真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「発情花嫁 おねだりは後ろから」(2011/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/原題:『てふの嫁入り』/撮影照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:三上紗恵子/演出助手:鎌田亮/撮影助手:宇野寛之・北原岳志・秋戸香澄/編集助手:鷹野朋子/ポスター:本田あきら/応援:金沢勇大・市村優/協力:上野オークラ劇場/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:早乙女ルイ・淡島小鞠・里見瑤子・牧村耕次・小林節彦・津田篤・太田始・平川直大・西村晋也・別所万伸・佐々木基子・西藤尚・那波隆史)。
 座席にはシートの被せられた上野オークラ旧館劇場内、ウェディング姿の早乙女ルイが“おねだりは”までは普通に発声しておいて、“後ろから”は口の動きだけと、何故だか変に気をもたせてタイトル・イン。
 社内でのパワー・ゲームに負けジャーナリストを失職した料理人、とかいふやゝこしい役柄の善樹(那波)が寡黙に酒を口に運ぶスナック「詩」に、常連客の不動産屋・星野(牧村)が三人(西村晋也・別所万伸ともう一名)引き連れ騒々しく来店、捌けないママの多喜子(淡島)は忽ち目を回す、といふか実際体全体グルグル回る。一方多喜子の妹で、デザインした衣服を自ら仕立てて売るてふ(早乙女)は、顧客の西藤尚―然しこの人は変らないな―の相手をしながらも、「詩」の、といふか直截には姉の窮状を察し店に顔を出す。星野一行のトコロテン式に店を後にする善樹の後姿を、多喜子は力なく追ふ。酒を呑み呑み一応料理の仕込みに精を出す善樹を、記者時代の同僚兼男と女の腐れ縁にもあるキリコ(里見)が訪ねる。善樹の復職に執心するキリコを、善樹は乱暴に抱き黙らせる。ここでの巨大なツッコミ処は、事後善樹が冷然と再び仕込みに戻るのはいいとして、一旦手を洗はんか。建設業に従事する恋人・高尾(津田)の求婚を、てふは断る。姉妹には、前科持ちで度々金をせびりに現れる、厄介者の兄・稔(荒木)がゐた。因みに、後に遺影スナップが見切れる「詩」を多喜子に遺した亡父は、公開年前年末に逝去されたガミさんこと、名優・野上正義。加へて、慌て者で万事がまゝならぬ多喜子こと“たこ”も、てふは放つておけなかつた。次第の正否は兎も角兄姉の存在が、てふにとつて望ましい人生への歩みの妨げとなつてゐる事実に、多喜子も気づいてゐた。多喜子は稔に渡す手切れ金三百万の借金と引き換へに星野と愛人契約を結び、真心は包み隠した、善樹との偽装デートを企画する。
 小林節彦は姉妹の行く末を親のやうに気を揉む、高尾の親方・島村。脱ぎもせず出番は一幕限りの佐々木基子は、島村の妻。残る太田始は別所万伸と後述する平川直大、更に恐らくは演出部と応援からの増員も含めて、数シーンで重用されるそこかしこ要員。
 木にエマニエルを接いだ前作「淑女の裏顔 暴かれた恥唇」(監督・出演:荒木太郎/脚本:西村晋也/主演:星野あかり)に引き続き、改めて後述するが、新館建設に伴なひ2010年八月一日に閉館した上野オークラ旧館を無闇にロケ地として使用した、荒木太郎2011年第二作。互ひ思ひの健気な姉妹が、やくざなクソ兄貴や強欲な小金持ちに恋路を度々阻まれる紆余曲折の果てにも、それぞれの想ひ人と結ばれる幸せに目出度く辿り着く。教科書通りの下町姉妹人情譚は、綺麗過ぎる展開が逆に禍(わざはひ)したのか単に荒木太郎の馬力不足か、形式的な仕上がりは全く順当である反面、不可解なほどに平板。薄暗いガード下、人を刺せるナイフを買ひに来た多喜子に人の刺し方も気軽に伝授する、P君(平川)の抜群に正体不明な造形。降り頻る雪にも恵まれた、姿を消す稔を画面遠くに置き追ひ駆ける多喜子の背中全身を抜いたショットの力強い美しさ。映画的な見所は散発的に決してなくもないとはいへ、物語通しての訴求力は、間違ふ以前に強くはない。加へて致命傷は、万事が落着したところで放り込まれるウェディングな絡みがすんなりとはまるで通らない、荒木太郎映画の力学的な弱さ。映画として深化するどころかピンクが濡れ場に足を掬はれては、チェック・メイトも否定のしやうがない。そもそも、姉妹の住居兼「詩」店舗として採用されるのを始め、さうでなくとも頗る特徴的なロケーションである上野オークラ旧館の利用率は闇雲に高い。尤も、小屋で撮影する必然性が特にはない以上、殊にてふと高尾が劇場内で式を挙げるに至つてはロマンティックも伴なはぬ不自然さが迸るばかりとあつては、要は借り賃とロケハンの労を端折つただけの話に過ぎないのではとも首を傾げざるを得ない。下衆が勘繰つておいて何だが、さういふ部分が透けて見えて来るやうでは、寧ろ旧館撮影は逆効果ですらあるのではなからうか。憤懣やるかたない荒木調ならぬ荒木臭に鼻を摘む訳ではないものの、エモーションまでには些か遠い、総じては覚束ない一作である。


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