真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「色狂ひ天国 止まらない肉宴」(1993『美尻調教 もう許して』の2011年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:橋口卓明/脚本:佐々木優/撮影:小山田勝治/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:岩崎智之/照明助手:加藤義明/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:菊池麻希・井上あんり・梶原恭子・池島ゆたか・小林節彦・荒木太郎・山口健三)。出演者中、池島ゆたかは本篇クレジットのみ。
 OLの佐藤美歩(菊池)と、同僚兼恋人・桑原茂樹(山口)の情事でそつなく開巻。但し事後感想を求められた美歩が、絶妙に言葉を濁したタイミングでタイトル・イン。ポスター写真では目力を感じさせるのに動いてゐるのを見るとキャラクター的には薄さも感じさせつつ、菊池麻希の兎も角均整の取れたプロポーションと同時に、山口健三の精悍さも綺麗な男女の対照を成し実に画になる。
 古本屋のある商店街を抜ける美歩の通勤カット噛ませて、オフィスを工面する労か袖を端折つたと思しき、社外での昼休み風景。公園で昼食を摂る、制服を着てゐないのをみるに二人は総合職なのか、美歩と親友・木村早苗(井上)の前に桑原と、食べ物の貧しさを揶揄するのが挨拶代りの、矢張り同じ会社に勤める早苗の彼氏・船橋清隆(荒木)が現れる。ところで薮蛇なのが、旧版と、それを律儀に踏襲した新版ともポスターでは何故か、荒木太郎の名前が荒木一郎に。どうしたらさういふ破目になるのか、一文字で根本的に違ふ、騙されて小屋の敷居を跨いだ人があればどうするつもりなのだ。閑話休題、内向気味の美歩に対し、早苗は船橋との倦怠期を公言して憚らない―前に出る圧力に乏しい菊池麻希と、アクティブな井上あんりとのコントラストが映える―伏線も踏まへ、帰り古本屋に寄つた美歩は、『女体開発奥義』なる見るから古い単行本を買つて帰る。こゝで池島ゆたかが、無愛想さがリアルな古書店店主。帰宅後、早速『女体開発奥義』を紐解き美歩が試すメソッドが単に快楽を得るための技術ではなく、書名通り女にいはゆる“名器”を仕込む養成法である点に関しては、この時点では―といふか結構終盤に至るまで―明確に説明を欠く。結果論として、この辺りから展開が躓き始めたものと目し得なくもないのだが、とまれ美歩がひとまづ桑原と奥義を実践に移してみたところ、二人は絶大なる効果に震へる。但し但し、『女体開発奥義』には、書籍内の理論を実行するのは一日一回と戒める但し書きが添へられてあつた。一方、美歩が肌身離さず持ち歩く『女体開発奥義』に興味を持つた早苗は、家飲みに招いた美歩が寝込んだ隙に、『女体開発奥義』の内容をメモに書き写す。舟橋と奥義を実戦投入した早苗は、どうやら但し書きには気づかなかつたらしく、こちらの二人は忽ち寝食も忘れセックスに溺れる。
 1993年橋口卓明、薔薇族込みで最終第五作の最も顕著な特徴は、男女それぞれ三番手の登場を契機に、みるみる怪しくなつて来る雲行きが挙げられようか。より正確には、女優部三番手が厚黒い雨雲を立ち込めさせ、再登板した男優部三番手が土砂降らせる。登場順に小林節彦は、桑原とは何となく擦れ違ふ中、『女体開発奥義』購入後の美歩がテレクラを介して一夜を過ごす、ポップにガッついた男・加藤。梶原恭子は、美歩との奥義戦も経ておいて、桑原が呼ぶホテトル・野村恭子。
 秘儀を正当な伝承者から無断盗用した者が、正しい使用法を守らず―あるいは知らず―に酷い目に遭ふ。古典的な形式の物語に、上手く女の裸を絡める妙手にも成功してゐる。本来ならば、極めて磐石な艶話であつて全然おかしくなかつたところであるにも関らず、中盤、正体不明に振れてみせるナーバスが致命的な疑問手。美歩が桑原を伴ひ帰宅すると、玄関先には何故か―当夜加藤の心証が決してよくはなかつた美歩が、住所を教へてゐやう筈のない―加藤が詰めかけてゐる。一旦詰め寄つた加藤もさて措き、桑原は美歩と正しく薮蛇な痴話喧嘩。そこで美歩が投げた、「貴方がさういふ私を求めたんぢやない!」とかいふ台詞が、どういふ美歩なのか、全体、桑原が何時何を求めたのだか皆目通らない。兎に角そこに飛び込んだ助けの求めに応じ、荒淫の果てに憔悴した早苗と船橋を救出したのちの美歩と桑原による締めの一戦は、濡れ場そのものとしては全く順当な出来栄えではあるものの、全篇を不用意に貫く、美歩と桑原の齟齬に血肉を通はせる段取りに画期的に欠いてしまつてゐるゆゑ、クライマックスに至る過程も畢竟ちぐはぐなものとなり、さうなると如何せん始終が収束しない。魅力的な基本プロットと、隙のない布陣にも恵まれながら、攻め口を仕出かしシンプルな裸映画の良作をモノにし損ねたやうに映る、釈然としなさばかりが残される据わりの悪い一作ではある。
 そんな最中、純然たる枝葉の一幕に過ぎないまゝに魅力的であつたのが、様子のおかしい早苗と船橋を美歩と桑原が各々気遣ふ、件の後者。桑原から仕事が忙しいのかと尋ねられた船橋は、「俺が仕事する訳ないだろ」と即返答。これはまるでアテ書きされたかのやうな、荒木太郎ならではの鮮やかな名台詞。

 今回、加藤の女の扱ひが幾分乱雑なほかは、加虐要素は特にも何も全くない。即ち、実は新題の方が内容により即してゐるといふ、珍しい好例を成す。“より”といふか、全く過不足なくフィットしてみせるのは滅多にないクリーン・ヒット。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
今年もよろしく (通りすがり)
2023-01-04 15:28:11
1970年代の荒木一郎みたいな髪型も似合うかもしれません>荒木太郎
ヤリ過ぎで井上あんりと揃ってベッドにへたってる姿が最高でした。

ピンク映画らしい、しょうもない話で良かったんですが、当方、尿意を催してしまい、ちょっときつかったです。

(館内のトイレは怖くて行けない(;w;))

もう一回、トライしたいと思います。
 
 
 
どうぞヨロシクで (ドロップアウト@管理人)
2023-01-04 17:27:45
>1970年代の荒木一郎みたいな髪型も似合うかもしれません>荒木太郎

 案外、ファッション込みで荒木太郎の造形てクッソみたいに幅広いんですよね

>館内のトイレは怖くて行けない(;w;)

 ハハハ、貴殿が何処の小屋で御覧なのか存じませんが、個人的には手洗(とホワイエ)で怖い目見たことはないですね、一応明るいし(笑
 
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