「花鳥風月」の君

2019-05-28 | 【樹木】エッセイ
 その王朝時代の姫君のような方に出会ったのは、わたしが、国会議員の秘書をやっている頃だった。
 国会の総務委員会関係者の懇親会が、赤坂の料理屋であって、たまたま席が近くだった。
 総じて無粋な政治の世界で、花鳥風月を愛でるまれな人だった。
●鳥:メジロとガビチョウ
 どう言う話の流れだったか忘れたが、彼女が、「窓からメジロを見ることもありますよ」と言った。
 彼女の住まいを問えば、国会のすぐ近くで、赤坂の御苑や議長公邸、日枝神社という緑の連なりのうちにあるマンションだった。
 こんな都心でと、意外な感じはもったが、木々があれば、鳥もやってくる。
 それで、わたしも、気になっていた鳥のことを話した。際だって力強く、太く、艶のある声で長鳴きをする画眉鳥のことである。
 「図鑑を開いても載っておらず、ずっと名前が分からなかった」と。
 赤茶色をして、目の周りに描かれたような白い隈が目立つムクドリくらいのサイズをした鳥である。
 写真を撮り、鳥に詳しい人にたずねてみたりして、ようやく判明したのだった。
 調べてみて、中国南部からベトナム、パミール高原を原生地とする帰化鳥で、二○○五年に特定外来生物に指定され、日本での生息地を拡げつつあるとのことを知った。
 それで、いささか古い図鑑には載っていなかったのだ。
 彼女は、画眉鳥を知らなかったので、当方が知る限りのことをまとめ、メールで送ったりした。
●花と風:萩と石蕗
 雲まよふ夕べに秋をこめながら風もほに出でぬ萩の上かな(慈円)
       ※
 かたぐるしい会議の帰り、衆議院議員会館の廊下で彼女とすれ違った。
 「修学院離宮の萩の花が風に揺れていました。京都には、萩の花が多いようですね」と。
 思いがけぬ話に、気分がほぐれる感じだった。
 「わざわざ、京都まで行かれたんですか」
 「ええ、万葉集には、萩の花のことが、よく詠われていますね」
 「そうですね。万葉の頃は、桜や梅より萩の花の方が多く詠われていますね」
 なんだか、話が合った。
 その一年後にも、「今年も京都で萩の花を見ました」と聞いた。
 彼女が、どんな暮らしぶりをしているのかと思わずにはいられなかった。
 冬になって、彼女が、議員会館のわたしがいる事務所に、雑誌を持ってやってきた。
 「これをどうぞ。総理官邸下の石蕗(ツワブキ)の佇まい見事ですよ。これに石蕗の花の写真が載っています」
 彼女の言いぶりに、野の花を愛でる気持ちをうかがうことができた。
●「満月の君」
 満月を迎える前日に、夜空に月を見て、明日は満月かと思っていた。
 その満月の日の翌日、また、廊下で顔を合わせた。
 「昨夜の満月、ご覧になりましたか」と問われた。
 どういうわけか、満月の頃になると、彼女と出くわすことがよくあった。
 「明日は満月ですわ」とも教えてもらったりした。
 彼女は「満月の君」だなあ。かぐや姫のように、月のくにに帰りたいのだろうかなどと思った。
      ※
 解散・総選挙があった。彼女が仕えていた議員は落選した。
 以降、「花鳥風月」を愛でた彼女を見かけることはなくなった。どうされたのだろうか。
 きっと、あんな方に出会うことは、この先ないだろうな。
 (月刊誌「改革者」平成30年12月号)

“聖なるかな”

2019-05-25 | 【断想】音楽
 今月初旬に、モーリス・デュリュフレの「レクイエム」を聞いた。
 1947年の作品だが、現代曲によくある聞き苦しさはない。
 美しく、静かで、耳にやさしい。
 精神に平静をもたす曲である。
 すっかり、気に入ってしまった。
 たまたま入手したCD(RESONUS盤)の演奏は以下。
 Kirsten Sollek;mezzo-soprano
 Richard Lippold;baritone
 Myron Lutzke;cello
 Frederick Teardo;organ
 Saint Thomas Choir of Men & Boys,Fifth Avenue,New York
 ohn Scott;conductor
 とても、よかった。
 演奏は、小編成だったり、オルガン伴奏だけだったりとヴァリエーションがあるらしい。
 それで、別の演奏を聞いてみたいと思っていた。
 そしてまた、たまたま見つけたのが、以下のERATO盤。
 テレサ・ベルガンサ;mezzo-soprano
 ホセ・ファン・ダム;baritone
 フィリップ・コルボ;organ
 パリ(アウディテ・ノヴァ)声楽アンサンブル
 コロンヌ管弦楽団・合唱団
 ミシェル・コルボ;conductor
 デュリュフレの自作自演盤やミシェル・ルグランのもあるようだ。
 それらも聞いてみたくはあるが、とりあえず、コルボ指揮盤を聞く。
 デュリュフレは、師デュカスに習って寡作の作曲家だそうが。
 デュカスの作品が好きなので、いい師のもとにあったのだなあとも思う。
 曲は、以下のように展開される。
 1.Introit(イントロイトゥス、入祭文)
 2.Kyrie(キリエ、求憐誦)
 3.Offertorium(オッフェルトリウム、奉献文)
 4.Sanctus(サンクトゥス、三聖頌)
 5.Pie Jesu(ピエ・イエス、慈悲深いイエスよ)
 6.Agnus Dei(アニュス・デイ、神羔誦)
 7.Lux aeterna(コムニオ、聖体拝領誦)
 8.Libera me(リベラ・メ、私をお救いください)
 9.ln paradisum(イン・パラディスム、天国に)
 ・・・・・・
 主の大いなる御業を信じ感謝し
 逝きし人の永遠の安らぎを祈る
 永遠の命をさずけてくださった方に祈る
 ・・・・
 メリハリもあり、色どりを感じさせる演奏だ。
 そうなのだ。単色ではなく、色どりの美しさを感じさせるのだ。
 ただ、オルガンをもっと響かせていいのでないかとも思った。

永遠の安らぎを

2019-05-06 | 【断想】音楽
 デュリュフレの「レクイエム op.9」と同じCDに収められている曲を聞く。
 ハーバート・ノーマン・ハウエルズ(1892-1983)の「レクイエム」。
 1936年の作品である。
 演奏やレーベルは、昨日投稿のデュリュフレ「レクイエム 」に同じ。
 ハウエルズもオルガニストでもある作曲家である。
 1.サルバトール・ムンディ(救い主)
 2.詩篇23
 3.レクイエム・エテルナム Ⅰ(逝きし人に永遠の安らぎをⅠ)
 4.詩篇121
 5.レクイエム・エテルナム Ⅱ(逝きし人に永遠の安らぎをⅡ)
 6.天よりの声を聞いた

主よ、憐れみ給え

2019-05-05 | 【断想】音楽
 モーリス・デュリュフレ(1902~1986)の声楽曲・教会音楽「レクイエム op.9」(1947)を聞く。
 前に読んだ吉松隆「クラシックの自由時間・究極のCD 200」に、「怒りの日」の欠けた「レクイエム」として紹介されれおり、聞いてみようと思っていた。
 デュリュフレは、デュカスを師としており、現代の作曲家であることも興味をひいた。
 寡作の人であり、オルガニストでもあったそうだ。
 吉松氏の本で、「・・・・死者とともに生者も〈死〉を平安に受け入れる、そのための音楽であり、号泣し、嘆き悲しむというものではない。・・・・」とあったのも、聞く動機となった。
 たまたま見つけたCDは、以下の演奏である
 Kirsten Sollek;mezzo-soprano
 Richard Lippold;baritone
 Myron Lutzke;cello
 Frederick Teardo;organ
 Saint Thomas Choir of Men & Boys,Fifth Avenue,New York
 John Scott;conductor
 小編成でのものである。RESONUS盤。
 静かで、美しい音楽である。
 曲は、次の9つのパートで構成されている。
 1.Introit 入祭唱
 2.Kyrie eleison キリエ・エレイション(主よ、憐れみ給え)
 3.Dmine Jesu Christe 主イエス・キリスト、栄光の王
 4.Sanctus 聖なるかな
 5.Pie Jesu ああ、イエスよ
 6.Agnus Dei 神の子羊
 7.Lux aeterna 永遠の光
 8.Libera me われをゆるしたまえ
 9.ln paradisum 楽園にて

組曲“恋は魔術師”

2019-05-04 | 【断想】音楽
 ファリャのバレエ曲「恋は魔術師」は、もともとは13曲で成っている。
 曲数を減らした組曲にして演奏されもする。
 組曲となった「恋は魔術師」を聞く。
 それも、ラローチャのピアノ独奏。LONDON盤。
 1.パントマイム
 2.情景=きつねの歌
 3.恐怖の踊り
 4.魔法の輪
 5.真夜中=火祭りの踊り

いろごと求めて

2019-05-04 | 【断想】音楽
 昨日、ファリャの「恋は魔術師」を聞いて投稿した「好き者の幽霊クンに」にちなんで、ニーカルコスの詩。
 沓掛良彦編訳の「ピエリアの薔薇」より。
 ニーカルコスは、いにしえのギリシアの詩人。
 浮気性云々というより、美女の誘惑に心動かさぬ男はまずいない。
  カリデーモスよ、
  誰だって自分の女房と
  手合わせを相も変わらず繰り返し
  心の底から愉しい
  というわけにやいかんのだ。
  男は根っからの好き者で
  目先の変つた女の肌に
  心惹かれるものだから
  いつでも他所の女との
  情事求めてやまぬのさ。

好き者の幽霊クンに

2019-05-03 | 【断想】音楽
 夫を亡くした美しいジプシーの女にあたらしい恋人ができる。
 その彼が、彼女に愛を誓おうとすると、前夫の幽霊が現れて邪魔をする。
 こまった彼女は、前夫が浮気性だったことを思い出して一策を講じる。
 グラマラスで美人の友人に頼んで、前夫を誘惑してもらうというわけである。
 その策は功を奏し、前夫が友人に気を取られているうちに、あたらしい恋人と結ばれる。
 ファリャの「恋は魔術師」は、そのようなストーリー。
 デュトワ指揮、モントリオール交響楽団、LONDON盤で聞く。

“火祭りの踊り”

2019-05-03 | 【断想】音楽
 ファリャのバレエ曲「恋は魔術師」。
 Nati Mistral:メゾソプラノ
 ニュー・フィルモニア・オーケストラ
 ラファエル・ブリューベック・ブルゴス:指揮
 DECCA盤で聞く。
 曲は、次のように展開する。
 1.序奏と情景
 2.愛の悩みの歌
 3.幽霊、恐怖の踊り
 4.魔法の輪、真夜中
 5.火祭りの踊り
 6.情景
 7.狐火の歌
 8.無言劇
 9.愛の戯れの踊り
 10.終曲・暁の鐘
 何度聞いてもいいなあ。
 スペインの風物、人の心・・・が、浮かんでくる。
 切ない思い。