馬体のあらゆる骨が、あらゆる折れ方をするとも言えるが、実際にはよく折れる骨が、よくある折れ方をする。
競走馬の骨折についてもそのパターンは決まっている。
手元にある2008年のJRAの事故統計(競走中)でみると、
骨折の合計が725頭、そのうち前肢の骨折が651頭(89.8%;9割は前肢が折れる)。
651頭のうち、橈骨が179頭、手根骨が209頭、合計388頭(骨折の53.5%;5割は腕節の骨折)。
中手骨が120頭、種子骨が19頭、指骨が119頭、合計258頭(骨折の35.5%;3割以上が球節の骨折)。
つまり、競走馬は走るときの荷重で腕節か球節が折れるのだ。
(サラブレッドでも乗馬や放牧されている馬の骨折はぜんぜん違う。)
右の写真を見ると競走中の荷重を受けた前肢の様子がわかる。
腕節は反り、球節は地面につきそうなほど沈下し、繋は水平になっている。
腕節は尾側が屈腱や靭帯で支えられたカスタネットのような関節で、荷重を受けたときには閉じて関節面の軟骨どうしが荷重を受けるようになっている。
しかし、腕節が大きく反ると、荷重は腕節を構成している骨の端だけにかかってしまう。
それで、「剥離骨折」と呼ばれる小片骨折chip fracture が腕節構成骨の端っこに起こる。
球節はまっすぐな(本当は反っているのだけれど)中手骨がすごい力とスピードで沈んでくるのを、第一指骨が受けながら、球節そのものが沈み込むことで荷重に耐えようとする。
そして完全に沈んでしまわないように、屈腱や繋靭帯と繋靭帯の中の種子骨がハンモックのように球節を受け止める。
中手骨の関節面の中央には矢状稜と呼ばれるレールがあり、第一指骨の関節面には溝があって、そのレールを受けている。
耐え切れないと、第一指骨はその溝で内外に割れる。
中手骨の関節面は、矢状稜の内か外の関節面から縦に割れる。
種子骨は引っ張られて切れるように割れる。
このような腕節か球節の骨折が競走馬の骨折の8割を占めている。
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上の左右のどちらの写真も、右手前で走っている写真のように思う。
馬が駆歩で走るときには、反手前前肢にもっとも荷重がかかることが研究報告されている。
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左回りの競馬場だと、コーナーを回るときには右前肢の荷重が大きくなるはず。
しかし、もっともスピードが上がる最後の直線では手前を変えるので、逆の左前肢に・・・・・・
右回りだとその逆。
さて、競馬場の回り方と骨折の左右の比率は差があるかどうか・・・・
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当歳馬の胃内視鏡検査。
競走馬の腕節の剥離骨折の関節鏡手術。
数歩使って変えてゆくのですね、勉強になりました。
馬の器用不器用の差もその辺に出るのでしょうね。
競走中の骨折の8割が前肢ならば
靭帯や腱の損傷も同様に、やはり前肢が多いということでしょうか。
USAの競走馬の骨折のデーターが、右前肢に多いと出るならば
回り方と故障の左右差との関係が解りそうですね。
浅屈腱炎は前肢がほとんどですね。繋靭帯炎もそうでしょう。蹴る力ではなく、走る体重を受け止めることで傷むのでしょうね。
USAの左右のデータは見た記憶がないのですよね。どこかに出ているのかもしれません。が、明らかに片方ばかりが多いということはなさそうです。
競走馬のそれぞれの骨の骨折のイメージがとてもよく分かるように思います!感激です!
不思議に思ったのですが、繋靱帯炎になる症例と種子骨骨折の症例とは、なにかちがいがあるのでしょうか。。
種子骨と繋靭帯にそれぞれ前駆病変があるかどうか、が一つかもしれません。
種子骨骨折がどのように起こるかで紹介したような病理学的変化もその一つ。おそらく繋靭帯も、変性や微細な損傷があってついに部分断裂するのでしょう。
中手骨の形状や関節面の変形・損傷などによって種子骨が折れやすいということもあるようです。
損傷の蓄積がさらなるひどい損傷につながるのでしょう。
いずれにしても、まったくの突発事故ではなく、原因・要因があると考えることで、予防や治療に役立つのではないかと思います。