是非もない

2014-08-29 | 読書
 「山家鳥虫歌」(浅野建二校注・岩波文庫)、一応目を通した。巻之下も含め、気に止まった歌をあげておく。語呂がよかったり、色っぽかったり、辛辣なところがあったりしたもの。
 ・山な白雪朝日にとける とけて流れて三島へ落ちて 三島女郎衆の化粧水
   三島の水は、ほんとうにきれいだ。
 ・十七が室の小口にひとり寝て 花がかかると夢に見た
   花の流れる夢なんて、見たことない。
 ・様は流れの瓢箪男 ぬらりくらりはようもよも
   瓢箪男は、馬鹿にされるんだなあ。
 ・親は子というて尋ねもするが 親を尋ねる子は稀な
   おのれを顧みてしまう。
 ・早乙女の股ぐらを鳩が睨んだとな 睨んだも道理かや 股に豆を挟んだとなよな
   単純明快な卑猥さ。
 ・京の大仏に帆柱持たせ 鯨釣りたい五島浦で
   馬鹿馬鹿しいくらいで、なんともいい。
 ・思ふ殿御と臼挽きすれば 臼は手車中で回る
   なんとなくいかがわしい情景を想起するのは、わたしだけか。
 ・辛苦島田にけさ結うた髪を 様が乱しゃる是非もない
   困るけど、嬉しいね。
 ・鉦を叩いて仏にならば 江戸の早鐘みな仏
   世の中、仏だらけ。
 ・人の娘と新造の舟は 人が見たがる乗りたがる
   新造は、もともと若い娘や新妻、そして遊女。

藤に巻かれて

2014-08-29 | 読書
 「山家鳥虫歌」(浅野建二校注・岩波文庫)の巻之上「畿内五国」に続く「東海道十五国」より、樹木の名が出てくる歌の幾つかをピックアップしてみた。
 今後、樹木に関連して、文を書くときに、何かの足しになるかと。
・【松】千世も長かれ此の君の 老木の松は栄えゆく
・【藤】松になりたや有馬の松に 藤に巻かれて寝とござる
・【桜】咲いた桜になぜ駒繋ぐ 駒が勇めば花が散る
・【桜】顔を汚すは白粉か 生まれながらの山桜
     山桜とは、「出っ歯」、花の前に葉が出ることによる。 
・【梛】今度ござらば持て来てたもれ 伊豆のお山の梛の葉を
     東国では、梛の木をみることはない。温暖な伊豆の山にはあったのだろう。
     わたしは、奈良の春日大社でもらった梛の葉を今も持っている。
・【柳】色のよいのは出口の柳 殿にいなへてゆらゆらと

一夜落つるは易けれど

2014-08-21 | 読書
 近世諸国民謡集とサブタイトルが付けてある「山家鳥虫歌」(浅野建二校注・岩波文庫)の巻之上の畿内五国の部分を読んだ。
 その中で、その意味が取りやすく、なにかの折に使えそうなものを、備忘のため、記しておこうかと思った。
 ・ござる其の夜は厭いはせねど 来るが積もれば浮名たつ
  これは、女性サイドからの歌か。男がしのんで来て、ともに寝るのはいいけれど、それも度重なると、人に知られ、とかくいろいろ言われることになる。助平心と世間体のはざまに成り立つ歌か。
 ・わしは小池の鯉鮒なれど 鯰男はいやでそろ
  これも女サイドからの歌。わたしもたいしたものではないけど、鯰のような男は厭だなあというところか。鯰男というのは、どういう男がイメージされたのか。
 ・こなた思へば千里も一里 逢はず戻れば一里が千里
  恋する人のもとへ道を急ぐときは、遠くてもなんでもない。だけど、逢えずにじまいの帰り道は、足取りが重いもの。
 ・人に物云や油の雫 落ちて広がるどこまでも
  噂はあっという間に、どんどん広がるもの。特に、あいつには、気をつけないとと思いが続く。
 ・一夜落つるはよも易けれど 身より大事の名が惜しい
  これも女性サイドから詠まれたもののようだ。男に言い寄られ、一夜、身をまかせるのは、あのことも嫌いじゃないし、いいんだけれど、失うものもあることを思うと気になるなあ。
 私の好みのせいか、色恋がらみのものが多くなってしまった。「山家鳥虫歌」は、下巻を含め、日本全国を八地域に分けて、江戸中期の民謡が収められている。

はかなくとも

2014-08-16 | 【樹木】ETC
散歩道に、ムクゲ(木槿)の花。
一日花である。
ひとつの花の命は短い。
「槿花一朝の栄」などと、栄華のはかなさの表すのに使われる。
ただ花は、次々と咲く。
それで、韓国では、窮することがないとめでられる。
国花とされ、「無窮花」と呼ばれる。
ひとつの花についても、着目点が異なるわけだ。
文化はそんなところから・・・・。

風鈴になりたし

2014-08-06 | 【断想】ETC
風鈴になりたしみんな忘れたし(甫国)
甫国百句集より。
暑い日が続く
たまらない
何もかもわずらわしい
仕事のことも
家族のことも
いずれも世俗
こざかしいあいつの声を忘れたし
猛暑日は世間づきあい忘れたし
木陰の庇に揺れる風鈴の音を聞きつつ
ひとり冷酒をかたむけたい
肌白き美女と俗世を忘れたし
甫国の一句に触発されて思いつくまま

性愛があって

2014-08-05 | 読書
【本の紹介】
●愛欲のローマ史/木村凌二著/講談社学術文庫/2014年5月9日発行/864円(税込み)
自明のことであるが、人は、知や理よりも情や愛に動かされる。著者は、国、社会を動かす底流をなす性愛の実相、性愛への意識の変遷からローマ帝国の歴史を語る。カリグラやネロの狂気の淫行、詩人たちが描いた男と女、そして、変化していくローマ人の心象風景が綴られる。時とともに、夫婦愛が芽生え、結婚という生活形態をとるに至る変遷。同時に進行する内面への思念の深まりが記される。ローマ社会史の快著である。本書は、同社の「ローマ人の愛と性」の文庫化。

いにしえの伝承か

2014-08-04 | 読書
【本の紹介】
●旧約聖書の謎/長谷川修一著/中公新書/2014年3月25日発行/886円(税込み)
 言わずもがなであるが、聖書は歴史書ではない。しかし、その記述に史実と符号する部分もある。そこに本書が成り立っている。著者は、旧約聖書から、七つの物語を取り上げ、考古学の立場から、その史実性をさぐる。果たして、ノアの方舟と大洪水、モーセが古代イスラエル人を率いての出エジプトの話は本当にあったことなのか等々と。大概は、かの地のいにしえからの様々な伝承のアレンジ等でないかとの結論である。聖書の基本性格を考えれば、お門違いのアプローチをしているとも言えるが、興味が尽きない一書。

浪費

2014-08-03 | 【断想】ETC
 名前が分からないままの草木も多い。
 調べあげるには、材料が少ない。
 こんな人にもよく出会う。
 発言の意味が分からない。
 調べる気もしないことが少なくない。
 おそらく、もともと意味がないのだから。
 本人も分からないのだから。