山神のもとに

2015-04-08 | 読書
【本の紹介】
●第十四世マタギ/甲斐崎圭著/ヤマケイ文庫/2014年10月10日発行/983円(税込み)
 サブタイトルに、「松橋時幸一代記」とある。秋田県比立内に棲んだ一人のマタギの伝記である。マタギの家に生まれ、熊を狩って暮らした男の一生が綴られている。自然や人との接し方、そのさまは何とも美しい一語である。渓谷でのイワナ釣り、襲ってくる熊との手に汗握る熾烈な対決、殺した時のケボガイの儀式。山神のもとに生きる敬虔な信仰者を見る思いを抱かせる。現代文明が切り捨ててきたものの姿が記された貴重な一書である。一九八九年に他社から刊行されたものの再編集版である。

生きものとしての桜

2015-04-03 | 読書
【本の紹介】
●桜/勝木俊雄著/岩波新書/2015年2月20日発行/860円
 著者は、高尾にある多摩森林科学園の主任研究員。その森林科学園には、サクラ保存林があって桜の季節も含めて何度か行っている。それで、なんだか身近なものを感じて、本を手にした。はじめに、「生き物としての桜」をテーマとするとのことわりがあった。
 日本に分布するサクラの種と変種が整理して語られ、多種多様な桜が、どのように分類されるのかを学ぶことができた。
 また、桜に関して持っていた知識に訂正しなくてはいけないところがあることを学ぶことが出来た。桜の花には香りがないと思いこんでいたが、オオシマザクラにはあること。桜の木も状況に応じて剪定が必要なこと。栽培品種である染井吉野の誕生には諸説があったこと。読んでよかったと思った。
 ただ、後段になって、「遺伝子汚染」という表現に出会って、しっくりこないものを感じた。雑種が生まれ、増えることをもって、「汚染」というのだろうか。この本が岩波書店から発行されていることと関わりがあるだろうかと思ってしまった。
 また、総じて、雑種への警戒に満ちた言い方に違和感をもった。雑種や外来種がもともとあった生態系を壊すということはあろう。だけど、生き物のいとなみとはそんなものとも言える。
 特に、植物は、古来、遺伝子の混ざり合いが多かったのでなかろうか。もう少し、別の角度からのアプローチがあっていいのでないかと。