shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

1999 / Prince

2010-06-28 | Rock & Pops (80's)
 今日も空耳つながりということでプリンスだ。彼も空耳アワーの常連アーティストで、1989年のヒット曲「バットダンス」の一節 “Don't stop dancin'” がどこをどう聞いても “農協牛乳!” に聞こえるのだ。番組ゲストのセイン・カミュも “農協牛乳にしか聞こえへん...” と言っていたが、みなさんはどうですか?下に貼り付けといたのでよかったら聴いてみて下さいな。まぁコレに限らず空耳アワーを知ってからは “何かネタあらへんかな~(^.^)” などとアホなことばかり考えてしまい、マトモに洋楽を聴けない身体になってしまった(笑)
 話をプリンスに戻そう。私は1980年代には毎週のようにラジオでアメリカン・トップ40を聴いてチャートを追いかけており、エイティーズ・ポップス百花繚乱の時代をリアルタイムで体験していた。当時はまだビルボード誌を信頼していたので “全米№1” という言葉にはめっぽう弱く、1位になった曲には№1ソングとしての風格が感じられ(笑)、それ相応の敬意をもって聴いていた。
 ただ、個人的な嗜好は別にしても、全米№1になった曲の中に “何でコレが№1やねん?” と思わざるを得ない曲がいくつかあったのも否めない事実。正直言うとプリンスのファルセット・ヴォイス全開の「キッス」もそんな1枚だった。そもそも彼が全米で大ブレイクした「ホエン・ダヴズ・クライ」だって悪くはないけど、スプリングスティーンの「ダンシング・イン・ザ・ダーク」を抑えて5週連続№1になるほどの曲とも思えないし、同曲を含むアルバム「パープル・レイン」が24週も1位を独走したのも正直 ??? だった。
 当時のプリンスは同じ黒人ビッグ・アーティストということでマイケル・ジャクソンのライバルとしてメディアから高く評価されていたが、私はどうしてもあの変態的な(?)サウンドに馴染めず、いわゆるひとつの “ミネアポリス・サウンド” が分らなかった。“エンターテイナー・マイケル vs 孤高の天才・プリンス” という図式は、ジャズに例えるなら “分かりやすいベイシー vs 難解なエリントン” といった感じか。いつの時代も “天才” と呼ばれる人達の音楽は難しい(+_+)
 ということで私は決して彼の良い聴き手ではないのだが、かといって “プリンス嫌い” というワケでもない。何といっても80年代を代表する名曲「マニック・マンデー」(バングルズ)は彼の作品だし、「パープル・レイン」の次に出て200万枚しか(笑)売れなかった「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」からの 1st シングル「ラズベリー・ベレー」なんかは結構好きでよく聴いたものだった。
 しかし私が一番好きなのは何と言っても「パープル・レイン」で全米大ブレイクする直前の1982年にリリースされたアルバム「1999」だ。このアルバムはまだ奇天烈なミネアポリス・サウンドに染まっておらず、ストレートアヘッドなファンク・ナンバーが目白押しでめっちゃカッコエエのよね。しかもその中で前衛性と大衆性を高い次元で見事にバランスさせているのだからもう言うことナシだ。
 中でも断トツに気に入っているのが 1st シングルになったタイトル曲①「1999」で、プリンス入魂のポップでネチこいファンクネスが炸裂、アメリカで車に乗せてもらってハイウェイを飛ばしている時にラジオからこの曲が流れてきた時はゾクゾクした。②「リトル・レッド・コルヴェット」はファンク・エッセンスを薄めてポップな味付けを濃くしたのが功を奏してプリンスにとって初のトップ10ヒットになった曲。チープな打ち込み音が耳に残る③「デリリアス」もプリンス流疾走系ポップ・ファンクで、連続トップ10入りを記録、この①②③と続くシングル3連発のダンサブルな流れが聴く者に強烈なインパクトを残す。
 ④「レッツ・プリテンド・ウィーアー・マリード」はリズム・マシンの無機質なサウンドとシンセのチープな音の洪水の中を自由に泳ぎ回るプリンスに耳が釘付けになるし、⑥「オートマチック」では単純なメロディーの繰り返しがやがて大きなうねりとなって聴く者の快感を呼ぶ。一時期のトーキング・ヘッズみたいなサウンドから入って次第にプリンスの真っ黒な世界に引きずり込んでいき、気がつきゃアヘアへ状態(笑)な⑨「レディー・キャブ・ドライバー」なんかもう、ポップでファンキーで猥雑でちょっぴりアヴァンギャルドなプリンス・ワールドが堪能できるのだからたまらない(≧▽≦)
 世間では “プリンスといえば「パープル・レイン」で決まり” みたいな風潮があるが、チャート成績や売り上げ云々は別にして、最もポップなプリンスが楽しめるのがこの「1999」なのだ。プリンスってちょっと苦手、という私のようなポップス・ファンはこの辺から聴き始めるのが良いと思う。

CM 農協牛乳


1999-1999

Smooth Criminal / Michael Jackson

2010-06-25 | Rock & Pops (80's)
 最近私は空耳にハマッている。空耳というのは洋楽の歌詞の中から日本語のように聞こえるフレーズを探す一種の言葉遊びのことで、昔からラジオの洋楽番組でもこの手のコーナーはいくつか存在していた。私が好きだったのは学生時代に聴いていた日本版 “アメリカン・トップ40” (湯川れい子のやってたヤツ)の “ジョーク・ボックス” というコーナーで、毎週リスナーが投稿する傑作空耳ネタが楽しみだった。特にエアア・サプライの“寝ぼけるな~♪”(I’ll Never Get Enough Of You)やポリスの “保険金見つけた~♪”(Message In A Bottle)は今でも忘れられない。
 だから空耳自体は別に新しくも何ともないのだが、私が今ハマッているのはタモリ倶楽部の “空耳アワー” なのだ。タモリの “空耳アワー” が他と一味も二味も違うのは、その日本語フレーズのシチュエーションに合わせて日本語の空耳字幕入り再現VTRを制作するところで、登場する役者さんの表情や演技がめちゃくちゃ面白く、 “空耳ネタ+ヴィジュアル面” の複合ワザで大いに笑わせてくれるのだ。
 私にこの “空耳アワー” を教えて下さったのが G3 でいつもお世話になっている plinco さんで、何年か前に “空耳アワード2001名作100連発” を録画したVHSテープをお借りしたのだが、コレがもう抱腹絶倒の面白さ(^o^)丿 すっかり空耳ファンになった私はこのブログでもジプシー・キングスの “あんたがた ほれ見ぃやぁ 車ないかぁ こりゃまずいよ~♪” やデフ・レパードの “海女下痢で 海に出れねぇ 今朝も下痢で~♪” 、メタリカの “バケツリレー 水よこせ~♪” などを率先して紹介してきた。
 しかし整理の苦手な私はせっかくダビングしたテープをどこかへやってしまい、先月 plinco さんにもう一度貸して下さいとお願いしたところ、今度はVHS に加えてDVD 2枚(空耳アワード2007~2009)も併せて貸して下さったのだ。やはり持つべきものは同じ趣味を持つ友人である。ということでこの1ヶ月ほど、私は第2次空耳ブームに突入し、来る日も来る日も怪しげな空耳ソング(?)を聴いて大笑いしていた。
 この番組には “空耳貢献アーティスト” というのがあって、先のジプキンやメタリカに加え、クイーンやガンズ、サッチモにアース・ウインド & ファイアなど、空耳に多数採用されているアーティスト達のことを指すのだが、我らがマイケル・ジャクソンも筋金入りの “空耳貢献アーティスト”。特に何度聴いても大笑いなのが「スムーズ・クリミナル」の “パン、茶、宿直!” だ。何を隠そう私を空耳狂いにした VTR がコレで、カメラが引いていってマイコーの “宿直!” が炸裂する所が最高に面白い(^o^)丿 同曲の別の空耳 “朝からちょっと運動 表参道 赤信号” も笑撃のケッサクだ。両方とも下に貼り付けときましたので、削除される前にとくとご覧あれ。
 ということでほとんど空耳の話ばかりになってしまったが、明日は忘れもしないマイコーの一周忌。多分色んなサイトやブログに彼を偲ぶ記事が溢れかえるのだろうが、私は湿っぽいのは苦手な性質なので、敢えて大笑いしながら彼の音楽に浸ろうと思う。
 「スムーズ・クリミナル」は空耳に関係なく(笑)マイコー曲の中でも三指に入るフェイヴァリット・ナンバーで、映画「ムーンウォーカー」の中でこの曲の振り付けを初めて見た時はあまりのカッコ良さに言葉を失ったほどだった。特に身体を45°前方に傾ける “アンチ・グラヴィティ” のシーンは衝撃的で、そのカラクリ(←靴に仕掛けがあってステージのフックに引っかけて前傾するらしいのだが、それにしても物凄い背筋力だ...)が分かるまでは “一体どーなってるんやろ?” と不思議でたまらなかった。
 この CD マキシ・シングルには①「エクステンディッド・ダンス・ミックス」、②「ダンス・ミックス・レディオ・エディット」、③「アニー・ミックス」、④「ダブ・ヴァージョン」、⑤「アカペラ」の5つのリミックスが収められているが、私が特に好きなのが②と③だ。ダンス・リミックスとかロング・ヴァージョンの類は大抵ロクなものが無いが、この②はオリジナル・ヴァージョンを凌ぐ出来だと思うし、 “茶” や “宿直” が乱舞する③やヴォーカルがクッキリ聞こえてネタ探しにピッタリの⑤なんかは空耳ファン御用達だろう。
 そういえばウチのオカンもマイコーの大ファンで、この曲が一番好きだと言っていた。何でも “Are you OK, are you OK?” が “早よ起き~、早よポッキー♪” に聞こえるらしく、 “コレって早よ起きてポッキーくれってゆうとるんか?” と聞かれた時は大笑いしてしまった。まさか自分の母親までもが筋金入りのソラミミストやったとは... ホンマに血は争えませんな(≧▽≦)

パン、茶、宿直!


朝からちょっと運動 表参道 赤信号


マイケル ジャクソン SMOOTH CRIMINAL
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Ticket To Ride / The Swingle Singers

2010-06-23 | Beatles Tribute
 私は基本的に疾走系のロックンロールやスインギーなジャズが大好きなので、コーラス・グループも聴くというと意外な顔をされることが多い。しかしアンドリュース・シスターズやクラーク・シスターズ、べヴァリー・シスターズといったいわゆるひとつの “シスターズ系” はもちろんのこと、パイド・パイパーズやハニードリーマーズのような正統派コーラスも聴くし、ジャズ・コーラスの王道を行くマンハッタン・トランスファーは大好きなグループだ。
 スイングル・シンガーズは1963年にパリで結成された混声コーラス・グループで、バッハを始めとするクラシック音楽をダバダバ・スキャットでジャズ・コーラス化したことで知られるが、クラシックを聴かない私には全く縁の無いグループだった。唯一聴いたことがあるのは同じクラシックかぶれの MJQ との共演盤「ヴァンドーム」ぐらいで、ただでさえ眠たい MJQ の音楽に気持ち良いコーラスが加わって昼寝の BGM には最適な音楽に思えたが、身銭を切って買うような盤ではなかった。
 そんな彼らの名前を久々に見つけたのが様々なビートルズ・ナンバーをアマゾンで検索していた時で、早速この「ティケット・トゥ・ライド ~ア・ビートルズ・トリビュート~」を試聴、私の記憶にあるクラシックかぶれのコーラス・グループというイメージとはかけ離れたカッコ良いコーラス・ワークがいっぺんに気に入ってしまい、即オーダーした。後で知ったことだが、中心人物であるウォード・スイングルは70年代にフランス人主体だったグループをイギリス人主体へと再編成し、クラシックだけでなくポップスからクリスマス・ソングまで幅広く取り上げるようになったらしい。
 1999年にレコーディングされたこのアルバムは全16曲入りで、中期以降の楽曲を中心にセレクトされている。ギター・リフを幾重にも絡み合うコーラス・ハーモニーで見事に表現した①「ティケット・トゥ・ライド」や④「デイ・トリッパー」、洗練の極致とでも言うべき②「ペニー・レイン」や⑪「ブラックバード / アイ・ウィル」、アカペラでこの曲をやるという発想自体が凄い③「レヴォリューション」や⑥「バースデー」、変幻自在のコーラス・ワークでヴォーカリーズの面白さを教えてくれる⑨「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」や⑫「ホエン・アイム・64」あたりが私は気に入った。
 ⑧「イエスタデイ」はリード・ヴォーカルは暑苦しくて鬱陶しいが、例の弦楽四重奏をアカペラで再現している所は面白い。⑮「アイ・アム・ザ・ウォルラス」もデリカシーに欠けるリード・ヴォーカには興ざめだが、例のイントロを含むサイケなサウンド・プロダクションを絶妙なコーラス・ワークで表現しているところは聞き物だ。逆に⑤「ノーウェジアン・ウッド」、⑦「レディ・マドンナ」、⑩「ドライヴ・マイ・カー」、⑬「フール・オン・ザ・ヒル」、⑭「オール・マイ・ラヴィング」あたりはアレンジが私的にはイマイチ。まぁコレは好みの問題なので、人それぞれだろう。⑯「グッドナイト」は普通すぎて可もなし不可もなしといったところか。
 ビートルズの名曲をアカペラで、という企画のアルバムとしては他にキングス・シンガーズの「ビートルズ・コレクション」やアカペラ・トリビュート・コンピ「カム・トゥゲザー」などがあるが、そんな中で一番 CD プレイヤーに収まる機会が多いのがこの盤だ。ただし全曲聴くとさすがに胃にもたれるので、その時の気分で2~3曲選んで聴くのが極意だと思う。

ペニーレイン


ホエン・アイム 64


ブラックバード~アイ・ウィル
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ザ・ビートサウンド・クラブ 【青盤】 鉄腕アトム

2010-06-20 | Beatles Tribute
 昨日のタンゴに続くおバカ企画シリーズ第2弾(?)はアニソンとビートルズの融合という、普通ではあり得ない発想から生まれた珍盤「ザ・ビートサウンド・クラブ【青盤】/ 鉄腕アトム」である。これは以前このブログで取り上げた「【赤盤】/ さっちゃん」と対をなす姉妹盤で、要するにビートルズの楽曲に乗せて強引にアニソンを歌ってしまうという、神をも恐れぬ暴挙(笑)に近いアルバムなのだ。
 「【赤盤】/ さっちゃん」の方は童謡編ということでほとんどの曲を知っていたが、アニソンの方は知らない曲も結構多い。⑤「青い空はポケットさ」、⑧「アンパンマンのマーチ」、⑪「ワイワイワールド」、⑫「キャンディ・キャンディ」は恥ずかしながらこのアルバムで初めて聴いた。パロディーというのは元歌を知らないとどこが面白いのかサッパリ分からないもので、この辺に関してはコメントしようがない(>_<) 又、③「おどるポンポコリン」は多分「プリーズ・ミスター・ポストマン」を下敷きにしているのだろうが非常に分かりづらく、全然パロディーになっていない。この③は無い方がよかったな...(>_<)
 アルバム冒頭を飾る①「ゲゲゲの鬼太郎」は「ミッシェル」そのまんまのイントロに続いていきなり「ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲ~♪」ときた時点であまりのアホらしさにイスから転げ落ちる。しかしこの盤のエライ所は子供向けCDであるにも関わらず、細部にまで徹底的にこだわっているところ。バック・コーラスのアレンジはビートルズそのまんまだし、間奏やエンディングの処理も原曲に忠実にしてあって、それがかえってゲゲゲな歌詞とのミスマッチな面白さを際立たせているように思う。
 「ノーウェジアン・ウッド」と見事に融合した②「ひみつのアッコちゃん」も面白い。一体誰があの幻想的なシタールの響きにアニソンをくっつけようなどと考えるだろうか?ご丁寧なことにラバー・ソウルなタンバリンまで登場、この摩訶不思議なビートルズ風アニソンの絶妙なアクセントになっている。プロデューサーやらアレンジャーやら、みんな本気になって遊んどるなぁ...(^.^)
 「涙の乗車券」のギター・リフに乗って歌われる④「ウルトラマンのうた」というのもオツなものだが、個人的にツボに入ったのが⑥「ひょっこりひょうたん島」だ。これが何と「カム・トゥゲザー」とコワイぐらいに一体化していてもう凄いとしか言いようがない。目からウロコとはまさにこのことで、このアルバム中の私的ベスト・トラックだ。
 「レヴォリューション」のイントロだけ取って付けたような⑦「行け行け飛雄馬」や「アイ・フィール・ファイン」なギター・リフだけが空しく響く⑨「魔法使いサリー」は木に竹を接いだような不自然さは否めないし、「バック・イン・ザ・USSR」のジェット音に乗って飛んでくる⑩「鉄腕アトム」も面白いのはジェット機の効果音だけで、例えば “バーキン ユゥエス~♪” の3回転トリプル・アクセルをパロってみるとか、アレンジに何かもう一工夫ほしかったところ。
 しかし「エリナー・リグビー」風の⑬「レッツゴー・ライダーキック」には笑ってしまった。例のストリングスのイントロ(もちろんチープさ全開の打ち込みサウンドだが...)からいきなり “迫る~ショッカー♪” である。それにしても仮面ライダーにあのストリングス・アレンジがこれほどぴったりハマるとは驚きだ。アレンジャーさん、エエ仕事してまんな。ぴったりハマるといえば、⑭「ねぇムーミン」もこれに勝るとも劣らない面白さ。「ラヴ・ミー・ドゥ」のハーモニカのイントロに続いて “ねぇムーミン、こっち向いて~♪” 、コレが意外なほどしっくりくるのだ。この恐ろしいほどの脱力感は一聴の価値アリだと思う。しかしこんな盤ばっかり取り上げとったらホンマにアホになってしまいそうでコワイわ(>_<)

カム・瓢箪島・トゥゲザー
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Tango & Beatles / Tango & Liverpool Project

2010-06-19 | Beatles Tribute
 ビートルズ・カヴァーにはラトルズやユートピアのような正統派(?)が存在する一方で、何やらワケのわからん企画物も多い。私は生来いちびりな性格なので、由緒正しいビートルズ・ファンなら見向きもしないような盤でも面白そうならとりあえず試聴し、1つでも気に入ったトラックが入っていれば買ってしまう。
 この「タンゴ & ビートルズ」を買ったのは3年ほど前のこと、ビートルズ・ナンバーをラモーンズ風にパンク化したパンクルズ、クリスマス・ソングをマージービートでロックさせたビートマス、ロックンロールであろうがバラッドであろうがおかまいなしにビートルズを片っ端からルンバ化するという前代未聞の暴挙(?)に出たロス・ローリンなどのおバカな傑作カヴァー・アルバムに出会ってすっかりその筋系の音楽にハマった私は、面白ビートルズ・トリビュート盤を求めてネット検索に明け暮れていた。そんな中で偶然見つけたのがこのアルバムで、タイトルを見た私は “タンゴとビートルズ” っていくら何でもそれは遊びすぎちゃうの、と思ったものだ。
 そもそも“タンゴ”というジャンル自体、私はほとんど知らない。 “タンゴ” と聞いて頭に浮かぶのは小学生の時にシングル盤を買った「黒猫のタンゴ」くらいだ。そういえばジリオラ・チンクエッティのタンゴ・アルバム「スタセラ・バロ・リスシオ」も持っているが、スタッカートを多用して音をブツ切りにするようなタンゴ独特のサウンドにイマイチ馴染めず、買って一度聴いただけで CD 棚の “多分二度と聞かないかもしれないコーナー” へと直行した。別にタンゴが嫌いというワケじゃないが、ロックやジャズのような “生涯の音楽” としての魅力は感じない。
 そんなタンゴのリズムで、あろうことか珠玉のビートルズ・ナンバーをザックザックと切り刻んでいったのがこのアルバムなんである。私は eBay でアルゼンチンのセラーから$8.50で入手したが、送料込みでも1,000円ちょい... 試聴できるサイトを見つけられなかったのでミズテン買いになってしまうリスクはあるがが、タンゴがハズレでもビートルズなら曲で聴けるだろうという皮算用だった。
 届いたCDを見るとアーティスト名が “タンゴ & リヴァプール・プロジェクト” となっている。いかにもその場でテキトーにデッチ上げたような名前だが、この怪しさがたまらんのよね(^o^)丿 こういう珍盤・奇盤・怪盤の類はハイ・リスク・ハイ・リターンというのがコレクターの基本だが、今回は私的には見事に “当たり” だった。
 リード・ヴォーカルはサワ・コバヤシという日系らしき女性で、微妙に「アビー・ロード」をパロッたジャケット・デザインも担当している。ヴォーカルはこれまで何度も取り上げてきた「ボッサン・○○」シリーズや「ジャズ・アンド・○○'s」シリーズにぴったりハマりそうな “雰囲気一発” タイプ。アルゼンチンはこの手の癒し系ヴォーカルが多いなぁ...(^.^)
 短いつなぎの効果音トラック⑥⑪を除けば全11曲、⑫⑬はそれぞれ④⑨のダンス・リミックス・ヴァージョンになっているので実際には全9曲だ。タンゴのリズムが哀愁舞い散る原曲のメロディーと抜群のマッチングを見せる②「ミッシェル」や③「アンド・アイ・ラヴ・ハー」、疾走感溢れる原曲を換骨堕胎して見事にタンゴ化したセンスに唸らされる⑤「ヘルプ」、絶妙なテンポ設定とアレンジで完全な社交ダンス・ミュージックと化した⑨「ティケット・トゥ・ライド」あたりが特に好きだ。
 頭の固いビートルズ・ファンの中には “ナメとんのか!” と怒り出す人もいるかもしれないが、私は逆にこんなおバカな企画でタンゴ化されても相変わらず輝きを放ち続けるビートルズ・ナンバーの “楽曲としての力強さ” に、グループ解散後40年を過ぎても今なお人々に愛され続ける彼らの凄さの一端を垣間見たような気がした。

ミッシェル


ティケット・トゥ・ライド

Deface The Music / Utopia

2010-06-16 | Beatles Tribute
 先日マーサさんからいただいたコメントの中にトッド・ラングレンのバンド、ユートピアによるビートルズ・パロディ・アルバムの話が出てきた。「ディフェイス・ザ・ミュージック」(邦題:「ミート・ザ・ユートピア」←こっちの方が馴染みやすいわ...)と題されたこのアルバム、実は近いうちに取り上げよーかなーと思っていた矢先のことだったので、正直ちょっとビックリしてしまった(゜o゜) 何でわかってんやろ..???(笑)
 ということで今日は “馬ヅラの貴公子” 、じゃなかった “ロックの神童” “天才ポップ・クリエイター” ことトッド・ラングレン(←私が高校生の頃愛読していたミュージック・ライフや音楽専科では彼の馬ヅラ・ネタが結構多くていつも笑わせてもらってました... 確かに顔、長いです...笑)が率いるユートピアが1980年にリリースした「ミート・ザ・ユートピア」でいこう。
 このアルバムはスミザリーンズやチープ・トリックがやったようなカヴァーでも完コピでもなく、アレンジやサウンド・プロダクションにおいて随所にファブ・フォーの名曲のエッセンスを散りばめた純粋なオリジナル曲で構成されており、アルバム全体からビートリィな薫りが濃厚に立ち込める、非常に高度なパロディ・アルバムになっている。このアルバムが出た当時は今ほどビートルズ・パロディ盤は氾濫しておらず、ちょうど “イギリスのラトルズ” vs “アメリカのユートピア” みたいな図式だったように記憶している。
 まず目を惹くのが「ウィズ・ザ・ビートルズ」、じゃなかった「ミート・ザ・ビートルズ」の(←私はイギリス盤を聴いて育ったのでついつい「ウィズ...」と言ってしまうが、アメリカのバンドにとっては言うまでもなく「ミート...」なんよね...)ベタなパロジャケである。ジャケットというはビートルズ・パロディの重要な一要素だと思うが、私はアメリカのバンドらしいこのノーテンキさが大好きだ。
 ジャケット以上に私が気に入っているのが各曲につけられたおバカ全開の邦題の数々だ。当時の洋楽担当ディレクター氏が元ネタになった曲を原題に無理やりくっつけたような②「キャント・バイ・ミー・クリスタル・ボール(Crystal Ball)」や⑥「エイト・デイズ・ア・ウイーク・イズ・ノット・ライト(That's Not Right)」に始まり、シンセの似非ストリングスが生み出すチープな質感が耳に残る⑨「エリナー・リグビーはどこへ(Life Goes On)」やパロディーで終わらせるにはもったいないような美曲⑫「ミッシェルの微笑み(All Smilles)」なんかも面白いが、一番大笑いしたのが⑩「フィクシング・ア・ホール・イズ・ゲッティング・ベター(Feel Too Good)」... 元ネタになった2曲のタイトルをつなげただけという鬼のような合わせ技にはアホらしすぎて大笑いしてしまった(^o^)丿
 とにかくどの曲にも年季の入ったビートルズ・ファンならニヤリとさせられるような仕掛けが満載で、聴いててホンマに楽しいアルバムだ。私が一番好きなのはハーモニカにハンド・クラッピング、バック・コーラスに至るまで初期ビートルズの魅力を2分2秒に濃縮還元したような①「抱きしめたいぜ(I Just Want To Touch You)」だ。トホホな邦題もアレだが、何と言っても馬ヅラのビートル・スーツ姿(笑)が堂に入っているビデオ・クリップが最高だ。これでリッケンバッカーをかき鳴らすトッドがもう少しガニ又やったら完璧やねんけどなぁ...(^.^)
 ポップとアヴァンギャルドの狭間で絶妙のバランスを保ちながらアート・ロックとでも呼べそうなプログレ路線を体現してきたユートピアが、トッド・ラングレンの音楽の原点であるビートルズへのオマージュとして作り上げたこのアルバム、まさにトッド版 “マージービートで笑わせて” といった感じの1枚だ。

Utopia - I Just Want To Touch You

Masterful Mystery Tour / Beatallica

2010-06-13 | Beatles Tribute
 ビータリカの 1st アルバム「サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブ・バンド」は巷に氾濫する有象無象のビートルズ・カヴァー盤を一瞬にして葬り去るほどのインパクトがあった。ビートルズ・ナンバーをあろうことかメタリカそっくりのサウンドでことごとくヘビメタ・カヴァーしていくという発想も凄かったが、メロディアスなロックの最高峰と言えるビートルズと騒音の塊のようなスラッシュ・メタルの雄メタリカという水と油のような音楽性を非常に高い次元でバランスさせ、そこにユーモア感覚溢れる歌詞を乗せて高度なパロディーとして成立させていたのが何よりも衝撃的だった。
 ビータリカは元々2001年に冗談のつもりで始まった(笑)プロジェクトで、ローカルなモノマネ・コンテストへの出演記念に「ア・ガレージ・デイズ・ナイト」という7曲入りミニCDを制作、更に2004年には8曲入りセカンド・アルバム「ビータリカ」(←通称「グレイ・アルバム」)をウェブ上で公開したが、フリー・ダウンロード出来たことからビートルズの版権の多くを所有するソニーATV(←マイケルから買った分かな...?)と版権問題でモメたらしい。結局彼らの正式なアルバムをソニーATVから出すことで合意に達し、2008年にリリースされたのが先の「サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブ・バンド」というワケだ。
 その後「オール・ユーニード・イズ・ブラッド」(血こそすべて)というマキシ・シングル(←同じ曲を14ヶ国語で歌ってます... よぉやるわ)を経て、2009年に出された彼らの最新フル・アルバムがこの「マスターフル・ミステリー・ツアー」なのだ。前作は全13曲中9曲までが先の2枚の EP に入っていた曲を再レコーディングしたものだったが、今回は12曲中既発表曲は4曲のみで残りの8曲は完全な新曲(?)である。
 アルバムを聴いてみてまず感じたことは、よりメタル色が強まっていて元ネタのビートルズ曲がすぐに思い浮かばないような過激なアレンジになっているということ。前作がビートルズ:メタリカ=5:5とすれば、今作は2:8ぐらいに聞こえてしまう。結果としてパロディーとしての “笑える” 要素が後退、ヘビメタを聴かない普通のビートルズ・ファンには正直キツイと思う。特に①「ザ・バラッド・オブ・ジェイムズ・アンド・ヨーコ」、③「フューエル・オン・ザ・ヒル」(←歌詞はオモロイけど...)、⑥「ランニング・フォー・ユア・ライフ」、⑫「トゥモロウ・ネヴァー・カムズ」(←チャレンジ精神は買うけど、どっちつかずでワケがわからん...)あたりはビートルズ色が希薄で面白くない。
 又、②「マスターフル・ミステリー・ツアー」⑧「ヒーロー・オブ・ザ・デイ・トリッパー」、⑨「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・トラップト・アンダー・アイス」、⑩「アイル・ジャスト・ブリード・ユア・フェイス」は一応原曲のメロディーはわかるけれど、アレンジに無理があるのか何か窮屈な感じがして初期の彼らの魅力だったノビノビした疾走感が失われてしまっている。演奏が爆発していないのだ。
 そんな中でキラリと光るのはやはり初期 EP に入っていた④「アンド・アイム・イーヴル」、⑤「エヴリバディーズ・ガット・ア・ティケット・トゥ・ライド・エクセプト・フォー・ミー・アンド・マイ・ライトニング」、⑦「ザ・シング・ザット・シュッド・ノット・レット・イット・ビー」、そして私が彼らの最高傑作と信ずる⑪「アイ・ウォント・トゥ・チョーク・ユア・バンド」(邦題:首しめたい)の4曲だ。⑪に関しては以前このブログで取り上げた時に詳しく書いたので詳細は省くが、下に貼り付けたビデオ・クリップも十分楽しめるもので、聴いて良し見て良しの秀作だ。他の3曲も巧くビートルズ曲をメタリ化していてエエのだが、私個人としてはこれらのリメイク・ヴァージョンよりもウェブからダウンロードした(←残念ながら今ではもう閉鎖されてしまっているようだが...)オリジナル・ヴァージョンの方に魅かれてしまう。
 何だかネガティヴな感想になってしまったが、こんなユニークなバンドはそうそういないので、面白いビートルズ・カヴァーに目がない私としては彼らにもっと頑張ってほしいというのが正直なところ。次作ではぜひとも初期のようなストレートアヘッドなアレンジでビートルズをメタリ化して唸らせてほしいものだ。

Beatallicanimation


Beatallica - And I'm Evil from Masterful Mystery Tour
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Sgt. Pepper Live / Cheap Trick

2010-06-12 | Beatles Tribute
 前回、前々回と2回にわたってスミザリーンズのビートルズ・カヴァー集を取り上げてきたが、ビートルズ・マニアのバンドの元祖といえばイの一番に思い浮かぶのがチープ・トリックだ。彼らはデビューした時からビートリィな雰囲気を湛えたバッドフィンガー路線のサウンドだったし、本家ビートルズの曲も「マジカル・ミステリー・ツアー」や「デイ・トリッパー」をカヴァーしており、ビートルズ直系バンドの筆頭格だったが、何といってもジョン・レノンの復帰作「ダブル・ファンタジー」のセッションに参加(←結局ボツになって「ジョン・レノン・アンソロジー」に収録されたけど...)しているのだからこれはもう筋金入りのビートルズ好きと言っていいだろう。
 私とチートリとの出会いは1978年のこと、ラジオから流れてきた「サレンダー」の絶妙なポップ感覚がめちゃくちゃ気に入り、この曲の入った彼らの 3rd アルバム「ヘヴン・トゥナイト」を買いにレコード店へ走ったのを覚えている。それか半年ぐらいして例の「アット・ブドーカン」で大ブレイク、翌79年に出たアルバム「ドリーム・ポリス」ではA面トップの疾走感溢れるタイトル曲とB面トップに置かれためっちゃビートリィな「ヴォイシズ」が彼らのアイデンティティーを強烈に主張していた。その後彼らはスランプに陥るが1988年のアルバム「ラップ・オブ・ラクジュアリー」で完全復活、見事全米№1になった「ザ・フレイム」はF1中継時のブリヂストンのCMで耳にタコが出来るくらい聴いたものだったが、90年代以降は私が洋楽ロックと絶縁したこともあって彼らの名前を聞くこともなくなっていた。
 この「サージェント・ペパー・ライヴ」はそんな彼らが2007年の8月に「サージェント・ペパーズ」発売40周年を記念して行ったコンサートの模様を収録したライヴ盤で、ニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラを始め様々なゲスト・ミュージシャンを起用してあの「ペパーズ」のアルバムの完全再現にトライしているのだから買わずにはいられない(笑) 実際に聴くまでは “「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」のインド音楽どーすんねんやろ?” とか “「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のクライマックスはどーなるんやろ?” とか、色々と想像出来て楽しかった(^.^)
 この盤を聴いた第一印象は、特に奇を衒うこともなくオリジナルに忠実なアレンジで真正面から「ペパーズ」に取り組んでいるということ。だから演奏だけで判断するならオリジナルと比べるだけ野暮というもので、私としてはこの “ライヴでアルバム丸ごとコピー” という大胆なアイデアを買いたい。「ホワイト・アルバム」を曲順にカヴァーした(←前代未聞ですね!)フィッシュのライヴ盤同様、ビートルズ・ファンとしては “おたくら、ホンマによぉやりまんなぁ...(^.^)” という寛大な気持ちで接するのが正しいと思う。それに、この後でオリジナルを聴くと改めてビートルズの凄さ、偉大さ、素晴らしさを再認識できるという効用もある。
 1曲目のタイトル曲からロビン・ザンダーが絶叫する “チートリ流ビートルズ” のオンパレード。特に③「ルーシー・イン・ザ・スカイ」はライヴなのにタンブーラみたいな音まで聞こえるという入魂のサウンド・プロダクションがインパクト大で、トムのベースが唸るところなんかも大好きだ。この曲のカヴァーでは三指に入る名演だと思う。⑦「ミスター・カイト」、⑨「ホエン・アイム・64」、⑩「ラヴリー・リタ」の3曲は何故かゲスト・ヴォーカリストがリードを取っていてちょっとユルく感じてしまうが、ヴォーカルがロビンに戻ると途端にロック色が濃くなり演奏のテンションが上がるところは流石という他ない。事前に興味津々だった⑧「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」はシタール全開でカヴァーしておりその徹底ぶりには頭が下がるし、曲が終わった後に拍手と共にオーディエンスの感嘆の声が聴き取れるのが面白い。
 圧巻はやはり⑬「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」だろう。ロビンの年季の入ったヴォーカルといい、リンゴが憑依したかのようなバーニーのドラミングといい、さすがは元祖ビートルズ・マニア・バンドである。オーケストラ・パートはライヴではこれが限界なのだろう。ミドル・パートも巧くまとめられており、後半部に入る3分24秒あたりからの加速感へとつながっている。そしてアンコール(?)は⑭「メドレー・ソング」と題して「アビー・ロード」から「ゴールデン・スランバーズ / キャリー・ザット・ウエイト / ジ・エンド」だ。何だか気に竹を接いだような感は否めないが、もし自分がライヴの会場にいたらきっと大喜びしていただろう(笑) でもどーせここまでやるなら、エンディングでリック・ニールセンあたりにインナーグルーヴの逆回転呪文(?)を叫んでほしかったなぁ...(^.^)

Sgt Pepper Live- Lucy in the Sky With Diamonds/ Getting Better


Sgt Pepper Live -A Day in the Life

B-Sides The Beathes / The Smithereens

2010-06-10 | Beatles Tribute
 “B面”という言葉は CD 時代の今となってはほぼ死語に等しいが、私が音楽を聴き始めた1970年代は当然アナログ・レコードの時代であり、貧乏な中学生だった私は LP をホイホイ買うわけにもいかず、昼飯代を浮かせて貯めたなけなしのお金でシングル盤をパラパラと買っていた。当然のことながらお目当てはA面のヒット曲であり、ほとんどA面ばかり繰り返し聴いてB面は“せっかく買うたんやから一応聴いとこか...” 程度のノリで1、2回聴いてそれで終わり、というパターンがほとんどだった。
 そんな私のB面に対する概念を根底から覆したのが一連のビートルズ・シングルだった。初期~中期の作品群は英米とは違う日本独自のシングル・カットも多かったのだが、「赤盤」でビートルズに目覚めた私は、いきなり他のアルバムを買うお金もなく、「赤盤」から漏れ落ちた初期のロックンロール・シングルを中心に買って聴いていた。「ツイスト・アンド・シャウト / ロール・オーヴァー・ベートーベン」、「ロックンロール・ミュージック / エヴリ・リトル・シング」、「のっぽのサリー / アイ・コール・ユア・ネーム」など、“ベスト盤に入ってへん曲、それもB面でこんなに凄いなんて… ビートルズ恐るべし!” を痛感させられたものだ。中でも「プリーズ・ミスター・ポストマン」のB面に入っていた「マネー」の圧倒的な迫力には大いなる衝撃を受けたのをハッキリと覚えている。
 やがて国内盤 LP を1枚また1枚と買い始めたが、そーすると今度はオリジナル・アルバム未収録の曲が気になってくる。今では「パスト・マスターズ」なんていう気の利いた編集盤が存在するが、当時はもちろんそんなものはなく、 “シングル盤ディスコグラフィー” と首っ引きでそういう曲を調べ、買っていった。「抱きしめたい」のB面「ディス・ボーイ」(←「こいつ」って...史上最強の邦題やなぁ...笑)、「涙の乗車券」のB面「イエス・イット・イズ」、「アイ・フィール・ファイン」のB面「シーズ・ア・ウーマン」、「ヘルプ!」のB面「アイム・ダウン」etc、超ハイ・レベルなB面曲の数々に唸ったものだ。
 なぜB面について書いてきたかというと、今日取り上げるのが2回連続のスミザリーンズで、タイトルもズバリ「B-サイド・ザ・ビートルズ」なのだ。前回の「ミート・ザ・スミザリーンズ」も「ミート・ザ・ビートルズ」の完コピで、彼らのファブ・フォーに対する敬意と愛情の深さが伝わってきて嬉しかったが、ビートルズ・トリビュートというと判で押したように似たような選曲が横行する中(←めったやたらと「エリナー・リグビー」、「ペニー・レイン」、「サムシング」あたりが多いような気がする...)、今回の “ビートルズのB面曲特集” という企画はいかにもマニアックな彼ららしい発想で、私としては “参りました...m(__)m” という感じ。
 何と言っても1曲目が①「サンキュー・ガール」だ。コーラス・ワークといい、響き渡るハーモニカといい、初期ビートルズ好きの私はもうこれだけで嬉しくなってしまう。続くのは②「ゼアズ・ア・プレイス」、デビュー・アルバムのラス前にさりげなく置かれていた隠れ名曲をスミザリーンズお得意のパワー・ポップ・カヴァーで見事なヴァージョンに仕上げている。大好きな④「ユー・キャント・ドゥー・ザット」もギターのフレーズからバック・コーラスの細部に至るまでオリジナルに忠実に再現されており、彼らのビートルズ・マニアぶりがよくわかるトラックになっている。
 ⑤「アスク・ミー・ホワイ」はド素人の私が思っている以上の難曲なのか、かなり苦戦しているように聞こえる。特に曲のキモとでも言うべき “アイ、アアアイ♪” はやはりジョンにしか歌いこなせないように思う。ロックンロール・クラシックス⑩「スロー・ダウン」の “ブルルルル~♪” も同様で、天才ヴォーカリスト、ジョン・レノンの偉大さを改めて思い知らされる。まぁジョンと比べるのも酷な話だが...(>_<)
 インスト曲⑥「クライ・フォー・ア・シャドウ」は意表を突く選曲だが、このアルバムのこの位置に置かれると何故か良いアクセントになっているところが面白い。⑦「P.S. アイ・ラヴ・ユー」、⑧「アイム・ハピー・ジャスト・トゥ・ダンス・ウィズ・ユー」、⑨「イフ・アイ・フェル」と続くところなんか、まさに “初期ビートルズ隠れ名曲集” の様相を呈しているし、ビートルズ・ナンバーの中でも過小評価曲の極北に位置する⑪「アイ・ドント・ウォント・トゥ・スポイル・ザ・パーティー」でもヴォーカルやギターがさりげなく良い味を出している。ラストに⑫「サム・アザー・ガイ」を持ってくる曲配置にもニヤリとさせられるが、これがまた初期ビートルズが持っていたプリミティヴなエネルギー感を見事に体現したカッコ良いロックンロールに仕上がっていて私なんかもう大喜びだ。
 世間ではビートルズといえばすぐに「イエスタデイ」や「レット・イット・ビー」といったバラッド群に注目が集まるが、誰が何と言おうとビートルズの原点はポップ感覚溢れるロックンロールにあるのだということを再認識させてくれるこのアルバム、ビートルズ・マニアなバンドによる、ビートルズ・マニアのための、ビートルズ・マニアックな1枚だ。

The Smithereens - There's a Place


The Smithereens - I Don't Want to Spoil the Party

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Meet The Smithereens

2010-06-08 | Beatles Tribute
 3年くらい前だったか、私はビートルズの面白カヴァーにドップリとハマっていた時期があって、それ以降はビートルズ・トリビュートものを見つけたら必ず買うようにしてきたのだが、その結果として様々なコンピレーション盤がウチの CD 棚に並ぶことになった。輸入盤の選曲は個性的で面白いものが多かったが、東芝EMI編集による国内盤は似たような内容のものを定期的にリリースするという芸の無さで、私は10年くらい前に買った「ゴールデン・スランバーズ」というタイトルの CD 1枚で十分だった。
 しかし2003年に出た「ヤー・ヤー・ヤー」というコンピ盤はそれまでの判で押したような選曲とは違い、知らないアーティストが何組も入っていたので試しに買ってみたところコレが大当たり。中でも断トツに良かったのがスミザリーンズというバンドがカヴァーした「ワン・アフター・909」で、オリジナルよりもテンポをやや落とした重心の低い演奏が新鮮に響き、めちゃくちゃ気に入ってしまった。しかもエンディングには「ダニー・ボーイ」やルーフトップ・コンサートのエンディングMC “オーディションにパスするといいんだけど...” を挿入するという拘りようで、ビートルズ・ファンなら思わずニヤリとさせられる名演だ(^o^)丿
 しかし恥ずかしながらこの時点で私はスミザリーンズというバンドのことを全く知らなかった。ライナーによると “80年代後半の60’sリバイバル・ブーム(←そんなんあったっけ?)で波に乗ったニュージャージー出身のバンド” とある。80年代後半ならまだ毎週アメリカン・トップ 40 を聴いていたはずなのに全く記憶にない。早速チャート・データを調べてみると1990年に「ア・ガール・ライク・ユー」という曲(←フォリナーかよ!)が38位、92年に「トゥー・マッチ・パッション」が37位ということで、どうりで90年代音痴の私が知らないワケだ。
 とにかく先の「ワン・アフター・909」が良かったので一体どんなCD出てるんやろ?と思ってアマゾンで検索して見つけたのがこの「ミート・ザ・スミザリーンズ」だった。タイトルからして既にアレだが、試聴してみるとカヴァーというよりもむしろ完コピに近い内容だ。しかも選曲から曲順に至るまでアメリカでのデビュー・アルバム「ミート・ザ・ビートルズ」をそっくりそのまま再現しているのだから恐れ入谷の鬼子母神だ。私はアメリカ盤に疎いのでこのことはずっと後になってから気付いたのだが...(>_<)
 内容はまさに “21世紀版パワー・ポップ・ビートルズ” という感じで、演奏していて楽しくてたまらないという感じがダイレクトに伝わってくるところがいい。頭の固い評論家や心の狭いファンは歯牙にもかけないだろうが、私のような “楽しかったらそれでエエやん!” 的な発想のビートルズ・ファンにはたまらないアルバムなのだ。特に人形を使ったビデオクリップが面白い①「アイ・ウォナ・ホールド・ユア・ハンド」やオリジナルの持つ疾走感を失うことなく見事にカヴァーした②「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」、コピーが困難な彼らのハーモニーを忠実に再現した③「ディス・ボーイ」とくる流れが最高だ。さすがに④「イット・ウォント・ビー・ロング」はオリジナルのとてつもないエネルギーの奔流に比べると(←絶好調時のジョン・レノンと比べたら酷やけど...)ショボく聞こえてしまうけれど、⑥「オール・マイ・ラヴィング」や⑧「リトル・チャイルド」なんかはパワー・ポップ・バンドならではのノリの良さだ。⑪「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」はストーンズのヴァージョンに比肩する出来だと思う。まぁどっちにしても “完コピ・ビートルズ” としては最上位に位置するアルバムだと自信を持って言える1枚なのだ。

The Smithereens - I Want To Hold Your Hand


ワン・アフター・909

Ci De Desse Swing

2010-06-06 | Gypsy Swing
 マヌーシュ・スウィングの本場は当然フランスを中心とするヨーロッパである。しかしジプシー・ミュージック自体がまだまだ超マイナーなジャンルにすぎないこの日本でも、ジャンゴ・ラインハルトを信奉するマヌーシュ・スウィング・バンドたちがマカフェリ・ギターをかき鳴らしながら頑張っている。カフェ・マヌーシュを筆頭にスウィング・アモールやジプシー・ヴァガボンズなど、それぞれのバンドが選曲やアレンジに工夫を凝らしながら新しいマヌーシュ・スウィングを創造しようとしており、ザクザク系ギターが大好きな私としてはついつい応援したくなってしまう。
 そんな中、法田勇虫氏のプロデュースで2009年にデビューしたのが Ci De Desse Swing(シ・デ・デッセ・スウィング)という、まだ20代後半の若手3人から成るジプシー・ギター・トリオである。今日はそんな彼らのデビュー・ライヴ・アルバム「シ・デ・デッセ・スウィング」を取り上げよう。収録されているのは全10曲、マヌーシュ・スタンダードが3曲にメンバーの自作オリジナルが7曲というバランスもエエ感じだ。
 スタンダードの3曲はどれもみな原曲の良さを活かした好アレンジが施されているのがポイント。まず②「イット・ドント・ミーン・ア・シング」はドラド・シュミットの名曲「ラッチョ・ドローム」からアダプトしたイントロから始まるアレンジがめちゃくちゃカッコ良く、マヌーシュ・スウィングのキモとでも言うべきめくるめくスピード感が存分に楽しめる演奏だ。
 ⑨「ダーク・アイズ」はおそらく全マヌーシュ・スウィング・スタンダード曲の中でも最もプレイされてきた曲だと思うが、それは裏を返せば “他のバンド / ギタリスト達との比較” という俎上に乗ることを意味するので、新人バンドにとっては “おぉ、中々やるやん!” となるか “あんまり大したことないな...” となるかの分かれ目になる最重要曲だろう。シ・デ・デッセ・スウィングの演奏はストーケロ・ローゼンバーグの影響が随所に感じられる正統派で、まったく破綻のない安定したテクニックと歌心溢れるプレイに唸ってしまう。
 ⑩「チェロキー」でもメロディーを大切にしながら、持てるテクニックを駆使して聴き応え十分な演奏を聴かせてくれる。きめ細やかなアレンジも絶品で、とても新人バンドのデビュー・アルバムとは思えない充実した内容だ。ただ速いだけでなく、聴き手の心に響く音楽を演っているところが何より素晴らしい(^o^)丿
 オリジナル曲では⑤「フラグランス」が大好きで、まるでロシア民謡のような哀愁舞い散るメロディーに涙ちょちょぎれる。ここでも随所に顔を出すストーケロ節が嬉しい。⑥「ラ・プルエ」はワルツのリズムに乗って物憂げなメロディーを紡ぎ出すギターが聴き所。これまた哀愁のメロディーがたまらない⑦「ヴェント・ショー」では見事なユニゾンが楽しめるし、⑧「ミスター・フェイク」でのマヌーシュ・スウィングのお手本のようなトリオ・プレイも言うことナシで、このバンドのレベルの高さを痛感させられる。
 デビュー盤にして非常に高い完成度を誇るシ・デ・デッセ・スウィングのこのアルバム、スピーディー & メロディアスなアコギ・サウンドを愛する音楽ファンなら迷わず “買い” でっせ(^.^)

Ci De Desse Swing - Cherokee


シ・デ・デッセ・スウィング

Gipsy Trio / Bireli Lagrene

2010-06-05 | Gypsy Swing
 今日は久々に、ホンマに久々にマヌーシュ(ジプシー)スウィングである。このブログを始めた2008年秋頃はちょうどマヌーシュ・スウィングにハマッたばかりで、ローゼンバーグ・トリオに始まりチャヴォロ・シュミットやアンジェロ・ドゥバール、そしてビレリ・ラグレーンという “マヌーシュ四天王” から超マイナーなギタリストに至るまで、「マイナー・スウィング」、「ボッサ・ドラド」、「黒い瞳」、「デュース・アンビエンス」といった超愛聴曲入りの盤を中心に徹底的に買い漁り、来る日も来る日もマカフェリ・ギターのザクザク音を響かせて悦に入っていた。
 しかし元々狭~いジャンルゆえ欲しい盤は数ヶ月でほぼすべて入手できたのと、それ以降中々良い新譜に巡り合えなかった(←そんなにマヌーシュばっかりボコボコ出るワケない...)ことなどもあって、ブログ上ではマヌーシュ・フィーバーは沈静化していたのだが、自分の中ではむしろ重点ジャンルとして定着した感があり、何かエエ新譜出ぇへんかなぁとネット上の情報には常に目を光らせていた。
 そんな甲斐あってか、今年に入って何枚かクオリティの高い新譜をゲットできたのだが、そんな中でもやはり大御所ビレリ・ラグレーンのニュー・アルバムは一頭地を抜く内容で、ジプシー・プロジェクトでマヌーシュ・スウィングに回帰して以降の彼の充実ぶりが伝わってくる好盤だ。若くしてジプシー・コミュニティーを飛び出し他の様々な音楽ジャンルのエッセンスを吸収したことによって音楽的な幅が広がり、最近ではマヌーシュ・スウィングの定番ナンバー以外にもジャズやポップスのスタンダード・ナンバーをどんどん取り上げ、より磨きのかかった速弾きで円熟のプレイを聴かせてくれるのだ。
 まずは何と言っても1曲目の①「ララバイ・オブ・バードランド」が抜群の出来だ。私にとっては “コレが入ってたら必ず買う” レベルの超愛聴曲で、この曲のお気に入りヴァージョンだけ集めて1枚の CD-R を作っているほどなのだが、このビレリ・ヴァージョンはその中でもトップ5に入れたいくらいの素晴らしさ。シャキシャキしたリズム・カッティングとビレリの歌心溢れるギターが相まって他ではちょっと聴けない「バードランド」になっている。やっぱりマヌーシュ・スウィングはこうでなくっちゃ!
 ポップス系のカヴァーでは⑧「サムシング」がいい(^o^)丿 マヌーシュ・スウィングで聴くビートルズ・カヴァーというのもレアだが、そこは百戦錬磨のビレリ・ラグレーン、高い音楽性を感じさせるプレイで珠玉のビートルズ・ナンバーを見事にマヌーシュ化している。いっそのこと「ビレリ・ラグレーン・プレイズ・ザ・ビートルズ」と銘打ってアルバム1枚丸ごとマヌーシュ・ビートルズ、っていうのもエエかもしれない。
 この2曲以外では②「ニュー・ヨーク・シティ」、⑥「ショーン・ローズマリン~ナイト・アンド・デイ」、⑨「メイド・イン・フランス」、⑪「タイガー・ラグ」、⑬「マイクロ」といったオラオラ系のナンバーで縦横無尽に弾きまくるビレリがたまらない。特にこれまでライヴで何度も披露してきた自作曲⑨で、スリリングなイントロから神業プレイで一気呵成に突っ走るビレリがめちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) まさにこの曲の決定版といっていいヴァージョンに仕上がっていると思う。
 とまぁエエとこだらけのこのビレリ盤なのだが、唯一の難点は⑭「ビー・マイ・ラヴ」で彼が自慢の喉を披露していること。1998年のシナトラ・トリビュート盤「ブルー・アイズ」で味をしめたのかどうかは知らないが、それまでのトラックが素晴らしかっただけに⑭で彼の絶唱ヴォーカルが聞こえてきた時はさすがにドン引きしてしまった。餅は餅屋とはよく言ったもので、ビレリはギタリストに徹してくれた方がファンとしては嬉しいねんけどなぁ...(>_<)

ララバイ・オブ・バードランド


サムシング

A Suivre / Clementine

2010-06-03 | World Music
 クレモンティーヌにハマッてもう2週間近くになるが、いよいよ今日でクレモン祭りも最終回。3枚しか持ってなかった CD も今では17枚になり(笑)、渋谷系ミュージシャンとのワケのわからんコラボ盤やデリカシーのかけらもないヒップホップ・アレンジ盤を除き、彼女のアルバムで気に入ったものはすべて手に入れることが出来た。最初はベスト盤1枚でお茶を濁すことも考えたが、自分の愛聴曲があまり入っていなかったのと、中古で500円以下で買える盤がほとんどだったこともあって、ついつい買いまくってしまったのだ。
 ベスト盤と言えば彼女の場合、前回紹介した「アーリー・ベスト」の他にも、ボサ・ノヴァばかりに的を絞ってコンパイルした「カフェ・アプレミディ」、デビューした1987年から1996年までの7枚のアルバムからセレクトした「ア・スイーヴル」、そして1992年から2002年までのオールタイム・ベスト「ドゥ・ベスト」の計4枚が出ているが、初期の貴重な音源を数多く収録した拾遺集「アーリー・ベスト」とボサノヴァに的を絞った「カフェ・アプレミディ」以外の2枚は選曲基準が曖昧で、少なくとも私の嗜好とは少し違う。
 特にこの「ア・スイーヴル」は選曲もそうだが、収録されているヴァージョンがオリジナルとは違うトラックが全18曲中6曲と 1/3 を占めているので要注意。いわゆる “○○ミックス” と呼ばれる、オリジナルをいじくりまわしてダメにした改悪ヴァージョンのことで、これがもうウザイことこの上ない(>_<) そもそもオリジナル・テイクを超えるリミックス・ヴァージョンなんて私のこれまでの音楽人生においては数えるほどしか出会っていない。リミックスのほとんどはやみくもにビートを強調したり深いリヴァーヴをかけたり木に竹を接いだようなパートを付け加えたりとやりたい放題の挙句、オリジナルを破壊し尽くして涼しい顔なのだから呆れてモノが言えない。
 この盤でも⑦「マイ・シェリー・アモール」(キンバラ・チエコズ・オーケストラ・ミックス)、⑧「マドモワゼル・エメ」(ティー・パーティー・ヴァージョン)、⑩「カルム・タ・ジョワ」(ケン・イシイ・ミックス)、⑪「ピロー・トーク」(デジタル・ルーツ・ミックス)、⑭「パリス・ウォーク」(トウキョウ・ウォーク・ミックス)、⑯「星に願いを」(ダブ・ミックス)など、トホホなミックスだらけでウンザリさせられるのだが、一番ひどかったのが小西康陽がリミックスした①「男と女」(レディメイド・ワンマンDJミックス)だ。この小西康陽って、自身のグループであるピチカート・ファイヴでも大した作品は作ってないし、リミックスはどれもこれもワンパターンで面白みに欠けるし、絶対に過大評価されてると思う。この「男と女」でも曲想をブチ壊すような軽薄なビートで曲をケバケバしく飾り立てて反省のかけらもない。クレモンティーヌの歌声が拷問に耐えているように響く。
 とまぁこのようにベスト盤とは名ばかりの変則的リミックス集なのだが、それでも私がこの「ア・スイーヴル」を買ったのはひとえに他のどのアルバムにも入っていない激レア音源である彼女のデビュー・シングル②「アブソルマン・ジャズ」が入っていたのと、「サントロペで」の “シングル・ヴァージョン” が聞きたかったから、そして80円(!)という安値(←缶ジュースより安いもんね...)に釣られたからに他ならない。どちらも初期の彼女が持っていたジャズ・フィーリングがストレートに楽しめるトラックで、それだけでもこの CD を買って良かったと思う。
 このアルバムの収録曲の中で私が一番好きなのはやはり⑬「マリズィナ」、コレしかない。元々は1994年のアルバム「イル・エ・エル」に入っていたこの曲、バーシア1990年の大ヒット曲「クルージング・フォー・ブルージング」を想わせるオシャレなラテン系サウンドに乗ったクレモンティーヌの浮遊感溢れる彷徨ヴォーカルがたまらない(≧▽≦) とにかくどこまでもクールでありながら絶妙なポップさを保っており、大袈裟ではなく10年に一度出るか出ないかの名曲名演だと思う。こんな素晴らしい曲との出会いがあるから音楽ファンはやめられませんね(^o^)丿 

マリズィナ

Early Best / Clementine

2010-06-01 | World Music
 21世紀に入ってすっかり定着した感のある “クレモンティーヌのオシャレなカヴァー路線” のめぼしいところは大体出尽くした感があるので、前回の「コンティノン・ブルー」に引き続き、今日も “まだ日本制作サイドの手垢にまみれていない” 頃の作品を取り上げたい。彼女はデビュー当時ジャジーなアルバムを何枚か出しているが、それ以外にもフレンチ・ポップスやボサ・ノヴァなど、幅広いジャンルの楽曲を歌っていた。この「アーリー・ベスト」は彼女の父親が設立したオレンジ・ブルー・レーベルにレコーディングした作品を中心に未発表ライヴ音源なども収録した初期音源ベスト集で、彼女の盤の中でもかなり気に入っている1枚だ。
 彼女のボッサ路線は90年代後半に「クーラー・カフェ」(1999年)、「レ・ヴォヤージュ」(2000年)、「カフェ・アプレミディ」(2001年)という “ボサ・ノヴァ3部作” で結実することになるが、この盤にはクレモンティーヌ・ボッサの原点とも言える2曲③「イパネマの娘」と④「おいしい水」が収録されている。ヴォーカリストとして見た場合、彼女はあまり声量があるタイプではなく、歌い方もやや一本調子になりがちなのでボサノヴァを唄うにはうってつけなのだが、③ではそんな彼女の歌唱スタイルとゆったりした曲想とがバッチリ合って、リラクセイション溢れるヴァージョンに仕上がっている。
 そしてこのアルバム中最高のトラックが④だ。スタン・ゲッツの名演「オ・グランジ・アモール」を彷彿とさせるテナーのイントロに続いてスルスルと滑り込んでくるクレモンティーヌのクールなスキャットがめちゃくちゃカッコイイ!!! メロディーに酔い、歌声に酔い、演奏に酔いしれているうちに3分40秒があっという間に過ぎ去っていく。大好きなクレモンティーヌの中でも三指に入る名唱だと言い切ってしまおう。エンディングも粋やねぇ... (≧▽≦)
 オシャレ路線の曲では彼女の代表曲の一つといえる①「ジェレミー」がいい。ジョディー・フォスターが出演したカフェラテ CM のバックに流れていたこの曲、「雨音はショパンの調べ」を思わせる、まさに洗練を絵に描いたようなフレンチ・ポップスだ。②「イッツ・ア・シェイム」(ヨーロッパ・ヴァージョン)は元々スピナーズがスティーヴィー・ワンダーの作曲・プロデュースでモータウン在籍時に発表したソウル・バラッドで、何度も聴くうちに心に沁み渡ってきて気がつけば病みつきになっているというタイプのスルメ・チューンだ。この曲は多くのアーティストによってカヴァーされているが、そんな中でもこのクレモンティーヌ・ヴァージョンは彼女の持ち味を活かした見事なアレンジで最上の作品に仕上がっていると思う。
 ドリス・デイで有名な⑦「ケ・セラ・セラ」はクレモンティーヌの声質にバッチリ合っており、まさに選曲の勝利といいたくなる1曲。低~く伸びるベースがサウンドをビシッと引き締めているところも◎だ。彼女の大好きなリッキー・リー・ジョーンズの⑨「イージー・マネー」はリッキー・リーと化したクレモンティーヌのヴォーカルと浮遊感溢れる不思議なバックのサウンド(←ここでも重低音ベースが効いてます!)が溶け合って実に快適なヴァージョンに仕上がっている。⑩「エル・マニセロ」は後にアルバム「クーラー・カフェ」でサンバっぽくテンポを上げて再演されることになるが、ここではミディアム・スローでゆったりと歌っており、絶妙なリラクセイションを生み出している。ホンマに気持ちが和むなぁ...(^o^)丿
 後半は自宅倉庫から発見されたという秘蔵ライヴ音源で、マイケル・フランクスの⑪「ダウン・イン・ブラジル」、アントニオ・カルロス・ジョビンの⑫「十字路」、ガーシュウィンの⑬「ス・ワンダフル」、セルジュ・ゲンスブールの⑭「クーラー・カフェ」、ベン・シドランの⑮「チャンセズ・アー」の5曲を収録。特にガーシュウィンの名曲をボッサ・アレンジで聴かせる⑬が実に斬新で、この路線で色々なスタンダードをボッサ化してくれたらエエのになぁと思わせる素晴らしいヴァージョンに仕上がっている。とまぁこのように名曲名演が一杯詰まった「アーリー・ベスト」、初期のクレモンティーヌは何はさておきこのアルバムから、と自信を持って言える1枚だ。

おいしい水


森永カフェラッテ ジョディ・フォスター