今回のプロジェクトは “左右泣き別れステレオ” を解消して定位を整えるというメリットと、それぞれ楽器ごとにデミックスしてからそれらを改めてリミックスするために楽器の音が少し変わってしまうというデメリットの狭間で落としどころを見つけるという気の遠くなるような作業だったと思うのだが、それぞれの曲の最適解というのは当然聴く人によって変わってくるわけで、今回のジャイルズのリミックスに関しては賛否両論あって当然だろう。私的には曲によって当たり外れはあるものの、それなりに興味深く楽しめたと言えるが、こればっかりは個人個人で今回のニュー・ミックスに対する好き嫌いを判断するしかないだろう。
 そんな中で私が “さすがにこれはちょっとやりすぎでは???” と思ったのが「青盤」収録の「I Am The Walrus」だ。特に曲の中盤から後半にかけては各楽器のバランスがかなり変えられており、それだけでも結構違和感があるのに、エンディングに近づくにつれてこれまで聴いたことがないような音(←ラジオ音声やオーケストラetc)がわちゃわちゃ出てきてもう何が何だか... の世界。おそらくオリジナルのマルチトラックにあったボツ音源をジャイルズの判断で復活させたのだと思うが、ハッキリ言ってこういう改悪はやめてほしかった。例えるならクラシック・カーのエンジンを最新型に載せ替えて更にリアウイングやディフューザーまで取り付けたような感じ、といえばわかってもらえるだろうか?
I Am The Walrus (2023 Mix)


 「赤盤」では「In My Life」がキツかった。どういうわけかデジタル臭さが強く出過ぎて、この曲のキモというべき抒情性に浸ろうと思っても高音がやかましすぎて楽しめないのだ。ストリーミング音源をスマホとイヤホンで聴いている今時の若者ならこういうのも平気なのかもしれないが、昭和育ちのコテコテ・アナログ人間の私は正直ちょっとついていけない。お父さんの故ジョージ・マーティンがこれを聴いたらどう思うだろうか?
In My Life (2023 Mix)


 私に関する限り、ビートルズのニュー・リミックスというのは物珍しさで買って聴き、しばらくすると飽きて結局オリジナル盤に戻るというパターンが圧倒的に多かった。「Yellow Submarine Songbook」しかり、「Let It Be Naked」しかりである。今回の2023年ミックスの「赤盤」「青盤」もおそらくそうなるだろうし、それで十分だと思っている。こう言っては身も蓋もないが、“珍味” と “美味しい” は違うのだ。そう言えばこの2023年ミックス盤が届いた同じ日にたまたま「青盤」のスペイン・オリジナル盤が海外から届いたので興味本位で聴き比べてみたのだが、私の耳にはスペイン盤の方が圧倒的に心地良く響いた。今後もテクノロジーの進化と共にどんどん新しいミックスが作られることになるのだろうが、それによって逆にオリジナル盤の価値が上がっていくという皮肉な現象が生まれてきそうだ。

【追記】レコードが届いてから数回聴き込んで徐々にこの新しいミックスにも慣れてきたところだが、今一番不満に感じるのは「青盤」のボーナス・トラックの選曲だ。新曲「Now And Then」はまぁ仕方ないとしても(←でもみんなシングル盤で既に買ってるでしょ?)、残り8曲の中で新出といえば「Hey Bulldog」のみ(←期待したわりにはイマイチのミックスやった...)で、後は「Sgt. Pepper's」や「White Abbum」で既出の音源ばかり。私としては「Magical Mystery Tour」や「Yellow Submarine」で未だニュー・ミックスを出してない曲(→「Your Mother Should Know」聴きたかったなぁ... 「It's All Too Much」なんか絶対面白そうなのに...)でボーナス・ディスクを作ってほしかった。“ビートルズはファンに二度買いさせない...” とは何だったのか。

ザ・ビートルズ最後の新曲「Now And Then」

2023-11-05 | The Beatles
 確か6月頃だったと思うが、ヤフー・ニュースに「ポール・マッカートニーが AI(人工知能)を導入してビートルズの新曲を製作中」という記事が出た。私は一瞬 “えっ、AI 使うて新曲って一体どーゆーこと???” とワケがわからなかった。私は AI がどーとかチャットGPTがこーとか言われるとブツブツが出るくらい(笑)拒否反応を示す古いタイプの人間で、映画「ターミネーター」の “スカイネット” やTVドラマ「スタートレック・ディスカバリー」の “コントロール” などを見て余計に AI 嫌いが助長されているのかもしれないが、一番決定的だったのは何年か前にNHKが AI を使って美空ひばりの偽物をでっち上げた時のネガティヴなイメージが私の中に染み付いていることで、ビートルズで “AIひばり” みたいなキモいことはやめてくれよ... と思ったのだ。だからその時点では正直言ってあまり期待もせず、とりあえずその後の成り行きを見守っていたのだが、その後の進捗状況に関するニュースはあまり出てこず、私も “ひょっとしてあの話は立ち消えになったんかな???” と思っていた。
 ところが先月の末、唐突に「ビートルズ最後の新曲 Now And Then、11月2日に世界同時配信決定!」というニュースが飛び込んできた。11/2て、あと1週間しかないやん! 私はネット上の情報を調べまくり、AI 云々というのはピーター・ジャクソン監督が映画「Get Back」で開発し、ポールが自らのライヴで「I've Got A Feeling」をジョンとデュエットした、あのデミックス技術のことだとわかり一安心。要するに音の悪いデモ・テープからジョンの声を完全に分離してクリスタル・クリアーな状態にまで磨き上げ、そこにポールとリンゴ、そして生前のジョージがアンソロジー・プロジェクト時に残した演奏をミックスして仕上げたのだという。そういうことなら最初からデミックスって言えばいいものを、何が AI やねん! “AI レノン” なんか聞かされたらブチギレてまうわ。ということで、私の中で AI 騒動は一件落着。事の詳細を上手くまとめたショート・フィルムが YouTube にアップされているので、そちら↓をご覧あれ。
The Beatles - Now And Then - The Last Beatles Song (Short Film)


 で、いよいよ待ちに待った11月2日... YouTubeでこの「Now And Then」を初めて聴いた時、ジョンの歌声が流れてきた瞬間に熱いものがこみ上げてきた。モノ悲しげなメロディーも相まって、心の琴線をビンビン震わせるのだ。ビートルズ・サウンドの要というべきリンゴの “ザ・ワン・アンド・オンリー” なドラミング、「アビー・ロード」を彷彿とさせる美しいコーラス・ハーモニー、「アンソロジー」でこの曲に取り組んでいる時にジョージが弾いた味わい深いギター・カッティング、ポールがジョージへの想いを込めて弾いたという哀調スライド・ギター、そしてそこに「Eleanor Rigby」を想わせるリズミカルなストリングスが寄り添いながら収斂していく様はまさに蘇えったザ・ビートルズそのものだった。
 ジョンが書いた歌詞 “Now and then I miss you... now and then I want you to be there for me...(時々君が恋しくなる... 君がそばにいてくれたらって思うんだ)” の you はおそらくポールのことではないかと思うのだが、今となってはこのラインは逆に全ビートルズ・ファン(そして残されたポールやリンゴ)がジョンやジョージに対して抱いている共通の想いと言えるだろう。
 音源公開の翌日にピーター・ジャクソンが製作したミュージック・ビデオが解禁されたが私はそれを見て、不覚にもまたまた涙腺が決壊してしまった。在りし日のジョンやジョージの姿が最新テクノロジーによって絶妙に合成され、まるでポールやリンゴと共演しているかのように画面上に4人の姿が映し出されるのである。これを観て涙しないビートルズ・ファンはいないだろう。さすがは映像製作のプロという他ないが、バリバリのビートルズ・ファンを公言するピーター・ジャクソン監督ならではの素晴らしい映像作品だと思う。
The Beatles - Now And Then (Official Music Video)


 ポールのカウントで始まる「I Saw Her Standing There」でスタートしたビートルズの歴史が、同じくポールのカウントで始まるこの「Now And Then」で幕を閉じるというのも何か運命的なものを感じさせる。何て言うか、あぁこれで本当に終わりなんやなぁ... という一抹の寂しさも確かにあるが、それ以上に、人生の大半をリアルタイムで彼らの音楽と共に過ごせたことの喜び、そして4人への心からの感謝の想いがこみ上げてきた。私にとって彼らの歌はまさに “希望” であり、“生きる喜び” そのものだった。そして時代がどう変わろうと、彼らの音楽は変わらずに私にその喜びを与え続けてくれるだろう。
 まさか21世紀になってビートルズの新曲リリースに立ち会えるとは夢にも思わなかったが、この「Now And Then」を聴いて改めてビートルズ・ファンでよかったなぁ... という思いを強くした。レコード・コレクションにこの「Now And Then」という掛け替えのない1枚が加わって幸せだ。