真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 人妻柔肌篇」(1995『痴漢電車 人妻の肌ざはり』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/演出助手:榎本敏郎/撮影助手:小山田勝治/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/スチール:津田一郎/出演:青木こずえ・吉行由美・風間晶・田口あゆみ・杉本まこと・荒木一郎・池島ゆたか)。
 ミヨ(青木)とリョースケ(杉本)の夫婦生活で開巻、ミヨが“また”と呆れる頻度で中折れたリョースケは、入院した理由が腎虚を噂される鳥山課長の話で茶を濁す。脚本がイコール片岡修二の周知安でないからか、固有名詞が耳慣れない名前ばかり。リョースケは滅法肉感的な鳥山夫人(吉行)が悩ましく大股開くイマジンを膨らませるどころか、すぐ隣のミヨと比較する口を滑らせかけた挙句、不用意な粗相を察して布団の中に潜り込む。至極全うにむくれたミヨは、「その時アタシは思つたいい女になつて、こいつを腎虚にしてやるんだつて」と決意、明快にテーマを設定する。てな塩梅でミヨは寿退社した職場の先輩で、重役が相談に来るほどのSEXカウンセリングを社内で誇る性豪・風間葵(田口)を頼る。葵が唱へるのは、自らを知る上でもオナニーのすゝめ。何でもやつてみると泣きつくミヨに、葵が念を押して電車にビデ題タイトル・イン。明けて車内の、実景からセットに。左右を田尻裕司と榎本敏郎に挟まれたミヨが逡巡する、葵から最初に下された指令が電車内ワンマンショー、初球からフルスイングすぎんだろ。とまれ果敢に決行したミヨが、気づかれた演出部に加へ周囲の集団痴漢を被弾する一方、駅前のラブホテル「山下」に入る葵の逢瀬の相手は、あらうことか結婚式当日に出会つたリョースケだつた。
 配役残り池島ゆたかが、件の鳥山課長、勤務先は初芝電産。二度目に見た荒木一郎名義の荒木太郎は、電車に乗つた鳥山夫人が会敵する痴漢師・花田、風間晶が花田の配偶者。
 もしや今作が幻の、映画の公開順は前後した「人妻篇Ⅰ」となるのかも知れない深町章1995年第一作。この年案外少ない全五作、昨今のローテーション監督と然程変らない。自身とレスであるにも関らず、鳥山が腎虚で入院した不義理か不条理に怒つた吉行由美は、鏡に映して自信のある乳尻に対し、最終的な具合は挿れた男に訊いてみないと判らない観音様の是非を確かめてみるべく、捕獲した花田と劇中一同が常用する山下に。脛を抱へる形のM字で、秘部を男に曝す吉行由美が鬼のやうにどエロくて素晴らしい。ところが出て来るところを、花田を張つてゐた風間晶に目撃される。そもそも鳥山が腎虚になつた所以は、告白された夫の痴漢癖に衝撃を受け電車に乗つてみた風間晶が、電車痴漢を仕掛けて来た鳥山を矢張り捕獲。「これが私なりの―痴漢行為に対する―復讐なのでした」とか自堕落極まりない方便で、元々自覚する人一倍強い性欲で鳥山を貪り尽くしてのことだつた。偶さか鳥山夫人と一度山下に入つた程度の花田に、憤慨する謂れ一欠片たりとてねえよこの女。兎も角、あるいは兎に角。改めてキレた風間晶は、入院中は流石に手を出さなかつた鳥山に連絡。リアル生命の危機を感じた鳥山は、葵と山下を出て来たネタを出汁に、上司を見舞ひに来てゐたリョースケに虎の尾を踏ませる。風間晶からの呼出に応じるのが「代理でもいいつてさ」と嘯く鳥山の力ない言葉を、初め黙つて聞いてゐたリョースケが真意を察するや「あ俺!?やですよー」と途端に鳩が豆鉄砲を喰らふのは、杉本まことの見事なノリツッコミ。とここまで、棹と蛤で繋がつた全ての俳優部が壮大な惑星十字配列“グランドクロス”を形成する、何気に秀逸な構成は案外比類ない完成度を誇つてゐた。序盤から四十一分―総尺五十五分弱―の長きに亘り豪快に退場する、ビリング頭の存在をいつそ忘れてしまへば。結局何だかんだでミヨとリョースケが何となくヨリを戻すラストは展開自体他愛ないか下手にまどろこしいばかりで、ピンク映画デビュー間もない青木こずえにも、全然普通の三本柱たり得る、女優部後ろ三人を単騎で蹴散らす決定力を望むのは未だ酷だつた。最後がある意味見事に尻すぼむ、仕上げを仕損じた印象の拭ひ難い一作ではある。


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