真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「魔性しざかり痴女 ~熟肉のいざなひ~」(2009/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介・藤田朋則・関将史/助監督:横江宏樹・府川絵里奈/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:針生未知・ささきふう香・倖田李梨・なかみつせいじ・平川直大・牧村耕次)。
 来春の挙式予定を控へた取引先の社長令嬢・倉坂つみれ(ささき)と、大絶賛婚前交渉真最中の会社員・倉坂義彦(平川)の携帯電話に、針生美輪(ある意味彼女自身)から連絡が入る。十年前、当時役者志望で俳優養成所に入つてゐた倉坂は先輩で、美輪いはく双子の妹といふ未知(当然二役)と交際関係にあつた。やがて倉坂は俳優への夢と、その時同時に未知も捨てる。そんな未知が、行方不明になつたとのこと。とこ、ろで。更に開き直つて肉の厚みを増したささきふう香は、完全に狙ひ撃つよりほかないエロスである。閑話休題、後日倉坂はメガネが堪らないスーツ姿の美輪と、実際に会つてみる。美輪いはく依然倉坂に想ひを残してゐたらしい妹の捜索を、倉坂にも手伝つて欲しいと乞ふ。警察に行つて呉れ、とでもいふ話でしかないやうな気も否めない釈然としなさは忘れてしまへ、先に進まん。一方、妻・はるか(倖田)と勃起不全に悪戦苦闘する投資家・坂上俊男(なかみつ)の―浜野佐知―自宅に、美輪から便りが届く。三年前まで未知を愛人として囲つてゐたものの、EDを理由に矢張り捨てた坂上に対しては、未知が交通事故死した旨伝へる。とことこ、ろでろで。坂上に届いた手紙の宛名書きが、実際に針生未知に書かせたものなのか否かまでは勿論与り知らぬが、まあ男児のやうに乱雑な文字である。誰でも構はないから、もう少し字の綺麗な人間に書かせればいゝのに。といふのはさりげなく、ディテールが風情を損なつてゐる印象を禁じ得ない些末。再度話を戻してとりあへず坂上が美輪宅を訪ねてみると、今度は妖艶さも軽やかに通り越し直截に露出過多なチャイナドレスで出迎へた美輪は、妙にやさぐれた風情で妹の供養にと坂上に酒を勧める。そんなこんなで突入した濡れ場、だから勃たないといふ坂上を美輪は本当のセックスとやらで攻略しつつ、秘かにその情交は、仕掛けてあつたカメラに捉へられてゐた。
 対倉坂と坂上、二つのドラマがそれなりに進行した頃合を見計らひトリで登場する牧村耕次は、開店休業状態の零細芸能事務所社長・北見剛介。五年前、北見の事務所に所属してはゐたがなかなか芽の出ない未知は、いはゆる枕営業の強要と、説得から果敢に移行した北見によるセクハラに傷つき女優を引退する。北見の下を今度は今度は和装で訪れた美輪は、遺書を楯に慰謝料を要求する。
 引退した元女優が、過去に関係を持つた男達に理由は何れにせよゐなくなつた妹の一卵性双生児の姉と称して接触し、形と額はどうあれ金銭を毟り取る。Gメン'75香港カラテシリーズに於けるヤン・スェかよ!といふ地表に露出したツッコミ処に関しては爽やかに無視すれば、一人北見のみが真実に辿り着き得る展開の持つ力も借り、ひとまづ求心力を保つたまゝ都合のいゝ始終を最後まで見させる。倉坂、といふか正確な出所としてはつみれから捜索費用といふ名目で二百万、坂上からは口止め料三百万に北見からは慰謝料兼五年ぶりの一夜の対価として五百万。計一千万を手にした針生美輪改め針生未知が、これからは現実社会といふ新しい舞台の主演女優を輝かしく演じるだのどうだのと、颯爽とした勝利宣言で呑気に畳んでみせるラストの底は抜け気味で、男三人に対する奈落の底への叩き落しぶりに関しても、浜野佐知にしては随分とマイルド。そもそも、美輪の対北見戦。三年間あれこれ手を尽くしても快方に向かはなかつた北見が、コロッと男性機能を回復してのけるといふのも話の流れ的には随分インスタントで、自堕落に過ぎるとはいへまいか。こゝは必ずしも剛直を伴はない男女の性行による愉悦といふ、浜野佐知第二テーマ―物凄く勝手に命名―を盛り込む余地もあつたのではなからうか。さうかう眺めてみると一見おとなしめな一作でもありながら、かういふ、映画を側面から攻めるアプローチの仕方が鑑賞法として潔いとは必ずしも思ふものではないのだが、さういふ極私的な能書きは一旦さて措き、最も特筆されるべきは変則的にアグレッシブな配役。劇中主人公と同名の針生未知とかいふ正体不明な名義の女優部、の正体が実のところはex.川瀬有希子である。ピンク出演は、恐らく撮影自体は2003年中と思しき国沢実2004年第一作が最終作で、全ての裸仕事から既に引退し近年は女優業以外に音楽活動にも比重を置く川瀬有希子を、クロスカウンターの香りが濃厚に漂ふ物語の中にこの期に再召喚してみせた実は超攻撃的なキャスティングこそが、素面で映画を眺めてゐるだけでは伝はり難いやも知れぬ、一見粒も小さめな今作最大のヒット・ポイント。更に注目すべきは、久方ぶりで桃色の銀幕の中に新たな姿を見せた川瀬有希子が、キュート系熟女として超絶の威力を誇つてゐる点。御本人は決してお望みにならないやうな下衆の勘繰りもしなくはないが、一度きりなどと勿体ないことをいはず、もつともつと新作でその御姿を拝見したいところではある。


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