真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:金泥駒/撮影監督:柳田友貴/監督補:片山圭太/監督助手:城定秀夫・椎名健太/編集:㈲フィルムクラフト/撮影助手:山下裕/照明助手:松島秀征/音楽:どばと/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/効果:東京スクリーンサービス/車輌協力:マエダオート/現像:東映化学《株》/出演:佐々木基子・中村杏里・吉原夕子・やまきよ・山内健嗣・上野太・岡田謙一郎・亜希いずみ・町田政則/特別出演:城春樹)。脚本の金泥駒は、小松公典の変名。実際のビリングは、亜希いずみと町田政則の間に城春樹を挿む。
 商店街からカメラが引くと、客を待つてゐる訳ではなさげな土門誠二(町田)のタクシー。一見土門が油を売つてゐると窓を叩き、譲次(山内)と好子(中村杏里/a.k.a.永森シーナ)が乗り込んで来る。行き先も告げずに二人は好子主導で乳繰り合ひ始め、そのまま一分経過。業を煮やした土門が水を差し、淫行タクシーはとりあへずで動き出す。走り出す前から止まらない二人は本格開戦、堪忍袋の緒を切らした土門が停車し降車を求めると、好子は札片を切り車を貸すこと―と少しは覗くこと―を求める。順調に裸映画を稼働する好子と譲次に対し、呆れ果てた風情でボンネットに腰掛けスポーツ新聞を開く土門は、“失踪女性遺体で発見!”の見出しに目を留める。車から離れる土門を、少し後方から抜いてタイトル・イン。駄目だ、幾ら的確に種を蒔きつつ、腰から下に対する商品性も申し分ない完璧なアバンタイトルとはいへ、この調子だと全篇ついつい活字再映しかねんぞ。
 人騒がせな二人が捌けた土門のタクシーに、今度は切迫した面持の佐々木基子が飛び込んで来る。ケロッと白状するソープ嬢・綾乃こと、徐々に明らかとなる本名小野寺利佳(佐々木)は、出勤時を待ち伏せされた偏執的なストーカー客から逃げて来たものだつた。綾乃も降ろし、冒頭の商店街に帰還した土門を、気さくな同僚・信吾(やまきよ/a.k.a.山本清彦)が冷やかす。信吾との遣り取りを通してさりげなく開陳される、そもそも労働意欲から乏しい土門がタクシーに乗つてゐる理由。かつて夫婦で営んだ居酒屋のあつた商店街にて、土門は蒸発した妻を探してゐた。顔色の悪さを指摘された信吾いはく、これは―タクシーの―ノリ疲れではなく、ヤリ疲れ。信吾は岬と名乗る女の一人客(吉原)に誘惑され、ウハウハと据膳を頂く。とうに日も高い翌朝、目覚めた信吾の傍らに、岬は既に居ない。催した信吾が立ちションしてゐると、そこには水上岬殺害事件の情報提供を求める西条警察の立て看板が。藪から棒な幽霊譚を経て、車内のバックミラーには厄除の御守も提げられる翌日、偶々二日続けて綾乃を拾つた土門は、綾乃からの申し出で送迎専属となることに。
 配役残り、御存知関根和美愛妻の亜希いずみが、蒸発した土門妻・麗子。ある夜店を閉める段となり土門が先に返した麗子は、それまでも当日も何の予兆も言葉も残さぬままに、それ以来プッツリと姿を消す。そろそろ綾乃を迎へに行くタイミングの土門のタクシーを強奪する上野太は、助手席好きの説教ヤクザ。その実は、医者に扮することもある変装マニアの乗り逃げ常習者、といふややこしい御仁。ところで利佳が綾乃になつた訳アリは、よくある話で普通の仕事では返せない借金。中盤を締め括るべく満を持して登場する岡田謙一郎は、利佳、ではなく元々は保証人になつた友人が金を借りた、吉川興業の梶尾年男。店に綾乃を急襲、自分の女になることを強ひるも拒絶されるや、手酷く犯す。その他在りし日の居酒屋店内に、商店街の八百屋と同じ声のキャップ男と、キャップと二人分の勘定を払ふ感動的に変哲のない男。カウンター右に折れた奥で寝こける、メッシュ男の三人が見切れる。後述するが、三人は。
 以前に書き散らかした感想が我ながら扱ひに困る代物につき、黄金週間をいい機会にとDMM戦を挑んだ関根和美2000年全四作中第二作。もう一本、翌年正月映画の薔薇族がある。当時の状況を恣意的なうろ覚えで適当に概観してみると、四天王からサトウトシキがなほ番ないしは戦線に留まり、エース格の今岡信治や上野俊哉を中心に七福神も未だ底が割れず。国映マンセーの空気の中、荒木太郎が全盛期を迎へたのがこの年。迎へた“らしい”といふ本音は、それを言ひ出すと話が全く変つてしまふ故、ここでは呑み込む。その他の監督にも目を向けると、ゼロ年代前半大暴れする山﨑邦紀がいよいよ本格的に唸りを上げ始め、松岡邦彦はとうの昔に一旦デビュー後Vシネに雌伏の時期。何故か第13回ピンク大賞に於ける、ベストテンの二位に「ピンサロ病院3 ノーパン診察室」が潜り込んではゐるものの、正直渡邊元嗣は暫しマッタリしてゐた。加藤義一・佐藤吏・城定秀夫・竹洞哲也・田中康文は未だデビュー前。但し、眠れる巨山・高田宝重が現状最初で最後作を発表したのと、猛烈についでに、下手に勝手を掴んだのか遂にプリミティブな牙を剥いた関良平が、第二作「三十路兄嫁 夜這ひ狂ひ」の魔編集で観る者に頭を抱へさせたのも、同じ前世紀最終年のことである。話を戻して、そこでこの頃当の関根和美はといふと、翌年壮絶な戦死を遂げる大御大・小林悟。今上御大・小川欽也や無冠の帝王・新田栄らと共に、ルーチンの権化と見做され殆ど敵視に近く軽視されてゐた。個人的には小屋に通ひ始めて未だ日が浅く、特に敬遠もしなければ別に期待もしない低目にニュートラルな心持ちで今作を前にした私は、そんな関根和美が叩き出した渾身のマスターピースに撃ち抜かれた。土門とリカの、訳アリ・ミーツ・訳アリ、ダメ人間・ミーツ・ダメ人間なラブ・ストーリーの仕方のないもどかしさと否応のない切なさ、超え得るのではなく、結果的に時代と全てを超え得た美しさ。都会の片隅偶さか出会つた、袋小路に陥つた土門と自らの不用意が招いた苦境とはいへ、悪党にシャブられ泡風呂に沈んだリカとが辿り着く穏やかな幸福は、所詮は便宜的な娯楽映画の嘘に過ぎまい。ただ、それがどうした。真実と混濁した事実にしか興味がないならば、日がな電話帳でも眺めてゐやがれ。それで誤記・誤植を見付けた日には、鬼の首を取つてゐればよからう。今既にある潤ひを欠いた現し世は、容赦なく、世知辛く、美しくない。せめて物語は映画は全ての芸事は、さうあつて貰ひたいといふ哀願と同義でしかないにせよ、嘘でも美しくあるべきだ。夜の夢こそ誠といふロマンティックは、さういふ敗れ去りし日陰者の、駄々にも似た逆説的なリアリズムであるのではないのか。改めて冷静な検討を試みたところ、嘘は嘘にせよそのつき方が実に上手い。開巻に二番手が華麗に飛び込み、へべれけをスレスレで切り抜ける三番手の飛びギミック。主演女優を前半は温存する大胆な戦略含めて、偉ぶらないが女の裸の見せ方は地味に秀逸。辛気臭くなりかねない始終を、土門側の外堀を埋める作業込みでやまきよが陽性に適宜調子を整へ、コミック・リリーフの上野太も味はひ深さを披露すると同時に、軽く横槍を入れる形で本筋を乖離しない。そして幼児プレイから非道に豹変する鬼の岡謙が、綾乃を地獄の底に突き落とした上で、結果的には利佳の背中を何気に押す。的確な配役と実は無駄のない構成の援護射撃を受け、麗子が失踪した夜の仕上げも済ませていよいよ本格起動する土門とリカの恋路。ここで頂点に達するのが、残念ながら現在は解散したやさぐれ大衆ロック・バンド「どばと」による劇伴。中空龍の物悲しくも力強いピアノの旋律も、幻の傑作「一度はしたい兄貴の嫁さん」(1997監督:久万真路/脚本:金田敦/主演:彩乃まこと・臼井武史)を、忘れ難きものとする村山竜二のアコーディオンも。近年、本篇の出来不出来に関らず高水準の仕事を連発する與語一平や宮川透らも凌駕する、一聴必殺のエモーション。音楽の富を奪取せよ、総合娯楽たる映画の面目躍如である。そして更には、息を飲むスローモーションがこの期に及んだ交錯を鮮烈に演出する、何処までも上り詰めて行く執拗さに震へさせられる屈指のラスト・シーン。停止なら停止で構はぬ、俺は、「淫行タクシー ひわいな女たち」よりも素晴らしいピンク映画を知らん。何故か頑なに新版公開回避の憂き目に遭つてゐることもあり、依然再評価の機運は清々しく窺へない逆風といふか要は無風に抗ひ、幾度でも繰り返すがそんな―どんなだ―関根和美が叩き出した渾身超絶のマスターピース。木戸銭を落とす方向なら兎も角、ロクに観もしないで、人の名前で映画を選ぶなんて詰まらんぜ。

 然し、在りし日の土門と麗子の居酒屋店内に居るらしいが、DMM戦を通しても見付けられない城春樹は、少なくとも公開プリントには本当に映つてないぞ。仮に切られたとして、クレジットにだけ名前を残すといふのも乙な話である、正しく特別だ。


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