真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「妖女伝説セイレーンXX ~魔性の欲望~」(2009/製作:株式会社竹書房/監修:亀井亨/監督:岡元太/脚本:小松公典・岡元太/企画:牧村康正《竹書房》/プロデューサー:加藤威史《竹書房》/原作:高島健一《フォーサム》/プロデューサー:森角威之/ラインプロデューサー:泉知良/撮影:飯岡聖英/録音:廣木邦人/ヘアメイク:大脇尚也/助監督:江田剛士/音楽:近藤将人/制作担当:斎藤光司/制作応援:芦塚慎太郎・澤口豊/出演:七海なな・持田茜・久保田泰也・津田篤・佐藤良洋・サーモン鮭山・岸健太朗・栗島瑞丸)。
 鏡池の広がる山間の田舎町。ある雨の日、何をすればそこまで壊れるのか理解に苦しむ―車にでも轢かれたのか?―傘を放置し、芙美(七海)が鏡池のほとりをフラフラと歩く。そこに通りがゝつた芙美の担任(サーモン)は、雨と汗に濡れた女子高生の制服のブラウスに欲情、ついついその場の弾みで芙美に襲ひかゝる。一旦抵抗に遭ひ思ひ留まると同時に、激しく自責の念に駆られる鮭山先生の前に、何時の間にかギリシァ風のドレスに衣替へした芙美が妖艶な―つもりの―笑みを浮かべながら現れる。自ら男の腰に跨つた芙美は、悶絶する鮭山先生の精を僅かなエフェクトを使用するでなく吸ひ取る。憐れ鮭山先生は絶命する一方、別所では同級生で芙美に告白するつもりの圭介(久保田)と、その成否を面白がる孝平(津田)に巽(佐藤)、孝平の彼女でありながら、圭介に対し満更でもない以上の気持ちを寄せる敦子(持田)が、芙美が現れるのをそれぞれのテンションで待つてゐた。その場の空気に居た堪れなくなり、芙美を探しに行くと称して孝平らの前から立ち去つた圭介は、池辺で芙美のiPhoneを拾ひ愕然とする。その日を境に、芙美と鮭山先生は行方不明になつたものと処理される。五年後、東京に出たものの芙美の喪失感を克服することも出来ず行き詰まつた圭介は、挙句にヤクザから金を借り追ひ込まれる。借りた金の返済の代りに敵対組織の組長狙撃を指示された圭介は、逃げ隠れるやうに故郷に戻る。鏡池に辿り着き、渡された拳銃で自殺を試みた圭介に、孝平と巽が声をかける。鏡池の水を「永遠の水」と称してネット通販し、馬鹿を騙すロマンを売る商売を始めようとしてゐた二人は、圭介も気軽に誘ふ。敦子は圭介との再会を殊更に喜びつつ、栗島瑞丸が弟の荒木兄弟(兄は岸健太朗)が、鉄砲玉を放棄した圭介を追ひ町に現れる。巽と圭介が池の水を汲みに向かつた行き違ひで孝平の家を襲撃した荒木兄弟は、敦子の身柄も押さへた上四人で鏡池へと向かふ。圭介・巽・孝平と敦子に荒木兄弟まで、全篇を通してロケーションが貧相な中彼岸に退場した鮭山先生以外の登場人物が鏡池に集まるタイミングを見計らつたかのやうに、再びギリシァ風ドレス姿の芙美が、巽の前に現れる。
 2008年の「妖女伝説セイレーンX」(監督:城定秀夫/主演:麻美ゆま)、そして2010年の「妖女伝説セイレーンXXX」(監督:芦塚慎太郎/主演:まりか)と来たところで、「あれ、XXは?」と思ひ至り、調べてみると2009年にDVDがリリースされてある。しかも、ちやうどその時スルー予定の地元駅前ロマンに確か来てゐるのを思ひ出し、急遽拾ひに向かつたものである。実のところは何気に、「X」、「XX」、「XXX」と順番に観てゐたりもするのだが、そのことに、実質的な意味は特にどころか全くない。誘惑した男の生命を吸ひ尽くし永遠の命を得る、セイレーンがその時々のシチュエーションと主演女優とで登場する以外には各作に連関は別に見当たらない、最大限に緩やかなシリーズ構成が、妖女伝説の特色といへようところでもあるからである。その上で「XX」に話を絞ると、浅い、薄い、安い。揃はずともよい三拍子が綺麗に揃つてしまつた、絵に描いたやうな凡Vシネであると首を横に振らざるを得ない。「バキュ~ン!」とコントのやうな発砲音を轟かせるショボいプロップもとい拳銃と、ギザギザハートの荒木兄弟弟が無闇に振り回すナイフとで、ドミノ倒しのやうにたて続けに人が死んで行く終盤は、一周した馬鹿馬鹿しさが一歩間違ふと疲弊しきつた心の琴線に触れかねない。瀕死の素人が撃つた弾が、ああも綺麗に当たるといふのは一体如何なる名銃か。大体が、五年後再会した圭介に、覚悟を決めた男の凄みを感じるだとかいふ頓珍漢な敦子のエモーションが、悪い冗談にしてもまるで通らない。一重瞼の無表情をプラ提げてだらしなくブラつくばかりのチャラ大根を捕まへて、何を薄ら惚(とぼ)けた与太を。浅く、薄く、安く、チカリとすら輝かない。残り全員を雑な仕事で片付けたところで、勿論締まりなどしないのだが締めの芙美と圭介の濡れ場も特段の盛り上がりを見せる訳でもないまゝに、壮絶な駄CGで空疎な物語を粗末に畳んでのける逆向きに加速されたエンディングには、グウの音も出ないとは正しくかういふ心境を指すのかと、最早この期には力なく打ちひしがれるばかりである。

 フと気付いたが、この面子でまともなドラマを構築しようとするならば、主演は持田茜と津田篤で攻めるべきではないのか、といつた気もしないではないのは、何処かで聞いた話か。


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