真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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痴漢電車制服篇 相互愛撫/ex.DMM戦
深町章
/
2021年03月07日
「
痴漢電車 女子校生人妻夏服篇
」(1991『痴漢電車制服篇 相互愛撫』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:恵応泉/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:山崎光典/撮影助手:北沢弘之・重岡幾太郎/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・早瀬瞳・植木かおり・石川恵美・南城千秋・池島ゆたか)。脚本の周知安と製作の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
早瀬瞳が公園の中をそもそも冬服のセーラー服で歩いて、開巻即のクレジット起動。新東宝ビデオが今回クレジットを改悪しない分まだマシともいへ、夏服篇掲げて冬服を売るのは、流石に出鱈目が目に余る。それはさて措き早瀬瞳の、背後には詰襟の南城千秋が。下の名前が倫子と来た日には苗字は江藤にさうゐない、江藤倫子(早瀬)に憧れる高三の岩淵か岩渕タツヤ(南城)は、さりとてクラス一の美人で勉強も出来る高嶺の花に手が出せず、連日連夜オナニーに勤しむ日々。仰け反つた岩淵の視点で、逆さの電車が正立にでんぐり返つてタイトル・イン。これといつた意味も見当たらないまゝに、180°回転カメラを何かにつけ全篇を通して多用する。
配役残り、偶さかな勢ひで岩淵が倫子に電車痴漢した翌日。岩淵に接触する引きのファースト・カットだとそこそこのおメガネに見えた―真横から抜くと、三日月型に湾曲してゐる―植木かおりは倫子の友達で、岩淵を倫子から遠ざけるためなら体も張る黒崎、となると下の名前は悦子か。石川恵美は、大学三年の岩淵が職業で狙ひを定める、役名不詳の新米看護婦。橋本杏子は新社会人になつた岩淵に電車逆痴漢を仕掛けて来る、欲求不満で矢張り役名不詳の和服人妻、池島ゆたかが配偶者。そして、隠れキャラ的にもう一人。酷似した背格好のみならず、全く同じ場所に立つてゐる点を窺ふに、「
痴漢電車 百発百中
」(1989)に於いて山竜が喜捨する托鉢僧が、岩淵と石川恵美が出て来る駅前のロングに見切れてゐる。当サイトが気づいてゐないだけで、目撃例はこの頃ほかにもチョコチョコあるのではなからうか。高三篇に話を戻すと、悦子に筆卸して貰ひ明後日な自信をつけた岩淵は、刺された釘もてんで意に介さず“女は誰でも男に抱かれたがつてゐる”なる歪んだ常識に則り、「ようし今夜、江藤クンの部屋に忍び込んで処女を奪ふぞ!」。とか青春映画風に凶悪犯罪予告する抜けた底が高速回転しながら、ハイブの殺人トラップばりに頸動脈目がけて飛んで来るシークエンスには、クラクラ眩暈がするのも通り越して卒倒しさうだ。
何故か石川恵美がVHS題には拾つて貰へない、深町章1991年第三作。岩淵の部屋と江藤家にハシキョン宅は、全て津田スタで賄ふ。仮に浪人も留年もしてゐない場合、最短で五年に亘る岩淵の痴漢ライフを描いた悲喜劇。といつて、よくよく冷静に振り返つてみるに帰結は悲劇ばかりでもあるのと、その間なりが変るだけで岩淵が成長するでは特にも何もなく、要は体よく尺を概ね三等分する緩やかなオムニバス仕立ての一作。ネタの扱ひにナーバスになるほどの映画でもないゆゑ、無造作にバレてのけると高三篇は、先述した歪んだ常識が、咲き誇る百合によつて見事に覆される。一方、新社会人篇はハシキョンが岩淵をホテル代を惜しみ自宅に招いた時点で、「
車内口撃
」(1989)の久須りん的なオチかと思ひきや、池島ゆたかが少なくとも両刀使ひといふ、百合に続いて薔薇も狂ひ咲かせる力技。尤も痴漢電車の車中、岩淵が池島ゆたかの存在に気づいてゐるのかゐないのか判然としないオーラスに、失速は否めない。対して大三篇は面子から一人少ない最小単位で、落とし処が全く読めなかつた。とこ、ろが。要領が悪いだの不器用だの再三再四石川恵美が自嘲するのを秀逸な伏線に、他愛なくも予想外のパンチラインが炸裂。かてて加へて早瀬瞳や橋本杏子に勝るとも劣らない美人、といふ訳では決してないにせよ、電車痴漢の最中、岩淵のモノを触らされると綺麗に目を丸くし、連れ込み―も当然津田スタ―での事後、一転攻勢に転じる機運を弾けさせ「アタシのいふことは何でも聞いて呉れるつていつたはよね」。石川恵美がキラッキラ輝かせる豊かな表情が、麗しくて麗しくてもうどうしたらいいのか判らない。胸がキューッとなる、医者行けよ。それはお前の琴線の張り具合に過ぎないだらう、さう呆れられてしまへばそれまでに過ぎず、敢へてでさへなく抗弁するつもりもない。但し橋本杏子が絶対的な四番打者に座つてゐた90年代前半、慎ましやかに五番を務めてゐた影の名女優にもう少し光が当たつても罰は当たらないのではあるまいか。さう思ふ常日頃、ダレる間のないちやうどいい塩梅の長さで石川恵美の魅力にときめく至福に浸つてゐられる今作は、確かに見た甲斐があつた。
一緒の読みで恵深に改名して、石川恵美が芸能活動を継続してゐるのには軽く驚いた、今年還暦なんだ。まだイケる、何が。
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