難産で引っ張り出した子馬が立てないし、状態が悪いので入院させたい。とのことであずかった症例。
数日、NICU管理をして、一般状態は良くなり、立てるようになった。
球節が腫れているのでX線検査もして欲しいといわれた。
中手骨遠位骨端線のところで折れてしまっている。難産で引っ張り出すときに折れたようだ。
子馬の骨折の中では、このような骨端板(成長板;骨が成長するために軟骨だけでつながっている)損傷がかなりの部分を占めている。
しかし、考え込んだ。
金属を入れて固定することはできるが、この子馬は一般状態が安定せず全身麻酔に耐えられるかどうかわからない。また、感染にも非常に弱いだろうと思われる。
金属で成長板を固定してしまうと、骨が成長できなくなる。子馬は生後1ヶ月で体重は倍になる。片側だけ固定すれば、反対側だけが成長するので骨は曲がってしまう。
この症例についてUSAの馬整形外科医に相談したら、今Barbaroの骨折治療で注目の人、ペンシルバニア大のDr.Dean Richardsonがアドバイスをくれた。先生によれば、
「内固定手術(金属で固定する手術)の適応ではない。しかし、キャストを長期間まくと、球節を支える腱や靭帯がゆるんで、致命的な問題になる。10日で治るからバンデージで固定しなさい。」
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そのアドバイスにしたがって、しばらくはキャストで固定し、その後はバンデージで固定して癒合するのを待つことにした。
左がキャストで固定した状態。
子馬の成長は速く、皮膚はとても弱いのでキャストを長く巻いておくわけにはいかない。
骨折部位を正しく整復しておくためには、下巻きを厚くできない。キャストの中で肢が遊んで、ずれてしまう。
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結局、キャストから、中に添え木(プラスチックの板で作った)を入れたバンデージ、そしてバンデージだけ。というふうに巻き代えていき、なんとかひどく肢が曲がることもなく癒合した(左)。
「10日で治る」とはいかなかったが、手術しなくて正解だったと思う。
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人でも、子供の骨折ではできるだけ内固定を避けるようだ。子供は骨の癒合が良いのでキャストだけでも治りやすいし、逆に成長期の骨に金属を入れることの問題もある。
Dr.Richardsonにお礼と報告を送り、馬でも小児整形外科の教科書が必要だから書いてください。と頼んだ。
Dr.Richardsonがああいうアドバイスができるのも、成功も失敗も含めて私達の何倍もの経験をしてきたからだろうと思う。
症例の経験を蓄積し、次に生かすこと。知識、経験、技術を共有することの大切さを教えられた症例だった。
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