shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

チエミのスタンダード・アルバム / 江利チエミ

2017-08-26 | Jazz Vocal
 多くのレコード・コレクターがやっているように、私もWANT LIST なるものを作っている。ビートルズ関係の盤が多いが、もちろん昭和歌謡やジャズのアーティストもリストアップしており、過去にレコ屋やネットで見かけたのに買いそびれてしまって今ではどこを探しても売ってない盤だとか、オークションで何度も獲り損ねて未だに入手できていない盤だとかがネットオークションに出品されたら絶対に逃さないように寸暇を惜しんでチェックしている。その甲斐あってか前々から欲しかった昭和歌謡歌手のレコードを最近何枚か手に入れることが出来たので、今日はそんな中から江利チエミの「チエミのスタンダード・アルバム」(LKF-1025)を取り上げよう。
 このレコードは1959年にリリースされた10インチ盤で、A面は東京キューバン・ボーイズをバックにラテン・ナンバーを4曲、B面は原信夫とシャープス&フラッツをバックにジャズのスタンダード・ナンバーを4曲歌っている。楽譜をあしらったオレンジ色の背景と彼女の白いドレスのコントラストが映えるジャケット・デザインも素晴らしい。
 A①の「ベサメ・ムーチョ」はトリオ・ロス・パンチョスやアート・ペッパーのようなスロー/ミディアム・テンポのアレンジが主流だが、私が一番好きなカヴァーはビートルズのスター・クラブ・ライヴに入っている疾走系ロックンロール・ヴァージョン(←映画「レット・イット・ビー」でポールが朗々と歌い上げるヴァージョンは正直言って苦手です...)。ここで聴けるチエミ・ヴァージョンは前半部分こそ切々と歌っているが2分を過ぎたところで一気にギアを上げてペースアップ、速射砲のようなスペイン語で一気呵成に突っ走るコモエスタな展開がク~ッ、タマラン! 更に2分35秒の “which means!” で英語に切り替え、“ベッサメ ベッサメ ベッサメ ムゥ~チョ~♪” とたたみかける “ベッサメ三段攻撃” の凄まじい吸引力... (≧▽≦) ここだけでメシ3杯は喰えそうだ。とにかく初期ビートルズ・ヴァージョンの次いで私が好きなベッサメ・カヴァーが他ならぬこのチエミ・ヴァージョンなのだ。
江利チエミ Chiemi Eri - ベサメ・ムーチョ Besame Mucho


 このアルバムでは途中でテンポを変えて曲にメリハリをつけるという彼女お得意の手法が多用されており、A④の「タブー」でも2分を過ぎたところでスローな前半部分から一転して高速シャバダバ・スキャットに突入、さすがは “和製エラ・フィッツジェラルド” の異名を取るだけあって縦横無尽にメロディーを操る歌唱は凄いの一言! 彼女の塩辛い声を活かした見事な歌いっぷりは何度聴いてもスリリングだ。又、B②「ザ・マン・アイ・ラヴ」でも2分08秒から漂白されたハンプトン・ホーズみたいな(笑)中村八大のスインギーなピアノ・ソロ(←バックのドラムの叩き方がもろにスタン・リーヴィーしててクソワロタ...)が炸裂し一気にヒートアップ、ノリノリの演奏をバックに変幻自在のヴォーカルで聴く者を一気にチエミ・ワールドへと引き込む展開がめちゃくちゃカッコ良い(^.^)  まさに彼女のジャズ・シンガーとしての魅力が堪能できる1曲だ。
 B③の「ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー」は1955年にSPでリリースしたものとは違うヴァージョンで、曲の後半部で唐突に “三日月ほのかにかすむ夜~♪” と日本語に切り替えるSPヴァージョンに対して全編英語で歌い切ったこちらのヴァージョンの方が断然カッコいい(^o^)丿 日本人が歌う「ラバカン」としては美空ひばりがナット・キング・コール・トリビュートLPでカヴァーしたヴァージョンと双璧を成す名唱だと思う。
 B④の「スワニー」も彼女は複数回レコーディングしており、1回目がこのアルバムの半年前に出たSPヴァージョン、2回目がこのアルバムのヴァージョンで、3回目が1963年にステレオ・レコーディングされたヴァージョンなのだが、ステレオ版は “I've been away from you a long time~♪” の前半部分をバッサリとカットしていきなり“Swanee, how I love you, how I love you~♪” で始まるという奇抜なアレンジに違和感を覚えるし、ステレオ感を出したかったのかバックの演奏に過剰なエコーがかかっており彼女の歌声だけが浮いてしまっているので私的にはNG(>_<)  SPヴァージョンとアルバム・ヴァージョンはほぼ同時期の録音ということもあってかアレンジがほとんど同じだなのだが、より伸びやかで表現力豊かな歌声が楽しめるという点でアルバム・ヴァージョンに軍配を上げたい。
 ジャズ・シンガーとして取り上げたスタンダード・ナンバーの数々でスキャットを交えながらスイングする “高速スキャットの女王” 江利チエミの魅力が存分に味わえるこのアルバム、復刻CDで持ってはいたが、やはりオリジナル盤の豊潤かつ濃厚な音で聴ける喜びは格別だ。やっぱり江利チエミはエエなぁ... (^o^)丿
Swanne江利チエミ

Les Beatles (France Odeon OSX 222)

2017-08-18 | The Beatles
 私がビートルズの各国盤に魅かれる理由の一つはディフ・ジャケにある。基本的にはUKオリジナル盤至上主義者なのでUK盤のジャケット・デザインがもちろんデフォルトなのだが、ごくごくたまに “このジャケット、UK盤とは又違った味わいがあってめっちゃエエやん!” というレコードに遭遇するのだ。そんな各国盤の中でも独自のジャケット・デザインで私のコレクター心理をくすぐるのがデビュー盤から「ヘルプ」までの初期フランス盤なのだ。
 私がフランス盤に興味を持ったきっかけは清水の舞台から飛び降りるつもりで衝動買いした「Les Beatles 1965」で、最難関盤を首尾よくゲットしてすっかり味をしめた私はその後も「4 Garçons Dans Le Vent」(←ハード・デイズ・ナイトのこと)と「Help!」という2枚のサントラ盤をゲット、残すは「Les Beatles」(OSX 222)と「Les Beatles N°1」(OSX 225)の2枚ということで、ネット上に網を張り巡らせて状態の良い仏オリジナル盤(←安っぽい70'sリイシュー盤はNG!)がリーズナブルなお値段で出品されるのを虎視眈々と狙うことにした。
 それから3ヶ月ほど経った7月半ばのある日のこと、ついに「Les Beatles」(OSX 222)が €150でDiscogsに出品された。このレコードの1stプレスはダーク・グリーン・レーベルなのだが滅多に市場には出てこず、ごくたまに見かけてもほとんどが2nd又は3rdプレスのオレンジ・レーベル盤で、それですら €200オーバーというボッタクリ価格(>_<)  そういうワケでダーク・グリーン・レーベルは高嶺の花と諦めていた私は良い出物を求めてオレンジ・レーベルの出品欄をチェックしていたのだが、その €150盤はコンディション表記が VG/VGで、商品説明には SOME SURFACE MARKS BUT PLAY VERY WELL, COVER IS VG NO WRITTING, FIRST PRESS GREEN LABEL RARE とある。え?オレンジ・レーベルとちゃうの??? しかもグリーン・レーベルが €150ってホンマなん???
 全身の血が逆流しそうなぐらいコーフンした私はすぐに「注文する」をクリックし、心の中でガッツポーズ。あとはDiscogsからの請求書送信済みメールを待ってペイパルで支払いをすませれば万事OKだ。しかしそれから数時間たって送られてきたのは "Cancelled (Per Buyer's Request)" という無慈悲なタイトルのメールで、"Sorry the lp is out in my stock" というセラーのメッセージが添えられていたのだ。Discogs ではよくあることとは言え、 “在庫管理ぐらいちゃんとせぇよ、この糞フランス野郎!” という怒りのやり場もなく、歓喜のガッツポーズ(笑)からの激しい落差に思いっ切り落ち込んだ。
 しかしその3日後に偶然覗いた CD and LP.com に「Les Beatles」が元値 €180の20%オフ・セールで €144という “持ってけドロボー価格” で出ているのを発見、コンディションは VG/VG でコメント欄には “LABEL VERT” とある。VERT の意味が分からなかったのですぐに翻訳サイトで VERT を調べると、GREEN という答え。キタ━━━(゜∀゜)━━━!!! という感じで頭に血が上った私は即オーダー。捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことだ。
 良いことは重なるもので、発送からたったの5日でブツが到着。まさかそんなに早く届くとは夢にも思ってもいなかったので、パッケージに貼られた colissimo という文字を見て “フランスからLP届く予定あったっけ?” と訝しく思いながら中身を取り出すと、出てきたのはピカピカの「Les Beatles」オリジナル盤ではないか! しかもジャケットはラミネートの剥がれも無くスパインもめっちゃしっかりしていて、VGどころかどう見ても EXレベルの良コンディションだ。何よりも私がこのジャケットに魅かれるのはタイトル文字のオレンジ色がバックの黒色に対して実に綺麗に映えているところで(←黄色っぽいタイトル文字のジャケも見たことがあるが私はオレンジ・ヴァージョンの方が好き!)、それだけでも大枚を叩いた価値があるし、“Beatles” の B の文字がカブトムシの角を模して(←ナメクジみたいとか言っちゃダメ!)デフォルメされているのもオシャレでカッコイイ(^o^)丿
 盤の方は音に出そうな傷が数ヶ所あって “さすがにこっちはVGやな...” と恐る恐る針を落としたところ、信じられないことにほとんど音に出ず、何のストレスも感じずに両面聴き通すことが出来た。Visual Grading はVGだが Play Grading はごく普通の EX盤レベルという、いわゆるひとつの大ラッキー盤というヤツで、フランス盤らしい粗雑な(笑)モノラル・サウンドで初期ビートルズのロックンロールを楽しむことが出来た。やっぱりアナログ盤コレクターはやめられまへんな... (≧▽≦)
The Beatles - France LP Odeon OSX 222 - Les Beatles - With - Club - Worldwide - Long Play

Center Stage / Tommy Emmanuel ~超絶アコギで聴くビートルズ・メドレー~

2017-08-12 | Beatles Tribute
 前回取り上げたジプシー・ジャズ・スタイルによるビートルズ・カヴァーをYouTubeで色々と検索していた時に偶然凄い動画を見つけた。アコースティック・ギター1本でビートルズの名曲をメドレー形式でカヴァーしているのだが、とにかくその超絶テクニックが凄すぎてパソコンの画面に目が釘付けになってしまった。それがこの↓映像だ。
Tommy Emmanuel - Beatles Medley - While my guitar gently weeps


 恥ずかしながら私はこのトミー・エマニュエルというギタリストの名前すら知らなかった。ネットで調べてみると、この人はフィンガー・ピッキングを得意とするオーストラリアのギタリストで、2,000年のシドニー・オリンピック開会式でも演奏したとのこと。ジョージ・ハリスンにも多大な影響を与えたチェット・アトキンス御大から “間違いなくこの地球上で最高のギタリストの1人” と絶賛されたというからそのテクニックは折り紙つきだ。
 2013年にニューヨークのBBキング・ブルース・クラブで行われたこのライヴでもキレッキレのパフォーマンスを披露(≧▽≦)  この人が凄いのは信じられないような超絶プレイを実に楽しそうに、しかも楽々とやってのけてしまうところで、ギターを弾くだけでなく擦ったり叩いたりしてメロディー、コード、リズムを同時に鳴らしながらギター1本で演奏しているとは思えないような厚みのあるサウンドを生み出しているのだから観ている方はもう開いた口が塞がらない(゜o゜)
 ライヴ・パフォーマーとしてもピカイチで、その溢れんばかりの歌心と圧倒的な超絶技巧に熱狂するオーディエンスに触発されて更に凄いプレイを繰り出していくという好循環スパイラル。上の動画でも笑顔を絶やすことなくギターをまるで身体の一部であるかのように自在に操りながらほとんど手元も見ずにスーパープレイを連発、「デイ・トリッパー」のリードとベースの同時弾きなんて一体どーなってるねん???とツッコミを入れたくなるような神業だし、7分40秒あたりからギアを上げて一気呵成にたたみ掛けるところなんかもう言葉を失う凄まじさだ。1分08秒あたりでポン!とカポを外すしぐさもめちゃくちゃカッコ良くて、まさに生粋のエンターテイナーなんである。
 動画を見てこの人のアルバムを聴いてみたくなり早速ディスコグラフィーをチェックしたところ何と30枚近くの作品をリリースしていたのだが、CDのトラックリストを見てもほとんど知らない曲ばかり。この人の真骨頂はライヴにありそうなので、とりあえずこの「ビートルズ・メドレー」が入ったライヴ盤に絞って検索してみると「ライヴ・ワン」「センター・ステージ」「ライヴ・アット・ザ・ライマン」の3作品がヒット。ネットで「ビートルズ・メドレー」を比較試聴した結果、「センター・ステージ」のDVDを買うことにした。これは2007年10月にカリフォルニアのシエラ・ネバダ・ブルワリーで行われたライヴを収録したもので、上記2013年ライヴのメドレーに入っていた「シーズ・ア・ウーマン」と「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」が未収録なのがちょっと残念だが、3枚の中では「ヒア・カムズ・ザ・サン」で始まるメドレー・アレンジが一番気に入ったのでコレにした。
Tommy Emmanuel Beatles Medley @ UltraSharpAction com YouTube


 冒頭の“Put on your kneepads, put on your helmet, this is acoustic music in your face...”(ニーパッドとヘルメットのご準備を。それでは攻撃的なアコースティック・ミュージックをどーぞ!) というMCがすべてを物語るように、フィンガーピッキング・スタイルで音色の変化や緩急を自在につけながらアコギをバリバリ弾きまくるトミエマに圧倒される。特にアッパーな疾走系チューンで聴かせるドライヴ感はまさに “神ってる” と言っていいと思う。もちろん超速弾きだけでなくスローな曲も取り上げており、「上を向いて歩こう」や「朝日の当たる家」での魂のこもったプレイには涙ちょちょぎれるモンがある。優れた演奏家は “楽器を通して歌をうたう” とよく言われるが、とにかくギター1本でこれだけの音世界を表現できるのか...と驚倒させられた DVDだ。
TOMMY EMMANUEL : SUKIYAKI


 “ジプシー・ジャズでビートルズ” という思いつき(笑)とYouTubeという動画サイトがなければ多分その存在すら知ることはなかったであろうトミー・エマニュエル... 音楽を聴く醍醐味の一つは今回のようにお気に入りのアーティストを偶然見つける喜びにあるのだなぁとつくづく感じた。

【おまけ】オーストラリア出身だけあって何とあのAC/DCまでアコギで(←後半部はエレキだが...)カヴァーしてしまうトミエマ師匠! 兄のフィルとの共演だが、問答無用の超速弾きであのバリバリのハードロック「リフ・ラフ」を弾き切るトミエマ恐るべし!
Tommy & Phil Emmanuel - ACDC Medley Riff raff Let there be rock

ジプシー・ジャズで聴くビートルズ特集

2017-08-06 | Beatles Tribute
 この1年ほどビートルズの各国盤蒐集で忙しくて他ジャンルの音楽はあまり聴いていなかったが、最近になってそちらの方も一段落したので、この前の休みの日に “オール・マヌーシュ” と題して久しぶりに朝から晩までローゼンバーグ・トリオやビレリ・ラグレーンといったジプシー・ジャズ三昧をやってみた。う~ん... 久々に聴くあのザクザク刻むリズム・ギターの音はめっちゃ気持ちエエなぁ... (≧▽≦)  私が好んで聴くジャズは50年代のものがほとんどで最近の新譜には全く食指が動かないが、ジャンゴ・ラインハルト以来の古き良き伝統を頑なに守り続けるジプシー・ジャズに限っては新譜や新人をこれからもどんどん聴いていきたいと思っている。
 そんな “オール・マヌーシュ” をやった翌日のこと、リズム・ギターのザクザク音が脳内リフレイン状態の私はふと、“ビートルズをジプシー・ジャズ・スタイルでカヴァー、って今まで聴いたことがないけど、やっぱり無いんやろか?” と考えた。そこで仕事が超ヒマなのをこれ幸いと YouTubeで検索してみるといくつかヒットしたのだ。もちろん “何じゃいコレは???” というトホホなカヴァーもあったが、逆に“おぉコレは中々エエやん(^o^)丿” と快哉を叫びたくなるような秀逸カヴァーにもいくつか巡り逢えたのだ。そういうワケで、今回は “ジプシー・ジャズで聴くビートルズ” の特集だ。

①Honey Pie(その1) 
 まず驚かされたのがフレッド・アステアへのオマージュ的なポールの作品「ハニー・パイ」の異常なまでの人気ぶりである。選曲がもっと色んな曲にバラけるのかと思っていたら猫も杓子も「ハニー・パイ」なのだ。私のようなド素人には知る由もないが、この曲の中に潜む何かがマヌーシュ達を惹きつけるのかもしれない。
 そんな“マヌーシュ版”「ハニー・パイ」の中で気に入ったのがスウィング・ドゥ・ジタンというイスラエルのジプシー・ジャズ・トリオによるカヴァーだ。ギリギリと軋むような音を立てるアコベとザッザッと正確にリズムを刻むギターの絶妙な絡みぐあいが私の嗜好のスイートスポットを直撃。最後までこのまま行くのかなぁと思わせておいて2分48秒あたりでテンポを上げるアレンジもマヌーシュならではだ。この曲が入ったCD「Muza」をeBayで$9で見つけた時は嬉しかった。
Honey Pie


②Honey Pie(その2)
 上記のスウィング・ドゥ・ジタンと甲乙付け難い名演がエイドリアン・ホロヴァティの「ハニー・パイ」だ。ジプシー・ジャズが盛んな街、シカゴでブイブイいわしているアメリカン・マヌーシュ・シーン(?)の重鎮ギタリストだけあって、まさに王道を行くマヌーシュ・アレンジでポールの名曲を料理している。凄いのは独り二重奏でこれだけの作品に仕上げていることで、ノリ良し、センス良し、テクニック良しと、三拍子揃った名演になっている。
"Honey Pie" Beatles gypsy jazz guitar


③Girl
 ジプシー・ジャズの魅力の一つに曲の途中で一気にギアを上げるチェンジ・オブ・ペースの妙があるが、まるで絵に描いたようにそれを具現化した演奏がこの「ガール」だ。0分42秒からまるで鎖を解き放たれた犬のように猛然とスイングを開始、2分台に入って更なる緩急をつけ、トドメは2分38秒からの歌心溢れるギター・ソロ... 何の違和感も感じさせずに中期ビートルズ屈指の名曲をマヌーシュ化しているところが凄い。ジプシー・ジャズでは珍しいコーラスワークのアレンジも秀逸だ。
The Beatles - Girl (gypsy jazz version)


④Lady Madonna
 ブラディ・ウインテルステインがビレリ・ラグレーンの右腕として活躍している叔父のホノと組んだクインテットによるビートルズ・カヴァー。名手ホノのリズム・ギターに乗って気持ちよさそうにスイングするブラディの歌心溢れるソロが素晴らしい。マヌーシュ・バンドならではのヴァイオリンをも含めた、色んな楽器の音が混然一体となって大きなグルーヴを生み出しているところがめっちゃエエ感じ。アットホームな雰囲気の中ででワイワイやりながら音楽を楽しんでいる、といった按配の寛ぎに溢れた演奏だ。
Brady & Hono Winterstein Quintet - Lady Madonna (Gypsy Jazz)

More Get Back Session / The Beatles

2017-08-01 | The Beatles
 私のリスニングルームはごく普通の六畳間で、LP約1,800枚、シングル約1,200枚、そしてCD約1,500枚を並べた棚を天井近くまで積み上げた、それこそまるでレコ屋みたいな部屋の中で暮らしている。阪神淡路大震災の時はCDがドバーッと落ちてきてかなりヤバかったが、LPが増えた今となっては大きな揺れが来たら確実にレコードの下敷きになるだろう。そういえばレコスケ漫画で、寝てる時に地震でレコ棚が倒れてきた時に大好きなジョージのレコードで死ねるようにと「オール・シングス・マスト・パス」が頭に当たる位置に置くというお話があって(←レコスケの “危うくローラーズで死ぬところだったよ” には大笑いwww)、“頭に落ちてきて怪我するんやったら「ホワイト・アルバム」がエエかな...” などと考えていた私はあれを読んでレコスケに強く共感を覚えたのだが、いずれにせよ無精者の私にとって膨大な数のレコードの整理・収納ほどやっかいなことはない。
 この部屋に置いてあるのは自分がよく聴くレコードやCDで、あまり聴かない盤は容赦なく隣室行きになる。例えるならプロ野球の1軍と2軍みたいなものだ。私は月平均で大体20枚ぐらいのペースでレコードを買っているので、定期的にこの1軍と2軍の入れ替えを行っているが、特にこの1年間でビートルズの各国盤が激増したせいもあって配置換えの必要に迫られ、テプラで新たに国別のラベルを作り直して本格的にレコード棚の整理を行った。
 アーティストやジャンル別のラベルを貼って整理してある1軍の棚に比べ、隣室にある2軍の棚は整理が全然出来ておらず、どこに何があるのかサッパリ分からない。そんな、ミルト・バックナーとブームタウン・ラッツと石野真子が一緒くたに並んでいるというあまりにもカオスな状態の中で偶然目に留まったのが中学時代に買ったブートレッグLPたちで、ジャケットが “俺を聴いてくれ!” “いや、私を聴いて下さい!”と訴えかけてくるのである。忘れかけていたレコードを聴き直して新たな発見をするというのはこれまでに何度も経験しているので、私は久しぶりにブートのレコードでも聴いてみるか... と考え、「ゲット・バック・セッション」を1軍に連れ帰ることにした。
 このレコードは私が初めて買ったブートレッグで(←当時は「海賊盤」って呼んでた...)、DVDやブルーレイどころかビデオデッキすらまだ持っておらず、年に2~3回開かれていたフィルム・コンサートでしか「レット・イット・ビー」の映画を観れなかった私は、ガチのサウンドトラック盤として選曲・音質共に最高だったこのレコード(←「シネローグ」という完全収録版もあったが音質が悪くてとてもじゃないが聴く気になれない...)をそれこそ針が擦り切れるほど聴きまくったものだった。ブートに関しては便利なCD一辺倒になっていたこともあって、この「ゲット・バック・セッション」も2軍暮らしで不遇をかこっていたのだが、久々に1軍即スタメンという感じ(?)で早速聴いてみることにした。
 A①の「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」からA②「ベサメ・ムーチョ」、そしてドライヴ感溢れるA③「トゥー・オブ・アス」へと続く流れ... う~ん、この音といい、この曲順といい、ホンマに懐かしいわぁ...(^.^)  もちろんリマスターされたTMOQ盤「レット・イット・ビー・ザ・ムービー」の洗練されたサウンドに慣れた耳には古臭い音に聞こえるが、そのラウドで武骨なモノラル・サウンドには高音質なリマスター音源には無いレトロな味わいがあって、70年代ブートのレコードも結構やるやん!という感じ。それこそあの時代にフィルム・コンサートで聴いた懐かしい音そのものだ。
 そんなゴツゴツしたサウンドで聴くA④「ワン・アフター・909」やA⑤「シェイク・ラトル・アンド・ロール」、A⑥「ゲット・バック」といったロックンロール・ナンバーの迫力はこの盤でしか味わえないものだし、B①「ピアノ・ブギー」(←ジャケットには「ホール・ロッタ・シェイキン・ゴーイング・オン」と表記されているがどこをどう聴いても違うやろ...)の強烈無比なノリには思わず身体が揺れてしまう。B④「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」(←ジャケットには「ディグ・ア・ポニー」とあるがもちろん誤り)でのポールのシャウトもモノラルならではのギュッと凝縮された音の塊がスピーカーから飛び出してくる感じが実に気持ちイイ(^.^)
 B⑤「ポール・ラップス」はポールがジョンにライヴの必要性を説いているシーンを丸ごと収録したもので、買った当時は “何で音楽入れんと喋りなんか入れとんねん...” と不思議に思ったものだが、何度も聴くうちにポールが訥々とジョンに語りかけるそのリヴァプール訛りのイントネーションが耳に残るようになり、いつの間にか愛聴トラックになってしまった(笑) 本編映画ではこの喋りの後に「トゥー・オブ・アス」に続くのだが、私的にはアルバートホールがスベッたとかストラヴィンスキーがコロんだとかの話の後にこのレコードの曲順通りのB⑥「レット・イット・ビー」が流れるのが一番しっくりきてしまう。困ったものだ(笑)
 ということで両面併せてもわずか25分30秒というこのレコード、私の思い入れが大きいのかもしれないが、客観的に見ても映画「レット・イット・ビー」の“ベスト・オブ・ザ・ベスト”的な選曲とその秀逸な曲配置で、今でも十分傾聴に値する1枚ではないかと思う。こいつはずっと1軍に置いとこ。
MORE GET BACK SESSIONS The Beatles


【おまけ】B⑤「ポール・ラップス」を怒涛のワーディング。これで大体あってると思うけど、ポールの “you know” 乱発(約2分弱の間に何と17回も!)に、何とかジョンの共感を得ようとするポールの気持ちが見て取れた。
'Cause, you know, whenever we talk about it, we have certain rules... like George was saying. "What do you want to do?"... and he says, "No films," you know. But it's wrong, though. It's very wrong, though, because you don't know. He says... what he means is, "No Help! or Hard Day's Night," you know, and I agree, you know. But like, no films... 'cause this is a film... and he now doesn't mind this, you know. But it's like... it's that kind of thing... like no TV shows, no audience. But, I mean, see, it's like when we came back from Hamburg and did Leicester Du Montfort Hall, or wherever it was, Coventry, you know... we played the ballroom, and we had the worst first night then, and we were all nervous, and it was terrible. Then we played another the next night, and we got a little bit better... the next night... hmm... and then the next. It was just too much, and we got into the playing because we got over the hang-up of the audience, and it was just like there was no one there, but it was a ner... a new sort of thing, and there was some fella in the front watching how you were playing, you know. And you just... we were just right into it. And those would have been... if we could have recorded those things, you know, they would have been the greatest, 'cause it is... it's like Mal was saying, he said, "It's the bounce thing," you know. And we're good at that, you know, once we get over the nervousness. But it's like, it's the hurdle of that nervousness is there now. So that... you know, we're... we can't get over it now, unless... well, you know, unless we really sort of, like, go to the Albert Hall and get in a black bag, you know. See, and then the only other alternative to that is to say, well, we don't... we will never do it to an audience again, you know. But if we... if we intend to... to keep any kind of contact on that scene... Yeah I do understand George's just saying, "There's no point," you know, 'cause it's like it is... it is like we're Stravinsky, and it's in the music, you know. And he doesn't sort of get up and play his Joanna for them any more, you know.
【対訳:Let It Be J Edition より】
だって俺たちは何か決める時は合議制っていうのが原則だからさ。だからジョージに訊いたんだよ。「お前はどうしたいんだい?」ってさ。そしたら「映画は絶対にイヤだ」ってさ。でもそれは大間違いだと思わないかい?だってやってみなきゃわからないだろ?彼は「HELP やHARD DAY'S NIGHTはウンザリだ」って思っているんだよ。それは俺だって同じ意見さ。だからって映画そのものを全否定されてもね。実際今だって撮影してるじゃん。でもジョージは全然気にしてないだろ?多分こういうことだと思うんだ...「テレビには出ない!客の前にも出たくない!」でもさ、俺たちハンブルグから戻った時にレスターでライヴやっただろ?レイセスターデモントフォートホールでさ。あとコベントリーとか色々さ。でっかいダンスホールのギグでアガっちゃって、初日のライヴは最悪の出来だったよな。それで次の日にまたライヴがあってさ。ちょっとはマシになった。その次またその次ってやっていくうちにどんどん良くなっていっただろ?しまいにゃ最高のライヴが出来るようになった。観客のプレッシャーを乗り越えたんだ。観客にビビらなくなったのさ。そして俺たちのプレイを真剣に聴いてくれるファンが増えてきた時だって、そういうファンを満足させるくらいの技量を身につけたんだ。当時のそういう状況をだよ... もしあの時ちゃんと記録しておいたらビートルズの最高傑作になっただろうな。だってマルも言ってたんだぜ...「あの頃のライヴは最高にハジけてた!」ってさ。そうさ、俺たちは確かに最高だった。ステージでビビらなくなった俺たちにはもう怖いモンなんてなかったんだ。でも一方でさ... “ビビりのハードル”の高さはあの頃よりも上がっていると思うよ。だからさ... 今の俺たちに“人前での演奏にビビるな”って言われても無理だってことは分かってるさ。でも、だからってさ、アルバートホールのステージに立って客にこう言えるかい?「僕たち人前が苦手なんでメンバーそれぞれ黒い袋に入って演奏しま~す」ってさ。な?あとはもう宣言するしかないだろ?「もう絶対にコンサートはやりません!」ってさ。だけど、もし何らかの接点をファンと持ち続けたいと思うならさ... 何かをしなくちゃ。俺はね、「ライヴなんて意味ねぇぜ」っていうジョージの意見も理解してるつもりさ。それは例えばストラヴィンスキーみたいに活動するのも一つの方法だっていう意味でね。作曲や音楽の制作に専念してさ... ステージに復帰してジョアンナを観客の前で演奏することは二度とないっていうスタンスさ。