真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「乱交白衣 暴淫くはへ責め」(2012/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/原題:『白雪姫と5匹の子ブタ』/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大/準備:田中康文、他一名/協力:上野オークラ劇場/タイミング:安斎公一/出演:愛田奈々・浅井舞香・星野ゆず・津田篤・久保田泰也・太田始・小林節彦・稲葉良子・長谷川健一・しゃんぷう・西村晋也・小谷香織・小沢さん・今泉浩一・野村貴浩・那波隆史・牧村耕次)。超高速クレジットに振り切られる、F1パイロットでもないと無理だ。
 3.11後の世界、野戦病院の如き医療現場を一時離脱した白衣の天使・安本アデル(愛田)は、処女を捧げた外科医・関村南(野村)の下に向かふ。ところが関村は情婦・班目詩子(浅井)と情事の真最中で、挙句に呆然と立ち尽くすアデルは、関村と詩子二人がかりで嬲られる。一方、医学的には十分可能であるにも関らず、月々の事故補償金を漫然と受給しながら社会復帰への意欲を窺はせない者を、一軒家に隔離したZ病棟。泥棒の汚名すら浴びZ病棟に暮らすのは、元農家の高木勘三郎(牧村)、元ケーキ職人の山茂太一(那波)。元画家の武田透(久保田)と元コックの小出裕秋(津田)に、元々無職の後藤(野村貴浩の二役)。生きる意思を失つた五人は、唯一自分達にも温かく接して呉れるアデルを皆で犯し、最終的には心中を決意する。ある日Z病棟に向かつたアデルは、死に装束の黒い服装で固めた五人に襲はれると、関本に胸を痛めてゐたこともあり、捨て鉢に体を開く。白衣の天使と乱交しつつ、何時しかアデル含め何故か全員前向きに改悛。半年後の同じ日にZ病棟に開店する―急遽予定の―五人の店「白雪姫と5匹の子ブタ」での再会を約し、互ひに希望に満ちて別れる。
 配役残り大体登場順に荒木太郎は、Z病棟の面々を悪し様に罵る小役人、憎まれ役を自ら引き受ける。荒木太郎の連れの推定病院関係者は、長谷川健一か西村晋也。泡沫芸人のしゃんぷう―とりんす―は野戦通常病棟の元気な患者。小谷香織と小沢さんは、小沢さんは性別から不明。完全に関本に捨てられたアデルは、記憶を喪失し放浪する。多分前作には出てないぽい、前々々作「美熟女の昼下がり ~もつと、みだらに~」以来のピンク再帰還を果たす、さうなると吉行組にも顔を出して欲しい今泉浩一は、太田始とアデルを陵辱する労務者。小林節彦はラスト一つ前の名画座―場内は上野オークラ劇場旧館―にて、矢張りアデルを輪姦する男達の主格。そこでアデルを保護する名画座のおばあが、サイケデリックな扮装の稲葉良子。散らかり倒した一篇にあつて、初めて荒木太郎映画に馴染む。
 話題作らしいが、自身の第三作込みで十二本飛び越した上で黄金週間の前田有楽劇場に飛び込んで来た、正月映画には二足早い荒木太郎2012年最終第四作。これが確かに話題作といふか何といふか、兎に角凄い一作。ピンク映画初陣の三番手を、山茂を篭絡する本筋から乖離しない形とはいへ、尺もぼちぼち最終盤に差しかゝらうとするタイミングでしかも恐ろしく束の間に無理から捻じ込む。当代の若手アイドルを捕まへて、大概ぞんざいな起用法はピンク映画的には苦心の跡も窺へ微笑ましくなくもないが、凄いのは然様な枝葉に関する事柄では勿論ない。展開以前に繋ぎからガッチャガチャで、状況を撃つ撃ち損じるどころか、そもそも素面の劇映画として限りなく完全に近くほぼ木端微塵。それでゐて、白雪姫と5匹の子ブタが揃ふと、妙な質量のエモーションを藪から棒に叩き込んで来る。しかも荒木太郎平素の線の細いリリシズムとは明らかに次元の異なる、骨の太い映画的興奮を出し抜けに放り込んで来る。荒木太郎がどういふ心持ちで、あるいは何処まで本気で3.11と向き合つたつもりなのかは、5匹の子ブタの蔑まれぶりや高木が漏らす天皇崇拝に躓くまでもなく、今作からは全く辿り着き得まい。愛田奈々の偉大な肉体がもたらした奇跡か、苦し紛れにメガホンを振り回した荒木太郎の紛れ当たりが、偶々フルスイングしてゐたものだから球が遠くまで飛んだのか。訳が判らない以上兎も角とでもしかいひやうがないが、兎にも角にも力強い大怪作にして痛快作。湧き上がるサムシングは、正体不明でも何でも正しき結果に違ひない。前方向かそれとも明後日か、ベクトルなんて気にするな。


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