真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「エロ三姉妹 濡れ続け」(1996『濡れる美人三姉妹 乱れ乱れる乱れろ』の2010年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:安田健弘/脚本:沢木毅彦・安田健弘/企画:衣川仲人/プロデューサー:山本竜二/撮影:永井敬人/照明:三枝隆之/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/記録:小川かめ子/美粧:坂井雅之/制作主任:菊池宏明/撮影助手:宮本章裕/照明助手:野本明宏/スチール:北浦靖一/題字:袴田晃代/監督助手:松岡誠・吉田國文/現像:東映化学/録音:シネキャビン/音楽:山田稔/制作協力:日本映機・アップルボックス・ライトブレーン・ハートランド・オフィスバロウズ・田中欣一写真事務所・ペンジュラム・映像サービス・オフィスMEN・ホテルみさと・杉山企画・秋葉恭司/出演:麻生早苗・貴奈子・水奈リカ・え~りじゅん・森山龍二・佐々木和也・石川雄也・山本竜二・サンダー杉山・森羅万象)。出演者中、え~りじゅん・サンダー杉山・森羅万象は本篇クレジットのみ。
 制服姿の滑川家三姉妹三女で女子高生のミナ(水奈)と、通俗パンキッシュな出で立ちの彼氏・井口マサル(石川)が、大場薬局にて店主(山本)相手に未成年がコンドームを買ふ買はないの微笑ましい攻防戦を展開する。スルーしても別に構はないが、1996年当時で既に、そのやうな光景はあまりにも牧歌的に過ぎるのではなからうか。ともあれ、何事かロスト・バージンを焦つてゐるらしきミナはラブホテルの表で、OLで既婚者の三姉妹長女・弥生(麻生)が、昼下がりの情事を済ませ不倫相手と出て来るのを目撃し動揺する。上野太似の、弥生不倫相手のグラサン中年男が誰なのかは不明。ミナがホテルで大いに若気を至らせるマサルと悪戦苦闘する一方、滑川家の屋敷では、家長で中小ゼネコン「滑川建設」社長の貫太郎(森山)と三姉妹次女でキャバクラ嬢の五月(貴奈子)、それに婿養子の弥生夫・春樹(佐々木)が、弥生とミナの帰りを待ちながら、人数分の縄を吊り下げ一家心中の準備を進めてゐた。滑川建設は景気低迷に屈し傾き、滑川家は借金でどうにもならない状況に追ひ込まれてゐたのだ。先代の徳造(え~り)は、既に惚けた上長く床に臥せつてゐた。そんな瀬戸際な最中に呑気に登場するサンダー杉山は、五月が注文した握り寿司特上を配達に滑川家を訪れる、寿司屋の出前持ち。五月は姉に蔑ろにされる春樹に何時の間にか好意を寄せ、帰宅した弥生も、よく判らない勢ひで貫太郎と関係を持つ。ミナに伴なはれ滑川家に潜入したマサルは、乱れた一家の正しく乱交に目を丸くする。
 妙に豪華なプロダクションにも恵まれた、結局以前も以降も一貫してAVの世界を主戦場に選んでゐるらしい、安田健弘のピンク映画唯一作。一家の生き死にに大らかな性も絡めた力強いコメディ、を志向した節は確かに窺へなくはないものの、滑川家男性陣の貧弱さと締まりに欠く作劇とにまるで形にならない。三姉妹の最終的な身の振り方をも左右する、物語の鍵を握る滑川家家族関係に秘められた事実の説明に際しても、満足に見せるでもない図解をわざわざ作つてしまつたために却つて、一回映画を観ただけでは猛烈に判りにくい。といふか実際に個人的には、ミナが上二人の姉とは血が繋がつてゐないことだけ掴むのが関の山で、貫太郎や徳造も絡めた、一族の全体像は把握出来なかつた。生温い演出の下に魅力を欠いたえ~りじゅん・森山龍二・佐々木和也がセクシャルといふ意味ではなく淫らにカラ騒ぐ中、ただでさへコメディが上滑るとなるとせめて女の裸くらゐは満足に拝ませて欲しいところである。といふか、それがカテゴリー上当然要請されて然るべき要諦であらう。ところが、さうなると挙句に根本的に理解に苦しむのが、滑川邸パートに於いて風呂場を除き概ね一貫する、妙な照明の暗さ。この期に女の裸すら、満足に見せないでどうする。麻生早苗・貴奈子・水奈リカと、当時の人気AV女優を三枚並べた布陣は本来強力な筈なのだが、如何せん機能不全に終る。最終盤物語を収束させる段取りとして半ば発狂気味に弾けるマサルの扱ひに関しても、間延びしたシークエンスを連れ回された末に無様に暴発させ
られただけでは、石川雄也の無駄死にぶりに止め処なく流れる涙を禁じ得ない。本筋自体と女優三本柱には何ら問題はない以上、普通の監督が当たり前に撮つてゐさへすれば、もつと幾らでも勝負出来てゐたのではないかとも思はれる残念な一作である。

 どのやうな状況下にあつても、ひとまづ自分の仕事は果たしてみせるタフネスさを発揮する森羅万象は、サンダー杉山の通報を受け滑川家に突入、マサルを取り押さへる警察官。


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