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窓近き竹の葉すさぶ風の音に
いとどみじかきうたた寝の夢
●うたた寝
式子内親王の歌のひとつである。このように詠う彼女の心の景色はどんなものだったろうか。
うたた寝でみる夢は昔日に恋したひとのことだろうか。
これを読むと、淋しげな白いうなじを見せて、うたた寝する色香匂う内親王の姿が思い浮かんでくる。
実際にどのような容貌をされた方かは知らないだけど、きっと美しいひとだったろう。
彼女は後白河天皇の皇女として生まれ、斎院をつとめるなどされた。特殊な境遇・環境を生き、自由奔放とはいかなかったであろう彼女のやるせなさも思いやられる。それが、いとおしさをつのらせる。
それにしても、美女のうたた寝は色っぽい。男の悪戯心をも誘う。
何かの成り行きで聞いた現代の美女の一言。
「旅先の電車で、うたた寝してたら、となりの男性が、膝にコートをかけてくれたの。気遣いじゃないのよ。いたずらするためなの、アタマにきたわ」
●竹の音
また、式子内親王の歌からは、風にすさぶ竹の音が聞こえてくる。その響きは、人の想いを形而上の世界へとはこぶかのようだ。
女性へのひとかたならぬ思いを抱いていた川端康成は、庭の竹笹の音を好んだと聞く。いやいや、文豪だけではあるまい。
竹の音には、胸につもった埃も吹き払ってくれるところがある。
竹の風鐸、風に竹と竹がぶつかる音、竹箒が地にすれる音、尺八、竹笛もそうだけど、竹による音には、人の感情を透き通った世界へと飛翔させる作用がある。
そんな効用も含んでの武満徹の「ノーヴェンバー・ステップス」をはじめ、尺八を使うなどした竹にまつわる現代の名曲も多い。
●老女と筍
ところで、色っぽい美女から離れて竹のこと。旬の筍はうまい。
とりわけ、皮を剝いで囓る姫竹は、適度な歯触りがあり、甘みや香ばしさがある。酒のおともにするに「姫」と名のついているのも。
秋田では、筍といえば、この姫竹をさすそうだ。
うまいのは姫竹だけではない。筍は老女にも鬼女にも好まれる。
一般的に食用とするのは孟宗竹。中国の原産で、日本に伝わったのは、将軍吉宗の時代と言われる。古来、日本にあるのは真竹で、苦味が強いものだった。
冬場、年老いたお母さんが筍を食べたいというので、親孝行の孟宗さんが見つけてきたというのが、孟宗竹の名前の由来。
●鬼女と筍
古事記の黄泉の国の話に、筍が出てくる。イザナギノミコトが、鬼女たちに追われたき、追い払おうと、鬘を投げてできたのが蒲子(えびかづら)で山葡萄のこと、櫛の歯を投げると生えてきたのが笋(たかむなな)、すなわち筍(タケノコ)。
鬼女たちが、それを食べているスキに逃げたということである。
鬼女に追われて、筍で対抗できた時代はのどかだったと言えるのか。
●少女と竹箒
ある風の吹く秋の日、小学校一年の女の子とベンチにすわっていた。竹の葉もすさんでいただろう。
枯れた落ち葉を拾うと、「何してるの」と聞いてきた。
「おじさんは、植物学者なんだ。この葉脈を見ると、何の木の葉かわかるんだよ」と。
植物学者というのは、嘘だった。
「この葉は何」
「あそこの大きな木から飛んできたんだね。ふつう落葉は秋だけど、竹の落葉は春なんだよ」
傍らにおいていた竹箒で落葉を掃き出したら、別の箒を見つけて、手伝ってくれた。
「君はきっといい女になるよ」
(月刊誌・改革者29年11月号掲載)