shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

魔女の宅急便

2012-03-30 | TV, 映画, サントラ etc
 先日新しい勤務先に挨拶に行ってきた。調書を書いた後でそこの所長との顔合わせがあり色々と話を聞かされたのだが、この所長、物事の考え方がめっちゃ堅苦しくってまるで霞が関の官僚そのもの。職員の管理も厳しそうだ。アンタはロボット長官か! ハッキリ言って一番嫌いなタイプの人間である。私はこれまで数回転勤を経験しているが、こんなにネガティヴなファースト・インプレッションは初めてだ。たとえ遠くてもこれなら前の職場の方がずっとお気楽で良かったなぁ。まぁ所長は超ウザいが、一緒に働くことになる同僚の方々がどうか良い人達でありますように...
 そんなこんなで結構ブルーな気分で仕事の引き継ぎや荷物の整理に追われた1週間だったが、凹んでいる私を見かねたのか、昨日仲良しの同僚 O ちゃんがプレゼントだと言って大きな袋を持ってきた。開けてみると何とジブリ映画「魔女の宅急便」に出てきた私の大好きな黒猫キャラ “ジジ” のぬいぐるみではないか! 私はジブリ・キャラの中でも特にトトロとジジが大好きで、それを覚えていて元気づけようとしてくれた彼女の気配りに大感激(≧▽≦) “持つべきものは友” とはよくぞ言ったものだ。この感謝の気持ちをブログにも刻み込んでおきたいので、今日は「魔女の宅急便」にしよう。
 私は2年前まではジブリといえば「となりのトトロ」しか知らないトーシローだったのだが、そんな私に他のジブリ映画も見るように勧めてくれたのが他でもない O ちゃんだった。もし彼女がいなかったら私は今も「ナウシカ」や「ラピュタ」、「千と千尋」の素晴らしさを知らずに生きていたかもしれないし、「魔女宅」のジジにハマることもなかっただろう。しかも映画を体験して音楽と映像がリンクすることによって楽曲のイメージがより鮮明になり、オリジナル・サントラだけでなく様々なジブリ・カヴァー・アルバムの楽しみも大きく広がった。そういう意味で、私を本格的にジブリの世界に引き込んでくれた彼女にはいくら感謝しても足りない。
 映画「魔女の宅急便」のサントラ盤であるこのアルバムには久石譲氏によるオリジナル・スコア19曲と、挿入歌として使われたユーミンの2曲が収録されている。久石オリジナルでは何と言っても③「海の見える午後」が圧倒的に素晴らしい!!! その哀愁舞い散る旋律の美しさはまさに絶品で、天才的なメロディー・メーカーとして数々の名曲を生み出してきた久石譲氏の作品中でも屈指の名曲と言っていいと思う。③以外ではラグライム風なアレンジが剽軽な雰囲気を出していて面白い⑦「身代りジジ」やダイナミックなオーケストレイションで盛り上がる⑱「おじいさんのデッキブラシ」が気に入っている。
 ユーミンの2曲は共に今更何の説明も不要な邦楽史上屈指の大名曲。⑳「ルージュの伝言」は1975年にリリースされたユーミン5枚目のシングルで、私なんかドラムスによるフェイド・インから始まるイントロを聴いただけでテンションが急上昇! 弾けるようなキーボードが演出するウキウキワクワク感に満ちた軽快なノリで一気呵成に突っ走るところが最高で、晴れた日のドライヴのBGMなんかにもピッタリだろう。山下達郎、大貫妙子、吉田美奈子、伊集加代子という超豪華な顔ぶれのバック・コーラスも圧巻だ。
 (21)「やさしさに包まれたなら」は1974年にリリースされたユーミン3枚目のシングルで、この曲にはシングルとアルバムの2つのヴァージョンが存在する。映画で使われたのはアコースティック・ギターのクリスプなリズム・カッティングとアルペジオが実に爽やかな味を出しているアルバム・ヴァージョンの方で、シングル・ヴァージョンよりもやや速めのテンポ設定が功を奏して名曲度が更にアップした感じ。ペダルスティール・ギターがカントリー・フレーバーを添えているところも◎だ。
 この曲は歌詞が又素晴らしく、 “小さい頃は神さまがいて 毎日愛を届けてくれた~♪” のラインなんかたまらなく好きだし、 “やさしさに包まれたなら 目に映る全てのことはメッセージ♪” なんてめっちゃ深い。そんな歌詞とユーミンのハートウォーミングなヴォーカルが絶妙にマッチして、心にポッと灯がともるような癒し系ナンバーに仕上がっているのだ。凹んでいる時でもこの曲を聴くと頑張れそうな気になってくるから音楽って素晴らしい。よっしゃ、4月からも頑張るぞー(^o^)丿  O ちゃん、ホンマにありがとうね。

魔女宅詰め合わせ: ルージュの伝言 ~ 海の見える午後 ~ やさしさに包まれたなら


松任谷由美 with All Stars ~ やさしさに包まれたなら
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仮面の忍者赤影・ミュージックファイル

2012-03-25 | TV, 映画, サントラ etc
 一昨日、転勤の内示を受けた。この2年間というもの、ひたすら遠距離通勤に耐えてきたのだが、やっとのことで北部に復帰だ。これで一車線の追い越し禁止道路をどんくさいダンプカーの後ろでイライラしながら走らされる悪夢から解放されると思うとヤレヤレなのだが、その一方で、仲良くなった同僚たちとの別れはやはりツライものがある(>_<) サムがオーストラリアに帰ってしまった後は音楽の話が出来る友人はいなくなってしまったが、一緒に仕事をする人たちには恵まれていて、特に私と息もピッタリでこれまで組んだ中で最高の相棒だった A ちゃんや、パソコンで私がトラブるたびに助けてくれた ITマイスターの I さん、そして同時期に北部から飛ばされてきて一緒に頑張ってきた O ちゃんとはいつもつるんでいたので、この3人に会えなくなるのが何よりも淋しい。
 そう言えばつい先日も私が所属する部署の年度末の打ち上げがあって非常に楽しいひと時を過ごせたのだが、宴の半ばあたりから話題が私の大好きな “昭和” の思い出話になり、自分より年上の人達とは西田佐知子やいしだあゆみといった昭和歌謡ネタで、同年代の人達とは当時のテレビ番組ネタで大いに盛り上がった。中でも予想以上に大きな反応があったのが「仮面の忍者赤影」ネタで、私が親指を鼻に当ててクリッとやりながら青影の “だいじょ~ぶ” で口火を切ると、ほぼ反応ゼロに等しい女性陣にはお構いなしに(笑)エエ齢したオッサンたちが大騒ぎ... 白影の “あかかげどのーーーッ!” やら甲賀幻妖斎の “あ か か げ ぇ ~” といったモノマネが飛び交うという実にオモロイ宴会だった (^.^)
 この「仮面の忍者 赤影」は私が子供の頃に見ていた忍者モノの特撮時代劇で、戦国時代という設定にもかかわらず、空飛ぶ円盤を始めとするハイテク兵器はガンガン登場するわ、巨大ロボットやら怪獣やらが大暴れするわという何でもアリのハチャメチャ感が面白かった。
 赤影役の坂口祐三郎さんは文字通り “涼しい目” をしたイケメン俳優で(←当時の役者さんって今とは違って美男美女率が異常に高い...)例の “赤影参上” の登場シーンなんかめちゃくちゃカッコ良かったし、青影の “だいじょ~ぶ” のモノマネも仲間内で流行っていた。しかし何よりも一番よく覚えているのは白影の登場シーンで、凧に乗って現れる時に何故いつもサイレンが鳴るのかが子供心にず~っと気になっていた(笑)
 あと、印象に残っているのが敵役の甲賀幻妖斎に扮した天津敏さんの名演技で、第一部金目教篇と第二部卍党篇ではビビりながらもその圧倒的な存在感に魅かれて毎週テレビに釘付けになっていた。第三部根来篇では京の町で暴れる巨大カブトムシと大ムカデの闘いのシーンがインパクト大だったし、第四部の魔風篇では雷丸に扮した汐路章さんのコミカルな演技が大好きだった。
 それと、番組の冒頭で毎回流れたオープニング・ナレーションも忘れられない。もちろんまだ子供だったので “豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃...” とか “悪大将 夕里弾正の反乱を知った織田信長は...” とか言われても私には何のこっちゃだったが、オープニングの「忍者マーチ」はこのナレーションの名調子に導かれるように始まらないとしっくりこない。その辺はちょうど「大江戸捜査網」に “隠密同心、それは...” で始まるナレーションが不可欠なのと同じである。
 とまぁこのように役者の演技もオープニング・ナレーションも印象的だった「赤影」だが、それにも増して素晴らしかったのが劇中で使われていた音楽だ。中でも私が好きなのが戦闘シーンでよく流れていた「白影のテーマ」で(←なぜか白影の立ち回りよりも赤影の空中戦の時に多用されていた記憶があるが...)、これほどアグレッシヴでポジティヴな高揚感に満ち溢れた曲はそうざらには無いだろう。とにかくその血湧き肉躍るような曲想といい、ワクワクするようなホーンセクションのユニゾンといい、絶妙なタイミングで炸裂するスネアのリムショットといい、単なる “子供向け特撮番組の挿入曲” として片付けてしまっては勿体ない名曲名演だ。ドライブのお供にもピッタリなので、車好きの方は是非とも高速コーナリング時の BGM としてご活用下さい。アクセルペダルを踏む右足に思わず力が入ること請け合いです。一般車スラロームにも超オススメ(^o^)丿
 「赤影のテーマ」も忘れてはいけない。もちろん歌入りヴァージョンも懐かしくてエエのだが、この曲は何と言ってもインスト・ヴァージョンが絶品で、歌が入っていない分余計に躍動感溢れるブラス・バンド・サウンドが際立っていてめちゃくちゃカッコイイのだ。先の「白影のテーマ」もそうだが是非とも大きなコンサート・ホールで、本格的なビッグ・バンドによる大迫力の演奏で聴いてみたいと思わせる珠玉の名曲だ。
 この「仮面の忍者赤影・ミュージックファイル」には、ここに挙げた “赤影三大名曲” を始め、このシリーズの音楽全般を手掛けた小川寛興氏の名スコア・名アレンジがいっぱい詰まっており、特にバス・フルートの独奏による「赤影のテーマ」なんかもう鳥肌モノの素晴らしさだし、ユーモラスな「青影のテーマ」も様々なヴァリエーションで楽しませてくれる。私と同世代の赤影マニアはもちろんのこと、オリジナル・サウンドトラックという概念を超えた昭和メロディーの名曲集として、リアルタイムで赤影を知らない世代の人でも楽しめそうな逸品だ。それにしても1960年代後半から1970年代前半にかけてのテレビ主題歌やコマソンってホンマに曲のクオリティーが高いなぁ...(≧▽≦)

白影のテーマ


赤影のテーマ


仮面の忍者赤影OP(ナレーション入り)
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Kisses On The Bottom / Paul McCartney (Pt. 2)

2012-03-22 | Paul McCartney
 このアルバムで初めて知った曲の中では⑩「マイ・ヴェリー・グッド・フレンド・ザ・ミルクマン」がお気に入り。古くはストライド・ピアノの名手ファッツ・ウォーラーが、最近ではクラプトンがカヴァーしているらしいのだが、ここでは①⑥と並ぶ軽快なナンバーに仕上がっており、ジェフ・ハミルトンとジョン・クレイトンのリズム隊が生み出す絶妙なスイング感がめっちゃ気持ちいい。アイラ・ネーパスのひなびたトロンボーンがこれまた実にエエ味を出しているし、アンソニー・ウィルソンのツボを心得たギター・プレイも聴き所。基本的にはバラッド色の濃いアルバムなので、①⑥やこの⑩といったミディアム・スイング・ナンバーがアルバムの絶妙なアクセントになっており、次はアップ・テンポでノリノリにスイングするポールを聴いてみたい... そんな気にさせる名演だ。
 ⑫「ゲット・ユアセルフ・アナザー・フール」もめっちゃ好き(^o^)丿 この曲の聴き所は何といってもエリック・クラプトンのブルージーなギターに尽きるだろう。最近の枯れ果てた老木みたいなイメージの(←失礼!)クラプトンとは別人のような渋くてカッコ良いソロだ。そんなクラプトンに絡んでいく剛力ベースは何とあのクリスチャン・マクブライド! もう何も言うことありません(≧▽≦)  そんなバックの名演に支えられたポールの歌声もリラクセイションに溢れており、私にとってこのアルバム中最高の掘り出し物がこのトラックだった。
 未知の曲の中で、残りの④「モア・アイ・キャノット・シー・ユー」、⑥「ウィー・スリー」、⑨「オールウェイズ」の3曲は演奏レベルは相変わらず高いのだが、如何せんメロディーが薄口すぎて私にはイマイチ。ジャズでもロックでも音楽のジャンルを問わず、思わず口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディーこそが何よりも大切だ。
 ポールのオリジナル3曲の中ではやはり⑧「マイ・ヴァレンタイン」が出色の出来。タイトルは超有名スタンダード曲の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」と間違えそうだが、あの地味な旋律の一体どこがエエのかよく分からない「マイ・ファニー...」なんかよりもポールの「マイ・ヴァレンタイン」の方が遥かにメロディアスで心に残るナンバーだ。この哀愁舞い散る曲想と品格滴り落ちるクラプトンのギターの組み合わせはヘタなスタンダード曲も裸足で逃げ出す素晴らしさで、ビートルズ時代から数々の名曲を生み出してきた “20世紀最高のメロディー・メイカー” ポールが2012年の今もなお健在なのがファンとしては何よりも嬉しい。
 ⑭「オンリー・アワ・ハーツ」は⑧に比べるとやや凡庸な曲だが、ゴージャスなストリングス・アレンジとスティーヴィー・ワンダーの参加がポイントか。特に一聴してそれと分かるスティーヴィーのハーモニカはもう人間国宝級の名人芸と言っていいだろう。
 1979年リリースのアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」のラストで異彩を放っていたジャジーなナンバー⑮「ベイビーズ・リクエスト」の再録がポールのジャズ・スタンダード・アルバムに入ると聞いて気になっていたポール・ファンは私だけではないだろう。この曲は元々ポールがミルス・ブラザーズのために書いたものだが、レコーディングの話がポシャッてしまい結局はウイングスのアルバムに入れられたという曰く付きのナンバーで、オリジナルの演奏は当然ウイングス。今回のセルフ・カヴァーは何と言ってもバリバリのジャズ・ミュージシャン達による演奏なので一体どんなヴァージョンに仕上がっているのか大いに楽しみだった。
 で、聴き比べた結果なのだが、私としては僅差でオリジナル・ヴァージョンに軍配を上げたい。やはりポールの歌声に張りがあるし、リンダのあのヘタウマ・バック・コーラスが無いと何かしっくりこないのだ。この2012年ヴァージョンの方はバックのコーラスが何か味気ないし、エンディングのアレンジも、シンプルにまとめたオリジナル・ヴァージョンの方が曲の余韻に浸れてメロウな曲想にバッチリ合っているように思う。ただ、ダイアナのピアノとリギンスのブラッシュ、そしてアイラ・ネーパスの歌心溢れるトロンボーン・ソロはさすがの一言。このアルバムで聴ける個人技の水準は異常なほど高い。
 今年でビートルズのデビューからちょうど50年、つまり半世紀の長きにわたって素晴らしい音楽を作り続けて私たちを楽しませてくれるポール・マッカートニー... この人と同時代を生きることが出来て本当に幸せだ。

下に貼り付けたのは我がブロ友 shoppgirl姐さんが作られた動画です。静止画像しか使えない ITド素人の私にとってはまるで魔法のような編集テクニック(゜o゜) エンディングで画面左下に出る “訳詞 shoppgirl” が超カッコイイし、shoppgirljapan っていう IDネームも洒落てますね。でも japan があるってことは shoppgirl-USA や shoppgirl-RUSSIA なんかもあるのだろうか... YouTube動画に仕込んだサブリミナル効果で密かに世界制覇を狙ってたりして... あぁおそロシア(>_<)
Paul McCartney / My Valentine

Kisses On The Bottom / Paul McCartney (Pt. 1)

2012-03-19 | Paul McCartney
 ポールのニュー・アルバム「Kisses On The Bottom」がリリースされてから約1ヶ月が経った。ロック/ポップスのシンガーがジャズのスタンダード・ナンバーを歌うというのは何も珍しいことではなく、リンロンのネルソン・リドル三部作やロッド・スチュワートの「グレイト・アメリカン・ソングブック」シリーズ、シーナ・イーストン、カーリー・サイモンと挙げていけばキリが無いが、今回は何と言っても天下のポール・マッカートニーである。例えるならミハエル・シューマッハがモンテカルロ・ラリーやインディ500に参戦するようなもの。当然世間の注目度も段違いで、ビートルズ・ファンだけでなく、普段はロック・ポップスに縁の無さそうなジャズ・ファンをも巻き込んで賛否両論渦巻きそうだ。
 このアルバム、ひょっとするとロック・ファンからすれば “刺激が無くてつまんない” と感じられるかもしれないし、頭の固いジャズ・ファンからは “金持ちロック・スターの道楽” という色メガネで見られそうだが、私は “スタンダード・ナンバーも大好きなビートルズ・ファン” という希少な存在で(笑)、当然ながらこういうアルバムは大歓迎。取り上げるアーティストの音楽的センスが如実に表れるスタンダード・ナンバーの醍醐味は何と言ってもその聴き比べにあるので、あのポールがスタンダード・ナンバーをどう料理するのか興味津々だった。
 まずはアルバム1曲目を飾る①「手紙でも書こう」、いきなりブラッシュがスルスルと滑り込んできてベースがブルンブルンとアコースティック楽器ならではの音を響かせるという理想的な展開のイントロに続いてポールが歌い出す。肩の力の抜けたポールの歌声にダイアナ・クラールの絶妙な “間” を活かしたピアノが絡んでいく瞬間なんかもう最高(^o^)丿 とにかくポールが粋にスイングするこの1曲目だけでもアルバムを買う価値があるというものだ。
 アラン・ブロードベント指揮によるロンドン・シンフォニー・オーケストラの演奏をバックにポールが歌う②「ホーム(ホエン・シャドウズ・フォール)」は曲想を見事に表現したリラクセイション溢れるムードがたまらない。ポールの言う “仕事が終わって家に帰り、ワインやティーを片手に寛いで聴くアルバム” というのが実感できるトラックだ。要所要所でシュパッ!と炸裂するブラッシュがたまりません(≧▽≦)
 ③「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」は私の大好きな曲なので期待が大きすぎたのかもしれないが、残念ながらコレはイマイチ。演奏はバリバリの40年代風ジャズなのだが、ポールのヴォーカルがどことなく無理して歌っているように聞こえてしまうのだ。他のトラックが素晴らしいだけに余計にそう感じるのかもしれないが...
 弦に絡みつくかのようにブルンブルンと心地よい音を響かせるジョン・クレイトンのベースのイントロに耳が吸い付く⑤「ザ・グローリー・オブ・ラヴ」では失速寸前のスロー・テンポで歌うポールのヴォーカルがめっちゃエエ感じ。ダイアナのピアノは相変わらず絶品だし、名手ジェフ・ハミルトンの瀟洒なブラッシュも存分に楽しめて言うことなし。途中でギターが「夢見る頃を過ぎても」のフレーズをさりげなく織り込むあたりもめっちゃ洒落ててカッコエエわ(^.^)
 スロー・バラッドが続いた後でそろそろアップ・テンポの曲が欲しいなぁというこちらの気持ちを見透かしたかのような位置に収められているのがポールが軽やかにスイングする⑥「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」だ。このアルバムでは曲によってドラマーを使い分けているが、①と同様にこの曲でも見事なブラッシュ・ワークを聴かせているのはダイアナ・クラール・カルテットの一員であるカリエム・リギンス。ブラッシュ好きの私にはたまらん展開だ。弾き語りが本職のダイアナ姐さんのソロはこの曲でも際立っており、彼女の歌伴の巧さが存分に味わえるトラックに仕上がっている。
 ⑪「バイ・バイ・ブラックバード」でも②と同じくウィズ・ストリングスのお手本のようなアレンジのオーケストラをバックにハートウォーミングな歌声を聴かせるポールと、レッド・ガーランド顔負けのブロック・コードでお洒落な雰囲気を盛り上げるダイアナ姐が素晴らしい。かつてメリー・ホプキンにも歌わせたくらいのポールのお気に入り曲⑬「ザ・インチワーム」も同様で、シンプルなメロディーを愛でるように歌うポールのヴォーカルに思わず聴き入ってしまう。ポールのフランク・レッサーへのリスペクトがよく分かる名唱だ。
 UK盤デラックス・エディションのみに収録のボートラ⑯「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」ではブラッシュ音の洪水の中から聞こえてくるポールの優しげな語り口がめっちゃスイート。ポールが歌う歌詞の一言一言から新妻ナンシーさんへの愛情がヒシヒシと伝わってくる甘口ラヴ・ソングだ。銭ゲバ地雷女と別れてやっとのことで心の平穏を得たポールにとって、この選曲は必然と言えるものだろう。 (つづく)

Paul McCartney - iTunes Webcast 2012 Live - HD 1080p - Complete

マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ / ドリス・デイ

2012-03-15 | Standard Songs
 2月の半ばから約1ヶ月にわたって続けてきた “ポールのスタンダード特集” も今日で最終回。通常盤に入っている中で特集可能な曲はすべてやり尽くしたので、今日は16曲入りのUK盤に収録されていたボーナス・トラックの1曲、「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」でいこう。
 この曲はロシアのクラシック作曲家アントン・ルビンシュタインという人の「ロマンス」という曲にインスパイアされて1953年にロバート・メリンが作詞、ガイ・ウッドが作曲した美しいラヴ・ソング。 “あなたを想うだけで私の心は歌い出す... あなたの手が触れただけでまるで天国にいるような気分... あなたへの想いで胸が一杯... あなたのキスの一つ一つが私の心に火をつける... 私は喜んですべてを捧げよう... 私のただ一人の愛しい人よ” という激甘な歌詞からも、ポールのナンシーさんへの熱い想いがヒシヒシと伝わってくる選曲だ。
 スタンダード・ナンバーとしての人気・知名度はまさにA級と言ってよく、ヴォーカル物では最初にレコーディングしたフランク・シナトラ(1953)を皮切りに、ジョニ・ジェイムズ(1955)、リタ・ライス(1955)、ジョー・ムーニー(1957)、リタ・ローザ(1957)、ジューン・クリスティ(1958)、ディオン(1961)、バリー・シスターズ(1961)、エラ・フィッツジェラルド(1962)、ジョニー・ハートマン(1963)、キャロル・スローン(1982)、リッキー・リー・ジョーンズ(1991)、ジャネット・サイデル(1998)、ロッド・スチュワート(2005)、ソフィー・ミルマン(2009)と挙げていけばキリが無い。まるでこの曲の美しいメロディーに魅せられたかのように我も我もと吹き込んでいるのだ。
 インスト物ではサックス、ピアノ、ギターに集中していて、ビリー・テイラー(1953)、アート・テイタム&ベン・ウェブスター(1956)、リッチー・カミューカ(1957)、ペッパー・アダムス(1957)、コールマン・ホーキンス(1958)、グラント・グリーン(1961)、オスカー・ピーターソン(1964)、ウェス・モンゴメリー(1965)、ケニー・バレル(1980)、アリ・リャーソン(2007)らの演奏があり、ジプシー・ジャズ系でもロマーヌ(2003)、イズマエル・ラインハルト(2006)、スウィング・アムール(2006)、ビレリ・ラグレーン(2008)とまさに引っ張りだこ状態である。ドラマチックな歌詞と美しいメロディー・ラインを持ったこのバラッド曲はある意味ごまかしがきかないというか、シンガー/プレイヤーとしての力量が試されるところがあり、そういう意味でも色々なアーティストを聴き比べて楽しめる1曲と言える。
 このように多くのアーティスト達が取り上げている中、ヴォーカルではシナトラかハートマン、インストはテイタム&ウェブスターがこの曲の決定版というのが一般的な世評だろう。確かにそのどれもが “王道” という言葉がふさわしい名唱・名演だとは思うが、ここでは敢えて shiotch7認定 “裏名演” 3ヴァージョンをピックアップしてみた。

①Doris Day
 元々この曲の歌詞は男性の立場で歌うように書かれたものだが(←“君は僕の腕の中”とか、“君は頬を赤く染める”とか...)、あまりの名曲故か、上に挙げたように女性シンガーもよく歌っており、そんな中でも一番気に入っているのがドリス・デイのヴァージョンだ。アンドレ・プレビン・トリオの伴奏でドリス・デイのヴォーカルが楽しめるジャジーなアルバム「デュエット」(1962年)に入っていたもので、彼女のほのかな色香の薫るハスキーな歌声と歌伴マイスターであるプレビンのツボを心得たピアノの相性もバッチリだ。甘い曲想をキリリと引き締めるレッド・ミッチェルの重低音ベースが絶妙な隠し味として効いており、文句なしの名演と言っていいだろう。ポピュラー・ソング、映画主題歌、そしてジャズのスタンダード・ナンバーと、どんな曲を歌っても彼女は決して期待を裏切らない。まさに “ドリス・デイに駄盤なし” だ。
Doris Day and Andre Previn My One and Only Love


②Benny Carter
 この曲のテナー・サックスによる決定版が「テイタム・ウェブスター」ならアルトはコレ! 1954年にリリースされた「ベニー・カーター・プレイズ・プリティ」というデヴィッド・ストーン・マーチンによるイラスト・ジャケで有名な10インチ盤に入っていたもので、ラヴ・ソングばかりを集めてカーターのメロウで芳醇なアルトの音色で楽しめるという悦楽盤だ。後に12インチ盤「ムーングロウ」として再発されているが、美女が佇むそっちのジャケも雰囲気抜群で甲乙付け難い。演奏の方も素晴らしく、豊かな歌心でロマンチックなメロディーを朗々と歌い上げるカーターの優美で流麗なソロがこの曲の素晴らしさを極限まで引き出している。大切な人と特別な時間を共有したい時の BGM にピッタリの名演だ。
Benny Carter - My One And Only Love


③キヨシ小林
 この曲は原曲のメロディーを崩さずにスロー・テンポのバラッドとしてしっとりと歌い上げるのが定石だが、そんなバラッドの名曲をジャンゴ・スタイルで見事にスイングさせているのが日本が世界に誇るマヌーシュ・ギタリスト、キヨシ小林のこのヴァージョン。アルバム「ジャンゴ・スウィング」には「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」のスロー・ヴァージョンとこのアップテンポ・ヴァージョンが2曲続けて収められており、本人の曲目メモによると、 “ここでは欲張ってスローとハイテンポでレコーディングしちゃいました。” とのことだが、テンポを上げてスイングさせるという発想そのものが素晴らしい。特に後者のザクザクと刻むギター2本とベース1本のトリオ演奏という最小限のユニットが放つ絶妙なスイング感がたまらなく耳に心地良い。やっぱりジプシー・ギターはエエなぁ... (≧▽≦)
キヨシ・コバヤシ
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アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ / ペギー・リー

2012-03-11 | Standard Songs
 それまでノーマークだった曲が何らかのきっかけで愛聴曲になることが私にはよくあるのだが、今回のポールのアルバムを聴いて改めてその良さが分かった曲が「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」である。ポールがミディアム・テンポで軽やかにスイングするこの曲は、スロー・バラッド中心の「Kisses On The Bottom」の中でひときわ輝きを放っており、曲自体は知っていたもののそれまで特に気にもせずにスルーしていた私はあわてて手持ちの CD やレコードを再チェックした。
 それにしても曲名の “Ac-Cent-Tchu-Ate” っていう単語、ハイフン3連結で初めて見た時は何のこっちゃ?と思ったのだが、よくよく考えてみると accent(アクセント、つまり強調)に -ate (~する)を足して動詞化した accentuate が口語的発音で Ac-Cent-Tchu-Ate と訛ったもののようで、直訳すれば “ポジティヴなことを強調しなさい” ということ。面白そうなので調べてみると、この曲を作詞したジョニー・マーサーがある神父さんのお説教を聞いて、その中に出てきた “You've got to accentuate the positive and eliminate the negative.”(ポジティヴなことは強調して、ネガティヴなことは取り除いてしまいなさい...)というフレーズが気に入ったのがきっかけだったという。
 後日、コンビを組んでいるハロルド・アーレンが口ずさんだメロディーに合うように “Ac-Cent-...” とハイフンを入れてブツ切りにし、 “Latch on to the affirmative, don't mess with Mr. In-Between”(しっかりと前向きに行こう、中途半端に迷っちゃダメだよ...)や “You've got to spread joy up to the maximum, bring gloom down to the minimum”(喜びは最大限にまで高めて、悲しみは最小限に抑えよう...)といった名フレーズを加えて曲を完成させたとのことだが、悩んだり苦しんだりしている人々を励ますような歌詞が軽やかなメロディーとバッチリ合っていて、思わず鼻歌で歌いたくなるキャッチーなナンバーだ。今日でちょうどあの悪夢のような震災から1年が経つが、どん底からの復興を目指す我々日本人にとってもまさにピッタリな内容の歌と言えるだろう。
 レコードでは1944年にマーサーがパイド・パイパーズと共に吹き込んだ盤が大ヒット。それを見て他の大物アーティストたちも次々とこの曲をカヴァー、1945年だけでもビング・クロスビー&アンドリュース・シスターズ、ケイ・スター、アーティー・ショウのリリース・ラッシュとなり、中でもクロスビー盤は2位まで上がるヒットになったというからこの曲のパワーは絶大だ。
 手持ちのヴォーカル盤ではペギー・リー、サム・クック、ビング・クロスビー&アンドリュース・シスターズが私的トップ3。私の好きなコニー・エヴィンソンやジョー・デリーズなんかも歌ってはいるのだが、どちらもアレンジをこねくり回し過ぎていて残念ながら全然楽しめない。今回ブログで取り上げるにあたって色々聴き比べてみて、この曲は策を弄せずストレートに歌ったものがベストというのが結論だ。尚、インスト物ではオスカー・ピーターソンのソングブック・シリーズの歌心溢れるヴァージョンが断トツに素晴らしいと思う。

①Peggy Lee
 1950年代の初め頃というのはラジオの全盛期で、多くのラジオ・トランスクリプション音源が残っているが、コレは1952年にペギー・リーが「ペギー・リー・ショー」というラジオ番組用にレコーディングしたもので、 Riff City という怪しげなレーベルから出たCD 「イッツ・ア・グッド・デイ」に収録されている。彼女が第1期キャピトル時代にレコーディングした膨大な音源で正式にレコード化されたのはLP「ランデヴー・ウィズ・ペギー・リー」で聴ける12曲だけなので、この時期の彼女の歌声が聴けるという意味でも非常に貴重な1枚だ。この曲では出だしの “ア~クセン♪” と伸ばしておいてスパッと切るところからもうペギー・リー・ワールド全開で、言葉と言葉の間の余韻を活かしたその唯一無比の歌唱法が原曲の軽やかな旋律と見事にマッチ、まるで彼女のオリジナル曲のように耳に響く。その歌声、節回し、スイング感... どれを取ってもまさにザ・ワン・アンド・オンリーだ。
Peggy Lee: Ac-cent-tchu-ate The Positive (Arlen) - Recorded ca. September 16, 1952


②Sam Cooke
 今から10年前、私は自分で直接海外からレコードを買うために不慣れなパソコンを購入して eBay オークションを始めた。おかげでオイシイ思いを一杯したが、特に嬉しかったのが 60’sオールディーズのオリジナル盤が数ドルでガンガン買えたことで、大抵の盤は送料込みでも2,000円前後で手に入れることが出来た。しかし中には競争が激しくて値段が3桁に届くような超入手困難盤があり、ロネッツやクリスタルズといったフィレス・レーベル盤と並んで入手に苦労したのがサム・クックのキーン盤だった。コレはそんなキーン・レーベルから1958年にリリースされた彼の2nd アルバム「アンコール」に入っていたもので、ゴージャスなビッグ・バンド・サウンドに乗ってアップ・テンポで快調に飛ばすサム・クックの歌声が楽しめる。彼はどちらかというとスロー~ミディアム・テンポの歌が多いが、ここで聴けるようなノリノリのサム・クックもめっちゃエエわ(^.^)
Sam Cooke - Accentuate The Positive (1958)


③Bing Crosby & The Andrews Sisters
 私はビング・クロスビーというと例の「ホワイト・クリスマス」の影響か、 “SP レコードのあのパチパチ・ノイズの向こうから聞こえてくるソフトでジェントルなヴォーカル” という刷り込みがなされていて、彼の歌声を聴くとどうしても第二次世界大戦の頃をイメージしてしまうのだが、この曲では軍服姿がトレードマークで “米軍御用達” みたいなイメージのあるアンドリュース・シスターズとの共演ということで、もうこれ以上ないくらいピッタリの組み合わせだ。もちろんイメージ面だけでなく音楽的にもお互いの持ち味が十分に活かされたコラボレーションになっており、懐古的な歌声の相乗効果で雰囲気抜群のヴァージョンに仕上がっている。
Ac-Cent-Tchu-Ate The Positive - Bing Crosby with The Andrews Sisters

ザ・グローリー・オブ・ラヴ / ジャッキー・アンド・ロイ

2012-03-07 | Standard Songs
 ポールのスタンダード特集も何やかんやで第6回、今日は以前アップしたインタビューの中でポールがジョン・クレイトンとのコラボレイションについて熱く語っていた「ザ・グローリー・オブ・ラヴ」だ。この曲は1936年にビリー・ヒルが書き、ベニー・グッドマンの演奏で大ヒットを記録、その屈託のない明るいメロディー故かその後も様々なアーティストたちによって取り上げられている名曲だ。
 この曲は当時のスタンダード・ナンバーには珍しく、映画やミュージカル用に書かれたものではなかったが、1967年にキャサリン・ヘプバーンがアカデミー賞の主演女優賞を受賞した映画「招かれざる客」(←まだ人種差別の激しかった時代に、白人の娘が黒人の彼氏を家に連れてきて結婚したいと言って両親を悩ませるというストーリー)のテーマ曲として使われてリバイバル・ヒットした。
 歌詞は “少しあげて少しもらう 少し傷つくこともあるわ... 少し笑って少し泣く それが愛の物語であり、愛の素晴らしさなのよ” という内容で、 “二人でいる限り世界の素晴らしさは私達のもの... たとえ世界が私達に背を向けても 二人には抱き合う腕があるわ” と歌うBメロ・パートなんてこの映画のテーマにピッタリだ。フランク・デ・ヴォールの心憎いアレンジも聴き所↓
招かれざる客 (Guess Who's Coming to Dinner - Glory of Love)


 この曲の私的トップ5は以下の5組だが、これら以外にもカウント・ベイシー(1937)、プラターズ(1956)、ケイ・スター(1958)が、比較的新しいところではベット・ミドラー(1988)やクリフ・リチャード(1990)なんかもカヴァーしており、ジャンルを問わずに人気のあるスタンダード・ナンバーといえるだろう。

①Jackie & Roy
 ヴォーカリーズもこなすオシドリ・デュオ、ジャッキー・アンド・ロイのABCパラマウント移籍第1弾となった名盤「ザ・グローリー・オブ・ラヴ」(1956年)のアルバム・タイトル曲。彼らの魅力であるジャジーでお洒落な雰囲気が横溢、その都会的なセンス溢れる洗練されたコーラス・ハーモニーは絶品だ。バックのメンバーも、ギターがバリー・ガルブレイス、ベースがミルト・ヒントン、そしてドラムスがオシー・ジョンソンと、趣味の良いプレイを身上とする名手揃いで(←ピアノはもちろんロイが担当)、メンツを見ただけで音が聞こえてきそうな感じがする。特にオシー・ジョンソンのブラッシュ・ワークは何度聴いても巧いなぁ...と唸ってしまう素晴らしさ。曲良し・演奏良し・雰囲気良しと三拍子揃った名演だ。
Jackie and Roy - THE GLORY OF LOVE


②Peggy Lee
ジャッキー・アンド・ロイと甲乙付け難い名唱がこのペギー・リーのヴァージョンだ。彼女にとってのキャピトル第2期の幕開けを飾る名盤「ジャンプ・フォー・ジョイ」(1958年)に収められたこの曲で、ネルソン・リドル指揮のビッグ・バンドをバックに “ペギー節” 全開で気持ち良さそうにスイングしている。1950年代半ばあたりからその表現力に一段と磨きがかかり、深みを増してきた彼女のヴォーカルが存分に楽しめる快唱で、歌詞を大切にしながら自然体で歌っているところが良い。ジャケットに写った彼女の表情も最高だ。
Peggy Lee - The Glory Of love


③Benny Goodman feat. Helen Ward
 この曲で最初に大ヒットを飛ばしたのがこのベニー・グッドマン。それも6週連続全米№1というのだから恐れ入る。当時のビッグ・バンドは “バンド・シンガー” と呼ばれる専属歌手が売り物の一つだったが、ヴォーカルは “The Queen Of Big Band Swing” と呼ばれ当時の若者達のアイドルとして絶大なる人気を誇ったヘレン・ウォード。彼女は抜群のリズム感と確かな歌唱力、そして何よりも溌剌とした歌いっぷりが魅力の美人歌手で、当時まだ18才だった彼女のピチピチと弾けるような活きの良い歌声がめちゃくちゃ気持ちいい(^o^)丿 スイング・ジャズの古臭いリズムは好き嫌いの分かれるところかもしれないが、慣れてしまえば気にならない。グッドマンのソロも快調だ。
Benny Goodman feat. Helen Ward


④Patti Page
 「テネシー・ワルツ」で有名なパティ・ペイジが1949年にラジオ放送用にレコーディングしたのがこの曲で、1940年代~1950年代前半のトランスクリプション音源を扱うハインドサイト・レーベルからリリースされた「パティ・ペイジ・ウィズ・ルー・スタインズ・ミュージック」に収録。彼女はポップスからカントリー、そしてスタンダード・ナンバーに至るまで様々なタイプの楽曲を歌いこなすヴァーサタイルな才能を持ったシンガーだが、私的にはやはりスタンダードを歌う彼女が一番好き。この曲でもそのしっとりと艶のある歌声でソフトに、そして軽やかにスイングしており、スタンダード・シンガーとしての魅力が存分に味わえる逸品だ。
Patti Page - The Glory of Love


⑤Lou Donaldson
 最後にジャズのインスト物を一つ。アルト・サックスのルー・ドナルドソンはガンガン吹きまくるパーカー派路線のスリリングなプレイよりも、アーシー&グルーヴィー路線の余裕と寛ぎに溢れた演奏の方が私には合っている。そんなリラックスしたリズムに乗って抜けの良いクリアなアルトの音を楽しむには美しいメロディーを持ったスタンダード・ナンバーがピッタリだ。フレーズもより滑らかになっているし、このような小粋な曲でこそルーさんの良さが活きると思う。やれポップになっただの堕落しただのと頭の固いジャズ・ファンからはボロクソに言われるが、コンガの導入によってアットホームな雰囲気が加わり、聴く者をほのぼのとした気分にさせてくれる。ブルーノート・レーベルの4000番台の前の方というのは軽快で親しみ易いアルバムが多いが、この曲の入った「グレイヴィー・トレイン」(1962年)もそんな楽しい1枚だ。
Lou Donaldson - Glory Of Love
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インチワーム / メリー・ホプキン

2012-03-04 | Standard Songs
 “ポールのスタンダード” 特集第5弾は「インチワーム」(←英語でシャクトリムシのこと)という曲で、作曲したのはポールが敬愛する作曲家、フランク・レッサーだ。 shoppgirl姐さんのブログで知ったのだが、2009年10月にブロードウェイで開かれたフランク・レッサー生誕100年を祝うチャリティー・コンサートにポールが出演して「スロー・ボート・トゥ・チャイナ」を歌っている映像が YouTube にアップされており、歌い始める前に “子供の頃、親族一同で集まって父のピアノに合わせてみんなでよく古い歌を歌ったものだけど、その時はそれが誰の曲かなんて考えもしなかった。やがて時が経ち、あの時歌っていた曲の多くがレッサーの作品だと知ったんだ。” とスピーチしているのだ。調べてみると、バディー・ホリーだけではなくレッサーの曲の版権もポールの MPL が所有しているというからその傾倒ぶりがわかろうというものだ。
Paul McCartney - On A Slow Boat To China


 この「インチワーム」という曲は元々1952年のミュージカル映画「アンデルセン物語」のためにレッサーが書いたもので、 “マリゴールドの花を測るシャクトリムシさん、計算が得意だね... でも立ち止まって花の美しさを見たらどうだい?” という主旋律部分と、“2+2=4, 4+4=8, 8+8=16, 16+16=32...” という足し算リフレイン部分で構成されており、“算数みたいに何でもビジネスライクに割り切って考えるのはやめたら?” と示唆する内容の歌だ。映画では教室の中で子供たちが足し算の輪唱パートを歌い、外の花壇の脇で主演のダニー・ケイがそれを聴きながら主旋律のパートを歌うという演出。素朴そのものだが、原点の光が輝いている。
Danny Kaye - Hans Christian Andersen


 一般的にこの曲はジャズのスタンダードというよりもむしろ子供向けのポピュラー・ソングという認知を与えられているようで、実際セサミストリートなんかでも使われている。ジャズでこの曲を取り上げたのは、大ベテランのイブシ銀ピアニスト、ジーン・ディノヴィのアルバム「リメンブランス」ぐらいしか思いつかない。シーツ・オブ・サウンドとかいう楽曲破壊奏法を得意とする某テナー・サックス・プレイヤーも演っているようだが、あんな悪魔の呪文みたいな気色悪い演奏はもちろん問題外。この「インチワーム」は曲を慈しみ、聴き手を癒すように優しく歌うシンガーにこそピッタリの佳曲なんである。ということで、以下の3ヴァージョンが私的トップ3だ。

①Mary Hopkin
 「インチワーム」と聞いて真っ先に頭に浮かんだのがポール自らがプロデュースした “アップルの歌姫” メリー・ホプキンのデビュー・アルバム「ポストカード」(1969年)に入っていたこのヴァージョン。まるで天使のような彼女の透き通った歌声、そしてそんな彼女の持ち味を存分に活かしたポールのアレンジがこの曲の髄を怖いぐらいに引き出しており、大袈裟ではなく、聴いていて背筋がゾクゾクしてしまう。その少し憂いを含んだ心に沁み入るような歌い方(←サムに教えてもらったのだが、英語では haunting って言うらしい...)はあの「悲しき天使」に迫る名唱と言えるだろう。
 それにしても自分の秘蔵っ子に歌わせ、40年余の時を経て再び自分のアルバムに入れるとは、ポールは余程この曲がお気に入りのようだ。「ポストカード」には他にも「木の葉の子守唄」や「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」、「ショーほど素敵な商売はない」といった古き良きスタンダード・ナンバーが収録されており、ポールの趣味・嗜好が色濃く反映されたアルバムになっているので、今一度そういう耳でチェックしてみるのも面白い。
Mary Hopkin - Inch Worm


②Anne Murray
 「インチワーム」の隠れた名唱として一押しなのがこのアン・マレー。常日頃愛聴しているというわけではないけれど、折に触れ取り出して聴いてみるとやっぱりエエなぁと思わせる... アン・マレーは私にとってそういう存在だ。この人はどちらかというとカントリー系のポップス・シンガーという位置付けで、大ヒット曲の「スノーバード」も「ダニーズ・ソング」も「ユー・ニード・ミー」も私にはいまいちピンと来ないのだが、カヴァーとなると話は別。特にモンキーズの「デイドリーム・ビリーヴァー」やビートルズの「ユー・ウォント・シー・ミー」のカヴァーなんかもうオリジナルに勝るとも劣らない必殺のキラー・チューンだと思う。
 この「インチワーム」は彼女が1977年にリリースした子供向けアルバム「ゼアズ・ア・ヒッポ・イン・マイ・タブ」(邦題:「愛のゆりかご」)に収録されていたもので、聴き手を優しく包み込むようなヴォーカルが絶品だ。モンキーズやビートルズをカヴァーした時と同様に、彼女の温か味のある歌声とキャッチーなメロディーとの出会いがマジックを生むのだろう。他にも「ユー・アー・マイ・サンシャイン」や「この素晴らしき世界」といった名曲が彼女のハートウォーミングな歌声で楽しめるこのアルバム、 “ウチのバスタブにはカバがいるぜ” というふざけたタイトルと可愛らしいジャケットのせいでスルーしてしまうと損をする1枚だ。
Anne Murray - Inchworm


③Doris Day
 ハートウォーミングな癒し系ヴォーカルの元祖といえばドリス・デイだ。彼女は数多くのスタンダード・ナンバーを始めとして様々なジャンルの曲を歌っているが、この曲は子供向けの曲ばかりを集めた企画物アルバム「ウィズ・ア・スマイル・アンド・ア・ソング」(1964年)に入っていたもので、子供たちの可愛らしいコーラスをバックにその人柄が滲み出るような優しい歌声を聴かせてくれる。このアルバムは子供向けのレコードということであまり取り上げられることはないが、アメリカの国民的シンガーとしてジャンルを超えた存在だった彼女ならではの1枚と言えるだろう。子供たちに囲まれて幸せそうなドリス・デイの表情が印象的なジャケットも実にエエ感じだ。
Doris Day - The Inch-Worm

ホーム (ホエン・シャドウズ・フォール) / マット・デニス

2012-03-01 | Standard Songs
 「Kisses On The Bottom」の通常盤には12曲のスタンダード・ナンバーが収録されているが、前にも書いたようにその選曲はめっちゃ渋い。いわゆる“超有名A級スタンダード”というのは「バイ・バイ・ブラックバード」と「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」ぐらいで、「手紙でも書こう」でB級、それ以外はC級D級、下手をすると曲名すら聞いたことがないようなE級(←ここで言う○級とは曲の良し悪しではなく、あくまでも知名度のことです、念のため...)の佳曲が選ばれている。
 アマゾンで予約した UK 盤が予想よりも早く届いて有頂天になり、その場の勢いで始めたこの “ポールのスタンダード特集” 、最初は上記の2~3曲で打ち止めにするつもりだったのだが、手持ちの盤を色々調べていくとカヴァーしているアーティストが結構かぶっていたり新発見があったりしてコレが結構面白い。同志のみながわさんや shoppgirl 姐さんにも楽しんでいただけているようなので、企画(?)を延長してC級D級まで掘り下げてみることにした。ただ、A級B級とは違ってカヴァーしているアーティストが少ないので、3つのヴァージョンで何とかお許しを... m(_ _)m

 ということで “ポールのスタンダード特集” 第4弾は「ホーム(ホエン・シャドウズ・フォール)」だ。この曲は1931年にオランダのバンド・リーダー、ピーター・ヴァン・スティーデンがハリーとジェフのクラークスン兄弟と共作して自分の楽団の演奏でヒットさせたもので、有名なところでは1932年にルイ・アームストルングが、1933年にミルドレッド・ベイリーが、1950年にナット・キング・コールが(←「ラッシュ・ライフ」収録)、1964年にサム・クックが(←「エイント・ザット・グッド・ニューズ」収録)それぞれカヴァーしている。
 歌詞の内容は “夕闇が迫り 木々が一日の終わりを囁く時、私の思いは家へと向かう... 太陽が丘の向こうに沈むと 星々が一つまた一つと姿を現し 夜の帳が下りる 運命の女神が私を見放したとしても いつだって甘い夢が私を家へと導いてくれるのさ...” というもので、えもいわれぬ郷愁を感じさせる美旋律との相乗効果もあって、愛する者の待つ “家” への思いが聴く者の心にしみじみと沁みわたる佳曲だと思う。

①Matt Dennis
 男性ジャズ・ヴォーカルで私がシナトラとキング・コールの二人に次いで好きなのがこのマット・デニス。その絵に描いたような “粋” な語り口は唯一無比のカッコ良さだ。美しいメロディーを持った曲を洒落たピアノの弾き語りでスマートに歌うのが彼の十八番で、そういう意味でも “home” をテーマにした曲ばかりを歌った「ウェルカム・マット・デニス」に収録されていたこの曲なんか、彼にピッタリの旋律美を持ったナンバーと言えるだろう。サイ・オリヴァー楽団のゴージャスな演奏に乗ってゆったりと歌うデニス... その寛ぎに溢れたハートウォーミングな歌声がリスナーの “home” への思いをかきたて、大いなる共感を呼ぶ。ホンマにコレはたまりませんわ(≧▽≦) 何となく曲想がポールの「ベイビーズ・リクエスト」と相通ずるモノがあるように思うのは気のせいか? 尚、アルバム・ジャケットも自分の名前と玄関マットを引っ掛けた洒落っ気たっぷりのもので、見ても聴いてもそのセンスの良さに唸らされる。私にとっては “ジャズ・ヴォーカル座右の盤” の1枚だ。
ホーム


②Helen Humes
 ヘレン・ヒュームズのコンテンポラリー盤「スインギン・ウィズ・ヒュームズ」は歌良し、演奏良し、スイング良しと三拍子揃ったジャズ・ヴォーカルの隠れ名盤。このレコードの魅力はヘレンの伸びやかなヴォーカルとそんな彼女を支えるバックの演奏陣の豪華さにあり、ジョー・ゴードン、テディー・エドワーズ、アル・ヴィオラ、リロイ・ヴィネガー、フランク・バトラーといったウエスト・コースト・ジャズの腕利きたちがガッチリと彼女をサポートしているのだが、中でも注目すべきはウイントン・ケリーのピアノだ。ダイナ・ワシントンのバックで鍛えられた彼の歌伴には定評があり、ここでもお得意の軽快なタッチでツボを心得たプレイを聴かせてくれる。ミディアム・テンポで軽快にスイングする「ホーム」というのも中々オツなものだ。
Helen Humes - 02 - Home (When Shadows Fall)


③Ventures
 ベンチャーズがメジャー・デビューする前にドン・ウィルソンとボブ・ボーグルが自ら立ち上げたブルー・ホライズン・レーベルから1960年に出したシングル「ウォーク・ドント・ラン」のB面がこの曲で(←印税を稼ぐために、ドルトンから再発されたレイター・プレスでは自作曲の「ザ・マッコイ」に差し替えられたが...)、同年にリバティー系列のドルトン・レコードからリリースされたデビュー・アルバム「ウォーク・ドント・ラン」ではA面3曲目に収録されていた。まだメル・テイラーは加入しておらず、ドラムスはスキップ・ムーア。リード・ギターはボブ・ボーグルで、ノーキー・エドワーズがベースを弾いている。この頃の彼らはチェット・アトキンスをよりロックンロールにしたようなスタイルで、彼らのトレードマークであるモズライト・ギターの野太い音色も一世を風靡したあのテケテケ・サウンドもないが、そのおかげで原曲の持つチャーミングなメロディーの素晴らしさが浮き彫りになっている。フェンダー・ギターのすっきり爽快なサウンドが耳に心地良く響く快演だ。
The Ventures - Home
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