真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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ねつとり妻 おねだり妻/DMM戦
深町章
/
2013年06月15日
「
ねつとり妻 おねだり妻
」(1997/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:江戸去里晩/企画:福俵満/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/出演:林由美香・青木こずえ・扇まや・樹かず・杉本まこと・池島ゆたか)。脚本の江戸去里晩てのは、一体誰の変名なのか。助監督も現像も割愛する豪快なクレジットは、本篇ママ。
タイトルからイン、団地の外観を一拍抜いて、自販機とテーブルと椅子が殺風景に並ぶ、待合室の如き正体不明のロケーション。親友同士で、結婚四年共働きの中島久美(林)と、結婚三年こちらは専業主婦の植原か上原美沙(青木)がああだかうだと―元―ガールズ・トークに花を咲かせる。初めて気付いた、もしくは今の今まで素通りしてゐた己の迂闊さは一旦棚に上げ、何てこともない遣り取りでしかない筈なのに、林由美香と青木こずえの2ショットの磐石さが尋常ではない。この二人がキャイキャイ世間話してゐるだけで、丸々一時間全然イケる。
開巻の締めに、久美が次の連休に向かふ予定の山梨温泉旅行に美沙夫婦も誘ひ、美沙と夫・コージ(樹)の夫婦生活挿んで、カット明けると久美の夫・シンイチ(杉本)運転するヒッチバック・セダンは一路山梨に。道中妙に思はせぶりなコージは立ち寄つた
時折見かける果樹園
にて、理想の人生とはマンガみたいなものだと薮から棒なメイン・テーマを投げる、メイン・テーマ?今回の宿は、御馴染み
水上荘
、ではなく
廣友館
。但し実際の撮影には、水上荘も併用してゐるやうな気がする。一行が適当に一息ついた頃合で、勝手に勃発する泥棒騒ぎ。アユミ(登場せず)のパンティばかり狙ふ下着ドロ・ひろぽん(まさかのヒムセルフ)を、廣友館の仲居にしては私服の従業員(扇)がトッ捕まへる。扇まやがひろぽんを喰ひかける現場に、騒ぎを聞きつけ顔を出した廣友館社長(池島)は、ひろぽんはチャッチャと追い払ひ扇まやを喰ふ。何が凄いといつて、この二人ともう一名が、メインのカルテットと絡むどころか一切擦れ違ひもしない、純粋無垢な濡れ場要員具合、別の映画をインサートしてみるのと何ら変らない。
深町章1997年全八作中第三作にして、まづ小屋でⅡを観て、その後DMMのピンク映画chに入つてゐるのを知りⅢから見た後に、同じくDMM戦で漸く辿り着いた同年概ね三ヶ月毎に封切られた「ねつとり妻おねだり妻」全三作の第一作。ねつとり妻とおねだり妻の間にスペースが空くのは、本篇タイトルに従ふ。予習がてら紐解いた洋泉社の『女優 林由美香』には今作に関して、“林由美香が演じるのはセックスにはおとなしい「おねだり妻」の方”なる記述が見られる。となると元々は、“ねつとり妻”と“おねだり妻”がそれぞれ別個に出て来る趣向なのかと、改めてといふか今更ながら驚くと同時に、Ⅱ・Ⅲの再検討の要にも迫られかねないのかと幾分身構へた。いはれてみれば確かに、「
ねつとり妻おねだり妻Ⅱ 夫に見られながら
」(監督:的場ちせ=浜野佐知/脚本:山邦紀/主演:柏木瞳)に際しては“ねつとり妻”が柏木瞳で、“おねだり妻”は篠原さゆりの担当かと誘導され得なくもない。かといつて、現に本作の蓋を開けてみたところ、林由美香が“おねだり妻”で、“ねつとり妻”は青木こずえ。さういふ厳密な峻別が、図られてゐるやうには特にでもなく感じられない。冷静に考へてみれば、妻が夜の営みをおねだりする時は大概ねつとりしてゐるもので、同様にねつとりしてゐれば、自動的におねだりする風にも見えるものであらう。“ねつとり妻”と“おねだり妻”を分けて考へることに、然程の意味はあるまいと思はれる。そもそも、「
ねつとり妻おねだり妻Ⅲ 不倫妻またがる
」(監督脚本:珠瑠美/主演:風間今日子)には、現状原田なつみは未亡人につき妻は風間今日子の一人しか出て来ない。珠瑠美が福俵満の説明する企画意図をてんで聞いてゐなかつた可能性も、出来上がつた映画から窺ふ分には当然否定し得ないが。無印Ⅰ単体に話を戻すと、全篇を貫き繰り出され続ける他愛ない冗談の数々が、一幕一幕を特に豊かに彩りもしない中。何となく穏やかな濡れ場が連ねられた末に、そこに至る心的な推移は清々しくスッ飛ばした上で、コージの思ひつきも受けたねつとりとおねだりする妻二人が藪から棒に乱婚的な新生活に墜落ばりのハード・ランディングを敢行する結末は、扇まや+池島ゆたかwith広瀬寛巳のパート以上だか以下に、木に竹を接いだ大雑把さは比類ない。その癖、あるいは加へて。総尺も五十七分と六十分に三分余裕を残し、小家主を地味に喜ばせる割に、それでゐて尻切れた印象は不思議と残さない辺りは、何だかんだで深町章侮るなかれといふべきなのか。結果的に、物語的には最も意欲を見せた第二作にしても、心許ない主演女優に阻まれ開花し損ねたとあつては、わざわざナンバリングまでしておいて、直截に片付けると実に漫然としたシリーズではある。キジも鳴かずばではないが、どうせ各作中身は一切連関しないのだから、寧ろ連作になどしなければ下手に際立つ薮蛇もなかつたものを。とはいへ、量産型娯楽映画を本当に量産してゐた時代なればこその、余計な作為が生温かく微笑ましいとも、この期に及んではいへようか。
何故か各種資料に於いては青木こずえの名前が先に置かれるやうだが、実際のビリングは、林由美香が頭に来る。尤も何れにせよ、扇まやの大絶賛三番手ぶりについてはいはずもがなとしても、二機編隊を組み華麗に舞ふ林由美香と青木こずえの扱ひに、些かなりとて格差が見受けられる訳では全くない。
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