鰐魚の恋ごころ

2008-10-28 | 読書
 古事記、豊玉毘売命(トヨタマビメノミコト)の出産の段。上巻の最終である。
 山幸彦(日子穂穂手見命)が、地上のもとの国に還ってしまって、妻の豊玉毘売命はどうしたのか気になるところである。既に、山幸彦の子を孕んでいた。毘売は、地上の神の子を海で産むわけにはいかないと、夫のもとへ行く。
 渚に鵜の羽を葺草(かや)に産殿を建てるのだが、完成する前に産気づいてしまう。豊玉毘売命は、夫に、「出産のときには、もともとの姿に戻ってしまいます。見ないでください」と言い置いて、産殿に入った。豊玉毘売命は、わたつみの神の娘、もともとは、鰐魚の族である。山幸彦は、産殿に鰐魚がのたうちまわっているのを見てビックリすることになる。豊玉毘売命は、そんな姿を見られたことをいたく恥じて、わたつみの国へと戻ってしまう。その時生まれた御子の名が次の通りである。
 天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命(あまつひこひこなぎさたけうかやふきあへずのみこと)。
 よく読めば分かるが、出産の時の状況が、そのまま名前になっている。
 豊玉毘売命は、地と海の間の道を塞いでしまうわけだが、時を経て、やはり夫を恋しく思う。御子の養育ということで妹を地の国につかわすのである、夫への歌を託して。その歌と、日子穂穂手見命の返歌。
 赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装し 貴くありけり
 沖つ島 鴨著つ島に 我率寝し 妹は忘れじ 世のことごとに

居酒屋の銀杏の実

2008-10-28 | 【樹木】ETC
 「きのこおこわ」を買ってきてくれと言われた。
 その店に、言われたとおぼしきおこわが売られていた。
 その中に銀杏の実が混じっていた。
 先日、今年になってまだ銀杏の実を食べていないと書いた。
 それは、そのような居酒屋に行っていないからとした。
 しかし、居酒屋に行かずして食べることができた。
 ただし、うまくはなかった。
 やはり、居酒屋へ行かねばならないか。
 殻のまま炒めて、透明感のある実に塩をふるのがいい。

山幸彦の帰還

2008-10-28 | 読書
 古事記、山幸彦の報復の段。
 山幸彦は、わたつみの神の宮で、美しい妻とともに、三年の歳月を楽しく過ごした。そのとある夜、妻は深いため息をつく夫を見る。
 綿津見神が、彼に問いただすと、兄の釣り針をなくし、途方に暮れるなかで、この宮に来たことなどを語った。
 綿津見神は、魚たちを招集し、「誰か釣り針を知らないか」と質した。そして、喉に何かをつまらせて困っている赤い鯛がいることが判明。その鯛の喉を探ると、山幸彦がなくした釣り針が出て来た。
 綿津見神は、山幸彦に、兄に針を返すときは、手を後にまわして、次のようにとなえよと教える。
 「この鉤は、おぼ鉤、すす鉤、貧鉤、うる鉤」と。「この釣り針は、鬱になり、いらいらがつのり、貧しく、愚かになる釣り針」という意味で、呪文である。田んぼは、兄とは別な場所に作れと言う。兄が、高いところに作れば、山幸彦は、低いところに作るというように。つまり、「自分は、水のことを掌握しているので、山幸彦の田には、豊かに流すが、兄のところには流さない。兄は、作物がとれず、三年のうちに貧窮に陥るであろう」と言うことである。
 その上、兄が怒り、山幸彦に攻めいたることを想定して、二個の珠玉を授けた。潮満珠(しおみつたま)と潮干珠(しおふるたま)である。潮満珠を出せば、兄は、潮に溺れ、潮干珠をだせば、潮が引いて助ける事が出来るという呪力をもつ珠玉であった。要するに、報復できるようにとの伝授である。
 そして、綿津見神のはからいで、一番速く泳ぐ鰐魚を用意してくれて、山幸彦は、もとの国に帰ることになった。帰還してからの兄との出来事は、言われていた通りとなった。兄は、苦しみもがき、遂に、山幸彦の前に屈し、「今後はあなた様に仕える」と言う。
 いじめっ子が、いじめ返されると言うような話である。半端にゆるしたりしないところが、すっきりしていていい。

わたつみの神の宮に

2008-10-28 | 読書
 古事記、山幸彦のわたつみの神の宮の段。
 山幸彦は、兄の釣り針を海に失い、どうしても元の針を返せと言われて途方に暮れていた。海は青くゆったりとしているが、山幸彦の気持ちは、暗い洞窟に蠢くフナムシになったみたいだったと言えようか。
 浜辺にうずくまる山幸彦の前に、潮の流れを司る塩椎神(シオツチノカミ)が現れて、言う。
 「この舟に乗り、潮のままに行け」と。竹で編んだ小舟であった。
 「この舟はやがて綿津見神(ワタツミノカミ)の宮に着く。宮の門の近くに井戸があって、そのかたわらに桂の木が生えている。それに登っていると、女性が現れて、なんとかなる」と言われ、他に為すすべもないもない山幸彦は、その言に従う。
 小舟は潮にのりスルスルと流れ進んだ。どこを通ったのか、いくばくの時が過ぎたのか、気づいたときには、魚鱗が光り輝くような綿津見神の宮の前にいた。桂の木には、すぐに気づいた。ハート型の葉をした桂は、神々しく見えた。木に登り、太い幹に腰をおろして一休みした。
 そうしていると、瓶を持って、井戸の水を汲みに女がやってきた。女は、井戸の水の面に映るものを見て、かたわらの桂のうえに山幸彦がいることに気づいた。山幸彦は、女に、水を所望した。女は瓶を捧げた。山幸彦は、水を飲むことなく、首のかけていた玉の緒を解き、その玉を口にふくみ、瓶の中に吐き出した。すると、その玉は瓶にくっついて離れなくなってしまった。
 この不思議な出来事は、すぐさま、女から綿津見神の娘である豊玉毘売(トヨタマビメ)に報告された。「いと麗しき壮夫」のなしたことと。
 かくして、山幸彦と豊玉毘売は出会い、お互いに一目惚れ。豊玉毘売は、すぐにも抱かれてもいいとの風情。父の綿津見神も、山幸彦が高貴な神と気づき、大歓迎。山幸彦と豊玉毘売は夫婦となる。
 山幸彦のそれからは、竜宮城を訪れた浦島太郎さながらの楽しき日々。
 瞬く間に三年の歳月が流れた。
 この段には、桂が出てくる。この桂は、香木と記され、「かつら」と読む。天若日子(アメノワカヒコ)の段では、楓と書いて、「かつら」と読んだ。桂は聖樹とされている。