「旅人」

2017-04-30 | 【断想】ETC
 旅人は川を渡った
 どこにでもいる旅人であり
 どこにでもある川である
 ただよくあることだが
 旅人の胸の中の嵐がやむことはなかった

鶴になった浦島太郎

2017-04-28 | 読書
 御伽草子に収められている「浦島太郎」を読んだ。
 一般的な昔話とは、おもむきを異にしている。その筋を追ってみる。
 丹後国の浦島さんの子に太郎がいて、海に出ての漁で生業をたてていた。礒で亀を釣り上げたが、「ここにて命をたたん事、いたはし」と思って、海へかえした。
 次の日、太郎が漁に出ると、海上に小船が浮かんでおり、美しき女性が乗っていた。事情を聞くと、荒波にあって、そういうことになったとのことである。そして、本国に連れて行ってくれないかと頼まれ、十日ばかりの船路で、彼女の故郷に着いた。その地の住居は、金銀をちりばめた立派なものだった。
 彼女は、こういうことになったのは、「皆これ他生の縁」と夫婦になって一緒に暮らそうと求め、太郎は応じる。なかなか積極的とも言える女性である。
 彼女は、太郎に、「これは竜宮城と申す所」と、春夏秋冬の美しき景色を見せた。楽しく三年が過ぎた。そこで、太郎は、父母のことが心配なので、三十日の暇をくれないかと申し出る。
 彼女は、今、別れるといつまた逢えるかわからない、「たとひ此世にてこそ夢幻の契にてさぶらふとも、必ず来世にては、一つ蓮の縁と生れさせおはしませ」と、泣く。そして、わたしは礒で命を助けられた亀であると打ち明ける。
 結局、太郎は、かたみにと「いつくしき箱」を渡されて、故郷に帰ることになる。「あひかまへてこの箱をあけさせ給ふな」と言われた箱である。
 故郷に帰り着くと、かつてと様子が違い、人に尋ねると、ここに浦島という人が住んでいたのは、七百年以前のことであると聞かされる。父母はとっくの昔に塚のなかだったのだ。
 呆然とした太郎は、一本の松の木陰で、箱を開けた。紫の雲が三筋のぼった。二十四五だった太郎は、たちまち齢を重ね、鶴になって、虚空に飛び去った。
 亀が、箱に収めていたのは、「時」だったのだ。太郎の齢を畳み入れていたのだった。
 その後、浦島太郎は、明神と顕れ、亀も同じく神とあらわれ、夫婦の明神となる。
 人と亀との結婚、生き物を助けた功徳ゆえの神への「昇格」、海の彼方の楽園(竜宮城)、鶴への変身、年齢を箱の中に封じ込めると言うこと・・・・・そんな話だった。

ラスト・マタギ

2017-04-27 | 読書
【本の紹介】
●山人として生きる/志田忠儀著/角川文庫/平成29年3月25日発行/¥600
 表紙にサブタイトル風に「8歳で山に入り、100歳で天命を全うした伝説の猟師の知恵」とある。山形県に生まれ、朝日連峰、寒河江川地域で暮らした一人の男が記した一書。熊や兎狩り、茸採り、岩魚釣り等の経験が語られ、自然の中で生き、身につけた事々が綴られる。熊や兎の習性を知ることが、捕獲することにつながる。当たり前のことかも知れないが、それらを明確に意識化して示されている。
 また、戦争で中国を転戦した経験、遭難救助、国立公園の管理の仕事のことが語られ、その肩肘はらぬ姿勢に、氏の人柄が感じられる。
 本書は、平成26年に「ラスト・マタギ 志田忠儀・98歳の生活と意見」として発行された単行本の文庫化で、読みやすく、惹きつけるものにあふれている。