真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「大淫乱・欲情交尾」(1993『本番実技 裂けちやふ』の2008年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:オフィス・バロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:隅田浩行/編集:酒井正次/助監督:高田宝重・梶野考/撮影助手:中尾正人・釣崎清隆/照明助手:広瀬寛巳/出演:石原めぐみ・征木愛造・杉下なおみ・平賀勘一・山本竜二・神戸顕一・林由美香/特別出演:杉本まこと・山ノ手ぐり子・柴原光、他一名)。実際のビリングは、神戸顕一と林由美香の間にポスターには載らないカメオ勢を挿む。それにつけても、己のメモが読めなくて頭を抱へる。それは兎も角先に触れておくと、『女優 林由美香』によれば征木愛造は梶野考の別名義であるとのこと。
 タイトルとクレジットからイン、いきなり話が反れるが昨今、具体的には深町章の沈黙以来。オープニングにクレジットを持つて来る新作ピンクを、荒木太郎以外に随分と観てゐない気がする。エンド・ロールに残る余韻と同時に、始終を片付けるやスパッと振り逃げる鮮やかさも捨て難くはある。閑話休題、二人で家出して来た石原めぐみと林由美香は、さりとて先立つものもなく中年男・土屋(平賀)を相手に二対一の援助交際を仕掛ける。絶倫の土屋が、二開戦以降の戦意マンマンであるのに食傷した二人は、シャワーを浴びる隙に財布を盗み逃げる。自販機前で祝杯を挙げる石原めぐみと林由美香は、釣り銭を漁る征木愛造と出会ひ、征木愛造が寝泊りするガレージに転がり込む。ミドリと名乗つた征木愛造に対し、石原めぐみはコトリ、林由美香はアソビと名乗る。悪くはないが、女の子がその場で思ひつでいたにしてはリアリティーもない。ざこ寝の夜、傍らにアソビがゐるにも関らず、ミドリはコトリを抱く。翌朝、ミドリがカッパライで食料を調達して来る三人の新生活。懐かしの雪印乳業の名作アイスクリーム「バニラブルー」に舌鼓を打つてゐると、ガレージの大家(山ノ手ぐり子=五代響子/現:五代暁子)が家賃の催促に現れる。催促されたとて振る袖のないミドリを見かねたコトリは、土屋から奪つた―アソビと二人のものである筈の―金の中から家賃を払ふ。コトリの勝手に腹を立て、アソビはミドリのガレージを飛び出す。
 配役残り、登場順に山本竜二は独り、あるいは一人立ちしホテトル嬢になつたアソビの客・飛田。広瀬寛巳は、コトリの発案でミドリが仕掛ける美人局、ですらない子供染みたハッタリにひつかゝる助平男。カズオと本名で呼びかけギョッとさせる柴原光は、ミドリの高校の同級生・真一、目下嫌味な早大生。池島ゆたかは、家出したカズオを連れ戻しに来た父親、「母さん泣いてるぞ」の台詞も既に披露、征木愛造と柴原光が三貝豪と久保田泰也に相当する関係性同様、「ホテトル譲 悦楽とろけ乳」(2012/主演:周防ゆきこ)と限りなく殆ど同一の役柄であるのには軽く驚いた(注:末尾に付記あり)。池島ゆたかの運転手か執事・タカギは高田宝重、となると特別出演最後の一名が、共に台詞も与へられる広瀬寛巳と高田宝重のどちらになるのかは不明。確か何れの名前でもなく、その他に目立つた頭数は見当たらなかつた、と思ふ。神戸顕一は、神戸顕一もホテトル嬢になつたアソビの客・水野。今回初めてこの期に気づいたが、今作を観てゐるとサーモン鮭山の粘質的なメソッドは、実は神戸顕一がとうの昔に完成させてゐたものであるのがよく判る。杉下なおみは、公園で寝泊りするコトリを保護する梓。杉本まことは、空気を読み捌けるコトリといい感じで擦れ違ふ、梓のいい人、色男。「ハハーン」といふ風情のコトリと、怪訝な杉本まことが交錯する一幕はさりげない名場面。
 家出少女アンド家出少女・ミート・家出少年、池島ゆたか1993年全六作中第三作、薔薇族を入れると全七作中第三作。青森から華の大東京に飛び出した、コトリとアソビが謳歌する自由と、やがて否応なく直面する憂世。二人の少女を照らす光は元より呑み込む闇をも、ロマンティックに描き出した池島ゆたかと同時に、林由美香にとつても初期代表作。を期待して、小倉にまで足を伸ばしたものだが、一言でいふとさうでもなかつた。素材からファッションから何から何まで、ミドリのレス・ザン・魅力に関しては、演出部免責も加味してここは忘れる。コトリとミドリとアソビが、コトリとミドリ、とアソビに別れるまではひとまづ十全。ところがそこから、山竜や神戸顕一とコア客に縁のある点を除けば、アソビは案外ホテトル稼業に水を得たやうに見えなくもない。加へて激しく疑問なのが、ミドリも連れ戻された上でのコトリの去就。何の意味があるのかは尺の都合で削られたのか、残された本篇からは薮蛇であるやうにしか思へない梓のニューハーフ設定については、三番手特権も踏まへさて措く。我ながら理由になつてゐないがそれもさて措いて、扮装の酷似した別人ではなく、まさかのそのまんまなラスト・シーンには、あまりの間抜けさに逆の意味で吃驚した。首にかけられた縄の、締まる暇もない。結局、ある意味“衝撃のラスト”のプリミティブさにそれまでの全てがフッ飛ばされてしまひ、言葉を選ぶ労力も失へばいはゆる珍品といふ印象が最も強い一作である。

 付記< 一旦脱肛、もとい脱稿後、ツイッター上で池島ゆたか御自身が明らかにされたところによると、「ホテトル譲 悦楽とろけ乳」は、アソビのその後を描いた今作の続篇であるとのこと。となるとトレースしたかのやうなカズオ父親の役柄は、アソビが図らずしてコトリと同じ運命を辿る、明確に意識した趣向といふ次第なのであらうか
 再付記< カメオ隊のトメは、高田宝重変名の的場研磨かも
 ある意味“衝撃のラスト”< アソビを抜いた形の完コピで、コトリがミドリと再会


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 制服暴行魔 ... 広子の本番 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。