真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟女の痴格 ピンク肌の色情」(1997『スキモノ熟女 ぬめり下半身』の2008年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:矢竹正知/音楽:MRG/美術:衣恭介/編集:井上和夫/助監督:近藤英総/出演:平松ケイ・朝倉麻里・燕りか・鈴木秀和・樹かず・竹田雅則)。出演者中、それぞれ英和と正則ではなく鈴木秀和と竹田雅則は、ポスター・本篇ともママ。一方、朝倉麻里と燕りかは、ポスターには浅倉麻里と燕リカ、どうしてそんなに自由なのか。
 重役にしては随分と若い、アメイジングに若過ぎる山川証券常務の香取弦作(樹)と、秘書、兼愛人である木村綾子(燕)の不倫の逢瀬で開巻。綾子から本妻の清算を求められた香取は、既に話はついてゐると今でいふドヤ顔で電話、寝てゐる一応妻・衿子(平松)を叩き起こす。すると屋敷と株券、所定の条件に満ち足りず衿子は一千万を上乗せして要求。呆れる香取に対し、綾子が自らが管理する裏帳簿から工面することをシレッと提案してタイトル・イン、何処の個人商店だ。それとも、世の中案外そんなものなのか?
 オープニング・ロール通して公園で待ち合はせた衿子と綾子が対面、一千万の小切手と、判を押した離婚届とを交換する。劇映画としての体を成してゐたのは、精々この辺りまでか。出演者残り登場順に、実際のビリングが男優部先頭に来ることに地味に驚いた鈴木秀和は、衿子御用達のオートクチュール下着メーカー「クレセント」の営業・松川六郎。朝倉麻里は衿子の母方の従姉妹・吉井百合で、竹田雅則はその彼氏・逢坂義雄。今作最大のミステリーは、逢坂を伴つた百合がサクサク通り過ぎようとする衿子に目を留める件の直前の、「アルファ」とかいふ店にて、平松ケイでも朝倉麻里でも燕りかでもない美人―敢て誰かの名前を出すならば早乙女ルイ似―がタバコを吸ひながらカクテルを傾け、従業員がルーレットを回す謎の2カット。だから誰なんだそれ、妙に周到にフィーチャーされるアルファがどうしたのよ。その疑問が、解消されることなど終ぞ勿論ある訳がない。百合が出て来た時点で、アルファの女は居る筈のない頭数なのだ、どうしてそんなに奔放なのか。
 最終作一本前となる、珠瑠美1997年第一作。闇雲にグレードの高い劇伴を本篇とは掠らせもせずに放り込み続ける魔選曲、異常に長尺を浪費するロンゲスト・フェードの乱打、そして満足どころか全く成立しない起承転結。相変らず正体不明の領域から何時も通り微動だにしない、珠瑠美の不可思議な安定感。頼むから、あの珠瑠美が!と一度くらゐ驚かせて貰つて全然結構なのだが。中盤終電を逃したと衿子邸に転がり込んだ百合は兎も角、連れの逢坂が序盤に街中で偶然顔を合はせてゐる筈なのに、衿子と初対面の如く会釈を交すカットには別の意味でクラクラ来た。それと、今回通算十七戦目にして初めて気付いた更なる珠瑠美作の特徴は、本はおろか粗くすらない筋でさへ清々しく存在しないその癖、ヒロインのモノローグ中に“その”だの“あの”だの代名詞が矢鱈と多い。“あの”といはれてもどのことなのだかまるで見当がつかないので、そもそもの五里霧中が、更に一層煙幕の向かうに霞む。といふか、殆どジャミングである。改めていふが、そこだけ注視すると裸映画的には決して悪くはない仕上がりゆゑ、この人の映画は、日本語が判らない人が観た方が寧ろ楽しめるのではなからうか。超長フェードには、矢張り面喰ふにしても。


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