shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

【50's ヘレン・メリル】「The Nearness Of You」「Parole E Misica」

2024-07-07 | Jazz Vocal

 ヘレン・メリルというとデビュー作の “「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」だけ聴いてればそれで十分” という声をこれまで何度も聞いたことがあるが、それって “イーグルスは「ホテル・カリフォルニア」だけ、フリートウッド・マックは「噂」だけ聴いてればいい” と言っているようなものだろう。しかしイーグルスに「テイク・イット・イージー」や「ザ・ロング・ラン」が、マックに「ファンタスティック・マック」や「タンゴ・イン・ザ・ナイト」があるように、ヘレン・メリルにだって「ウィズ・クリフォード・ブラウン」以外にも素晴らしいレコードがたくさんあるのだ。ということで当ブログではヘレン・メリルの “隠れ名盤” を年代別に特集してみたいと思う。まずは1950年代から...

①「The Nearness Of You」
 ヘレン・メリルは全盛期といわれる1950年代にはエマーシー・レーベルに5枚のアルバムを残しているが、クリフォード・ブラウンと共演したデビュー・アルバムに次いで私が好きなのが5作目にあたるこの「The Nearness Of You」だ。そもそも彼女のヴォーカルはねっとりとベタつくところがあるので、ウィズ・ストリングスやスロー・バラッドはあまり好きではない。“ニューヨークのため息” と言われる彼女のハスキーなヴォーカルが引き立つのはバックの演奏が軽快にスイングする楽曲で、このアルバムにはそんなスインギーなナンバーが何曲も入っており、聴いてて実に心地良いのだ。「Bye Bye Blackbird」や「I Remember You」「All Of You」といった有名スタンダード曲から「Dearly Beloved」「This Time The Dream's On Me」といった知る人ぞ知る佳曲に至るまで、ミディアム・テンポで軽快にスイングするメリル姐さんが最高だ。ジャジーなアレンジが光る「Softly As In A Morning Sunrise」も素晴らしい。
 このレコードはB面に収録されたニューヨーク・セッションにピアノのビル・エヴァンスが参加していることも大きな魅力で、一聴してすぐに彼とわかるユニークなフレージングに耳が吸い付くし、他にも絶妙な歌伴を聴かせるフルートのボビー・ジャスパーやギターのバリー・ガルブレイスを見事に活かしたジョージ・ラッセルのアレンジも素晴らしい。尚、裏ジャケにはドラマーが Jo Jones と書かれているが、特徴的なリム・ショットやブラッシュ・ワークなど、どこをどう聴いてもこれは Philly Joe Jones の間違いだろう。まぁフィリー・ジョーも一応 ”ジョー・ジョーンズ” なので勘違いしたのかもしれないが、そもそも音楽性が全然違うやん...
 尚、このレコードは1958年にリリースされてすぐに EmArcyレーベルが倒産したために 1stプレスの“ビッグ・ドラマー・レーベル” は非常に稀少で、今ではキレイな盤は何万円もするようだ。私は25年くらい前に難波のビッグ・ピンクで7,200円で購入したのだが、そのえげつない値上がりようにビックリさせられた。
Softly, as in a Morning Sunrise (Remastered 2016)


②「Parole E Misica」
 ヘレン・メリルは1959 年に渡欧してイタリアに居を構え、1962年までそこに滞在していたのだが、この「Parole E Misica」というアルバムはその滞在中1960年の10月から11月にかけてローマでRCAに吹き込んだもので(RCA Italiana LPM-10105)、日本では「ローマのナイトクラブで」というタイトルで知られている。
 このレコードは変わった作りになっていて、各曲が始まる前にイタリア語に訳されたその曲の歌詞が朗読されるのだが(←何でもイタリアにそういう趣向のTV番組があるらしい...)、イタリア語なんて当然何を言っているのかサッパリわからないし、朗読の仕方も聞いててこそばいというか、ムズムズするというか、何だかこっ恥ずかしい気持ちになってしまうので、私はちょっと苦手。日常的にはmp3DeirectCutというソフトを使ってCDの朗読パートをカットしてCD-Rに焼いたものを聴いているし(←朗読 “無し” と “有り” で雰囲気が全然違います!)、レコードで聴く時は少々面倒臭いが1曲ごとに朗読を飛ばすようにしている。
 このように私には不要な朗読パートが入っているというデメリットはあるものの、それを補って余りあるのが彼女の歌とバックの演奏の素晴らしさだ。彼女はこのレコードでピエロ・ウミリアーニと共演しており、ウミリアーニの編曲とピアノ、ニニ・ロッソのトランペット、ジノ・マリナッチのフルートなど、名うての名手たちの演奏に乗って軽快にスイングするメリル姐さんの浮遊感のある歌声で実に粋なジャズ・ヴォーカル・アルバムに仕上がっている。
 選曲も私の大好きなスタンダード・ナンバーばかり取り上げられており、それも私がこのアルバムを溺愛している要因の一つになっている。全曲気に入っているが、一番のお気に入りは軽快にスイングするB③「I've Got You Under My Skin」で、私にはジュリー・ロンドンと並ぶフェイヴァリット・ヴァージョンだ。 “軽快にスイング” という点ではB⑥「When Your Lover Has Gone」もB③に引けを取らない名演で、ヘレン姐さんのハスキーな声質と相俟って、どちらも“クールに、軽やかに、粋にスイング” というジャズ・ヴォーカルの真にあらまほしき姿を堪能できるトラックになっている。軽快なギターとフィンガー・スナップで始まる出だしからヘレン姐さんのヴォーカルがスルスルと滑り出すA①「Night And Day」もたまらんたまらん... (≧▽≦)
 このレコードのイタリアRCAオリジナル盤は昔から超入手困難盤として知られており、ごくたまに市場に出てきても5~8万円くらいで取り引きされている。私も当初はオリジナル盤なんて絶対に無理... と諦めていたのだが、ビートルズのイタリア盤をeBay Italiaで漁っていた時にたまたまこのレコードのオリジナル盤を€120で見つけて狂喜乱舞ヽ(^o^)丿 この機会を逃したら二度とチャンスは無いと思い、Strong VG という言葉を信じて即決。届いた盤は見た目は確かにVGだったが実際に聴いてみると VGどころかExレベルの盤質で大喜びしたのを今でもよく覚えている。初めてその存在を知ってから16年経ってようやくオリジナル盤を手に入れることができた掛け替えのない1枚だ。
Helen Merrill - I've Got You Under My Skin (1961)

Helen Merrill - Night and Day (1961)