真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「おせんち酒場 君も濡れる街角」(2019/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:和田琢也/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:梨々花・水城奈緒・涼南佳奈・安藤ヒロキオ・折笠慎也)。
 マンション外景にタイトル開巻、彩加(梨々花)がヨガで体を伸ばす傍らのベッドでは、夫の坂崎蓮(折笠)が多分法律雑誌に目を落とす。二人は彩加も資格を持つ弁護士夫婦で、坂崎は自らの事務所を独立開業。した、ものの。業績は芳しくなく元気のない坂崎に、彩加が発破をかける形の夫婦生活。彩加が配偶者の性器を、“分身クン”とか愛玩する苔生したセンスはどうなのよ、そもそも分れてねえ。翌日か、出勤した坂崎はひとまづ物理メールをチェック。明青学院大学法学部の同級生で、中退以来会つてゐない友人の杉山大輝から、“会はなきや話せない話”があるとする手紙が届いてゐた。少なくとも坂崎は入学当時、坂崎が落とした書類を杉山(安藤)が拾つて呉れたきつかけで、二人は仲良くなる。同じく同級生の彩加(旧姓三田)を巡り、坂崎と杉山は先にオトした者に千円支払ふ―もう少し出せ―賭けから進展して、互ひにアタックの進捗を事後申告し合ふ紳士協定を結んでゐた。
 配役残り、2019伊豆映画「5人の女 愛と金とセックスと…」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:平川直大)に続く二本目となる水城奈緒は、学生の杉山を養つてゐたホステス・西島明美。荒木太郎なら平気で仕出かしてゐた、ギリッギリの温存具合に軽くヒヤヒヤさせられた涼南佳奈は、ルポライターである杉山と生死と同義の公私をともにする編集者・杉本幸枝。ところで坂崎と杉山が使ふ、酒場そのものがおせんちな訳では別にない大学近くの居酒屋は、目下専らな馬力。その他店内に矢張り判で捺したやうな顔ぶれの馬力隊が見切れるのと、キャンパス周りにも、往来部を若干名投入してゐるものやも知れない。
 封切り前日に関根和美が急逝した、2019年第二作はNSPならぬLSP“ラスト・関根和美's・ピンク”。元々体を悪くされてゐたのは、2006年五月に閉めた福岡オークラのあつた頃既に、関門海峡を跨いだ地方にも伝はつてゐた。頑なに再映を拒む?上野が漸く上映するか、世間が先んじて追ひ着くまで飽くなき執念で持論を性懲りもなく拗らせるが、過分に極私的な思ひ込みに縛られてもゐる傾向は重々自覚した上で、当サイト選のピンク映画最高傑作は関根和美の2000年第二作「淫行タクシー ひわいな女たち」(脚本:金泥駒=小松公典/主演:佐々木基子・町田政則)である。淫行タクシーの話を始めると際限がなくなるゆゑ、詳細はマッチポンプ・リンクに飛んで頂くとしてここではさて措く。兎も角淫タクが小屋にかゝらない、円盤―現物見たことないけどVHSはあつた―も発売されてをらず。といつた状況は取るに足らない些末、最大手たるex.DMMで配信されてゐるではないか。十八歳以上でネット環境を有してさへゐれば、誰でも何時でも、モバイルなら何処でも見られる。今時、店でレンタル借りて来る方が余程面倒臭い。ついでで今更新は、バラ売り配信を偶然発見した如月吹雪脚本の「復讐篇」と「敵討篇」。大竹康師脚本の「色欲乱れ舞」による大江戸淫乱絵巻三部作(1995/Vシネ)で奇跡のリーチに辿り着いての、達成順で新田栄浜野佐知渡邊元嗣深町章に続く感想百本、最悲願のフィフス・ハンドレッドである。ただあくまで、百といふ数字は単なる通過点。関根和美の未だ潤沢に眠る旧作を、大蔵が市場に投入して呉れたなら喜び狂ふんだぜ。尤も、以上は故人の早過ぎる死まで含め全てそれはそれ、これはこれ、俺は心の棚の上。普段通りのフラットな姿勢で、本作に対する。
 彩加を挟んだ坂崎と杉山の三角関係と、男同士の友情を描いた物語自体は、派手に破綻はしてゐない程度の平板な出来栄えで、正直ワーキャー持て囃すほど大したものでも何でも特にない。最も顕著な特徴は尺の大半も大半、怒涛の五十分弱を大学時代の回想に費やしてのける豪快な構成。さうはいへ、回想の入りから事務所で坂崎の手から零れた封筒に、新入生の坂崎が落としたワークシートを繋ぐスーパー・テクニック。ひたすらに長い来し方のちやうど真中辺り、現在が短く挿み込まれるインターミッションの前後も、前を水城奈緒第一戦の事後杉山がぞんざいに呷るワイングラスと、事務所にて坂崎が茶色い酒を一人傾ける脚のないグラス。後ろは訪ねて来た杉山が坂崎にお代りを求めるグラスと、杉山が坂崎に奢るエメマンを繋げるウルトラ・テクニック。そして回想明けは、杉山の自主退学を知り泣き始めた坂崎の涙を彩加が拭くハンケチを、部屋が暑いと杉山が顔の汗を押さへるハンケチで引き継ぐアルティメット・テクニック。関根和美の誇れはしないが御馴染ではある曖昧模糊な時制移動を、種々繰り出す多彩な超絶技法で完封、この期に皮肉とは。腸(はらわた)よりも寧ろ、脳が先にヤラれてゐたんぢやねえかと頭を抱へさせられた、木端微塵の前作「激イキ奥様 仕組まれた快楽」(主演:優梨まいな)で濃厚に立ちこめた、漆黒の暗雲は見事にか至極普通に払ひ除けてみせる。マイナスがゼロに回復したのを、仰々しく言祝ぐのがそんなに楽しいか。
 裸映画的には安直なフェードの多用が幾分目につきつつ、比較的でなく薄いおヒップ要素に対して、下元哲のカメラがオッパイには的確に寄り続ける。単純な美人不美人でなく、色気が先行する女優部三本柱を擁し、肉の温もりと柔らかさとを伝へる濡れ場には、磐石以外の言葉が見つからない。水城奈緒第二戦に於ける、吸つた口を杉山が離した明美の左乳房が、絵に描いたやうにプルルンッと震へるミラクル・ショットは最大級のエクストリーム眼福。刹那に、エモーションを叩き込め。
 反面、当初二浪して明青学院に入つた筈の杉山が、文学部から二年で法学部に転入した格好に何時の間にか―でもないが―なつてゐたりするへべれけさなり、現下の杉山が事件を追ふうちに、知れば坂崎の身も危険に曝されるほどの機密に触れ幸枝共々国外逃亡を図つてゐたりする藪蛇さにすら劣るとも勝らない、らしさが選りにも選つてラストで火を噴くんだな、これが。彩香を想ひ励む坂崎が幻影を見る、相互ワンマンショーも当然数へるとビリングに違はず最多の豪華四戦をこなす主演女優に、二番手は二戦。細心の注意を払つた展開で映画を壊すこともなく、一時間を優に跨いだタイミングで飛び込んで来る三番手は、時間切れ気味に一戦きり。それまで計七戦の絡みを何れもつゝがなく完遂したにも関らず、彩加がシャワーを浴びてゐると、杉山と馬力で別れ帰宅した坂崎が入つて来る。無理から捻じ込んだきらひも否めない、締めの浴室立位後背位の恐ろしく唐突な中途で、タイトルバックの余地もないブルーバック・クレジットが起動するのには腰が爆砕した。折角九回二死までノーヒットノーランで投げてゐたのに、次の打者に詰まらない内野安打を打たれたが如き一作。最後の最後の最後でこれかよ、流石関根和美だと、改めて畏れ入つた次第。

 以上、与太はともあれ。泉下の関根和美さんに遅れ馳せながらお伝へ申し上げたいのは、私は貴方の映画が大好きです。無論、“でした”などとはいひません。三十五年の長きに亘り、元号も二つ跨いで量産型娯楽映画のフィールドで戦つて来られ、近年は病んだお体でさぞかし辛抱と御苦労もなさつたのでせう。どうぞ、どうぞ安らかにお休み下さい。

 壮絶な付記< と締め括つたつもりでゐて、大変な大惨事に気がついた。淫タクはやつとこさ地元駅前ロマンで再見を果たした時とDMM戦の、二回更新してゐたのを思ひだした。なのでこのエントリーは関根和美の九十九本目、よもやまさかのフライング・ハンドレッドである(;´Д`)


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