真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「告白羞恥心 私が、痴女になつた理由」(1993『美乳揉みくちや』の2010年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二・難波俊三/照明:秋山和夫・斗桝仁之/音楽:藪中博章/編集:[有]フィルム・クラフト/助監督:女池充/ヘアメイク:斉藤秀子/制作:鈴木静夫/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:本田聖奈・清少葵・佐々木優・山本竜二・栗原良・森純)。
 人気フラワー・アーティストである柴藤盟子(本田)が、外連味もなく花言葉を淡々と紹介する、などといふよくいへば斬新なコンセプトのテレビ番組に、番組プロデューサーの篠原工作(栗原良=リョウ=ジョージ川崎=相原涼二)が、持ち芸の例によつて無闇に苦み走つた表情で、軸足を失ひ入れ込んだ視線を注ぐ。一方カメラマンの青井貴之(山本)も、肉感的な妻・梢(清少)との夫婦生活をこなしつつ、ビデオ編集機材まで駆使し盟子に正体不明の熱情を滾らせる。小冊子に掲載される盟子の写真を撮影する仕事を得ることに成功した青井は、写真を届けると称して盟子の自宅を訪ねる。青井は室内に盗聴器を仕掛け、盟子が篠原と関係を持つてゐる事実を掴むと同時に、二人の遣り取りを手懸りに柴藤家の鍵を一時入手する。合鍵を作製し盟子の不在時に部屋に侵入した上、寝室のベッドの上で盟子の持ち物に囲まれた青井は、「かうしてゐると、何故か自分が彼女になつたやうな気がする」とか、彼我の境界を失した頓珍漢な幸福感に包まれる、本当に“何故か”だよ。ボリューム感の溢れる肢体と、反面薄いキャラクターといふ印象が全般的に清少葵に似通つた佐々木優は、篠原の妻・康子。篠原から番組の打ち切りを告げられた盟子は、何の弾みか俄にサングラスと平素とは180度対照的な黒い服装とで武装すると、街で自ら男を漁る奔放な痴女に変貌する。森純は、一旦ハントされ据膳を美味しく頂いた後(のち)に、テレビを見てゐて盟子の正体を知るや、余計な欲を出し盟子を恐喝しかけたまではいゝものの、察知した青井にシメられる軟派男・大西和彦。
 著名人の女に明後日か一昨日な勢ひで入れ揚げた男が、クリミナルな接近を図る。といふと、五年前の「冴島奈緒 監禁」(主演:冴島奈緒・日比野達郎)と、清々しく似たやうな話ではある。尤も、監禁シークエンスといふ軸が明確に通つた「冴島奈緒 監禁」と比較すると、勿論青井は不意に帰宅した盟子と衝撃的に鉢合はせはしつつ、その後おとなしく自宅に帰つてみせたりもする。コンファインメント方面から焦点は絞られないのに加へ、新題にもある盟子が“痴女になつた理由”とやらが別に語られるでもなく。そもそも青井が観客を置いてけぼりにしたまゝ恍惚とする、盟子と自身との同一視も一体何処からそのやうな奇想が湧いて出て来たものやら、断片的な台詞だけではなく展開の流れとして、半欠片たりとて説明されることはない。挙句に二度目の情交に至るや瓢箪から駒といふべきか薮蛇とでもいふべきか、盟子まで青井のへべれけなシンクロニズムに同調。理解に苦しむとでもしかいひやうがない喜悦に盟子と青井のみが勝手に打ち震へる濡れ場で、無理矢理映画を振り逃げるエンディングには、直截にいつて唖然とさせられた。最低限女の裸を楽しむ分には一応不足はない一方で、物語的にはまるで腰どころか首さへ据わらぬ一作。篠原の最終的な扱ひがまるでお留守に済まされてしまつてゐる辺りも、旦々舎の仕事にしてはらしくない。

 一旦盟子の前から尻尾を巻き、抜け殻のやうに不貞腐れる青井に連絡を取る編集者役で、実際に編集者であつた山崎邦紀がワン・シーン水を得た魚のやうに活き活きと登場する。


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