浮きぬ沈みぬ

2016-06-29 | 読書
 謡曲「鵺」を読んだ。
 源頼政の矢に射られて退治された鵺の亡霊が舟人の姿で現れる話である。
 現れるのは、芦屋の浜。
 鵺は、頭は猿、尾は蛇、足手は虎のごとしという怪物である。
 殺された鵺は、空穂舟に押し入れられて、淀川に流された。
 旅僧に弔われる。
 鵺の亡心の裡をのぞいてみたかったが、ザッと読んだだけだったので、よく分からなかった。
 地謡で、「浮む力となりたまえ」「なき世の人に合竹の・・・」「浮きぬ沈みぬ」。
 鵺の亡霊の語りで。
 「我悪心外道の変化となって、仏法王法の障りとならん」
 「思へば頼政が矢先よりは、君の天罰を当りけるよと、今こそ思ひ知られたれ」
 そして、次のようにしめられる。
 「朽ちながら空穂舟の、月日も見えず暗きより、暗き道にぞ入りにける。遙かに照らせ山の端の、遙かに照らせ山の端の、月と共に海月も入りにけり、海月と共に入りにけり」
 鵺はどうして、そう言う宿命となったのか。

春のおもかげ

2016-06-29 | 【断想】ETC
 悲しい夢
 過ぎにし日々
 確かに春もあった
 とは言うものの
 おおかたは闇の道
 これからも闇の道
 式子内親王の歌をなぐさめに
 この世にはわすれぬ春のおもかげよ朧月夜のはなのひかりに
 はじめなき夢を夢ともしらずしてこのをはりにやかめはてぬべき

秘すれば花

2016-06-28 | 読書
●世阿弥の世界/増田正造著/集英社新書/2015年5月20日発行/760円
 著者は、あとがきで、「能や世阿弥に興味を持たれた方の『索引』の役にもなろうと心がけました」と書いている。能や世阿弥への関心は、以前からあり、謡曲や関連書籍は何冊も読んでいる。能楽の舞台も観ている。そうではあるが、本書は、改めて、能や世阿弥への間心をいや増さしめるものであった。
 まさに、索引の役を果たしてくれた。興味あることが書かれたページは角を折っておいた。そして、謡曲の「半蔀」「戀重荷」を初めて読んだ。
 角を折ったページに記されていること。以下、忘れないためのメモ。
 ・ポール・クローデル著「朝日の中の黒い鳥」(講談社学術文庫)
 ・スポンサーに阿ろうとしなかった能
 ・瀬戸内寂聴作「秘花」(新潮社)、「鵺」
 ・「離見の見」
 ・「散るからこそ花は美しい」
 ・「老いの美学」
 これだけではないのだが。
 結局、世阿弥の精神の姿勢、世の見方に魅かれるのだろうか。孤高を仰ぐ。
 一般的に言えば、世阿弥の作品と生涯についてのガイドブック。

恋の重荷Ⅱ

2016-06-28 | 読書
 岩波書店発行の謡曲集上巻に「恋重荷」が所載されていた。
 以前、発行されていた本である。
 そこには、本文で、恋をした男のことを、「山科の荘司と申して、菊の下葉を取る老人の候ふ」としていた。
 同じ個所、有朋堂文庫では、「山科の荘司とて賤しき者の候、いつも菊の下葉を取らせられ候」であった。
 老人、やはり「老いらくの恋」でいいのか。
 女御は、皇妃。
 かなわぬ恋である。

恋の重荷

2016-06-27 | 読書
 謡曲「戀重荷」を有朋堂文庫で読んだ。
 老いらくの恋の怨念が表現されているとのことで読んでみた。
 庭掃除の身分賤しき者が、女御に恋をする。
 それが、白河院の臣下の知るところとなる。
 男は、掃除の怠りを責められ、女御への恋心を問われる。
 女御は、庭にいれば、わたしに会うこともあろうよとの思いやりを示す。
 女御の姿を見るには、荷を持って、百度千度と庭を廻ればいいとの措置がとられる。
 それは、さげすみ、からかい、いじめ、みせしめのような措置とも、男の乱れ恋の心を鎮めんとの思いやりの措置とも言えた。
 持てと言われた美しく包まれた荷は、きわめて重いものだったのだ。
 「重荷なりとも逢ふまでの、戀の持夫にならうよ」と。
 「重くとも、思ひは捨てじ・・・・いかにも軽く持たうよ」と。
 男は、戀の虜となり、所詮かなわぬ戀であるという冷静な判断はできなくなっている。
 「恋のやっこ」になった男は、その苦役にたえず死んでしまう。
 男が元気な若者でないことは、明確には記されていないようだが、「此程所労仕り」等で伺い知ることはできる。
 女御は、「戀と申すことは、高き賤しき隔てぬ事にて候へども・・・」と、ふびんに感じる。
 恋路の闇に迷う男の話である。
 いにしへのギリシアの詩にもあった。
 「歳をとっても、なお、身を苦しめるのが色恋」と。

花蔭の美女

2016-06-26 | 読書
 謡曲「半蔀」を読んだ。
 源氏物語の夕顔の上の亡霊があらわれる。
 僧が夕顔の上の御亡心を弔う。
 光源氏と夕顔の上の恋の機縁は夕顔の花。
 夕顔の花を扇にのせて、源氏に贈ったのである。
 夕顔の上は、「扇を手に触るる、契りの程のうれしさ」と懐かしむ。
 ここのところ、謡曲を読みたくなっている。
 小学館、岩波書店の謡曲集新旧版。新潮社、有朋堂のもの。
 和田萬吉編の「謡曲物語」等、いつでも手に取れるようにしている。
 小学館の「謡曲集」旧版は、先日、古本市で入手。

擬宝珠から

2016-06-26 | 【草花】ETC
 梅雨
 ギボウシの花が咲いていた
 うつむき加減に
 その名は擬宝珠の形から
 古い建築物で見かける
 手摺りや橋の欄干のはしらの上の葱坊主型の飾り
 あれに似ていると
 ギボウシも種類が多い
 名のゆわれを聞いても
 しっくりこないものも多い  

楮や山桃の実

2016-06-25 | 【樹木】ETC
窓のそとには柿の木があって
今日、蛇が二匹のぼっているのを見た
その隣には、楮の木があって赤い実をつけている
また、隣には梅の木がある
今年は実のつきがよかった
これら三本の木の葉はガラス窓に触れている
それから
ベランダから見下ろせるところに
山桃の木がある
これも赤い実をつけている
初夏の赤い実である
楮や山桃の実は食べられる
近くに、こう言うのがあると
豊かな気持ちになる

抜き足差し足

2016-06-20 | 【断想】蛇
 マンションの入口の掲示板に
 手すりに蛇がいたと書かれてあった
 まだそこらにいるのかと思った
 あたりを眺めると
 空き地の草むらを
 抜き足差し足で動く猫がいた
 きっと猫が蛇に気づき
 ちょっかいを出そうとしているのだろう
 そう思って様子を見ていたが
 蛇はいなかった
 どこかに逃れたのだろう
 猫は慎重にあたりを眺めまわしているばかりだった
 近くに木があった
 登ったのだろうか
 昔々、子猫が蛇にちょっかいを出しているのを見たことがある
 何年か前に、動く蛇を興味深かそうに見ている猫がいた
 蛇は溝のなかに逃れていった