乱舞する百日紅

2015-08-28 | 【樹木】エッセイ
●雨風にお祭
 そこは、百日紅(サルスベリ)の並木道だった。
 クルマを走らせていて夕立にあった。
 烈風に激しい雨、これでもかと言うほど花をつけた百日紅の枝が揺れる。花飾りいっぱいの御輿が激しく乱舞するかのようだ。まさにお祭。
 せわしなく動くワイパーの内側は、密室性が高まる。隣に美女がいたら、「雨宿りでもしようか」と誘いたいところ。
 いつまで経っても女性に対する思いが消えることがない。
 CDをセットする。ハイファイセットのフィーリング。
 「もう逢えないこと知ってたけど 許したのよ そうよ 愛はひとときの その場かぎりのまぼろしなの」
 なかにし礼の歌詞が心をくすぐる。
●みんな女性好きだった
 先般、二十代の頃からの友人に会った。
 みんな女性がこよなく好きだった。
 一人はイラストレーターというか画家、もう一人はカメラマン。二人とも、思えば、女性の人気を意識して選んだ道とも言える。かく言うわたしは、詩人を自称していた。
 「俺は今、田舎に住んでいる。女性と何かあれば、またたくまにあたりに知れわたる。やれないな。それに、女房にわるい」
 「仕事柄、今も女性に接することは多い。機会は多いけど、しない。悪評が立てば、仕事がもらえなくなってしまう」
 みんな、「良識」をわきまえたおじさんになってしまった。
●その花を見よ
 さて、百日紅の花のこと。
 日盛りの百日紅の赤い花は暑苦しい。白花であっても、もこもこして暑苦しい。
 その花を近くでゆっくり見た人は案外少ないのでなかろうか。よく見ると、思わず「こんなだったのか」と声をあげたくなる。
 百聞は一見にしかず、見かけたら、ぜひ足をとめてみてください。
 花の真ん中に丸い粒、その粒から細い糸がのび、その先に、フリル状の花びらがひろがっている。
 そして、その粒は時来れば、開く。中央に、長い雌蕊が一本。その周りに四十本もあろうか、雄蕊が立つ。そのうちの六本が、長く伸びている。この六本だけが、生殖能力をもっている。
 その他大勢の雄蕊は、昆虫たちをおびき寄せるためにあるそうだ。昆虫があって、花粉を拡散、子孫を残せることになる。
 それぞれ、役割があるものだと知る。たんに、おとりになるのは、さみしいが。
 いささか、百日紅とは異なるが、かのイラストレーターは、女の子をおびきよせる能力にたけていた。故に、わたしも付き合っていたという面を思い出した。
●樹肌をなでる
 百日紅は、花期が長いこともあって、その名がついている。別名、猿滑り。
 樹肌がツルツルになるのは、樹皮が剥がれ落ちるからである。
 樹木に関心をもって眺めるようになって、サルスベリの他に、樹皮が剥がれ落ちる木を知った。
 シャラノキ(沙羅の木)とも呼ばれるナツツバキ(夏椿)、その肌はまだら模様。
 リョウブ(令法)の樹肌もツルツル。
 フトモモ科のユーカリも樹皮が剥がれ落ちる。その白っぽい肌をなでてみたことがある。ザラザラしていた。荒れ肌である。
 そう言えば、はげているのは、これらの木ばかりではない。いつしか俺の頭も。
 フトモモならぬ樹肌を撫でて、あれこれ言う禿頭のじいさんになろうとは。
 百日紅を見て、過ぎし時を思う。女性への思いだけは、散らさずにいたいもの。
 加賀千代女の句に「散れば咲き散れば咲きして百日紅」
(月刊「改革者」6月号掲載)

艶がない

2015-08-25 | 【草花】ETC
牧野富太郎博士が目を見はったという
雑草たるワルナスビ
あちこちではびこっている
野にあって気にはなるが
それだけ
めでるには足りないものがある
その花びらは色が薄い
しわしわして艶がない
おまけに棘がある
そう言う宿命で生きている

帽子と星空

2015-08-07 | 【断想】ETC
A、B、C、Dが汐留で会い、
Aが、帽子を店に忘れ、
Bが、それを引き取りに行き、
Bは、それをCに託し、
Cが、Aに帽子を渡すことになった。
Cは、そのことをBに報告し、
Bは、滞在先の長野からCへ、
「星空がきれい」と伝えてきた。
わたしは、C。
夜空の星を見あげたいと思う。



占領下に生まれた

2015-08-04 | 読書
 戦後70年だからと言う訳ではない。
 たまたま、人に薦められたりして読んだ。
 一冊は、福永文夫著の「日本占領史1945~1952」。
 もう一冊は、アンネッテ・ヴァインケ著・板橋拓己訳の「ニュルンベルク裁判」。
 いずれも、中公新書である。
 私の幼なかった時代の日本とドイツのこと。

丘には風

2015-08-03 | 【樹木】ETC
炎天下の散歩
木陰を選んで
久しぶりに
お気に入りの丘へ
風がいくらかあった
エゴノキの実や
萎れた山百合の花
凌霄花の赤黄の花
道端にワルナスビの
色の薄い花
を見た
暫く前に海を観ながら飲んだ
マンゴーのスムージー
よかったな

ケースのなかの白蛇

2015-08-01 | 【断想】蛇
今年になって、外で蛇を見かけていない。
散歩道の途中に、よく見かける場所があり、
そこを通るときは気にしている。
見かけないと言うのは、散歩の機会が少ないせいもあるのだろう。
ただ、先般、その辺りで、蛇を見かけたという人がいた。
やはり、その辺りにはいるのだなと、なんだか安心した。
この前、室内で、透明のケースの中にいる蛇を見た。
白蛇である。
国の天然記念物に指定されている山口県岩国市のシロヘビ。
シロヘビは、アオダイショウのアルビノ。
目が赤く、からだの鱗が互いに重ならず、地肌が出ていると言う特徴がある。
手持ちの爬虫類図鑑には、
通常、白化個体は、自然界で目立ち、淘汰されるが、
岩国では、人による保護もあったのでないかと記されていた。
岩国市のパンフレットには、
「シロヘビの最初の記録として残っているものは、今から270年あまり前に書かれた『岩邑年代記』です」とあった。
いずれにしろ、もう長い歳月、命をつないできたことになる。
少年の頃、「白蛇伝」と言う話を読むか、観るかしたことがある。
もっと小さい頃、「あそこの木の枝にひっかかっているのは白蛇」と遊び仲間の年長に言われたことがある。
人の言葉を疑うことを知らず、即座に信じた。
それは、死んでいるようで、ずっと木の高い枝に見られた。
ほんとうに、蛇だったのだろうか。