shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Battles Without Honor And Humanity: The Complete Collection Blu-ray Box

2017-02-25 | TV, 映画, サントラ etc
 ビートルズのアナログ各国盤シリーズも一段落したので今回はガラリと趣向を変えて音楽から離れ、先月亡くなった松方弘樹の追悼に最近手に入れたブルーレイ・ボックスを取り上げようと思う。
 私は任侠映画の大ファンで古き良き東映黄金時代の諸作品から最新のVシネマまでほぼ欠かさず観ているのだが、これまで観てきた何百という任侠モノの中で私が最高傑作と信じて疑わないのが「仁義なき戦い」シリーズだ。そしてオールスター・キャストと言っても過言ではない超豪華な出演陣の中でも特に強烈なインパクトを受けたのが小林旭と菅原文太、そして当時若手の注目株だった松方弘樹だ。
 彼は5部作中の3作品にそれぞれ違った役柄で出演し、その3回ともに志半ば(?)にして殺されている。まさに “松方弘樹は3度死ぬ”(←007かよ...)というワケだが、それだけ深作欣二監督が彼の才能を高く買っていたということだろう。特に5作目の「完結編」で彼が演じた市岡輝吉のインパクトは強烈で、宍戸錠演じる大友勝利との絡みのシーンなんかもう最高だ。結局、彼は映画の真ん中あたりで殺されてしまうのだが、作品の途中で姿を消しても記憶に強く残る演技が出来るところに役者・松方弘樹の真骨頂があると思う。
 そんな彼の訃報は私にとっては大きなショックで、その週末は追悼のために「仁義なき戦い」を始めとして「修羅の群れ」「北陸代理戦争」「最後の博徒」「新・日本の首領」といった彼の代表作DVDを一気観。どの作品も文句のつけようのない名作だが、中でもやはり「仁義なき戦い」シリーズは異次元の素晴らしさだ。
 これらのDVDを観終わった後、ふと “大画面用にレストアしてブルーレイで出てへんかな...” と思いついた私(←去年観たシェア・スタジアム・ライヴのレストア版で味をしめた???)はすぐにアマゾンをチェック。シリーズ5作にボーナスディスクを加えた国内版ブルーレイ・ボックスを見つけたのだが、3万円はさすがにちょっと高すぎる。ヤフオクも似たようなモンで、既にDVDで持っている盤にそんな大枚を叩く気にはなれない。そこで国内がダメなら海外があるわいとeBayを覗いてみたところ、何とUS版のブルーレイ・ボックスが「Battles Without Honor And Humanity」というタイトルで出ているではないか! しかもありがたいことにリージョン・フリーで、何と英語の字幕付きらしい。あの強烈な広島弁のやり取りがどんな風に英語に訳されているのか、大いに興味をそそられるところだ。
 このUSボックスは2,500セット限定商品とのことで、発売から1年が経ちそろそろプレミアが付き始めているらしく、発売時は定価$100だったものが$250~$350ぐらいの高値で取り引きされていたが、ラッキーなことにたまたま$100の即決価格で出品されたブツを発見、送料込みでも国内版の半値以下で買える計算だ。私は迷わず買いを決めた。
 このボックスは第1作「仁義なき戦い」(Battles Without Honor And Humanity)、第2作「広島死闘篇」(Hiroshima Death Match)、第3作「代理戦争」(Proxy War)、第4作「頂上作戦」(Police Tactics)、第5作「完結篇」(Final Episode)の各巻がBlu-rayとDVD2枚組セット(共にリージョン・フリー)で、更に「総集篇」(The Complete Saga)Blu-ray 1枚が付いた13枚組セットになっており、日本語PCM音声に英語字幕が付いた美麗映像で深作欣二監督が作り上げた日本ヤクザ映画の金字塔を心ゆくまで堪能できる。
 ジャケットカヴァーはリバーシブル仕様になっており、表が描き下ろしオリジナル・イラストで、裏が日本公開時のオリジナル・ポスターという粋な作りになっているのもファンとしては嬉しい。更に「The Yakuza Papers」と題した全152ページのハードカヴァー・ブックレットまで付いており、各エピソードにおける人物相関図を始め、様々なエッセイやらインタビュー、そして貴重な写真が満載だ。
 映像は丁寧にレストアされており、大画面での鑑賞に十分耐えうるレベルまでグレードアップ。又、広島弁の英語訳も期待を裏切らない面白さで、“へぇ~、このセリフがそんな英語になるんか...” と大いに楽しませてもらった。松方絡みのセリフで特に印象に残ったものを挙げてみると...
①1作目、山守組若頭・坂井(松方)が山守親分(金子信雄)を恫喝するシーン
「あんたは初めからワシらが担いどる神輿じゃないの。組がここまでなるのに誰が血ぃ流しとるの?神輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみいや!」
(You're just the palanquin. We've always done the heavy lifting. Who shed the blood to get us here? You think you can make it on your own, palanquin?)
仁義なき戦い 名言「神輿が勝手に歩ける言うんなら歩いてみいや 」

②5作目、敵対関係にあった大友勝利(宍戸錠)と市岡輝吉(松方)が兄弟盃を交わすシーン
「お互い分のある縁組みじゃけぇ、受けてもエエんじゃないですか」
(If this marriage can benefit us both, why not go along with it?)
「そらぁエエがのぉ、市岡、オマエ盃ゆぅモンを軽う見とりゃせんか?牛の糞にも段々があるんでぇ。おどれとワシが五寸か? 軽う見んな!」
(Fine, Ichioka, but aren't you taking the vows of brotherhood too fucking lightly? Even cow shit has different grades, you know. Are you saying you and I are equals? Don't insult me!)
仁義なき戦い 名セリフ 完結篇「牛の糞にも段々があるんで、おどれとわしが五寸かい」

③同じく5作目、敵の縄張を荒らしに乗り込んできた市岡輝吉組長(松方)が若い衆を煽るシーン
「オゥ、オマエら、かまわんけぇ、そこらの店、ササラモサラにしちゃれい!」
(Scatter into the shops around here and have yourselves some fun.)
仁義なき戦い 名セリフ 完結篇「そこらの店ササラモサラにしちゃれい」

 私はこの「ササラモサラ」という言葉の響きが大いに気に入り(←“メチャクチャ”っていう意味の広島弁か?)、昔気質のイケイケドンドンなヤクザを演じる松方の怪演と相まって忘れられないシーンになっているのだ。去年出たVシネマ作品でも有象無象の共演者たちが霞むような圧倒的な存在感で、まだまだこれからも楽しませてくれるだろうと思っていただけに彼の死は本当に残念だ。ここに心よりご冥福を祈りたいと思う。
 尚、松方以外では、1作目のラストで菅原文太が放つ名セリフ「山守さん、弾はまだ残っとるがよう...」(Yamamori, I've still got some bullets left...)があまりにも有名だ。
仁義なき戦い 名言「弾はまだ残っとるがよう 」

又、日本映画史上屈指の名シーンと私が信じる小林旭vs 梅宮辰夫(4作目)の火の出るような言葉の応酬...
小林:「広島極道はイモかもしれんが、旅の風下に立ったことはいっぺんもないんで。神戸のモンいうたら猫一匹通さんけん、おどれら、よぉ覚えとけや!」
(We may not be very sophisticated here in Hiroshima, but we never let visitors stand upwind of us. We won't let so much as a cat get through if he's from Kobe. Don't forget that!)
梅宮:「よぉし。おんどれらも吐いた唾、飲まんとけよ。ええな。わかったら、早よ いね!」
(Fine. You guys take care your spit doesn't blow in your own faces. Got that? Now get out of here!)
... は何度聞いても鳥肌が立つくらいスリリングだ。やっぱり東映の任侠路線は最高じゃのぉ...(^.^)
仁義なき戦い 名セリフ 頂上作戦 「広島極道は芋かもしれんが旅の風下に立ったこたぁいっぺんもないんでぇ」

ビートルズのドイツDMM盤特集⑤

2017-02-18 | The Beatles
 ビートルズのドイツDMM盤特集の最終回はこの2セット計4枚のレコードで公式録音曲の約1/4を押さえたことになる「赤盤」と「青盤」だ。

①The Beatles 1962-1966 [05307-A2+//D, 05307-B2+//D, 05308-A2+//D, 05308-B2+//D]
 私が初めて買ったビートルズのアルバムは何を隠そうこの「赤盤」である。このレコードとの出会いがなければ私の音楽人生は今とはかなり違ったものになっていたか、ひょっとすると音楽に縁のない無味乾燥な日々を送っていたかもしれない。そういう意味でこのアルバムへの思い入れはめちゃくちゃ強いのだが、そういった個人的な思いを差し引いてもこのレコードは圧倒的に、絶対的に、超越的に素晴らしい。もちろんベスト盤ということでシングル・ヒット曲がたくさん入っていることもあるが、何よりもその選曲や曲の配置が素晴らしく、「ラヴ・ミー・ドゥ」から「イエロー・サブマリン」に至るまでの前期の代表曲26曲がまるでオリジナル・アルバムのような大きな流れを形作っており、LP2枚組丸ごと一気呵成に聴けてしまうのだ。今風の言葉で言えばまさに “神ってる” と言っていいかもしれない。
 そんな “究極の愛聴盤” がDMMでリリースされていると知って食指が動かないワケがない。しかも「フロム・ミー・トゥ・ユー」「シー・ラヴズ・ユー」「アイ・ウォナ・ホールド・ユア・ハンド」「アイ・フィール・ファイン」「ウィー・キャン・ワーク・イット・アウト」「デイ・トリッパー」「ペイパーバック・ライター」といったオリジナル・アルバム未収録のシングル曲がDMMの強烈な音で聴けるのだ。これを買わねばビートルズ・マニアではない。
 更に私の好奇心をくすぐったのが例の「アナログ・ミステリー・ツアー」に載っていた録音評だ。そこには何と “ドイツDMMの中で最も狂った音が聴ける” とか “極度に肥大した低域は曲が持つ意味合いをまったく変えており、聴いていてあっけにとられる” とか書かれていたのだ。 まぁ読み物としてはめちゃくちゃ面白いが、それにしても言うに事欠いて “最も狂った音” とは凄い表現だ。まさに “そこまで言うか...!” レベルの一刀両断ぶりだが、逆にここまで言われて “これは面白そうだ...” と思わなければビートルズ・マニアではない。
 このレコードは eBay には出ていなかったので Discogs で探すとラッキーなことに MoldyFigRecordsというセラーがNMの盤を$40で出していた。 Discogs のセラーはあまり信用できないので念のためにドイツDMMか確認(←レッド・ビニールの盤で、センター・レーベル左上にハッキリDMMと明記されており、ジャケット左上にはステッカーっぽい印刷がされている)のメールを送るとしばらくしてからYESという返事が来たのだが、驚いたことに私の確認メールを見てから $40 → $75 へとこっそり値上げしてあるではないか! こんなクソ野郎からレコードなんて買えるワケがない。ということでコイツは即ブロックして別のセラーからVG+盤を $28 で購入。届いたレコードはジャケットが少々傷んではいたが盤の状態はほぼ新品同様で大喜びした(^.^)
 で、肝心の音の方はと言うと、確かに低音はズンズン腹にくるし高音は突き抜けるように伸びているしでまさに絵に描いたようなドンシャリの音作り。特に凄まじいのはD面で、「ミッシェル」や「イン・マイ・ライフ」なんかもうデリカシーのかけらも感じられない(笑) “曲が持つ意味合いをまったく変えて云々...” の件はまさにこのあたりのことを指しているのだろう。UKオリジナル盤(マトは-1/-1/-3/-1)と聴き比べてみるとそのあたりの違いは歴然で、確かにDMM盤の音の出方はナチュラルさを欠いた武骨なもので堅気の音楽ファンにはちょっとキツいかもしれないが、爆音好きの私には十分許容範囲内。アンプのヴォリュームを上げていくと低音がグワ~ンと地を這うように伝わってきて尻がムズムズするし、バシャ~ンと破裂するように響くシンバルも耳に心地良い。やっぱりビートルズはガツン!とくる音で聴くに限りますな(^.^)

②The Beatles 1967-1970 [05309-A2+//D, 05309-B2+//D, 05310-A2+//D, 05310-B2+//D]
 私は「赤盤」でビートルズに入門した後、個々のアルバムを1枚また1枚という感じで買い揃えていったのでアルバム未収録曲の入ってない「青盤」をわざわざ買う必要がなくなり、付属のディスコグラフィーと年表欲しさでこのアルバムの中古盤を500円(!)で買ったのはかなり後になってからのことだった。そのせいもあって、「赤盤」に比べると私の「青盤」への思い入れはほとんど無いに等しい。
 しかし今回のDMM盤蒐集に関しては、安心ラクチン格安パックツアー(?)みたいな感じで手っ取り早く後期の代表曲をDMMの音で聴けるということで、ちょうど“DMMサンプラー”的な感覚でこのレコードを購入。こちらは eBayでイタリアのセラーから£24.99で買うことが出来た。
 届いた盤はもちろん青のカラー・ビニールだったが、何故か赤盤やホワイト・アルバムとは材質の違う半透明のレコードだ。しかし音の方は赤盤同様のアウトローっぷりで、縦横無尽に暴れまわるポールの巨大なベースがめっちゃ気持ちいい(^_^)  大音量で聴けばボディーブローの連打を浴びているかのような錯覚を覚えるヤクザな低音だ。高音域も確かに凄い爆発力なのだが、音作りの明確な方向性が決まらず迷走状態にあった初期アルバムのDMM盤のように音が耳に突き刺さるようなことはないので、竹を割ったような豪快な音で後期の曲を聴きたいというマニアには超オススメのレコードだ。

ビートルズのドイツDMM盤特集④

2017-02-12 | The Beatles
 ビートルズのドイツDMM盤特集パート4は後期の3枚+コンピ盤「レアリティーズ」だ。

①Yellow Submarine [04002-A1, 04002-B2]
 私にとってこの「イエロー・サブマリン」というアルバムは極論すれば「ヘイ・ブルドッグ」1曲のために存在する。楽しさ溢れる「オール・トゥゲザー・ナウ」やジョージの2曲はどーした?と言われそうだが、それら3曲はアルバムの中ではあくまでも名脇役であって決して主役ではない。一昔前のF1で言えば(←燃費を気にしながらペース配分して走らざるを得ない今のF1はクソつまらん!)ベルガーやパトレーゼ的な存在で、決してセナ、プロスト級ではないということだ。
 そんなワールド・チャンピオン・クラス(?)の超愛聴曲「ヘイ・ブルドッグ」がDMM効果によってどんな音で鳴るのかが聴きたくてこの盤を買ったのだが、結果は期待を裏切らない轟音で、自由闊達に歌いまくるポールのベース(←これホンマに凄いです!)がDMM特有のクリアーな音で聴けて大満足(^.^)  ダブル・トラック処理されたジョンのヴォーカルも実にパワフルに響くし、ガンガン打ちつけるピアノの低音もこの曲の持つへヴィネスに拍車をかけている。因みに爆音が売りの「イエロー・サブマリン・ソングトラック」の同曲とも聴き比べてみたがその差は歴然で、圧倒的にこのDMM盤の方が音が良かった。
 「ヘイ・ブルドッグ」以外では不気味にうごめくが如き低音が耳に残る「イッツ・オンリー・ア・ノーザン・ソング」やカオス状態でのハジけ方がイマイチ物足りない「イッツ・オール・トゥー・マッチ」よりも竹を割ったような潔さが気持ちいい「オール・トゥゲザー・ナウ」が出色の出来。躍動感溢れるリズムをザクザク刻むアコギの音はDMMとの相性バッチリで、この曲の魅力を上手く引き出した音作りになっている。

②Abbey Road [1042431 -A1, 1042431-B1]
 DMM盤というのは主役であるはずのヴォーカルやギターに遠慮せずに思う存分ベースとドラムスに浸りきるレコードだ。この「アビー・ロード」でもそれは同様で、「カム・トゥゲザー」や「ヒア・カムズ・ザ・サン」で聴ける肥大化したベースには言葉を失うし「ジ・エンド」におけるリンゴのドラミングも強烈なのだが、肝心のヴォーカルがキンキンして不自然に響くわ、音空間も狭くてステレオの良さが全然感じられないわではハナシにならない。DMMによって得た物よりも失ったものの方が遥かに大きい気がするのだ。
 それにこの「アビー・ロード」というレコードの本来の姿はあくまでもUKオリジナル盤で聴けるメロディアスなロック・シンフォニー絵巻の壮大なサウンドであって、バランスを崩してまで力強いビートを楽しむための盤では決してない。これはビートルズやジョージ・マーティンが意図したサウンドとは明らかに違う “デフォルメされたサウンド” であり、ベース&ドラムス好きの私ですら何回か聴くうちに飽きてきて “やっぱり耳に馴染んだUK盤の方がエエわ” と思ってしまった。UK盤を血の通った人間とするなら、DMM盤はさしずめサイボーグといったところか。そういう意味では “テクノロジーが生み出した鬼っ子” とでも言うべきこのDMM盤は万人にはオススメできない異端の1枚と言えるかもしれない。

③Let It Be [04433 -A1, 04433 -B2]
 “ロックンロール・バンドとしてのビートルズ” が好きな私はフィル・スペクターが女性コーラスやらオーケストラやらを付け足して厚化粧を施したアルバム「レット・イット・ビー」はセンチメンタルでかったるいサウンドが不満で、 “このレコードをもっとパワフルな凛々しい音で聴きたい!” との思いからPhil&Ronnie刻印入りUS盤や南アフリカ・マト1盤など色んな「レット・イット・ビー」に手を出してきたが、どれもこれも私が望む音とは程遠い中途半端なサウンドで、最近ではUKオリジ以外の有象無象盤はほとんど聴かなくなっていた。
 そういうワケで今回このDMM盤を手に入れた時もこれまでの経験から正直あまり期待はしていなかったのだが、実際に聴いてみてビックリ(゜o゜)  “軽やか” というイメージがあった「トゥー・オブ・アス」のアコギのストローク音は重厚に響くし、「アクロス・ザ・ユニバース」や「レット・イット・ビー」「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」といったスロー・バラッドですら実にパワフルで一回りスケールアップして聞こえる。ましてや「ワン・アフター・909」や「ゲット・バック」といったアッパーな曲に至ってはDMM効果で聴感上の疾走感が大きくアップしており、“やっぱりビートルズはこうでなくっちゃ!” との思いを改めて強く感じさせてくれるバリバリのロックンロールになっている。他のDMM盤とは違ってベースやドラムスだけではなくギターもヴォーカルもコーラスも、盤に刻み込まれたありとあらゆる音に力感が漲っているところが素晴らしい。
 このレコードは “「レット・イット・ビー」はUK、デンマーク、そしてこのドイツDMM盤があればそれで十分”... そう言い切ってしまいたくなるような逸品中の逸品であり、全DMM盤の中で最もターンテーブルに乗る回数が多いアルバムなのだ。

④Rarities [06867-A2, 06867-B1]
 CD時代に入ってからは「パスト・マスターズ」に取って代わられ今や完全にその役目を終えた感がある「レアリティーズ」だが、1979年にこのアルバムが初めてリリースされた当時は「アクロス・ザ・ユニバース」の通称 “バード・ヴァージョン” が聴けるとあってファンの間でかなり話題になったものだった。
 というワケでこのアルバムの目玉トラックである「アクロス・ザ・ユニバース」を1969年にリリースされたオリジナルのRegal Starline盤と聴き比べてみたのだが、これはもう圧倒的にオリジナル盤の方が音が良い。イントロの鳥の羽ばたきからしてオリジナル盤の方が鳥の数が多いんちゃうかと思えるくらい自然な広がりを感じるし、アコギのコード・ストロークの音も力強く響く。要するに他の盤で聴けるようなDMMの良さが全く出ていない凡庸なサウンドなのだ。又、「抱きしめたい」のドイツ語ヴァージョンでは右スピーカーから聞こえるヴォーカルに風呂場で聴いているかのような過剰なエコーがかけられていて気持ち悪いったらない(>_<)  ビートルズの歌声にエコーをかけるな!!!
 しかし盤をひっくり返してB面に入ると状況は一変、1曲目に収められた「レイン」はそういった不満を雲散霧消させてしまう素晴らしいサウンドで、どんよりしたA面との違いにビックリさせられた。とにかく一つ一つのアタック音が “力強い” のだ。イントロでいきなり炸裂するリンゴのスネア5連打の凄まじさには思わずのけぞってしまいそうになるし、ポールのベースもブンブン唸って力強く脈打ちながら曲を根底からしっかりと支えている。調子に乗ってアンプのヴォリュームを上げていくとリスニングルームはまさにDMMワンダーランド、サウンドの大海原と化し、ジョンの名曲数え歌、ポール掟破りのインタープレイ、そしてリンゴのスーパー・テクニックが炸裂するドラミングはアックスボンバー三つ又の槍の如し(?)で、私なんか聴くたびに完全KOされてしまう。B面の残り7曲でもA面とは打って変わってDMMらしい元気溌剌としたサウンドが聴けるのだが、私的にはパワフルな「レイン」が聴けるだけで大満足だ。

ビートルズのドイツDMM盤特集③

2017-02-05 | The Beatles
 ビートルズのドイツDMM盤特集パート3は中期の4枚をご紹介。初期の4枚に比べるとDMMの音作りがかなり安定してきているように思える。

①Help! [04257-A1, 04257-B1]
 ドイツDMM盤の一番の特徴はいわゆるひとつの “低域メガ盛り” だが、この「ヘルプ!」では “巨大化したベース” とか “地鳴りのように響くバスドラ” といった極端な欠点は影を潜め、同じ低音でも「プリーズ・プリーズ・ミー」のような野放図な“ボーン”ではなく沈潜的な“ズーン”に近い音へと質的な変化が感じられる。
 低域の深化によってA②やA⑦といったロック系の曲はドライで硬質な味わいが強まって押し出し感の強い強靭なサウンドになっているし、A③やB②といったフォーキーな曲では音像がひとまわり大きくスケールアップしていて聴き応え十分だ。ただし「ビートルズ・フォー・セール」ほど酷くはないものの、“高域を強調し過ぎ” という欠点が完全に解消されているとはいえず、ウチのシステムではA④やA⑤でプリアンプのトレブルを一目盛りほど絞って聴いている。DMMの音作りにおける “盛り” のさじ加減ってホンマに難しいですな。

②Rubber Soul [04115-A2, 04115-B1]
 「ラバー・ソウル」は泣く子も黙るUKモノ1stプレスのラウドカット盤の存在を抜きにしては語れない。ステレオとモノラルの違いがあるとはいえ、爆音が売りのドイツDMM盤のコンプリート蒐集を心に決めた時点から両者の比較が何よりも楽しみだった。実際に聴き比べてみると同じ爆音でもラウドカット盤の方は全帯域において音圧が高く、まるで巨大な音の塊がスピーカーから迸り出てくるような感じなのに対し、DMM盤の方は個々の楽器(特にベース)の音が強調されていてヘタをすると別ミックスのようにも聞こえかねないのだが、あくまでも許容範囲内に収まっているので聴いていて違和感を覚えるようなことは一切ない。一言でいうと、ラウドカット盤が “凄い音” で DMM盤は “面白い音”(←もちろん良い意味で...)という感じ。特にヘフナーからリッケンに持ち替えたポールのベース・ラインが他のどの盤よりもクリアーに聞き取れるので、“ここでこんなフレーズ弾いてたんか...” という発見があったりして中々楽しい(^.^)
 又、DMM盤特有の広いランオフ・エリアのおかげでラウドカット盤のA⑦で発生するいわゆるひとつの “内周歪み” に煩わされることなく音楽に浸れるのも大きなメリット。DMMならではのクリアーでシャキシャキした音はA⑤B①B③B⑦のようなアッパーな曲の魅力をアップさせているし、A④で眼前に広がる雄大な音空間もめっちゃ気持ちがいい。そういうワケで、ステレオに限って言えば両面マト2のUK盤よりもむしろこのドイツDMM盤の方がターンテーブルに乗る回数は多いかもしれない。ドイツ盤も中々やるやん(^.^)

③Revolver [04097-A1T, 04097-B1T+1]
 DMM盤の一番の特徴はでっかいベースの音であることは論を待たないが、「リヴォルヴァー」の原盤は元々低音重視の音作りがなされているせいか、他のDMM盤を聴いた時のようにベースの音のあまりのデカさに驚かされるというようなことはない(←まぁそれでも強烈な音が入っていることに違いはないが...)。それより何より印象的だったのは超クリアーな音でこのレコードが聴けることで、A②でイントロのコーラスに続いて右チャンネルから聞こえてくるポールのヴォーカルの生々しさは筆舌に尽くし難いし、左チャンネルから聞こえてくるストリングスの音もめっちゃアグレッシヴ(≧▽≦)  この1曲を聴くだけでもこのアルバムを買う価値は十分にあると思う。
 このDMM盤は音の定位もいじってあるようで、曲によってはかなりセンター寄りにヴォーカルが位置するので聴感上はモノラルに近いサウンドになっており、音が上下左右に散漫に広がらず真ん中に密集した結果、行き場を失った音が前へ飛び出してくるような感じがする。ひょっとすると担当したドイツ人エンジニアがステレオの左右感ではなく前後感を狙ったのかもしれない。この音作りはリンゴの超絶ドラミングが炸裂するA⑦やB⑦のような “リヴォッてる” 曲では特に効果テキメンで、他の盤とは一味違うカッコ良いトラックに仕上がっている。この2曲は絶対に大音量で聴くべし!だ。

④Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band [04177-A1, 04177-B1]
 手持ちの「サージェント・ペパーズ」のステレオ盤の中ではUK黄パロ盤とドイツ・ゴールド・オデオン盤、そしてこのドイツDMM盤がトップ3(←残念なことにニンバス・プレス盤は持ってない...)だ。この3枚はどれも甲乙付け難い高音質盤で、音の鮮度ではUK黄パロ盤が、ステレオ・ミックスの完成度ではドイツ・ゴールドオデオン盤が、そして音の凄さではドイツDMM盤が抜きん出ている。
 とにかくDMMのメリットを一番享受する楽器であるベースとドラムスの “音” の凄さは特筆モノで、A①やB③ではとてもリンゴとは思えないような(笑)ダイナミックなドラミングが炸裂、ビシバシ決まる一打一打が痛快そのものだし、B⑤では気合い十分のプレイで最高のビートを叩き出してバンドをグイグイ引っ張っていく。ポールのベース音も低くグワーンと下から突き上げるような感じで戦闘的に前へ飛び出してきて実に気持ちが良い。A②③ではゴムまりのように弾むベースがブンブン唸ってめちゃくちゃカッコ良いし、A⑤でズシリ、ズシリと響く様はまるで軍隊の行進のようで凄味すら感じさせる。このようにリズム隊が躍動するとバンドのドライヴ感に拍車がかかり、音楽が屹立する。まさに最高の再生芸術だ。ということで、数ある「サージェント・ペパーズ」盤の中で最もロックンロールを感じさせてくれるのがこのドイツDMM盤なんである。