くららくらくら

2011-09-28 | 【樹木】ETC
 塚本邦雄の「王朝百首」(講談社文芸文庫)を読んでいる。
 二十九首目の藤原顯綱の歌に、他と異なる独特のものを感じた。
 「惑はずなくららの花の暗き夜にわれも靆け燃えむ煙は」
 夜の暗闇にただいくる
 くららの花の妖しい香り
 わたしの色情の煙も
 燃えあがりてたなびく
 「くらら」というのは、豆科の植物という。
 顯綱の次の歌も、色目で見れば、妖しいものがある。
 「年積みて蜑の住むらむあさくらの里のみるめを刈りてわがみむ」

秋の蛇

2011-09-25 | 【断想】蛇
 もう今年は見かけないだろうと思っていた。
 ところが、陽気のいい9月の下旬、程久保川で青大将を見つけた。
 蛇を見たら、ブログに記すことにしている。
 それは、俺自身の気持ちのゆとりを示す指標となる。
 つまり、自分がいかなる時と場にあるかの反照。
 また、自然の豊かさを示すものでもある。

エピクロスによる自覚

2011-09-21 | 【断想】ETC
 禁欲で体調を狂わし、精神の平静も失うということはある。
 放埒な暮らしが過ぎても同様なことが起こる。
 自分をよく見ていれば、分かることだ。
 エピクロスの次の箴言を読んで、そう思った。
 「質素にも限度がある。その限度を無視する人は、過度のぜいたくのために誤つ人と同じような目にあう」(出隆・岩崎允胤訳)

議員と秘書のその後

2011-09-16 | 【樹木】エッセイ
●議員と秘書でなくなって
 「千鳥ヶ淵の桜、すごかったよ」とケータイの画像を見せてくれた。見せてくれたのは和田一仁さんである。もう三年くらい前のことだ。
 和田さんは、衆議院議員を十五年ばかりつとめた。その間、私は秘書であった。
 議員と秘書の関係もさまざまである。気心が合えばいいが、合わないと不幸なことになったりする。議員事務所の規模は小さく、配置転換などという逃げ道はない。
 幸い和田さんとは、同じ民社の同志として、その政治信条に違和感を覚えることもなく、歩むことができた。ただ、事務所運営やこまごましたことなどで、嫌気を覚えることもあった。何もかもピッタリうまくいくことなんてない。
 平成五年の総選挙に和田さんは落選し公職から離れた。私は、秘書という立場から解き放たれ、抱いていた複雑な気持ちは、きれいさっぱり消えてなくなった。
 以降は、よき先達、いささか失礼な言い方かも知れないが、よき友として付き合わせてもらった。そんな気楽な付き合いでのひとこま。
●上溝桜を知ってるか
 和田さんとよく一緒になる昼食会のテーブルに、花をつけた桜の枝が花瓶に挿してあった。まだ、桜花盛りの季節の前で、早咲きの啓翁桜(ケイオウザクラ)だった。小さく淡い花色は可憐でなんとも気持ちをなごませてくれた。
 それからしばらくした同じ席だったと思う。和田さんが、「ウワミズザクラ(上溝桜)って、知っているか」と私に尋ねた。
 私が、樹木に関心を持ち出していることを知っての問いかけである。
上溝桜は、白くて小さな花が穂状をなして梢に垂れる。そうと知らなければ、サクラとは思えない、変わり種である。和田さんの住むマンションの敷地内に二本あって、花をつけているという。その名は、森林インストラクターをされている方が教えてくれたそうだ。
 議員と秘書であった時分には、お互い樹木に関する知識も薄く、そんな会話はありえないものだった。
 なんだか時の流れを嬉しく感じたものだ。
●国会の銀杏を植える
銀杏は、地球に恐竜が跋扈する時代からの古い樹木である。一科一属と希有な植物。
 そんな銀杏の実のこと。
 和田夫人の保子さんが、「主人が、国会議事堂裏のイチョウ並木から、実を拾ってきて植えたんだけど、うまく生えてくるかしら」と言った。
 私が、多摩動物公園で櫟の実を拾ってきて、植木鉢で苗に育てたと自慢げに言っていたのに触発されたのかも知れない。
 実生の苗を育てること、それを国会の銀杏でやろうとするところ、いかにも和田さんらしいなと思った。なにしろ、幼少の頃から片山哲や安部磯雄という政界の大物に囲まれて暮らし、秘書、議員と常に政治のなかに身をおいた人である。国会への思いには強いものがあったと思う。
 和田さんが植えた銀杏の実、その後、うまく芽を出したとは聞いていない。
●時の流れに
 和田さんが議員をやめた後も元秘書他が年に二回集まり、ボスを囲んでワイワイガヤガヤやってきた。楽しい酒席である。
 そんな折、和田さんに「もう、こわいものはないだろう。思い通りにやればいい」と言われた。なんとも嬉しかった。
和田さんは、昨年十二月に八十六歳で亡くなられた。
 時の流れは残酷で、老いは進む、病気も得る、愛する人も死ぬ。だけど、和田さんと樹木のことを語りあえたりできたのは、時の流れがあったから。
 生きてともにあったから。

むごいことを祈る

2011-09-16 | 【断想】神々
 生きるため、獲物を狙って、身を潜めるとき、豹は、祈るか。
 エピクロスが、人の祈りについて、語っている。
 忘れないよう、記しておく。
 「もし神が人間の祈りをそのままに聴き届けていたならば、人間はすべて、とっくの昔に亡びていたであろう。というのは、人間はたえず、たがいに、多くのむごいことを神に祈ってきているから。」(出隆、岩崎允胤訳)

人が壊し造る森

2011-09-06 | 読書
【本の紹介】  
●森林異変/田中淳夫著/平凡社新書/2011年4月15日発行/798円(税込み)
 サブタイトルに「日本の林業に未来はあるか」とある。森林、林業の現状を正確に把握し、その再生を実現しようというのが本書の意図。山村の疲弊は深刻な状況にあるものの、一部山林事業者に活況が見られると報告している。世界的な木材需要の増加により、国産材への回帰が見られるという。それは、日本の森、林業に元気を取りもどすチャンスである。著者は、それを確かなものにするには木を植え、育て、伐採、運搬、製品化、消費者へという流れを一体としてとらえた林業の再構築が必要と説く。

稀人の死

2011-09-05 | 【断想】ETC
 一年前の昨日の朝、藤井ちゆきさんから、猪坂豊一さんが亡くなったとの報せを受けた。
 その日を忘れたくなかった。
 携帯電話の受信記録を残している。
 その日、病院の霊安室で彼の顔を見た。
 先日、彼の追悼の集まりがあった。
 大勢の人が集まり、彼を偲んだ。
 とりわけ私は、長年の付き合いだった。
 そのわりに、彼の個人的なことは知らなかった。
 それは、彼が語らなかったということもある。
 憶測するところもあるが、その限りである。
 いや、何を知ろうというのか。
 彼が、己の利を考えず、あれだけの人脈をつくったこと。
 彼が大切にしたものが伺える。
 何かへの挑戦といえば、挑戦である。
 彼の胸のなかにあったものが何か、気にかかる。
 追悼集が出された。
 みんなが語るが、彼は沈黙。