はかなき桜

2018-05-22 | 【樹木】エッセイ
 時はめぐり、桜花爛漫の季節を迎えようとしている。
  四条五条の橋の上、
  老若男女貴賤都鄙、
  色めく花衣、
  袖を連ねて行く末の、
  雲かと見えて八重一重、
  咲く九重の花盛り、
  名に負う春の気色かな、
 謡曲「熊野」の桜に心浮き立たせる都の情景を謡った一節である。  さて、そんな桜のにぎわいもひと時のこと。桜は、花期も短く、時の移ろいを感じさせる。
 また桜は、芭蕉が「さまざまの事思ひだす桜かな」と詠んだように、過ぎし日への思いに結びつく花でもある。
●夜桜見あげて
 「花見はしましたか」
 「まだ。クルマで通りがかった千鳥ヶ淵の桜をチラッと観ただけ」
 「それじゃ、今から出かけよう」
 過ぎし日、美女と半蔵門から九段にかけて、千鳥ヶ淵の夜桜を見あげつつ歩いた。
 そして、夜寒にひえたからだを暖め合ったことを思い出す、あたたかい酒を酌み交わして。
 桜色に染まった細き指で盃にそそいでもらって。
 美女とのことには、忘れがたいものがある。しかし、そんな愉しさも、つかの間のこと。
 それに、美女と言えども、齢を重ねる。やがて、肉体の若さや美しさは失われる。人のさだめは、はかないものである。
●薄命の染井吉野
 はかなさついでに染井吉野のこと。今の日本の空を霞か雲かとするのは、染井吉野。明治以降にひろまった桜である。
 育つのが速く、花をつけ出すのも早いが、その命は短い。葉の前に花をつけ、なんとも見事だが、まことにはかない。
 美人薄命とも言える桜である。その生き急ぐ風情が人をひきつけもするのだろう。
 一方、しっとりした色気に欠けると感じる人もいる。樹齢百年を超える風格ある桜は、染井吉野ではない。江戸彼岸など別の桜である。
 色香濃艶な彼岸系の紅枝垂れ等を好む人もいる。
 あなたは、どちらをお好みだろうか。人それぞれである。
●色香残るうち
 さて、老いは誰にもやってくる。若き日に美男美女ともてはやされても、やがて衰え萎れて顧みられなくなるのは避けられない。
 それゆえに、友に、己れに言いたくなる。老いの翳濃くなる前に、色香の残るうちに、「恋せよ、元気なうち美酒を愉しめよ」と・・・・。
 色恋多き在原業平も老いを迎えて詠んだ。
  さくらばなちりかひくもれ
  老いらくのこむといふなる
  道まがふがに
 その意は、「桜の花よ、もっと散れ。雲がかかったくらいに散れ。そして、老いがやって来る道が見えなくしてしまえ」といったところか。
 人ごとではない。
 みずからの老いを感じだしているゆえか、謡曲の「西行櫻」の一節が身にしみる。「不思議やな朽ちたる花の空木より、白髪の老人現れて・・・」とある。その白髪の老人は、桜の花の精である。こう語る。
  あら名残惜の夜遊やな。
  惜しむべし惜しむべし、
  得難きは時、
  逢ひ難きは友なるべし。
 ある春の宵、酒席のあと、若い女性に尋ねられた。「わたし、そんなにいい子じゃないの」と言ったあと。
 「現役ですか」と。
 「もちろん」と応えた。加えて、「もう俺もながくはないさ」と言うと、励ましてくれた。
 わたしにまだ、春の気配が残っていたからか。
 「生きていれば、あたらしい恋が芽生えることもあるかもよ」と。
 嬉し侘しの花のとき。

(月刊誌「改革者」2018年3月号)

「霽月記」02

2018-05-15 | 読書
 東出甫国の小説「霽月記」をたのしんでいる
 三分の一くらいまで読んだ
 おさな友だちの書いたものには、独特の感じを抱く
 彼の心の動きや息づかい
 同じふるさとへの思い
 さらに、小説の構成も
 ストーリーの流れの工夫
 彼の心や頭のなかを知らず知らずのぞきこむような
 なんだか体感的に受け止めているような自分を感じる
 五月もなかばになった
 今朝、今年になってはじめて杜鵑の声を聞いた  

犀川の橋を渡って

2018-05-10 | 【断想】ETC
 机の上に置いていた
 友人の小説
 東出甫国の霽月記を読み始めた
 まだはじめの部分だけ
 舞台は金沢
 犀川のほとり
 そのあたりで見えるもの感じられるもの
 金沢生まれの私にはたまらいものがある
 つぎつぎと思い出されることが・・・・・

180

2018-05-10 | 【断想】ETC
 街角にステーキ・ランチの店
 女性客が結構多い
 180gくらいのビーフとごはん
 1960年頃のモダンジャズ
 それなりの音量で
 スピーカーが一個しか見えないが
 食事にモダンジャズは合わない
 などと思いつつ