真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「びしよ濡れ下宿 母娘のぞき」(1997/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:如月吹雪・関根和美・小松公典/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:加藤義一/音楽:リハビリテーションズ/監督助手:紀伊正志/撮影助手:中川克也/照明助手:草篤/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学㈱/出演:悠木あずみ・祇樹優可・下川おさむ・江島克昌・林由美香)。
 ウルトラ御馴染み南酒々井のハウススタジオ、恐らくちやんとした記録は残つてゐまいが、これまで一体この家で何百本のピンク映画が撮影され、今際の間際の今なほ撮り続けられてゐるのであらうか。それは兎も角、玄関には“空室有ります”の札が提げられる。新鮮な奴に御無沙汰ゆゑと、増えた小皺を悩む母・真耶(林)に娘の亜沙美(悠木)が63年ものの、小瓶に入つた白濁液を持つて来る。二人で小瓶を飲み干し、風呂屋のコーヒー牛乳感覚で「アー」と一息ついたところに、タイミングよく若い男の声で「御免下さい」。声の主は、会社の近くに下宿を求めた中西夏彦(下川)。亜沙美と真耶が姉妹かと至極自然に錯覚した夏彦に対し、二人は何気なくもなく大股開きの御開帳アピール。挙句に、茶を換へる真耶が不自然極まりなく膝を立てた股間に夏彦が釘付けとなる、ガチョ~ンと前後する主観カメラは、往々にして臆面もなくありさうで、意外と初めて見たやうな気がする。あまりに下らなくて、元々容量不足の記憶媒体を右から一昨日に通り過ぎたのかも知れないが。そしてその画を、撮つたのが小山田勝治といふのはさりげない衝撃。さて措き夏彦は卒倒、小悪魔ぽく亜沙美が、玄関の札を下げてタイトル・イン。無理を承知でいふが、関根和美も気が利かないな、そこは札を裏返すとタイトルだろ。
 下宿初日、早速の母娘丼は夏彦の淫夢でつつがなく片付け、翌朝中西は買物に行くといふ亜沙美と一緒に出勤。ぎこちない美人の祇樹優可は、オフィスを用意する労を端折つたにさうゐなく、都合三度公園にて中西と朝食を摂る、同僚兼幼馴染の美由紀。同僚はいいとして幼馴染といふのは、中盤に至らないと判らない、普通に彼女だと思つてた。最初の公園飯時、手前に日陰に沈んで見切れるのは加藤義一。尤も、そこにもう一人を置いておく実質的な意義は、清々しいまでに感じられない。その夜、夏彦に夜這ひを敢行した、真耶が繰り出す決め台詞「きれいなおねえさんは、好きですか」。因みに公開当時松下の公式は、二代目の松嶋菜々子。何代目でも同じことだが、林由美香なら全然負けてないぞ。更に翌日には、今度は亜沙美も夜這ひを敢行。常にフィニッシュは精飲で終る母娘との情事の末に、みるみる消耗し会社も三日間無断欠勤した夏彦を、美由紀は一応しをらしく案じる。
 隠れた名女優・悠木あずみ目当てで選んでみた、関根和美1997年全六作中第三作、薔薇族入れると七の三。お目当てにしておいて何だが、悠木あずみが林由美香を差し置きビリングの頭に来てゐることには少し驚いた。ガチョ~ンカメラともうひとつ、これまで観た覚えがない。美人母娘の営む下宿屋に転がり込んだ若い男が過ごす、ウハウハでムハムハな夢の日々を描いた。微笑ましいと同義の他愛ない艶笑譚かと勝手に思ひきや、開巻で懇切丁寧に起爆装置が地表に露出する物語は、ピクリとも怖かないホラー演出も交へつつ、関根和美らしくマッタリと進行する。それでゐて、余計な枝葉には余念がない辺りも関根和美が関根和美たる所以。最初に辿り着いたのは美由紀な“入室禁止”の開かずの間に、真耶は夏彦を監禁する。救出に訪れた亜沙美に夏彦が閉所恐怖症を訴へるのは、元々の自室と広さはさう変らないやうにしか見えない。それもこれも、といふか直截にはほぼ万事に目を瞑り、定番展開に従ひ翻意した亜沙美と夏彦の、尺もタップリと費やすクライマックスの濡れ場。の最中に、“アレを飲むのはママの勝手な思ひ込みだから”と亜沙美が投げた重要な筈の鍵には、すはここから予想外の結末に畳み込むのかと、スクランブルで緊張した。のに、夏彦は天国に一番近い地獄から解放されたものの、最終的には何処の何者なのだか感動的に判らない江島克昌が、新たなる餌食・信行として真耶と亜沙美の御開帳にしどろもどろ鼻の下を伸ばす。要は、母娘の秘密の種明かしを中途で完全に放棄するルーズなラストには、別の意味で度肝を抜かれた。夏彦がポケットに忍ばせた、“昭和元年”の使ひ方なども子供騙しにすら至らず、逆の意味で流石だとでもしかいひやうのない一作である。


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