真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟妻と愛人 絶妙すけべ舌」(2012/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/監督・脚本:後藤大輔/プロデューサー:クリント池島/原題:『ドしやぶり女・貸間あり』ver7.7/録音・効果:シネキャビン/シネマトグラファー:飯岡聖英/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:北川帯寛/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:下垣外純・佐藤光/編集助手:鷹野朋子/スチール津田一郎現場応援:田中康文・永井卓爾/タイミング:安斎公一/現像東映ラボ・テック出演:春日野結衣・佐々木麻由子・池島ゆたか・千川彩菜・小滝正大・村田頼俊・Peach & Takahiro・牧村耕次)。出演者中、Peach & Takahiroは本篇クレジットのみ。“佐々木麻由子映画出演100本記念作品”である旨が、エンドロール時キャストとスタッフの間に謳はれる。
 南酒々井の二階建て一軒家にて営まれる、加藤、今回は時雨は放棄し加藤愛子整骨院。単なる偶然に過ぎないのかも知れないが、何処かで見覚えのある名前ではある。常連客の守本葉月(千川)が、愛子(佐々木)の施術に悲鳴を上げる。そのまゝ百合の花を咲かせるのはひとまづいいとして、まあ千川彩菜(ex.谷川彩)が、更に一層振り切れて肥えたなあ、顎が殆ど存在しないぞ。赤い傘を差した女が、玄関に貼られた貸間ありのチラシに目を留めタイトル・イン。あれ?こんな開巻見たことあるぞ。
 下宿を求め現れたのは、美人と不美人の境界線上をガッチリ死守する絶妙に微妙な容姿に加へ、火に油を注ぐ―さういふ娘がさういふ衣服を好むのは、実際まゝある例ともいへる―ロリ衣装、挙句に愛子から職業を尋ねられると旅人だなどと答へる足が地面から浮いた石井瞳(春日野)。そんな訳の判らん女に俺なら絶対部屋は貸さないが、懐具合の苦しい愛子は店子の確保に喰ひつく。一方、御馴染みの録音スタジオ「シネキャビン」。オーナーの録音技師・加藤伸輔(池島)と弟子格の鴨成正人(小滝)が、ピンク映画の濡れ場に音入れする。ここで劇中使用されるのは後藤大輔二作前の「多淫な人妻 ねつとり蜜月の夜」(2011)、となるとPeach & Takahiroは、桃井早苗と野村貴浩を指すといふ寸法。作業中に伸輔の携帯電話が、以降繰り返し多用されるエモーショナルなイントロの大場一魅の着うたで鳴り、鴨成を呆れさせる。伸輔に―妊娠―二ヶ月であることを報告した瞳は、元々失恋し荒れてゐたところを伸輔が拾ひ、以来シネキャビンの一室に住まはせながら愛人関係にあつたものだつた。動揺しつつ帰宅した伸輔は、瞳が家に居るどころか住んでゐることに度肝を抜かれる。それは確かに仰天する、卒倒してもおかしくない。
 配役残り牧村耕次は、今だお盛んな整骨院の常連老人。国沢組からの外征は二度目となる村田頼俊は、葉月の息子・リョータ(子役登場せず)が所属するサッカーチームのコーチ・修二。葉月と昼下がりの情事を繰り広げるのは兎も角、この二人体型が殆ど変らん。
 五年ぶりのピンク帰還から順調に三作を発表した2011年に対し、今作限りに止(とど)まつた後藤大輔2012年唯一作。同じロケ物件と大体似たやうなオープニング・シークエンスとから、関根和美の「びしよ濡れ下宿 母娘のぞき」(1997/主演:悠木あずみ・林由美香)のリメイクに実は相当する、といふのは全く吹く必要の本当に一切ない純然たる与太である。一秒でも早くデスればいいのにな、俺。話を戻して―戻せ―シネキャビンが主要な舞台のひとつとされるだけに、この期に及んでといふかこの期に及んだからなのか、繰言じみたピンク映画愛を女々しく語り始めた日にはどうしたものかと事前には危惧したところだが、流石に荒木太郎ならばまだしも、後藤大輔がさういふ仕方のない真似を仕出かしはしなかつた。尤も、それならばといふか逆からいへばといふか、わざわざ伸輔がシネキャビンのオーナーであるドラマ上の必然性は、伸輔と愛子の馴れ初め以外には特に見当たらない。加へてそれにしても、意地の悪いいひ方をすればどちらが先かといふ話である。展開的にも、愛人が自宅に乗り込むのを通り越し移住する鮮烈にして激越な三角関係に、愛子の救済も図るべく鴨成が参戦する。そこまでは酌めるものの、詰めには手数と盛り上がりに欠いた物足りなさを覚えるのも禁じ難い。ミスターピンクの名が伊達ではない、業界の最重要人物を捕まへて截然と筆禍を仕出かしてのけるが、そもそも、伸輔役のキャスティングが致命傷に思へる。池島ゆたかといふ大物に対する当サイトの節穴な評価は、演技者としても演出家としても基本的には大根とするヘテロドキシーで、実在するどちら様かを模したギミックなのか、形にならぬ伸輔のシシシ笑ひは耳か癪に障るばかり。「参つた」を連呼しながら伸輔が河原を駆け最終的には川に飛び込む中盤の間の抜けた見せ場で、完全に映画の底が抜けてしまつた感は強い。見事な復帰作からそれなりに乗り切つた2011年を通過し、体力不足なのか、後藤大輔は早くもくたびれて来たのかと思はせなくもない。


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